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No.23296の一覧
[0] 【ネタ】猿(十二国記)[saru](2010/11/06 15:28)
[1] 2匹目 魔猿公[saru](2010/11/06 15:29)
[2] 3匹目 斎王君・李真[saru](2010/11/13 19:39)
[3] 外伝 猿が州侯になったわけ[saru](2010/11/14 11:08)
[4] 4匹目 蘭州侯・姫公孫[saru](2010/11/13 20:19)
[5] 5匹目 斎麟・紫微[saru](2010/11/28 20:56)
[6] 6匹目 延麒・六太[saru](2010/12/04 23:05)
[7] 7匹目 海客・中嶋陽子[saru](2011/04/01 17:03)
[8] 外伝 半獣・楽俊[saru](2011/04/04 11:02)
[9] 8匹目 将軍・劉李斎[saru](2011/04/10 11:15)
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[23296] 【ネタ】猿(十二国記)
Name: saru◆770eee7b ID:b1899bc0 次を表示する
Date: 2010/11/06 15:28
 気が付いたら猿になっていた。いや、それは主観的事実であって客観的には今世の俺は生まれながらにして猿だったのだろう。だが、あえて言いたいと思う。気が付いたら俺は猿になっていた。
 そして今、俺はどことも知れぬ荒野にいる。俺の自我が覚醒したのがつい先ほどである為、真実であるかは分からないが、猿のおぼろげな記憶を辿るに初めはこんなところに住んでなかったように思う。確か針葉樹に覆われた所々岩石が露出していた険しい山に生まれた筈だ。けれども、ある嵐の日を境に俺はこの荒野に存在していた。
 緑のまるで存在しない赤茶けた大地、唯の猿であった俺には住み辛く、生きづらい土地であった。前世を含めてすら未知の生物が闊歩する異形の土地、そんな見知らぬ世界で本能に従って生きていた俺は死にかけていた。
 怪物どもは皆好戦的で、けれども当時まだ小猿にすぎなかった俺はそれに対する対策を何一つとして持っておらず、逃げ回るしかなかった。そう、物を喰う間もないほどに、だ。
 偶に実のなる木を発見することもあった。けれども、俺がそこに身を落ち着け喰おうとするとほとんどの場合、異形がそれを補足して俺を喰おうと襲ってくる。喰う暇がなかった。脳みそが小さすぎて真っ当にものを考えることのできなかった俺だが、それでも自分が常に生命の危機にあり続けていたことくらいは分かっていたのだ。

 逃げて逃げて、逃げ続けて、ある日俺は倒れた。恐らくは何も食っていなかったせいだろう。たまらなく腹が減っていた。そしておかしなことに気付く。化け物が襲ってこないのだ。俺はこうも無防備だというのにいつだって俺を喰おうとしてきた化け物どもが俺の近くに来ない。けれども、理由は分からなかった。
 けれども、体は動かせる。怪物がこちらを襲ってこないうちに何としても腹に何かを入れて体調を回復させねばならなかった。幸い、その時実のなる木の下にいた。見たこともない「実」をつけた、見たこともない木だったけれども、このままでいてもじり貧だったからその「実」をもごうと思い立った。
 そして襲ってきたのは強烈な忌避感。その木に手を出してはならぬという勅命。理由などない。ただ、生まれてくる以前よりこの体そのものに刻みつけられた本能としか言いようのないものがその木に触れることを俺に禁じていた。

 普通の猿であったなら、そこで諦めて別の場所へと移動しただろう。その結果が餓死か捕食かは知らぬが死んでいたとしてもだ。俺もまた、本来であればそうしたに違いない。けれども、現実はそうはならなかった。今だからこそ分かるが前世が人間だった俺はただの猿ではなかったし、何より飢えていた。故に、本能を無視することのできる壊れた生物である人間の魂を持っていた猿は禁断の果実に口をつけた。前世、今世ともに口にしたことのないような説明のしようがない味だった。けれど、甘美。思わず続けて齧り付き、その体に入るには巨大すぎるほどの「実」を一匹で食らいつくした。それも一個だけではない。何個もだ。

