「な、何かの間違いだよ、澪ちゃん。私、人殺しなんてしていないよ・・・。」
唯の声はかなり震えていた。全てを私に看破され、怯える子羊のように丸くなっていた。
「なら質問の対象をお前にするか、唯。本当はもっと早く気づくべきだったんだ。なんで憂ちゃんに長く眠るように細工されたはずなのに、お前だけ目にクマができたていたんだ?」
「そ、それは・・・。」
「言えるわけないよな。憂ちゃんを殺して噴水まで運び、その後ブルーシートと用具入れに置いてあるポールで即席のトランポリンを作ってそこにムギと梓の遺体を上から投げ落とし、おまけにさわ子先生と和の遺体も含めて台車で冬の緑がかったプールまで運んでそこに捨てていたせいで寝ている時間がありませんでした、なんて。しかも丁寧にその遺体には体育用具で使う錘をくっつけて浮かび上がらないようにして、私たちに見つからないようにしていたんだよな。」
「ちなみに、その推理は私のものよ。プールで中野さんに刺さっていたナイフが浮かんでいるのを見つけてもしやと思って調べてみたら、案の定。体育倉庫を燃やしたのは、何かまずいものと一緒に燃やすためではなく、なくなっていることに気づかれないため。遺体に抱かせた錘の存在をごまかすため。そうよね?」
「私にはなんの話やらさっぱり分からないんですけど・・・。」
唯はあくまでも言い逃れようとして目を動かしている。
「まだしらを切るか、唯。なら、続きを言うぞ。みんなの遺体を隠したのはその後で憂ちゃんの遺体と入れ替わるため。憂ちゃんの遺体だけを消せば嫌でも注目されるけど、全員消してしまえば何が何だか分からなくなる。講堂の隠し部屋にあった唯の遺体は本当は憂ちゃんのだ。お前の手はギターの影響で大きくて太い。そして、ギー太を一日たりとも手放せないお前にはギターを弾く時の指タコも残っているはずだ。」
憂ちゃんもギターは弾けるが、日常的に扱っているわけではない。唯ほどくっきりとはギターの影響が残らないんだ。手の大きさがその最たる例だ。
「それとあの死体が唯のではないという決定的な証拠として、あの講堂の地下に吊るされていた唯の死体が冷たかったということだ。私たちは体育倉庫の消火活動でかなり汗をかいていた。体も熱を持っていて、服も汗でぐっしょり、火の粉も当たって熱くなっていたはずだ。あの死体には黒いすすもついていなかったしな。」
「で、でも、りっちゃんは曽我部先輩が犯人だって・・・。私、澪ちゃんを守ろうと思って怖かったけど鉈を持ってここまで来たんだよ?」
「あ、それは私も疑問に思ったわ。どうしてりっちゃんは曽我部先輩に襲われたって言ってM.Sって血文字を書き残したのかしら?」
「いいですか、先輩。律になりきって想像してみてください。」
「ええ、分かったわ。」
実はここが最後に悩んだところなんだ。先輩が犯人とダイレクトに書いてあるのに、なんで先輩を犯人と断定しなかったのか。
「昨日の夜に梓、和、さわ子先生、そしてムギの死体を見つけました。全員死んだものとして扱われています。」
「ええ、そうね。」
「そして、今朝というか昼。憂ちゃん、純ちゃんの死体を見つけました。その後、唯の首吊り死体を発見。この時点で律を除いて生き残っているのは誰でしょう?」
「りっちゃんを除いて九人、その中で七人の死体を確認したから私と秋山さんの二人ね。」
「律の背中に残っていた傷をつけたのは右利きの犯人ですよね?」
「あ、そっか・・・。りっちゃんは平沢さんが死んでいると思っていたから、残るのは私だけね。なら、りっちゃんのその行動も平沢さんの計算内だったのね?」
私はその問いかけには頭を振った。それは違うんだと。
「それは本当に律が自分の意志でやったことです。唯は関係なくて、利用しただけ。あえてダイイングメッセージを消さずに。先輩が犯人だったら消しているはずですしね。」
「でも、それだと私は騙せないわよ?曽我部恵は私自身なんだから。」
「少なくとも私だけを騙せれば十分だったはずです。私も普通の考えならこの部屋のパソコンに先輩の名前を書いていたでしょう。ちなみに、律のダイイングメッセージを見た時、先輩はどう思いました?」
「誰が犯人なのかさっぱり分からなかったわ。背中の傷から左利きの秋山さんが犯人の可能性は低いと思ったから。」
「私は前もってムギのダイイングメッセージを解いていたので、血文字のダイイングメッセージを疑うことができたんです。ムギのおかげですね。」
私はそこで話を切り、唯の方を向いた。本当に唯がムギを、律を、梓を、先生を、和を、憂ちゃんを、純ちゃんを殺したのか。信じたくはないんだが、これが現実なんだな。
「教えてくれ、唯。これだけは分からなかったんだ。なんで・・・なんでこんなことをしたんだ?この部屋に入ってくる時、私の意志じゃないって言ったのは本当なんだよな?頼む、そうだと言ってくれ!」
「ごめん、澪ちゃん。それには答えられないんだ。できないようにされているから。だから、お願い・・・。私の名前を、パソコンに書いて・・・。」
唯が涙を流して私に哀願する目をしていた。
続く