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No.22829の一覧
[0] リリカル的神話体系[ホーグランド](2016/02/27 12:19)
[1] プロローグ[ホーグランド](2016/02/27 12:47)
[2] 第一話 騒動の始まり[ホーグランド](2011/05/01 00:17)
[3] 第二話 くしゃみの代償[ホーグランド](2012/04/12 09:35)
[4] 第三話 取引[ホーグランド](2012/04/12 09:35)
[5] 第四話 間奏[ホーグランド](2012/04/12 09:36)
[6] 第五話 神々の遊び[ホーグランド](2012/04/12 09:36)
[7] 第六話 ある一般人の憂鬱[ホーグランド](2011/04/29 00:27)
[8] 第七話 時間飛行[ホーグランド](2011/05/26 15:42)
[9] 第八話 介入[ホーグランド](2012/04/13 19:07)
[10] 第九話 勝負 [ホーグランド](2011/04/29 00:44)
[11] 第十話 集会[ホーグランド](2011/05/26 15:41)
[12] 第十一話 取引 part2[ホーグランド](2011/05/26 15:41)
[13] 第十二話 最後[ホーグランド](2011/05/26 15:40)
[14] 第十三話 確執[ホーグランド](2011/06/07 01:33)
[15] 第十四話 意地[ホーグランド](2011/05/26 15:37)
[16] 閑話第一話 周囲[ホーグランド](2011/06/10 10:51)
[18] 第十五話 side As[ホーグランド](2011/07/05 21:59)
[19] 第十六話 機動六課[ホーグランド](2012/04/12 09:32)
[21] 第十七話 Deus,Magia e Família 【神、魔法、そして家族】[ホーグランド](2012/04/15 14:34)
[22] 閑話第二話 結婚秘話[ホーグランド](2012/12/25 02:31)
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[22829] 閑話第一話 周囲
Name: ホーグランド◆8fcc1abd ID:c9815b41 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/10 10:51

 最近流行のミステリーを何となしに眺めていると、入口のドアが開く音がした。
 こんな時間に珍しい。なんて思いながら大して集中もできていなかった本から顔を上げてドアを見やる。そこには『海』の制服を着た、男が自然な様子でこちらに近づいてくるのが見えた。

 臭いな、と思った。

 まず余りにも自然過ぎる。こんな辺鄙な、いや辺鄙というよりも避けられているといった方が適切か、そんな場所に来るやつといえばいやいや用事で来るような奴らばかりだ。例えば上司の指示で仕方なく、などである。自発的に好き好んでくる奴なんてそうそういないだろう。
 
 とすると、この自然体の男は何なのか。かなりの確率で、アレ関係だろう。

 カウンターに向かってくる男をじっくり観察してみる。その足運びなどがまんま戦闘訓練を受けた奴のそれだ。

「やあ、ここが無限書庫かい?」

「……ああ。そうだ。借りたい本でも?」

「うん。管理局の歴史について調べたいと思ってね」

「……なるほど。それならよく調べに来る人がいるんだ。目録があるから見てみるかい?」

「お、そりゃ好都合だ。見させてもらえると助かる」

 嬉しそうな顔をする男を注意深く見るも、どこもおかしい所はない。ただ、管理局のそれに興味を持った局員にしか見えない。
 しかし、今の会話は符号、合言葉なのだ。数パターンあるがその一つが今の会話なのである。
 というのも何を隠そうここは情報屋。情報を売る場所なのだ。

 そして俺は情報を売る側である。内容はただ一つ。あの『管理局の最終兵器』『史上最強のメッセンジャー』、モリ・カクの情報をである。








 カウンター奥の山のように積まれた本の中から古ぼけた一つを取り出す。パラパラとめくるとそこに挟まれた栞があった。確認するとそこには『7月23日 日時不明』とだけ新しげな文字が印刷されていた。黒々としたインクが照明に光ってみえる。
 踵を返してカウンターに向かい、待っている男に無言で差し出した。その栞を確認もせずにポケットにねじ込んだ男は、無言でその場を立ち去った。

 ほっと息吐いてまた近くの椅子に座る。近くにおいてあるカップからコーヒーを啜ると、さっき綴じた本を再び読もうと手に取って、少し止まる。

「ああ、どこまで読んだんだっけな」

 とだけ一人呟く。
 
 ――ま、いいや。大して面白くも無かったし。

 まさかこの俺が最近の小説をゆっくりコーヒーを飲みながら読むなんて、と十数年前の俺が聞けば一笑に付すだろう、今の状況に慣れてしまった自分に苦笑いを浮かべる。
 今の状況が良いのか、悪いのか。まぁ、多分、いいのだろう。今になって分かる。昔の俺は人間の生活を送っていなかった。ありゃ獣だ。

