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No.22829の一覧
[0] リリカル的神話体系[ホーグランド](2016/02/27 12:19)
[1] プロローグ[ホーグランド](2016/02/27 12:47)
[2] 第一話 騒動の始まり[ホーグランド](2011/05/01 00:17)
[3] 第二話 くしゃみの代償[ホーグランド](2012/04/12 09:35)
[4] 第三話 取引[ホーグランド](2012/04/12 09:35)
[5] 第四話 間奏[ホーグランド](2012/04/12 09:36)
[6] 第五話 神々の遊び[ホーグランド](2012/04/12 09:36)
[7] 第六話 ある一般人の憂鬱[ホーグランド](2011/04/29 00:27)
[8] 第七話 時間飛行[ホーグランド](2011/05/26 15:42)
[9] 第八話 介入[ホーグランド](2012/04/13 19:07)
[10] 第九話 勝負 [ホーグランド](2011/04/29 00:44)
[11] 第十話 集会[ホーグランド](2011/05/26 15:41)
[12] 第十一話 取引 part2[ホーグランド](2011/05/26 15:41)
[13] 第十二話 最後[ホーグランド](2011/05/26 15:40)
[14] 第十三話 確執[ホーグランド](2011/06/07 01:33)
[15] 第十四話 意地[ホーグランド](2011/05/26 15:37)
[16] 閑話第一話 周囲[ホーグランド](2011/06/10 10:51)
[18] 第十五話 side As[ホーグランド](2011/07/05 21:59)
[19] 第十六話 機動六課[ホーグランド](2012/04/12 09:32)
[21] 第十七話 Deus,Magia e Família 【神、魔法、そして家族】[ホーグランド](2012/04/15 14:34)
[22] 閑話第二話 結婚秘話[ホーグランド](2012/12/25 02:31)
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[22829] 第四話 間奏
Name: ホーグランド◆8fcc1abd ID:c9815b41 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/12 09:36
  『神だってサイコロを振るし、麻雀も好きさ』


    ――――――モリ・カク 週刊ミッドチルダのコラムに寄稿 

 
 最近、管理局内では色々な種類の『怪談』が流行っているらしい。そんな噂をキムラ・クニオ二等陸士が初めて耳にしたのは、入隊直後に新人たちを待ちうける洗礼、いわゆる『可愛がり』が一段落した頃であった。

 訓練学校から出た後、直でそのまま任官したキムラは他の同窓らとほとんど何も変わらない進路をたどるだろうとみんな思っていたし、キムラ本人もそう思っていた。
 彼の人生がねじ曲がり始めた直接の原因、未来で彼が散々怨むことになるであろうその出来ごとはいつもの日常生活のほんの一部分でしかないはずあった。


「な、なるほど、この要望書を届けておけばいいんですね?」

 やっとこの武装隊生活に慣れてきたキムラ陸士は、目の前の体格のいい大男の圧倒的な存在感に気押されそうになりながらもやっとのことで、『お使い』の内容を確認していた。

「おう。その分隊から借りたい奴が居るんだよ。そいつは別の組織に所属しているから、それに関しての承諾書をもらっとかないといけないんだ」
 
 全くめんどくさくなったもんだぜと、最近の部隊処理の複雑さを嘆く武装隊隊長は、その大きな図体を窮屈そうに作業机に詰め込んでいた。
 その大柄な体故に、迸る圧倒的なプレッシャーはその窮屈な机にも抑えることは出来ない様で、新人たちはこの部隊長の前では必ず縮こまってしまうのであった。

「分かりましたけど……」

 渡された茶封筒に、形だけの封印とぞんざいな姿を胡散臭そうに眺めていると、キムラは妙な事に気付いた。おかしい、この書類の宛先が聞いたこともないような部署であったからだ。

