「ソーラ・システム、コントロール艦に直撃!……だめです、爆発します!」
「なんだと!?騎士はまだ、前方に……」
コントロール艦への攻撃を確認した第一軌道艦隊は先ほどの第9艦隊と変わらぬ混乱に陥った。"騎士"の突撃によって第9艦隊が真っ二つに割れたことも驚きだったが、いきなりの攻撃にコロニーを撃破する手段が潰されたことはそれ以上の驚きとして第一軌道艦隊には認識された。
「"騎士"は囮、か?」
ベーダーのつぶやきに答えるようにオペレーターから報告が入る。
「前方、第9艦隊MS部隊より連絡!"騎士"はレーザー砲艦を攻撃するジオン残党部隊から、砲艦を防衛中!」
「"騎士"が攻撃しているのではないのか!?」
ジャミトフの声が響くが、ベーダーは黙したまま、顎をなで始めていた。やはり、一年戦争時の連邦軍との交戦はコリニーの勇み足の結果か?いや、そうであるならば、所属を明らかにして連邦軍に協力―――バカらしい。強化人間、人体実験を捕虜に行うだのPTSDを発症した人間に洗脳に近い処置を行うなど、旧世紀以来のジュネーヴ協定違反もはなはだしい行為をおこなっているという噂もある相手に降伏などありえない、か。
「所属は明らかにしたくないが、連邦側に協力―――というよりはジオン側の作戦は潰したいわけか。何とか連絡は取れんものか」
「閣下!何を……」
ジャミトフ何を言うのか、と言う表情でベーダーに向きなおるが、ベーダーは黙って真っ二つに割れた第9艦隊を親指で指し示した。そしてそのあとで、何かを嫌がる風に両手を肩の上で広げた。
「あれと戦うつもりか。俺は嫌だぞ、まだ死にたくない。ジャミトフ、下手に手を出して寝ている虎を起こすことはない。あちらが手を出してこないのであればこちらから手を出すいわれはない。あいつに関してはコロニーを阻止した後で考えればよい。我々の最優先の任務は、コロニーの地球落着阻止だ」
「……しかし」
ジャミトフの抗弁にベーダーは視線を強めて見つめ返す。
「それとも、アレを為した物体を本気で敵とするつもりか?そして敵としつつ、落着を阻止できるか?」
ジャミトフは示された光景に口をつぐむ。協力する、というのではなく、第9艦隊を真っ二つに割るほどの装備を持っている相手を敵とすることの判断の重みを考えざるをえない。それに、"騎士"は完全にこちらに敵対行動をとったわけではない―――かなり苦しいところではあるが。
「しかし、アレに乗っているのが誰かもわからぬ状況で……」
「コントロール艦を攻撃した敵は確認できたか?」
オペレーターが首を振る。コントロール艦への攻撃は高出力のビーム砲によって行われたが、発射が行われた位置座標に反応や機影はない。勿論周囲に対する索敵はすぐさま始められたが、今になっても敵機発見の報告はない。何かの手段でこちらの目を完全にくらましていると見るべきだった。
「コントロール艦を攻撃した敵は、"騎士"にとっても敵だと?」
「目の前でプラズマ・レーザー砲艦を守られてはな。"騎士"の目的がコロニーの落下阻止ならば、先ほどコントロール艦を攻撃した敵は"騎士"にとっても敵ということになる。それにな、ジャミトフ。こちらに姿を確認させないということは、こちらの攻撃で撃墜できる敵ということだぞ。少なくとも、第一軌道艦隊の装備であの"騎士"の撃墜は難しい」
ジャミトフとベーダーの会話にオペレーターが追加の報告を行い、割り込んだ。
「閣下、デラーズ・フリート残存戦力はMA及び新型MSの援護の下撤退を開始、第9艦隊トレーズ中佐の部隊が"騎士"を追撃しています!現在、第9艦隊旗艦戦隊所属MS隊がレーザー砲艦近辺のジオン残党部隊と交戦中、一部機体は"騎士"と共同で砲艦を護衛!」
「ジャミトフ、バスクのバカを縛っておけよ。これ以上戦場をかき乱させたくはない。第9艦隊は所定の行動を取り、ジオン残党戦力を追撃せよ、だ。この期に及んではあのバカにはジオン相手に限り、させたいようにさせるしかあるまい」
ジャミトフは少し考え、頷いた。
