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No.22750の一覧
[0] 【チラ裏より】やきうをしよう。あの打席に戻るまで(転生最強モノ)[H&K](2012/05/02 22:44)
[1] 第一球目【日シリ代打で自打球強制退場の巻】[H&K](2012/05/02 22:44)
[2] 第二球目【因縁のあいつとこんにちはの巻】[H&K](2012/05/02 22:45)
[3] 第三球目【県大会でガチンコなの! の巻】 前編[H&K](2012/05/02 22:45)
[4] 第四球目【県大会でガチンコなの! の巻】 中編[H&K](2012/05/02 22:45)
[5] 第五球目【県大会でガチンコなの! の巻】 後編[H&K](2012/05/02 22:46)
[6] 第六球目【それは不思議な出会いなの? の巻】1[H&K](2012/05/02 22:46)
[7] 第七球目【それは不思議な出会いなの? の巻】2[H&K](2012/05/02 22:46)
[8] 第八球目【それは不思議な出会いなの? の巻】3[H&K](2012/05/02 22:46)
[9] 第九球目【それは不思議な出会いなの? の巻】4[H&K](2012/05/02 22:47)
[10] 第十球目【マウンドの上でカーブに逃げたモノ の巻】その1[H&K](2012/05/02 22:47)
[11] 第十一球目【マウンドの上でカーブに逃げたモノ の巻】その2[H&K](2012/05/02 22:47)
[12] 第十二球目【マウンドの上でカーブに逃げたモノ の巻】その3[H&K](2012/05/02 22:47)
[13] 第十三球目【マウンドの上でカーブに逃げたモノ の巻】その4[H&K](2012/05/02 22:47)
[14] 第十四球目【マウンドの上でカーブに逃げたモノ の巻】その5[H&K](2012/05/02 22:47)
[15] 第十五球目【マウンドの上でカーブに逃げたモノ の巻】その6[H&K](2012/05/02 22:48)
[16] 第十六球目【マウンドの上でカーブに逃げたモノ の巻】その7[H&K](2012/05/04 04:01)
[17] 第十七球目【それは何の告白なの? ある意味で幼馴染みの意地の巻】[H&K](2012/05/04 21:40)
[18] おまけ。BBHかーど。本編未来。随時追加  2011/11/15追加。[H&K](2012/05/02 22:48)
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[22750] 第二球目【因縁のあいつとこんにちはの巻】
Name: H&K◆6803d1d7 ID:daca760b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/02 22:45
 神崎祐樹がこの世界が少しずれた世界だと思うようになったのは、自分が好きだったプロ野球選手がいなかったり、名前が変わっていたり、所属球団が違っていたという事実からだった。
 