 
 『管理局最高評議会付属連絡分室』


 その後、いやいやながらも彼がかなり濃いお付き合いをすることになる場所との初対面は、こうして地味な形で行われた。

「管理局最高評議会付属、連絡分室? 聞いたことがありませんが……」

 その名前からするとその最高評議会、というところの下部組織の様だがそれすらもキムラ自身は知らなかった。平隊員の彼が知らなくてもおかしくなかったのだが、もし自分の組織の成り立ちに興味がある隊員であれば常識であったかもしれない。
 そのまだ青い声に苦笑しながら、隊長はまだ『お使い』に駆り出されていることに不満なのであろうキムラの心を気遣ってフォローをいれる事にした。

「まぁまぁ、そんなにむくれるなよ。たまたま空いてたのがお前だけだったからだってーの。それに、ほれ、使いで会ってから気にいられて、そのまま秘書に抜擢されるかもしれないじゃないか、な?」

「いえいえ、そのお使いが嫌だって思ってるんじゃないですよ。ただ……」

 その茶色いただの封筒を見つめながら、キムラは呟いた。

「どうも嫌な予感がするんですよね……」










「ここ……か? 薄暗くて本当に人が居るかどうかもあやしそうだけど……」

 入口の地図を見てそれに沿ってきたと思うのだが、だんだんと奥に入るにつれ自信がなくなってくる。通院している時、検査室に行く間の通路が妙に薄暗くて通っていいのか戸惑ってしまうような、そんな感じである。
 そしてやっとのことで埃を被った案内図を見つけ、右奥……へとどんどん奥に進んでいった。

 薄暗い廊下の角を曲がったどん詰り。埃っぽい空気が、中庭を見れるように作られた窓を通して入る太陽光によって強調される。何故か暑いと思ったら、日が照ることによって黒いカーテンが熱っされるのが原因みたいである。
 昼下がりの図書館みたいだな……、一年ほど前の訓練校の懐かしい記憶を懐かしく思いながらその生ぬるい取っ手を回す。

「おお、これはまた久しぶりのお客さんだね」

 開いた扉の先には、くたびれた感じの初老の男性がカウンター席の奥に座っていた。

「は、はあ」

 事態が飲み込めず気の抜けた返事を返すキムラ。そんな呆けた態度のキムラを気にもせず初老の男性は読みかけの小説に栞をかませて閉じる。椅子を引いてキムラの正面に座りなおすと慣れたように用件を聞き出した。

「で? この無限書庫司書室に何の用だい?」

「無限書庫? ここは連絡分室があると聞いて来たんですけど」

 しかし、その書庫という言葉を聞いてなるほどと思う。確かにこの部屋にある本棚の本は資料というより本である。それにこの部屋近辺に漂う古臭い空気は確かに図書館のそれであった。
 キムラの質問に、ああまたかと得心した様子で頷く男性に戸惑いながらも用事は分かってもらったようでキムラはそのまま静かに男性の返事をまっていた。

「しかし……彼らに何の用なんだい? 彼これ一か月はあそこに用事なんか来なかったけどねぇ?」

 奥にメモを探しながら飛んできた彼の質問に、キムラは戸惑った様子で答える。

「え? いや、うちの隊長が彼らに力を貸してほしいらしくて」

「何?」

 少し鋭い声がした。先の男性とは雰囲気が違うようで、この春の入隊以来大きな声にビビリ気味なキムラは内心きょどりながら上ずった声を出すことしかできなかった。

「な、何ですか!?」

「あ……、いや、なんでもないよ」

 口ごもるキムラに変な顔をしながらも、見つけたメモを手にしながら男性はカウンターに戻った。メモを出しながら男性はキムラに説明する。

「まず、そこの階段を下りて右の奥から三番目の本棚を曲がってそのまま最後まで突き進んでください。すると、赤い本がど真ん中に奥に本棚があるのでその前で目をつぶって……」

「いやいやいやいや……」

 首を振るキムラを不思議そうな顔で見る男性。え? おかしいのは自分なのか? 何だそのゲームのクリア条件みたいなミッションは!?

