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No.23719の一覧
[0] The Parallel Story of Regios (鋼殻のレギオス 二次創作)[嘘吐き](2010/11/04 23:26)
[1] 1. 入学式と出会い[嘘吐き](2010/11/04 23:45)
[2] 2. バイトと機関部[嘘吐き](2010/11/05 03:00)
[3] 3. 試合観戦[嘘吐き](2010/11/06 22:51)
[4] 4. 戦う理由[嘘吐き](2010/11/09 17:20)
[5] 5. 束の間の日常 (あるいは嵐の前の静けさ)[嘘吐き](2010/11/13 22:02)
[6] 6. 地の底から出でし捕食者達[嘘吐き](2010/11/14 16:50)
[7] 7. 葛藤と決断[嘘吐き](2010/11/20 21:12)
[8] 8. 参戦 そして戦いの終結[嘘吐き](2010/11/24 22:46)
[9] 9. 勧誘と要請[嘘吐き](2010/12/02 22:26)
[10] 10. ツェルニ武芸科 No.1 決定戦[嘘吐き](2010/12/09 21:47)
[11] 11. ツェルニ武闘会 予選[嘘吐き](2010/12/15 18:55)
[12] 12. 武闘会 予選終了[嘘吐き](2010/12/21 01:59)
[13] 13. 本戦進出[嘘吐き](2010/12/31 01:25)
[14] 14. 決勝戦、そして武闘会終了[嘘吐き](2011/01/26 18:51)
[15] 15. 訓練と目標[嘘吐き](2011/02/20 03:26)
[16] 16. 都市警察[嘘吐き](2011/03/04 02:28)
[17] 17. 迫り来る脅威[嘘吐き](2011/03/20 02:12)
[18] 18. 戦闘準備[嘘吐き](2011/04/03 03:11)
[19] 19. Silent Talk - former[嘘吐き](2011/05/06 02:47)
[20] 20. Silent Talk - latter[嘘吐き](2011/06/05 04:14)
[21] 21. 死線と戦場[嘘吐き](2011/07/03 03:53)
[22] 22. 再び現れる不穏な気配[嘘吐き](2011/07/30 22:37)
[23] 23. 新たな繋がり[嘘吐き](2011/08/19 04:49)
[24] 24. 廃都市接近[嘘吐き](2011/09/19 04:00)
[25] 25. 滅びた都市と突き付けられた過去[嘘吐き](2011/09/25 02:17)
[26] 26. 僕達は生きるために戦ってきた[嘘吐き](2011/11/15 04:28)
[27] 27. 正しさよりも、ただ己の心に従って[嘘吐き](2012/01/05 05:48)
[28] 28. 襲撃[嘘吐き](2012/01/30 05:55)
[29] 29. 火の激情と氷の意志[嘘吐き](2012/03/10 17:44)
[30] 30. ぼくらが生きるために死んでくれ[嘘吐き](2012/04/05 13:43)
[31] 31. 慟哭[嘘吐き](2012/05/04 18:04)
[32] 00. Sentimental Voice  (番外編)[嘘吐き](2012/07/04 02:22)
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[23719] 12. 武闘会 予選終了
Name: 嘘吐き◆e863a685 ID:eb6ba1df 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/21 01:59
試合後、レイフォンはいくつかる選手控室の1つにいた。
部屋の中は広く、数十人の選手がそこで自分の出番を待っていた。
入口から見た側面の壁際には貴重品などを保管するためのロッカーがあり、室内のいたるところにはベンチが置いてある。 
また、室内にはいくつかのモニター用画面が天井から吊るされており、そこには現在行われている試合がリアルタイムで映し出されていた。 控室にいる選手たちは、大抵がその映像を見ているか、ベンチに座って精神集中しているかのどちらかだ。
そんな中、レイフォンは一人、部屋の奥の壁際にあるベンチに座って、ボーっと虚空を見上げていた。 わざわざブーツまで脱いでその上に体育座りしている。 その姿は、どう見ても精神集中しているようには見えず、明らかに気の抜けた様子だった。
そこに突然声をかけて来る者がいた。