 そもそも自分を生んでくれた両親も変わってしまっていたし、神崎祐樹という人間も名前を残して姿形には微妙な差異が出ている。

 彼は、「過去に戻ったのではなく、よく似た平行世界に転生した」と結論付けていた。

 だからこそ心置きなく神崎祐樹という人間を作り変え、あの日に忘れてきた打席を取り戻すべく、日々野球に取り組む。

 彼がこの世界に生を受けてから既に十年。

 神崎祐樹という天才少年バッターの名は、リトルリーグという限定的でも確かな野球の場に置いて、知らぬものはいなくなっていた。




「おい神崎、放課後から練習あるから一緒に行こうぜ」

 返却されたカラフルなテストを眺め、膝の上に通学鞄を載せていたら悪友に肩を叩かれた。同じリトルリーグに所属する弥太郎という少年は日焼けで剥けた黒い肌が特徴的だ。

 祐樹は緩慢な動作でテストを仕舞うと、先に教室を出て行くことで返答とした。

「あれ? 何でおいてくんだ? なあ!」

 慌てて鞄を引っさげ、ユニフォームとグラブが入った袋を引っさげながら弥太郎が祐樹の後を追いかける。祐樹は階段を一つ下りると三組の教室に入っていった。

「加奈子、練習に行くぞ」

 教壇の上で友人と談笑していた加奈子が振り返った。一昨年までは肩口で切りそろえていた髪が今では肩甲骨の辺りまで伸びている。

 リトルリーグの新生エースを勤める彼女は祐樹の呼びかけに表情を弾けさせると、友人二人に別れを告げて教室から出て行った。祐樹と弥太郎もそれに続く。

「ねえゆーくん。誘ってくれるのはとっても嬉しいけど、太郎君はいらないよ。つれてきちゃ駄目」

「連れてきてないよ。勝手に着いてきた」

「うわひっで。いくら夫婦仲がいいからってそれはないだろー」

「ピッチャーとキャッチャーをやってるんだから、夫婦はお前らだろうに」

 何気なく言った一言だったが、よっぽど癪に障ったらしく加奈子がとび蹴りをした。何故か弥太郎に。いらぬ暴力を受けた弥太郎が猛抗議を開始するが所詮低学年の男子児童である。発達に勝る同年代の少女に適うはずも無かった。

「うっさいわねー、あんたこの前隣クラスのアキちゃんに泥団子ぶつけたでしょう。知ってるんだからね」

「あ、あれはわざとじゃねーよ。偶々だ!」

 慌てて両手を振る弥太郎だったが、残念ながら祐樹は弁護してやることが出来なかった。テレビで見たファン球団のエースの真似をして、土で作った即席ボールをぶつけてしまったのは事実だったからだ。

 相手が快く許してくれたから良かったものの、下手をすれば同学年の女子を全て敵に回すことになる。

 祐樹もいらんいざこざに巻き込まれると碌なことにならないのは前の人生から痛いほど学んでいたため、今回のことは完全に第三者の立場を取っている。

 加奈子が鬼の首を取ったよう、弥太郎を睨み付けながらこう言った。

「はん、ピッチャーでもないのに慣れないことするからでしょう。キャッチャーはキャッチャーらしくキャッチングを練習しなさいよ。まったく、ぽろぽろ落とさないでよね」

 祐樹以外には全く懐かず、弥太郎には敵意を剥き出しにする加奈子を見て男二人は溜息を吐くしかなかった。

 とある日の放課後の出来事である。

 


 ボールネットにビニールシートを巻いた、簡易つい立の向こう側で衣擦れの音がする。祐樹は不埒な輩が加奈子の着替えを覗かないよう監視する役割を任されていた。

「ねえ、誰か来た?」

 つい立越しに声を掛けられて、ユニフォーム姿の祐樹は誰もいないと答える。彼は手の中でボールを弄びながら皆が練習しているグランドの方を見ていた。

「じゃあさ、ストッキング履くの手伝って。あとベルトも」

 にょき、と肩の上から突き出された足に野球用のストッキングを履かせてやる。そういえば昔、自分もストッキングが上手く履けなくて前の父親に履かせて貰っていたことを漠然と思い出していた。

 あれから彼是もう三十年。遠い日の記憶に思わず頬が緩む。

「にゃ、今笑ったでしょ。ふーんだ。どうせストッキングも一人で履けないお子ちゃまですよ、私は」

 何を勘違いしたのか加奈子は頬を膨らませて足を引っ込めた。まだ左足が残っていたがそれは自分で履くようだ。

「別に加奈子を笑ったわけじゃないよ」

 弁解しながら、加奈子の腰元に手を伸ばしてベルトを嵌める。何でも自分ではベストの長さが調節できないらしく、この作業は祐樹の特権でもあった。

「どーだか。最近ゆーくんが全然構ってくれないから加奈子はお怒りなんだよ」

 ぷんぷんとわざとらしく振舞う加奈子は確かに機嫌が悪かった。随分懐かれたものだな、と祐樹は人知れず感心する。

 前の世界では全く女の子にモテず、彼女モドキもプロ野球選手になってから一人しか作れなかった彼からしてみれば、ある意味で新鮮な体験だった。

 そして何より、人から好かれるというものは心地が良いものである。

「さて果てエース様のお通りだー。がおー」

 いつの間に機嫌を直したのか、若干意味不明な文言を残して加奈子がグラウンドの方へ駆けていった。祐樹は自分専用のバットと弄んでいたボールを拾うと、皆が練習しているグランドへ一人で向かっていった。