 小猿の小さい体に入りきる筈もないほどの量を喰らいつくして、その余韻に浸っている時にふと気付いた。この体、先程までこれほどまでの活力を有していなかったのでは?と。
 無論考えて気付いたわけではない。しかし、力尽きていた自身の体にあり得ないほどの活力がみなぎっていれば、駄馬でも気付く。それが生まれてきてからこの方その身が有したことのない量であれば、なおさらだ。
 当時まだあまり考えることのできなかった俺はない頭を振りしぼって考えた。これまでくった事のある食物でこれほどの影響をもたらしたものはいまだかつてない。もし、これを喰らい続けることが可能であれば、一体どうなるかと。決まっている。あり得ないほどの活力が手に入るに違いない。ならば、喰らうまで。
 この木の「実」は喰らいつくした。けれど、これ以外にも似たような木は道中山ほど見つけた。当時、まだ飢餓に正気をやられていなかった俺はその実に手を出すことはしていなかったが、もはやそれはない。この味を知り、その効能を知った。ならば、手を出さないという選択肢はもはや失われたに等しい。

 そうして乱獲が始まった。そしてある日、唯の小猿であった頃の俺を瀕死に追い込んだ異形と同種の獣が俺に襲いかかってきた。そして死んだ。あまりにもあっけなく獣が死んだ。俺はただ一撃、身の入っていない拳を当てただけだ。けれども、その一撃であんなにも強く恐ろしかった獣は死んだ。唯の小猿であった時より物を考えられるようになっていた俺は茫然として、その拳についた化け物の血を舐めた。旨かった、例えようほどもなく。それはあの「実」よりは不味かったものの、しかし、ただの食いものに比べれば極上の味だった。
狩りの始まりだった。至高の味を有する木から木を移動する間に点在する異形の獣、それを狩るもはや唯猿とはいえなくなった俺がいた。味としても、我が身に与える活力としてもやや「獣」は「実」に劣る。けれども、幾種もいる「獣」の肉はそれぞれ違う味を示し、俺の舌を楽しませたし、なによりも「実」では決して俺に与えてくれない満腹という感覚を「獣」の肉は与えてくれたのだ。

そうして幾星霜、ついに俺の臭いを「獣」が覚えてしまったのか、「獣」どもが俺に襲いかかることはなくなってしまっていた。そうなると日常が固定化された。「実」のなる木を巡りながら、偶に遭遇する「獣」を狩るそんな日常へと。
けれども、そんな日常もある時終わりを告げる。木の傍に人間が現れたのだ。彼は怯え、こちらに剣を向けてきた。思考することはまだ難しかったけれども、前世の記憶からそれが危険なものであることは分かっていた。だからこそ、許せなかった。この身は猿なれど、強大なる力持つ「獣」どもも畏れ道譲る至高の猿。その猿を前に剣を抜き敵意を見せるその弱者が堪らなく気にくわなかったのだ。その身を焦がす怒りに身を任せたまま、拳を振るう。そして、殺した。血を舐める。旨かった。だがそれだけだった。身に宿る新たな活力も、至高に近き味も何にもなかった。けれども、食べたことのない味ではあった。肉を喰らえば腹にも溜まる。だから、見かけたら人間を狩ることにした。
ある時、不思議なことに気付いた。人間は基本この荒野にあまりいない。だというのに偶にいすぎるほどにいるときがある。不思議に思い、それを探ってみることにした。そうして「門」を見つけた。巨大すぎるほどに聳え立つ門。そこから人間どもはこちらへと来る。ならば、こちらからあちらに行けぬ道理はあるまい。そう思い、閉じた門の前で開くのを待ち続けることにした。時折、通りがかる異形や人を喰らいながら。
そうして、待ち続けていくら立ったろうか。ある日ついに、門扉が開いた。鎧や剣を身にまとった人間どもが他の異形どもを留めんと剣戟を振るう。この猿の元にも兵士どもは来た。だが、脆弱。尾の一振りでその首は空を舞い、拳の一つで地と水平に飛ぶ。阿鼻叫喚の始まりだった。仏道に反したものが落ちる地獄も、至高の主を知らぬ者たちがさまよい続ける煉獄も、これに比べたら生温かろうというほどの阿鼻叫喚の渦。人が殺し、「獣」が喰らう。「獣」が殺し、人が逃げる。そんなことが凄まじい規模で行われる中、俺は悠々と人間の世界に入り込んだ。

