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No.23719の一覧
[0] The Parallel Story of Regios (鋼殻のレギオス 二次創作)[嘘吐き](2010/11/04 23:26)
[1] 1. 入学式と出会い[嘘吐き](2010/11/04 23:45)
[2] 2. バイトと機関部[嘘吐き](2010/11/05 03:00)
[3] 3. 試合観戦[嘘吐き](2010/11/06 22:51)
[4] 4. 戦う理由[嘘吐き](2010/11/09 17:20)
[5] 5. 束の間の日常 (あるいは嵐の前の静けさ)[嘘吐き](2010/11/13 22:02)
[6] 6. 地の底から出でし捕食者達[嘘吐き](2010/11/14 16:50)
[7] 7. 葛藤と決断[嘘吐き](2010/11/20 21:12)
[8] 8. 参戦 そして戦いの終結[嘘吐き](2010/11/24 22:46)
[9] 9. 勧誘と要請[嘘吐き](2010/12/02 22:26)
[10] 10. ツェルニ武芸科 No.1 決定戦[嘘吐き](2010/12/09 21:47)
[11] 11. ツェルニ武闘会 予選[嘘吐き](2010/12/15 18:55)
[12] 12. 武闘会 予選終了[嘘吐き](2010/12/21 01:59)
[13] 13. 本戦進出[嘘吐き](2010/12/31 01:25)
[14] 14. 決勝戦、そして武闘会終了[嘘吐き](2011/01/26 18:51)
[15] 15. 訓練と目標[嘘吐き](2011/02/20 03:26)
[16] 16. 都市警察[嘘吐き](2011/03/04 02:28)
[17] 17. 迫り来る脅威[嘘吐き](2011/03/20 02:12)
[18] 18. 戦闘準備[嘘吐き](2011/04/03 03:11)
[19] 19. Silent Talk - former[嘘吐き](2011/05/06 02:47)
[20] 20. Silent Talk - latter[嘘吐き](2011/06/05 04:14)
[21] 21. 死線と戦場[嘘吐き](2011/07/03 03:53)
[22] 22. 再び現れる不穏な気配[嘘吐き](2011/07/30 22:37)
[23] 23. 新たな繋がり[嘘吐き](2011/08/19 04:49)
[24] 24. 廃都市接近[嘘吐き](2011/09/19 04:00)
[25] 25. 滅びた都市と突き付けられた過去[嘘吐き](2011/09/25 02:17)
[26] 26. 僕達は生きるために戦ってきた[嘘吐き](2011/11/15 04:28)
[27] 27. 正しさよりも、ただ己の心に従って[嘘吐き](2012/01/05 05:48)
[28] 28. 襲撃[嘘吐き](2012/01/30 05:55)
[29] 29. 火の激情と氷の意志[嘘吐き](2012/03/10 17:44)
[30] 30. ぼくらが生きるために死んでくれ[嘘吐き](2012/04/05 13:43)
[31] 31. 慟哭[嘘吐き](2012/05/04 18:04)
[32] 00. Sentimental Voice  (番外編)[嘘吐き](2012/07/04 02:22)
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[23719] 11. ツェルニ武闘会 予選
Name: 嘘吐き◆e863a685 ID:eb6ba1df 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/15 18:55
朝の日差しが窓から差し込む中、レイフォンは自宅であるアパートのダイニングで朝食を食べていた。
時間にはまだ余裕がある。 ボーっと窓の外を眺めながら、もそもそとパンを咀嚼する。 すでに3つ目だ。
あまり栄養に気を遣った食事ではないが、レイフォンとしては朝食は腹さえ膨れれば何でもいいと思っている。
パンを食べ終わると、食料棚から出してきた大きなチーズの塊から1口サイズの欠片をいくつか切り分け、 それを口に放り込んでからコップの中の牛乳を飲み干す。
このチーズは以前近所の倉庫区で仕事を手伝った時に、そこで働いている人たちから分けてもらったものだ。 かなり大きな塊で日持ちもするためレイフォンは随分と感謝していた。 食料品を収納している棚の中にはまだ2つほど残っている。

