【BET】
player suit card odds BET
北条良輔 ♦ 5 9.0 -
御剣優希 ? ? 5.5 トぺルカさん(40)
夏本玲奈 ? ? 7.4 油桜さん(50)
柊桜 ♦ 9 3.5 nidaさん(40) 結崎 ハヤさん
西野美姫 ♣ 3 8.0 -
神河神無 ? ? 2.3 -
白井飛鳥 ♠ 6 Death -
杉坂友哉 ♠ Q Death -
一ノ瀬丈 ? ? 5.1 ナージャさん(40)
速水瞬 ♥ K 1.7 上杉龍哉(50)
幸村光太郎 ♦ 4 9.0 -
飯田章吾 ♠ 10 4.5 ヤマネさん
水谷祐二 ♥ 7 2.6 ヴァイス(30)
Day 2日目
Real Time 午前 7:30
Game Time経過時間 21:30
Limit Time 残り時間 51:30
Flour 1階
Prohibition Area 屋外
Player 11/13
注意事項
この物語はフィクションです。
物語に登場する実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
良輔が部屋から戻って来るとリビングには速水が居た。
速水は朝食を床に敷いた布の上に並べている。
足音でこちらに気づいたのか速水は腰をあげてこちらに視線を向けた。
「あれ?どこに行っていたんですか?」
「すみません、ちょっとトイレに」
まさか他人の私物を漁っていたなどとは言えず、良輔はそう答える。
「そうでしたか、朝食ができましたよ?といって簡単なものですけど」
速水はそういって並べた朝食を指差した。
今日の朝食のメニューは白いご飯とお味噌汁、目玉焼き、サラダであり、それらが人数分用意されている。
「結構おいしそうじゃないですか」
「僕が作ったのは目玉焼きくらいなんですけどね、味噌汁はお湯を入れるだけのインスタントですし、他は冷凍食品をレンジでチンですよ」
「ふ~ん、そういえば速水さんは料理とかするんですか?」
「普段はまったくしませんね、なぜなら……」
『いつも愛しい彼女の手料理を食べていますからっ!』
腰に手を当て、キリッとした表情で速水が答えた。
「……このリア充が……ぺっ」
良輔はぼそっと呟くと、床に唾を吐き棄てる。
「何か言いましたか?」
「俺には何も聞こえませんでしたよ、気のせいじゃないですか?」
「そうですか、最近耳が遠くなっていけません」
「あはは」
「ふふふ」
良輔と速水がお互いに握手しながら笑いあった。
握手している手からメキメキと擬音が聞こえてくる。
その時……
「何、朝っぱらから気色悪いことやってんのよ?」
笑いあう良輔と速水を、少し離れたところで柊がゴミ虫でも見るかのような視線を送っていた。
「ああ、桜君、おはようございます」
「ふん」
柊は速水の挨拶をガン無視する。
良輔の横で肩を落としているように見えるのは気のせいだろうか?
そのまま柊は床に並べられた朝食の前で腰を下ろした。
「お前、今までどこに行っていたんだ?」
「どこって……シャワー浴びてたんだけど」
言われてみれば柊の顔が僅かに紅潮しているような気がする。
心なしか女性の良い香りが……
「何じろじろ見てんのよ、この変態っ!」
……やっぱり気のせいだろう。
良輔のこめかみがピクピクと引き攣っていた。
「そ、それでは桜君も来たことですし……朝食にしましょうか?」
「わかりました」
「……、」
こうして3人の朝食は穏やかに始まった。
――――――――――――――――
――――――――
――――
――
―
「ふう、食った食った」
良輔はポンポンとお腹を叩く。
横では柊も箸を置いていた。
「お粗末様です」
速水がニコリと笑みを零すと何か思い出したように近くにあった荷物を漁る。
「食後にコーヒーはいかがですか?といってもインスタントですが」
取り出してきたのは戦闘禁止エリアに置いてあったインスタントのコーヒーだ。
どうやら速水さんはそれを持っていく気だったらしい。
シャッシャッとインスタントコーヒーの缶を振りながら速水がそう尋ねる。
「いただきます」
「僕も貰おうかな」
「わかりました」
速水は各自の金属製コップにインスタントコーヒーを入れると湧いていたお湯を注いでいく。
「二人とも砂糖は入れますか?」
良輔と柊が首を横に振ると速水はコーヒーの入ったコップを2人に差し出した。
コップの中には黒い液体が湯気を立てている。
「やっぱ食後はコーヒーだな」
良輔はコーヒーを一口啜るとそう呟いた。
「これを飲み終えたら出発ですね」
速水はコーヒーの中に砂糖を少量入れると、スプーンでかき混ぜた後でコップに口をつけた。
「侵入禁止エリアのルールもありますからね」
コーヒーを飲みながら良輔はそう答える。
実際にはいつから侵入禁止エリアが拡大していくのか、そしてどのように広がっていくのかなどは良輔にもわからない。
わかっているのはゲームが72時間経過した時点で建物全域が侵入禁止エリアになり、その時点で首輪を外せていなければ建物の仕掛けに殺されるということ。
