UC0079年10月10日、予定通りホワイトベース隊が樺太に到着し、地下ドックに入渠。SCVA形式に準じた改装を受けることとなり、パオロ艦長を始めとした、避難民および負傷兵の受け取りが完了した。
ここに来るまでの5日間に既にバニング大尉の鬼の教育を受け始めていたホワイトベースMS隊はかなりその腕前を向上させている。バニング大尉には引き続きホワイトベースのMS戦能力向上に尽力してもらい、陸戦型ジムに代えてジム・コマンド3機を配属した。コレを機会に、いままで陸戦型ガンダムと陸戦型ジムのハイ・ロー・ミックスで構成されていた部隊編成をジム・コマンドに統一。整備性の向上を図った。
但し、レイヤー中尉率いる第一小隊のみは、新型であるジムスナイパーⅡおよび量産検討型ガンキャノンの運用を試験するため、この基準からは外している。宇宙に入った段階で戦力的に不足するようであれば、ジム・カスタムの配備も検討に入れるべきだろう。
ただ、問題が無い様であれば、宇宙で用いるMSもジム・コマンドの宇宙仕様が使えるのが有難い。それに、ジムの生産ラインを変更せずに生産できる後期生産型ジムこと、ジム改の設計案をまとめ、早速ジャブローに送ってある。現在量産が進められているジムがある程度の数に達して戦線が安定次第(恐らく、オデッサに対する戦力集中がある程度完了した時点)で切り替えるとゴップ大将から通達があった。すばやい新型機の設計案提示と、何よりも生産ラインの変更無しに生産が行える点は評価された。
オデッサ作戦が終了し、戦線が宇宙に以降次第、準備を整えた上でジムの生産がジム・コマンドへ移行することもあわせて連絡あったため、とりあえず一年戦争中のV作戦は結果を出せたようだ。レビル大将など、大将会議の常連も満足であり、戦後のMS開発行政も、樺太基地を中心に行うように連絡があった。
但しそれに対しては、流石に其処までの介入を行うと民間企業への利益配分を、軍需工廠が奪う形になってしまうと伝え、同時に、民間で開発をリードさせた方が、退役機の取り扱いに関しても配慮を行うだろうと推測を伝え、とりあえず一年戦争後数年は、設計を軍需各社にまわすことで合意した。
一年戦争が終われば当然待っているのは軍縮で、現在生産しているジムが大量に余ることになるだろうことは推測がついたため、このような形を採用したのである。まぁ、ジム・コマンドクラスの機体であればある程度ジムⅡと遜色ない使用法が出来るわけで、ある意味ジムⅡの登場フラグを潰したような気がしないでもない。
第17話
最初から連邦軍の一年戦争でのMS行政の話になったけれど、実は、現実逃避も入っている。なぜかと言えば、ガルマの戦死が確認された10月5日に早速ドズル中将から月に連絡があり、ガルマの仇を取るから部隊を地球に降下させろと命令が来たのだ。
落ち着くように言った後に、キシリアが支配する地球に降下なんてそれなんて死亡フラグですかと突っ込んだところ、ある程度冷静になってもらえた。確かに地球攻撃軍はキシリアの軍隊で、そこで戦死したのであればキシリアの責任と言うことになる。実際、ガルマ戦死でショックを受けたデギンは、地球から舞い戻ったキシリアをにらみつけるだけで反応すらしなかった。
「それではキシリアの部隊にやらせるつもりか。しかし、あいつがガルマの仇を取るなど考えられんだろう!?」
だからと言って私のところに話を持ってくるのも如何かと思ったが、そこは突っ込まない。突っ込んだら話がややこしいことになるし、ここのところが、連邦軍と違ってジオン軍が民兵とそう変わらないところだと私自身思っている。そもそも司令官の私情を軍事上の要件以上に重要視するなど、軍隊と呼べたものではない。
それに、軍人になった以上、戦場での戦死に文句は言えないのだ。
「地上で行動しろと言っても、生産した地上用のMSは根こそぎキシリア閣下のところに送っていますし、今までの確執を考えると降下させた私の部隊に満足な補給が来るとも考えられません。となれば、キシリア閣下御自身の部隊にやらせたほうが、補給の面でも作戦の実行の面でも宜しいかと思いますが」