第79話
ソーラ・システムコントロール艦の撃破はトールのガンダム・チートでも確認されていた。連邦軍艦隊は戦場ではレーザー通信ネットワークを形成して艦艇同士の連絡体制を確保するが、そこに量子通信システムを使ってハッキングをかけていたためだ。撃沈されたためにコントロール艦から最後に確認された、敵MSのビーム発射直後の映像も入手している。
「流石にこの機体クラスを投入したのは避けたようです。しかし、機体の詳細は不明」
「厄介なことには変わりないぞ。光学迷彩を用いているようだから、視認出来ないのは痛い」
近接戦闘領域にまでゴルト隊に入り込まれたため、タオーステイルは全てレーザー砲艦の護衛に回している。外の状況を確認したレーザー砲艦からはオープンチャンネルで護衛を頼む通信が入り、総員退艦後、ケーブル操作で砲撃を行うと伝えてきた。国際共用信号で了解の通信を出しておく。
「陣形上側からドム、及びザク!」
「ザク!?ゴルトはドム……」
ヒートホークで切りかかるザク。ガンダム・チートはヒートホークを掴んで握りつぶすとそのままヒートホークを掴んでいる腕を引き込み、肩アーマーにザクの頭部を激突させ、破壊する。腕部クローをスライドさせて胴体を掴むとそのまま胸部装甲を握りつぶし、反応消失を確認するとほうり捨てた。その間に後方から迫るドムに向かって上昇する。
「第9艦隊後方についていたジオン残党造反部隊、こちらに向かってきています」
「あいつらも生き残るのに必死、か」
「コロニーの残骸に隠れて地球軌道まで移動、重力ターンでも狙っているのでしょう。事ここにいたってはそうでもなければ逃げられません」
ため息を吐くとレーザー砲艦の援護に回していたタオーステイルから4枚を迎撃に回す。こちらに舳先を向けたムサイに向けて2枚が表裏組み合わさったのを確認した後、手に持ったオルゴンソードをライフルモードに設定し放つ。放たれたオルゴン粒子によるビームは、タオーステイルの間を通過すると出力を増して戦艦主砲以上の破壊力を持って宇宙を直進した。ムサイは一撃で艦体を貫通させられ、轟沈する。勿論それと同時にドムはビーム・セイバーで撃墜している。
「……オーバースペック過ぎる。エルガイムMK-Ⅱか」
「元々、この技術は波動砲関係からのものです。バスターランチャーではありません」
惑星一個完全破壊可能な兵器と同じとかやめてくれ。マニュアルによると、複数のタオーステイルによって発生させた重力波レンズによってビーム、レーザーを増幅しているとの事。バスターキャノンも同じ理屈で発射しているらしく、腹部の単発ビームを拡散モードで複数のタオーステイルに回し、それをタオーステイルが展開する空間電磁波コイルで増幅して撃つらしい。
考え事をしていても戦闘は続く。ゴルト隊のドムを新たに一機、ビーム・セイバーで切り裂くとゴルト隊は撤退に移り始めた。しかし一機がまだ残り、先ほど友好的な通信をかけてきたフルアーマー・アレックスと戦闘を続けている。手助けしたいのは山々だが、コロニーの残骸との距離が迫り、ソーラ・システムコントロール艦が撃破されたとなれば手助けをしている余裕はない。
トールはレーザー砲艦に近づくと艦との通信回線を開こうと思ったが、キットの艦内精査結果を受けて通信を切った。プラズマ・レーザー砲艦の乗員が総員退艦をしていたからだ。どうやら、こちらが完全に味方と解ったわけではない以上、もう一隻のプラズマ・レーザー砲艦を生き残らせる事を優先したらしい。ケーブルの接続作業を内火艇が始めているが、視線を向けた瞬間、流れ弾で撃墜された。撃ったザクをタオーステイルで排除する。
「……好都合、ではあるけどな」
「艦を捨て廃船覚悟の限界出力で放とうとする、良い判断です」
「そうだな、適切だ」
