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No.22515の一覧
[0] それが答えだ!! 2nd season[ウサギとくま2](2010/11/01 18:05)
[1] 一話 ププローグ[ウサギとくま2](2010/11/01 18:07)
[2] 二話 俗・修学旅行[ウサギとくま2](2010/10/17 14:05)
[3] 三話 俺の弟子がこんなに強いわけがない[ウサギとくま2](2010/10/20 15:24)
[4] 四話 これからドゥンドゥンキスしようじゃねえか![ウサギとくま2](2010/11/02 11:14)
[5] 五話 いやあ、美しい思い出でしたね[ウサギとくま2](2010/11/13 20:38)
[6] 六話 修学旅行の軌跡 the 3rd[ウサギとくま2](2010/12/09 21:14)
[7] 七話 わ![ウサギとくま2](2011/01/09 00:16)
[8] 番外編ノ一[ウサギとくま2](2011/03/31 16:55)
[9] 八話 僕らの魚(うお)ゲーム[ウサギとくま2](2011/06/01 18:04)
[10] 番外編ノ二 それから……[ウサギとくま2](2012/05/21 05:30)
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[22515] 八話 僕らの魚(うお)ゲーム
Name: ウサギとくま2◆7039b1bb ID:625ea6cf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/01 18:04
ではまず俺の自己紹介から始めてみようか。
やあ俺の名前はナナシ! 反対から読むとシナナだ!
勉強にスポーツに青春を燃やす心優しきナイスガイさ!

<ちょっとちょっとマスター!? 何いきなり自己紹介とかしてるんですか!? そういうのってもっと最初にやることですよね!? よりにもよって八話でする意味が分かりませんよ!>

この八話から見始めた人への配慮だ。

<そんな人いませんよ!?>

いや、一人くらいはいるはず。
俺はそういったマイノリティ(少数派)を大切にしていきたいんだ。

<そんなどうでもいいマイノリ人よりも、私のことを大切にして下さい!>

大胆に自分の話に持っていくな……。
お前のことは十分大切にしてるだろ。
たまに窓から投げたり。

<あれって愛情表現だったんですか!? 遠回り過ぎて理解できませんでした! つ、つまり……私ってマスターに愛されてる? 愛され時計(ガール)だったんですか!>

そうだぞ。

<そ、そうだったんですかー……えへへっ、嬉しいです。 あれ? でも散花ちゃんとかは投げませんよね? あと茶々丸も、ついでにエヴァさんも>

そりゃ投げたらかわいそうだからな。

<私はかわいそうじゃないんですか!? ていうかやっぱり愛情表現じゃないじゃないですか! じゃないじゃないですか!>

じゃないじゃない、うるさいな……。

<そりゃ連呼もしますよ! 連呼をやめて欲しかったら、私をペロペロして下さい!>

番外編引っ張んなよ……。

<え? こ、今回って番外編じゃないんですか?>

違うぞ。

<本編なのにいきなり自己紹介とか始めちゃったんですか!?>

別に俺がいつどんな場所で自己紹介してもいいだろ。
例えば全校集会でいきなり自己紹介してもいいだろ?

<駄目ですよ! 全校集会で自己紹介をするのは、新任教師だけって決まってます!>

えー……じゃあ覆面強盗の時とかは?

<いいですけど捕まりますよ!? 覆面の意味が何一つとしてありませんよね!?>

あれって恥ずかしいから覆面してるんじゃないの?

<違いますよ! あ、いや、もしかしたら、恥ずかしいから覆面を着ける様な奇特なマイノリティ(少数派)もいるかもしれませんけど……>

俺はそういったマイノリティ(少数派)を大切にしていきたいんだ。

<話がループしてます!?>

俺ループものって好きだから……。

<それ一話の台詞ですよね!?>

よくそんな細かいこと覚えてるな……。
……。
もしかして――お前、タイムリープしてね?

<してませんよ! ただマスターのことを好きだから、全部の言葉を記憶してるだけです!>

お前結構キモイな!

