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No.21913の一覧
[0] 頭が痛い(ネギまSS)[スコル・ハティ](2016/05/23 19:53)
[1] 第二話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:17)
[2] 第三話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:17)
[4] 第四話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:18)
[5] 第五話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:18)
[6] 第六話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:18)
[7] 第七話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:18)
[8] 第八話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:18)
[9] 第九話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:19)
[10] 第十話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:19)
[11] 第十一話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:19)
[13] 第十二話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:20)
[15] 第十三話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:21)
[16] 第十四話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:22)
[17] 第十五話[スコル•ハティ](2015/12/19 11:22)
[18] 第十六話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:22)
[35] 第17話[スコル・ハティ](2016/06/03 22:36)
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[21913] 第四話
Name: スコル・ハティ◆7a2ce0e8 ID:ce82632b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/12/19 11:18
「あーびっくりした」

「言いたいことはそれだけか?」

「ぬうおおおっ!???」

 上半身を起したところで安堵に胸を撫で下ろした俺に後ろから声を掛けられた。

まだ陽も昇っていないような時間の森の中だ。まさか他人に話しかけられるとは思っていなかったので、ビックリして急いで後ろを振り返るとそこには長い金髪を蓄えた美しい少女が立っていた。

とは言っても俺にそう大層な感受性はないので幾ら美しいと言ったって少女を見て息が止まったりはしない。ただ言葉に詰まったのは本当で、暫く何も言えずにじろじろと少女を見つめる。

「あーびっくりした」

 もう一度胸を撫で下ろす。ビビリストという不名誉なあだ名を頂戴したこともある俺は、角から人が出てきただけでも一瞬体が強張る位のビビリである。勿論こんな状況でもビビッてるので、話しかけてきたのが少女だったことに安心したのだ。

「びっくりしたはこっちの台詞だ! 心臓は完全に止まっていたはずなのに、貴様何故生きている?」

「ご、御免、ちょ、ちょっと心臓が落ち着くまで待っててくれる? い、今話聞けそうに無いくらいびっくりしてるから」

 何故だか初対面の人に怒られている俺。しかも心臓が止まっていたとかなんとか。勘違いしようのないデンジャラスワードだ。

斬った張ったは御免なので状況把握に努めようとするが、恐怖に硬直した頭は俺の指示に従わずぐちゃぐちゃとした妄想が考えの端から滲む。

話を聞くのは吝かではないが如何せん体が冷たい事も有って体を温めるためと状況を整理するためにちょっと待ってくれるように願い出る。

「おい……お前本当に大丈夫か?」

 余程今の俺は顔色が悪いのだろう、貴様呼ばわりだった少女がお前なんて言って俺のことを心配している素振りを見せた。俺は少女の問いに答えられず体を縮こまらせる。

視界がぶるぶると震えているので見てみると足も笑っている。手はガチガチに固まって握力が無いし、口も震えていて上の歯と下の歯がぶつかってガチガチと音が鳴っていた。

「さむい」

 体が異様に冷えていた。真冬に毛布も何も掛けずに隙間風吹き込む部屋の中で寝ていたときと同じくらい体中がかじかんでいた。

「マスター、そちらの方の体温は28.0度で非常に危険な状態です。急いで体温を上昇させなければ死の危険があります」

「ちっ、また死なれて今度は復活しないなんて事になったら困るからな。茶々丸こいつを担げ。家に帰るぞ」

「はい、マスター」

「うわあ、なんだこれ」

 金髪の少女の背後から、今度は背の高い少女が現れた。

そして少女の出現とほぼ同時に紐のような物が現れて俺の体に巻きついた。締め上げられる感触は在るがロープの様に擦れたりはしない紐はあっという間に俺を拘束し、後ろ手に縛り上げられた挙句に足まで縛られた俺は地面に転がされた。

背の高い少女は俺に一言「失礼します」とだけ言って抵抗の出来ない俺を俵の様に肩に担ぐ。

「行くぞ」

 金髪の少女がそういうと、金髪の少女と俺を担いだままの背の高い少女は空に向かって飛んだ。そう少女達は跳ぶのではなく、飛んだ。金髪の少女は何の支持も無く、背の高い少女は足からジェット噴射をして。

「うわ、なんだ?! うわあスゲー浮いてる、浮いてんじゃん。ちょー! 俺高所恐怖症だから勘弁して!」

「やかましいぞ! 貴様が暴れなければ落ちんから安心しろ。それよりも貴様あそこで何をしていた?」

「本当か? 本当に大丈夫なんだろうな? 言っとくけど俺は脚立を一段昇っただけで恐怖感じるくらいの高所恐怖症なんだ。マジで無理だって。きゃー無理無理無理無理何も聞こえません!」

