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No.22783の一覧
[0] 見習い従者とメイドくん 【近代ヴィクトリア朝×中世ファンタジー】[arty](2013/07/29 00:43)
[1] ▼▼▼ 1-1. 回想(帝歴266年春)[arty](2013/07/29 00:38)
[34] 1-2. カントリーハウス1[arty](2013/07/29 00:43)
[35] 1-3. カントリーハウス2[arty](2013/07/29 00:46)
[36] 1-4. ガーデンパラソル1[arty](2013/07/29 00:46)
[37] 1-5. ガーデンパラソル2[arty](2013/07/29 00:46)
[38] 1-6. ガーデンパラソル3[arty](2013/07/29 00:48)
[39] 1-7. カントリーハウス3[arty](2013/07/29 00:48)
[40] 1-8. カントリーハウス4[arty](2013/07/29 00:49)
[41] 1-9. カントリーハウス5[arty](2013/07/29 00:49)
[42] ▼▼▼ 2-1. 回想(帝歴261年冬)[arty](2013/07/29 00:50)
[43] 2-2. メイド長1[arty](2013/07/29 00:50)
[44] 2-3. 魔女狩り1[arty](2013/07/29 00:51)
[45] 2-4. フローマス騎士団1[arty](2013/07/29 00:51)
[46] 2-5. 魔女狩り2[arty](2013/07/29 00:51)
[47] 2-6. フローマス騎士団2[arty](2013/07/29 00:52)
[48] 2-7. 魔女狩り3[arty](2013/07/29 00:52)
[49] 2-8. 魔女狩り4[arty](2013/07/29 00:52)
[50] 2-9. メイド長2[arty](2013/07/29 00:53)
[51] ▼▼▼ 3-1. 回想(帝歴261年冬)[arty](2013/07/29 00:53)
[52] 3-2. 魔女狩り5[arty](2013/07/29 00:54)
[53] 3-3. 魔女狩り6[arty](2013/07/29 00:54)
[54] 3-4. 階下の世界1[arty](2013/07/29 00:54)
[55] 3-5. 階下の世界2[arty](2013/07/29 00:55)
[56] 3-6. メイド長3[arty](2013/07/29 00:55)
[57] 3-7. ランドリーメイド1[arty](2013/07/29 00:55)
[58] 3-8. メイド長4[arty](2013/07/29 00:56)
[59] 3-9. 階下の世界3[arty](2013/08/05 01:16)
[60] ▼▼▼ 4-1. 回想(帝歴261年冬)[arty](2013/08/11 00:53)
[61] 捕捉 キャラクター紹介[arty](2011/09/11 23:46)
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[22783] ▼▼▼ 1-1. 回想(帝歴266年春)
Name: arty◆ecc17069 ID:fd65897b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/29 00:38
 港湾都市フローマスの中央通りを北上すると、市街地を抜けた辺りで右手に緑の敷地が見えてくる。
 そこがフローマス伯ヘイウッド家のカントリーハウスだ。

 あまりに広大すぎて、敷地外からは屋敷の姿を覗うことは出来ない。
 林に囲まれた敷地内は緩やかな草丘が連なり、その間を縫うようにして一本の馬車道が延びていた。
 その先に立つ青い屋根の屋敷が、メイド長の職場だった。

 すらりとした長身に、栗色のロングヘア。
 髪の一部をワンサイドアップに括っている。
 身につけているのは黒のワンピースに、白のエプロンとカチューシャだ。

「シェリーお嬢様、失礼致します」

 メイド長はお嬢様の寝室を訪れると、天蓋付きベッドに向けて軽く一礼した。
 寝起きの金髪少女が、アーリーモーニングティに口を付けたままメイド長を一瞥する。

 社交シーズ中は伯爵夫妻が帝都に出掛けてしまうため、末娘が当主代行の役目に就く。
 娘の名は、シェリー・ヘイウッド。
 十歳を過ぎたばかりの幼い彼女こそが、メイド達の仕えるご主人様だった。

 ストレートの金髪に、吊り目気味な碧瞳と整った顔立ち。
 身に付けているピンクのベビードールは、ほとんど下着姿と変わらない。
 絵本に出てくるお姫様そのままなビジュアルをしたシェリー嬢の美貌に、メイド長のクールな表情がだらしなく緩んだ。

「くふ、今朝もお嬢様の可愛さは格別です」

「気持ち悪いぞ。用事があるなら早くしてくれ」

 シェリー嬢の冷たい眼差しも、メイド長にとってはご褒美でしかない。
 貴族令嬢に求められるのは、威厳と品格。
 その点においてシェリー嬢は、幼いながらも模範的ですらあった。

「今朝は面白いニュースをお届けに来ました」

「む?」

「新しいメイドを雇い入れたのです。これは是非、お嬢様にもお目通りしておこうかと」

「そんなことを、わざわざ私に?」

 つれないシェリー嬢のリアクションは予想通り。
 貴族階級からすると、メイドなど掃除道具と同列の存在だ。
 シェリー嬢も例外ではなく、一部の親しい使用人を別として、屋敷全員のメイドの顔すら覚えていなかった。

