ホワイトベース隊の降下が予定通り、と言うよりは歴史どおりに北米降下となったことを受けて、ついに11月に作戦開始が決定されたオデッサ作戦にホワイトベース隊を参加させるよう、ジャブローの総司令部から通達があった。
ホワイトベース隊に対する補給はすべて、樺太基地の第三集団から行うこと、その際に必要となる戦力を整える費用に関しては連邦軍総司令部が保障するため、樺太工廠でのMS生産の一部をホワイトベース隊に回しても良いこと、ホワイトベースに対する補給を行うための部隊として、第166戦略輸送隊を樺太に派遣することと、ホワイトベースの戦闘艦改修を樺太工廠で行うことが通達された。
結局V作戦の地上行動すべてに関わるわけか、と暗澹たる気持ちになったが、9月半ばより始まった、ジオン軍への反抗作戦の第一弾、アジアに展開する旅団規模のジオン軍の排除・掃討作戦「コロニアル」の発動で、インドシナ半島に展開するジオン軍が連邦軍に押され北上。バイコヌール基地を目指して撤退に入ったため、マラッカ海峡を通じた輸送ルートが潜水艦の脅威以外は安全に使えるようになった事は大きかった。
それに、情報部に要請して調査してもらった結果だが、オーストラリアにジオン軍が降下していないため「コロニーの落ちた地で……」が未発生。シロー・アマダ少尉の地球降下の際に、ゲルググの運用試験に参加していたアイナ・サハリンとの接触が確認されたものの、現在ギニアスが月面で宇宙用MAの開発に携わっているためそれ以上のイベント進行が起きていないこと、ガンダムピクシーの開発をオミットしたことでCrossDimentionも生じていない。
はっきり言って派生作品が多すぎる一年戦争は、下手に派生を生じさせると戦争への介入自体がおぼつかなくなるし、派生そのものを潰していけばそれだけでGPとなるため、戦争の流れにアクションを行うにもGP獲得にも利点がある。
懸念は、その行為自体による派生の発生だが、実際、ホワイトベース隊におきた一連の出来事はそれによるものだろう。これからも彼らの行動には注意しておかなければならない。他作品を潰した事による派生が、ホワイトベースに生じる可能性が大きいからだ。
第15話
連邦軍仮称G-1部隊、MS戦技研究大隊は、1個MS中隊、独立編成の6個MS小隊および支援部隊、MS開発・試験部隊を保有している。旗艦はペガサス級強襲揚陸艦「トロッター」で、現在ジャブローで艤装中のペガサス級五番艦「ブランリヴァル」も完成次第編入の予定だ。
現在、独立編成の6個小隊のうち2個小隊が士官未配属のためMSのみとなっており、本部小隊の人員も小隊長のエイガー中尉しかいない。また、第5小隊に所属しているヤザン、ライラ両少尉が現在、ホワイトベースに収容されて北米にいるため、6個小隊のうち、稼動状態にあるのは2個小隊に過ぎない。
その上、その2個小隊はジムのデータ撮りが一段落し、後発機の開発に任務が移行し、幾つかの実験機を運用しているため、戦力と数えることが出来ない。実質、「トロッター」所属の司令直属中隊だけが戦力だが、こちらはこちらで問題があった。
あからさまにガンダムクラス以上の性能を持つゲシュペンストで編成されているため、下手に運用できないのだ。勿論これらの機体は技術試験用と銘打たれ、L計画版ガンダムという扱いだが、実質死蔵しているも同然である。元々戦線が宇宙に移行してから、最悪ソロモン戦あたりでの投入を考えていた戦力を、予想外のホワイトベースの状況に押される形で投入したため、介入の時期を考えざるを得なくなったためだ。
下手に投入して技術の跳躍でも起こされてはたまらないし、そもそもV作戦、RX計画の代替、予備計画と言う扱いでごまかしをいれたL計画の計画機がガンダム以上の性能を持つと知れれば厄介なことになるのは間違いないからだ。
