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No.22717の一覧
[0] 転生トラック野郎達[みさき](2010/10/24 21:56)
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[22717] 転生トラック野郎達
Name: みさき◆16fe1895 ID:3b4d0101
Date: 2010/10/24 21:56
「こんにちは」

「はい、どなたですか?」

「本日隣に引っ越してきました田中と申します。これ、菓子織です。
仕事の都合であまり家にいないかも知れませんが、どうか今後ともお付き合いよろしくお願いします」

「まあまあどうもご丁寧に、こちらこそよろしくお願い致します。
ところで……失礼でなければお仕事の内容、訊いてもよろしいかしら?」

「ああ、はい勿論です。
中国地方を中心に『転生トラック乗り』をやっています」





 転生トラック野郎達
    1





ん、転生トラック乗りが何かって?
ああ、あんた素人か。分かった分かった、特別に丁寧に教えてやるよ。

 【転生トラック乗り】
読んで時の如く、轢いた相手を様々な世界に転生させる特殊技能の持ち主の事さ。転生トラック乗りが職業として認められて40年以上、その始まりは最初の転生トラック乗りである瀬川卓真が交通事故を起こした時、跳ねられた筈の被害者が空間の裂け目に呑み込まれていく姿を18人の目撃者が証言した事まで遡る。

不可思議な事に、跳ねたトラックには損傷が見あたらず目撃証言と瀬川自身の自首により被害者不在のまま裁判が執り行われた。
そしてその裁判の途中、弁護士の上空に裂け目が再び現れ被害者本人の筆跡で『俺は別世界に居る』と書かれた紙が落ちてくる。特異な裁判としてテレビカメラが入廷していた事もあり、このセンセーショナルな映像は日本はおろか世界中に大々的に発信される。

その後、世界中の科学の権威ばかりを集め瀬川の肉体を徹底的に検査した……結果、特殊な才能の持ち主が『トラックで他者を轢く』際に未知のエネルギーフィールドが発生する事が証明された。
そして通称『瀬川案件』と呼ばれた最初の事件から三年後、アメリカ科学界の権威である被験者『オリ・シュー』がエネルギーフィールドに突入し1ヶ月後、彼の字で書かれた一枚のレポートが裂け目から現れ世界は驚愕と歓喜に包まれた。
『俺は別の世界で生まれ変わり、新しい人生を楽しんでいる。この世界は最高だ!』
今ある肉体を捨て、より良い新しい世界へ生まれ変われる方法……『転生』が全人類に知れ渡った記念すべき日である────と歴史書には書かれるだろうとニュースでやってたかな。

「まあ! 初めて見ましたわ本物の転生トラック乗りの方!!」

「ハハ、まだ初めてから一年も経っていない若輩者です。お恥ずかしい」

「いえいえ、そんな事はございませんわ。ウチの子供なんて『僕も転生トラック乗りになるんだ!』って言ってきかないんですから、才能も無いのにねぇ」

「ハハハハ」

そう、転生トラック乗りになれる才能を持つ人間は意外と少ない。国に100人居れば多い方だ。
そして今でこそ子供の憧れの職業NO.1と言って過言ではない転生トラック乗りの存在は、全てが全て肯定的に認知された訳では……無いのだ。

転生トラック乗りの存在が世界法(認証案件第一号)で承諾された後、各国の政府は挙って転生トラックに乗れる才能を持った人間を探した。
最も多いのはアメリカ、日本、そして中国の平均400人組。その他の国は軒並み少ない、或いは全く居ないかのどちらか。俺は日本人なんで日本の話をしようか。

当時はケチで有名な日本政府だったが流石に空気を読んだのか転生トラック乗りの才能を持ち且つ政府に所属する者には特別な報酬と特権を与える法案を時の与党・野党全てが賛同し採択した。
具体的には年間5000万円の最低支給・本人及び三親等までの税金免除・国営及び市営施設の無料貸し与え……と言った所か。

