<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.22515の一覧
[0] それが答えだ!! 2nd season[ウサギとくま2](2010/11/01 18:05)
[1] 一話 ププローグ[ウサギとくま2](2010/11/01 18:07)
[2] 二話 俗・修学旅行[ウサギとくま2](2010/10/17 14:05)
[3] 三話 俺の弟子がこんなに強いわけがない[ウサギとくま2](2010/10/20 15:24)
[4] 四話 これからドゥンドゥンキスしようじゃねえか![ウサギとくま2](2010/11/02 11:14)
[5] 五話 いやあ、美しい思い出でしたね[ウサギとくま2](2010/11/13 20:38)
[6] 六話 修学旅行の軌跡 the 3rd[ウサギとくま2](2010/12/09 21:14)
[7] 七話 わ![ウサギとくま2](2011/01/09 00:16)
[8] 番外編ノ一[ウサギとくま2](2011/03/31 16:55)
[9] 八話 僕らの魚(うお)ゲーム[ウサギとくま2](2011/06/01 18:04)
[10] 番外編ノ二 それから……[ウサギとくま2](2012/05/21 05:30)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[22515] 六話 修学旅行の軌跡 the 3rd
Name: ウサギとくま2◆ec27c419 ID:e5937496 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/09 21:14

――オデンワデス、ナナシサン。オデンワデス、ナナシサン。オデンワデス、ナナシサン。

携帯が響かせる心地よい声に目を覚ました。
目を擦りつつ電話に出ると、これまた眠そうなエヴァの声で『さっさと起きろ。しおりにはもうすぐ起床の時間だと書いてあるぞ』とのことだった。
いわゆるモーニングコールだろうか。
やれ、貴様がだらしないと私の風評にも響くだろうが、などとと耳元でいやらしく言うエヴァの相手をシルフに任せ、顔を洗いスーツに着替えた。

<何か昨日は大変だったんですよ。夕映ちゃんがトイレでマスターがバター犬で、ええ、はい。え、どういう意味だ、ですか? いや、そんなの私が聞きたいですよ>

携帯電話と懐中時計が話しているのは何ともいえないシュールな光景だった。





第六話 修学旅行の軌跡 the 3rd 



「昨日は大変だったなぁ」
<ですねー。まさか二時間も正座させられるとは思ってなかったですよね。もう、見てくださいよ。私足がパンパンに腫れちゃって>
「俺なんかパパンガパーンだぞ?」
<いやドヤ顔で『だぞ?』って言われても……意味分らないですし>
「俺なんか自分の名前も分らないぞ?」
<そこは分かりましょうよ!>

と、シルフとそんなくだらないことを話しながら朝食会場へ歩いていると、見覚えのある後姿を見つけた。
桃色の髪にツンと自己主張した1本のアホ毛。
気怠そうな表情をしているのが、後ろから見ても想像できる。
俺は少女に駆け寄り、肩を軽く叩いた。

「ヘーイ! ちうたーん! グッモー」
<グッモーです。あ、ちなみにグッドモーニングの略ですから>
「略さなくても分かるっつーの。つーかちうたん言うな」
「ちなみに俺のグッモーはグロッキーモンスターの略だったりする」
「意味分かんねえよ」

朝だからか、不機嫌そうに千雨は振り向いた。

「なんだ。かなりご機嫌斜めだな」
「当たり前だ。参加したくもないゲームに巻き込まれるわ、正座させられるわ……散々だったぜ」

そういえば千雨もキス争奪ゲームに参加してたんだよな。
性格的に自分から参加するような子じゃないから、なし崩し的に参加させられたのだろう。
千雨の愚痴を聞きながら一緒に歩く。
と、千雨が相変わらずムスっとした表情で俺の顔を見ながら、質問してきた。

「……アンタ今日の自由行動はどうすんだよ?」
「自由に行動する」
「だからどこで何をするかって聞いてんだよ! よ、予定が無いんだったら――」
「予定はある。こう見えてもビルゲイツ並に忙しいからな」
「……予定あんのかよ」

