第十二話 第97管理外世界
新歴65年 3月27日 ミッドチルダ首都クラナガン
「おっし、フェイト、アルフ、スケジュールを確認するぞ」
「うん」
「はいよ」
ここはクラナガンにあるマンションの一室。
ここ1年くらいは次元世界を飛び回っていた俺達だが、クラナガンは中継の拠点として良く使うので活動の拠点として抑えておいた物件だ。
何かと縁がある地上本部にもほど近いので立地条件はかなりいい。
「プレシアが現在研究中のジュエルシードだが、他の20個はやはりスクライア一族が全部発掘したらしい。俺達が発見したことは誰にも言ってないから、残り一つを探してこれまで頑張っていたようだが、ついに諦めてジュエルシードを時空管理局に届けることにしたそうだ」
「悪いことしたかな………」
「しょうがないさフェイト、あたしらにもあたしらの都合があるからね。それに発掘ってのは基本早いもん勝ちだよ、先にとられた方が悪いのさ」
アルフが言うのは正論だが、先にとられたものを非合法な手段で奪おうとしている俺は超極悪人だろう。
「ジュエルシードも1個だけじゃ何かと厳しいからな。俺達としては少しの間でいいから貸してほしいところだが多分難しい、スクライアが発掘したジュエルシードでも交渉の相手は時空管理局になってしまう、一応交渉はしてみるが成功確率は高くないと思え」
「どのくらい難しいの?」
「担当の局員が余程のボンクラか、もしくは余程のお人よしならうまくいくかもしれない。もしくは金にがめつい野郎なら賄賂次第でどうとでもなる。だが、遺失物管理部の局員は基本的に職業意識と責任感が強い、まだどんな特性を持つかの検査も終わってないジュエルシードを、いくら高名な工学者で管理局に多大な貢献をしているとはいえ、民間人に貸し出すことはないだろう。簡単に言えばリニスがたくさんいると思え」
この表現が一番しっくり来たようで、二人とも納得した表情をしている。
「ってーことは?」
「無断で借りることになるな」
「それって、犯罪じゃ………」
「まあそこは気にするな、せいぜい1か月くらいだからちゃんと返して謝れば多分大目に見てくれる。次元災害なんて引き起こした日には終身刑ものだが、脳死状態からの蘇生のための研究に使うだけなら罰金くらいで済むさ」
「交通違反のパワーアップバージョンみたいなもんかい」
どうやらアルフは既に乗り気のようだ、まあ、性格的に交渉なんかよりふんだくる方が向いているんだろう。 実はこれは罰金くらいで済むわけはないんだが、この2人に事実をありのまま伝える必要はない。
「ま、そんなもんだな、それでもまず交渉はするぞ。穏便に済めばそれに越したことはないし、金で解決できればそれでいい。常日頃から言っているだろう、金の力は偉大なりと」
「まあ、フェイトが乗る船がファーストクラスなのはいいことだと思うよ」
ついでに言えばチャーター機も結構使う。
やはり一般的な手段だけで次元世界を飛び回るのは時間がかかり過ぎるので、特別料金を払って時間を金で買った。
「私は別にビジネスクラスでもいいんだけど」
「諦めろ、お前をビジネスクラスに乗せた日にはプレシアから裁きの雷撃が落とされる。あの女は次元跳躍攻撃すら出来るからな」
「だけど、今の母さんの身体じゃあ………」
おっと、地雷を踏んでしまったか。
確かに現在のプレシアの状況では次元跳躍攻撃は難しい。 命を削る覚悟なら撃てるかもしれないが、まさに無駄でしかないな。 攻撃ではなくそれほど強くない魔法でも、次元跳躍して使えるのはあと1回、せいぜい2回ほどだろう。
「大丈夫だ、ジュエルシードの力を利用すればそれくらいできる」
「慰めになってないんじゃないかい、それ」
アルフ如きに突っ込まれた、鬱だ。
「とにかく、ジュエルシードは貨物船でクラナガンに来るみたいだから、お前達はこっちで待っていろ。俺は一旦ミネルヴァ文明遺跡のスクライアの交渉担当と打ち合わせしてくるけど、お前達がいても意味無いから」
次元間通信でも出来ないことはないが、やはりこういう交渉は直接会うのが基本になる。
どんなに文明が発達しようと人と人とコミュニケーションの基本は直に会って言葉を交わすことなのだ。
「ごめん、役立たずで」
「フェイト、落ち込むことはないよ、適材適所さ。こいつの特技なんて口先くらいしかないんだから任せておけばいいんだって」