そして、まるで漫画や映画、小説に出てきそうなくらい荒唐無稽な話がここでは真実であるということだけだ。
「早く、jokerを見つけないと……」
柊が焦ったような口調で呟いた。
ゲーム開始から既に一日近く経つというのに未だjokerのjの字も見かけていない。
その心情は容易に察することができた。
しかし……
「個人的にはさっさとPDAを返して欲しいところなんだがな」
良輔は悪態をつく。
PDAが返って来なければ解除条件どころの話ではない。
「僕の首輪が外れた後で返してあげるよ、ただし、返すのは戦闘禁止エリアで、だけど」
柊はこれみよがしに良輔のPDAをヒラヒラと弄ぶ。
「まあまあ、仲良くしましょうよ、僕達は仲間なんですから」
速水がニコニコと笑ってそう答える。
「それは速水さんの台詞じゃあないな」
「冗談は考えて言いなよ、鳥肌が立つから」
「……僕って信用ないですね」
はあっと溜息をつく速水を見て何を今更と良輔と柊が同時に肩を竦める。
「それではコーヒーも飲み終えたことですし、そろそろ出発しますか?」
速水はコーヒーが入っていたコップを置くと立ち上がった。
「わかりました」
「そうだね」
良輔は荷物を纏めると戦闘禁止エリアから薄汚れた通路に出るための扉に手を掛けた。
カチャリとドアノブに手が触れる感覚。
その手から伝わる冷たい金属の感触。
今から良輔達の2日目が始まろうとしている。
ここから一歩出れば血で血を洗う戦場が待ち構えている。
この戦闘禁止エリアにいれば少しの間は安全である。
しかし、ここで留まっていれば侵入禁止エリアに巻き込まれて死ぬだけだ。
生き残りたければ戦って勝ち残るしかない。
ゲーム開始からすぐに出会った幸村。
エントランスホールでルールを交換しあった水谷、夏本、飯田。
そして杉坂を殺害した神河神無という女性。
未だ良輔達が遭遇していない3人のプレイヤー。
これから未遭遇のプレイヤーとも遭遇する可能性がある。
自分を含めて存在する11人のプレイヤー。
この1日でどれだけの人間が死ぬことになるのだろうか?
「負けられないな、絶対に」
良輔はボソッと呟く。
その声は後ろにいる2人にも聞こえないくらい小さな声だった。
(優希、必ず生き残って、お前のいる場所に帰るから……)
それまで負けられない。
愛しい少女の面影を胸に、良輔は気合いを入れ直した。
「さて、行くか……」
扉を開けるためにドアノブを回す。
ドアノブが回る音、扉を開けた際に錆びた金属音。
外には変わらずに埃が積もった通路。
埃の上には多くの人間が歩いた足跡。
生暖かい空気が良輔の全身を包んだ。
今、この狂ったゲームが2日目を迎える。
――――――――――――――――
――――――――
――――
――
―
良輔達は3階への階段を目指しながら途中にある部屋も探索しながら進んでいた。
その途中の一室で柊がダンボールを開けながらニヤリと笑みを零す。
「なるほど、そういうタイプのゲームなわけね」
柊が横で笑っているのを見て、良輔が手を止める。
「さっきから何を1人で笑ってるんだ?ハッキリ言って気持ち悪いぞ?」
「ふふっ、このゲームがどういう仕組みになっているかちょっと分かったってことだよ」
柊は珍しく良輔の悪態にも気を悪くせず話を続ける。
まるで親にテストの点数を自慢する子供のような表情だった。
「それは?」
「アンタ、アドベンチャーゲームとかやったことはもちろんあるよね?」
「まあ、一応な」
良輔も人並程度にはゲームをやったことはある。
有名どころを少しやった程度ではあるけれど。
その返答に柊は満足そうに頷く。
「これを見てみなよ」
柊はそういって一本のナイフを取り出す。
銀色に輝く少し大型のそれは、コンバットナイフという種類のものだっただろうか?
「1階には刃物はなかった。それどころかあっても適当に見繕った木材がせいぜい」
「でも、2階に上がってからはこういうナイフのような刃物が転がっている。つまりこれはどういうわけだと思う?」
「……上の階に行けば行くほど武器が強力になっている?」
まだこの段階で結論を出すのは少し早いかもしれない。
もしかしたら1階の探していない部屋に刃物を置かれていた可能性は0ではない。
「そう、ゲームで最強の武器が出発点のはじまりの村にはなく、ラスボス戦の直前で手に入れられるのと同じようにね」
柊はよく出来ましたとばかりに笑う。
その態度に思うところがないわけではないけれど確かに柊の言うとおりかもしれない。
これがゲームであるというなら……そして演出を凝らすために上の階に上がるごとに強力な武器を配置しているということも考えられることだった。
「本格的にゲームなわけだな」
そうなると問題はこのゲームにおける最強武器とは何なのだろうか?
1階にはこれと言って何もなく、2階には刃物、とすると3階、4階へと上がって行く度に武器が強化されていくとして6階には何がある?