「よっ、見てたぜ、さっきの試合。 見かけによらずやるな」

レイフォンは特に驚いた様子も無く、首を廻らして声のした方を見る。 近づいてくる気配には気付いていた。
声をかけて来たのは上級生の武芸科生徒だった。 当然ながら、武闘会参加者だろう。
精悍な顔立ちに、藍色の髪をしている。 目つきはやや鋭いが、態度は柔らかい。

(見覚えがあるな)

そう思い、記憶をたどる。 
やがて相手が誰なのか思い至った。

「えっと……第十七小隊の、ハイネ先輩……ですよね?」

以前、メイシェン達と対抗試合を見に行ったときに見た覚えがある。 ニーナのチームメイトだ。
巨鋼錬金鋼(チタンダイト)の双剣を操り、ツェルニでも上位の攻撃力を誇る小隊員である。

「お、知ってるのか? 嬉しいね。 対抗試合、観に来てくれてるのか?」

「試合を観たのは一度だけですけど、えっと……ニーナ先輩とかフェリ先輩と知り合いなんで、その時の試合が印象に残ってて」

「成程。 そういやニーナの奴がお前のこと話してたな。 んじゃ、改めて名乗るわ。 俺はハイネ・クランツ。 武芸科の三年で第十七小隊所属。 ポジションはアタッカー。 ニーナとは一年の時に同じクラスでな、その縁で小隊に誘われたんだ。 ……で、お前は?」

訊かれ、レイフォンもベンチから立ち上がり、自己紹介する。

「えっと、はじめまして。 レイフォン・アルセイフ。 入学時は一般教養科でしたが、今は武芸科の一年です。 ニーナ先輩とはバイト先が一緒で知り合いました」

「そうなのか、よろしく」と手を差し出されたので、やや躊躇いがちにその手を握る。
お互い自己紹介が終わったところで、ハイネが疑問に思っていたことを訊いてくる。

「ところで、なんでお前こんな部屋の隅っこで体育座りなんかしてんだ? 随分と気の抜けた様子だったが」

「はぁ、いえ、特にやることも無いですし、暇なんでボーっとしてただけですけど」

レイフォンは基本的に退屈や暇な時間が嫌いではない。 やることもなくただ時間が流れるままに身を任せているのが好きだったりする。
……以前、このことを話した時、ミィフィに年寄りくさいと言われたのはさすがにショックだったが。
レイフォンのセリフに、ハイネは思いっきり呆れた顔をする。

「やること無いって……次の試合に向けて精神集中するなり、対戦相手の分析をするなり色々あると思うぞ。 あそこのモニターで丁度今Hブロックの試合をやっている。 その試合で勝った方が次のお前の対戦相手になるはずだ」

「まだ試合が始まったわけでもないのに緊張してたって仕方ありませんしね。 それに対戦相手のことは知らない方が、実際に試合で戦った時にやる気出ますし」

レイフォンとしては、正直そのほうがモチベーションが上がる。
そもそも最初から乗り気ではないのだ。 学生武芸者と自分では実力も経験も桁違いであり、普通にやっては勝負にすらならない。
そのうえ対戦相手の前情報まで知ってしまっては、余計につまらない試合になってしまう。
相手がどうやって攻めてくるのか知らないまま戦った方が、ある程度緊張感を保つこともできる。
ゆえに、レイフォンは他の人の試合を見るつもりは無い。
とはいえ、そんなことをハイネに向かって言うわけにもいくまい。 相手はレイフォンのことを知らないのだから。

「ほう。 随分と自信家だな。 油断してると足元すくわれかねないぞ」

「いえ、自信っていうか……でも、本来の武芸者同士の戦いって相手の手の内を知らないまま戦うのが普通じゃないですか。 実戦では特にそうですし。 最初から相手の実力がわかってる戦いの方が少ないと思いますよ」

これもまたレイフォンの本音だ。 ツェルニでは小隊対抗戦において、あらかじめ相手小隊の戦力を調べるのが普通であり、大抵の小隊は他小隊の戦術研究に余念がないようだが、正直これには疑問を感じる。
実際、本番の都市戦では敵の情報など何も無いのが普通だと思う。 仮に前回の都市戦で戦ったことがあるとしても、2年もあれば大きく様変わりしていても不思議は無い。 
それなのに、都市戦の予行演習も兼ねているはずの対抗戦でそんなことをしていたら、本番の武芸大会で手痛い失敗をしかねない。