実際、「トロッター」所属の連絡官として、偽名キャサリン・ウィロウズ大尉、本名アリス・ミラー少佐を見たときには仰天した。書類には連絡士官・防空任務も可能と書いてあったが、彼女が情報士官で、しかも思想的にどう見てもジャミトフ系の人物であることを私はミラーズ・リポートを見ているので知っている。冗談ではなかった。
丁重にお帰り願ったが、どうやらジャミトフ系の方々もこちらに眼をつけ始めている模様。情報部を担当しているのがエルランだったはずだから、ジオン(キシリア)側からの要求も入っている可能性が高い。正直頭を抱えたくなった。お前はシローでも取り調べて自白剤でも吸っていろとか言いたくなった。マジで。偽名もCSIのキャサリン・ウィロウズとか冗談じゃないよ。中の人ネタだろそれ。
しかし、ある意味連邦にいることはほっとすることが多くなってきた。「トロッター」艦長に着任する士官がエイパー・シナプス大佐に決定。副艦長としてヘンケン・ベッケナー大尉が決定したよ、とゴップ大将から連絡があったのだ。ヘンケンはこの時、ブレックス准将の第11艦隊所属のはずじゃあ……と思ってたずねてみると、第二軌道艦隊をティアンム中将指揮で編成するため、第8から第12艦隊までの残存艦をすべて取り上げ、ブレックス准将をレビル大将の参謀長として任命したとの事で、第11艦隊所属の軍人が宙に浮いたのだそうだ。もともと、船が足りずに軍人あまりの状態だったらしい。
やっと部隊が形になってきたと喜びにあふれてきたところで、ゴップ大将より通信が入った。
「おう、少将。元気かね?」
「ニコニコ笑ってらっしゃるのがとても怖いです、大将。前回のキャサリン大尉の件もありますのでビクビクですよ」
そう言うとゴップ大将はひざをたたいて大笑いした。
「まぁ、一目で見抜いたから情報部の方が大変だったからな。気をつけたまえ、エルランが色々動いとる。あいつ、MS開発計画から離されたことでまずいんじゃないかとあせっとるよ。コリニー提督とも接触を持ち始めたからの」
それを知っているあなたの方が怖い気がしてきました、僕。
「大将が何故其処まで詳しく知っているかの方が気になるんですが……」
「これでも顔は広いのだよ。軍内部に顔が効くのでな、コリニーの下の方などにな」
ああ、そう言うことになるわけですか。お金持ちが強いのと同様、軍内部では兵站を持っている方が強いと。こりゃあ、ゴップ大将が退役された後の方がめちゃくちゃ重要なんじゃないか?
「これからも兵站総監部とは仲良くしていきたいですね」
「そうだな。後任にはタチバナ中将を推薦しようとおもっとるから、君のことを通しておこう。まぁ、堅い奴だからそこのところは気をつけてくれたまえ」
「はっ」
タチバナ中将ってアレだよな、クライマックスだよな。おおぅ、コンペイトウで焼かれないようにさせたげないと。ゴップ大将はうなずき、話を続けた。
「今回の通信は、君から要請のあった部隊がまわせる算段がついたのでな、その連絡だ」
はっとなる。要請が通ったと言うことは、ゲームや小説で有名なMSパイロット(今はまだ無名だが)の確保できるということだ。
「MSの開発が君のところか、レビル大将のところかに二本化されたことで、派生計画にまわす人員が宙に浮いたのでな。かなり人員的には通りやすかったのが救いだが、結構、君からの要請と被るのがあったのはおどろいたぞ?良く把握していると不思議に思ったものだ」
「まぁ、RX計画の派生部分にはL計画との兼ね合いもありますから、やっぱり腕のいいパイロットの評価には目は通します。当然、才能や腕を持っているのはおのずから限定されるでしょう」
ゴップはうなずいた。人員の評価基準として確かなものを持っているこの男はやはり使える。40代ぐらいで政界に転身させれば、我々の派閥から連邦首相まで出せるかもしれんな、などと考える。文民統制上、やはり軍出身の議員が首相になることには壁があり、最高でも議長ぐらいまでが限度だ。ゴップは当然、自分が議長までいける自信を持っているが、流石に前例のない首相まで出来るとは思っていなかった。