「もしかしたら銃とかあるかもしれないよね?」
柊は本当に楽しそうに笑っていた。
「銃を楽しみにするなんてどんな女子高生だよ?」
「何よ、文句でもあんの?」
良輔と柊が言い争っていると横でダンボールを漁っていた速水が近づいてくる。
「おや、夫婦喧嘩ですか?」
「違います」
「そんなんじゃないことぐらい見ればわかるでしょ?阿呆なの?死ぬの?」
「ひどいですねえ、傷つきますねえ、そんな邪険に扱わなくてもいいじゃないですかっ」
言葉とは裏腹にどこか楽しそうに速水は笑っている。
「それで実際のところ、そっちは何か見つけましたか?」
「ナイフが1本と救急セットですね」
良輔は柊の持っているナイフを指差した後にさきほど見つけた救急セットを速水に見せた。
特にこの救急セットは有りがたい。
多少の怪我を負った場合でもこれがあればある程度の手当ができる。
「そっちは何かありましたか?」
「こっちはナイフが1本とスタンガンが1つ、それとこのツールボックスです」
速水は自分が見つけた物を良輔達に見せる。
ツールボックスは2つ。
Tool:Network Phone A
Tool:Network Phone B
上記のように表記されている。
「ネットワークフォン?携帯電話みたいなものかな?」
「それはインストールしてみればわかるんじゃないですか?」
「それもそうね、じゃあネットワークフォンを【5】と【K】に入れましょう」
柊はインストールするPDAを選ぶと速水はツールボックスを柊に渡した。
「念のためテストしておきましょうか?」
「そうね」
2人はPDAにネットワークフォンをインストールすると実験を行いはじめた。
「マイクテス、マイクテス、大丈夫ですか?聞こえてますよね?」
「うん、問題ないみたい」
PDAにむかってしゃべる速水、柊はPDAを耳に当ててそこから流れる速水の声を聞いて頷いた。
正常に機能することを確認すると2人ともPDAの電源を落とした。
「それで武器は誰がどれを持つの?」
「そうですねえ……」
柊の声に速水が唸る。
「スタンガンは桜君、ナイフは僕と良輔君が1本ずつ、救急セットは……僕が持っても構いませんか?」
「そうですね、それでいいんじゃないですか?」
「わかった」
速水の言葉に良輔、柊の順で頷くとそれぞれが自分の分担する品を持つ。
「武器はちゃんと装備しないと効果が出ませんから気をつけてくださいね?」
「――――速水さんはゲームのやりすぎです」
速水の冗談に良輔が溜息をつく。
「馬鹿やってないでさっさと行くよ?上に上がって行けば銃とか置いてあるかもしれないんだからっ!」
珍しく柊が興奮した様子を見せていた。
「――もしかして桜君ってガンマニアですか?」
「ふふっ、一度撃って見たかったのよね、拳銃」
「……、」
「……、」
その大好きなゲームの発売日を待っている子供を連想させる柊に、それでいいのか女子高生と2人は考えるけれど、もちろんそれは柊には聞こえない。
ピロリン、ピロリン
そんな時、全員のPDAが音を鳴らす。
「何だろ?」
柊も良輔も速水もすぐにPDAを取り出して画面を覗き込んだ。
するとPDAの画面には次のような文章が表示されていた。
『開始から24時間が経過しました!これよりこの建物は一定時間が経過するごとに1階から順に侵入禁止になっていきます』
『1階が侵入禁止になるのは今から3時間後の午後1時を予定しています。1階にいるプレイヤーの皆さんはただちに退去して下さい』
「始まったか」
良輔はそう呟く。
嬉しくないニュースだ。
これからは侵入禁止エリアが拡大していって最後には――
「急ぎましょう?」
そういって柊は部屋の外に出ていく、良輔も速水もそのまま柊を追って部屋を出た。
――――――――――――――――
――――――――
――――
――
―
通路に出ると左手にはY字の通路が、正面には既に良輔達が調べた一室、右手には十字路が広がっている。
良輔達は左手のY字から来たので3階に行くためには右手の十字路を進まねばならない。
「どっちの道が3階に近いんだっけ?」
「……確かその通路を右だ」
十字路を睨みながら柊が呟くとPDAを見ていた最後尾の良輔が答える。
「それでは出発するとしましょうか?」
先頭に立っていた速水が良輔達を振り返った。
「っ!?」
しかしその瞬間に速水の表情が驚愕に歪む。
その突然の反応にどうしたのだろうと良輔も柊も不思議に思ったその時だった。
「伏せなさいっ!」
速水がバッと床に伏せたので反射的に良輔も柊もその身を伏せた。
ヒュンと何かが高速で良輔達の頭上を飛び去って行った。
そのすぐ後に良輔達の遥か後方で微かな金属音が聞こえる。
「きゃあっ!」
「何が!?」
柊の悲鳴を聞きながら良輔は現状を把握しようとしていた。
「クロスボウですっ!Y字の通路からクロスボウで僕達を狙っている人がいます!」
速水の言葉にチラッと後ろを振り返る。
『速ァァァ水ィィィィィィィィさぁぁぁぁぁん!』
Y字の分岐点には長髪で軍服を纏っている長身の女性が立っていた。
赤いバンダナを使って視界を確保しているその女性はクロスボウを構えながら血走った目でこちらを睨みつけている。
(あれはっ!?)