武芸者にとって重要なのは、どんな敵にも負けないくらいに強くなること、相手のどんな動きにも対応できるように鍛えることだとレイフォンは思う。 地力の強さと戦いにおける駆け引き、つまりは臨機応変で柔軟な対応力こそが必要なのだ。
たとえ1度は武芸を捨てたと言っても、今もさほど積極的というわけではないと言っても、常にそう心掛けているのが武芸者としてあるべき姿、目指すべきあり方だと思うし、武芸科に転科した以上それを放棄するつもりも無い。
だからこそ、レイフォンは自分を鍛えることを怠るつもりはないし、武芸科にいるうちは強くなる努力もするつもりである。
そして戦いう以上、どんな相手にも負けるつもりは無い。

レイフォンの言葉に、ハイネは思案顔で頷いた。

「……成程な。 確かに、お前の言う通りかもしれない。 とはいえ、いきなりそんな方針にするのは難しいだろうが……」

と、その時モニターから歓声が聞こえてきた。

「お、言ってるうちに試合終わったみたいだな」

ハイネは首を回してモニターへと視線を向ける。

「……へぇ。 あの一年が勝ったのか。 こりゃ意外な結果だな」

呟き、再びレイフォンの方へと向き直る。

「お前の次の相手、どうやら同じ一年みたいだぞ」

「はぁ」

「気の無い返事だな。 ……まあいいか。 にしてもお前といいあいつといい、今年の一年はすごい奴が多いな。 ぱっと見そこまで強そうには見えないのに、お前はお前であのガトマン・グレアーを倒しちまうし。 もしかすると他でも番狂わせがあるんじゃないか?」

「先輩は何ブロックなんですか?」

「俺はEブロックだ。 正直一位通過はかなり難しいけどな。 すごく手強い人がいるし」

「へぇ」

話しているうちに、Eブロックの次の試合が決まった。 対戦者の片方はハイネだ。

「お、来たみたいだな。 んじゃ、俺は行くから。 機会があったらまたな」

言うと、ハイネはレイフォンに背を向けて控室から出て行った。
レイフォンは再びベンチの上で膝を抱え、取りとめの無いことを考える。
ふと、思いついたようにモニターへと目を向けた。
そこには、まるで少女のように線の細い整った顔をした、黒髪の小柄な少年が映っていた。 レイフォンの次の相手だ。
が、レイフォンはそれ以上興味を向けず、視線を外すと再び無意識の思考の流れに意識を任せた。



































ツェルニ武闘会、Hブロック、二回戦。
レイフォンは闘技場で次の対戦相手と向かい合っていた。
近くにあるモニターにはレイフォンともう一人の名前が表示されている。

レイフォン・アルセイフ(一年) vs フェイラン・バオ(一年)

二回戦にして一年生同士の対決。
観客たちは予想もしていなかったカードに興味津々である。
一回戦でレイフォンが倒した相手は小隊員でこそないものの、実力的にはそれに匹敵する上に武芸科でも有名な人物だったらしく、その一戦でレイフォンには注目が集まっていた。
一方、目の前にいるフェイランも、一回戦ではそれなりに実力者である上級生を破ったため、レイフォンに負けず劣らず関心が集まっていた。

レイフォンは目の前に立つ少年を何とはなしに観察する。
背はあまり高くない。 平均的な体格のレイフォンよりもいくらか低く、また体格もレイフォンより細身だ。 むしろ華奢といっていい。
顔は色白の細面で端正なつくりをしており、後ろで縛った癖の無い長髪も相まって少女にも見える。
すでに一回戦を戦った後のはずだが、見える範囲では特に怪我もしていない。

「準備はいいか?」

審判が声をかける。 レイフォンとフェイランは同時に「はい」と答えた。
頷き、こちらに背を向けて二人と距離を取る。
それを見送ってから、唐突にフェイランが手を差し出してきた。

「では、よろしくお願いします」

「え、う、うん」

虚を突かれたレイフォンは、流されるようにその手を取り握手する。 その手もまた、少女のように白くて細かった。
が、こちらの手のひらに伝わる感触には、少女のような柔らかさは無い。
手のひらの皮膚は硬くなっており、マメが何度も潰れたような痕がある。
長い間武術の修練を重ねてきたことを感じさせる、そんな手だった。 おそらくは、相手も同じような感想を持っただろうが。