「口先だけじゃないぞ、尻からカートリッジを出して魔法も使え―――」
「それはやめて」
「永久に封印しな」
速い、タイムラグがほとんどなかった。
「―――善処はしておこう」
スクライアの人間と交渉するのは本当だが、やることはそれだけではない。
時の庭園から別の肉体を持ち出してミネルヴァ文明遺跡で中身を取り換え、貨物船に乗り込みジュエルシードをばら撒くという作業がある。
まさか時空管理局もスクライア一族のお得意様でこれから交渉しようとしている人間(インテリジェントデバイス)が貨物船を襲うとは考えまい。
交渉が失敗に終わってその後にジュエルシードを奪いにかかるなら分かりやすいが、交渉の前に奪いにかかるというのは少々筋が通らない。
だったら最初から交渉する意味がないのだ。
しかし、クラナガンで待っているフェイト達がジュエルシードを運んでいる貨物船が“事故”にあったと聞いて、ジュエルシードを独自に回収しようとしても違和感はない。
落し物を勝手に拾って自分のものにしようとするようなものだが、強盗に比べれば遙かにましだ。
「まあとにかく吉報を待っていろ」
他にも幾つかの注意事項を残して俺はクラナガンを後にし、ミネルヴァ文明遺跡へと向かった。
中継地点として時の庭園とその転送ポートを利用するので、通常ではありえない速度で到着できる。
個人レベルでの空間転移ならば、時空管理局の許可さえとっておけばかなり自由に行うことができる。
当然、転移可能な場所は公的な転送ターミナルに限られるが、ミネルヴァ文明遺跡には発掘調査のための臨時ターミナルが置かれているのでそこに直通できる。
新歴65年 3月29日 第97管理外世界 日本 海鳴市
作戦は無事成功。
俺は疑われることもなく密航に成功し、ジュエルシードの下に辿り着いた。
方法は単純だが効果的で、金属製の近接格闘型魔法人形とデバイス(俺の本体)をそれぞれ別人の荷物として送っただけだ。
送ったのは俺のコピーともいえるデバイスで、俺に比べれば性能は劣るが、人間と同じように行動して宅配物を手配することくらいは余裕で出来る。
ちなみにそいつが使用した肉体は一般型である。
こういう貨物船はロストロギアなどを運ぶ際には専用の重要貨物室を使うが、その他の品は大抵同じ部屋にまとめて運ばれる。
事前に調べてはみたが間違いなくそういうタイプの貨物船だった。
そうなればやることは簡単、“デバイス”と”カートリッジ”を一つの箱に入れ、更に”魔法人形”を木箱に入れてそれぞれ荷物として貨物船に送り込む。
本体とカートリッジを入れてある箱は、音声入力式でロックが掛かるものを使用したので、中からパスワードを言えば開く。そして、俺の本体に多少の魔力が残っていれば、自力でふよふよ浮いて魔法人形の元に行くくらいは簡単だ。人形を入れてある木箱には、あらかじめ俺(本体)が入れるような隙間を作ってある。
そして、人形を本体に残った魔力で起動し、木箱から出て補給用のカートリッジをその場で食べて行動開始。
予め組んでおいたセキュリティ解除用の端末を使って貨物船のシステムを混乱させ重要貨物室へと突入。
という計画だったが、より確実性の高い方法に変更した。
「やっぱジュエルシードの本物が手元にあったのが大きいな、おかげで万事うまくいった」
プレシアの下にあったジュエルシードを魔法人形の内部に隠して貨物室に持ち込み、その場で発動したのである。
通常の貨物の検査はそれほど厳しいわけでもなく、プレシアの封印が完璧だったこともあってばれることなくジュエルシードは貨物船内部へ。
そして、1個の発動に呼応して、別室の保管庫にある20個のジュエルシードが反応した。貨物室と特別保管庫は距離的に20mも離れてない。これだけ近ければ、嫌が応にも発動する。
そこまでくればジュエルシードに魔力を注ぎ込んで“第97管理外世界、日本の海鳴市へ行け”と願いながら転移魔法を使うだけ。
近接格闘型の肉体は通常では魔法を使えないが、外付けの装置を用いて空間転移魔法を発動させるくらいは可能だ。
ちょうど97管理外世界の通常空間に貨物船がいる時期を狙ったので距離的にも問題なし。
俺がインテリジェントデバイスであるため願いが受諾されるかどうかが懸念されたが、事前に時の庭園のジュエルシードで可能かどうか試していたので問題はなかった。
というより予行演習は5回くらいやった。