<キモくないです! いや確かにちょっと自分でもキモいと思いますけど――恋する乙女だからいいんです! 恋する乙女はどれだけキモいことしても許されるんです>

凄いな恋する乙女……。
俺もなろうかな……恋する乙女。

<い、いやマスターには無理かと……>

なんだと?
お前アレか。俺を『恋』という感情を理解できない冷血人間だとでも思ってるのか?

<い、いえ『乙女』って部分が無理だと言ったんですけど……。あ、でもマスターの『恋』について聞きたいです>

恋ってのはアレだよ。
そうだな。
例えるなら……『引き出しの奥に仕舞い込んだチョコレートの様に、甘くて……仄かに苦い』……そんな感じだ。

<表現が乙女ちっくでキモいです!>

キ、キモくねーよ!
お前の方が断然キモい!

<いーえ、マスターの方がキモいです!>

お前の方がキモい!

<マスターキモい!>

だからその言い方だと、キモさを極めた人みたいな感じになるからやめろ!

「もう貴様ら主従がキモいってことでいいんじゃないか?」

あ、エヴァ。

<わあああ!? エ、エヴァさんが私とマスターのモノローグ空間に侵入してきた!? こ、ここは私とマスターだけの場所なんですよ!? 勝手に入り込むなんて、吸血鬼の頭文字の『き』はキモいの『き』ですね!>
「ぶち殺すぞ貴様」

吸血鬼の『ゆ』はユニバーサルの『ゆ』かな。

<吸血鬼の『う』! 浮き輪好きの『う』!>

吸血鬼の『け』! 血糖値高めの『け』!

<吸血鬼の『つ』! つまるところの『つ』!>

吸血鬼の『き』! 吸血鬼?の『き』!

と、いうことで、エヴァの称号は『キモいユニバーサル浮き輪好きの血糖値高めはつまるところ吸血鬼?』に決定だ。
やったね!

<おめでとうございます! パチパチ!>
「何だかよく分からんが、取りあえずこう言っておこう。――ぶち殺すぞ貴様ら」





第八話 僕らの魚(うお)ゲーム





タイトルまで長かったな……。
このまま意味不明なやり取りが続くと思ったぞ。
その内、タイトルから上の方が長くなったりするかもな……。

さて、突然だが、俺達は現在マラソンの真っ最中だ。
先頭集団は桜崎刹那、そしてその刹那に腕を引かれる近衛近乃香。

「ど、どないしたんせっちゃんっ?」
「申し訳ありません。ですが――」

そしてそれを追うゆえっちこと綾瀬夕映、早乙女ハルナ。

「ひぃっ、ひぃっ……! い、一体何なんですか……!?」
「そ、そうよっ、桜咲さんっ、何で急に走り出してるのよぉ!」

そして最後尾で俺。

「……うぷ」
<マスター!? だ、大丈夫ですか!? 今にもキラキラした物を吐き出しそうですけど!?>

今日は心なしか体調が悪いので、走ることが俺の体に酷く負担をかける。
決して、若い奴らの体力に追いつけていないわけではない。マジで。

何故こうして、京都の町並みを走ることになったのか、それは数分前に遡る。




■■■


ネギ君と合流した俺達は、そのまま京都観光に行く……と見せかけて、何故かゲームセンターに入った。
最近の若い奴はしょうがないな、と溜息をつく俺。

「せっかくの京都なのに、いきなりゲームセンターとか……これだから最近の若者は……」
「と言いつつ、誰よりも早く両替機に向かったのは誰です?」
<シー! 夕映ちゃんシー! そう言うこと言っちゃ駄目です! マスターのプライドが傷つけられちゃうでしょっ?>

各々、好きなゲームで遊ぶ。
俺はと言うと、刹那と一緒に近乃香に引っ張られ、プリクラを撮ったり。

「せっちゃんと写真撮るなんて久しぶりやねー」
「……そ、そうですね」
「お、これ落書きとか出来るのか。よし、隅の方に血の涙を流してる子供を書こう」
「やめて(下さい)!」
「じゃ、じゃあ……『私達深爪しすぎ!』って書こ――」
「だからやめて(下さい)!」