千雨は何故か少し寂しそうに言った。
ちなみに股間を押さえながらモジモジして言ったら、その人はトイレに行きたいんだと思う。
だから何だって話だが。

少し機嫌が悪くなった千雨と歩く。
歩いていると、ふと何かに気づいたのか千雨の眼が細くなり、俺の胸元を見つめ始めた。

「つーか今気づいたけど……ネクタイの結び方滅茶苦茶じゃねーか。結び目が三角になってねーし、そもそも裏返しになってるし」
「個性的な結び方ってことで何とかならんかな?」
「なるかっ、だらしない! 何で今日に限ってこんな滅茶苦茶なんだよ」
<それはですね、いつもマスターのネクタイを絞めてるのは茶々丸だからです>

シルフの言うとおりである。
俺は今までネクタイを自分で締めたことが無いのだ。
勿論、自分一人でできるようにと練習しようとした。
しかし、その度に茶々丸さんが止めるのだ。

『私の仕事です。私の仕事を取り上げられては困ります』

と、困った顔で言うので、練習はしていない。

「……」

その言葉を聞いた千雨の顔。
この駄目な男、略して駄目男が……と言わんばかりのシラけた表情だった。

「……この駄目男が」

言葉にされてしまった。
実際に表情で罵倒されるのは耐えることができるが、言葉にされると結構キツイものがあるな……。
まあ、それぐらいで挫ける俺じゃないが。
しかしいつまでもこの視線に晒されるのはしんどい。
さっさと朝食会場に行ってしまおう。
小走りで千雨を追い抜く。

「よし、朝食だ」
「あ、待て! 待てって……たくっ!」

千雨は俺を追い抜き、正面に立った。
そしてしょうがねえなぁ、と呟きながら俺のネクタイをスルリと外してしまった。

「な、なにをするだー!?」
「いいから黙ってジッとしてろ」

そう言ってこちらを睨みつけると、手に取ったネクタイをピンと伸ばし、背伸びして俺の首に回した。
絞め殺される!と一瞬ドキリとしたが、そんなことはなく、慣れた手付きでネクタイを締めていく。

「……こういう間違ったの見てるとイライラするんだよ。別にアンタの為にやってんじゃねーからな」
「シルフ、ポイントは?」
<んー……54Pくらいですかね>
「何のポイントだ!?」

ツンデレポイントだ。
しかし千雨、頬を赤く染め律儀にツッコミまで入れてるが、手付きが全くブレない。
あっという間にネクタイを締め上げた。

「ほらよ」

ドンと突き飛ばされる。
ネクタイを見てみると、俺がしたのとは天と地ほどの差があるくらい美しく結ばれていた。

「ありがとう千雨」
「アンタもいい大人なんだから、シャンとしろよ。他の教師に見られたら注意されるぞ、特に新田とか。下手したら私らにとばっちりがくるかもしれねーだろが」
<照れを冷たい言葉で誤魔化す……ツンデレの常套手段ですね>
「私はツンデレじゃねー! い、いいか、勘違いすんなよ? 私が迷惑を被るかもしれないから結んでやったんだぞ? ――ってこのセリフまんまツンデレじゃねーか!」

ダンと力強く足踏みをし、自分にツッコミを入れる千雨。
セルフノリツッコミか?

<それにしても結ぶの上手ですねー。花丸あげちゃいます!>
「時計に褒められても嬉しくねーよ。……つーかネクタイつけるコスプレもあるから慣れてんだよ」
「裸ネクタイのコスプレ?」
「ちげーよ!」

