「気持ち悪い」その声で、何かが弾けたように感じた。「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!」握りこんだ拳を振りかぶり、横たわる紅い少女に叩き付け――――――ガキッ!…る前に顎を殴り飛ばされた。「―――っぐ!」殴られた勢いのままに身体が仰け反る。次いで、腹に衝撃を受けて、仰向けに倒れる。「ぅ、がぁ…」顎に走った衝撃に脳を揺らされたことと、腹に感じる痛みに呻く。「な、何が―――ぐっ!」倒れていた自分の上、お腹の上に何かが乗りかかってきた。その重みに再度痛みを覚えて、呻く。痛みと気持ち悪さに揺れる視線の先、赤い空をバックに此方を睨み付ける―――「アスカ…ッ」「…ぁ…、あぁ、あぁああああぁぁあああああああああ―――――っ!」アスカ。先ほどまで虚ろだった右目を見開いて、可愛らしかった顔を醜く歪めて叫ぶアスカ。自分がついさっき首を締めて殺そうと(殺そうと…?)していた少女(何で?)。「気持ち悪い」と。自分を拒絶されて(…そうか)何が何だかわからなくなり(嘘だ)殴りかかった少女だ。「―――フッ!」鋭い呼気と共にその左拳が振り下ろされる。―――ゴッ!―――ガッ!―――バシィ!鈍い音を立てて頬に打ち付けられる。包帯の巻かれた右腕は僕の首を掴んで、左腕だけで殴りつける。それもしばらく経つと拳を握る力も篭められなくなったのか、平手へと変わり、―――パシッ!―――ピシ少女の、ずっと動かさず、眠り続けていたせいで衰えた身体はすぐに動かなくなっていき、叩いていた手の力が弱まり撫でるようになったその動作はろくに音をたてなくなる。ずっと動かしていた左手に力が篭らなくなったのか、先ほどまでに蓄積された痛みのせいで自分の頬が麻痺したのか。いつの間にか頬の痛みはなくなり。気が付いたときには、全身に包帯を巻いたアスカは叩くこともやめて。自分の、年の割に痩せた薄い胸板に顔を押し付けて震えていた。「フー、フゥ、っふ、ぅう―――ぁ、っく…う!……」(泣いてる…)さっきまでとは全く逆だな、と。自分の胸の上で泣く少女に何の感慨も湧かず、触れると熱い右頬を撫でる。頬を一頻り撫でて、そうしようと思ったのは何かの意趣返しか。自分の頬を撫でていた右手をそのまま持ち上げて、アスカの顔に寄せる。手が触れたときにアスカの体がビクリと震えて、叩かれるかな、とも思ったけれど余計に嗚咽が強くなるだけで。「ぅうあ、ぁああ、っぐあぁう――――ぅあ、ああ……!」胸の部分が熱い。アスカの涙で濡れて、シャツを握り締める手が痛くて、―――何でそんなことを思ったのか。何でそんなことを言ったのか。そんなことはわからないし、もしかするとそれは彼女も同じだったのかもしれない。それは結局わからなかったけれど。込み上げる何かをそのままに、口が勝手に言葉を紡ぐ。「…気持ち悪い」それはきっと、拒絶の言葉。