「あなたの試合は見せていただきました。 とてもすごかったと思います。 おそらく僕では勝てないと思いますが、その実力に直に触れることができて嬉しく思います」

「あ、うん。 どうも」

レイフォンは曖昧な言葉しか返せなかったが、フェイランは気にすることなく一礼してから手を放し、こちらに背を向ける。
離れていく背に、何となくレイフォンは声を投げかけた。

「君はどうして武闘会に出場したの?」

ふと、口を衝いて出た言葉だ。
それに対し、振り返ったフェイランは真面目な顔で答える。

「出来る限り強くなりたいから。 そして自分がどれくらい強いのか知りたいからです」

それだけ言うと、再び背を向け離れていく。
レイフォンは僅かの間その後ろ姿を見ていたが、やがて嘆息し、自分も相手と距離を取る。

(少なくとも、僕よりは真面目にこの武闘会に臨んでるんだな)

そう思うと、若干申し訳なくなる。

(せめて真剣に相手するべきか)

もとより手加減はしても手抜きをするつもりはなかったが、改めて自分自身に言い聞かせる。
お互い適度に距離を空けたところで、両者は再び向かい合った。
審判が手を上げる。
と同時に、二人はそれぞれ武器を復元した。
レイフォンは鋼鉄錬金鋼の刀だ。 対するフェイランは……

(蛇矛……か)

彼が持っているのは槍に似た長柄の武器、蛇矛(だぼう)だ。
使い手の身の丈よりも長い棒状の柄の先に、蛇のようにうねった波状の刃が付いている。 刃の穂先は先端が二叉に分かれており、蛇の舌を連想させた。
珍しい武器に一瞬目を引かれたが、それ以上は捕らわれず、意識を戦いへと切り替えていく。
一回戦と同じように、レイフォンは刀を正眼に構え、感情の薄い目で相手を窺う。
フェイランは左半身の構え。 右手には穂先をやや下に向ける形で蛇矛を持ち、左手は空手のまま手のひらを上に向けた貫手の形で差し出されている。
冷静な佇まいに静謐な面持ちだが、切れ長の目は油断なくこちらを見据えている。 そこに、一回戦の相手のような驕りや侮りの色は皆無だ。
闘技場だけでなく観客席も緊張で満たされる中、審判が合図と共に手を振り下ろした。

「試合開始!」

途端、静かな闘志と共にフェイランが距離を詰めて来た。
蛇矛の刃が霞む様な速度で旋回し、下から斬り払うように振るわれる。
掬い上げるような軌道で首筋を襲う刃を、レイフォンは難なく刀で受け止めた。
フェイランの顔に驚きは無い。 もとより何の工夫も無い、ただ速いだけの一撃で仕留められるとは思っていない。

「ふっ!」

短い呼気と共に、噛み合っていた刃が再度旋回し、違う角度からレイフォンに襲いかかる。
しかしやはり、レイフォンはそれを危なげも無く受け止めた。
フェイランは繰り返し蛇矛を旋回、反転させ、レイフォンに反撃の隙を与えまいとするかのように高速で連撃を繰り出してくる。
そのすべてを防御しながら、レイフォンは冷静に相手の動きを観察する。

(なかなかやる)

フェイランの見た目に似合わぬ力量に、レイフォンは内心感嘆する思いだった。
自らの振るう武器の丈や重量と自身の筋力を正確に把握した上で、速さと威力を絶妙な一線で兼ね備えた攻撃を繰り出してくる。
フェイランは己の身の丈よりも長い武器を、まるで手足の延長のごとく自在に操っていた。
その攻撃の型は槍や矛の本来の役割である刺突にとどまらず、波状の刃による斬撃、柄や石突を使った打撃や薙ぎ払いなど多岐にわたる。
蛇矛の持つ長い間合いを最大限に活かした攻撃を行い、こちらが長柄武器の弱点である懐に入ろうとすれば、すぐさま武器を反転させて迎撃する。
回転運動を利用して打撃や斬撃を連続で繰り出し、さらに一瞬の隙を突いた刺突は速度、タイミングとも実に絶妙。
その実力は、とても一年生とは思えない。 体捌きと武器の取り回しだけなら、小隊員にも遅れを取らないだろう。