トールはため息を吐く。一年戦争が終わり、軍縮の時代に入ると思いきや、一年戦争の結果生じた宇宙空間のデブリ掃除のために連邦軍はその陣容を維持する必要に迫られた。予算のために艦隊の数こそ今年まで増えることは無かったが、コロニー・地球間やコロニー・月、月・地球などの間の航路を警戒するパトロール艦隊はむしろ増員されている。そしてパトロール艦隊の任務の一つは航路上のデブリ掃除だ。部隊の数が増えた結果、人員の質は当然落ち、戦後経済の復興も相俟って連邦軍は急速に質の劣化を招いていたが、それが思いの外進んでいないと言う証拠が目の前にあったことはうれしい。
「意外に連邦軍に人材が残っているな」
「ですね。ただ、薄めたスープの味は少しくらい濃度が違っても大して変わりありません。全体としてはまだまだです」
トールはそれに頷くと周囲の警戒に入る。こちらの強さにひるんだのか、ジオン残党はもう一隻のレーザー砲艦へ退き始める。しかし、そちらは戦域に突入し始めた連邦軍MSとの戦闘宙域だ。トールは放っておくことに決めると視線を周囲に戻した。
「タオーステイルには周囲を警戒させとけよ。敵は恐らく光学迷彩使っている。もしかしたらオービタルフレームのベクタートラップかもな。アヌビスとガチとか嫌だぞ」
「重力系も動かしていますから接近次第感知できます。それに、色々と方法はあるものです。御安心を。伊達にあなたが"ガンダム・チート"などと名づけたわけではないことを私が証明いたしましょう」
口調がだんだんと暗い方向に言ってしまっているようなキットの口調に少し怖気を感じる。ううっ、やっぱりこれはアレが原因だろうなぁ。
「頼むな……コロニー砲撃中に邪魔とか目も当てられないからな」
そういうとトールはガンダム・チートをレーザー砲艦に近づけ、外部コントロールアクセス用の基盤を開く。周囲からせまるジオン残党の攻撃はタオーステイルが相手をし、徐々に排除の方向に向かっているようだ。連邦軍は、こちらが攻撃を仕掛けない限り反撃をしてこないこと、反撃を行っても機体大破まででコクピット直撃を避けていることから、徐々にこちらが味方かもしれないと言う推測を広めつつある。
「コントロールシステムにアクセス完了。ナノマシン注入します」
「左腕部クロー展開、固定確認。よし、これで動かせるな」
トールはそういうと左腕を動かす。左腕の動きとレーザー砲艦の動きが連動している事を確認しているのだ。注入されたナノマシンがガンダム・チートとレーザー砲艦の間に回路を形成し、プラズマ・レーザー砲艦という単艦戦闘可能艦艇を、ガンダム・チートの武装腕部へと変えていく。
「とりあえず試射だ。密度が増しているから強度の計測行くぞ」
「レーザー、精査モードへ移行。発射します」
その言葉と共にプラズマ・レーザーが発射された。
「プラズマ・レーザー砲艦"イルミンスール"より砲撃!……出力は精査モード、照射物体の密度計測のための砲撃です!」
「"イルミンスール"に乗組員が残っていたのか!?総員退艦命令は下したはずだ!」
砲術参謀が驚きの声を上げるが、続くオペレーターの報告に絶句する。
「いえ……接触している"騎士"からのコントロールを受けているようです!照射は2秒、レーザーのコロニー透過を確認。こちらにもコロニー内の密度情報が送られてきています!」
ベーダーはその報告を聞くと笑い出した。艦橋内部の全ての視線がベーダーに向けられるが、気にした風も無く笑い続ける。周囲の参謀たちが参謀長であるジャミトフに質問をしろと促し、ジャミトフはそれに押される形で質問を行った。
「閣下、何か……」
「解らんか、ジャミトフ。アレは完全にこちら側だということを攻撃で示しおった。恐らく、今の射撃はコロニーの密度を測るための試射で、すぐに第二射が来る。しかし、連邦軍のコントロールシステムをハッキングして砲艦を支配下に置くとはな。ほとほと、あの機体と我々の技術は隔絶しているらしい。疑問は残るが、今は頼もしい味方、ということにしておこう」
ジャミトフはベーダーの言葉にあった一言が気になり、重ねて尋ねた。
「疑問、とは?」
ベーダーはジャミトフの問に笑うとため息を吐くように言った。