良輔はエントランスホールで話した夏本との会話を思い出す。
『女の人です、赤いバンダナを巻いた、黒い長髪で綺麗な人だったから会えばすぐわかると思います』
(神河神無なのか?)
その外見的特徴は夏本の話と一致する。
おそらくあれが杉坂をエントランスホールで殺害したという神河神無なのだろう。
いや、今はそんなことを考えている時じゃないっ!
「2人とも立ちなさいっ!逃げますよ!」
そう、相手はクロスボウで武装しているのだ。
こちらが遠距離武器を持っていない以上、ここは逃げることしかできない。
速水は立ち上がって右手の通路に入って行く。
もしあのクロスボウに射抜かれたらどうなるのだろうか?
そんな恐怖を噛み殺して柊も良輔も速水に続いた。
『待てっ!絶対に逃がさないぞ?速水さん、貴方を殺すためだけに……私は!!』
神河と思われる女性は何故か速水の名前を叫びながら追ってくる。
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――――――――
――――
――
―
長い通路を良輔達は走って行く。
後ろから追ってくるのはクロスボウで武装した1人の女性。
『私から逃げる気か?速水さん!貴方がどこへ逃げようと私は地獄の果てまで追いかけて貴方を殺して見せる!だから無駄な抵抗は止めて私に殺されてくれ!』
神河は速水の名前を連呼しながら追いかけてくる。
この2人には面識があるのか?
そんなことを考えながら前を走る良輔は速水を見ていた。
ビュンと後ろから神河のクロスボウが発射される。
「……、」
しかし先頭を走る速水は脇道へとそれた。
その矢は速水の頭の近くを通り過ぎていき、通路の壁にぶつかって地面へと落ちる。
お互いが走りながら、距離の問題もあり、神河は良輔達を行動不能にさせるまでには至っていない。
いや、その言い方は間違っているかもしれない。
神河はクロスボウを扱い慣れているのか速水の【いた】ところを正確に射抜いている。
問題なのはその時には既に速水が射線から外れているということだ。
速水は通路をジグザグ走行しながら走っている。
そのためについさっきまでいたところに速水がいないのである。
もしも神河が良輔か柊を狙っていたなら既に2人の命はないだろう。
しかし良輔達を殺す気がないのか、それとも速水しか目に入っていないのか――恐らくは後者だろうと思われる――神河は速水を狙い撃てない状況ではクロスボウを撃って来ないかった。
狙われている速水にしてもこのまま3階を直進していては間違いなく殺されるので、この複雑に入り組んだ通路を使って神河から逃げようという判断は正しいと言えるだろう。
現に短続的な通路の分岐を利用して逃げ続ける速水は未だにクロスボウを避け続けている。
(くそっ、このままじゃあジリ貧だ)
良輔が舌打ちをうつ。
いかんせん神河の足が速い。
例外として速水はジグザグに走っているから明らかに3人より長い距離を走っているはずなのに、神河との距離はほとんど詰まってはいない。
これは速水の脚力が異常なのだろう。
しかし良輔と柊は違う。
この2人は高校生に過ぎず、良輔はともかく柊はそんなに体力があるほうではない。
実際神河と良輔、柊の距離がどんどん縮まっていた。
このままでは速水ともはぐれてしまうし、最悪神河に追いつかれる。
そして……
「っ!」
意外にも最初に動いたのは柊だった。
柊は速水の後についていくのでなく、速水から離れるように通路を右に曲がって脇道へと入って行った。
このとき、柊が考えていたことはひどくシンプルである。
柊もまた良輔と同じようにこのままでは神河に追いつかれると感じていた。
もしも神河の狙いが柊であるなら速水と別れて脇道に入るなどという行為はしなかったであろうが幸いというべきか後ろから襲ってくる女性の狙いは明らかに速水であり、柊ではない。
だから自分達が速水から離れさえすれば追ってこないだろうと考えた。
柊はちょうど真ん中にいるので脇道に入れば後ろを走っている良輔にもそのことがわかるし、良輔は【5】のPDAを持っている自分を追いかけざるを得ない。
つまり、柊は速水を見捨てることで自分の安全を確保しようとしたのである。
しかし、それ自体は責められるべきことでもないだろう。
速水を見捨てなければ最悪、柊自身の命が危ないのだから……
「柊っ!?そっちは駄目だ!」
ただし、ここで柊が予想しなかった出来事が起こる。
良輔が柊の後を追って来なかったのである。
脇道の入り口で一瞬止まり、柊に向かって叫ぶ。
「良輔君、立ち止まれば死にますよ!?早くこっちへ!」
「っ!?くそっ!」
良輔は舌打ちすると柊ではなく、なんと速水の後を追いかけて行った。
(はあっ!?何やってんのよ、あの馬鹿!)
柊は内心で自分ではなく速水の後を追っていった良輔を使えないやつだと思った。
(まあ、いいわ)
いなくなったらなったでPDAを破壊してしまえばいい。
使えないやつはいらないのである。
(とりあえずは神河から逃げないと)
そう考え直して柊は直線になっている通路を走って行った。
――――――――――――――――
――――――――
――――
――
―
柊と別れた良輔と速水は、まだ神河から逃げていた。
神河は一瞬、柊と別れた通路で立ち止まったかのように見えたがすぐにこっちへ走ってくる。
やはり速水が狙いだからだろうか?