違うらしい。

いつまでも廊下にいても仕方ないので、一緒に朝食部屋まで行った。
そのまま部屋の中に入ろうとしたが、千雨に止められ、彼女の後に入るように言われた。
曰く

『変な噂とか立てられたくねーからな』

らしい。
そんなわけで、千雨が部屋の中に入っていくのを廊下で見ていた。

「変な噂ってなんだろか?」
<きっとあれですよ。実はマスターと千雨さんが……ゴミ箱愛好家、みたいな噂です」
「それは変な噂だな!」


■■■


おいしい朝食を生徒たちと頂いていると、マイクを持ったネギ君が前に立った。

「今日は完全自由行動です! みなさん他の人に迷惑をかけないように、モラルを持った行動をお願いしますねー!」
「「「「はーい」」」」

中学生らしく元気な声で返事をする生徒たち。
俺のとなりに座るアスナも同様だ。
隙アリである。
俺は返事をしながら箸を一閃し、アスナの皿の上にある鮭を掠め取った。

「ちょっと!? 何返事するどさくさに紛れてあたしの鮭取ってるのよ!? お返しよっ!」
「あ、おい! 俺の刺身を取るなよ!」
「へっへーん。鮭のお返しよ……って何であんたの朝ごはんお刺身とかあんの!? 贔屓!?」
「違う、昨日の夕飯の残りを取っておいたんだよ」
「ど、どおりで色が……」

昨日の新鮮な赤色だった刺身は、今日の朝には鈍い黒まじりの色になってしまった。
正直食べるかどうか迷ったが、勿体ないので朝食の時に食べることにしたのだ。
まあ、その刺身もアスナの腹の中だが。

「え、えっとー、アスナさんとナナシさん。少し静かにしてもらえますか? まだみなさんに連絡があるので」

二人してネギ君に注意される。
それもこれも律儀に大声でツッコミを入れるアスナのせいだ。
アスナには小声でのツッコミを早く習得して欲しいと願う。

その後も、旅館に帰る時間や、注意すべき事柄を挙げていくベギ君。
最後に生徒を見渡し、

「それでは何か質問はありますか?」

と言った。
生徒たちからの質問はない。
というか、自由行動の予定などを各々話しており、ネギ君の言葉も聞いていないようだ。
仕方ない。
ここは副担任として、俺が代わりに何か質問をしてあげよう。

「はい!」
「え? あ、じゃあナナシさん」
「――自由って……何だ?」
「面倒くさい質問をするなっ!」

俺の真剣な質問は隣のアスナにより面倒くさい質問と言われた。
かなりショックである。

「は、はあ。自由ですか……そ、そうですね」

しかし真面目なネギ君は俺の質問に答えてくれるようだ。

「自由とは……縛られない、ということだと思います」
「ほほう」
「法、運命、人間関係、あらゆる全てに縛られないのが自由だと、僕は思います」
<つまり縛られるのが好きなドMの人は自由じゃないってことですね! うん、シルフ覚えた>

突然シルフが新キャラ要素を押し出してきたが、あまり意味は無い。
あと他に質問はないかな。

「バナナはおやつに入るのか?」
「えーと、入ります!」
「カレーは飲み物なのか?」
「あんたは何が言いたいのよ!?」

自分でもよくわからない……。
その後も自分でも良く分からない質問をして、アスナに突っ込みを入れられるという普段の教室でのやり取りを行い、解散となった。
自分の部屋に戻り、軽く荷物をまとめる。
動きやすくする為、必要以上の物は持っていかないことにした。

「というわけでシルフも置いていこう」
<はーい。お土産頼みますよー……って何でですか! 私も一緒に行きますよ!>
「いや待て待て。ここはな、お前を置いていった俺が『普段はうるさかったあいつだけど……いなくなると、こんなにも……物足りないんだな』っていう定番のイベントをだな」
<そのイベントは既に消化済みです!>
「そうだっけ?」
<はい! 一期の18話辺りでこなしてます! いやー、あの時の再会を思い出すと胸が熱くなりますねー。アスナさんの所からマスターの元へ飛翔する妖精の如き私。バックに流れるBGMと合わせてファンの間では1,2を争う名場面だと言われてますよ>