むぅ、とドズルはうなった。月面からソロモン、および地球はかなりの戦力を受け取っており、人情?なにそれおいしいの?なキシリアはともかく、義理を感じるドズルも無理を言えない。実際、私の持っている戦力は宇宙空間での使用を前提にしている(表向きの戦力は確かにそうだった)から、地球では使えないのだ。
「キシリア閣下の所からMS特務やフェンリル隊を引き抜きましたが、他にも戦力はいるでしょう?」
「……地球からの報告によると、ガルマをやった部隊は敵の母港の一つに入っている。ジャブローほどではないが防備が堅いのだ」
まぁ、そうだろう。攻撃を受けたときのことを考えないでもなかったし。
「誰を送るつもりですか?まさかマツナガ大尉とか?」
「シンはお前のところに送る。本国においては置けんし、俺のところにもどせばギレン兄がうるさい。お前の下に置いておくのが安全だろう」
この人も中将だけあって頭が悪いわけではない、と改めて感じた。ダニガン中将が正式に退役し、オブザーバーとして(実際は親衛隊の管理下におくために)現在月面に向かう準備をしているというから、恐らくそれに同行してくるのだろう。新型MSとしてのゲルググの改良案検討のために、先週ジョニー・ライデン少佐の配属も認めさせたから、宇宙でのジオン側戦力は整いつつある。但し、キシリアとの関係が不明瞭なライデン少佐は扱いに困る可能性がある。
「……よし、決めた」
ドズルが何かを思いついたようだ。
「ヴィッシュ・ドナヒューの部隊を使うように言おう」
「荒野の迅雷ですか?しかし、連邦軍の欧州総反抗が噂されるこの時期に、北米戦線から精鋭を引き抜くのは……」
冗談じゃない。いまキシリアの部隊に残っているエースの中で、一番避けたい人間の名前が挙がってしまった。
「いや、奴の部隊なら動かせるはずだ。それに、日本に対する攻撃はアジア方面軍の補給基地であるから、欧州総反抗の牽制にもなる!」
「説得が難しいと考えますが」
ドズルは鼻を鳴らした。
「可能だろう。奴ならば。奴は今、ヒープ中佐の大隊にいる。ヒープの奴はキシリアも排除したがっているはずだ。話には乗ってくる」
なんてことだ。キシリアと協力してザビ家にはむかう人間の排除を理由にガルマの仇を取ろうとは。一瞬、ドズルの正気を疑った。
「本気ですか中将。ヒープ中佐がキシリア閣下に嫌われていることは私も存じておりますが、だからといってキシリア閣下の考えるヒープ中佐の排除をガルマ大佐のあだ討ちと組み合わせて行うなど!」
「貴様は何か!?ガルマの仇討ちに文句をつける気か!?」
「そうは言っていません!ヒープ中佐のことも考えてくださいと言っているのです。キシリア閣下に嫌われた理由は、彼が任務を果たしたからです。彼は自分に与えられた任務を果たした結果、キシリア閣下に睨まれました。確かにキシリア閣下はヒープ中佐を排除する良い機会ですから話に乗るでしょう。しかし、キシリア閣下にとってガルマ大佐の仇討ちが何の価値も持たない以上、ヒープ中佐の排除の方に力点を置きます。それではガルマ大佐の仇は取れず、ヒープ中佐も無駄死にです!」
ドズルもこちらの言いたいことがわかったようだ。苦々しげに顔をゆがめると倒れこむように派手な椅子に腰掛ける。
「どうにかならんか。地上に、ヒープの部隊にキシリアから独立して補給を行うことは?」
「難しいでしょう。やるなら、キシリア閣下にばれないように地上に降下して行う必要があります。キャリフォルニア・ベースの基地司令の協力が得られれば良いですが、キシリア閣下のことですから手を回していらっしゃるでしょう」
「閣下」
背後に控えていた副官のラコック中佐が口を開いた。
「ガウの第4飛行隊長、ダロタ大尉なら如何でしょう?彼ならばガルマ様への信服の度合いも疑いありません」