さて、何処か話の内容に引っ掛からなかったかな? そう、これらの特権は『所属する事を選んだ者達』にだけ与えられるのだ。そして、この『所属するかしないか』が、ある事件と密接に関わってくる。
転生トラック乗りとしての才能を持つ者達の中には自分達に与えられた力を神からの祝福だとか宣ったり、他者に破格の値で転生の権利を売りつけたりする恐喝行為に走ったり、逆に転生したくない者を自分の気のまま無理やり転生させる輩まで現れた。

それらの小さな事件はやがて世界をも巻き込むレベルのいざこざに膨れ上がり、僅か一年で地球の全人口の優に3割が殺害・或いは望まれぬ転生をさせられていった。
これに対し、全ての国家は一時対立を中断し国家に所属しない転生トラック乗り達に対し協力して制圧に中った。皮肉なものだ、共通の敵が生まれた事により世界が仮初めとはいえ一つになったのだから。

そうして非所属且つ精神性に問題を抱える者達をある場所に幽閉し、残された所属者達を人類の希望の様に祭り上げ……世界は有史以来初の『完全平和状態』となり、西暦を廃止し瀬川案件から20年経った西暦2031年からPW1(平和世界歴一年)と変えた。

……勿論、今は殆どの人間は裏事情なんて知りはしない。全ての真実は偽りによって秘され、若者達は平和な時代を真実と信じ謳歌している。
ああ、何で俺がこんな事を知っているかだが……それは転生トラック乗りの才能を持つ者とそれを『監視』する者達にはキチンと悲劇の歴史を学ばせているからである。

……ん、監視者かい?
残念ながら誰がそうなのかは知らない。
そういうモノなのだ、転生トラック乗りとしての才能を見出された人間は所属する・しないに関わらず監視がつく。同じ監視されるなら、あんたはどっちを選ぶ?────そういう事さ。
巧くできてるよな。

「では、まだ挨拶廻りが終わってませんので……」

「あらあらごめんなさい私ったら、はい、では」

「では」

さ、辛気臭い話題は此処までだ。今度は俺の職務内容を紹介しよう。
現在日本の法律では転生に際して『審査』『承諾』『執行』の三段階に別れている。この審査ってのがくせ者、なかなか通る事は無い。

そうそう、審査に通らないからと転生トラック乗りに文句を言ったり危害を加えると捕まる。懲役15年以上・加えて転生が許可される事は生涯無く明ら様な監視者が24時間付いて来るハッピーなオマケ付き。
望めば突然の事故などの不慮の事態が陥らない限り30年以内に受理されるのだからこの法を犯そうと考える奴はまず居ない。日本では3件……だけだったか。

ま、そんな訳で毎日毎日トラックを走らせ人をバンバン轢いてる訳じゃない。飛び出してきた猫や犬や鹿とかは……許してもらいたい。
大体1日に多くて6件が精々か、ちなみに完全週休2日。まあ病院担当勤務のヤツなんかは大変だがな。申請者が危篤状態に陥った場合に限り、医師の判断と家族の同意に基づき期間短縮特例要項第2条『命の危機に瀕す者は、これを特例とし即時執行する』が適用されるからだ。

間に合わなかった、なんて言い訳は通用しない。生命活動を停止した生命には『転生効果』は発動されず、その行為は只の人殺しに堕ちる。
故に、病院担当者に選ばれる者は俺達転生トラック乗りの中でも特別にカッ飛んでいる選ばれた者だけが許される職務なのだ。

ま、俺は御免だけど。
一生地方担当のままでいいんだけど。
違いなんか報酬の桁ぐらいだしぃー、ふぅーんだ。

「どうぞよろしくお願いします」

「はいご丁寧に」

「どうぞよろしく」

「マジっスか、俺超リスペクトしてるんでヤベェじゃん!」

「今後ともよろしく」

「はいはい」

さて、挨拶廻りも終わった事だし仮眠でもすると────っと、どうやら仕事だ。急ぎでない限り仕事内容はメールで知らされる、猶予時間も多く設けられているのでよっぽどサボらない限り先ず問題なく転生させてやれる。