 もちろんメイド長も、雇ったのがただの新人ハウスメイドなら、シェリー嬢に時間を取らせない。
 紹介するには、それなりの理由があった。

「雇ったのは、ジュニアスタッフです。お嬢様と歳もほぼ同じですよ」

「大して興味ないな」

 台詞とは裏腹に、シェリー嬢の眉が少し動いた。
 少しだけ興味を惹かれたようだ。

 何もかもが完璧に見えるシェリー嬢だが、メイド長には一つの懸念がある。
 それは、完璧すぎるということだ。
 理想の貴族令嬢像を演じきるシェリー嬢は、見ているとたまに不安になってしまう。
 周囲の期待に応えるため、彼女は自覚なしで無理を重ねているのではないかと。

 シェリー嬢に足りないのは、年相応の子供らしさだ。
 大人が相手では、シェリー嬢も心を開けないだろう。
 そのための秘策が、年齢の近いジュニアスタッフの採用だった。

「それでは紹介しましょう。ふふ、シェリーお嬢様も、びっくりしますよ。ほら、入ってきなさい」

 メイド長は、廊下に待たせていた新人メイドを招き入れる。
 おっかなびっくりといった様子で、小さな銀髪がひょっこりと頭を見せた。

「は、初めましてなのデスよ」

 ぶわっと部屋の雰囲気が、一気に華やいだ気がした。

 三つ編みにした銀髪に、大きく澄んだ蒼い瞳。
 ほんのり桜色に透けた白い肌は、陶磁器のように滑らかだ。
 メイド服が似合いすぎていて怖い。

「……ッ!」

 目を見開いたシェリー嬢が、無言で固まっている。
 自身も十分に美少女と称されるシェリー嬢にとってさえ、新人メイドの愛らしさは衝撃的だったのだろう。
 新人メイドの方も、さらさらの金髪を伸ばしたシェリー嬢の姿を目にすると、耳まで真っ赤になって廊下に引っ込んでしまった。

 呆然としていたシェリー嬢が正気を取り戻すまで、一拍の時を要した。

「何だ今のはっ? でたらめに可愛かったぞ! あれが妖精というやつなのかっ?」

 興奮したシェリー嬢が、廊下を指さしながら捲し立てる。
 思いの外に好評を得たようで、メイド長は満足そうに微笑んだ。

 正直なところ容姿の端麗さで言えば、シェリー嬢も負けてはいない。
 しかし、子供らしい初々しさが、新人メイドの魅力をかさ上げしていた。
 恥じらう仕草と表情が、見る者の庇護欲をかき立てるのだ。

 戻って来ない新人メイドに、メイド長が催促する。

「こら、いつまで引っ込んでるの? 早く入ってきなさい」

「いやいや! シェリー嬢様、ほとんど下着姿なのデスよっ?」

 確かに寝起きでベビードール姿のシェリー嬢は、ほとんど半裸だ。
 ただ、シェリー嬢にとって着替えや入浴をメイドに手伝わせることは、日常生活の一部でしかない。
 ペットや掃除道具に裸を見られたところで、恥ずかしくないのと同じ感覚だった。

 今の状況で、恥ずかしがっているのはシェリー嬢ではなく、新人メイドだ。
 このままでは埒が明かない。
 仕方なくメイド長は、魔法の言葉を呟いた。

「不法侵入罪」

「ひいっ!」

「不敬罪並びに、異端取締法違反」

「わ、分かったのデスよ!」

 青ざめたシャルロが、おずおずと部屋に戻ってくる。
 さながら怯えた小動物みたいだ。
 そんな様子もまた可愛い。
 シャルロの襟首を掴んで、ベッドにいるシェリー嬢の前に差し出した。

「はい、ご挨拶」

「シャルロと言うのデス。これからよろしくなのデスよ」

 シャルロと名乗った新人メイドが、ぺこりと会釈する。
 その頬をぺちぺちと、シェリー嬢が小さな手でなで回した。
 シャルロはもう、されるがままだ。

「すごいな。幻ではなく本当に実体があるのか。触り心地もすべすべだ」

 お嬢様はすっかり興味津々といったご様子だ。
 何事にも無関心で、世界を冷めた目で眺めていたシェリー嬢にしては、とても珍しいことだった。

「その言葉の訛り、帝国人ではないな?」

「はい、わたしは王国出身なのデスよ。
 それよりシェリー嬢様、顔を近付けすぎなのデス」

「ふむ、そうか」

 頬を赤らめるシャルロとは対照的に、シェリー嬢は平然としたものだ。
 唐突にシェリー嬢は、ぺろりとシャルロの鼻先を舐めた。

「はわわっ!」

「おや、すまない」

 目を白黒させて、腰を抜かすシャルロ。
 自分のしでかしてしまった行為が理解出来ず、シェリー嬢が小首を傾げた。
 何かの違和感を感じつつ、それが自分でも理解出来ていないのだろう。