(資質もあるし、修練も積んでいる。 そして何より戦い慣れている)

防御に専念しながら、思考は分析を続ける。
やがてフェイランの動きに僅かな隙が生まれ、レイフォンが見逃すことなくそこを突く。
いや、正確にはレイフォン自身が攻防のリズムを崩して隙を作ったのだ。
しかし、フェイランは慌てることなくレイフォンの動きに対処する。
蛇矛を素早く持ち替えて防御の形を取り、レイフォンの斬撃を受け止めた。
袈裟斬、横薙ぎ、打ち下ろし。 なおも立て続けに繰り出された追撃を難なく防ぎ、躱す。

(反応は上々。 剄の流れは安定してるし、攻防共に隙が無い)

素早い動作で蛇矛を操るフェイランの活剄には目を見張るものがある。
レイフォンの知る武芸科の一年生(ほとんどいないが)の中で実力のある生徒と言えばナルキだ。 まだ外力系を修めておらず内力系に偏り過ぎの気はあるが、その分、活剄と体術の練度は一年の中でも群を抜いている。
しかし目の前にいる相手はそれを上回る。 体中をめぐる剄の流れは安定しており、かつ洗練されている。
その活剄はパワーよりもむしろスピードに重点を置かれており、しなやかな身のこなしとも相まって、より変則的かつ高速の連続攻撃を可能としている。
また、活剄ほどの練度ではないが、ナルキと違い衝剄も身につけているようだ。 その分、衝剄を纏った蛇矛の一撃はより強力かつ鋭い一閃となる。

(一年生でこれほどなんて、なかなかどうして。 学園都市にもこんな人がいるのか)

学園都市に来る武芸者は大抵実力や才能が低い者ばかりだと聞いていたが、例外もあるらしい。
とはいえ、一番例外的なのはレイフォン自身だろうが。

再び攻防が逆転し、石突の一撃をレイフォンが柄頭で受け止める。
フェイランの蛇矛は三種の錬金鋼を組み合わせて形成されていた。
柄は軽量で取り回しやすい巨鋼錬金鋼(チタンダイト)製であり、穂先の刃は斬撃武器にもっとも適した鋼鉄錬金鋼、さらに石突には打撃の際の威力と回転の遠心力を高めるための黒鋼錬金鋼が取り付けられている。
やや膂力に乏しい彼が、己の技量を最大限発揮できるようにするために作られた彼専用の錬金鋼だろう。 おそらくは学園都市からの支給品ではなく母都市から持ってきたものだ、
そして彼の実力ならば、武闘会で予選を勝ち抜くことも可能だったろう。
ここでレイフォンと当たらなければだが。

(武闘会に参加する動機はこっちの方が不純だけど、だからといって遠慮してやるわけにはいかないか。 いちおうカリアン会長にも頼まれてるし、さすがに予選落ちするわけにはいかない。 それに、こういうタイプは下手に手加減されて勝つのは嫌だろうしね)

試合前のフェイランの言葉を思い出しながら、そう、自分の中で結論付ける。
強くなること、己がどれほど強いのか確かめること、それがフェイランの目的だ。 
そんな相手にわざと負けてやるのは失礼だろう。
思考を巡らせつつ、蛇矛の一撃を刀で受ける。 幾度となく攻防が反転し、そして……

「くっ!」

先程までよりも強力な刀の一撃に、フェイランが数歩後ろに退く。 
一旦距離を空けて対峙する。
フェイランは、なおもレイフォンを油断なく見据えながらも、眉を顰めている。

(なかなかに勘も良い。 冷静に状況を見極めて、相手をよく観察している)

おそらくは気付いたのだろう。 先程から、レイフォンが打ち込みの威力を徐々に引き上げていたことに。
そしてすでにその威力はフェイランの技量では受け切れなくなっている。
最初、レイフォンは力を加減して打ち合っていた。 そして切り結ぶ中で徐々にその力を強めていったのだ。
それはフェイランが試合前に言っていたこと。 己の強さがどれほどのものなのか知りたいという彼の望みを叶えるために、あえてやったことだ。
レイフォンにどこまで対抗できるか確かめさせてやるためでもあるし、レイフォン自身が相手の力量を推し測っていたのでもある。 それがレイフォンなりの、己よりも誠実な、強さを求める相手に対する厚意であった。

フェイランもこちらの意図に気付いている。 眉を顰めながらも、表情にはわずかに感謝の色があった。
そしてこのまま普通に打ち合いを続けても勝てないことも分かっているだろう。 距離を空けたまま、攻め方を思案している様子だ。
レイフォンはあえて自分からは攻撃せず、相手の出方を窺う。 他者を教導した経験など無いが、おそらくはこんな気持ちなのかもしれない。

(さて、どうくる?)

