宇宙世紀0079年、本日は7月7日。現在地はジャブロー工廠。
目の前のMS整備用のハンガーには、連邦軍の期待の新星、RX-78ガンダムが4機、格納されている。
ロットナンバーは右からRX-78、RX-78-1、2、3である。RX-78系統の機体が、ファーストロット系統で実は4機存在する事は知っていたが、これだけ並ぶと壮観だ。ジャブロー工廠を管理しているゴップ大将によると、4機のうちナンバーの振られたRX-78-1、2、3の三機は、ホワイトベースに搭載の上、サイド7での最終試験に臨むという。
現状、ルナツー近辺の宙域は連邦軍によって維持されており、試験空域となるサイド7は連邦軍の庭と言うらしいが、宇宙で使用できるMSをまだ数として持っていない連邦軍の現状からするとかなり危うい。ここのところは、下手にルウム戦役で連邦宇宙軍の艦艇が残ってしまったため、ルナツー近辺まで通商破壊作戦を行えなかったジオン側の問題もある。5月にジオンに戻り、6月末に帰還したが、その最後の週辺りになってようやく、ドズル指揮下のいくつかの戦隊が、通商破壊作戦に従事するらしいとの事だった。
連邦軍によって制作されたエネルギーCAP技術は、連邦の高い工作精度とも相俟って、ザク程度の装甲なら掠るだけでも融解を始めるほど出力が高い。既に運用方法の確立しているガンキャノン、ガンタンクは、試験用と言うよりは護衛として用いる方針のようだ。
ゴップ大将が本日私を呼び出したのは、RX-78をベースにセカンドロットにあたる4号機から8号機の合計5機の開発・実用化を太洋重工で行ってほしいということらしい。また同時に、機体追従性の向上を目的としたNT計画の名前の下、ガンダムの機体追従性向上型もあわせて開発してほしいとの事だった。現在の北米は激戦区だから、流石にオークニー基地とかで開発は無理か。……でも、史実でもキャリフォルニアとニューヤークが陥落したのは12月の話だよな?
「しかし、現状パイロットが足りません」
私は言った。
「第4小隊はジムの集団戦闘データ撮りの真っ最中ですし、ライラ、ヤザン両少尉はジムの派生系のテストに用いています。現状、手が足りません」
ゴップはうなずいた。しかし、少し考えるように言った。
「ソレは承知している。だがのぉ……君に心当たりはあるか?太洋重工の社員とかはどうだ?」
「今いる人員でもいっぱいいっぱいです。ジムは汎用機ですから、当然水中、河川、泥濘、森林など地上の各地形に対応したデータが必要になります。なんにせよ、まずはジオンを地球から追い出すことが第一の目的なわけですから、ジムのデータは最優先で撮る事になります。大多数の兵員が乗るのはガンダムではないので」
ゴップはうなずいた。
「だからと言ってライラ、ヤザン両少尉を動かすことも避けたくあります。二人にはホワイトベースに同行してルナツーまで行って貰い、ジムの宇宙戦データを取ってもらう必要があります。まぁ、先行試作型のコクピットとバーニア周りを改修した、暫定的な宇宙戦仕様ではありますが、ジムの運用を宇宙でも考えているなら、必要な措置です。流石に、これに加えてガンダムの運用・開発までどうにかしろと言うのはオーバーワークですよ」
ゴップは頭を掻いた。
「だろうなぁ。わしもそう思うのだよ。だがな、前線部隊からはパイロットの引抜に対して文句を言われ続け、断られる結果となっておる。前線の言い分もわからんわけではないのだ。戦線を支えているのは彼らだからな。君のところで訓練して送り出したのを戻すのも困るし、前線で自然に扱いなれた奴を戻すのも問題だろう。ツァリアーノとか」
今度は私がうなずいた。
「でしょうねぇ。あの人は鹵獲機使った訓練に忙しいでしょうし……士官学校を今年出たばかりの奴では如何でしょう?」
「ジャブロー配置予定のか?出立てほやほやでは意味なかろう?」
「でも、頭に何も入っていないですから、適応早いと思いますよ?スペースノイドがいいですね……宇宙戦を考えるわけでしょう?でしたら……」