「おかしいじゃないですか!? なんでそんな所に、オフィス作ってるんですか!?」

 事務職と言い難い武装隊の隊員であるキムラでさえ、もっと現代的な空間に住んでいた。魔法といっても高度化した科学なのである。そんなファンタジックな空間で生活や仕事をする必要もない。

「いや、理由とか聞かれましても……」

 迷惑そうな顔をする男性。


 はっ! と気がつくキムラ。

 目の前の男性の顔は、本当に迷惑そうな顔をしている。

 いや、ちょっと待てキムラ。なんかこっちが悪いみたいな空気だぞ……

 漂う微妙な空気。ちょっと変にテンションが高かった過去の自分に後悔しながらも、その続きを、無言で促すキムラはある意味度胸なしであった。

「……そこで心の中で三回呟きます。『モリに会いたい』……これを三回繰り返すんです」

「……はい」

 もう何も言うまい。説明後、地図代わりのメモをもらったキムラはそばの湿っぽい空気漂う階段を恐る恐る降りて行った。











 妙に甘ったるい湿った空気が鼻につく。午後の図書館の匂いを思い出しながら階段を下りると目の前に巨大な本棚が現れた。その天井は高さ二メートル弱といった感じで高い訳ではなく、どちらかというと低い部類に入るだろう。
 そして壁のように一定間隔順に生えている本棚はそのまま天井にまで達している。そんな光景が先が霞むほど遠くまで続いている。ここがロストロギアであるというのも納得できる話だ。

 通路も肩幅二人分ほどで比較的窮屈である。その周りを天井までつながる大きな本棚が囲んでいるのであるから圧迫感は想像よりも強烈だった。
 
 なるほど、こんな場所であれば地図も必要だよな。

 先ほど地図が手渡された時は変な気持ちもしたが、こうも広大な図書館というのならしょうがないのかもしれない。キムラは次々と常識を覆していく魔法世界の不思議に感心していた。
 ある程度、地図を頼りに進むと、目的の場所に着いた。真正面には中央に赤い本がさしてある本棚がある。眉つばものだと思いながら、言われた通り心の中であの言葉を三回繰り返した。

 唱えてしばらく経った後、何も音がしないので失敗かと疑いながらゆっくりと瞼を開ける。すると、先ほどキムラが見ていた光景とは違う何かが目の前に存在していた。何故かそこに鎮座していたのは、巨大な本棚ではなくこじゃれた西洋風の扉なのである。

 なにかチーズとかヨーグルトとか売ってそうな店の扉。分かりにくい例えかもしれないが、そうとしか感じられないのだからしょうがない。

 そんなこじゃれた扉が突然、現れたのだからその前に突っ立っていたキムラは驚きを隠せずにいた。驚きすぎて声を失っている、唖然としている、そんな様子である。
 その扉には不器用な文字で『管理局最高評議会付属連絡分室』と書いてある看板が下がっていた。

 彼はこの時、目的の場所にたどり着いたことを確信したのだった。




 扉を開けると、中には緩やかな生活感漂う部屋がそこには存在していた。

 中央には大きな部屋にしては小さめの机。いや、その机でさえ四、五人は十分に囲んで食事もできるであろうほどの大きさなのであるが、ただこの部屋が大きすぎた。そしてその机の上には食べた後の食器がそのまま残されている。
 奥の方には何かパチパチと火のはぜる様な音がする。どうやら暖炉のようであろう。

 ……ここが職場なのか?