「アレが何処の何者か、ということだ。この場はともかく、戦闘終了後は大変なことになるだろうな。もっとも、貴様には都合が良いのだろうが」
その存在は連邦軍サラミス級巡洋艦"ヤンゴン"の背後からプラズマ・レーザーの精査砲撃を伺っていた。造反したジオン残党軍の攻撃―――リック・ドムのジャイアント・バズの攻撃を艦橋に受けて総員退艦命令が下されたこの船に残っている人員は、最小限度の保守作業要員のみで、艦の外の状況を詳しく見る目は残っていない。それでいても、周囲では連邦軍とジオン残党軍の交戦が続いており、詳しく確認する暇も無かったろう。
その存在は光学迷彩を用いながらサラミスの陰に隠れると、マニピュレーターに装備されたカメラを用いてガンダム・チートを確認していた。周囲に展開しているらしいレーダーの範囲を考えるとこれ以上の接近は危険だと判断する。戦力は"候補者"に比べ僅少であり、正直、ここまでの戦力を投入されると直接手段では反撃の方法が無い。
コクピット内に光が生じ、コンソールに文章が表示される。其処に記載されていた内容にYesと返すと、その存在はそっとその場を離れた。光学迷彩を展開しているとはいえ、機動兵器でこの場に存在している以上、重力の干渉は受けている。巡洋艦から必要以上に離れると察知される危険が増すため、流れてきた残骸―――コロニーのものらしい―――に掴まるとその質量にごまかされる形で慣性航行でその場を離れた。
―――GAT-X207ブリッツガンダム、それが投入された機動兵器の名前。表示文面が消えた後の画面には、"MOBILE Direct Operational Leaded Labor Ver.1 Fantom-System"と表示されていた。
「精査照射終了。やはり、コロニーの残骸中央部に人工的な重力の発生を確認。……人工的にブラックホールを発生させる装置のようです。まだ重力を発しており、残骸の密度は上昇中。移動中に周囲の残骸をひきつけていますが、徐々に弱体化。このままだと20秒もすれば消えます」
物体探査用のレーザーを放ち、その計測結果を分析したキットが報告する。トールは表示されたブラックホール発生装置の位置とその出力を確認する。既に人工のブラックホールが形成されているだけでなく、吸い込まれた金属部品が密度と強度を増して高密度の金属製隕石に近くなっている。
「ということは、撃ち抜けば自己崩壊で密度が減るな」
トールはそうつぶやくとコンソールの操作を始めた。レーザーの必要とする出力を満たすためには砲艦のジェネレーターだけでは時間がかかりすぎる事を確認すると機体と砲艦を送電・充電用コードでつなぐ。
「密度と重力が高まりすぎです。先ほどの精査照射ではレーザーは透過設定です。破壊するためには熱線照射が必要ですが、波長を変えるため、このままでは重力に邪魔されます。それに、重力の干渉を排除するまで照射光量を増やすのは……」
「バスターランチャー以上の威力なんだろう?出力を上げて乗り切る。一気に焼ききれば良い」
キットはトールの言っている内容を理解すると同時に怒鳴った。
「ジェネレーターが焼け付きます!下手をすれば砲艦が熱崩壊を起こしてこちら側にも被害が……」
「そのためのガンダム・チートだ。それぐらいのこと、出来なければチートの名が泣く。タオーステイルは12枚で良いな。空間電磁波コイルを形成してレーザーの出力を強化する。一発でどてっ腹に風穴を開けるぞ。機体の偏向シールドを忘れるなよ」
トールはそういうとタオーステイルをレーザー砲艦前方に展開させ、時計のように12枚並べる。先ほどのバスターキャノンと同じように12枚のタオーステイルがレーザー砲艦前方に重力波レンズを形成し、更にレーザー用の電力を回して宇宙空間に電磁波によるコイルを形成する。原理は先ほどと同じく、デス・スターのスーパーレーザーと同じ。
「バラン星だって破壊できた技術が元なんだ。惑星一個破壊できるなら、MSサイズでも30%程度に減った構造物なんて余裕だろう。でなければ何のためのチートか!」
