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No.22836の一覧
[0] 友達っていくらで売ってんの?(オリジナル・学園)[肩車して(ry](2010/11/02 17:45)
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[22836] 友達っていくらで売ってんの?(オリジナル・学園)
Name: 肩車して(ry◆246d0262 ID:e5937496
Date: 2010/11/02 17:45
ざわめく教室。
仲良さげに会話を交わしているのは、同じ中学校の出身だろうか。
新1年生が集まったこの教室。
何とも不思議な雰囲気だ。
中学生になった時も感じたが、この何ともいえない雰囲気は僕には合わない。

僕は地元から離れてこの学園に来たので、知り合いが全くいない。
一から人間関係を構築しないといけないのだ。
少し不安になる。
元々そこまで社交性のある方じゃない。
しかし、僕には目標がある。

――友達100人計画!

色んな人と友達になって充実した高校生活を送りたいのだ。
あわよくば彼女なんかもできて欲しい。

まあ彼女は無理だとしても、やはり友達は欲しい。
今は入学式が終わった直後だ。
まだ、グループなどの人間関係は構築されていない段階だ。
今がチャンス。
既に同じ中学出身同士が小さなグループを作り始めているので、素早く行動しなければならない。
ここで物怖じしては駄目だ。
最初が重要。
ここでできるだけたくさんのクラスメイトに話しかけて、顔を覚えてもらう。
昨日の夜はそのための練習もした。
どんな話題を振られても即座に返せるボギャブラリ。
さわやかな話し方。
完璧のはずだ。

よし、ともかく席の近い人に話しかけよう。
不幸なことに、僕の席は教室の一番後ろ、そして端。
右手には教室の壁。
話しかけるのは前か、左しかない。

「いや、みっちゃん一緒のクラスでよかったねー」
「だねー。これからもよろしくねー」

くそ!
なんてこった!
前の席の女子は隣の席の女子と仲良く話してる。
恐らくは同じ学校出身。
この輪の中に入るのは無謀だ。
もし僕がここで

『ねえ、ちょっといい?』

何て会話に割り込んだ日には、二人揃って冷めた目で

『は、なに?』
『いや、私ら今話してるんですけど。つーかてめ誰だよ』

なんてことになるに違いない。
都会の人間はよそ者に冷たいのだ。
よって却下。
これで選択肢は一つ消えた。
もう一つの選択肢、左隣の席に話しかけてみよう。
視線を左に移す。

「……」

黒髪の女の子がいた。
女の子は机に突っ伏していて、顔は見えない。
ウェーブのかかった髪が、ワカメのように彼女の顔を覆っている。
恐らくは彼女も知り合いがいないのだろう。
人見知りの彼女は、この誰もいない状況に戸惑い寝たふりをしているのだ、多分。
チャンス。
ここは自分も知り合いがいないことをアピールして、共感させる。

僕は彼女の肩を軽く叩いた。

「ねえ、ちょっといい?」
「……」

あ、あれ?
本当に寝てるのかな?

「お、おーい」
「…………ししのひかりは私を……ぶつぶつ」

ん、何だ起きてるじゃないか。
ていうか何を話しているんだろう。
独り言かな?
耳を寄せてみる。

「有象無象どもめ……こうして貴様らが安穏と過ごせるのは誰のおかげだと思ってる……どうして誰も危機感を抱かないのだ。もうすぐ獅子の光は絶え、暗黒の時代がやってくると言うのに……ぶつぶつ、一刻も早く同志を探さねば……」

……。
……。
……うん。
あれか。
いわゆる電波さんか。
よし、見なかったことにしよう。
僕の平和な学園生活に電波ゆんゆんの人は不要なのだ。

「……あ」

と、そこで気づいた。
前の席は既にグループを作っていて、僕の入る隙間は無い。
左は電波さん。
右は壁。

「まずいな……」

完全に孤立状態じゃないか……。
席を離れ、同じように孤立している人間の所に行くか?