「さて、と」

朝食が終わると、慣れた手つきで食器を片づけ、着替えを始める。 もともとあまり良い服は持っていないので、特に迷うことなく適当なものを選んで着替えた。 どうせ向こうに着いたらすぐにもう1度着替えることになるのだ。 
それからスポーツバッグに必要なものを詰めていく。 とはいえ、それほど数は多くない。
武闘会用にカリアンから渡されたツェルニ武芸科共通の戦闘衣(用意するのがやたら早かった上に、何故か図ったようにサイズがぴったりレイフォンに合っている)やタオル、スポーツ飲料などを詰め込み、最後にベッド脇の台に置いてあった錬金鋼を手に取った。
目の前まで持ち上げ、じっと見つめる。
それから小さく「レストレーション」と呟き、鋼鉄錬金鋼製の刀を復元した。
美しい刀身が現れ、窓から差し込む陽光を照らし返す。 眩い光に、レイフォンは目を細めた。
キリクにこの錬金鋼を用意してもらってから、何度か素振りなどを繰り返して感触を確認、そして調整を行ってもらった。 今では長年を共に戦った戦友のように手によく馴染む。
しばらく刀身を見つめて物思いにふけってから、やがて基礎状態に戻して腰の剣帯にそれを納める。

「よし」

声に出して気持ちを切り替えると、スポーツバッグを肩に提げて家を出た。
そしてメイシェン達と待ち合わせしている場所に向かって歩き出す。
その挙措に焦りや緊張は見られず、普段学校へ行く時の様子と何ら変わりない。
しかし、今レイフォンが向かっているのは学校ではなく野戦グラウンドである。
今日はツェルニ武闘会の開催日だ。





























ツェルニ武闘会当日。
その日は朝から快晴だった。
エアフィルター越しに強い日差しが差し込んでくる。
照りつける陽光の下、野戦グラウンドは喧騒で満ちていた。
観客席では、早くもこれから行われる試合の結果について予想し合っている者もいる。

「いやー、随分盛り上がってるね~。 小隊対抗戦にも引けを取らないよ」

周囲の喧騒に負けないよう、隣にいる2人に向かって大きな声出で話しかけているのはミィフィだ。

「確かに、すごい盛り上がりだな。 ところでレイとんの試合はどこでやるんだ?」

ナルキもまた、大きな声でミィフィに向かって訊ねた。

「確かHブロックって言ってたから……あっちじゃない?」

言いつつ、ナルキとメイシェンを先導する。
武闘会では、野戦グラウンドを闘技場として八つの区域に分け、それぞれの区域でA~Hまでのブロックに分けられた出場者が同時に予選を行う。
三人は八つに分かれた戦闘区域のうち、Hブロックの予選が行われる闘技場が見えるところまで移動した。
奇跡的に空いている席が3つ並んでいたので、そこに腰を下ろす。

「さてさて、レイとんは何試合目かな?」

「さあな。 予選じゃ一回戦の相手はランダムで、順番も決まってないみたいだからな。 レイとんがいつ出るのかはわからん」

「……レイとん、怪我しないかな?」

「大丈夫でしょ。 生徒会長にも実力を認められてるくらいなんだし。 もしかして優勝なんかしちゃったりして」

「さすがにそこまで甘くはないと思うが」

「でも可能性はゼロじゃないでしょ? もし勝ったらインタビューしなきゃ」

そういえばと、メイシェンは思い至る。
ミィフィとナルキは、レイフォンがグレンダンで汚染獣とも戦った経験のあるプロの武芸者であるということを知らないのだ。
レイフォンがそれを話してくれたのはメイシェンと2人っきりの時だったし、その時の話の内容は誰にも教えていない。
2人にも教えるべきかとも思うが、レイフォンはあまり多くの人に知られたいとは思っていないようだし、彼の許可も無く他言するのは気が引ける。 いくらこの2人でも。
それに、レイフォンと秘密を共有しているような気持ちになれて、少し嬉しいというのもある。
結局、やっぱり黙っていた方がいいか、と結論付けた。
3人はあれこれと会話しながら、武闘会が始まるのを待つ。