シルフが自分の萌えシーンを語り始めた辺りで、準備は終わり、今日の打ち合わせをするために刹那を探すことにした。
恐らく刹那も同じ用件で俺を探しているだろう。
刹那のことだから、分かりやすい場所にいるはず。
ロビーに向かうと案の定刹那がいた。

「おお、刹那。丁度よかった」
「ナナシ先生。お嬢様の護衛の件ですね」

話が早い。

「ああ、お前らの班は今日どこに行くんだ?」
「確か……映画村を見学しに行くと、そう言っていました」

映画村か。
護衛の件抜きにしても、非常に行きたかった場所だ。
丁度いい。

「じゃあ、今日は俺もお前らの班に同行するよ」
「先生も、ですか? 護衛なら私だけで十分かと……連中も昼間から直接仕掛けてくるとは思えません」
「いーや行く。連中も一度失敗して、焦ってるはずだ。もしかしたら仕掛けてくるかもしれん」

俺の言葉に刹那は「確かに……」と顎に手を当て頷いた。

「今日は二人体制で近乃香を護衛しよう。俺と刹那どちらかが離れたとしても、必ずどちらか一人は近乃香に付くように」
「そうですね。二人居れば、襲撃されても片方がお嬢様を守り、もう片方が迎撃に出ることができる……理に適ってます」

一人だけで護衛だと、どうしても臨機応変に動けない。
二人ならば、片方が自由に動けるという点が目立つ。
俺の提案に刹那は

「では先生、お願いします」

と頭を下げた。

「こちらこそ頼む」

俺は頭を下げる代わりに、頭を下げた刹那の束ねた髪が目の前でユラユラと揺れていたので、それに水平チョップを喰らわせた。
サラァと手に当たる髪。

「……な、なにを!?」
「特に意味は無い」

こうやって普段から特に意味のない行動を取ることによって、ポイントを貯めているのだ(何のポイントだよ)
俺に束ねた髪をチョップして、多少は混乱した様子の刹那だが、俺の行動に意味がないと分かるとしっくりしない顔で「そ、そうですか……」と言った。

「女子トイレなんかはついて行けないからな。その時はしっかり頼むぞ」
「はい」
「代わりに、男子トイレに行く時は俺が一緒に行く」
「い、いえ、お嬢様は男子トイレに行かないかと……」
「いや、そうとも限らないぞ? もしかしたらってこともある。もしかしたら近乃香が男子トイレに行こうとする可能性はある」
「な、ないですっ」

少し呆れた顔で否定してくる刹那。
しかしどんな有り得ない事だろうと、可能性は0じゃないのだ。
可能性が少しでもある限り、それに対応できるようにしておくべきだと思う。

「おい刹那。どんな事だろうとだろうと0%は無いんだ。もしかしたら俺達がいるこの場所に雷が突然落ちてくるかもしれない。でも、少しでもその可能性を考慮しておけばそれに対応できるだろ? だから近乃香が男子トイレに行くという可能性も考慮しておくべきだ」
「だ、だとしても! お嬢様が男子トイレに行く可能性は0%です!」
「分からんぞ? いきなり『あー、なんや今日は男子トイレの方に行ってみたいなあ』って言い出すかもしれないだろ?」
「言い出しません!」

あまりにも刹那が必死で否定するので、俺もムキになってしまう。
いや、確かに俺だって近乃香が男子トイレに行こうと言い出す可能性なんてほぼ無いと思っているが……。

「だから分からんだろ!? 近乃香は結構天然だからそういう事言い出すかもしれないだろ!?」
「いくらお嬢様が天然でもそんな事を言いません!」
「いいや言うね! 俺が女子トイレの構造に少しだけ興味があるように、近乃香だって男子トイレに興味があるかもしれないだろ? だから可能性はある!」
「お、お嬢様は男子トイレに興味なんてありません!」
「言い切れるか? 近乃香が男子トイレに興味を持っていないと」
「ええ、当然です!」
<二人ともー、ここロビーですよー。もうちょっと声を小さくいきませんかー?>

