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No.22515の一覧
[0] それが答えだ!! 2nd season[ウサギとくま2](2010/11/01 18:05)
[1] 一話 ププローグ[ウサギとくま2](2010/11/01 18:07)
[2] 二話 俗・修学旅行[ウサギとくま2](2010/10/17 14:05)
[3] 三話 俺の弟子がこんなに強いわけがない[ウサギとくま2](2010/10/20 15:24)
[4] 四話 これからドゥンドゥンキスしようじゃねえか![ウサギとくま2](2010/11/02 11:14)
[5] 五話 いやあ、美しい思い出でしたね[ウサギとくま2](2010/11/13 20:38)
[6] 六話 修学旅行の軌跡 the 3rd[ウサギとくま2](2010/12/09 21:14)
[7] 七話 わ![ウサギとくま2](2011/01/09 00:16)
[8] 番外編ノ一[ウサギとくま2](2011/03/31 16:55)
[9] 八話 僕らの魚(うお)ゲーム[ウサギとくま2](2011/06/01 18:04)
[10] 番外編ノ二 それから……[ウサギとくま2](2012/05/21 05:30)
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[22515] 三話 俺の弟子がこんなに強いわけがない
Name: ウサギとくま2◆246d0262 ID:e5937496 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/20 15:24
「この俺を倒してみろッ!!」

自分でも驚くほど気合の入った声が出た。
そう、俺も望んでいたのだ。
この展開を。
弟子が師匠に挑むこの展開を。
心から望んでいたのだ。
そしてそれは今日この時叶った。
楓の師匠になった日から、いつかはこの日が来るだろうとワクワクしていたが……まさかこんなにも早くこの日が来るとは……。

そしてこの展開を楽しみにしていたのは、俺だけじゃ無かったようだ。
俺の言葉を受けた楓。

「なるほど、なるほど……そう来たでござるか。弟子はいつか師匠を越えるもの。いつかこの日が来るとは思っていたでござるが……ふふふ」

嬉しそうだ。
恐らくは楓も楽しみにしていたのだろう。
俺とこうして本気で戦う機会を。

「くくくく……」
「ふふふふ……」

枕の散乱した廊下で、向かい合う俺達。

「ところで先ほどの言葉、嘘偽りないでござるか?」
「え?」

先ほどの言葉?
あー、勝ったらキスだろうが何だろうがってやつか。
何だこいつ、もう勝った気でいるのか。
気が早い。

「あー、いいぞ。お前が勝ったらキスだろうが何だろうが好きにしたらいい。男に二言は無い」
「流石は師匠。……これで拙者も心置きなく戦えるでござる」
「言っておくが手加減はせんぞ?」
「いやいや。こちらこそ頼むでござるよ。男子の初物をもらうからには、手抜きなどしてもらってはこちらの気が引けるでござるよ」

初物て。
こいつもしかして俺がキスをしたことが無いと思ってるのか?
あるわ! キスぐらいしたことあるわ!
……あったよな。
あれってカウントされるよなぁ。
うーん。
ま、まあいいか。

「では――参るでござる」

楓が戦闘態勢に入った。
体を低くして、滑るように接近してくる。
俺と楓の距離はそれほどない。2秒も経たずに互いの射程距離に入るだろう。

「シルフッ! 一番いいのを頼むッ!」

俺は武器を出す為にシルフに呼びかけた。
具体的にどんな武器を出すかは指示をしない。
一々細かく言わなくても、長い付き合いだ。この状況にあった武器を選んでくれる。
何だかんだ言いつつも、俺はシルフのことを信頼しているのだ。

武器が現れるほんの短い時間も命取りだ。
楓は速い。
流石忍者と言える。
俺がシルフに呼びかけた一秒にも満たない時間で、既に半分の距離を接近してきた。
しかしおかしい。
真っ直ぐだ。真っ直ぐ過ぎる。
これでは迎え撃ってくれと言わんばかりじゃないか。
楓に限って正々堂々なんて言葉は無い。
何か仕掛けてくるはずだ。

俺目を見開いて楓の動きを注視した。
少しでも変わった動きがあればそれに対応できるように。
しかし楓の動きは変わらない。
ただ愚直なまでに真っ直ぐ俺の元へ近づいてくる。
フェイントを入れる気配も無い。