「10月の7日付でオーストラリア地上軍からレイヤー小隊が、北米アラスカ方面隊からカジマ小隊が配属される。それに、士官学校の前年度卒業生から、首席のマッケンジー中尉を引いて来たぞ。宇宙軍の戦技研究団にいたから、トリアーエズやセイバーフィッシュの運用経験も豊富だ。適正を見たが、シューフィッター評価がいいからすぐに役立ってくれるだろう。……但し」
ゴップは続けた。
「ここまで厚遇したのだから、とまたぞろうるさいのが出始めてきてな。北米から樺太に移動してオデッサ作戦にはいるまでのホワイトベース隊を君のところに任せる。臨時に指揮権を付与するから、艦長のパオロ中佐と相談して事態に対応してくれ。名目上、レビル大将指揮下の独立第13部隊に編入され、その部隊の指揮を君が採ると言う形になる」
ここでも来たか。本来ならパオロ中佐ではなくブライトが中尉で独立部隊を任されるはずだが、何の信用もないブライトと、長年艦隊勤務を続けて教官としての経歴もあるパオロ中佐では流石に評価の基準が違う。ワッケインもパオロの生徒だったしな。意外に階級では図れない、師弟関係も含まれている可能性があるわけだ。
「だからと言ってほい、と投げたのでは手の出しようがあるまい?太平洋方面軍のバッフェ中将には君のところに最大限の便宜を図るよう言っておいたから、ホワイトベースに物資を送る際は頼りたまえ。それに、ラミアス大尉の3機のミデアでは問題もあろう?マチルダ・アジャン中尉のミデア小隊を増援に送る。オデッサに備えたホワイトベースの改修も樺太でやってもらいたいから、造船技官のウッディ大尉も一緒に派遣しておいた」
マジか。これ、ジャブローの地下でのズゴックのジムどかーんが、樺太に場所を移したってことだよね?ということは、黒い三連星の事件とスケジュールが前後するわけか。太平洋上でジェットストリームアタックは流石にないはずだから。
なんてこった。最悪マットアングラー隊とガウの編隊を、ギアナ高地の岩塊に守られたジャブローではなくここで受けることになるわけか。しかも、ランバ・ラルを先行して確保しているから、ドズルがもしガルマの仇討ちなぞ言い出したら……うわぁ。
ということで、本腰入れて第一回のホワイトベース隊への補給を行う必要に迫られました。まず持っていくのは当然ガンダム、ガンキャノン、ガンタンクの補修用部品および武器弾薬に食料。これだけを1機のミデアに搭載可能と言うんですから、ハービックはいい仕事をしていると実感しました。
ペイロード160tって、どんな化け物だよ。
帰りには破損したジム、およびヤザン、ライラ両少尉と軌道上で撃沈され、ホワイトベースに回収された負傷兵、避難民を可能な限り積んで戻ることをお願いした。また、ホワイトベース隊にも、ジオン軍の拠点であるキャリフォルニアベースからはなれて、北米沿岸沿いにアラスカからアリューシャン列島沿いの大圏航路を取るように指示。ジオン軍との会敵の可能性を減らしたが、これはシアトル郊外での遭遇を歴史どおりに誘発させるためでもある。
正直、ORIGINルートの様にロサンゼルスの街中を突っ切るルートには救いが見出せなかったし、あのルートはジャブローへ南下するルートだからこそ選べたわけで、ジャブローに行かずにオデッサ作戦へ参加する可能性が高い現状、TV版のストーリーをある程度なぞっていると判断したのである。
また、戦力的にも不足している可能性があるため、追加にラミアス大尉の輸送部隊から臨時に2機のミデアを抽出。マチルダ中尉の指揮下に組み入れ、バニング指揮下の第4小隊を搭載、増援として送ることを決定した。但し、現在の試験が終わってから、と言うことで、恐らく太平洋上での邂逅になるだろう。当然、危険も増えるわけで、同時に太平洋を管轄する連邦海軍のバッフェ中将にゴップ大将を通じて連絡を取ってもらい、アリューシャン列島およびアラスカの連邦軍基地に、ミデアの燃料補給とシアトル近郊までの護衛を願った。