シルフが何か言ったようだが、興奮している俺達の耳には入らなかった。

「じゃあ言ってみろよ。近乃香は本当に男子トイレになんて興味を持っていない、って」
「このちゃんは男子トイレになんて興味はあらへんっ」

どうでもいいが、刹那は近乃香に関係したことに限って、興奮した時に京都弁になるんだよな。
そして歳相応の反応をする。
普段の刹那ならこうやって顔を真っ赤にして、声を荒げたりしないだろう。
こう見ると、刹那にとって近乃香は特別な存在なんだろう。

「……ということらしいが、実際どうなんだ近乃香?」

俺はいつの間にか来て、俺達のやり取りをニコニコと聞いていた近乃香に聞いた。

「……へ?」

刹那もようやく近乃香に気づいたようで、ギギギと錆び付いたドアノブの様に首を向けた。
近乃香はいつもの様にニコニコしているが、額には小さな青筋が浮かんでいる。
ついでに言うと顔は真っ赤で、目の端には小さな涙の玉が。
刹那は大声を聞かれたからか、顔を真っ赤にし、そして先ほどの言葉のやり取りを思い出し、顔色を真っ青にした。
そのままワタワタと弁解をしようとする。

「あ、いえ、こ、これはその違うんです。これは、その、つまり……」
「おい近乃香。お前は男子トイレについてどう思うんだ? さっきから刹那と二人で激しい論争を交わしていたんだが」
「ひうっ」

刹那が聞こうとしないので、仕方なく俺が聞くことにした。
何故か刹那が俺に飛び掛って口を塞ぎに来たが、俺は責任を持って喋り通した。
俺の言葉に近乃香は、ふるふると震える口を開き

「取り合えず二人とも……ここに正座な?」

と言った。
笑顔の近乃香だったが、何ともいえない圧力を発しており、俺と刹那は従わざるをえないのだった。


■■■


「ナナシ君反省しとる?」
「反省してるよ……いたた」

ビリビリと痺れる足を押さえながら立ち上がる。
昨日に引き続き酷使された俺の足は悲鳴をあげていた。
近乃香は俺の顔を覗き込みながら、まだ仄かに赤い顔の上中心に眉を寄せて、人差し指を立てて言った。

「公共の場で大声出したらあかんえ? それも……あんな変なこと」
「(別に変なことじゃないだろ。ただ気になったことを聞いただけだ)」
<おっとマスター。心の声はバッチリ私に聞こえてますよ>

しかし近乃香に怒られるのも久しぶりだな。
普段温厚なだけに、怒るとこう……怖いというより、本当に悪いことをしてしまったと思ってしまう。
怒るときもエヴァみたいに怒鳴ったりせず、諭すように言うから一層罪悪感を刺激してくる。
多分いい母親になるタイプだ。

「本当に悪かった。これからは決して公共の場で近乃香が男子トイレに興味ある系の話はしません」
「そ、それやとウチが興味あるみたいやんかぁっ……もう」

しゃあないなあ、と溜息を吐く近乃香。
そして笑顔でウインクをして、

「じゃあ罰として今日はウチと一緒に自由行動を回ること」 
「ええぇぇぇぇいいよぉぉぉぉぉーーーー」
<出た! マスターの物凄く嬉しそうに若干嫌そうな台詞を言うという高等テクニック! 練習した成果が出ましたね!>

この字面ではちょっと嫌そうな台詞を物凄く嬉しそうに言うというテクニックは、使われた方が非常に反応に困るという効果がある。
実際に近乃香は……あ、いや笑ってるわこれ。

「もう、ナナシ君おもろいわぁ」

駄目だこりゃ。近乃香は突っ込んでこないからなぁ。
アスナやエヴァならここで『わけの分からないリアクションをすんな! どう反応すればいいか分からないでしょ!』と突っ込みを入れてくれるんだが。
近乃香は突っ込みを入れてくれないので、ボケ甲斐がないのだ。
近乃香の前で結構真面目なのはこの辺りが理由だったりする。
何だその理由は。