イセリナを確保したことに気を取られて、ダロタ大尉なんて名前を覚えていなかったキャラまで出てくるか。確か、イセリナに協力してガルマの敵討ちを狙った、ガウの指揮官がいたことは覚えていたが、流石にそんな脇役キャラの名前までは今の今まで忘れていた。
その後、会議の結果、キシリアとの話を経て、地球連邦軍樺太基地への攻撃はガウ攻撃空母6機に荒野の迅雷率いるMS中隊を乗せ、ユーコン級潜水艦からの準備砲撃の後、空海一体攻撃を行うことが決定された。海中からの攻撃はシャア率いるマットアングラー隊、およびキャリフォルニアベース所属の第114潜水戦隊のユーコン級3隻が参加。海側から攻撃を仕掛けるのはマットアングラー隊のズゴック3機、グラブロ、ゾック各1機、ゴッグ2機にアッガイ3機となり、ユーコンからはゴッグが3機、アッガイが6機出撃する。ガウ攻撃空母にはゲルググ3機、グフ5機、ザク7機が搭載され、ガウの1機には試作型MA、アッザムが搭載されることとなった。合計MS30機、MA2機の大部隊である。
作戦開始は11月1日と決定された。
そのことをドズルから意気揚々と語られた私は顔を青ざめさせた。どんな大部隊だ、それは。ヒープ中佐への補給に制限がつけられるのは間違いないようだが、ダロタ大尉を通して補給を確保する、というものだから、当然ゲルググは戦力になると考えざるを得ない。まったく、なんてラスボスだ。
連邦軍側で態勢を整えすぎてしまえば、キシリアに内通者がいると思われかねないので戦備を整えるのも一苦労だが、仕方ない。明日中に樺太に戻って戦力を整えることとしよう。しかし、作戦の行われる日時に関しては通達できない。あのユライア・ヒープのことだ。下手に準備を整えさせすぎれば、ジオン内部に内通者がいる可能性を示唆しかねない。現状、それではまずいのだ。少なくとも、ソロモン陥落あたりまで、私がジオンにとってどういう存在なのかを隠す必要がある。
頭をかきむしりつつも、私は樺太へと戻った。
前回、基地司令として新たにマネキン准将を招いて戦力を整えた樺太のG-1隊だが、まず基地の全員とホワイトベース隊に、ガルマ・ザビを打ち破った以上、王政国家であるジオンはその矛先をホワイトベース隊に集中させる可能性があることを指摘し、基地の防備を調えるように命令した。
10月第一週を以てG-1隊各隊にはジム・コマンドの配備が終了し、第一小隊にもジムスナイパーⅡ、ガンキャノン量産検討型の配備が終了。早速慣熟訓練に入ってもらっている。
ルナツーおよび北アメリカでの交戦でジオン軍の新型に歯が立たなかったことを悔やんでか、ヤザン、ライラ両少尉は、バニング大尉も驚くほどの熱意を以て訓練に臨み、まだMSを使用しての実戦経験がない他の5小隊にいい影響を与えている。
ホワイトベースに所属するMS隊も訓練には参加し、特に新配属のスレッガー大尉とセイラ准尉にジム・コマンドが配備されたことでMS戦力が向上している。地上であるためまだガンタンクの使用の場面が残っていると判断し、ガンタンクについてはホワイトベースに残す事としたが、早晩、戦線が宇宙に移行次第降ろすことを伝え、ガンタンクの操縦者であるハヤト、ジョブ・ジョン両軍曹にはジム・コマンドの操縦訓練を行わせている。コレにより、ガンキャノンはリュウ・ホセイ少尉とカイ・シデン軍曹によって運用されることが決定した。
結局、樺太基地所属のMS隊は「トロッター」所属のゲシュペンスト3個小隊(私、ロックオンおよびネオ、ポプランとウィスキー隊)合計9機、G-1部隊6個小隊合計17機で総計26機となった。ホワイトベースに配属されているガンダム始め5機を合わせれば、ジオン攻撃隊とほぼ同数となる。
戦力として有難かったのは、10月10日にガンダム6号機が完成。砲撃仕様の機体としてエイガー中尉に操縦を任せ、RX-78ガンダム先行試作型をデータ撮りにまわし、マッケンジー中尉に、L計画試験機の一つとして、シュッツバルトの改造型を渡せたことだ。両肩のツイン・ビームカノンをガンキャノン量産型と同様のものに変更し、脚部をドムと同様のホバー走行が可能なタイプに変更。完全に「ジム顔ドムキャノン」になってしまったが、現状の技術段階ではこれが限度だ。重装甲をホバーで機動性を高め、固定装備の三連マシンキャノンとゲシュペンストと同じくM950マシンガンを装備させる。敵部隊のかく乱に役立ってくれるだろう。