 もうすぐ県大会が始まる。





 最近入団した三人の低学年生を見て、練習を見守っていた監督は目を細めた。

 一人は最近珍しくなくなった女子のピッチャーである佐久間加奈子。幼少の頃から投手の真似事をしていただけあって、投球フォームも様になっている。何より、小学生とは思えない精密なコントロールが最大の武器だ。

 本人もピッチャーというポジションに遣り甲斐を感じ、尚且つエースの意地のようなものまで持ち合わせているので将来が非常に楽しみである。

 二人目は加奈子の女房役を勤めるキャッチャーの木田弥太郎だ。何故か入団して早々捕手希望という変わった少年だったが、持ち前の身体能力の高さでチームの中軸選手となりつつある。キャッチングがややお粗末なのが玉にキズだが、それでもこれから中学生、高校生となる度にどんな選手になるのか心躍った。

 例年ならばこの二人が入団しただけで監督は十分満足し、子供たちが大好きな野球をプレイする様子を見守っていただろう。だが今年はもう一人入団した少年によって地区大会突破も狙えると心の何処かで感じていた。

 神崎祐樹。三人目の外野手として入団した彼が、リトルリーグの監督として十年間務めてきた男の度胆を抜いたのだ。

 先ずその身体能力の高さ。

 木田弥太郎も全国でも上位に食い込めるだけの能力を誇るが、祐樹は桁が違っていた。

 小学校四年生にして遠投は八十メートル近く、五十メートル走も七秒台が目に見えている。背筋、握力も立派なもので下手な大人より断然発達していた。

 さらに卓越したバッティング能力が最早小学生という枠組みを乗り越え、まるでプロのそれを見ているかのような錯覚を覚える。

 水平に構えたバットから繰り出されるレベルスイングは打席の度にヒットを量産していた。極度に引っ張るプルバッティングから適度に力を抜く流し打ちまで何でもこなして見せるのだ。

 現在に至っては、彼を完璧に抑えることの出来る同年代の投手は皆無と言って良い。

 このチームの黄金バッテリーの加奈子弥太郎コンビも苦渋を舐めさせられっぱなしだ。

 カキン、と加奈子が放り投げた白球が低弾道で外野フェンスに向かっていく。風向きがいいのか右翼方向へ飛んでいく打球はそのままホームランゾーンへと消えていった。祐樹少年は特に喜んだりするわけでもなく、淡々とダイヤモンドを回った。打たれた加奈子と弥太郎は普段は仲が悪いくせに、今は二人してグラブ越しに密談を交わしている。

 どうやら少し感傷に浸ってる間に、また一つバッテリーは黒星を喫したようだ。だが二人は打たれること事態は仕方がないと思っているのか、何事も無かったかのように次の打者へと相対する。

 加奈子が投げた球は祐樹の打席を覗くとこの回たったの七球。

 それだけで六年生のレギュラーを料理した加奈子と弥太郎もやはり只者ではなかった。





 甲子園にやっとの思いで出場して、でも初戦で涙を飲んで、大学でやっと指名してくれた球団に何一つ報いることなく、神崎祐樹の人生は終了した。

 何とか同輩のリリーフエースに喰らいついていた打席はもう遠い遠い過去のこと。

 それでもあの打席は神崎祐樹を捕らえて離さない。

 彼がこうして黙々と素振りをこなし、野球理論を勉強しているのも全てはいつかやってくるリベンジマッチのため。

 六歳から始めた遠投は既に前の人生で自分が投げていた最高距離を更新していた。

 走力もこのまま順調に行けば間違いなくハイスコアを叩きだせる。

 バッティングもとても小学生が真似できないような領域まで到達した。

 けれどもこの世界で十年間生きてきて、何処か愕然と足りないものがあるような気がしていた。

 彼がそれを見つけるはもっとずっと後のことになる。


 

「祐樹、いよいよ来週は県大会だな」

 食卓の席で我が家の大黒柱である父が祐樹に声を掛けた。上機嫌にビールを注ぐ様はいかにも父親と言った感じだ。

「お兄ちゃんはまた四番を打つんだよね。凄いよね、六年生だって一杯いるのに」

 祐樹にご飯を注ぐ母親がころころと笑った。二児の母とは思えない容姿が目を引く。祐樹は随分と母親似だったから、容姿の面で苦労することはこれからも無いだろう。それは隣でピーマンと格闘している妹も同じことだ。