「じゃあ、ナナシ君は今日一緒な」
「ん。まあ丁度よかった」
「へ? 丁度ってなにが?」
「い、いやいや。それよりもシルフに対する罰はないのか?」
<えええええ!? 何で私!? わ、私は関係ないじゃないですかー>

近乃香はんー、と顎に手を当て

「でもなぁ、せっちゃんとナナシ君の二人止めてくれへんかったやろ? だからシルフちゃんにも罰なー」
<う、うぐぅ。そこを突かれると痛いです。し、仕方ありません! 私も女です! ここは女らしく罰を受けましょう>
「じゃあ、今日ウチがナナシ君と手繋いだり、腕組んだりしても、怒らんことなー」
<ええー! ちょ、ちょっと待って下さいよ。それは私のアイデンティティーで、それをしなくなったら私が私じゃなくなるっていうか……」
「シルフがボルフになったりするのか?」
<なりませんよ! ……し、仕方ありません。女に二言はないです。今日は近乃香ちゃんがマスターとイチャついても怒りません>
「約束やで?」

しかしこの二人は仲いいな。
近乃香が特別なのか?
アスナだってシルフと付き合い長いが、未だに壁のような物を感じるからな。まあ時計だからしょうがないけど。
近乃香はその辺、全く気にしてないみたいだしな。
普通の人間に接するように接しているみたいだし。
これが近乃香の持つ能力――<平等接触(オールアラウンダー)>か、ククク。

「じゃ、次はせっちゃん」
「わ、私ですか!?」

出来るだけ近乃香の視界に入らないよう(具体的に言えば俺の背後)にしていた刹那だが、遂に近乃香のターゲットとなり、ビクリと肩を震わせた。

「せっちゃんへの罰は……ど、どないしようかな?」

考えてなかったのか……。
ここは俺が教師として助言すべきだろう。
俺は近乃香も耳に口を寄せた。
そしてゴニョゴニョと呟く。

「え? えええ? い、いいんかなぁ?」
「大丈夫だって」
「せ、先生……一体何を?」

少し戸惑っている様子の近乃香を見て、刹那が額に汗を浮かべながら行った。
まるで俺が凄まじい無茶振りを吹き込んだのじゃないか、と心配しているかのようだ。

「心配すんなよ刹那。俺がお前に変なことさせるわけないだろ?」
「そ、そうですね」
「まあシルフだったら『今日一日ノーパンで過ごす』とか『道行く人10人にカレー味のウ○コとウンコ味のカ○ーどっちが好きかを聞く』なんて罰ゲームを言うかもしれんけどな」
<ちょっとマスター! 私の品位が下がるようなこと言わないで下さいよ! シルフはそんなこと言わない、ってファンクラブの人が怒鳴り込んできますよ!?>
「お前のファンクラブなんてない」
<あります! 大体マスターの方が変なこと言うでしょ? どうせさっき近乃香ちゃんに吹き込んだのだって『今日の自由行動中、10分に一回の間隔で、携帯を取り出して「ああ、私だ。どうやら機関は勘付いていないらしい。ククッ、分かってるさ。束の間の休暇、せいぜい利用させてもらうさ――ラプンツェル!」と呟くこと』みたいな感じですよね?>
「そんなこと言うか!」

この時計は……主のことをそんな風に思っていたのか。
いくらなんでもそんな小学生レベルのことなんて言わんわ。

「ふ、ふふふ……私は……一体何をさせられるんでしょうか……ふふ……うう」
「あ、せ、せっちゃん……! も、もう二人ともせっちゃんいじめたらあかんやろ?」
「い、いえお嬢様。罪を犯したものが罰を受けるのは当然……好きなようにして下さい」
「……わ、分かったわ。うん、じゃあ、はい」
「え?」

俺とシルフがどうでもいいやり取りをしている間に話は進んでいたようだ。
近乃香と刹那の方に視線を向けると、近乃香は少し恥ずかしそうに笑っており、刹那は鳩がスタンガンを喰らったかの様な顔をしている。