どうやら深爪なのは俺だけで、二人は深爪じゃなかったようだ。
落書きもしていない、何の面白みもないプリクラを手に笑顔を浮かべる近乃香。
刹那はその笑顔を見て、一瞬だけだが子供の様な満面の笑みを浮かべた。
その後、近乃香達がゲームに夢中になっている隙に、ネギ君とアスナがこそこそと俺の元へやってきた。
ちなみにどろどろと俺の元へやってきたら、その人は多分体が溶けているに違いない。

「じゃあ、僕とアスナさんは行きます。このかさん達のこと、お願いしますね」
「ん? ああ。学園に戻ったら、エヴァと茶々丸さん、あと爺さんに宜しく言っといてくれ」
「ハイハイ――って馬鹿! 何であたし達だけ先に学園に帰るみたいな話になってんのよ!?」
「腹が減ったからだろ?」
「お腹空いたらその辺のコンビニでパンでも買うわよ! 何でわざわざ学校に帰って食べるのよ!? あたし達は馬鹿か!?」
「ア、アスナさん、もう少し小さな声で……他の生徒さん達にバレちゃいますよ」
「ここだけの話、アスナがノーパン趣味なのはバレてたりするぞ?」
「誰がノーパン趣味よ!? 私だって好きでノーパンやってんじゃないのよ!」
「ア、アスナさん……! だ、だから声をもっと控えめに……! そ、それから人の趣味についてあんまり言うのはどうかと……」
「だから趣味じゃないつってんでしょうが! 確かに暑い日とかだと涼しくて気持ちいいけど! ……あ」

突然のカミングアウトをするアスナは、とりあえず置いといて。
ネギ君とアスナはこそこそと、他の生徒に気づかれないようにゲームセンターから出て行った。
無論、学園に帰るわけではなく、親書を届けるためだ。
その後、俺とシルフ、早乙女、夕映、刹那と近乃香という5人と1つになった俺達で、京都を散策することになったのだ。
やいのやいのと、京都の町並みを眺めながら、女子中学生特有の姦しさで歩く俺達(女子中学生ではないシルフが一番うるさかったが)

しかし、それはそう長く続かなかった。

「――っ!?」
「は、はえ? ど、どうしたんせっちゃん?」

近乃香の手を取り、突然走り出す刹那。
突然の刹那の奇行にあっけに取られるが、すぐさま後を追う俺達。
一体、何があったのだろうか?

<むむっ、マスター。どうやら追っ手のようです>
「追っ手だと?」
(はい、どうやら。まさか本当にこんな昼間から仕掛けてくるとは……)

刹那が念話で割り込んでくる。
どうやら本当に真昼間っから仕掛けてきたようだ。
探知魔法で数を調べるよう、シルフに促す。

<えっと、数はいち、にー、さん……あー、結構いますね>

そんなにいるのか……全然気づかなかった。
恐らくはその手のプロだろう。
ちなみにこの手のプロは、どれだけプロレベルが高かろうと選手になれたりしない。
プロ追っ手大会とかないからな。

(取りあえず、できるだけ追っ手から距離を離しましょう!)

そして冒頭に戻る。


■■■


かれこれ数十分がはマラソンをしているが、一向に追っ手を巻く気配はない。
追っ手達は、つかず離れず、俺達の後方を陣取っている。
それもそうだろう。
巻こうにも、早乙女や夕映がいるため、あまり早く走れない。

そして追っ手を巻けない理由がもう一つ――

「クッ――」

一筋の光――どこかから飛んできた細い針が数本、近乃香に突き刺さらんと、飛翔する。
それを目にも止まらない速さで、全て受け止める刹那。

<マスター!>

シルフの声に反応して、背後を見る。
どうやら俺と、その前にいる夕映達も狙われているようだ。
数本の針が飛んでくるのが見える。

先ほどの刹那の挙動を真似するように、手を虚空に走らせる。

「セィッ――あつっ」

刹那のように上手く行かず、針が全て顔に刺さる。
大丈夫、痛くない、顔なら大丈夫だ。
それに針治療と思えば、逆に健康になった気がする。
続いて、数本の針が飛んでくるが、もう手で受け止めようとしても無理なので、全て顔で受け止めることにした。
ただし、右目には刺さらないように、右目を閉ざして。
ここだけの話、右目は俺の弱点なのだ。
仮に右目を槍的な物で突かれると死ぬ。

<うわぁ、マスター……顔が何かサボテンみたいになってますよ>
「お前もサボテンにしてやろうか!?」
<遠慮します……しかし、これじゃ埒が明かないですねー>

シルフの言うとおりだ。
このまま荷物(早乙女、夕映)を連れて走ってたんじゃ、追っ手を巻けない。
追っ手を巻けないとこのままじゃ、俺の顔がハリネズミのハーリーのようになってしまう。
どうしたものか……。
刹那に念話を送って話し合うか。

(――先生!)