「落ち着けといっとろうが! っち、段々面倒くさくなってきたな。お前を投げ捨てて家に帰ろうか」

「わー! 済みませんでした。何でも聞いてください」

 浮き上がった直後前後不覚に陥って暴れる俺は金髪の少女に脅迫されて大慌てで従属姿勢を取った。

既に地上から10メートル以上離れている。受身さえ取れない今の状態では命に関わる。が、そもそもそういう問題ではないくらい高い所は苦手なのだ。

俺は抵抗を諦めて大人しく担がれるに任された。

眼下を黒い森が通り過ぎていく。

「それで良い。飛んでいけば私の家までは直ぐだし辛抱しておけ。ところで、貴様あそこで何をしていた? ああ、正直に話したほうが身の為だぞ。私はこの学園の連中とは違って甘くは無いからな」

 俺を担いだ少女の斜め前方1メートル程の距離を飛びながら此方を向く金髪の少女。

その人形の如く完璧な愛らしさを誇る顔に意地の悪さと嗜虐心を湛えて笑う様はインモラルですらあったが生憎俺にそれを堪能する余裕は無かった。

縛られたままで手を使って姿勢を制御できない俺は慣れない、人の肩の上という場所で必死にえびぞりの体勢で前を行く少女と視線を合わせる。

「寝てました」

「はあ? もう一度言え」

「寝てました。お前も見ただろうが、俺が寝てるとこ」

「ふざけてるのか貴様! 正直に話せと言ったぞ!! 」

 脅されるまでも無く嘘など吐く理由が無い。
俺はエヴァンジェリンの目を見つめて正直に真実を答えた。にも関わらず真っ向から嘘つき扱いとは。

「ふざける余裕なんかあるか!! 帰る場所も何処かに泊まる様な金も、泊めてくれる知り合いも居なかったから警察が見回りに来なさそうな森の中で寝てましたよ! 神に誓って嘘なんか言ってません!」

「茶々丸」

「はい、マスター」

 納得が行かずに少女に向かって怒鳴り返すと、金髪の少女は俺を担いだ少女に一言。すると俺を担いだ少女は俺の体を肩から下ろし足を掴まれ宙吊りに。

「ってえっ!? 待って。ホントだ。ホントのホント! 本当に俺は寝てただけで何もしてないんだ。起きたのだって鬼に殺される夢なんか見て起きただけで、寝る前は図書館島に行っただけだし俺はあそこで寝てただけだって! だから頼むから離さないで!!」

「…………ふん、嘘は言ってないようだな。茶々丸いいぞ」

「はい、マスター」

「ひいいいいい」

 危うく難を逃れる俺だった。

かといって俺を担ぎなおす気は無いらしく俺は少女達が家に着くまでの間、軽く生き地獄を味わうことになった。



「どうぞ、温かいココアです」
「ああどうも。助かります」
 恐怖の空中旅行から数十分――いやこれは俺の主観まじりなので精々数分だろう――が過ぎ去って俺は木立の中に立てられた洒落たログハウスの中で毛布に包まって暖炉に当たっていた。

暖炉を見るのは生まれて初めてだが、幾つか放り込まれていた薪がパチパチと爆ぜているのを見ていると、体の内にも小さい火が灯って不思議な気持ちになる。郷愁というか癒しというか。

「和むわ~」

「人ん家で勝手に和むな!」

 スパアンと小気味いい音と共に頭を叩かれる。下手人はちっこい金髪少女。暖炉を前にした俺の真後ろに座っている。

「あのなあ、高所恐怖症の人間にあんな惨い真似をしといて今度は和むなだ? いい加減にしてくれ! 小学校時代の体育の鉄棒の時間、逆上がりをしなければいけなくなって鉄棒の上で泣いた事まで思い出したんだぞ。少し位和んだっていいじゃないか!!」

「……な何で泣いてるんだよ貴様は」

「お前に二階建て遊具の二階から、地上に向かって伸びるパイプを掴んで降りようとしたけど途中で動けなくなって握力が徐々に無くなっていく中降りることもパイプの上に戻る事も出来無くなった人間の恐怖など分かるはずがない!!」

「いや、確かに分からんが……はあ、分かったよ。暫くそこで和んでろよ」

「くそ、今度やったら訴えてやるからな」

 捨て台詞まで吐いてから暖炉に視線を戻して暖かいココアを啜る。猫舌であるために少しずつしか飲めないが、それでも腹の中から全身に熱が広がっていく。かじかんでいた手足には漸く感覚が戻り始め、その冷たい手足を撫でる。

発見された当初極度の低体温で発見された俺だったが、原因は言わずもがな二月などという厳寒の季節に厚着もせずに外で寝ていたことである。

俺が眠りに就いたのが午後10時頃で今が午前1時を回った辺りだから約3時間の間俺は外で眠っていたことになる。

夏場でも凍死者が出ることもある森の中でのこの行為、本当に死なずに済んでラッキーだと言う他ないだろう。

それに起きた後もこの少女達に見つからなければ自分はまた二度寝を決め込んで凍死するか、目的もなく彷徨った挙句の凍死しか未来が無かった事を考えると、自分を恐怖のどん底に突き落とした少女達にも感謝すべきなんだろうか?
 