「この大会って何人くらい出場するんだ?」

「少なくとも100人以上は出るらしいよ。 武芸科なら誰でも参加可能だしね。 そのうち小隊員は20~30人くらいだって。 大体各小隊で1人か2人が代表して出るみたい」

「結構参加するんだな。 2日で終わるのか?」

「だから8つに分けて同時にやるんでしょ。 予選の方は試合に時間制限もあったと思うし」

「ミィちゃん、誰が出場するかとか知ってるの?」

「全員って訳じゃないけどね。 小隊員とか、ある程度有名な人とか、その辺はいちおう調べてあるよ」

「ほう。 どんな人が出るんだ?」

「大体各小隊の隊長とかエースなんかが出てるみたい。 まあ、勝てば自分の小隊にも利益があるしね。 実力をアピールするのにも丁度良いし」

「レイとんはどうだ? 勝てそうか?」

「う~ん、どうだろ? そもそもわたしはレイとんがどんだけ強いのかもよく知らないし。 ナッキは一度戦ってるとこ直に見たんじゃないの? 都市外の武芸者相手に」

「まあそうだが、あたしには小隊員がどれくらい強いのかもよく分からないからな。 対抗試合を見るだけじゃ小隊の人たち個人の実力は分からないし」

「じゃあ、尚更わたしにはわからないよ。 ただ、下馬評はあんまり高くないみたいではあるけどね。 入学式のことで多少は注目されているみたいだけど、やっぱり一年生だし」

「それもそうか」

と、話していると司会のアナウンスが流れた。

「お、いよいよだね~」

まず最初に司会が挨拶し、それから武闘会についての説明を始めた。
内容は、試合の形式やルールについてだ。 
武闘会では、選手はまずA~Hまでの8つのブロックに分かれ、それぞれのブロックでトーナメント形式の勝ち抜き戦を行う。
そして各ブロックで1位通過した者だけが決勝トーナメントである本戦に進むことができるのだ。
また予選では、参加ブロックだけはあらかじめ決められているが、試合の組み合わせや順番はランダムに決められる。
そのあとは、先に勝ち抜いた人から順番に戦っていき、本戦参加者を決める。
本選はA対B、C対D、E対F、G対Hと、それぞれのブロックを1位通過した者たちでさらに勝ち抜き戦を行う。
そうして最終的な優勝者を決めるのだ。

試合のルールは、旗取り合戦ではないこと、個人戦であること以外は基本的に小隊対抗戦と同じだ。
錬金鋼は学園都市指定の安全装置がかかった物しか認められておらず、試合で使うには運営部の認可がいる。
勝敗に関しては、どちらか一方が負けを認めるか気絶するまで、もしくは一定時間以上倒れたままでいることで決まる。 その場合は審判から戦闘不能判定が下る。
また、予選では複数の試合を同時に行うためスペースが限られているので、戦闘区域の範囲外に一定時間以上出ることも敗北の原因となる。
試合をあまり長引かせないよう、時間にも制限がかけられている。 時間切れの場合は、それまでの攻勢から勝敗が判断される。 つまりは審判から見て優勢に試合を進めていた方が勝ちとなる。 とはいえ、普通、武芸者同士の戦いはそうそう長引くことが少なく、大抵は時間内に終わるだろうが。

司会のルール説明が終わると、次に開催の責任者である生徒会長と武芸科長からの開会の挨拶が行われた。
内容は主に、会長からは激励の言葉、武芸長からは諸注意などだ。
それらが終わると、いよいよ試合が始まる。
スタジアムで一番大きなモニターにブロックごとの第一試合の選手名が映し出された。
その中にレイフォンの名もある。

Hブロック 第一試合 レイフォン・アルセイフ(1年) vs ガトマン・グレアー(5年)

