その方法は、ゲーム造りに参加すること。ロックとあやせちゃんが。
ロックは、中学生のうちにスーパーハカーというのになったらしい。ハンドルネームは『闇プログラマー・ロックマン』。
いまアメリカのスーパーハカー集団『LoD(リージョンズ・オブ・ドゥーム)』の皆さん相手に一人で戦争ごっこをしている。
うん、そう。本物のテロ組織のアルカイダのホームページにブッシュとビン・ラディンが抱き合いながらキスしてるコラ画像を貼ったり、嫌いな人を勝手に国際指名手配犯にしたり、GPS衛星に介入して旅行中のメキシカンマフィアの親玉をラオスのゲリラ支配地域に迷い込ませたりする人たちと遊んでもらっている。そんな人たちから、ロックは
「ふぁいばー・おぷてぃっくの再来」
と呼ばれて可愛がられているらしい。
まあ、ロックが手土産に作っていったネットワークエンジンとかいうのが瀬菜ちゃんと部長さん以外には誰にも理解できないぐらい凄かったらしいから、瀬菜ちゃんのお手伝いぐらいは出来ると思う。
あやせちゃんは、基本的にゲームを作るのにはわたし同様なんの役に立たない。でもただそこに一緒にいるだけで、きょうちゃんの頭がおかしくなるという使い道がある。
あやせちゃん自体も高坂兄妹に関することには若干キチ▲イ……もといアグネス気味なのが玉に瑕だけど、それだけに精神鑑定の結果が超法規的存在になるのは確定的に明らかなので、誰かを裏山に埋めるなどの汚れ仕事は安心して任せられる。
そしてあやせちゃんとロックをゲーム研究会に潜り込ませてから数日後。わたしの携帯に、あやせちゃんから電話が入った。
『大変です! 桐乃がお兄さんに振られました!!』
「そっかぁ、また振られたのかぁ」
『最後の一線をお兄さんが自分で押し戻したのは意外でしたが、それはそれとして私の桐乃を泣かせるなんて許せません! ところで、「また」ってどういうことですか?』
「え? ……桐乃ちゃんがきょうちゃんに告るのって、恒例行事だから」
『……どういう意味ですか?』
「毎回毎回経緯は複雑なんだけど、ようするに
桐乃:お兄ちゃん大好き!(女として)
京介:おう俺も大好きだ!(兄として)
→ 疎遠になる(徐々に関係修復)
というのを、だいたい2年周期で繰り返してるみたい」
『な、ななななんですって! 嘘よ嘘! 嘘ですよね! 桐乃のほうがブラコンだなんて!』
「まあ落ち着いて」
『落ち着いてていいんですかお姉さん! 桐野が振られたのはいいとして、お兄さんが高校の後輩の女の子と付き合い始めたって話もあるんですよ!』
「うん、知ってる、五更瑠璃ちゃんね。桐乃ちゃんの親友で、きょうちゃんも入学からずっと気にかけてたからねえ」
『し、親友なんですか! 桐乃の! ……聞いたこともない名前です!』
「そうか、本名は言ったことなかったかな……前に説明した、黒猫よ」
『たしか同じ部活の1年生の黒髪ストレートのほうですか……終わったorz』
「あやせちゃん的には大誤算みたいね。ここから黒猫に乗り換えてみる? 桐乃ちゃんがきょうちゃんから離れた時点であやせちゃん的には目的達成でしょう?」
『……麻奈実さん、なんでそんなに落ち着いてるんですか?』
「だって、戦いは終わったわけじゃなくて『始まったばかり』だから『また』」
『……え?!』
「きょうちゃんってほら、放っておくと女の子にもてるでしょ? 心当たりはない?」
『そういえば……私はもう騙されませんが……よく考えたらお兄さんのコミュニケーション能力は異常です』
「うん、きょうちゃんは自分で気付いてないけどリア充ってやつなんだ」
『な……あの地味顔でモテキャラ?!』
「あやせちゃんだって、最初は「やさしそう」とか思ったでしょ?」
『うぐぐ……そこは否定できません……』
「もっと言うと、『割とねらい目っぽい感じ』がしたでしょ?」
『それはありません。というか、そもそも男がありえません』
「そうだったね、ガチせちゃん」
『変なあだ名をつけないでください! ……そもそも、なんでモテてる自覚がないんですか?』
「そんなの決まってるじゃない。わたしと桐乃ちゃん双方にとって、都合が悪かったから」
『……どういうことですか』
「そもそも、『幼なじみ』って、なんだと思う?」
『小さい頃からのお友達ですよね』
「あやせちゃんには、幼なじみの男の子って、いる?」
『いませんね』
「じゃあ、小さい頃よく遊んだ男の子って、いた?」
『いたような、いないような……』
「そう……あやせちゃんにも幼なじみは、いない」
『!』
「うちの弟のいわおと、きょうちゃんの妹の桐乃ちゃんも、小さい頃の知り合いだけど幼なじみじゃない」
『子供の頃から今まで、そしてこれからも関係が継続するのが、幼なじみ。ということですか……』
「そう、今まで関係を途切らせずに生き残った勝ち残り、それが幼なじみ」
『……まさか、そのためにお兄さんに何かしていたんですか?』
「違うよ? モテるという自覚を与えないようにしてたのはあくまでも桐乃ちゃん。女の子が近付かないようにしてたのがわたし。役割は、時と場合により逆になることはあったけどね」
『だったらなんでこんなことに……』
「わたしと桐乃ちゃんが隠している『きょうちゃんは実はモテる』という真実がもたらす矛盾の圧力が、2年に1回ぐらい鬱屈してオオカミの群を呼び寄せるんだ」
『……でも今は黒猫さんが恋人宣言をしてしまいました!』
「だからどうしたの? わたし、田村麻奈実はきょうちゃんの幼なじみ。
今までオオカミの群を2回に渡って退けてきたもの。血の河を渡り屍の山を踏み越えてでも勝利を目指す。きょうちゃんという羊の首をくわえた程度で、勝ち名乗りなんて挙げさせない。絶対に」
『なぜ、そこまでお兄さんにこだわるんですか?』
「あやせちゃん。……いい男は、女が育てるものなの」
『あの変態さんがお姉さんにそこまでさせるほど人には、どうしても見えません』
「あやせちゃんにとっては桐乃ちゃんのお兄さんでしょうけど、そのうち分かるよ。
きょうちゃんが桐乃ちゃんのお兄さんなんじゃなくて、『いずれ高坂桐乃が高坂京介の妹として認知されるようになる』ことが……単に女の子のほうが成長が早いだけなんだよ」
こうして3回目の戦いは、前回の最終敗者の桐乃ちゃんがのっけから告白して撃沈し、その様子を至近距離で観察していた黒猫ちゃんがその轍を踏まないように行動して一歩リードした状態から始まった。
ここは一手先取した黒猫ちゃんに敬意を表して、拍手をしておこうかな。
桐乃ちゃんの自爆をよく観察したその洞察、きょうちゃんの心を射抜いた瞳、そしてなによりわたしをベルフェゴールと表現したその直観に。
そしてもうひとつ、宣言しておこうかな。
……田村麻奈実は、容赦しないわ。
※ 田村麻奈実先生の次回作にご期待ください(完)
※ 次からは、あの人主観の新連載『お兄ちゃんの彼氏がサークルクラッシャーなはずがない』が始まります。