 四番を打つと聞いてさらに機嫌を良くした父親は、自身の皿から豚カツを数切れ祐樹とその妹の皿に移しながらこう言った。

「お祖父さんに続いて職業野球選手が家から生まれるとなると、胸が熱くなるな」

 父の言う通り、神崎の家には既にプロ野球の経験者がいた。それは昨年の冬に亡くなった祖父のことで、現役時代はそこそこ名の通った外野手だったという。

 祐樹も祖父から教わることは殆どなかったが、それでも一人の野球人として尊敬し、ある意味でこの世界における目標のような人だった。

 そんな祖父の口癖は

「祐樹は絶対に俺以上の外野手になる。必ずプロになってスターになれる。そしたら肉をたんまり食えるぞ」

 最後の肉云々が戦後直ぐの選手だった祖父らしくて、祐樹は好きだった。祐樹も前世では一般人以上には年棒を受け取っていたので、そこそこ裕福な暮らしをしていたから、こういったハングリー精神はとてもありがたい。

 今の水平に寝かせたバットから繰り出す打撃も祖父譲りのものだ。

「試合日は来週の土曜日か。何とか休みは貰えそうだから、父さん応援に行くぞ」

「いくいくー。タマもいくー!」

 黙々と夕食を食べ続けていた妹の珠がそんなことを言ったので食卓は笑いの席に包まれた。

 プロ野球選手をやっていた頃、久しく忘れていた光景に祐樹は人知れず笑っていた。





 祐樹と加奈子、そして弥太郎の三人の日課に放課後特訓というものがある。

 クラブチームの練習がない日を適当に繕って、打者対バッテリーの模擬戦を河川敷で行うのだ。

 ルールはとてもシンプル。バッテリーが打者と対戦し、討ち取ったらバッテリーの勝ち、ヒット性の当たりを打ったら打者の勝ちだ。

 三人が出会ってから、正確には加奈子と祐樹が出会ってからずっと続けられている特訓である。

「いっくよー」

 弥太郎のリードに従って加奈子が白球を投げた。振りかぶってからリリースするまでの動作が様になっていて、少女だと思って舐めてかかると凡打の山を築くことになる。だが打者を務める祐樹は誰よりも加奈子の凄さを、そして弥太郎のリードの巧みさを知っていた。彼に油断は微塵もない。

「ボール!」

 弥太郎が判定をコール。最初から狙って外した球なので加奈子に動揺はない。足元をスパイクでひとつ均し、次の投球に入る。

 祐樹は加奈子の手から白球が離れた瞬間、外角低めだ、と読んだ。

 一球目には沈黙していたバットが二球目にして強振される。芯で捕らえた完璧な当たりは、整地されたグラウンドを悠々飛び越えて、セイタカアワダチソウの森林に落ちた。 

「げ、またホームランかよ。水平スイングの癖にどうやったらそんなに飛ぶんだ」

「加奈子の球のノビが良い所為だよ。典型的な一発病だな。女子だからどうしても軽い」

「これでフォークやチェンジアップを覚えると手が付けられなくなるんだけどなー。リトルリーグは変化球禁止だけど」

 二人が話し合ってると、即席マウンドから加奈子が降りてきた。彼女は祐樹に打たれたためかそれほど意気消沈することなく、ピッチャー交代と祐樹にグラブを投げて寄越した。

「次は誰がバッター?」

「俺がやるよ。ピッチャーは祐樹で。こいつの球は速いから防具付けろよ」

 加奈子が弥太郎からキャッチャー防具を受け取り、かちゃかちゃと身に纏っていく。祐樹はマウンドに上って、弥太郎に対し軽いキャッチボールを始めた。

「準備できたよー」

 加奈子が手を振り二人に合図を送る。弥太郎が打席に入り、祐樹がボールを握った。

「プレイボール!」

 今度は加奈子が構えて弥太郎を討ち取るべくリードを要求する。彼女もまた、こうした特訓を繰り返すうちにキャッチャーとしての能力を開花させていった。キャッチングに関しては多分弥太郎より上達している。