「おお、いきなりレイとんの試合! って……あちゃ~運悪いねぇ。 初戦の相手があのガトマン・グレアーなんて」

「誰だ? 有名な奴なのか?」

「うん、まあ。 小隊員って訳じゃないんだけど、色々噂があったりしてそれなりに有名かな。 武芸科の五年生で、なんでも実力は小隊員にも引けを取らないくらいなんだけど、素行が悪くて小隊入りのチャンスを何度も逃してるんだって。 多分、この試合にもそれが理由で参加したんじゃないかな。 自己顕示欲が強いみたいだし」

「ほう。 あまりお近付きになりたくないタイプだな」

「まあね。 聞いた話じゃ性格は陰険で嫉妬深くて、その上いつも偉そうに威張り散らしてるってさ。 しょっちゅう人前で小隊員の特に下級生の悪口を言いふらしてるとか。 人気のある小隊員に裏で酷い嫌がらせをしたこともあるって噂だし。 おまけに下級生とか一般人には輪をかけて居丈高に振る舞うらしいよ。 思いっきり見下して。 夜の繁華街でもよく女生徒に絡んでるところが目撃されてるみたい。 ほんと、嫌んなるよねぇ~」

「随分と悪評が流れてるんだな。 まあ基本的に学園都市って言うのは不良武芸者が流れてきやすいところではあるけど、それにしてもひどいな。 レイとん、大丈夫なのか?」

ナルキとミィフィのやり取りに、メイシェンが心配そうに顔を曇らせた。

「個人的には、友達ってことを抜きにしてもそんな奴には負けてほしくないけどね~。 ちなみにガトマン・グレアーの戦法は、一撃を狙わないでじわじわといたぶって、時間をかけて相手の力を削いでいくってやり方らしいよ」

「戦い方まで陰険だな。 それも一つの戦術かもしれんが、性格も合わせるとやはり好きにはなれそうもないな」

「だよね~。 レイとん、がんばれ~!」

最後は闘技場に向けて応援の言葉を発する。
そこには、モニターを見てグラウンド脇の通路から出てきた、噂のガトマン・グレアーとレイフォンが対峙していた。
メイシェンは思わず唾を飲み込んだ。 まだ試合も始まってないのに、早くも緊張している。

「メイっち、そんなに固くならなくても……」

言いつつ、ミィフィも視線を闘技場に向けた。 ナルキもそれに倣う。
上背のある相手を見上げているレイフォンの顔つきは、まるで凪いだ水面のように静謐だった。
表情からは感情が抜け落ち、普段のどこか気の抜けた面持ちとは異なる、冷たい顔をしていた。

「へぇ~。 レイとんのことだからもっと緊張してるもんだと思ってたけど、そんなこと無かったね。 むしろすっごく落ち着いてるし」

「ああ。 あれは明らかに場馴れしているな」

「これはもしかすると、ほんとに勝っちゃうかも!」

「ミィ、興奮するな」

鼻息荒く目を輝かせるミィフィを、ナルキが宥める。
と、闘技場で向かい合った2人が、一旦距離を取ってから武器を構えた。
開始の声と共に、審判が高く上げた腕を振り下ろす。
そして試合が始まった。























Hブロック闘技場、第一試合。
そこで、レイフォンは最初の対戦相手と向かい合っていた。
隣で小隊員から選ばれた審判役の武芸科生徒が、改めてルールの確認を行っている。
目の前に立つ選手、ガトマン・グレアーは、ニヤニヤとした笑みを口元に浮かべながら、見下すような目でこちらを見ていた。
背の高い、大柄な男だ。 身体は当然鍛えられており、細身のレイフォンと比べてはるかに肉厚だ。
顔はいかにもチンピラ然とした柄の悪そうな容貌で、目つきは鋭く、陰険そうに濁った光がある。 立ち姿や表情からも傲慢な性格が見て取れた。
諸注意と説明を終えた審判がその場から離れていくと、ガトマンはこちらを馬鹿にするような口調で口を開いた。

「貴様のことは知っているぞ、レイフォン・アルセイフ。 入学式で少しばかり目立ったからって、調子に乗って武闘会にまで出て来るとはな。 一年の分際で随分と生意気な奴だ。 この俺が貴様に身の程ってやつを教えてやるぜ」