気ままに荒らしまわる日々が続く。強い人間も弱い人間も、「獣」もが俺の糧だった。そんなある日、運良く一人の人間が俺の魔の手より脱出し、逃げ出した。それを追っていると人間は困惑して泣き叫んだ。あまりに五月蠅かったので、頭から丸呑みにした。そして気付く。いつもの木より太い木に実がたくさん成っていることに。いつも道理全部もぎ、喰らい、そして頭から靄がとれた。物を考えることができるようになったのだ。だから、そして澄んだ頭で考えた。これらをもっと喰らえば、もっと頭が澄み渡るのではないかと。
―――結論だけ述べれば失敗であった。それを喰らい、我が身の糧とできたのは最初の一回、後はいつも喰らっていた実よりも少ない活力しか与えてくれない上に、人間どもが必死に守るのでそこまで旨いものでもないと分かったのだ。しかも、何故か人間の世界には「獣」の出現率が少なかった。だから、門から再び荒野に戻った。
 また、幾年たちふと思い至る。人間どもは彼らにとって生きづらいこの地に来てまで何がしたかったのだろうと。だから、門を監視しながら日々を過ごすことにした。そしてある日、人間どもがまた大挙してこちらにやってきた。自分は人間どもの後をひそかに付けた。そして彼らは可笑しな山に辿り着く。調べてみると神々しい「木」が一本あった。この木になる「実」はさぞや旨かろうと思ったが、「実」がなっていない。だから、「木」が実をつけるまでしばらく待つことにした。
 そしてある時、「木」に「実」がなった。それは不思議な光景だった。いきなり出現した。そうとしか言いようのない光景だった。だが、そんなことを気にする自分ではなかった。「木」に突進し力ずくでそれをもいだ。悲鳴が上がる。人間どもだ。人間どもはあってはならぬものを見た目で、こちらを見てくる。知ったことではない。が、この「獣」はいただけない。「獣」ではなく、人間でもない異形がこちらに必死になって襲い来る。強敵であった、「実」を喰う暇もない。苛立ったのですきを突いて昔食った人間どもが持っていた鉄を取り出し、それを使い殴り殺した。悲鳴が上がる。また、異形を出されてはかなわぬので逃げだした。
 そしてつい先ほど、「実」を喰らい、意識が覚醒したのが今の自分であるというわけである。

「うっわ……」
 頭を抱える。前世で悪人ではなかったものの碌でもない人生を送ってきた俺だ。仏様に転生の折り畜生道に落とされるというのもまあありえないことではないだろう、前世の自分は葬式の時のみ仏教徒であったことであるし。けれども、現世の自分がしたことには慄きを禁じえない。このありえない生命が木に生る箱庭世界、それを前世の俺は小説という形で知っていた。小野不由美の十二国記シリーズである。そして今世の俺が飢えを切っ掛けとして為したことは最悪である。妖魔すらもが暗黙の了解の内に避けて通る里木、野木、捨身木になる卵果を喰らっていたのだ。恐らく、俺は大妖魔として恐れられていることだろう。そしてそれはあながち間違いでもあるまい。喰ってはならぬものを喰った故か、俺はもはや猿ではなく、他の別の何かに変異を遂げていたようだから。でなくば、猿が百年近くも生きられまい。
「これからどうするかな……」
 それが問題だった。


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