 もう誤って私室に入り込んでしまったと考える方が現実的なんじゃないかと思い始めるキムラであるが奥にどうやら人の気配がある。

 もう、こうなればその人に聞いてみるしかないだろう。

 そう思い直したキムラはその奥に近づく。そこには、タオルをアイマスクの様に掛けてソファーに寝転ぶ男が一人。ひげが生えているから老けて見えるが、24、5歳ぐらいだろうか。寝ているところを起こすのは気が引けたが、こうなればそうも言ってられない。その気持ちよさそうに上下する体をゆすって、彼を起こすことにした。
 ゆするとすぐにむくりと体を起こす男。そのままキムラの声が聞こえていないかのように奥に引っ込んでしまった。奥で顔を洗う音。そして不機嫌そうな顔で出てきたあと「用件は?」と低い声で、ぼーとしていたキムラに質問をぶつけた。

「え、はい! この書類を室長にへと」
 
 キムラは、目の前のだらしない男がモリ・カク室長であると推測していた。名札をちらりと見たときの名札を記憶していたのだ。

「ほー、ふむふむ。おお、33世界のアレがねぇ……」

 キムラは彼の呟いている内容はてんで分からなかったが、とりあえず要望書を渡すその任務は達成できたと安心していた。

「キムラ……?」

「二等陸士です、室長」

 階級章を見せるキムラに、頷くモリはどこか嬉しそうな様子である。先ほどの不機嫌さが嘘の様な変わりっぷりであった。
 
「キムラ陸士、了解、あそこなら大丈夫でしょう。OK、OK、もうすぐビアンテ君が来るから、そうしたら直ぐに了解の返事を出そうと思う。だから少し待っててくれ」

「了解です」

 キムラはにこやかな顔のモリ室長の態度に、少し不気味なものを感じていたがうながされるまま奥の見た感じ上品そうなお客様用のイスに座らされた。
 
「はい、どうぞ」

 居たたまれない空気に落ち着かないキムラであったが、声をかけられ出された紅茶を飲んで一息つく。落ち着く味の紅茶だった。

「最近、紅茶に嵌っててね。どう?」

 アールグレイだとか茶葉の種類にまで及びそうになるうんちく話がこのままつづいちゃかなわんと、キムラは突っかかって答えた。

「あ、はい! おいしいです!」

「そうか、そうだと嬉しいね」

 微笑むモリ。
 
 ……あれ、さっきまで感じていた違和感は何だったんだろう? この人、普通にいい人そうじゃないか?

 ボーとした頭で、心地よいティータイムを楽しむ二人。十五分ほどたっただろうか、キムラとモリが世間話に花を咲かせていると、扉の前の通路からドスンドスンという不気味な重低音が聞こえてきた。
 その怪獣の足音の様な音は扉の目の前で止まった。バンという爆発音とともに開いた扉の先に見えたのは、少女の様なシュルエット。腕を組んで、いかにも私不機嫌ですというような雰囲気を醸し出す少女からは、似合わないプレッシャーが若干過敏気味のキムラには感じられた。

「今度は、室長! また思いつきですか!?」

 ぜいぜいと息を乱しながらも叫ぶ少女。彼女の名前はビアンテ・ロゼ、転属してかれこれ数年経つと彼女に対しての管理局側の認識は『モリの秘書』的な位置づけになっていた。

「いや、今回はちがうよ」

「今回っ、……って」

「33世界のアレだよ」

「……うえー、あれですか」

 苦い物を食べた時の様に眉毛をしかめながら、舌を出して遺憾の意を示す彼女からは少女特有のかわいらしさが、ほのかではあるが感じられるのだった。頷くモリはキムラが持ってきた書類をビアンテの前に差し出す。

「? ああ、要請ですね。いいですよ、処理しておきます」

 有能なキャリアウーマンの様な、できる女の雰囲気を醸しながら書類をテキパキと処理するビアンテを眩しそうに見つめるキムラ。モリはキムラのそのような様子を、目を細めながらにやにやと見つめていた。
 ふと何か心に引っかかる様な感じをキムラは覚える。そういえば、何か気にかかってたような……