実験によって分かったことは、“願いを叶える”という特性は俺にはどうやっても発揮できないということだ。
ジュエルシードの最大の特性とは過程を無視して結果を引き起こすことであり、例えば非魔導師が“どこか遠くに行きたい”と願ったとする。
すると、その人物が空間転移の理論や必要な魔力量などを知らなくても空間を飛び越えるという結果を呼び寄せることが可能で、まさに奇蹟を起こすロストロギアと言っていい。
だが、俺は所詮デバイス、機械の塊でしかない。
奇蹟を起こせるのは人間のみの特権であり、デバイスである俺には自分に記録されている結果しかもたらせない。
つまり、“どこかに行きたい”という願いを送っても、空間転移の理論や必要な魔力量や本来必要な技術的要素など、過程を知らなければ願いを叶えることは出来ないわけだ。
故に、俺が“アリシアに最適なレリックレプリカ”を願ったところで過程を知りもしない結果を引き寄せることは出来ない。
デバイスにできることは現在ある情報を用いて演算することだけなのだ。
とはいえ今回に限ればそれで十分。
俺は空間転移の理論や必要な魔力をデータベースに記録してあるから、問題なくジュエルシードを起動させることが出来る。
要は、俺にとってジュエルシードとは外付けの魔力炉心のようなものだということだ。
そして、海鳴市に21個のジュエルシードがばら撒かれることとなった。
どこに落ちたかはさっぱりだが、そこは仕方ない、手元にあった1個は超小型発信機を(物理的に)つけていたので、コレだけはすぐに回収できるだろう。
何よりも、この方法の最大の利点は“ジュエルシードが貨物室でいきなり発動した”という痕跡しか残らないことだ。
セキュリティが突破された形跡もなければ襲撃された形跡もない。
あくまで運んでいたロストロギアが予期せぬ理由で発動しただけであり、貨物船の乗組員の認識では運搬中のロストロギアが突如発動。
転移魔法のような反応を起こし管理外世界に落ちてしまった、というところだろう。
実のところこういう事例はそう珍しいことでもない。
転移機能を内蔵しているロストロギアは数多く、ロストロギアでなくとも転移魔法専用のデバイスなどもある。
それらを専門の知識を持たない貨物船の乗組員が誤って発動させ、運搬物が行方不明となってしまうケースは1年に10回以上は存在する。
そういった事態に対処するのも次元航行部隊の仕事の一環だ。
ジュエルシードを送り出したスクライア一族としては“もっと取り扱いを注意するように言っておくべきだった”というところだろう。
彼らは考古学者ではあるが技術者ではないので次元干渉型であることを正確に把握しているとは考えにくい。
せいぜい“願いを叶えるロストロギア”までが限界だろうし、考古学的な調査というのは実験以上に時間がかかることが多い。
俺達も文献ではなく実験によってその特性を正確に突き止めたのだ。
時間をかければジュエルシードに関する資料の整理も終わるかもしれないが、ジュエルシードの発掘からはまだ日が浅く、考古学的な資料だけで正確に把握できる可能性は低い。
管理局の遺失物管理部に届いたとしても、現段階でジュエルシードの特性を一番理解しているのは俺達だという事実は揺るがない。
「ともかくこれで、運搬中の“予期せぬ事故”によってジュエルシードは管理外世界にばら撒かれた。運搬会社も時空管理局に連絡は入れるだろうが現段階ではそれほど危険度が大きい案件ではないし、万年人手不足の管理局が次元航行部隊を即座に派遣できる状況じゃあないな」
これが管理世界なら地上部隊が回収に動くのだろうがここは管理外世界。常駐の部隊がいない以上やってこられるのは次元航行部隊だけだ。
しかし、予算と人員問題に悩まされる管理局は現段階で来られるとは考えにくい。
そしてこの状況ならジュエルシードの所有権は宙に浮いている状態だ。ロストロギアの類は、発掘した段階で発掘者のものになるわけではなく、一度管理局に預け、その安全性を確認した後に正式に所有権が保証される(だから俺たちは違法所持)
よって、所有権が決定していない段階で、”事故”によってばら撒かれた以上、所有権は曖昧になるから俺達が集めて裁判で争ってもそこそこ戦えるような感じになっている。
最も、一度は管理局に引き渡して個人の所有が可能かどうかの判断を行わなければ不法所持となってしまうが。