ジオン側のMS状況を俯瞰すると、月を経由して地上に送り込まれたMSにかなりの数の 水中用MS、および陸戦型MSが存在することがわかった。大部分は連邦軍の攻勢を抑えるために大西洋に送り込まれ、ジャブローからベルファストまでの航路妨害の任務に従事しているらしいが(降下先はセヴァストポリだった)、少なからぬ数がキャリフォルニア宛に降下している。勿論、現在進行している「コロニアル」作戦の増援として、水陸両用MSの主力であるアッガイが多数、東南アジア戦線で確認されているが、戦闘が北上するにつれて、任務はハワイ近海の通商破壊作戦が中心になる。
つまり、樺太がジャブロー化するということが避けられなくなってきているのだ。連邦軍が、まず工業地帯の集中する北米東海岸の防備を固めようと、既に生産が始まっているジム、陸戦型ジムの大半をオデッサ作戦用と折半する形で北米に送り込んでいる現在、連邦軍の反撃も熾烈で、そのため戦闘力の高いズゴック、装甲厚があるゴッグ、新型水中用MAグラブロが投入されている。そして、それに押される形で、水域の広い太平洋地域には、量産のたやすいアッガイが確認されるようになってきたのだ。
また、北米の連邦軍が強化されることは、当然キャリフォルニアベースの増強にもつながる。恐らくガルマの戦死が起こるだろう今月上旬以降、15日に、第3次地球降下補給が行われる予定だ。本国生産されたドム・トローペン、グフB3型や陸戦型ゲルググ(ビームライフル未装備)といった多数の陸戦型MSを投下するそれは、オデッサ作戦対策だ。絶対に、こちらへの攻撃に一部まわされる恐れがある。
「ゲシュペンストだけでは無理な可能性が出てきた……」
「プラントの設置箇所は地下とはいえ、装甲板数枚の地下格納庫ですよね?」
副官のカトルが口を挟んだ。どうやら、同じような推測に至ったらしい。ジオン軍の戦力降下スケジュールと、樺太での改装、およびオデッサ作戦のスケジュールを考えると、どうしてもホワイトベースはここに1ヶ月ほど駐留することになる。
「設置したときには、ここが攻撃を受けるとは思っていなかったからね……ニューヨークから南下してジャブローのルートが鉄板だと思っていたから」
「さらに地下に移すのはどうです?」
私は頭を掻いた。
「無理だと思う。海水を搬入してRPにするシステムにしているから、多分そこら辺からズゴックで進入してくる可能性が高い。プラントの目の前あたりでドンパチすることになると思う。まぁ、プラント部分と搬入口の間にはスペースをかなり取ってあるから、戦闘するのには困らないと思うけど」
「……難しいですね」
「ドズル閣下がガルマのあだ討ちに誰を持ってくるかわからない以上、現状で絶対に攻めてくるのがシャアとマットアングラー隊だと言うぐらいしかわからないのがつらい。マットアングラーや配属部隊の編成がどうなっているかを、キシリア相手に調べないといけないなぁ」
そう考えると、宇宙世紀登場人物に対する技術にポイントを割り振る必要が出てくる。対人関係掌握能力にポイントを割り振ったところ、友好的な人物に対しては大丈夫だけど、キシリア機関なんておそらく、友好的な人物なんて望めそうにもないしなぁ。ドズル配下でも、コンスコンあたりは私のこと嫌っているし。
「やっぱり、私程度の頭の中じゃ無理なのかな。ねぇ、カトル君。知っている人物に、人品性格問題なくてアタマの良い人いる?」
「……レディさん?」
頭を抱えた。
「それって眼鏡の方だよね?ロックオンに聞いたら連邦軍のマネキン大佐とかスメラギさんは?とか言うし……。スメラギさんは悪い人じゃないと思うんだけど、アルコール依存症だしねぇ、彼女。お酒の趣味も合わなさそうだし」
「マネキンさんはどうなんです?」
「あの見下す視線が別の趣味でも生みそうな感じがして……。というか、彼女のキャラって、どちらかといえば姉さん寄りでしょう?これ以上胃痛の種は増やしたくないのが本音なので……」
カトル君は苦笑する。怖い女性の相手は彼も経験ある事象だ。
「どーすんだよ、これ……」
頭を抱えざるを得なかった。