「そう……そうですよ! モリさん! ここはどうなってるんですか!?」

 その時間にして半刻ほど遅れたツッコミに、モリは呆れた様な顔を浮かべる。

「今更だね、君…… まぁいいや、ここはロストロギア『無限書庫』の中だから不思議な事があっても、それは不思議じゃないのさ~」

「なんだ、ロストロギアの中だったんですね。それじゃあ仕方がない」

「いやいや、モリさんが力づくで無限書庫をおどしたんじゃないですか」

 ないないと、書類を処理しながらビアンテがツッコミを入れる。それはビアンテはまだ着任してすぐの頃、この森という規格外の男に慣れていない頃の話であった。





 数年ほど時は遡る。それはモリとビアンテが初めて会った頃の出来事であった。

「落ち着く場所がいいな」

「はあ。そうかもしれませんね」

 着任早々からゴタゴタがあったモリとビアンテの分室コンビはこの暫定的に分室の会議所となった地下深くの部屋で身を縮こませ話合っていた。
 ここは最高評議会から用意してもらった部屋である。管理局だっていつまでも遊ばせておける部屋など無い訳で、結局彼らに与えられたのはこんなに、光の届かないような暗く寒々とした部屋だったのである。

「もっと勉強を静かに出来る所がいいんだが……」

 考え込むモリを胡散臭げに見るビアンテ。お互いの第一印象が最悪だったのがもっともたる原因であった。彼の口から彼女の気に入りそうなアイディアが出てくるとは思えなかった。

「まずはこの世界の文字から攻めたいから……かといって学校に神が通うっていうのもなぁ……」

 しばらく考え込んでいた様子のモリだったが、突然立ち上がりポンっと掌を叩いた。

「なるほど。図書館なんてものがあれば勉強も資料検索も簡単そうだ! ビアンテ君、資料室とかそういう関係の所はこの管理局にあったかな?」

 へらへらと笑うビアンテの上官は最近、任官したらしい。というかいきなりこの部署を与えられるという手厚い待遇だ。しかも階級は少将。正直言ってあり得ない話である。まだ立ち入った話は聞いていないが、この長年培ってきた鼻が何かヤバい話だろうと警告を発している。
 それはこの事からも推測できる。この管理局を地図なしでは移動出来ない男がこの位置にいるのはおかしいに決まってる。ヤバい話があるはずだ。

「そうですね……資料部もあるにはあると思いますが、図書館、では無いですねぇ……あ! そういえば……」

 何か最近聞いたことがある話が頭をかすめる。それはただのくだらない都市伝説の類ではあったがどうしてか彼の興味を引いてしまったらしい。

「噂話ですけど……経理とかでよほどヘマをした局員が流される部署があるらしいんですよ」

「なるほど……それで?」

 今の話と図書館とは何の関係があるのだろうか?

「いえ、話のキモはその部署がロストロギア『無限書庫』の司書だって言うところなんです」

「む、無限書庫……! ……すげえいい! 響きがいい! ぴったりじゃないか!」

「え、ええ…… そこぐらいかなと。……ちょっと! どこ行くんです!」

 モリは先の話を聞いて、急に立ち上がったと思えばいそいそと荷物をまとめだす。その姿を見たビアンテはなんだなんだと声を張り上げた。

「思い立ったら吉日だよ! さぁ、いこう! そうさ、部室を乗っ取るのは、昔から文学系の所からだっていうのが相場ってもんだ!」

「部室じゃないですよ! そんなライトノベルみたいなノリで職場を荒らさないでください!」

 あなた以外の局員は、たぶん真面目に働いてるんですよ! との声をバックにモリは会議室を飛び出した。それを追いつこうとビアンテも出かける支度をする。


 行きついた場所は、まさしく陸の孤島といった表現が適切なような場所だった。人の気配は全くない。
 扉を開けて、のんきに入るモリと子猫のようにびくびくとおっかなびっくりな様子で進むビアンテ。二人の対照的な様子は、両者の性格の大きな相違を表しているようであった。