ふと、フェイランが口を開いた。

「成程。 やはり、あなたは強い。 先程の試合を見てそれは分かっていましたが、僕の認識はまだまだ甘かったようです。 僕では、とても勝てそうにない」

相手の言葉に対し、レイフォンは肩を竦めるだけに留めた。

「しかし、だからといってそう簡単に負けるわけにはいきません。 もうしばらく、お付き合い願いますよ!」

強く言い放つとともに、蛇矛の穂先を地面に突き立てる。
そして穂先で衝剄を爆発させながら、その場で一回転する。 
地面が円形に抉られ、回転と衝剄によって生まれた旋風で大きな砂塵が舞い上がり、レイフォンの周囲を覆い隠す。

「煙幕…。 苦し紛れの目くらまし……ってわけでもないか」

レイフォンは呟き、刀を構え直す。 相手のどのような出方にも対処できるよう呼吸を整え、神経を研ぎ澄ませる。

(気配が読めない。 足音もしない)

相手の気配は完全に消えたわけではない。 殺剄を使っている訳ではないだろう。
だが、気配を薄めたまま常に煙幕の中を無音で移動しているらしく、目や耳では所在を掴めない。

内力系活剄の変化 虚歩(うつほ) 潜蛇の型(せんじゃのかた)

虚歩は特殊な歩法を用いることで移動の際に生じる気流の乱れを抑えながら、同時に足音を鳴らさずに活剄による高速移動を行う技だ。 
煙幕による隠形を併用した潜蛇の型ばらば、通常の武芸者のように音や空気の流れを見るだけではその姿を捉えられない。
その様は、さながら死角に潜んで獲物を狙う蛇のように、土煙に紛れてレイフォンの隙を窺っている。

(なかなかに厄介な技だ……が!)

金属音。

上段に振りかぶる様にして背中に回された刀の刀身が、背後の死角から突き出された蛇矛の刺突を受け止めていた。
立てられた刃が丁度、二叉に分かれた穂先と噛み合っている。
土煙に隠れた蛇矛の向こうから、驚く気配が伝わって来た。
が、驚きつつもその結果に執着することなくフェイランは蛇矛を引き、再び煙幕に紛れる。
レイフォンは深追いすることなく、その場に留まって相手の出方を待つ。
そして、再度煙幕を貫いて繰り出される刺突を二度三度と見事に防御してのけた。
フェイランの攻撃を防ぎつつ、小さな声で、しかし相手にはっきりと聞こえるように、レイフォンは語りかける。

「確かに君の技は厄介だ。 音も姿も無く死角から攻撃するその手腕は大したものだと思うよ。 でも、あいにくと僕には通じない」

たとえ完全に音と姿を消すことができたとしても、そんな技はレイフォン相手には意味が無い。
なぜなら、レイフォンは目や耳だけでなく、剄脈によって敵の剄の流れをも感じ取ることができるからだ。
レイフォンにとって剄はただの攻撃の手段ではない。 念威繰者の念威同様、レイフォンにとっての剄とはもう一つの目であり耳であり肌であり、そして神経でもある。 むしろ戦闘中は、その身に生まれつき備わった感覚器官などよりもはるかに鋭敏に音を、色を、形を、そして剄を感じ取ることができる。 
特に他者の剄を感じ取ることに関しては、レイフォンは幼少のころから他の誰よりも秀でていた。 
たとえ無音にして無明の闇の中であろうとも、武芸者の剄を伴う動きならば、その全てを把握することができる。

「それに、仮に通じたとしても、こんな開けた場所で面と向かっての一対一じゃ効果は半減だよ。
 せめてもっと障害物があるところか、複数の敵相手、もしくは不意打ちを仕掛ける時じゃないと」