と、いいタイミングで刹那が念話を送ってきた。

(先生、このままではマズいです……!)
(確かに。夕映や早乙女達も危ない。――ここで二手に分かれるべきか?)
(では、私がお嬢様を守ります!)
(頼む、俺は追っ手を何とかする)
(<じゃあ私は会計士!>)
(はいお願いします、では――))
(<刹那ちゃんもスルースキルが高くなりましたね……>)

シルフが何やら寂しそうに呟いている。
この状況で刹那に突っ込みを望むのは酷というものだ。
刹那は突っ込みレベル低めだからな。

刹那が周囲を素早く見回し、『この先映画村』と書かれた看板に目を止めた。

(――お嬢様を連れて映画村に行きます。流石にあそこなら下手に攻撃はしてこないはず――!)
(<らめぇ!?>)
(な、何ですかシルフさん!? 映画村では問題でも――!?)
(あ、気にしないでくれ。飛んできた針がシルフの敏感な(らしい)場所に刺さっただけだ)
(そ、そうですか。で、では――このまま映画村へ)
(よし、じゃあ俺が早乙女と夕映を止めるからその隙に)
(はいっ)

取りあえずは、早乙女と夕映の気をこちらに向けなければ。
このまま走っていても埒が明かない。
俺は二人に接触する為に、一気に加速した!

「うおおおおおおーー……おぅ、ふぅ、はぁ……」

しかしガッツが足りず、2秒ほど加速した辺りで減速してしまった。
肩に置こうと思った手も、空を切る。
仕方ない、呼び止めるか。

「おいっ、お前らっ、ちょっと、ちょっと止まれっ……と、止まれってっ……! と、止まってください……!」

必死で目の前を走る二人に声をかける。
しかし、俺は疲労で声が上手く出ず、二人は走ることに必死で聞こえていないようだ。
し、しかたない。
こうなったら最後の手段――!

「止まれえええええええ!」
「へ? ちょっ!?」
「きゃう!?」

俺は最後の力を振り絞って目の前の二人の背中に飛びついた。
そのまま地面に押し倒す。

――ズサー。

顔文字で表すと、こんな感じで⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡三人仲良く、地面に滑り込む。
俺はすぐさま地面から顔を上げ、グッと親指を立てながら刹那を見た。

(よし、行け!)
(……)

しかし、刹那は動かない。
それどころか、ポカンとした顔でこちらを見ている。

<いや、そりゃ二人を止めるって、そんな物理的に止めるとは思ってもいなかったでしょうからね>

……確かに、ちょっと短絡的過ぎたかもしれない。
しかしこうでもしなければ、二人は止められなかった……はずだ。

いや、待てよ。
よくよく考えれば、シルフに声を掛けさせればよかったんじゃないか?
……い、いや、してしまったことは仕方がない。

「ど、どないしたん三人とも!? ……な、なんで地面に仲良く寝転がってんの?」
「――は!? お、お嬢様――失礼!」
「ひゃっ! せ、せっちゃん!?」

ポカンとしていた刹那は、近乃香に言葉に我を取り戻し、近乃香を抱きかかえた。
いわゆるお姫様抱っこだ。
抱えられた近乃香の顔が赤くなる。

「お、お嬢様。そ、そのナナシ先生達は……三人でお手洗いに行くようです。で、ですから私達は先にこの先の映画村へ――」
「はぇ? そ、そうなん? それやったら三人待ってから一緒に行けばええんとちゃう?」
「い、いや、そ、それは、そ、そのっ……その――ええい御免!」
「はわっ」