 昼寝しているだろう職員を一瞥したモリはそのままゆっくりと本棚の方に向けて右手をかざす。

 嫌な予感がするビアンテを余所に、目をつぶってカッコつけるモリは彼女に聞こえるように声をかけた。

「昔の日本の江戸時代を知っているかい? ビアンテ君」

「あ、はい。知ってますけど(なんで地球の日本? そして江戸時代?)」

「その時代では、職人たちがその腕を競い、磨き合っていたんだ。例えば、人形。」

「人形? ですか?」

「ああ。からくり人形と言ってね。人間と同じことをさせる機械さ。それは西洋のオートマタと呼ばれる類似のそれとは全然違う点が一つある」

「違う、点……」

「西洋は人形を人間のしぐさをまねすることに特化したのさ」

「? それのどこが江戸の職人たちとは違うっていうんですか」

「実は百八十度違う話なんだよ。彼ら日本のからくり人形は人間のしぐさに似ても似つかない角角した動きになっている。これは似せれなかった訳じゃない、似せなかったと言われてるんだよ。
 つまり昔から日本は人形を人間と同一視する風潮があったのさ。だからこそ……」

 ごくりと喉が鳴る。唾を飲み込んで、ビアンカはモリの答えをゆっくりと待った。

「つまり、あまりにも人形が人間に似すぎると……」

「……怖い、と日本の職人たちは思ってしまったわけさ。それに対して、西洋はそう言った感情が薄い。だからこうやって方向性の差が出るんだよ」

「なるほどですねぇー、ってこれがどういう風にこの無限書庫に関係してくるって言うんですか!?」

「つまり言いたいことは一つ」

 右手を挙げるモリ。


「 昔から物には何か宿ると思ってきた → 

  
  それってなんて付喪神? →


  つまり擬人化の時代がキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!! →


  ということはロストロギアにも人格が!? →


  よっしゃ『無限書庫タン』萌えキタコレ! ってことなんだよおおおおおおおおお!」



「いや、訳分からないですから!?」


 盛大にビアンテがツッコミを入れる。

「だからこそ『無限書庫』! 俺の話を聞いているか!? よーく聞け、これから俺が三秒間目をつぶってやる」

 
 一旦深呼吸するモリ。……昼の司書室に流れる緊張した時間。


「その間に俺の部屋を用意しろ! でないと、ここを撃つ!」

「って散々言っといて、結局最後はゲスい脅迫かい!?」

「いーち……」

「ああ、直ぐ始めちゃったよ!」

 やけくそ気味にビアンテも目をつぶる。

「にー、さーん……」

 モリがゆっくりと瞼を開けた。

「……おー、やれば出来るじゃん」

「よ、よかった……」

 安心感で腰が抜けそうになるビアンテの横を嬉しそうにモリが抜けていく。
 その時、彼女は『無限書庫』のすすり泣く声を聞いた気がした。これがのちの管理局怪談の七不思議の一つになっていくとは、誰にも予想だにできないことであった。






「ってことが、過去にあってですね」

 溜息とともに説明を終えたビアンテは、悲しそうな顔でキムラを見つめた。うん、大丈夫。あなたの感性は正しいわ。あの人はおかしい。でも悲しいことに、ここじゃそれが普通なのよね…… そう、物悲しく彼女の目は語っていた。

「んー、そうだったかもな」

 何のこともないように返事をするモリに彼女は溜息をつく。キムラには容易に、彼女が苦労する姿が瞼の裏に思い浮かべることが出来そうだった。
 そして彼女が完了、といった感じで書類をはじく。それを見たモリが、そろそろ行くかと腰をあげた。そういった様子のモリに、静かにビアンテは出発の用意をし始める。

「え、今からどこに行こうって言うんです?」

「どこって君の部隊じゃないか? 要請書には今すぐと書いてあったぞ」

「……は、はあ」

 よくわからないキムラは、ただただ頷くしかなかった。



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