<それ気絶してるんじゃ?>

要するにポカンとした表情をしているのだ。
注目すべきなのは近乃香と刹那の顔ではない。
もっと下だ。

「あ、あのお嬢様……これは一体?」
「えへへ」

二人の手。
近乃香と刹那の手はギュっと繋がっている。

「せっちゃんの罰は、今日一日ウチと手を繋ぐこと。分かった?」
「え、ええ、あの、その……ナナシ先生、これは……?」

近乃香と手を繋いで照れているのか、頬を赤くして、オロオロしている刹那。
その刹那に対して俺はグっと人差し指を立てた。

「え? あ、あのそれはどういう……?」

間違えた。
俺は改めて親指を立てた。

俺が親指を立てながら、生暖かい視線を二人に向けていると、頭の中に声が響いた。

「(せ、先生! これは一体どういうことですか!)」
「(ん、念話か。誰だ? ……じいさんか?)」
「(私ですっ、目の前にいる私です! どうすれば私と学園長の声を間違えるのですか!?)」
「(うっかり屋だからな)」
<(そうですね。マスターはうっかりランカー8位ですからね、当然です)>
「(そんなことより! こ、これは一体どういうことです! な、何故お嬢様と手を……!)」
「(足の方が良かったのか?)」
「(そういうことじゃありません!)」
「(じゃあどういうことなんだよ!?)」

「どうしてそこで怒るんですか!? ……はっ」
「ど、どないしたんせっちゃん? そ、そんなにウチと手繋ぐのイヤ?」
「い、いえいえ! そ、そうではなく、その……私の手はあまり繋いでいて楽しいものではないと……。お嬢様の様に綺麗な手ではありませんので」
「豆ができてるから? そんなん関係ないよー。それにウチはこの手好きやで?」

ぎゅっと空いていた片方の手も握る近乃香。
必然的に二人の距離は接近し、必然的に刹那の顔はさらに真っ赤になる。

「(せ、先生、こ、このままでは護衛どころではありません……!)」
「(いやいや。近乃香と合法的に接近できるし、一石二鳥だろ? そこまで近いのなら、護衛し放題じゃないか)」
<(いやー、マスターは天才ですね。そこまで見越してこの罰を近乃香ちゃんに吹き込んでいたんですかー。私はてっきり、刹那ちゃんがあたふたする様子を見たいだけかと)>

まあ、それもあるんだけどな。
いや、むしろそれがメインだという説もあるほどだ。

「(ていうか刹那。お前は近乃香が近すぎるくらいで、護衛が困難になるほどの実力か?)」
「(……そ、そんなことはありません。どんな状況だろうとお嬢様を守れると自負しています)」
「(ならいけるだろ)」
「(ええ、当然です。……あれ?)」

よし、刹那を上手く丸め込めたぞ。
やはり近乃香のことに関しては、刹那は扱いやすい。
もし身代金目的の誘拐をするのなら、刹那を丸め込んで近乃香を誘拐しよう。

「じゃ、行こか、せっちゃん」
「は、はい!」
「はい、ナナシ君も」
「ん?」

ギュっと左手が温かくなる。
見ると、近乃香が右手で俺の左手を包み込んでいた。

「えへへー。左手にせっちゃん、右手にナナシ君。ウチ幸せやわー」

本当に幸せそうに、笑顔を浮かべる近乃香に、刹那も連られて朗らかな笑みを浮かべた。
そして二人が同じような笑みを浮かべていると、俺も笑顔を浮かべてしまうのだった。

「今日は楽しい一日になりそうやわぁ」
「……お嬢様」
「……お嬢様」
<何でマスターまで『お嬢様』っていうのか意味が分かりませんが、私も便乗しておきましょう。……お嬢様>

そのまま三人で残りの近乃香班の元へ向かう俺達。
手を繋ぎながら笑みを浮かべる俺達の光景に他のみんながギョッとしたのはまた別のお話。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.045577049255371