更に距離を詰めてくる楓。
未だ仕掛ける様子は無い。
俺の予想では、この辺りで飛び道具で牽制を始め、隙が出来たところで一気に仕留めて来る、といった予想をしていたのだが。
楓の手元には何も無い。
突き出された槍の如く、ただひたすら真っ直ぐに近づいてくるだけだ。

互いの近距離攻撃圏内に入った。
楓が何か特殊な攻撃を仕掛けてくる様子は無い。
本当にただ正面から攻撃をしてくるらしい。
……少し感動した。
師匠を超える為に……その証の為に……何の奇手も用いず、正面から向かってきたのだ。
くくっ、いいだろう。
俺はその意思を汲む。
正面から挑んできたお前を真正面から迎え撃つ。
この一刀で。
その純粋なまでに真っ直ぐなお前という槍を、俺が斬ってやる!
さあ、来いッ!
……って、武器まだかよ。
いくら何でも待たせすぎ……
おい、シルフ――

「――がいない!?」

俺の胸元にあって、いつも喧しいその存在がいない。
何で? どこ?
ああ……っ! さっき俺が投げたんだった!
今頃池の中だ!
池の中でお魚さん達と舞い踊っている。
うわあ!? やばい、楓もう目の前だし!
ひえええええっ、えらいこっちゃ!
……ぐ、ぐうっ。
こうなったら仕方が無い。
素手で迎え撃つしかない!
こう見えても日頃から、エヴァと殴り合い(一方的に殴られているが)をしているんだ。
俺は(多分)素手でも強い(はず)
それに某ボガード氏も『男なら拳ひとつで勝負せんかい!!』って言ってたし。
やってやるぜ!
俺は自分に活を入れる為に、雄たけびをあげた。

「にゃんこらしょーっ!」

若干意味不明な掛け声になってしまったのは、俺がかなり焦っているからだ。
余裕があれば『きゃおらっ!』や『ぱぱうぱうぱうっ』みたいなカッコイイ掛け声が出せたんだが……。
俺は慌てながらも、徒手の構えを取り、今まさに俺の拳の届く範囲にいる楓に向かって鋭いジャブを――

「ナナシナックル!! ――って、あ、あれ?」

放てなかった。
俺が突き出した拳は空で止まっている。
突然立ち止まった楓の顔の前、ピタリと静止している。
勿論俺に止める気は無い。
しかし動かない。
腕が……腕が動かないのだ!

「ふっふっふ、拙者の勝ちでござるな?」

その声は目の前にいる楓からでは無く、背後から聞こえた。
俺の背後、耳元から聞こえる。
楓の言葉を伴った風が耳をくすぐる。

「な、んだと?」

俺は首を捻って、背後を見た。

「背中ががら空きでだったござるよ?」

そこにいたのは楓。
俺の背中に密着し、その腕で俺を拘束している。
さながらジェットコースターの安全バーを逆にしたみたいな状態で……この表現は変か。
と、とにかく俺は楓に背後から捕縛されているのだ!
そうか……!

「分身か……!?」
「その通りでござるよ。師匠は正面から接近する拙者に気を取られ過ぎて、背後から近づく拙者その2に気付かなかったでござるよ。前に師匠も拙者に言ったでござろう? 『策を持たずに突進してくるものは無い。必ず何かしらの奇策を用意している』と。あとは『やったか!?と言った時は大体やってない』など、師匠の教えは確実に吸収しているでござる」
「むむぅ……っ」

やられた……!
そうだ、相手は忍者。分身にも常に気を配っていないとならない。
背後からの奇襲なんて当然の様に想定しておくべきだった。
抜けていた……。
このぬるま湯の様な日常に浸りすぎて俺の牙はすっかり錆びちまったようだぜ。
シルフがいればここで『いや、昔も変わらずぬるま湯でしたよ?』と突っ込む仕組みだ。
しかし師匠としては嬉しい。
俺が普段から言っていた、半ばネタ混じりの発言を自分の力にしていたのだ。

「しかし……!」

この状態はまずい。
完全に体の身動きが取れない。
あと胸が背中に押し付けられて、気が散る。
これも作戦の内か……!