「こいやぁ!」

 無駄に気合が入っている弥太郎を見て祐樹は警戒した。イカサマをしている自分ほどではないものの、この少年もバッティングに中々のセンスを秘めている。

 一球めの要求は真ん中やや低め。弥太郎が若干ホームベース寄りに立っている為のリードだ。祐樹はこれもまた小学生では珍しいサイドスローモーションから白球を放った。オーバーで投げると加奈子が怪我をする可能性があるのだ。

 ひゅんと腕が振り切られ、白球は加奈子の要求どおり吸い込まれていく。判定はストライク。どうやら弥太郎の狙い球は低めに無いようだ。

 二球目は一球目より少し下。完全なボールコース。

 ざっとマウンドを蹴飛ばし、ムチのように腕をしならせて二級目が投げられた。

 弥太郎が下半身を崩しながらも、鋭いスイングで白球を捕らえる。

「どうだ!」

 高々と打ち上がった打球は角度も速度も十分だ。だが如何せんタイミングが早い。直ぐに切れ始めるとファールゾーンに指定したラインを超えた。

「ファール。焦りすぎだよ。馬鹿」

 回収可能な地点にボールが落ちたので加奈子がボールを拾いに行く。祐樹も向かおうとしたが、「ゆーくんはゆっくりしてて」と謎の気遣いを頂き、マウンドの上で手持ち無沙汰。

 そんな三人の下へ来客が訪れたのは加奈子が戻ってきた時だった。

「君たち野球してるの? 俺も混ぜてよ」

 河川敷の横を通る遊歩道から降りてきたのは自分たちと同じぐらいの年の少年だった。野球帽にTシャツ姿で中々に容姿が整っている。

 体つきから、何かしらスポーツ――まあ普段から野球をしていることは明らかな少年だった。

「君たちが余りにも熱心だから、今までは声を掛け辛かったんだけど……」

「けっ、これは三人用だぜ」

 何故か敵意剥き出しの弥太郎が威嚇するが、加奈子の蹴りで沈黙する。祐樹は少年をいぶかしみながらも、取り合えずOKを出した。

「なら一回だけ投手をさせてよ。君が投げてる球を見たらとても投げたくなったんだ」

 少年の台詞にまたもや弥太郎が喚くが、とっとと打席に入れという祐樹と加奈子の熱い指導を受け、渋々バットを持った。簡単なルールが守備に就く祐樹から説明される。

 カウントはリセット。一打席勝負。変化球はなし。キャッチャーのリードに従うこと。

 少年はわかったわかったと笑顔で答え、キャッチャーをしている加奈子からボールを受け取った。

 今始めて出会ったはずなのに、祐樹は少年を何処かで見たような気がした。

「それじゃあいくよ」

 少年が振りかぶり、投球動作へ入る。小さく纏まったオーバースローが祐樹の投球動作と対照的だった。

「あっ」

 祐樹はそれを見て、思わず声を上げた。

 低重心のしっかりした下半身から繰り出される身体の回転。

 祐樹のサイドスローとはまた違った美しい腕のしなり。

 何よりリリースした瞬間に発せられた指バネの音。

 間違いない。今はどれも荒削りだが、そこにあった投球は――、

「嘘だろ……」

 バシン、と小学生ならない球が加奈子のミットに納まる。予想外の衝撃に彼女は悲鳴を上げていた。さらに打席でボールを待ち受けていた弥太郎もぽかん、と大口を開けて立ち尽くす。