そして、本当のもしものために、一機の新型機をポイント使用で登場させた。現在乗っているタイプRVは、こちらの宇宙世紀ではほぼZガンダムクラスの性能にあたる。しかし、シアトル郊外の結果を見るまでもなく、本物のNT相手には現状の戦力では不足だと言うことが良くわかった。私自身に力がないことが第一の理由だが、現状の能力があの程度のものである以上、一年戦争は技術で乗り切るしかないと考えたのだ。
だから、出現はさせたものの、決してタッチする事無く放っておいた女性の下にいくこととした。かかるポイントやストレスは大きくなるだろうが、正直、あの人の助けを受けなければ私の頭では無理だ、と思ったのだ。自分自身の、甘い、独り善がりな考え方では駄目だ。少なくとも批判され、失敗の可能性と対案を検討する体勢を整えなければならない。人情に左右され、不遇な死のキャラを私が悼むなら、それと真逆の価値観を持つ人物を。
10月12日 日本州北海道札幌。ここに、現在連邦軍のMS生産の一角を担う、太洋重工の本社がある。その社長室。
「それで、ようやくここに戻ってきてくださったわけですわね」
「正直、頼りたくはなかったけどそう言ってもいられなくなった」
一番有能だろうと呼び出したが、有能だけあって性格の方は最悪だった。彼女を相手にするならば、まだジオンで相手にしている女性群の方が御しやすい……というか心に来るダメージが少ない。うん?何処が御しているの?とかいう突っ込みは……ごめんなさい。
「社長なら、今いませんけど?」
「おかしいなぁ。社長以上に強い人、信頼すべき人がいるのに社長に会う必要あります?というか、あんまりいじめないでください」
ああ、もう、こちらのすべてを見透かしてくれるから遣りにくい事この上ない。コレから始まるアナハイムとの暗闘を考えると絶対に協力が必要だと思って呼んだけれども、この人のやる事にはあんまりタッチしたくないのだ。条件が条件だし。しかし、この人物の識見、ものの見方はこれからぜひとも必要になる。異星人との友好関係を模索するキャラクターは多かったが、異星人との商売まで、それも、死の商人としてのそれをなそうとしたキャラクターは、絶無だ。だからこそだ。
「それで、この前の話は考えてくださった?」
「その話は無しの方向で……わかりました。無理ですね」
女性はにんまりして言った。
「わたくしに、兵器を好きに売るな、戦争を誘発させるな、利益を得るために手段を選ぶようにしろ、と色々制限を掛けてくださったのですもの。あなたの人生に制限をかけさせてもらうのは当然でございませんこと?」
「好いた張ったというなら私も心が動きますが、利益から考えられるとなんとも」
「だって、あんなすごいものの使用できる唯一の方ですもの。対価がそれなりにあるのは当然ですわ。それとも、対価がわたくしでは御不満?」
「不満とかそう言う話ではないんですが……」
いかん、完全に彼女のペースだ。
「好きですわよ?」
「自分の何処が好きなのかが問題だと思うのですが」
目の前の女性は鼻を可愛く鳴らして笑った。
「ですから、アレ――プラントやシステムを操れる能力が」
「やっぱり」
当然です、と前置きして彼女は言った。
「魅力のない男に誰が恋します?わたくしにとってそれは、何かをなす能力であり、実際にできると言うことであり、それをやれる人間だということですわ。それに考えても見てくださいな。指先一つで資源やMS、戦艦にオーバーテクノロジーの塊を生み出せるのですわ。そんな能力持っている方なんていませんもの。愛するには充分な理由じゃありませんこと?」
それ、愛って呼ぶんでしょうか?