「悔しいが……成長したな楓」
「師弟関係も長いでござる、師匠の弱点もお見通しでござるよ。――ズバリ師匠は身内相手だと極端に見通しが甘くなる」
「ズボシ!」

楓の言葉は確かに身に覚えがある。
別段加減しているつもりは無いのだが、どうしても身内相手だと戦いではなく、日常の中での些細なじゃれ合いの延長線上と考えてしまう。
これは俺の悪い癖だ。
いつか楓が俺を本気でキルしに来たらマジで危うい。
対策を考えておこう。

「ふっふっふ」

勝者の余裕か、笑みを浮かべる楓。
しかし楓、少々俺を甘く見すぎじゃないかな?
楓が俺の弱点を見抜いたように、俺も楓との付き合いが長い。
長い付き合いの中から俺もあいつの弱点を……
弱点。
弱点……?
……あれ?
お、おかしいなぁ。あいつの弱点ってどこ?
そ、そうだ。アホな所だ!
つまり学力では負けない。
あ、いやいや。今は戦闘面での弱点を……。
……うーむむ。
おかしいな、アイツの戦闘面での弱点がこれといって浮かばないぞ。
うぬぬ……っ!

「こ、これで勝ったと思うなよ!?」
「いや拙者の勝ち、でござるよな?」

い、いいさ。
今日のところは俺の負けでいい。
でも次は俺が勝つ!
次の勝負までにあいつの弱点探しとかないと。

「……お前の勝ちだ。ほら、もう離してくれよ」
「むふふふふ」

楓は不敵に笑い、拘束を解くどころか更にキツくした。
押し付けられる胸の感触も大きくなる。

「おいっ、早く離せよ! そ、それとも俺にトドメを刺す気か!? 怖っ、お前怖っ」
「違うでござるよ。……このまま、先ほどの師匠の言葉を実現するだけでござる」

先ほどの言葉って……キスか。
え、この状況でキス?

「つ、つまり身動きの取れない俺に無理やりキッスをすると……お前はそう言うのか!?」
「まあそういう事になるでござる」
「レイパー! この忍者レイパー!」
「ひ、酷い言い様でござるなぁ」

ちなみにレイパーの意味は今ひとつ理解して無かったりする。
無理やり肉体関係を強要されたりした時に、こう叫べと茶々丸さんに言われた。

「じゃあ頂きますでござる」
「や、やめろー! 誰か助けてー! じいさーん!」
「そこで学園長が出る辺り、師匠どれだけあの老人のこと好きなんでござるか……」

俺の声は無人の廊下に響いた。
先ほどネギ君に襲われた時に楓に声が届いたのだから、今度も誰かしらに届くと思ったが、誰もやってくる気配が無い。
完全な孤立無援。

「じゃ、じゃあ……ゴクリ」

楓が生唾を飲み込み、俺に顔を近づけてくる。
その顔は真っ赤だ。
恥ずかしがってる、のか?

こんな状況で俺は楓の意外な一面を見た気がした。
こう、楓なら『はははっ、では拙者の唇は頂くでござるよ、ぶちゅー』みたいな軽いノリかと思ったのに。
よく見ると楓の膝は震えている。
そうか……こいつも女の子なんだよな。
そりゃキスなんて恥ずかしいだろうに。
楓がどうして突然繋がりが欲しいなんて言い出したかは、分からない。
それでも、それは本心から出た行為なんだ。
ふざけているわけじゃない。
俺は目を瞑って、生まれて初めて子犬に触れる子供の様に唇を近づけてくる楓を見て、心が仄かに温かくなった。
目の前にいるのは、14歳の子供なんだ。
顔を真っ赤にして迫ってくる楓に、微笑ましいものを感じた。
俺は体に力を抜き、仕方ないと肩をすくめ――



「隙アリィィィィィィ!!!」



自由な右足を無防備な楓の顔に向かって蹴り上げた。
吸い込まれるように無防備な楓の顎へ喰らい付く俺のトゥーキック。
勝った! 第三話完!

「ひょいっと」

しかし、目を瞑ったまま軽々と避わされた。
空を切る俺の右足。
ば、馬鹿な!? あの状態で避けるだと!?