 傭兵稼業を小さい頃から続けてきた俺にその仕事が目に入ったのは奇跡みたいなものだった。あの頃に自分がそれを受けてみようと思ったのも、受けようと思っていた仕事が直前でキャンセルされたからだ。それが無ければ、いかにも怪しげなその仕事を受けようとも思わなかっただろうし、今の自分も無いだろう。
 
 小さい頃の記憶は、ない。無論、母親の顔も父親の顔も覚えていない。気付けば俺はその日その日に仲間が死んでいくような傭兵稼業をしていた。
 
 今まで死なずに済んでこれたのは、幸運な偶然が重なっただけだ。それは自分自身が一番身にしみて理解している。傭兵達が働く戦場は、子供だからと言って死神が遠慮してくれるような場所じゃなかった。
 
 ――もし俺が比較的魔力が大きい生まれじゃなかったら? 
 
 ――掘り出し物のデバイスを見つけていなかったら? 

 一か月もたたずに死んでいただろう。
 
 そんなある日、俺は怪しげな依頼を受けた。他の傭兵達も気味悪がってなかなか受けなかった依頼だ。そんな依頼を、直前の依頼がぽしゃったからか金が尽きたからか、まぁ両方が理由だろうが受けたのが自分だったのだ。
 
 その依頼内容は短かった。いや、短すぎた。

 『腕に覚えのある司書募集』

 ただそれだけだったのだ。
 んな怪しさ100%の依頼を受けるなんて奴、そうそういない。しかも、それが意外と高給であったりするともうダメだ。ここで踏ん張れるかどうかが生きるか死ぬかの別れ目であったりするのだ。だというのに受けようと思ったあの時の俺はどうかしていたと言うほかない。
 
 そして連れてこられたのがここ、管理局無限書庫。聞いたことも無い所に、そして依頼通りに司書として仕事を開始した当初は困惑だらけの日々であった。そこは飛ばされた管理局員たちの仕事場、その仕事でさえ一日に一度あるような頻度なのだ。職員は今にも死にそうな老人やらと二人きりである。
 この依頼はある大きな組織、それも管理世界全体に根を張る裏の一大勢力とも言える所からのであったから何かしらの危険はあるのだろう、ぐらいは予想できたのだがその内容までは想像だにできなかった。なにせまずは表の仕事に慣れろの一点張りで、裏の仕事の内容を教えてもらうことさえできなかったのだ。

 それが判明したのはモリがこの無限書庫に来た時であった。正直、モリの姿を見た時、死んだと思った。というのもモリと言えば”死んだ”依頼の代表格ともいえたからだ。一度も成功例がないような余りにも難易度が高過ぎる依頼や、不気味過ぎて受ける者がいない依頼、報酬と危険がつり合わないような依頼。そういった人が寄り付かないような依頼を”死んだ”依頼という。
 モリの暗殺依頼といえば一時は遺族らからか、多くあったらしいがその一つも成功しなかったと聞く。その難易度は無限大だ。しかし、報酬は有限である。と言う訳でモリ関連の依頼はすぐ”死ぬ”こととなったのだ。
 だから、俺もモリを見た時そういったのが思い出されたのであった。

 結局、それは思い過ごしだったのだが。


 
 


 またもドアの方から音がする。顔を向けると顔見知りの三人が見えた。連絡分室の面々である。
 いや、三人じゃない。もう一人いた。金髪のサイドポニーをひょこひょこと揺れさせながらあのモリの手を懸命に握っている少女だ。その顔は不安げながらも、周りに興味はあるようで小動物のように辺りをキョロキョロと見渡していた。

 はて、誰だろうか。子供、それも年齢が二ケタになろうかという小さな子供に見えるが。そんな子供が何故ここに?
 
 いや、その前に、だ。モリの手を握ってる? あのモリの?

 様々な疑問が頭の中で渦巻くも、答えは当たり前だが見つからない。
 その間に四人が近づいてくる。その中の一人、キムラ・クニオがこちらを見て頭を下げた。

「ゲンさん! おはようございます!」

「ああ、おはよう」

 キムラは何かモリに話すと、こちらに駆けよってきた。他の三人はそのまま近くの階段を下りる。おそらく部屋に行くのだろう。

 キムラとはよく話す間柄だ。比較的年が近いのもあって雑談やら愚痴やらを聞いたりしている。俺も言い暇つぶしになるし、とよく話しているのだがキムラと話していると本来の仕事を忘れそうになる。いや、厳密にいえばこれも仕事の一つなのだ。
 