「ま、それはどうでもいいか、アリシアの蘇生が終われば全部返す予定だし、重要なのは発動したジュエルシード、それも環境を整えた実験ではない生のデータだ。この段階で計画は既に半分以上達成できたも同然」
後は人形を木箱に戻し、本体は離脱して再びフヨフヨ浮かんで箱にもどる。その後に音声入力で箱の鍵をロックすれば、貨物室の中は何事も無かったように元通りだ。あとは荷物としてミッドチルダのターミナルに着くのを待つだけ。
そして俺の本体を貨物室に送り込んだ俺の代替品が、ミネルヴァ文明遺跡の転送ポートを使用して時の庭園に転移すれば俺の行動内容に不審な部分はなくなる。そしてターミナルで、代替品が本体を含めた荷物を受け取り、俺と交代すればいい。 その後ジュエルシードの散らばり具合を確認した後、普通の交通手段でクラナガンのフェイト達と合流。
これによって『トール・テスタロッサ』のアリバイは完璧だ。
ミネルヴァ文明遺跡の転送ポート使用リストには間違いなくトール・テスタロッサがあり、クラナガンに降り立ったのもトール・テスタロッサ。
だが、肉体は同じものでも中身のデバイスは別というカラクリだ。
魔法人形とそれを制御するデバイスで成り立つ俺はこういった人間では不可能な入れ替えトリックが可能だ。
普段もこれに近い方法でアリバイ作りや詐称を行う俺である。
後はクラナガンに着きしだい管理局に問い合わせ、恐らくまともな返事は返ってこないだろうから裏金を使って事情を聞きだしてジュエルシードが“事故”で地球にばら撒かれたことを知れば良い。
残る懸念は例の結界を張っている第三者がどう動くかだが、一日程探ってみた感じでは特に反応はない(ついでに発信機をつけておいた1個は一足先にスフィアで回収した)
このまま不干渉の態度を貫く可能性が一番高いか。
「こういう計画って、大体予想外の出来事があるからなあ、さーて、どうなることやら」
新歴65年 4月1日 ミッドチルダ首都クラナガン
「トール! ジュエルシードが行方不明になったって本当!?」
貨物ターミナルで中身すり替えトリックを行い、拠点のマンションに着くと同時にフェイトが大声で詰め寄ってきた。
「ありゃ、どうやって知った?」
「ミネルヴァ文明遺跡で何度か一緒に発掘した人達が次元通信で伝えてくれたんだけど………本当なの?」
なるほど、盲点だった。
俺達“テスタロッサ一家”はここ1年ほどしか活動していない新人発掘チームだ。
しかし、AAAランク相当の8歳の女の子とその使い魔、さらに保護者のAランク魔導師という異色な組み合わせだけに結構目立つ。
ミネルヴァ文明遺跡にいた他の発掘チームの中にもそれ以前からの知り合いが何人かいたから、俺達が1年間“ジュエルシード”を探していることを知っている奴も中にはいたはずだ。
恐らくは親切心で連絡してくれたんだろう。 それにフェイトは発掘者たちの間で人気だったしな。
うむ、まこと人の世の縁というのは奇妙なり、こんな形で時空管理局から情報を引き出す時間を省くことが出来ようとは。
「俺の方でもちょっとした伝手で知ったから多分間違いないな。何しろジュエルシードは“周囲の願いに反応して最適な魔力を紡ぎだす”なんて特性を持っている。乗組員が『転移魔法でも使えれば楽なんだけどなあ』とかなんとか思ったら変な形で発動してしまうかもしれないからな」
「そっか、魔法を使えない人間はそういう風に考えるものだったっけね」
意表を突かれた風にアルフが首を傾げる。 この点は高ランク魔導師にありがちな盲点だ。
単独で空間移動が出来るから、普通の人間が旅客機を使う時にどんな感想を持つかということがわからない。
多分、次元航行部隊に勤める非魔導師のオペレータの傍にジュエルシードがあれば、俺が言った通りの願いに反応してジュエルシードは発動する気がする。
「とにかく扱いが難しいロストロギアだからな、しっかり封印処理を施してバルディッシュのようなデバイスにでも入れとかないとどんな事故が起きるか予想できん」
スクライア一族がどの程度の処理をしていたかは謎だが、流石に至近距離でジュエルシードを発動されれば連鎖的に発動するのも無理はない。
だがしかし、仮に俺がいなくとも発動していた可能性はゼロではないというのがネックだ。
貨物船への襲撃者が存在しない以上、これはあくまで“事故”として扱われる。 そうなればばら撒かれたジュエルシードの所有権は微妙なことになってくれる。