俺が戦慄していると、俺の右足を回避した状態の楓が呆れた様に言う。

「師匠、足癖悪いでござるよ? そもそも女子の顔を何の戸惑いも無く蹴り抜こうとするのは如何なものかと……」
「うるさいよ! くそ、簡単に避けやがって……!」
「ふむ、では足も封じておくでござる」

にんにん、と楓が印を組むとボンとした音と共に煙が俺の視界を塞いだ。
煙が消えるとそこには……

「楓3号でござる」

もう一人楓が増え、俺の両足を掴んでいた。
少女とは思えない力で俺の両足は固定され、全く動かせない。
凄まじい握力だ。
そのうち『拙者の握力は108kgでござる』とか言いそうだなこいつ。
これで俺の体は首から上以外、全て固定された。
あとは噛み付くぐらいしか攻撃方法が無い。

「がうがう!」

威嚇する。
俺のチワワ並みの威嚇に怖気づいたのか、楓は困った様に眉尻を下げた。

「むぅ……流石にそこまで拒否されると、拙者も女としてのプライドが……そんなに嫌でござるか?」
「そもそもだ!」

拗ねるように言う楓に、俺は心を鬼にすることにした。
これも授業の一環だ。

「女の子がそんな軽々しくキスをしようとしては駄目だろうが! キ、キスってのはあれだぞ? 愛する者同士が行う神聖な行為なんだぞ? そんな、ちょっと消しゴム貸してみたいなノリでするもんじゃないっ。そこん所を分かってるのか?」
「し、師匠の貞操観念ふるっ! 拙者が言うのもなんでござるが、少々時代錯誤でござるよそれ……」
「え?」
「現代の接吻にそんな堅苦しい背景は無いでござるよ。それこそ遊び感覚で接吻を行う学生も多いでござる」
「マジで!?」
「マジでござる」

え、ええー……そうなの?
うわ、何かショック。

「別段好き同士で無くとも、場を盛り上げるための舞台装置として接吻を行うような風潮でござる。現代のそれは直接的に愛や劣情を含むような行為とは言えないでござる」
「そ、そうなのかー」

うーん。
そうか……俺がいた世界と少し価値観が違うのかなぁ。
それでもこの世界に来た時俺が調べたデータによれば、キスってのは尊いものって扱いだったし。
ああ、でも歴史の勉強含めてやったから、大分古いデータだったな、あれ。
今の時代はそうなのか。
つまりそうか。
このキス争奪戦に参加している人間が、全員愛やら恋心から参加しているわけじゃないのか。
ゲーム感覚ねえ。

「そもそも、師匠『俺に勝てばキスをしていい、男に二言は無い』と言ったでござる」
「だって負けるとは思ってなかったし」
「子供でござる!? その言い訳は子供のものでござる! ……むむぅ、この人で大丈夫でござるかなぁ」

おおう、何か弟子に心配されてるぞ俺。

「そんなに心配しなくても俺は大丈夫だ」
「いや自分の心配でもあるでござるよ。師匠にはもう少ししっかりしてもらわないと、拙者も困るでござる」
「何でお前も困るんだ?」

俺の質問に楓は、フムと思案顔になった。
そしていい例えが見つかったと、人差し指を立てた。

「……長きに渡り共に歩く二人の片方が未熟だった場合、もう片方も未熟な方に足を引っ張られる。高みを目指すのなら互いが程良く釣り合ってなければならない……そういう事でござるよ。拙者が見る限り師匠は、少しサボリ症の様でござるからな。近い精神年齢で共に遊ぶのも非常に楽しいでござるが、たまには年上の貫禄を見せて拙者をときめかせて欲しいでござるよ」

……。
……。
……わ、分からん。
ああ、でもここで分からないとか言ったらアホっぽいな。
うーん。

「……いや、しかし自分でが今の内に好みのタイプに教育というのもなかなか……」
「おーい」

何やら邪まなオーラを楓から感じる。
笑顔も何か黒いし。
いつもののほほん笑顔に戻って欲しい。

「……と、まあこれは後々考えるとして」

楓がやっと思考の海から戻ってきた。

「取り合えず接吻でござる」

ああー、やっぱ戻ってこなくてよかった!