 祐樹は守備位置から一歩も動くことが出来ず、ただただピッチャーの少年を呆然と眺めていた。

 理由は至極簡単だ。

 何故なら、彼を縛り付けているあの日の打席、あのマウンドに立っていた男がこうして目の前に現れたのだから。

 あと二十年近く経たなければ対戦できないピッチャー。

 祐樹にある意味で引導を渡した男が幼い頃の姿でこうして目の前に立っている。もちろん、別世界に転生したわけだから同一人物なわけがない。

 だが祐樹にそう錯覚させるほど姿かたち、そして野球の動作実力が酷似していた。

 加奈子と弥太郎はそのピッチングに驚き、
 
 祐樹は予想外の出会いに言葉を失う。

 少年は外野や打者の驚きを意にも返さず、二球目の投球に入った。

 バットの空振り音とミットを打ち据える音が夕暮れの河川敷に轟く。




 結局、結果を記すまでもなく弥太郎は三球三振。一応満足したのか少年は礼を一つ言って三人の前から去っていった。

 弥太郎は悔しそうに臍を噛み、加奈子は球を受けた手に息を吹きかけていた。どうやら相当重たい球だったようだ。一方、外野に立ち尽くした祐樹は二人に声を掛けられるまで、少年が消えた方角を見ていた。

「あいつ名前言わなかったな」

「ほんとだ。何処の子なんだろう? うちの小学校にはいないよね」

 三人で自転車を押し、帰り道を共にする。

 弥太郎と加奈子は突然の乱入者を延々と語らっていた。

「ねえ、ゆーくん。ゆーくんは誰だか知ってる?」

 突然会話が振られた。祐樹は足を止めて後ろを歩いていた二人に振り返る。この時夢遊病者のようにふらふらと祐樹が歩いていなければきっと「知らない」と答えたに違いない。

 だが、ある意味当然の、しかし衝撃的だった出会いは完全に祐樹をおかしくしていた。

 ぽつり、と祐樹がこぼす。

「大塚、大塚健二。ストレートが決め球の豪腕だよ」

 言って、しまったと思ってももう遅い。けれども二人は何で祐樹が知っているのかも気にすることなく、どうやったらあの球が打てるようになるのか大激論を始めた。

 祐樹はこの二人が野球馬鹿で助かったと思うと同時に、前世での大塚健二という男を考えていた。

 同時期にプロ入りしただけで特に接点が無い他球団の選手。

 リリーフエースとして名を馳せて、代打屋だった自分とは決定的に違う選手。

 そして、彼の剛球を加速させた自打球は自分の命を奪ったという事実。

 もしかしたらあの打席で生じた因果を持ち越してしまったのかもしれない。

 祐樹は祐樹なりに、今日出会った前世の天敵について、後ろの二人までとは言わないにしろ、それでも結構真面目に思案するのだった。






 あとこれは完全な余談だが、

 祐樹がかの少年の名前が「大塚健二」とは限らないことに気がついたのは就寝前のことである。





 ◆◇◆◇ 
 
おまけ プロスピ的ステータス(verリトルリーグ)


神崎祐樹(10) かんざき ゆうき

右投げ左打ち

右巧打力 S
左巧打力 A
長打力  A
走力   A
肩力   S
守備適正  右翼 S
        中堅 A
        左翼 A


特殊能力  成長◎(パワプロ的?)
        アベレージヒッター
        チャンスメーカー
        盗塁↑2
        走塁↑3
        助走キャッチ
        レーザービーム

 ◆◇◆◇ 


木田 弥太郎(10) きだ やたろう

右投げ左打ち

右巧打力 B
左巧打力 D
長打力  C
走力   C
肩力   B
守備適正  
        捕手 B
        右翼 D
        中堅 E
        左翼 E


特殊能力  なし

 ◆◇◆◇ 


投手はBBH風

佐久間 加奈子(10) さくま かなこ

右投げ右打ち  スリークォーター

球威     12
変化球    15
コントロール 18
スタミナ    15
守備力    13

合計  73

変化球 特殊能力なし

 ◆◇◆◇ 

大塚 健二(10) おおつか けんじ

左投げ左打ち オーバースロー

球威     18
変化球    15
コントロール 15
スタミナ    17
守備力    14

合計  79

特殊能力 打球反応○ 威圧感 剛球

 ◆◇◆◇ 

神崎 祐樹(10) かんざき ゆうき

右投げ左打ち サイドスロー(ただしオーバースロー時は不明)

球威     14
変化球    15
コントロール 16
スタミナ    17
守備力    14

合計  76

特殊能力 打球反応○ 

 

 

 


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