「ああ、今回こそは無傷で帰還できると思ったのに……」
キットはそう嘆きながらもトールをアシストしてタオーステイルのコントロールを開始した。重力波レンズに加えて空間電磁波コイルまで展開させるとなればタオーステイルに搭載されているAIだけでは不足だ。トールは頷くと左腕部と砲艦の動きの連動を確認し、砲艦の舳先を徐々にコロニーの残骸に向ける。
「上方より敵機!」
「行けぇ!」
砲艦の護衛についていたタオーステイルから2枚が飛び出し、上方の連邦軍を抜けてきた編隊に向かって飛び出す。しかし、こちら側に接近する前に横合いから伸びてきたビーム光に撃墜された。
「こちら、第9艦隊MS隊司令トレーズ・クシュリナーダだ。"騎士"と共に戦える事を誇りに思う。ムラサメ少尉、君は"騎士"の護衛につけ。全機、"騎士"を護衛しつつジオン軍を排除。散れ!」
こちらの正体を知っているだけに上手くこの場を収めてくれたか。トレーズに感謝しつつ、レーザー砲艦の照準をコロニーの残骸重心部、重力が発生している部分に向ける。
「密度計測の結果、最大出力で12分」
「間に合わん」
キットの報告をトールは切って捨てる。12分も悠長に照射し続けている暇はない。
「リミッターをカットして撃つ。勿論ガンダム・チートの出力も回す。熱崩壊確実だな、したときに備えてくれよ。片腕ぐらいは覚悟しているが、流石に帰れなくなって回収されるのはヤバい。ドメル提督に連絡。残骸が崩壊を始めた段階で、巨大なのに集中してトラクター・ビームを照射して慣性を弱めるように。間に連邦機を挟んで巻き込むようなことは避けろ、と」
「了解しました。通信しておきます」
全ての準備が整った事を確認したトールはアームレイカーを引き込み、そして一気に前に押し込んだ。押し込むと共に装甲が開く。ジェネレーターをフル稼働させた際に発生する熱を排出するため、装甲が開き、フレーム部分を露出させる現象だ。ガンダム・チートはナノマシンで構成されたムーバブル・フレーム構造を有しているから、NT-Dのサイコフレーム露出と効果はほぼ同様で、このフル稼働モード、セニア命名によれば"ガンダム"モードになれば通常時の更に3倍の性能を発揮できるとマニュアルにあった。3倍である理由は"やっぱり、三倍でしょ"とのこと。何がやっぱりなのかは気づきたくない。
装甲部分が開き、フレームが露出すると共に金色の光が放たれ始める。フレームを構成するナノマシンが廃熱と共にナノマシンのもつ新陳代謝機能によって廃棄され、それが熱とエネルギーフィールドの影響によって金色に発光するのが原因だが、乗っているこちらからしてみれば、"なにこのスーパー○イヤ人"である。しかも、頭部前面―――顔の部分のマスクも開き、ガンダム顔があらわになっている。ああ、こんなところでヒュッケバイン顔とヴァイサーガ顔とガンダム顔のバランスをとったのか。
6枚ずつ二層に展開したタオーステイルがそれぞれ時計回り、反時計回りに回転を始める。空間電磁波コイルと重力波レンズの展開だ。砲艦からあふれ出したエネルギーがコイルによって増幅され、砲艦内部に押し戻される。そして発射されたエネルギーはコイルによって形成されたレンズを通して、更に増幅されて照射される。
「発射準備完了です。名前は好きにどうぞ」
あまりのチートさ加減にいささか食傷気味になっていたところにキットの声がかかる。いまさら名前など如何でも良いのだが、何か期待するような沈黙をされてしまっては言わざるを得ない。ああ、この機体の名前に加えて更なる黒歴史を作れと言いたいのか。いやもう、現在やっていることも充分以上に黒歴史ではあるけれど。
「ええい、バスターレーザー、発射!」
その叫びに反応したように、ガンダム・チートは金色の光に包まれた光線を砲艦の軸線上に据えられたレーザー発射口から放った。勿論、発射して30秒後にレーザー砲艦は発射した光線の熱量に耐え切れず、熱崩壊を起こして大爆発したのであるが。