「さて邪魔が入る前にちゃっちゃとやってしまうでござる」
「むぎゅ」

そう言うと楓は両手で俺の頬を挟んだ。
俺の意思とは関係無く、唇が突き出された。
本気らしい。
今度は防ぐ手立てが無い。

「まあ、師匠は深く考える必要は無いでござるよ。……ほんの少し拙者を意識するようになってくれればいいでござる」

やはり緊張しているのか、楓の手から俺の頬に震えが伝わる。
震えだけではなく、手の平が少し汗ばんでいるのも感じる。;

「では今度こそ、正真正銘……参るでござる」

ゆっくりと顔が近づいてくる。
俺は反射的に目を瞑った。
何となく目を開けているのが、恥ずかしかったのだ。
そもそも楓とここまで顔を近づけたことは無かったし。

ああ、くそう。
何でこんな時にシルフがいないんだ。
シルフが居れば、グダグダしたノリで何とかなるのに。
『うおー、マスターの唇をやらせはせん、やらせはせんぞー』みたいな感じで。

……あ、もしかしてシルフがいない隙を狙ったのか?
だとしたらかなりの策士だな。
楓に対する評価を改めなきゃな。

「……む? 何か……嫌な予感が――っ!?」

――ヒュン。

楓の呟く声の後に、何かが風を切る様な音が聞こえた。
次いで何かがドサリと落ちる音。
何だろうか。
しかし目を開けるのは怖い。
もし目を開けて、楓の顔のアップだったら非常に気まずい。

し、しかしまだなのか?
もしかして焦らす作戦なのか?
弟子の癖に生意気だな、おい。
ちょ、ちょっと目開けてみようか。
よ、よしっ、開けるぞ?

「…………ん? あれ?」

恐る恐る目を開けると、そこに楓の顔は無かった。
それどころか体の拘束も解かれている。

辺りを見渡すと、俺の拘束していた二人の楓も消えていた。
しかし肝心の楓本体がいない。

「お、おーい。かえでー」

探そうと名前を呼びながら一歩前進し――

「むぎゅぅ」

何か踏んだ。
ていうか楓だった。
楓の背中を踏んづけていた。
慌てて後退する。

「お、おい! お前どうしたんだ?」
「……きゅぅでござる~」

楓は頭に小さなタンコブを作り、目をぐるぐると回していた。
うわ言のように呟くだけで、ほぼ失神状態だ。
い、一体何がどうなって……ん?

「何だこれ?」

倒れている楓の足元、暗がりに月の光を反射してキラリと光る小さな物体を見つけた。
拾って目の前に翳してみる。

「BB弾?」

銀色のそれは一見ただのBB弾に見えた。
いや、しかしこれはどこかで……。
何だっけ。

「おお?」

じっくり眺めていると、BB弾の表面に何か小さな文字が見えた。
その文字は『N&H』
N&H。
……。
ナナシとハカセ。
あ、俺とハカセで作った特製の弾丸じゃないか!
そしてこの弾丸を込める兵器――雷神の槌(トールハンマー)
そしてアレが扱えるのも彼女しかいない。

つまりこれは……

「茶々丸さん……」

俺は窓の外から夜空を見上げた。
空は繋がっている。
この空は麻帆良の空と確かに繋がっているのだ。
きっと、きっと茶々丸さんも俺と同じ空を見ているんだろう。
あとエヴァも。

「ありがとう……」

俺は今麻帆良にいて、帰りを待ち続けているであろう茶々丸さんに心からの礼を言った。
きっと届くだろう。

<とあー!>

しんみりしている俺の心情を切り裂く様に、目の前の空間からシルフが飛び出してきた。
俺から離れて時間が経ったので、自動帰還が作動したようだ。


<マスターがピンチでデンジャーな雰囲気を感じ取ったので、このシルフ! 池の中から女神の如く光・臨!>
「遅っ、お前遅すぎっ」
<ええ!? お、遅いって……既にマスターのアレがああなって……花瓶に刺さった花がポロリですかぁ!?>

じっとりと水が滴ったシルフが俺の首元に収まり、残されたのは倒れ付した楓。
勝った、ということだろう。
俺は楓に勝った。
しかし俺の胸には勝利の喜びでは無く、苦味の様な物が残った。
いつだって戦いとは虚しいものなのだ。

 


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