姿の見えない相手の攻撃に対し、適確に対処しながら淡々と告げる。
何度目かの攻撃を防がれた後、フェイランが退いて煙幕に紛れると同時に、レイフォンは横薙ぎに刀を一閃させた。

サイハーデン刀争術 円礫

レイフォンを中心に衝剄が巻き起こる。 

「ぐぁっ!」

衝撃と共に剛風が周囲に吹き荒れ、煙幕の役割を成していた砂塵が霧散し、視界が開ける。
そこには、刀を振り切った姿勢のまま悠然と立っているレイフォンと、円礫を喰らって地面に倒れているフェイランが現れた。
驚愕の表情を浮かべつつもフェイランは素早く起き上がり、油断なく蛇矛を構える。
が、不意に喰らったダメージはそう簡単に抜けないのか、僅かに構えが乱れていた。

「さて、そろそろ終わらせるよ」

宣告と共に相手に迫る。
鋭い踏み込みからの逆袈裟の一撃。 フェイランは蛇矛でそれを受けるが、先程の衝撃で痺れた腕では支えきれず、その手から武器が弾き飛ばされる。
レイフォンは返す刀で首を狩る―――寸前で刃を止めていた。
首筋に刀を押し当てられ、フェイランは動きを止める。
刃引きこそされてはいるが、まともに喰らえばただでは済まないだろう。
刃を挟んで、しばし視線が交差する。
やがて、

「僕の……負けです」

フェイランが敗北を認めた。

「勝者、レイフォン・アルセイフ!!」

審判が手を上げて高らかに宣言する。
レイフォンは刀を下ろし、相手から離れる。

「ありがとうございました。 感謝します」

「いえ。 どういたしまして」

頭を下げるフェイランに対し、レイフォンもまた頭を下げて言葉を返す。
ツェルニ武闘会、Hブロック予選、レイフォンの二回戦が終わった。






























武闘会会場、控室。
今はちょうど昼時だ。 とはいえ、予選中は少しでも早く進めるため基本的に昼休憩というものは無い。
選手たちは、試合が近い者以外は各自で時間を見つけて昼食を取っている。
レイフォンもまた控室のベンチに腰掛け、サンドイッチを咀嚼していた。
先程の試合で多量の土汚れがこびり付いた防具と戦闘衣の上衣を脱ぎ、上半身はインナーだけの姿で弁当を食べる。

(ホント、美味しいな)

声には出さずに心中で独りごち、口を食事に専念させる。
この弁当は武闘会開始前にメイシェンが手渡してくれたものだ。 テーブルや食器が無くても食べやすいよう、サンドイッチを選んでくれている辺りに気遣いを感じる。
真っ赤な顔でいきなり差し出された時には随分と遠慮していたが、結局は恐縮しつつも受け取ってしまった。 誘惑に負けたとも言えるが。

(武闘会が終わったら賞金で何か奢ろう)

と自分の中で心に決める。 自分が負けるとは思っていないし、負けるつもりも無い。

「美味そうなもん食ってるな」

レイフォンの隣に腰掛けつつ声をかけてきたのはハイネだ。 その手には昼食が入っていると思われる紙袋を持っている。
丁度試合を終えたところなのだろう。 レイフォンと同じく戦闘衣の上衣を脱いでいたが、ブーツには土がこびりついていたし、頬や腕には掠り傷があった。 