ゴップはため息を吐いた。困ったように顔をこすり、口を開く。
「全く、大佐には適わんな……了解した。大佐の方で良いのを見繕ってくれ。配属が何処でも、強気で当たってみる。だが受け入れ先が明確でないと前線も頷けないだろうから、MS戦技研究大隊とでも名前をつけて、仮称G-1部隊と書類を上げておく。ただスペースノイドの扱いには気をつけてくれ、コリニーや、その腰巾着のジャミトフ、さらにその腰巾着のバスクやジャマイカンが色々煩くなってきたのでな」
「はっ」
第12話
連邦とジオンの戦争は、変わることなく一進一退を続けたままだ。ジオン軍は予定通り5月末にトライデント・ジャベリン両作戦を開始し、これに成功した。一時期、インド方面からの連邦西部ユーラシア方面軍の攻撃で分断された中東地域を、5月末までに海陸双方からの進撃で再連結することに成功している。
これに対し、連邦軍は5月下旬にヘリオン作戦を発動。史実ならば失敗したソレは、参謀長にヤン・ウェンリーを迎えた、ビュコック中将率いる連邦第一軌道艦隊の活躍によって成功した。ジオン軍は戦闘艦艇の被害こそ少なかったものの、多数の大気圏突入カプセルを投下し終えたばかりの輸送船団を喪失。地球~月間の航路に一時影響が出、またぞろキシリアが人のところから今度は船団を持ち出す始末となった。Nシスターズ保有の輸送船の徴発行為に出たのである。
Nシスターズの抗議文書をギレン宛に送付したが、ギレンは徴発する船舶の数こそ減らしたものの原則的にはこれを承認した。実際、軌道上で失われた輸送船はかなりの数であり、投下任務終了後には本来の役目である各サイド~月~資源衛星間の輸送任務に戻る予定だった事を考えるとまずいのだ。ここまでして何故、地球への戦力投下を行ったかと言えば、この投下カプセルに、本国生産されたグフ、ドムの第一期生産分が入っており、ジオン地上軍の増強のためには絶対の物資だったからである。
6月に入り、月面で建造を進めていたドロス級空母ドロワ、ミドロが完成。ドロワは予定通りドズルの宇宙攻撃軍へ配備され、ミドロは本国防衛隊配備となった。ギレンからは本国にはドロスがあるため、2隻は多いとの話だったが、下手に持っていて後々キシリアに目をつけられても面倒なので、ここは御願いする事とした。返礼と言ってはおかしいと思うが、この際、ザンジバル級のケルゲレン、インゴルシュタットを取得することが出来たので、早速インゴルシュタットをアクシズに送っておいた。工作部隊を満載して送り出したから、居住区拡大に役立ってくれるだろう。
戦局がいよいよ来月から動き始める事もあったので、輸送艦艇、木星船団の中継地としてカラマ・ポイントに補給基地の設営を開始(インゴルシュタットは行き掛けの駄賃に設営に参加)。推進剤や食料などを優先して配置し、もしもの時に備える態勢を整えておいた。どうせ後半年もすれば使うことになるだろうし、戦局が動き出してからでは隠れて何かをする時間がなくなると考えたためだ。
そして私は、6月中に行われた次期主力MS選定試験でリック・ドムが高機動型ザクを破り採用され、次々期主力MSとしてエネルギーCAPの実用化次第、生産がゲルググに移行する事を確認した後、連邦に帰還したのである。シーマ艦隊には予定通りゲルググMを配属し、CAP技術が出来たところで専用機も作ってしまおうと考えている。
さて、この4ヶ月の行動内容を記してみたわけだが、やはり連邦側で行動する際の戦力が少ないと実感する。新型ガンダム開発・実用化計画を任されたのは良いが、現在配属されている士官はティターンズよりの思想の持ち主が多く、軍内部の一派閥として立ち上がるには問題がある。
欲を言えば、誰か頼れる人材が欲しいのだが……。カーティス大佐やシーマ姉さんの様に、部隊率いられる人材……うわっ、連邦は本当に少ないわ。誰か適当なキャラクターを呼び出して、大尉か少佐ぐらいの階級でっち上げて、そいつに指揮させるかぁ……。平成に適当なのいただろうか?