「いや」

それはリスクが高い。
この雰囲気の中で立ち上がれば、確実に注目される。
まだ目立つわけにはいかない。

「なあなあ、お前どこ中?」
「え? 俺南タイガー中」
「マジで? 三番槍の岡村って知ってる?」
「おお! 知ってる知ってる! つーかダチ!」
「マジかよ! 俺実はアイツと同じ小学校なんだ!」
「え! じゃあお前もしかしてダブルナックルの新垣か!? 岡村から話は聞いてたけど」
「ははは。もうその名前は捨てたよ。今はトリプルナックルって呼ばれてる。――三本目の腕、見てみるかい?」

やばいな……。
周りを窺うと、徐々に小さなグループが構築され始めている。
誰かが話し始めると、それを機に他の人間も行動を開始する。
そうなるとあっという間に、グループが完成だ。
新しい学年でできたグループは後々のグループ形成にも影響を与える。
ここで乗り遅れれば、下手すると一年間ぼっちになる可能性もある。
それだけは避けたい。

「……はぁ」

焦っている僕の耳に、小さなため息が聞こえた。
徐々に騒がしくなっているこの教室内で、不思議とクリアに聞こえた。
発した人間の可憐さを感じ取れる可愛らしい吐息だ。

ため息は――僕の後ろの席から聞こえた。

おかしい。
後ろの席は誰もいなかったはずだ。
しかし今ははっきりと背後に存在感がある。
……。
まあいいか。
とりあえずどんな人かを確認だ。

「……ふぁぁぁぁ」

僕は大きくアクビをするフリをしながら、背中を逸らし、背後をチラリと見た。

――超絶に可愛い女の子だった。

「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

ついついアクビを延長してしまう。
完全に釘付けだった。
恐らくは腰まで伸びているであろう、美しい黒髪。
品のよさを感じさせる仕草。
小さな唇。
少し退屈しているのか、飽きを感じさせる表情。
白い肌。
今まで出会った中で、最も可愛いと、自身満々に言えるほどの少女だった。
制服がみんなとは違うが、うっかりしていたのかな?
そこも親しみがあっていい!

ぜひお友達になりたい。
そう思った僕は速攻で彼女に話しかけていた。

「はじめまして!」
「……え?」

突然勢いのある声で話しかけられたからか、少女が面喰らった顔をした。
いけないいけない。
落ち着くんだ僕。
少女は僕の顔を見て、それから隣を見て、それから後ろを見て、再び僕の顔を見た。

「僕、葉山新(はやまあらた)。新しい山の葉っぱって漢字。君の名前は?」
「……え、あの……わたし?」

彼女が不安げな顔で自分の顔を指差した。
僕は頷く。
すると彼女は、見ている人間を幸せにさせるような……可憐な笑みをパッと浮かべたのだ。

「わ、わたしっ、あの、あのあのっ」
「お、落ち着いて」

驚いた。
てっきり仕草や雰囲気から大人しそうなイメージを感じたが、僕の指摘に顔を真っ赤にしてわたわたと手をばたつかせる彼女は僕のそんなイメージを修正させた。
最初に物憂げな顔も良かったが、こうして歳相応の表情を浮かべるとかなり幼く見え、親近感が沸く。
彼女は胸に手を当て、可愛らしく息を吸い吐いた。

「……ふぅ。あ、あの……わたし、円。一ノ宮円(いちのみやまどか)。よ、よろしくね?」
「よろしく。一ノ宮さんはこの辺に住んでる人?」
「うん。昔からこの辺りに住んでるの。えっと……葉山君、は?」
「僕はね――」

僕はここから電車に乗り、新幹線を乗り継ぎたどり着く故郷の名前を言った。

「わっ、す、すごいね! そんな遠くから来たんだ……」
「まあね」

円さんの驚きに少し嬉しくなる。
こんな遠くの学校に来た事情は、あまりいいものとは言えないけど。
そこでふと気づいた。
この辺りに住んでいるのなら、同じ中学校出身の人もいるんじゃないのかと。