「良輔君!大丈夫ですか?」
「ま、まだまだ行けます!」
良輔は弱みを見せまいと精一杯強がる。
確かにまだいけるのは間違いではないのだがこの調子で行けば間違いなく途中で力尽きて神河の餌食になるだろう。
「さっさと観念して私に殺されろ!」
なぜなら神河はあれだけ走ったはずなのに息1つ乱れていないからである。
(何だよ、あの無尽蔵の体力は)
良輔が内心でぼやく。
柊も心配だが今はPDAに拘っていれば自分自身が殺されかねない状況にあった。
(そうだ!罠を使えばもしかしたら!)
神河から逃げられるかもしれない。
このままいけば遅かれ早かれ殺される。
それならイチかバチか賭けてみるしかない!
良輔は【6】のPDAをポケットにしまって、【4】のPDAを取り出すとすぐに地図機能を開く。
切り札をここで使うのは少し早すぎる気もしたが幸い速水は後ろを振り返ることなく走っているので良輔がPDAを2台持っていることには気づかないだろう。
ただし、神河にはバレるが四の五の言ってられないのである。
ピッ
開いた地図には自分の光点と多数散りばめられた罠の光点。
(ここから一番近い罠は……左だな)
「速水さん!次の通路を左に曲がってくれ!」
「っ?わかりました!」
速水には良輔の言っていることがわからなかっただろうが頷くと左の通路へと曲がった。
良輔も速水に遅れまいと全力で疾走する。
速水に少し遅れて通路に入ってきた良輔は注意深く通路を眺める。
地図ではここに罠があると表示されている。
設置型か、それとも起動スイッチを押さなければ作動しない罠なのかわからなかったがパッと見てない以上どこかに起動スイッチがあるはずだ。
(他の通路と比べてどこかに違和感は……)
今まで通ってきた通路とこの通路を見比べる。
(……速水さんの足元!)
良輔にはその部分だけ微妙に盛り上がっているように見える。
「んっ、速水さん、足元にあるその出っ張りを踏んでくれ!」
「っ!?……えっとこれのことです……かっ、と!」
良輔が叫ぶのとほぼ同時、速水は勢いよく足元を踏んだ。
「逃がすかああああああああああっ!」
ちょうどその時、神河も後ろの通路から現れた。
(鬼が出るか蛇が出るか?)
後ろをチラッと振り返りながら速水のもとへと走る。
どうか神河から逃げられるものが出てくれと祈る。
不安と期待が入り混じったその祈りは聞き届けられたのだろうか?
不意に速水の足元の床がガコンと下がり、床が開いた。
「うわっ!?」
速水が下に落ちていく。
瞬く間に速水は闇の中へと落ちていった。
『こなくそがああああああああああああ!』
突然速水の姿が消えたことで神河は怒り狂った叫び声をあげた。
(落とし穴かっ!?)
当たりだと直感的に良輔はそう思った。
1階が侵入禁止エリアになるにはまだ少し時間がある。
良輔もまた落とし穴へと飛び込むべく走った。
『せめて貴様だけでも死ねええええええええええ!』
神河は速水が消えたことで、初めて狙いを良輔に向けてクロスボウの矢を放った。
飛来する黒色の矢、それは良輔目掛けて一直線に飛ぶ。
「っづ!ぐああああああああああああああああああっ!?」
そしてそれは落とし穴へと姿を消そうとする良輔の左肩を正確に射ぬいた。
その衝撃に良輔の身体は前へ倒れ、そのまま力なく落とし穴へと落ちていく。
「ちっ」
軍服の女性、神河は仕留めそこなった良輔を見て舌打ちする。
次の瞬間には落とし穴へと走って行った。
『良輔君っ!しっかりしなさい!!』
『痛ってぇ……くっそっ!』
神河が下を見れば倒れた良輔を抱き起している速水がいた。
この落とし穴を落ちて速水を殺してしまいたい衝動に駆られた神河だったが残念なことにすぐに1階へと通じる扉は閉じてしまった。
「しくじったか……」
忌々しげに閉まった床を睨む神河。
しかしすぐにフッと笑って首を振る。
「まあいい、チャンスはいくらでも巡ってくる」
神河は閉じた穴を確認すると踵を返した。
「まずは、お姫様を鹵獲しに行くとするか」
ニヤリと嫌な笑みが神河の表情に張り付いている。
獰猛な獣を思わせる笑み。
その目が見つめる獲物はただ一匹。
しかし、メインディッシュの前に前菜を片付けることにした。
「速水さん――貴方を殺すのは、私だ――必ず、殺してやる」
神河はポツリと独り言を漏らすと来た道を戻って行った。
――――――――――――――――
――――――――
――――
――
―
その頃、柊は神河が追って来ないことを確認しながら通路を1人で歩いていた。
「……ふぅ」
どうにか逃げ切ったという安堵の溜息が柊の口から漏れた。
「さて、ここってどの辺りだったかな」
PDAを見ることなく走り回ったのでイマイチ現在地がわからない。
「弱ったなあ、でも戻って神河と鉢合わせしたら目も当てられないし……」
ここで良輔が持っているような現在地を表示してくれるソフトウェアがあれば柊も困らなかったであろうが残念ながらそのソフトウェアは良輔がちょろまかしたので柊は持っていない。