7月10日、とりあえず、早速呼び出したネオ・ロアノーク少佐にミデア輸送隊の指揮官、マリュー・ラミアス大尉をつけ、MS運用試験隊、仮称G-1部隊が発足した。バニング大尉率いる第四小隊はなんとかなりそうだったので編入したが、ヤザンとライラは怖そうなのでとりあえず様子を見ることとし、整備班長としてネイズン少尉を、エイガー少尉をRx-78に配し、試験を開始した。ガンダムが開発され、ジャブロー工廠で先行量産型ジムの生産が開始された事を受け、月からパッシブジャンプゲートを通じて持ち込んだ陸戦型ジムを第4小隊に配り、試験データの収集を行わせると共に、ジムの試験生産型と称してRPで生成したジムをヤザン・ライラ両名に配し、これも試験データ収集にまわした。
そうこうしているうちに、連邦軍内部での新規MSの開発計画が樺太基地と名づけられたうちの部隊の施設を用いて行われるようになり(『大将会議』と通称される会議の参加者のみに開示された情報だったが)、7月下旬には予定されていた陸戦用ジムの試験も終了。新たにジャブロー工廠よりRX-79G、陸戦型ガンダムを受領。データ取りにいそしむ事になる。同時にガンダム4号機、5号機の開発が終了。ジャブローに送り出し、通商破壊作戦への投入を示唆しておく。また、高性能MSとしてのガンダムが実戦投入を目前としたことで、L計画製新型試作機として、ゲシュペンストをそれとなくデータにもぐりこませておいた。
連邦軍内部での開発計画が樺太を経由する事となった第二の利点は、私自身が准将に昇進した事だ。基地司令であり開発計画の主務が大佐では色々とまずいらしい。特に、実戦任務に付いて、戦闘データの収集を行っている部隊の長がコーウェン准将なのだが、我々に比べてあまり良いデータが取れていないらしい。責任問題に発展しかけるところで流石にレビル大将やパウルス大将から制止が入ったが、准将が任務を果たせていないのに大佐が任務を果たしている時点で、どうだ、という話にまで発展したらしい。
お前、黒歴史データ&チートシステムもってる身と、身一つで模索している苦労人のコーウェン准将を比べるなよ、と突っ込みたかったが勿論出来るわけもなく、あとでシトレ大将から聞いたところによると、戦後にグリーンヒル議員の援助を受けて政界に打って出たいゴップ大将が、その娘婿ヤン少将の弟分で、しかも資金源たる人物を大事にしたいという思惑まで入っていたらしい。
ゴップ大将……兵站管理がものすごく上手く、実際連邦軍が潤沢な兵站物資で戦えているのは、この人が精力的な需品管理で輸送計画を練っているからだからなのだが、私人とすると老後の事も考えていらっしゃるわけか。まぁ、地位と権限が増える事は悪い事ではないので有難く受け取っておいた。
しかし、だからといって今度はコーウェン准将の恨みを買いたくはないので、コーウェン准将には航空機・艦艇の分野で新兵器開発と企業との折衝に当たってもらうようゴップ大将に進言。下についていたMS試験部隊はもらいました。これでMS特殊部隊第3小隊を確保。G-1部隊第三小隊として活躍してもらいます。結局、Lost War Chroniclesのキャラはジオン、連邦双方抑えたので、歴史どおりにLost War Chroniclesが起こる可能性はなくなりました。まぁ、そもそもキシリアが地球を押さえている段階で、地球での作戦にいろいろ介入しまくろうなんて死亡フラグは犯せないんですが。
7月12日、予定通りホワイトベースがジャブローを出航。欺瞞のために航路変更を何度も行い、8月1日に無事サイド7に到達し、ガンダムの最終試験を開始したとの報告を受け取った後に、我が部隊よりヤザン・ライラ両少尉をジムの試験としてルナツーへ送る旨をゴップ大将に連絡。ルナツー駐留に戻ったビュコック中将のOKが出た事でシャトルで打ち出し、軌道を巡回する小艦隊に回収の上、ルナツーへ運び込みました。あれ?シャアに引っかかっていないのか……となると、9月辺りが怪しいな……
また同日、ジオンではザクⅡF型の生産が正式に終了し、以後生産ラインはすべてリック・ドムに移行する旨、ツィマッド社から報告。ほくほく顔で報告して来てくれたが、ジオニックの反応が怖い。
そして運命の月、0079年9月を迎える事になる。
0079年9月2日、ジオン公国の要塞ソロモンにおいて、一つの生命が誕生した。ミネバ・ラオ・ザビ。ドズル・ザビとゼナ・ザビ(旧名ゼナ・ミア)の間の愛娘である。私は14日、9月16日に予定されているルナツー襲撃作戦に参加すべく、シーマ艦隊と共にソロモンへ出向いていた私は早速ドズルにお祝いを述べる事にした。同時に、曳航して来たコンテナ船に搭載したドラッツェ32機をソロモン防衛軍に提供する。
「おめでとうございます、閣下」
「おう、トール……すまんな、俺はもう、うれしくてうれしくて……」