誤魔化すように、地面を蹴り、そのまま大きく飛翔する刹那。
看板、屋根と足場を蹴り、すぐに見えなくなってしまった。
刹那達がいなくなったことを見届け、俺は一仕事やり遂げた男の顔で立ち上がった。

「やれやれ、行ったか」
<ですね、しかしアレ傍から見ればどう見えるんでしょうね? 女の子をお姫様抱っこする女の子。やっぱりちゅっちゅしてる関係に見えるんですかね?>
「知らんわ」

さて、こうしてはいられない。
俺も仕事をしなければ。
もし追っ手の狙いが近乃香なら……

<んー、追っ手の人達が……あ、私達を無視して映画村の方に行きましたね>

周囲に引き続き探知魔法をかけていたシルフが結果を伝えてくる。
やはり、あくまで狙いは近乃香だけ。
俺達を狙っていたのは、足止めのつもりなんだろう。
ならいいさ、動きやすい。
近乃香達に集中しているのなら、その分背中ががら空きのはず。

「じゃ行くか」

俺は映画村の方角へ向かって走り出そうと、一歩を踏み出し――

「え? ――ぎょぎょ!?」

何者かに足を掴まれ、再び地面にズサーしてしまった。
思わず魚君のような悲鳴をあげてしまう。
誰だ俺の足を掴むのは、と背後を見てみる。


――青筋を立てた少女が二人いた。


「一体何をしてくれてるですか……ねえ?」
「そしてどこに行くつもりなのかなー?」

地面に倒れた時に付いた砂を払いつつ、立ち上がる二人。
怒っている、これは間違いなく怒っている。
そりゃ突然背中から押し倒されて地面に倒れ付したら怒るだろう。
それが笑って許されるのは、弾丸が飛び交う戦場くらいだ。
そしてここは戦場ではなく、京都。

<まずはこの二人を何とかしなきゃですね……>
「……ああ」


■■■

俺はダン○ンロンパで練習した、論破テクニックで、二人の怒りを納めようとしたが、それは失敗した。
まあ、そういう時はとにかく謝るしかない。
俺は誠心誠意謝罪をし、究極の謝罪である大宇宙土下座(土下座を通り越し、一見すると休みの日にテレビの前を陣取るお父さんの様な体勢)を披露しようとした辺りで、周りの視線に気づいた二人に止められた。
誠意を込めた謝罪は、人の心を許しに向かわせる、教師としてそれを教えることができたのは良かった。

さて、許された俺と二人は向かい合う。
ジト目に定評のある夕映が、映画村――刹那と近乃香が向かった方角を見ながら言った。

「それであの二人は?」
「さ、さあ? 知らないけど」
「相変わらず先生は、嘘が苦手ですね。――大方、私たちを押し倒したのは、あの二人を二人っきりにするのが目的、違うですか?」

す、鋭い……。
俺の僅かな動揺を感じ取ったのか、フッと笑う夕映。

「当たり、ですか」
「ほー。で、何であの二人なの? あの二人って仲良かったっけ? あんまり絡んでるところ見たことないけど」

むむむ、と眼鏡を光らせながら唸る早乙女。

「このかから聞いたことがあるです。――二人は幼馴染、と」
「幼馴染!」

その言葉が何かの琴線に触れたのか、興奮した様子で目を輝かせる早乙女。

「つ、つまりこういうこと? 昔は中が良かった二人。でも歳を経て再会した二人は、昔のように振舞えない――ああ、どうしよう、もっと仲良くしたいのに! あの頃みたいにキャッキャウフフしたいのに! そうだ、もうすぐ修学旅行――これを使わない手はない! フフフ、そうと決まればあの使いやすそうな教師を引き込みましょう! 教師を使えば、二人っきりになる方法はいくらでもあるわね――まあ、あの教師のことだから、ちょっと甘い物で釣れば一発よね。――やってやるわ、今度の修学旅行で、絶対にこのちゃんをモノにする! ……みたいな感じ!?
「次のお前の通知表に『個人的に嫌いです』って書いてやる」
「ふ、ふふっ。こ、これは薄い本が出るわね――!」
「聞けよ」

人のことをさり気無く馬鹿にしつつ、自分の世界に入る早乙女。
まあ、いい。勝手に納得してくれたなら、説明の手間が省ける。

「うん、まあそういうわけで、二人については放って置いてくれ」
「……そういうことなら。このかが喜ぶのならいいです」
「おっけーおっけー」

同じ部の仲間だからか、あっさりと納得してくれた。
これでよし。
さて、俺もアイツらを追わねば……!