 自分の仕事とはつまりモリ関係の情報を集めることだ。それは連絡分室の情報を集めるのと同義である。そう言う意味で、キムラの愚痴を聞くのも情報収集の一環なのだ。

 ここからは推測になるが、当時モリという巨星を飲み込もうとした組織はそれこそ山ほどあったに違いない。しかし、それも失敗した。自分の組織に引き込むことも出来ない。しかし、彼はそのままほっておくには危険すぎる存在だ。
 そういった状況を考慮して結局、モリの動向などの情報を集めることにしたのだろう。ここを複数の組織が共同管理して、つまりは非戦闘地帯として。
 モリが次にどこの管理世界を滅ぼすつもりなのか? 気まぐれで滅ぼそうとするとして、どの世界を滅ぼすつもりだろうか? 裏の幹部たちも自分たちの住んでいた世界が、知らぬ内に滅ぼされるというのは御免こうむるだろう。出来るだけならそう言った危険は排除しておきたい。そういった一部の人達に流れる情報――それを集めるのが俺の仕事なのだ。

 反抗的な世界を上からの命令で滅ぼす、といった場合なら管理局上層部にパイプを持つ情報屋ならある程度は知れるのだろうが、完全にモリの独断、といった場合にはどうしようもない。その、万が一といった可能性。それすらも排除したいと考える人間がこの世の中には存在する。
 
 この世界じゃ知りたがり屋は短命と相場が決まっている。これ以上は、考える必要も無いだろう。

 こんな温い世界で生まれて初めてと言っていい穏やかな生活を送れているのだ。感謝こそすれ、何も文句はないさ。


「聞いてくださいよぉ、ゲンさん。また、室長がですねぇ……」

「ああ、今度は何だ? そういえばさっきの子供は?」

 目の前には、深いため息をつきながら椅子を引き座るキムラ。いつもの愚痴だろう、と俺はこいつの分のお茶を入れようと席を立った。

「ああ、すみません」

 と全く謝意の見えない、どちらかと楽しげな笑みを浮かべたキムラが頭を下げる。

「で? 今度はどこに行ってたんだ? 室長もビアンテも、三人で出かけるなんて珍しいじゃないか」

「そうですね。今度も室長の思いつきで始まったんですけど……」

「またか……」

 と、過去、司書である俺も巻き込んだモリの思いつきを思い出して、二人溜息をつく。
 キムラの語る事件の全容を、コーヒーを啜りつつ聞くに、キムラの苦労が多少誇張されているのだろうが大体の全体像はつかめてきた。それにしてもプレシア・テスタロッサか。これまた意外な人物の名前が出てきたもんだ。

「――それで、ビアンテの様子が少しおかしかったのか」

「そうなんですよ! もうね、帰りの船内とかね、なんか結界作っちゃってて…… 居づらくて居づらく仕方がなかったですよ! またそれが、室長が気付いてないっぽいのが……」

「またそれも凄いな…… えーと? 室長は母性をよろしく、といっただけなんだろ?」

「ですね。でも、ビアンテさんはもう告白を成功させたというか、もう同棲する勢いというか」

「それ確実に勘違いだよなぁ。鈍すぎる室長が悪いのか、早合点が過ぎるビアンテが悪いのか……」

 キムラ同様、俺とビアンテも顔見知りというと薄過ぎる関係である。さすがにキムラほど愚痴を言い来ることは無いのだが、さすがに十数年も顔を合わせていると情も移るものだ。
 
 ビアンテについては連絡分室を実質仕切っているという関係から、過去まで調べたというのもある。
 総合SSランク、そして美しい外見と何も人生悲観する所のないようにみえる彼女だが、天才には天才の悩みという言う物があるようだった。出る杭は打たれる、というのはある程度は仕方がないにしても彼女は完璧過ぎた。根も葉もない噂やら、直接本人がいじめられるなんてことは無くても色々あったようだ。勿論、庇う人もいたのだろうが彼女の気持ちは如何ばかりだっただろうか。

 彼女、ビアンテ・ロゼは”モリへの生贄”やらと言われているが、体のいい厄介払いだったのかもしれない。無理を言えば取り返そうも出来たのに、今の今まで放置しているのが証拠ではないだろうか? いくら彼女に能力があっても、それだけで組織という物は動かないだろう。
 
 少女を含めた、三人が消えていった地下への階段を見やる。

 さっき見た、小さい子供に手を掴まれ困惑する青年と、それを微笑ましく見守る女性の図は幸せな家族そのものに見えた。
 それが誤解の上に立った砂上の楼閣だったとしても。ぶすっとした顔で周りに能力を誇示し続けていた昔の彼女より、今の彼女の顔の方が数段綺麗に思える。先の瞬間、ビアンテは心底幸せそうに見えたのだ。
 
「いつ誤解が解けるんでしょう」

「……解けた時が大変だろうな」

 そう考えると、ビアンテもこの連絡分室に転属して良かったかもしれない。

 兄貴分を気取る俺はそうも考えてしまうのだ。

 









<作者コメ>
 閑話らしく短い話に。どうもハッピーエンドになりそうもない雰囲気を醸し出してます。ゲンさんは以前アイデアをもらった、モリの周りでこそこそする人達の一人です。多分、もう出ません。


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