せせら笑う対戦相手に対し、レイフォンは口ごたえどころか表情一つ変えない。 まるで目の前の相手に欠片ほどの興味も無いといった風情である。
その様子に、ガトマンは笑みを浮かべたままこめかみに青筋を浮かべる。

「はっ、臆病者が!」

やや引き攣った笑みで吐き捨てると、ガトマンはレイフォンに背を向けて離れていく。
レイフォンもその場から離れ、対戦相手と距離を取る。
そして改めて向かい合った。

「両者、構え!」

審判が声を張り上げ、手を高く上げた。

「レストレーション!!」
「レストレーション……」

審判の声と共に、お互いに自身の武器である錬金鋼を抜き出し、復元する。
レイフォンの手には鋼鉄錬金鋼(アイアンダイト)製の刀が現れた。
対するガトマンは、右手に大ぶりのナイフを、左手に数本の小型のナイフを復元する。
それらを手に、二人は向かい合って各々の武器を構えた。
ガトマンは先程までと同様、相手を見下すように唇を嘲笑に歪めながら両手のナイフを構える。 右手を前に、左手は身体の後ろに隠すように。
それを見てもレイフォンは無表情のままだ。 静謐な面持ちで、刀を正眼に構える。 普段の気の抜けた顔つきからは想像できないほどに真剣な表情だが、その姿からはまったく気負いが感じられない。 その立ち姿や目つきからは、虚ろな印象さえ受ける。 観客席でも緊張感が高まる中、レイフォンはただ感情の薄い目で相手を窺っていた。

「試合……開始!!」

試合開始の合図と共に、審判は勢いよく手を振り下ろす。

と同時に、ガトマンが仕掛けた。
なかなか侮れない素早い挙動で左手を振るう。 その手から三条の光が立て続けに走り、レイフォンに向かって飛来した。
投擲された小型のナイフを、冷静なままレイフォンは二つを躱し、一つを刀で叩き落とす。
が、その動作のほんの僅かな隙に、ガトマンはレイフォンに肉薄する。
右手に持った、大ぶりのナイフを勢いよく振り下ろす。 衝剄を纏ったその一撃を、レイフォンは刀で受け止めた。
金属音が響き、しばし刃が噛み合う。 
しかし、鍔迫り合いを好まずガトマンは素早く後退した。 すかさずレイフォンは追撃しようとするが、牽制として投げられた小型ナイフに足を止める。

一旦仕切り直して対峙する。
わずかな膠着状態の後、再び先に仕掛けたのはガトマンの方だった。
レイフォンからは距離を取りつつ、弧を描くように周囲を移動する。 その間にも、立て続けにナイフを投げる。
それらを躱し、あるいは刀で防ぎながらも、レイフォンの目は相手の動きを追っている。

ガトマンの戦い方は持久戦だ。 距離を取りながら時間をかけて攻撃を繰り返し、少しずつ相手の体力や集中力を削いでいく。 そうして相手に隙が生まれれば、接近戦を仕掛けて大ぶりのナイフで止めを刺すつもりだ。
最初の攻防でこちらがただの一年生ではないと分かったのだろう。 相変わらず侮るような目でこちらを見ているが、先程のように迂闊に飛び込んでくることはなく、距離を空けたまま攻撃を繰り返す。 しかしこちらが少しでも隙を見せれば、近づき、斬りかかってくる。 
一体いくつ武器を持っているのか、繰り返し小型ナイフを投擲し、レイフォンの動きを制限する。
そして隙ができるたびに接近し、大ぶりのナイフを振るう。 その度にレイフォンは危ういところで一撃を防いだ。
自らの攻撃を防がれても、ガトマンはその結果に固執することなく後退し、再度、間合いの外からの攻撃を繰り返す。 そのせいで、レイフォンは反撃のタイミングを悉く外された。

そんな攻防がしばらく続く。
そして、

「むっ」

ガトマンの投げたナイフが、レイフォンの危ういところをかすめる。
レイフォンは大きく仰け反り、体勢を崩していた。
すかさず、ガトマンが素早い動作で左手を振るい、連続でナイフを投げた。
と同時に方向転換し、レイフォンに向かって直進する。

(勝った!)

