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No.22330の一覧
[0] 【銀河英雄伝説】 反銀英伝 ヤン・ウェンリー氏の憂鬱 【再構成】[さんじゅうに](2010/11/08 03:53)
[1] 1話[さんじゅうに](2010/10/16 23:21)
[2] 2話[さんじゅうに](2010/10/04 22:10)
[3] 3話[さんじゅうに](2010/10/04 22:20)
[4] 4話[さんじゅうに](2010/10/04 22:24)
[5] 5話[さんじゅうに](2010/10/05 23:36)
[6] 6話[さんじゅうに](2010/10/08 21:46)
[7] 7話[さんじゅうに](2010/10/13 23:07)
[8] 8話[さんじゅうに](2010/10/14 22:11)
[9] 9話[さんじゅうに](2010/10/14 22:12)
[10] 10話[さんじゅうに](2010/10/17 17:51)
[11] 11話[さんじゅうに](2010/10/23 23:11)
[12] 12話[さんじゅうに](2010/10/23 22:40)
[13] 13話[さんじゅうに](2010/10/24 23:28)
[14] 14話[さんじゅうに](2010/10/26 20:26)
[15] 15話[さんじゅうに](2010/10/31 22:23)
[16] 16話[さんじゅうに](2010/11/08 03:39)
[17] 17話[さんじゅうに](2010/11/09 03:12)
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[22330] 10話
Name: さんじゅうに◆97b5ad9d ID:2421bd87 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/17 17:51
同盟軍の行動は、当初の予定通り進んでいた。
星系制圧を行わず、観測施設を破壊し、通信妨害用の衛星を設置して放置する。
戦力の隠蔽を第一義とし、多くの星系の『目』を潰す。
その作業の邪魔は、思わぬ形でヤンの前に現れた。

「……ここまでやるか」

焦土作戦は、相手の防衛作戦で取りうる一つとして想定はされていたが、ヤンはあくまで可能性の低い一案だと踏んでいた。
後々に与える影響が大き過ぎるからだ。
だが、実際にやられると、その効果には目眩を起こさずには居られなかった。

制圧された100を超える星系に住んでいる3000万超の民間人。
彼等を救うには、ヤンに与えられた手勢はあまりにも少ない。



『今回の作戦目標には、開放区の民間人救出は含まれてはおりません』

開いた口が塞がらない、という言葉が脳裏に浮かぶ。
通信画面に出てきたフォーク准将の神経質そうな表情は何処か居心地悪そうだったが、
ヤンはそれを斟酌する精神的な余裕が無かった。

「待ってくれ。彼等に―――判っている範囲で3000万人、帝国の作戦範囲次第では、その倍にも達する民間人に、死ねという気か?」
『現実的に考えたらどうですヤン中将。仮に補給艦隊を今から新たに仕立て上げたところで、一部に補給をし終わった時点で時間切れ、撤退ということになります。
 そして、そうなった時、貴方達の艦隊が足の遅い補給艦隊を守りながら後退しては、帝国艦隊に補足されて揉み潰されてしまう。
 ―――まさか、補給艦隊を見捨てて自分だけ逃げるつもりは無いでしょう?』
「だが!」
『打てる手が無い、と言っているのです。であるからには一刻も早く作戦を終了させ、帝国艦隊が自分達の持ち去った食料を戻す事を期待する以外にありません』
「……貴官と話していても埒が開かない。後方主任参謀のキャゼルヌ少将に変わってくれ」
『結論は変わりませんよ。他艦隊の提督にも、同様の返答を行なっておりますので』

じわり、と黒いものが喉からせり上がってくる感覚をおぼえたヤンは、だがそれが口から飛び出る前に、なんとか押さえ込んだ。
変わってくれ、と再度言うと、フォークは同情の表情を一瞬見せた後、画面から離れた。
だが、しばらく待った後に画面に出てきた顔は、期待した先輩の見慣れた顔ではなかった。

『申し訳ありません、キャゼルヌ少将は多忙の為、小官が代わりに承ります』

見覚えのある顔だった。
銀髪で彫りの深い無表情に、ヤンの顔が失望で歪む。

「貴官は……たしか帝国から亡命してきた……」
『オーベルシュタイン少佐です、ヤン提督。憶えていて頂いて光栄です』
「先程フォーク准将に話した事の繰り返しだ。このままでは……」
『ヤン中将。些か無礼ですが、同じことの繰り返しですと先程フォーク准将が返答した通りの事を返答せねばなりません』

光栄、という言葉を何処吹く風とばかりに吹き飛ばす取り付く島のなさであった。
ここに至り、ヤンは完全に理解した。
同盟軍上層部は、帝国領の民間人を救う気が無い。
例えキャゼルヌが出てきたとしても、まともな形で補給艦隊が送られる事は無いだろう。

「……あくまで、出来る事はないというのか」

ヤンの諦めが混ざった呟きに、―――意外な事に、オーベルシュタインは反応した。

『……どうしても、というのであればヤン提督。助けになれる事があるかも知れません。お手数をかけることになるかも知れませんが』

悪寒。
助けに差し出されたはずの手であるのに、それを取ることに本能的な嫌悪感が生じた。
が、耳をふさぐには遅過ぎた。

『現在、帝国軍が行った悪逆を記録するため、陸戦部隊を含んだ地上報道班が編成されています。
 彼等に同行する護衛艦隊に、配給用の食料を積んだ補給艦を多く付けましょう。
 その際、防備が薄くなる為、第13艦隊に分艦隊を出していただき、その護衛をして頂く必要があります』