「で、先生はどこに行く気です?」

反転したところで、夕映に止められた。
そのまま、無視して走り去ってもいいのだが、多分追いつかれる。

<マスター、足遅いですからねー>

知っとるわ!
ぐ、ぐぅ……どうにかこの二人を巻かないと。
どうする……!?
また、ズサーと押し倒して、その隙に去るか?

<だから何でそんな物理的な手段ばっかりなんですか!? マスター天才なんですからもっとこう……あるでしょ!?>

そう言えば俺って天才キャラだったな……。
なら、こんな状況を打開できる作も浮かぶはず。
うーん。

――そうか!

「エヴァにこの二人を押し倒してもらってる隙に行く!」
<さっきより酷いですっ!?>
「あ、そうか。そもそもエヴァの力じゃ押し倒すのは無理か」
<い、いやいや! それ以前にその作戦に必要なエヴァさんがいませんから! というか押し倒す以外で行きましょうよ! もっと天才っぽい作戦で!>
「そ、相対性力学を使って……何とかする?」
<何とかって何なんですか!?>
「そんなに言うならお前が考えろよ!」
<まさかの逆切れ!?>

俺とシルフがそんなやり取りをしていると、背後からコホンという咳き込みの後、若干呆れ気味な声が掛けられた。
振り返ると、ジト目気味な夕映が俺のスーツを掴んでいる。

「さっきから二人で何をブツブツ言ってるですか? 早くさっきの質問に答えて欲しいです。――先生はどこに行く気ですか、と」

む、むぅ……これは困ったな。
どうやら説明するまで放す気はないらしい。

<ちょっと思ったんですけど……>

シルフが小声で話しかけてくる。
夕映達に背を向けてひそひそを話す。

<別に一緒に行けばいいんじゃないですか?>
「いや、お前それじゃ、夕映達が……」
<昔の偉い人が言ってました。『木を隠すのは森の中』映画村の人ごみに紛れて巻けばいいんですよ。その隙に追っ手を見つけて、バッサリいけばいいじゃないですか>
「なるほど。刹那達と同じ方法か。お前頭いいな!」
<え、えへへ。照れます……>
「まあ俺の方が頭いいけどな」
<台無しです!>

方針が決まったので、夕映達に向き直る。
笑顔を浮かべる俺。

「じゃあ行こうか――映画村へ」
「い、いえ今一人でどこかに行こうとしてたですけど」
「してないぞ」
「してたです。ついでに言うなら『じゃ、行くか』とも口に出してたです」

出してたか?
……あ、出してるなコレ。
困ったな……どう誤魔化せばいいか。

「先生は先ほど一人でどこかに行こうとしてたですね?」

確認するかの様に念を押してくる。
ここは天才らしく誤魔化すしかあるまい。
ふむ……

「確かにそう言ったし、行こうとした。でもこの先に俺が発明するタイムマシーンで過去に行き、その結果さっきのその出来事は無かったことになるんだよ」
「今世紀最高に意味が分からないです!」
「ついでに言うと、夕映がこの後、俺のそっくりさんを見かけるかもしれないけど、それは未来から来た俺だ」
「まだ続けるですか!?」
<でも、未来から来たマスターと今のマスター、どう見分ければいいんでしょう……>
「大丈夫。未来だとシルフはいないから、首にシルフがかかってないから、かかってる方が今の俺だ」
<何で私いないんですか!?>
「――そ、そもそも! その話の大前提がおかしいです! 何で今の先生が未来にタイムマシンを作ることを知ってるですか!? その時点で破綻してるです!」
「そんな今作った話にマジレスされても……なあ」
<ねー?>

シルフと二人、首を傾げる。
その仕草が腹に立ったのか、夕映は的確に脛を蹴ってきた、痛い。

何はともあれ、俺達は近乃香達を追って映画村に行くことになったのだ。




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