何しろ純粋な善意からジュエルシードを集めようとする者もいるかもしれないような状況だ。
「それでトール、一体どうするんだい?」
「他人の不手際なのか不幸なのかは分からないが、考えようによっちゃ千載一遇のチャンスだ。俺が聞いた話では近くにあった管理外世界に転移したんじゃないかってことだから、直接行って回収しちまおう」
「分かった」
躊躇することなくフェイトが頷く、まあ、プレシアを助けることが出来るかもしれない“願いを叶えるロストロギア”がそこにあるのだ。
管理外世界では魔法を使ってはいけないとか、その辺のことは頭にないんだろう。 ことプレシアに関することなら、フェイトはとことんまで一途で、かなり思いつめてしまう傾向がある。
だが―――
「俺は時の庭園を経由して現地に向かうが、お前達は管理外世界への観光ビザと滞在許可をとってから向かえよ、じゃなきゃ違法滞在になるから」
その辺のことはきっちり守らせるというのがプレシアとの約束だ。
俺の稼働年数はそろそろ45年に届き、管理外世界での活動許可などはかなり昔に取得してあるし定期的な更新も済ませてある。
これには免許のゴールドドライバーのような制度が存在している。
許可を取ってから10年以上経過し、通算で3年以上管理外世界で活動していても違反を起こさなかった場合は、かなり自由に管理外世界と往来できるようになるのだ。
しかし、フェイトとアルフが管理外世界の活動許可を取ったのはつい最近で、各管理外世界ごとに別々の申請を出す必要がある。
そういう事情もあって俺達の活動範囲は基本的に管理世界に限られていた。
「無理だよ! 管理外世界の観光ビザの発行は半年くらい前から申請しなきゃダメだって………」
「何言ってんだいトール! そんなことしてる時間なんてないだろ!」
と、二人から一斉に反論が飛んでくるが。
「甘いな二人とも、世の中には“金銭”という便利なものがある。ついでに“大人の都合”というものもな」
必要な場所に必要な金額を届ければ、管理外世界への観光ビザと一か月程度の滞在許可は取ることが出来る。いくら時空管理局が次元航行を取り締まろうと、この手の話を人間社会から失くすことは不可能だ。
「ひょっとして………」
「アンタ………」
どうやら二人とも悟ったようだ。
「なあに、あるところの局員が近々マイホームを購入したかったとしよう。そこでテスタロッサさんが大株主になっている不動産会社にいい物件がないかと相談に行った際、もし、娘の旅行の件で便宜を図っていただければ、このような物件を格安で提供できるよう手を尽くします。と言われて首を縦に振った、ただそれだけの話だよ」
実話である。
その男にはただ、娘(フェイト)が急に旅行に行きたいと言い出して困っているんだが、何とか出来ないかと相談してちょっと“大人の会話”をしただけだ。
高価な酒やグラスセットなんかも贈ったが、あれはただの新しい友人へのプレゼントだ。
断じて賄賂などではない。けっしてない。
「………」
「………」
二人は絶句、子供には教えられない大人の話だったか。 例え話という建前だが、似たようなことをやったということは理解した様だ。
時空管理局の局員とはいえ人の子だし家族サービスも必要だしねえ。
「そういうわけで、あと三日もあれば管理外世界への滞在許可は降りる。俺は先に行って拠点になるマンションの確保とかカートリッジの運びこみとか簡易的な転送ポートの設営とかをやっとくから、お前達が到着し次第ジュエルシードの探索と回収を開始するぞ、要はいつも通りだ」
遺跡でジュエルシードを発掘する時も常に俺が物資や情報を集める後方支援部隊で、フェイトとアルフが実働部隊という役割分担だった。
今回もやることは大して変わらない。
「………うん、了解」
「準備はアンタが済ませて、あたしらが探索だね」
打ち合わせも終了し、俺達は俄かに行動を開始する。 管理外世界に行くのも初めてというわけではないので、自分達の準備は自分達でやってもらう。
ジュエルシード探索専門の遺跡発掘屋、テスタロッサ一家(一部では有名)の出陣である。
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ようやく次回無印開始になる…… プロローグが12話とは、また長いなあ。