あの体勢では全てのナイフは躱せない。
小型のナイフにはさほど殺傷力は無い。 刃引きが為されているのだから尚更だ。
しかし衝剄を乗せたその一撃は、まともに喰らえばそれなりの威力がある。
急所にでも当たれば、武芸者といえど大ダメージを受けるだろう。 相手の意識を刈り取るくらいの威力はあるし、場合によっては命にかかわる。
仮に全てのナイフを躱せたとしても、さらに体勢を崩した状態でガトマンの追撃を防げるはずが無い。
勝利を確信し、ガトマンの顔が勝ち誇ったような笑みに歪む。
だが、

「何っ!」

ガトマンの顔に驚愕が浮かぶ。
レイフォンの刀が、それまでとは比べ物にならないほど素早く動き、全てのナイフを叩き落としたのだ。
だけでなく、衝剄と刀を振るう際の反動を利用して、予想以上に早く体勢を立て直す。

「ちっ!」

思わず舌打ちする。
それでもガトマンは、接近しながら新たなナイフを二本投げた。
レイフォンは一切慌てず、刀の柄から左手を放す。
そしてその手を素早く動かし、飛来してきたナイフを空中で止めた。 指の間に二本のナイフが挟まっている。
それを見て、再びガトマンは顔を驚愕に染めた。
思わず足を止めたガトマンに向けて、レイフォンが霞む様な速度で左手を閃かせる。

「っく!」

矢のように飛来するナイフをガトマンはぎりぎりのところで回避する。
が、虚を突かれたために巧く躱せず、大きく体勢を崩してしまった。
その隙を見逃さず、レイフォンが鋭く踏み込んで来る。
振り下ろされた一撃を、ガトマンはなんとか右手のナイフで受け止めた。
だがそのあまりの威力に、まともに受け切れず後ろに弾き飛ばされる。
しかしレイフォンは追撃の手を緩めることはなく、再度斬りかかってきた。
再び受け止める。 すさまじいまでの速度と重さが伴う一撃。
あまりの圧力に、思わず新たに抜き出していた投擲用の錬金鋼を捨て、両手でナイフを支えた。

「ぐっ!」

しばし押し合いになるが、こらえ切れず、刀身を強引に逸らしてから距離を取った。

(あの細い身体のどこにあんな力がある!?)

そう吐き捨てようとするが、刀を引き連れたレイフォンは遅滞なく動き、ガトマンに迫る。 速い!
横薙ぎの一閃が胴を狙い襲いかかる。 それをギリギリで受け止め、渾身の力で弾き飛ばした。
しかしレイフォンはさらに立て続けに刀を振るう。 息をも吐かせぬ連撃。
幾筋もの斬線が走り、連続でガトマンに襲いかかった。
ガトマンはそれらをなんとか防ぐが、押さえきれず徐々に後退する。
袈裟斬、逆袈裟、横薙ぎ、兜割り。
レイフォンは表情一つ変えずに、無数の斬撃を繰り出してくる。
それらをすべて紙一重で防ぎながら、ガトマンは後退を強いられる。
先程まで攻めていたのはガトマンだったが、いつの間にか形勢は逆転し、防戦一方に追い込まれていた。

(くそっ! 初戦で、それも一年なんかに負けてたまるか!)

「う、おおぉぉぉぉあぁっ!」

咆哮と共に、全身から衝剄を放つ。
と同時に、活剄によって限界まで強化した筋力でナイフを振るい、渾身の力を込めてレイフォンの一撃を弾き返した。

「っ!!」

ありったけの剄を込めた反撃に、レイフォンは思わず仰け反る。 相変わらず表情に乏しいが、やや眉を顰めており、その顔にはわずかに驚きが浮かんでいた。

(ここだ!)