理解するのに、数瞬の時を必要とした。

「……同盟軍が原因で死ぬ、同盟軍がまともに救おうとしない相手を、自らの都合で映像にしてプロパガンダにするのか」
『見解の相違があります。小官が思うに、彼等が死ぬのは帝国軍の焦土作戦が原因であって、同盟軍に責はありません。
 引き受けて頂けないのでしたら、護衛艦隊は通常の編成で出撃することになりますが。残念です』
「ま、待ってくれ。―――わかった、引き受ける」
『ありがとうございます』


通信が終わる。
ヤンは気力が尽きたように椅子に深く座り、……ふと、笑い出した。
自らが嫌悪する―――力の限り嫌悪する行為に、協力する。
この無様さを笑わずに、何を笑えというのか。
虚ろに乾いた声で、ヤンは自らを嘲笑った。





そして、より深刻な誤算が帝国軍で発生した。

辺境方面軍。
その前衛の偵察艦隊の報告により、この方面に接近する同盟軍艦隊の数が自らの艦隊を上回る事を知ったキルヒアイスは、
ガイエスブルク要塞での防衛を前提とした作戦を構築していた。
この方面で敵を深く引き付けておけば、他の方面軍が前進する事で正面の敵艦隊の補給線を断ち、労せずして相手を立ち枯れさせる事が出来る。
これで勝利が確定した、とすらキルヒアイスは考えた。
間違った予想ではなかった。要塞の防衛力は十分であり、駐留する艦隊の練度も問題は無かった。
敵艦隊の戦力を十分支えきれる。その目算は付いていた。

その目論見をご破算にしたのは、後ろから来た『味方』だった。
彼等は名を、ブラウンシュヴァイク艦隊と言った。


「我々は、皇帝陛下より叛乱軍の迎撃に対する全権を与えられた、ローエングラム元帥の指揮によって行動しています。
 申し訳ありませんが、この場は退いて頂きたい」
「貴様らの立場は承知しているとも。だが我等もまた、自領を守る権限と責務を陛下より与えられている。 
 貴様らが叛徒どもと戦う邪魔はすまい。だが我々が自領を守る神聖な戦いも、邪魔してもらっては困るな」

ブラウンシュヴァイク広領は、ガイエスブルク要塞より後方に広がっている。
よって、自領目がけて攻め寄せてくる同盟軍の艦隊を迎撃する、という理屈は成立する。

しかし。

傲然たる言葉。ブラウンシュヴァイク公の背後に控えるフレーゲル男爵のニヤついた笑み。
彼等の意図自体は、あからさまに透けて見えていた。

(ラインハルト様の足を引っ張る気かッ!)

ブラウンシュヴァイク公とラインハルト元帥は、政治的には完全に敵同士である。
艦隊を出してきた事についても『ローエングラム元帥の対応が遅いから仕方なく』出してきたというニュアンスを言葉の端々に匂わせており、
後に政治的失点としてあげつらおうとする意図がありありと見えた。

「では、これで一応の義理は通したぞ」
「我等はこれより叛乱軍の衆愚どもに、懲罰の鉄槌を喰らわせる。フン、貴様らはこの穴蔵の中から我等が戦いぶりを眺めているが良い!」

フレーゲル男爵の無礼な言葉を形だけ嗜め、ブラウンシュヴァイク公は軽侮の表情と共に要塞司令部を立ち去った。


ブラウンシュヴァイク公麾下の艦隊の数は、単独では同盟艦隊に及ばない。
キルヒアイス麾下の艦隊を加えて、どうにか五分と言ったところである。

(本気で自分達だけで勝てるとでも?いや……形勢が悪くなったところで、ガイエスブルク要塞に逃げ帰れば良いという腹ですか)

正規艦隊が戦う前に単独で戦ったという事実があれば、政治的な武器としては十分に役に立つ、という考えか。
死ぬ可能性が高いのであれば喜んで見殺しにするのだが、とキルヒアイスは苦虫を噛み潰した。
見捨てて戦わせたとしても、死んでくれる可能性がごく低いということならば、政治的失点を最小限に抑える必要がある。
キルヒアイスは、麾下艦隊に出撃命令を下した。


……もしこの場に居たのがラインハルト本人ならば、ブラウンシュヴァイク公を無視し、当初の予定に従って迎撃計画を実行しただろう。
生きて帰ってきた所で反逆の意を問い、謀殺すらしたかもしれない。
ラインハルトにはその冷酷さがあった。
しかし『ラインハルトを守ろうとするキルヒアイス』では、その考えに至れなかった。
ブラウンシュヴァイク公も、中将になったばかりの若僧相手であったからこそ、ここまで大胆な行動が取れたのだった。


「出てきたか。ならば叩き潰さねばなるまい」

同盟艦隊を統括するは勇将ウランフ中将。

「ガイエスブルク要塞防衛に支障が出る被害は、何としてでも防がなければ……」

帝国艦隊を指揮するは名将の器たるキルヒアイス中将。


両者が仮に同等の状況で戦えば、その結果を予測するのは困難であっただろう。
残念ながら、この地で同等なのは、単純なる数のみであったが。


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