「どれどれ場所は……○×市△町1-10か、近いな。月見博信57歳独身。申請日PW29 6/14。
半年前に解雇通告を受け失職中、期間短縮特別要項第4条及び労働奉仕功績B+に該当。本日13:00に『転生対象者』認証、並びに認可。転生するを許可。
行動範囲及びルーチンは添付ファイルを参照されたし……っと」

ああ説明してなかったな、期間短縮要項はさっきの病院のアレと同じ様なモノ。高齢であればある程短縮率が高い。
労働奉仕は社会に対する貢献具合、B+ってのはかなり高い方だ。今年はPW41でこの月見さんは申請日PW29、申請受理平均年数が30年だから約18年の短縮さ。

余談だが、この月見さんのように歳を取ってから申請する人は多い。現在30代までの転生申請者は全体の4%程度、ところが40代を境にグラフは右肩上がりに増加する。
若い頃は夢も希望も溢れ、世界に何の不満も持たないのだが……歳老い衰えてゆく肉体を自覚すると転生を真面目に考え出すようになる。らしい。
癌等の死亡率が高い病を患った者であればより一層顕著になる、それでも一割程度の者は転生を由とはしない。

話が逸れたな。
んじゃまあ、サクッと轢いてくるとしますか。



「……はあ」

何もしていなくても溜め息が洩れる、いや何もしていないからか。永年勤めた会社から解雇通告をされた時、彼──月見博信は迷わず辞職する事を決めた。
両親を若くして亡くし、妻と子を交通事故で失ってから彼の心を支える柱は折れたままだった。ただ必要とされるままに働き、必要が無くなったから辞めた。

貰った退職金に手を着ける事も、いや貯金すら崩さず四畳半のアパートと公園を行き来する生活。
疲れた。人生に疲れた。

そして今日も何もせず家に帰る、それはほんの100m足らずの短い距離。
閑散とした昼下がりの住宅街には、車や人も疎らにしか通らない。そんな場所へとスピードを上げて走り続ける一台のトラックがあった。

「対象を視認した、データを送る。確認されたし」

《了解》

見た目は何処にでもある普通の運送用トラック、だが中身は全く別物。転生先から得られた僅かな世界情報、その中のほんの一部の世界はこの世界よりも文明が発達している場所がある。
得られた技術は完全に秘匿情報とされ、その一部を卸されたこの『転生専用トラック』は現在の技術に換算して150年先を行っていると言われている。

《確認しました、99.9%本人に間違いありません。どうぞブッ飛ばしちゃってください》

「了ー解」

様々な革新的技術の中で今、最も有用な機能は静穏性だろう。対象者に接近を感じさせず唐突に視界に現れ跳ね飛ばす、注意が散漫であればある程良い。この『課程』こそが最も転生トラックの能力を引き出すのだ。
詳しい理屈を知りはしない、方法だけ知っていれば転生トラック乗りは───田中典成は充分だ。

だから月見博信は気付かない、自分に迫るトラックの存在に、そして気付いた時『月見博信』の最後に見た光景は……一台のトラックと……爽やかな笑みで此方を見つめ右手の親指をグッと立てている運転手の姿。
ドカッ
そして彼は転生した。



「状況終了。
帰っちまうが良いか?」

《はい、少々お待ちを───特急案件が2つほど入ってます》

「担当は?」

《佐藤雄介様ですね「あーないわ、パスパスパス」はい。では本日の業務は終了です、お疲れ様でした》

「はいお疲れさーん」

とまぁ、これが俺の仕事ってワケさ。
さて丁度いい事に明日は休みだ。俺の同僚達を紹介するとしよう。じゃ、おやすみ。


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