もちろんこの事実を柊は知らないのであるが。
「もうイライラするなあ」
柊は【5】のPDAを睨みながらそう思う。
「変に恨まれたらあれだしここで壊しておくってのもありだけど」
良輔はここにいないし、脅しも利かない。
しかし良輔から見ればこのPDAがなければただ死ぬだけである。
放っておけば死にもの狂いで取り戻しに来るだろう。
例えば目の届かないところから不意打ちなどされては迷惑だ。
「――壊しておいたほうが安全か」
柊はここでこのPDAを壊すことを選択する。
このPDAにインストールした機能を失うのは少し惜しいが背に腹は換えられない。
「こんなことになるなら自分のPDAにインストールしておけばよかったよ、まったく」
ここまで良輔が使い物にならないとは思っていなかった。
ギリギリとPDAを持つ手に力を込める。
柊の握力は全然強くないがこれぐらいの精密機械ならちょっと力を込めるだけでも壊れるだろう。
ピロリン、ピロリン
そんなとき、壊そうとしていた【5】のPDAだけが鳴った。
「何だろ?」
柊は不思議に思ってPDAを操作し始める。
(あいつらが死んだのかもね)
このPDAには生存者をカウントする機能があり、生存者が減るとアラームを鳴らす。
今回のアラームも生存者が減ったことに対するものかもしれない。
(間抜けなやつら)
柊は内心で2人を嘲笑った。
「うん?」
しかし画面に表示されていたのは『メールが届きました』との表示。
柊はとりあえずメールを開く。
「ID:hayami?速水から?」
それは逸れた速水からのメールだった。
内容を読み進めていく。
ID:hayami
『桜君、今どこにいますか?脇道から元の道まで引き返していたならそれでいいです。しかし――もし、まだ脇道に入ったままならすぐにその通路から引き返しなさい』
メールを途中まで読み進めて柊は首を傾げる。
「――どういう意味だろ?」
柊は神河が引き返してくるのを恐れていたために未だ脇道を進んでいる。
通路を引き返せとはどういう意味だろうか?
「っ!?」
しかし、メールの続きを読んで柊は愕然とする。
『その先は袋小路になっています。つまりその先は――』
『――――行き止まりです――――』
「――嘘、でしょ?」
思わず柊はそう呟く。
この時になって柊は良輔が別れる間際に自分に言ったことを思い出した。
『柊っ!?そっちは駄目だ!』
一瞬だけ立ち止まって必死に叫ぶ良輔の姿。
「あ、あいつは知ってたんだ、だ、だから僕を追っては来なかったってこと?」
そう考えれば辻褄は合う。
PDAを奪われていた良輔が自分を追って来なかったことも。
良輔にも神河の狙いが速水であることはわかっていただろうが袋小路に逃げ込んで万が一にでも神河が追って来れば逃げ場がないからだ。
だから、追われるリスクを考えてでも良輔は速水の後を追ったのである。
「に、逃げなきゃ、今すぐに!」
もう柊にはPDAを破壊しようなどという考えは消え去っていた。
正確に言うと考えている暇がなくなった。
神河は自分がここに逃げ込んだのを知っている。
そしてついさっき、速水からメールが届いた。
それが意味することは現在、速水達は神河に追われていないということである。
速水達を見失った神河が次に来るところはどこか?
考えるまでもない、間違いなくここだ。
「――――止まれ――――」
ガシャッと何かを持ち上げる音と共に低い声が柊の耳に届いた。
思わず柊は後ろを振り返る。
「あ、ああっ」
そこにはクロスボウをこちらに向けている神河の姿があった。
「抵抗するなよ、抵抗すれば――殺す」
神河は殺意を込めた目で柊を睨みつける。
それだけでもう柊は恐怖で身が竦んでしまっていた。
自分が圧倒的に不利な立場に追い込まれている。
身に迫る死の恐怖で柊の膝は笑っていた。
「ま、待って!わかった、抵抗しない!だから――――撃たないで、おねがいよ!」
柊は敵意がないとばかりに両手を上に挙げる。
「――いいだろう。まずは、貴様のPDAをこちらへ投げろ」
「わ、わかったわ」
持っていたPDAを床に置き、それを神河へ向かって滑らせた。
カラカラと高い金属音を響かせてPDAは神河への足元に転がって行く。
「……、」
神河は滑ってきたPDAを無言で拾い上げた。
「ふむ、ダイヤの【5】か――」
神河はPDAの画面を見るとそう呟いた。
その言葉を聞いて柊はほくそ笑む。
柊が渡したPDAはもちろん良輔のPDAだ。
これでいくらか神河の警戒を緩めることができたはず。
「ね、ねえ、PDAは渡したんだし……クロスボウを下げてもらえないかな?」
「……、」
柊の言葉に神河は少し考えているようだった。
「ほ、ほら、僕のPDAは貴方が持ってるんだし、僕が抵抗するようなそのPDAを壊せばいいじゃない?」
「もちろん、そんなことされれば僕の首輪は作動して死ぬから僕が抵抗するはずがない、そうでしょう?」
「……まあ、いいだろう」
神河もその通りかと思ったのかクロスボウを下げた。
(チャンスっ!)