千載一遇のチャンスとばかりに、ガトマンは大きく踏み込んで右手に握った大ぶりのナイフを振るった。
全身の力と体重を乗せて、相手の胴体のど真ん中に、思い切り突きを放つ。

(勝っ……)

だが、その突きは一切の手応えも無く通過し、ガトマンの身体が大きく泳いだ。
レイフォンの姿は先程までいた場所から消え、いつの間にかガトマンの真横に現れていた。

内力系活剄の変化 疾影

速度の緩急によって相手の感覚を狂わせ、同時に気配のみを周囲に放って混乱を助長、自らは殺剄をすることで偽の気配をあたかも本物であるかのように思わせ、瞬間の判断を誤らせる技だ。
ガトマンが貫いたのは残像ではなく、自身の錯覚によって生まれた虚像だ。
レイフォンは隙だらけの背面に、刀の柄頭を振り下ろす。

「ちぃっ!」

咄嗟に振り向こうとするが、その前に後頭部に重い衝撃が叩きこまれた。

「がっ!」

ガトマン・グレアーは柄頭による一撃で意識を刈り取られて昏倒した。
一声呻いて、ガトマンの体が崩れ落ち、そのまま沈黙する。
「おおっ」と観客席でどよめきが起こり、それから一瞬の静寂が訪れる。
そして、

「勝者、レイフォン・アルセイフ!!」

審判の高らかな声が上がり、判定が下った。
それと同時に、観客席で歓声が上がる。 そこかしこから称賛の声がかけられた。
中には、ミィフィの声も混じっている。 レイフォンの聴力は、大勢の歓声の中からそれを捉えた。
愛想を振りまくのは得意ではないが、これでもグレンダンで試合慣れしている。
刀を納めると観客席の方を向き、深々と一礼した。 より一層歓声が大きくなる。
顔を上げ、先程聞こえたミィフィの声を頼りに客席を見渡す。 メイシェン達三人がいる場所を見つけると、先程までの冷たい顔つきから一転し、そちらに向かって笑いかけた。
三人とも手を振っている。 ミィフィは元気に大きく、ナルキはそれを見て苦笑しながら、メイシェンは真っ赤になりつつ恥ずかしそうに。
それを見てレイフォンは笑みを深くし、控えめに手を振り返した。
しばらく歓声に応えてから、やがて観客に背を向ける。
そして気を失って運び出されるガトマンを横目に、レイフォンは闘技場を後にした。

























「いや~、レイとんすごかったね。 あのガトマン・グレアーに勝つなんて。 あの人性格とか素行はともかく実力は確かなはずなのに、結局レイとん無傷で勝っちゃうし」

「確かにあれはすごかったな。 最初は劣勢に見えたのに、途中からは圧倒的だった。 まだ結構余裕もありそうだったし、もしかすると小隊員にも勝てるんじゃないか?」

ナルキとミィフィが口々に言うのを、メイシェンは聞くとはなしに聞いていた。
未だ体から緊張が抜けきっておらず、無意識のうちにレイフォンが去った闘技場を見つめている。
やがて大きく息を吐き、体から力を抜いた。
試合中、レイフォンが怪我をするのではないかと気が気ではなかった。
特に、相手は見るからに柄が悪そうな顔つきをしており、負けたらただでは済まないのではないかとさえ思っていた。
が、結果を見ればレイフォンの勝ちだ。 怪我ひとつなく、完勝といえる。
その事実をやっとのことで認識し、ようやく安堵することができた。
力が抜けて沈み込む彼女を見て、ミィフィが苦笑する。

「メイっちったら、そんなに気を張らなくても大丈夫だよ。 試合は安全に気を遣ってるし、何よりレイとん強いしね。 そうそう負けないよ」

「う、うん。 いちおう、分かってはいるんだけどね」

やや気弱な笑みを浮かべて、メイシェンが答える。
それを見て「ハァ~」と嘆息し、闘技場に目を向ける。
そこでは次の試合の準備が終わるところだった。 時間は限られているため、予選はできる限り手早く進められる。

「ん~、レイとんの次の試合まで結構あるね。 今の内に飲み物とか買い出しにでも行っておく?」

「そうだな。 あたしが行くから、メイとミィはここで待っててくれ」

「ん、了解。 迷わないようにね」

「ああ、わかってる」

二人は売店に向かうナルキを見送り、再度闘技場を見る。
丁度、次の対戦者二人が対峙しているところだった。
一人は大柄なおそらくは上級生、もう一人は小柄で細身の少年だ。