「このクラスに知り合いはいないの? 同じ中学校の」
「……えっと、そう、だね。いないよ。わたし一人だから」

少し寂しげな表情を浮かべる円さん。
多分知り合いとは違うクラスになってしまったのだろう。
悪いがこれはチャンスだ。
彼女と友達になろう。

「あのさ、僕も知り合い全然いないからさ。……良かったら友達に、なってくれる?」
「と、友達!? い、いいの? わたしで?」
「勿論だよ」

頬を上気させて、微笑みを浮かべる円さん。
あ、危ない危ない。
危うく惚れるところだった……。

僕は携帯を取り出し、彼女の前に差し出した。

「アドレスと番号交換しようか」
「……あ、わ、わたし携帯持ってないの。ご、ごめんね」
「そうなんだ」

珍しい。
別に校則で禁止されてるわけでもないんだけど。
まあ、人それぞれか。

と。
ここで教室の様子がおかしいことに気づいた。
教室がやけに静かになっているのである。
先ほどまでの会話の多重音声は消え、みなが口を噤んでいる。
いや、ボソボソと、呟く程度の話し声は聞こえるが。
そしてクラスの視線は一つに集中していた。
この僕に。
正確には僕と円さんに。

「……すげぇなアイツ」
「ああ、いるんだなああいうの」
「近寄りがたいぜ」
「……まさか、この人……超越眼(オーバーアイ)持ちなの? フフフ……まさか、こんなに早く見つかるなんて……」

……。
あーそうか。
なるほどなるほど。
近寄りがたい、そういうことね。
確かに円さん綺麗で可愛いし。
みんな今頃円さんの存在に気づいたのだろう。
ぷぷっ、遅い遅い。
もう既に僕がヴァージンフレンド頂いちゃいましたー。

そしてそんな雰囲気の中、僕は円さんとの会話を続けた。
周りのクラスメイツが遠巻きのその様子を見ている。
かなりの優越感だった。

そして数分後、教師がやってきた。
教師は明日からの予定、クラスでの決まり、軽く自己紹介などをした。
続いて僕達生徒の自己紹介。
前の方から順番に自己紹介をしていく。
右端から始めたので、一番右の列にいる僕の番はすぐだった。

「葉山新です! 紅葉卸中学校出身です。田舎育ちなので、野菜を育てたりするのは得意です! 今家でもスイカを育てているので、夏にはここでスイカ割りをしたいと思ってます!」

昨日から実家の妹相手にしていた自己紹介をした。
……。
……変だな。
何の反応もない。
流石に爆笑は取れないとは思っていけど……クスリとも笑い声が聞こえない。
今までの自己紹介の時はあった拍手も無い。

「わたしスイカ大好きです」

後ろの円さんだけが、拍手をしてくれた。
何ていい子なんだ……。
っていうかアレかな。
みんな嫉妬しているのかな?
いくら僕が一人だけ、円さんと話してたからってねえ、こういうのはねえ。
あーやだやだ。

そして続いての自己紹介は円さん――ではなかった。
円さんはスルーされ、隣の列の先頭に。
僕は慌てて立ち上がった。

「あの先生!」
「ん、何だ? ……ああ、お前ん家のスイカできたらあたしん所持って来い。内進に色つけてやるよ」
「あ、それはどうも……ってそうじゃなくて! 飛んでますけど」
「ああ? 何がだよ? アレか? お前スカイフィッシュでも視えてんのか?」
「い、いやスカイフィッシュは見えてないです」

僕は横にずれ、円さんを見えるようにした。
何故か円さんの表情は明るくない。
申しわけないような、そんな表情をしていた。
あれ? もしかしていらないお世話だったのかな。
円さん自己紹介したくなかったとか。

そして先生は、胡散臭いようなものを見る目で僕を見て


「――お前の後ろ誰もいねえよ」

と。
そう言ったのだった。
そして僕はやっと気づいたのだ。
またやってしまった。
まさか初日からやらかしてしまうとは。

「……葉山君」

円さんが心配そうな顔で僕を見てくる。
やはりというかなんというか。
よくよく、じっくり見てみると。

彼女は透けていたのだ。



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