柊はその瞬間に思いっきり地面を蹴る。
こんな状況では神河の気分次第で殺されかねない。
しかし逃げようにもこの先は行き止まり。
――なら、神河を殺せるのはここしかない――
懐からスタンガンを取り出し、神河へと襲いかかった。
ここで距離を詰めなければあのクロスボウに射殺されるだけだ。
柊は近距離戦を挑むしか道がなかった。
「フンッ」
「きゃあっ!?」
しかし近距離戦においても軍配は神河に上がった。
神河はクロスボウを捨てて、柊のスタンガンに対してなんと徒手空拳で挑んできた。
最初に繰り出した挨拶代りの前蹴りで柊のスタンガンを蹴り飛ばす。
手に持っていたスタンガンを蹴り飛ばされ、その勢いで万歳する形になった柊のがら空きになっている胴体目掛けて放たれた神河の回し蹴りが炸裂し、柊は横に吹っ飛び、壁に激突した。
「ぐふっ!?」
柊の腹から意図せず空気が抜けた。
吐き気に柊が口を押える。
「ゴホッ、ゴホッ、くっ、んあっ?!」
そのまま近寄ってきた神河に柊は喉元を掴まれ壁に押し付けられた。
首を掴まれているために息が苦しい。
「がはっ」
「まったく油断も隙もないやつだ、このまま殺してやろうか?」
「ふがっ、くああっ!?」
両手で神河の腕を掴むがびくともしない。
柊と神河では地力が違い過ぎた。
締め付ける力が徐々に強くなっていき、柊の意識が遠くなりはじめる。
「もう一度だけ言う。動くな、動いたら殺す」
神河はパチンと折り畳み式のナイフを出して柊の首筋に当てる。
一筋の赤い血が柊の首から流れた。
「ひ、ヒィィ!?」
銀色に輝く刃に柊は動きを止めた。
その目からは涙が零れる。
――死にたくない――
「あっ、いやあっ!?」
「静かにしろ!」
何故か神河はナイフを使って乱暴に柊の衣服を破り始めた。
ビリビリと音を立てて上着の制服が破られていく。
瞬く間に制服は細切れになり、パサリとボロボロの布切れが床に落ちた。
柊の綺麗な白い肌が外気に触れる。
神河はそのままスカートへとナイフを伸ばしていった。
「何すんのよっ!やめて、やめてっ!」
スカートの留め具部分をナイフで切断され、スカートもまた衣服の機能を失い腰からすり落ちていく。
そして柊は下着姿にされてしまう。
細く、華奢な身体を白い下着でかろうじて隠していた。
「――念のため下着も剥ぎ取っておいたほうが安全か」
神河はそう呟く。
「いやっ!お願い、下着だけは取らないで!」
「ピーピーうるさいっ!」
「がはっ」
柊の叫びを無視して神河は少し壁から柊を離すと再び壁に叩きつけた。
その衝撃が柊にはもろに伝わり、息を吐き出す。
「もとはといえば貴様が武器を隠し持っていたのが原因だろうがっ!殺さなれないだけマシだと思え!」
神河はナイフで柊のブラを切る。
プチンと音を立ててブラが千切れ、柊の慎ましやかな胸が現れる。
「くうっ」
「これで最後だな」
「あっ!?嫌あああああああああああ!」
神河は嫌がる柊の下着を切り離すとそのまま布切れ1枚身に着けていない、生まれたままの姿になっている柊を突き飛ばした。
衝撃で柊が床へと倒れ込む。
「……、」
神河は柊をうつ伏せに寝かせるとその上に馬乗りになった。
「ううっ、酷い、こんなのって」
「私達は殺し合いをしているのだぞ?武器を隠し持っていた相手にこれぐらい当たり前だろう?」
柊は神河の仕打ちに涙ながらに抗議するが神河はそれを無視して柊の腕を後ろで組ませ、持っていたロープで両手と両足を縛る。
これで柊は完全に身体の自由を奪われてしまった。
「さて、まずは君の荷物を調べさせてもらうぞ」
神河はそういうや柊の衣服の残骸を漁りはじめる。
「うん?」
そして柊のスカートのポケットから出てきた1台のPDA。
画面を見るとそこにはダイヤの【9】が表示されていた。
「おい、これは何だ?」
「そ、それは……」
柊は青ざめた表情になった。
「もう一度だけ聞く、このPDAは何だと聞いている」
「……良輔のPDAよ」
「良輔?」
「ほら、速水と一緒に居た男がいたでしょ?あいつがそうよ」
「ふむ、そうか……なら――」
『このPDAはここで壊してしまっても別に構わないよな?』
「……えっ?」
神河の言葉に柊は自分の耳を疑った。
見れば神河は笑みを張りつかせながらPDAを握り潰そうとしている。
ミシミシと音が聞こえ、柊には自分の命が崩れ去って行く音のように聞こえていた。
「――――止めてっ!」
柊の叫び声に神河は手を止める。
「うん、どうした?」
「くっ!……そ、そのPDAは僕の物です。ご、ごめんなさい、嘘をつきました」
「ほう」
「がっ!?」
柊の腹に衝撃が走る。
神河が地面に転がっている柊の腹を思いっきり蹴ったのである。
「死にたくなければ嘘をつかずに正直でいることだ」
神河は明らかに遊んでいた。