 そろそろ種明かしをしておいた方が良さそうだ。
 メイド長がひとつ咳払いをする。

「ああ、そうそう。シャルロちゃんとじゃれ合う前に、ひとつだけ留意いただきたいことがあります」

「む?」

「実はシャルロちゃん、男の子らしいですよ?」

 にっこりと衝撃発言をするメイド長。
 もちろんシェリー嬢がすぐに信じるはずもなかった。

「何だと?」

 身を乗り出したシェリー嬢に、驚いたシャルロが後退る。
 そのままバランスを崩して、ベッドから転げ落ちる二人。
 結果として仰向けに倒れたシャルロに、シェリー嬢は馬乗りになっていた。

「いやいやいや、おかしいだろう! 私は騙されないぞ!」

 混乱したシェリー嬢が、一切の躊躇なくシャルロの胸を揉みしだく。
 そしてメイド長を見上げて真顔で告げた。

「柔らかい!」

「そんな訳がないのデスよーーーーっ」

 シェリー嬢に乗られたまま、シャルロが否定する。

 ちなみにどうしてシャルロがメイド姿なのかと言うと、別にメイド長の趣味という訳ではない。
 採用が急だったせいで、男の子向け制服の用意が間に合わなかったからだ。
 しかし、これほど似合っているのだから、最初からメイド服以外の選択肢などなかったようにも思う。

「ふふ。僅差ではあるが、胸の大きさは私の勝ちだな」

「そこで勝ち誇られても! そもそもわたしには、胸ないデスから!」

 じたばた暴れるシャルロだったが、シェリー嬢の下からは抜け出せない。
 両股でがっちりホールドされていた。

「あの、シェリー嬢様、そろそろ解放してほしいのデスよ?」

「レディに対して重いとは失礼だな」

「そうではなくて! 色々と密着して、大変なことになってるデスから!」

 シャルロのお腹に、シェリー嬢のショーツと太股がダイレクトに密着している。
 ところがシェリー嬢はまるで頓着しなかった。

「何だろう、征服感が心地良いな?」

「メイド長さん! メイド長さんも黙って見てないで、止めるべきなのデスよ!」

 止める訳がない。
 メイド長は幼い美少女が大好きだ。
 それが二人も揃って絡み合いをしている。
 まさにここは天国。
 すっかりメイド長の意識は、妄想の世界へと誘われていた。

「こうなったら力尽くなのデスよ!」

 シャルロがシェリー嬢の脇腹に手を伸ばす。
 くすぐり作戦だ。
 子供らしい発想と言える。
 その指先が触れた途端、シェリー嬢から小さな吐息が漏れた。

「ひゃんっ」

「へ、変な声を上げないで下さいなのデス!」

 慌てて手を引っ込めるシャルロ。
 もう耳まで真っ赤になって、大変なことになっている。
 作戦は失敗。
 むしろ反撃の口実を呼び込んだ意味では、完全に逆効果だった。

「むふふ、使用人の分際で良くもやってくれたな。この屋敷の主人が誰なのか、その身体に教え込んでやる」

「ぎゃーーーーっ! シェリー嬢様がご乱心なのデスよっ」

 仕返しとばかりに、シェリー嬢がシャルロの身体中を弄り始める。
 頬を上気させて鼻息を荒くするシェリー嬢の姿は、何かと残念だった。

「ちょっと待つのデス! 何でメイド服まで脱がそうとするデスか!」

「いや、本当に男の子なのか確認しておかないとな」

「それなら自分で脱ぐデスから! ひとまず離れて下さいなのデスよ!」

「まあ遠慮するな」

「脱ぐのは上だけデスからっ! 下はっ、下は絶対にダメーーっ!」

 必死にスカートを抑えるシャルロと、脱がせようとするシェリー嬢。
 瞳を輝かせるシェリー嬢は、今まで見せたことがないほど生き生きとしていた。

 やはりメイド長が見込んだ通りだ。
 クールに澄ましているよりも、年相応に無邪気な笑顔を見せてくれた方が、シェリーお嬢様は愛らしい。
 賭けでもあったシャルロの採用は、間違いではなかったようだ。

「どうやら気に入っていただけたようですね」

 じゃれ合う子供二人を、メイド長は慈しむような微笑で見守る。
 聖母のような眼差しだったが、鼻血を抑えている時点で何もかもが台無しだった。

「ひゃあ! そこは触っちゃいけないのデス!」

「ちょっとだけ! ちょっとだけだから!」

「目が真剣すぎて怖いのデスよっ? すっかり変態さんなのデス!」

 こうしてヘイウッド邸に、メイドくんは雇われることになった。
 シャルロ本人も、このような展開は予想していなかっただろう。
 メイド長の思い付きが、屋敷の運命を大きく変えることになっていく。


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