ORIGINでは既にコロニー落としの時には生まれていたはずなのだが、変にテレビ版が混じっているのか、ミネバの誕生は9月になっている。この、微妙な変化に象徴されるこの世界の状況は、この世界の未来を知っている自分からすると恐ろしい。細かい事件の発生時期が微妙に異なるため、対応を誤りやすいのだ。実際、戦争そのものを避けようともしたが、変なところでTV、劇場、ORIGINが混ざるため、介入の機会を逸した、なんてことも多かった。アストライアさんも結局救えはしたものの、死んでしまった時期が変わらないし……。最後に二人に会えたことが救いだったと考えたい。
実際、12月に建造が始まるとTV版で出ていたソーラ・レイも、襲撃作戦に先だってギレンとの打ち合わせに通過したサイド3では、既にコロニー・マハルからの疎開とその住民の受け入れ問題が生じていた。それだけでも怖いのに、面倒な事に150万にもなる人口を月面で受け入れる事を要請され、急遽月面から輸送船団を呼びこむ羽目になった。流石に150万人もの人口を一気に輸送する事は難しく、一部他のコロニーに足止めしておき、輸送船団がサイド3へ持ち込む資源と引き換えに人員を輸送、月面でおろすと地球への補給物資を満載して軌道上で投下し、軌道上で地球からの資源を受け取り以下エンドレスという形でピストン輸送する事となった。
ソーラ・レイ建設に月からも援助を行い、開発主任のアサクラ大佐と協力して事に当たる事を要請されたが、こちらは望むところなので問題はなかった。まぁ、シーマ艦隊に戦争犯罪をすべて被せただけあってアサクラ大佐の人品性格は最悪だったが、良く言えば権力と金でどうとでも転ぶので扱いやすいのが救いだった。
現在、シーマ艦隊は、旗艦である「マレーネ・ディートリッヒ」にカーゴ付ムサイ3隻(後期生産型)で構成され、搭載されているのは先行量産させたゲルググを改修した、となっているゲルググMが艦隊合計36機、シーマ姉さん専用のFs型が1機、コッセル用の高機動型ゲルググ(ミサイルランチャー装備)が1機に、私、トール・ガラハウ専用ゲルググの計39機を満載している。
ちなみに、やっとチート機体を出せたのが、この私専用ゲルググである。
いままでザク、グフ、ドム、ゲルググとジオンの主力機が出揃うのを待ち、その上各種の派生機体が出始めるのを待っていた最大の理由は、最終的に「ジオン」側で動かす艦隊の主力MSを、宇宙世紀0122年に用いられるRFシリーズで固める事を狙っていたためだった。
本来の歴史ならOMS-14SRF、シャルル・ロウチェスター専用ゲルググと呼ばれるソレは、元々の機体でさえジェネレーター出力3870kwと現行のザク、グフの4倍近い出力を出す、現在のMSの基準から言えば化け物と呼ばれる性能を持っている。勿論、オーバーテクノロジーなのがバレバレなビームシールド、まだ開発されていないビームライフルはオミットし、代わりにサザビー用シールド(エンブレム無し)と連邦側での専用機、ゲシュペンストRVでも装備しているM90アサルトマシンガンを装備させている。ビームサーベルの実用化は済んでいるので大丈夫だろう。シールド内蔵のミサイルはそのままだ。ちなみに、赤いのはシャアとかぶるのでダークブルーに塗装してある。紫色を入れていないので、黒い三連星とは区別してくれるだろう。
勿論、チーティスティックにジェネレーターをオルゴン・エクストラクターに変更し、機動兵器版ザ・ワールド「ラースエイレム」システムを導入。サイトロンも併用して操作の際の追従性も向上させている。というか、これらの反則武器でもなければNT同士の戦闘に介入なんて、ザビーネ程度の操縦技術じゃ自殺行為もいいところだ。決して彼が弱い訳ではない。ザビーネは確かにシーブックを一回倒しているけど、スパロボやGジェネでのシーブックのNT能力って、下から数えた方が早いんだぞ?ラフレシアをやれたのも、NT能力あるかもしれないけど、基本鉄仮面の自爆だし。
ララァを助けて光る宇宙を邪魔しようと、シャア・ララァVSアムロ・セイラというファーストNT四天王の群れに割り込んで無事でいようと思ったら使わざるを得ない。常識的に考えて。というか、この機体、本来ならシャアの独立300戦隊が編成されたあたりでの投入を狙っていたのに、またぞろキシリアのお馬鹿がドズル閣下のところにもぐりこませたモグラを使い、ルナツー襲撃作戦なんてのをでっち上げるからいけないのだ。何が、「ルウムの英雄の一人を月で飼い殺すわけにもいきますまい」だ。ニート生活上等、攻勢を強める妹中隊との戦闘でもう私のMPはゼロよ!だというに。
……ああ、何気にその攻勢を横で聞いていた張さんが振えているのは視界に入らないようにしている。部下の彪さんも微妙な表情だった。最近はプルシリーズに刺激されたハマーンが……ハマーンが……。姉のマレーネさんの目が怖いしまだ12歳だから手なぞ出したら人間失格だが、精神がゴリゴリ削られるのは嫌っ!あの子NT能力半端ないから、接触=内心リード。どこのうさ耳少女だよ。まぁ、色々読んでもらってそれが楽しいおしゃべりになるから良いけどさ。けどね、あんまりべたべたされると僕も男なので色々困ったこと読まれちゃいそうなのですよ?