「うわ~、あの人随分と体格違うけど大丈夫かな? 小柄だし、体の線も細いし、危ないんじゃ」

言いつつ、対戦者の名前が表示されたモニターを見て誰なのかを確認する。

「えーっと…フェイラン・バオ、1年生。 やっぱり1年生なんだ。 相手は……4年生か。 小隊員じゃないけど、それでも厳しいかも。 ていうかそもそもあの子戦えるのかな?」

「う~ん、ここから見る限り、相手の4年生の方が強そう……だよね」

やっと緊張の解けたメイシェンも、闘技場の方を見て眉をひそめる。

「だよね~。 ま、順番的にここで勝った方が次の試合でレイとんと戦うわけだからあんまり肩入れするのもなんだけど、わたし的にはあの1年生の方を応援しようかな。 同じ1年生だし、結構可愛い顔してるし」

「……ミィちゃん」

メイシェンはやや呆れながらも嘆息するだけに留めて、改めて闘技場に目を移す。
観客席にいくつかあるモニターの1つには、アップにされた少年の横顔が映っていた。
顔は色白で細面、長くて癖の無い黒髪を頭の後ろでまとめて結んでいる。 線の細い身体や白皙の肌、繊細で端正なつくりの顔立ちを見ると、少女もしくは男装の麗人にも見える。
試合開始直前だというのに、あまり気負っている様子が無い。 かといってまるで緊張していないというわけでもなく、静かながらも真剣な目つきで相手を見据えている。
なんとなく、試合開始直前のレイフォンにも似ていた。 もっとも、冷静で落ち着いた佇まいではあるが、表情からはレイフォンほど感情が抜け落ちてはおらず、静かな闘志のようなものを感じさせる。

やがて審判が手を上げると、対戦者二人はそれぞれ錬金鋼を復元し、武器を構える。
奇しくも、二人とも長柄武器だった。
が、その形状はまるで違う。
大柄の四年生が構えているのは大きな斧だ。 太くて長い頑丈そうな柄の先に、これまた大きくて分厚い刃の斧頭が付いている。 見るからに重そうで、かなりの破壊力がありそうだ。
フェイランという名の一年生は珍しい形状の槍のような武器を構えていた。 少年の背丈よりも遥かに長い柄の先に蛇の体のように波打つ刃が付いており、穂先は蛇の舌のように二叉に分かれている。 柄は相手の長柄戦斧と比べるとあきらかに細く頼りないが、その波状の刃は安全装置がかかっているにもかかわらず鋭く剣呑な光を放っていた。

相手の上級生はその武器を見て若干目を瞠ったが、それ以上は気にしていないようだった。
先程のガトマン・グレアーほどあからさまではないが、やはり相手を軽んじている節がある。
それに対し、相手の持つ大きな斧を見てもフェイランの表情には変化が無い。 緊張するでも気負うでもなく、自然体のまま相対している。
もしかして、強いのかも。
メイシェンが何となくそう思った時、「試合開始」の合図と共に審判が手を振り下ろした。
Hブロックの二試合目が始まった。






















あとがき

というわけで、武闘会開始。
まずは噛ませ犬としてガトマン・グレアーの登場。
まあ、手加減された上に傷一つ負わせられず敗北と、あまりいいところはありませんでしたが。

しかし、個人的にレイフォンは刀を持っている時が一番かっこいいと思います。
私の中では、簡易・複合錬金鋼>鋼鉄錬金鋼>天剣>複合錬金鋼>青石錬金鋼という順番ですね。あくまで外見というか絵面ですけど。


今回は少し短かったかもしれませんが、作者的に区切りがよかったのでここまでです。
次の相手は……想像ついてるかもしれませんね。

では、次の更新を楽しみにしていてください。


12/13 23:00 すでに読んでしまった読者様へ。 個人的な気持から、新キャラの名前を変更しました。


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