柊にはそれが悔しく、腹立たしかったが自由を奪われた今、どうすることもできなかった。
「君に今からいくつか質問する。回答を拒否すればこのPDAは壊す、先ほどのように嘘をついてそれが発覚したときにも同じようにPDAを壊す――わかったな?」
神河の声に柊はコクコクと涙を流しながら頷いた。
「質問その1、君の名前は?」
「ひ、柊桜です」
「質問その2、君が行動を共にしていた2人との関係はなんだ?」
「お、お互いの首輪を外すために協力関係を結んでいました」
「では質問その3、協力していたというならあの2人のプレイヤーナンバーを教えろ」
「りょ、良輔が【5】、は、速水が、き、【K】です」
「――――そうか、速水のPDAは【K】か……ふふっ、今回のディーラーは中々味な真似をしてくれるじゃないか」
神河は速水のPDAが【K】であることを知るとクックックと笑い始める。
「あ、あの、あいつのPDAが【K】であることが何か――」
「君は私の質問に素直に答えるだけでいい」
「は、はい、ごめんなさい、もう二度と口応えしません……」
「――それでよし、質問その4、速水が首輪を作動させた回数は現在何回だ?」
「ぼ、僕の見ている前で1回です」
「質問その5、首輪を作動させられたプレイヤーは死んだか?」
「――はい?」
柊にはこの質問の意味が分からなかった、首輪を作動させられればその着用者は死んでいるに決まっているのではないだろうか?
「……君は私の質問に答えるだけでいいと言ったはずだが?3度目はないぞ?」
神河も柊が答えに詰まった原因に心当たりがあるのかただそう呟く。
あるいは神河は何か柊の知らないことを知っているということだろうか?
「はい、そのプレイヤーは死にました」
「質問その6、死んだプレイヤーの名前とプレイヤーナンバーを教えろ」
「死んだのは白井飛鳥、プレイヤーナンバーは【6】です」
「Qthに続いて6thも脱落したか……質問その7、そいつのPDAは誰が持っている?」
「りょ、良輔が持っています」
「質問その8、良輔と言う男はPDAを2台持っていたようだがもう1台は誰のPDAだ?」
「えっ?ええっ!?し、知りません、あいつが持っているのは白井のPDAが1台だけ、はぐっ!?」
その答えに神河は柊の頭をギリギリと靴で踏みつける。
「ほ、本当なんです!ぼ、僕はあいつが持っているPDAは1台しか知りません!」
「――まあ、いい」
その柊の様子に嘘はないと判断したのか神河は足をどけた。
まあ、神河の立場からすれば嘘であればPDAを破壊すればいいだけであるからである。
「質問その9、お前達がPDAにインストールしたソフトウェアの機能全てとインストールしたPDAを答えろ」
「ろ、【6】と僕の【9】のPDAには何も、【5】のPDAには拡張地図とネットワークフォン、【K】のPDAにもネットワークフォンが入っています」
「ほう」
その答えに神河は口の端を持ち上げる。
神河はすぐに【5】のPDAを調べ始めた。
「――あった、これだな」
そこには速水からのメール着信履歴があった。
神河はそれを読むと新しくメールを打ち始める。
ID:sakura
『速水さんの仲間は預かった。返して欲しければ1階が侵入禁止になる午後1時、2階に上がる階段で待つ、そこで決着をつけよう。もし来ないなら速水さんの仲間は殺す。ここにいる9thはもちろん、そっちにいる5thもPDAを破壊して死んでもらう。ゲームマスターとして逃げるなどというつまらない展開はさけてくれよ?』
とりあえずこんなものかと神河はメールを送ろうとするが……
(……、エレベーターに向かって侵入禁止エリアに巻き込まれて死ぬのは興ざめだな)
神河は杉坂を殺した後にエレベーターで6階に上がられては少々やっかいになると考えてエレベーターを破壊していた。
チキチキとメールを追加する。
『P.S エレベーターは既に破壊させてもらっている。速水さん、貴方に逃げ道はない』
(これでよし、後は……)
『神河神無より速水瞬様へ』
宛名を付け加える。
(フッ)
神河は微笑するとメールに速水への嫌味を付け加えることにした。
『神河神無より悲劇の王様、速水瞬様へ』
(これでよし)
神河はメールを速水へと転送した。
「舞台は整った、後は――殺すだけだな――」
「キャッ、ちょ、ちょっと何すんのよ!?」
神河は転がっている柊を肩に担ぐと1階から上がってくる速水達を向かい討つべく移動しようとする。
しかし柊は素っ裸であることから触られるのが恥ずかしいのか抗議の声を上げた。
「……ふむ、人質はいいがうるさいのは御免だな」
「ごふっ」
しょうがなく神河は柊の鳩尾に拳を叩きこんだ。
くの字に曲がるとぐったりと意識を失って身体から力が抜けていく。
「これでよし、行くとするか……」
神河は柊を連れて来た道を戻って行った。