うん、開き直って読ませよう。大人の男性の怖いところを読ませりゃどうにかなる。……と、思いたい。
さらに、キシリアのフラナガン機関をララァ加入まで放っておくが、マリオンは助けたいというジレンマを解消するためにソフィー姉さんに襲撃のOKを出したら、計画通りマリオンの救出には成功したけれど、救出と共に持ち出した機関のデータから、紫ババアが強化人間の初期型にまで手を出し、既にNT-001ことレイラ・レイモンドに実験が開始されているだけでなく、シムス中尉にまで強化の手を伸ばし、あの痛い子アイン・レヴィ君まで機関にいた事が判明。クスコ・アルなんてNT能力強化にトラウマが有効なんて調査結果が出たものだから、研究員による[禁則事項]までうけているらしいなんてことがわかってしまった。
おい!それギレンの野望じゃゼロ・ムラサメ登場してるだろ!と思わず突っ込んでしまった。本当になりふりかまわなくなってきた。歴史の修正力とでも言うつもりかよ……。
その上、プルシリーズのことはばれていないらしいが(救出時に赤ん坊以前の状態だったため追えないらしい)、セレインが私のところにいる事を知って、何かしらの理由をつけてアインと組ませてセイレーネとか狙ってるらしいことまで明らかになってさぁ大変ですよ。あのババアが地球追い出されたあたりは気をつけないといけない。けれど、こちらが考える結末にまで持っていくためには、まだあのババアの存在は不可欠なのだ。あと3ヶ月の辛抱と考えるより他はない。修正力があるかもしれないことを考えると、今の段階で手を出しても望む結末行きそうにないし。むしろ、牽制相手を失ったギレンが暴走とかしそうで嫌。
そんな沈思黙考に浸る私の前で、ドズル閣下の「俺が如何にミネバとゼナを愛しているか」論の開陳が一段落したようだ。というか、そんなに愛しているのならなんで愛人を作ろうとする。まぁ、男だからそこらへんの事情がわからないわけでもないが。……というか、誰に手を出しても爆弾なこの状態と、男性としての生理的欲求考えると精神的に危険なのだがなぁ……。いつ背後から「寂しいって言ってんだよ……セニョール!」とか「爆弾なんてさぁ、爆発させちまえってんだよ!メーン!」とか呼びかけられるか心配でならない。
「しかし、貴様の新型MSは豪華だな?ジオニックの新型か?」
「ええ。先行量産型をもらいましたので、月面で改修を加えました。詳しいデータは秘密ですよ」
ドズルは鼻で笑った。
「俺はコクピットを特注にする必要があるからな。乗れまい。しかし、シンあたりにはやりたいな」
「マツナガ大尉は本国でしょう?寄った時には会えませんでしたが、どうしました?」
するとドズルの顔が沈んだ表情になる。なにか、気にしている事があるらしい。
「シンと俺はダニガン親父に鍛えられた口だからな。俺は弟だからまだ何とかなっているが、ダニガン親父はギレン兄に嫌われている。ブリティッシュ作戦でコロニー落としに失敗したからな……」
そう言えば、そろそろギレンが宇宙での指揮権統一のためにドズルに近すぎる人材をどうにかする時期か……カーティス大佐に、秘密裏にダニガン中将やマツナガ大尉をかくまうように伝えておいた方が良いかもしれない。
「ダニガン中将にはまた機会ありましょう。私の方で御願いしたい事もありますし」
「そう言ってくれると助かる。貴様はギレン兄の信頼も厚い。口ぞえがあれば何とかなるだろう」
頃合か。明日までここに残っていると、シャアの手伝いに派遣されかねない。今の時点でソレはまずい。
「それでは、我が艦隊は出撃します。無線封鎖に入った後は作戦完了後、そのまま月面に帰りますので、またの機会に、中将」
「うむ、ご苦労だった」
さて、ついに……か。