「売店で売ってるやつには見えないけど、どうしたんだそれ? 女の子から差し入れでももらったのか?」

やや冗談交じりに揶揄する響きを込めた言葉だったが、レイフォンはそれに気づかず、真面目にかつ正直に答える。

「ええ、友人からの差し入れで。 試合に出るって知ってわざわざ作ってきてくれたんです」

「……そうか。 しかし彼女のお手製弁当とは、羨ましいねぇ」

「いえ、彼女というわけではないですけど。 その子料理が趣味なんで」

「ふーん」

会話しつつ、ハイネも紙袋からハンバーガーを取りだしかぶりつく。

「そういやお前試合どうだったんだよ? 俺は見てなかったけど、勝ったのか?」

「ええ、まあ。 先輩はどうだったんですか?」

「俺も一応は勝った。 問題は次だけどな。 ったくなんで予選であんな人と……」

最後の方は独り言だった。 もしかすると自分より強い人と当たるのかもしれない。

「お前の次の相手は?」
 
「……えっと」

「ああ、そっか。 確かめてないのか。 次の対戦相手のこと調べたりとかしないんだもんな」

「ははは……」

曖昧に笑いつつ、最後のサンドイッチを口に放り込む。 それからこちらは自販機で売っていたコーヒーを飲み干して一息ついた。
やがてハイネも食べ終わり、ベンチから立ち上がった。 モニターの近くまで移動し、次の対戦相手の試合を観戦する。 おそらく油断できない相手なのだろう。 映像を見据えるハイネの顔は真剣だ。
レイフォンはモニターではなくそれを見ているハイネを何とはなしに見ていたが、やがて目を離すと今度は虚空に視線を向ける。
そのままどれくらい時間がたっただろうか。 ハイネは次の試合に出るために控室を出て行き、しばらくしてレイフォンもまた試合に呼び出された。

「やれやれ」

嘆息しつつ立ち上がり、戦闘衣と防具を着直す。 腰の剣帯を確認してから、控室を出ようとした。
ふとその時、横から強い視線を感じて、レイフォンは立ち止まった。
ゆっくりと首を巡らせて、視線の主を見る。
背の高い、ヴァンゼにも劣らぬほど大柄な男だった。 短く刈りあげた銀髪に、角ばった厳つい顔をしているが、目鼻立ちのところどころに甘い雰囲気があり、愛嬌があるようにも感じる。 しかし今その目は鋭く引き締まっており、こちらを射抜く眼光にはありありと敵意が感じられた。

(見覚えが……ある……いや、無い……か?)

ほんの僅かにだが、その顔に既視感があるように感じた。
会ったことは無いはずだが……

と、相手は突然我に返ったかのように視線を逸らした。 そしてもうこちらを見ようともしない。
訝しく思ったものの、それ以上は気にせず、レイフォンは控室を出た。







武闘会一日目。
その日の夕方に差し掛かろうという頃、武闘会の予選は終了し、本戦参加者八名が決定した。






























おまけ:キャラクタープロフィール



シャーニッド・エリプトン ♂

武芸科 4年生  19歳
身長:184cm 体重:71kg
性格:軽薄、冷静沈着
趣味/特技:ナンパ、隠密行動





ハイネ・クランツ ♂

武芸科 3年生  18歳
身長:175cm 体重:64kg
武器:双剣 
趣味/特技:ボードゲーム、両手で同時に別々の文章が書ける(手は左右両利き)

藍色の髪に深緑の瞳。
性格はそこそこ真面目。基本的にはごく標準的な武芸者思考。ただし、ニーナほど堅物でもなければ頑固でもない。どちらかというと冷静で柔軟。
実力は小隊員の中でも比較的高く、攻撃力だけなら武芸科の三年の中でトップ。ニーナとは同級生で一年時のクラスメイト。





フェイラン・バオ ♂

武芸科 1年生 16歳
身長:165cm 体重:50kg
武器:蛇矛
性格:真面目、礼儀正しい

長い黒髪に黒い瞳、色白で線の細い顔立ち。細身というより華奢な体格。
礼儀正しい性格で、基本誰に対しても丁寧語。
1年の中では飛び抜けた実力を持つ。体捌きと武器の扱いは小隊員レベル。
しなやかな足腰と特殊な歩法による高速かつ無音の移動が得意。高い技量を持つ一方、やや腕力に乏しい。




















あとがき

まだ二試合ありますが、冗長になるので今回で予選は終了です。思いつかないというのもありますが、早く本戦を書きたいので。
できれば年内に武闘会編は終わらせたいです。年末は実家に帰るので。実家では更新できないと思いますから。さすがにレギオス全巻実家に持って行くのは文字通り荷が重いですし。
うまくいけばあと二回の更新で終わるかなと思います。


オリキャラにつてはあまり多く決めてません。必要に応じて作った部分があるので。いつかこのページでさらに情報を付け加えることがあるかもしれません。


さて、次はいよいよ本戦です。原作にもあった技だけでなく、自分で作った技も出していきたいと思っています。楽しんでもらえるよう頑張りますので、また次の更新で。
では。




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