「うわぉ。……相変わらずはっきりしていらっしゃる」
「ですけど、そういうとあなたがわたくしを嫌いになりそうですから、別な理由を述べたほうが宜しいようですわね?」
私はうなずいた。実際、この会話にしろ本当のことが含まれているとは露ほどにも思わない。目の前の女性が抱える心の壁とやらが、どうしてかはわからないが今は判るような気がする。これも、獲得し始めたNT能力のおかげだろうか。
そして怖いことに、彼女はそれを知っているのだ。言葉に出さなくとも。私がここに来たことが、彼女の隠された内心をどうにかできるかもしれない可能性があるからだと言うことを、彼女は読み取っている。ある意味、彼女もNTなのかもしれない。
「あなたの目、あなたの感じ方、とでも言うですかしら?わたくしの嘘は通じないし、わたくしのかける毒に影響されない。色仕掛けなんて迷うそぶりすらないし、同性愛を疑ったけどそんな様子もない。何よりも、何も考えていなさそうなのに突き刺すような目。こちらが見透かされているようで、そして実際見透かされているのでむかつきますわ」
そりゃそうだろう。接触がなかったとは言え、どういう人間かは知っている。色々な作品を通じて彼女が何をやる人間かも知っているし。それに、アニメ作品の登場人物だとわかっているのに、それを改めて人間であると認識する時間もなく欲情などしていたら変態、人非人もいいところだ。相手の人格ではなく、外見や容姿、言葉遣いや自分の妄想の結果を愛するなど。男性だから仕方ない面もあるとは思うが、それを現実の人間相手にやるのは失礼千万だろう。
相手が人間であるなら、それに適当な関わり方と言うものがある。まぁ、いまさらかもしれないが。
「見下したくなる人には会いました。ゴミと思う人にも会いました。関わりたくない人にも会いましたし、そう言った人間ばかりであるとわたくし、思っていたんですの」
「ずいぶんと素晴しい世界ですね」
そういう世界は悪夢というべきじゃないのか。やっぱり能力とコミュニケーション能力は反比例するのが普通なのか?
「ですけど、むかついた人間は二度目ですわ。しかも、一度目とは全く別の。あの底まで見透かすような目。一応褒めておきますけど、あそこまで背中が冷えたこと、興奮したこと、これまで一度もなかったですのよ?」
突き刺すような目?アニメキャラを目の前にしているんだぞ?三次元に。二次元の時との違いをよくよく観察しようとしていただけなんだが。ほら、良く言うじゃない。アニメで描くと目が大きすぎるようになるから、頭蓋骨の形状ってどんなになっているのだろうって?考えたことない?たとえば猫耳少女の頭蓋骨の形状についてとか。
……あー、何か喋らないと。また怖い目で睨んでらっしゃる。
「一度目の人の御冥福をお祈りしたいのですが」
女性は花が咲いたような笑いを洩らした。
「駄目ですわよ。まだ死んでませんもの。世界を自分の作る武器で平和に、なんてお甘い考えのリン・マオは女性ですからわたくしのものにはなりません。ですから、なんとしてでも殺す……だけではつまりませんわね。あの顔がどうにかなるのを見てやるつもりですわ。勿論、もう一度お会いできたら、ですけど」
わーお。こわいよー。逃げたいよー。なんでこんな人を呼び出しちゃったかなぁ、私は。そりゃね、スパロボで一番魅力的な人だとは思ったけどさぁ。やっぱり、見ている分に楽しい人は実際付き合うには問題がありすぎるんだなぁ。うん、僕懲りた。ごめんなさい。今から帰ってくれませんでしょうか?
「あなたは彼女と違って男ですから、わたくしのモノになってくれません?」
ああ、またまずいことを癖で言いそうだが、口が止まらない。もういいや。自重しない方向で行こう。
「それはSって書いて嗜虐的とか読む意味でおっしゃってるんでしょうか?そこに痺れる鞭打たれるような」
「お望みならそうしますけど?そういう御趣味?」
「いえ、全く違います。むしろ逆がいいかな、と思ってます。だって男の夢でしょう?……すいませんすいません」
「了解しました。そういうお望みならそれでも結構です。むしろ望むところ……返品は不可ですので」
え?俺契約したの?今の何処に契約行為があるの?
「それではお席についてくださいませんこと、旦那様?相性ばっちりだと思いますわよ?」
やばい、このままではなし崩しに既成事実化される!
「キャンセルを要求する!クーリングオフ!クーリングオフ!8日間は返品可能なはずだ!それに、まだ私は婚姻届も書いていないし判子もおしていなければサインなども全く無し!」
「今の会話、ジオンや連邦に流します?当然、つながりつくってありますけど?放って置かれた分、色々やらせていただきましたし、あなた自身の目的そのものをどうこうしようとしないかぎり、わたくしたちも結構、自由に動けますでしょ?」
白旗を揚げました。もう駄目です。ゴメンナサイ。そんなことされたら月に帰ったら絶対に血を見ます。絶対に月を舞台に大戦争で収拾がつかなくなります。畜生、この女性、こっちの弱みを知っている……
「我が太洋重工にようこそ。専務のミツコ・イスルギ……明日からはミツコ・ミューゼルが対応いたしますわ。ミューゼル少将閣下」
別世界最大最悪の死の商人、イスルギ重工の社長、現在は太洋重工の専務はそう言ってのけたのである。