まあなんだって良いや生きてるし。

「残念ながらお礼が出来るような状況じゃありませんので感謝しか出来ないけど。ありがとうございました。お陰で凍死せずに済みました」

 悩んでいるのは面倒なのでスパッと解決するために手っ取り早くお礼を言った。

「うー、さむさむ」

 礼を言ったりするのはかなり苦手な駄目人間なので、即行で暖炉に向き直って手足を温める。手足が痛む事も無くなってじきに俺の頭から照れ臭さが消えるのは直ぐだった。


 それから三十分程後の事。

俺は包まっていた毛布を畳んで脇に避けぐったりと床に横たわっていた。

「あちー」

 三十分もの間手足を温める為に暖炉の直ぐ傍に居た俺は、感覚が無いせいなのか暖炉との距離が近いことに気付かず手足に熱が篭る頃になるとすっかり熱さにやられていた。

生来の暑がりの汗っかきも手伝って、暖炉の傍を離れても体から熱が引いていくには時間が掛かりそうだった。

「おし。そろそろお話とやらを始めてください。聞く準備はバッチリです」

 時間もかなり遅くなっていて、明日も学校があるかもしれない少女達に夜更かしを強いるわけにもいかない。全身だるい気もするけど温まりすぎたせいに違いない。と判断を下してお話を始めるために少女達の方に向き直る。

「おっとっと」

 視界が左右に揺れる。気のせいか腹の中が蠕動していて吐き気の予兆の様な物も感じる。

強烈な立ちくらみのような状態に陥った俺は、とりあえず床に手を着こうとしてそのまま倒れた。

 金髪少女が慌てるのを横目に匍匐全身で玄関の方に向かう。

それは万が一吐いたときの為でもあり、火照り過ぎた体を夜気で冷やすためでもある。

俺が何処に向かっているのかに気が着いた少女達は俺の行く手を遮って、金髪の少女は俺に向かって何か怒鳴りつけている。

眩暈どころか耳鳴りまで発生しだしたせいで発言の内容までは聞き取れないが、歪んだ視界で少女を見る限り怒りの色が窺えた。

先ほどまで冷たさで痺れていた体がまた、今度は冷たさ以外の要因で痺れ始める。

もう腕を使って進むことは少しも出来そうに無い。頭を支持しておくことも出来ずに床に頬を着け、片目で少女達をみつめる。

少女達が背景とどろどろに混ざり合ったところで俺の意識は途絶えた。


「いやあ美味い。こんなに美味いもん食ったの初めてだわ」

 ガツガツと勢い良くご飯を口の中に放り込んでいく。空腹という調味料なしでも文句なしに美味しい料理は、約一日ぶりに食事をとった俺にとっては神の食事とも言える味に感じられた。

「逃げるのかと思えば気絶した挙句その理由が空腹と熱中症とはな。森の中で倒れてたことと言い貴様本当に裏の人間か?」

「何度も言ってるけど俺はそんな怪しい符丁で表されるような人間じゃありません。えっとおかわりもらえるかな?」

 深夜二時過ぎ、所は変わらずログハウス。失神した俺が目覚めると、目の前には背の高い少女が作ってくれた食事があった。

俺が空腹と熱中症で倒れた事を知った少女が俺のために調理してくれたらしい。

料理が俺の為の物であるところまで聞いて、自分の空腹に気が付いた俺は一も二もなく料理に食いついた。

俺の図々しい願いにも、無表情ではあるが答えてくれる背の高い少女。

間違いない。彼女は俺の女神様だ。

 「どうぞ」と差し出される茶碗を受け取ってもう一度ご飯を掻きこむ。思わず身もだえしたくなるほどに美味しかった。ていうか女の子の手料理食うのはきっと人生初。調理実習除けばだけどね。

「貴様からは嘘を言っている気配が無いにも関わらず貴様の言っている事は間違っている。鬼に殺される夢を見ていたと貴様は言ったが、貴様は間違いなく鬼に殺されたんだぞ。少なくとも一度、多ければ二度な。その上たった一吸いでナギの登校地獄の呪いを解呪する血と言いそんな物を備えた人間が裏の人間で無い筈があるかあ!!」

「知らんから! 百歩譲って俺が死んだ後生き返って、血にも良く分からん力があったとして俺は何も知りませんし、分かりません!! 俺は昨日まで退屈なキャンパスライフをエンジョイしてたし、今は絶賛求職中の18歳のお兄さんだ。名前は…………黒金哲(くろがね てつ)。血液型はO型。身長体重は………分からん。住所不定、経歴不詳、記憶も曖昧かつ穴だらけで性格は悪い。無抵抗の人間を甚振ることが趣味の臆病者で、年上の人間が苦手。かといって年下も苦手で人見知りも激しく、知っている人間も場合によっては怖がる事があり、怖くないのは友達だけ。趣味は読書。昔から体におかしな不調を感じることが多く、貧血と微熱が年中続いている。汗っかきで暑がり。周囲からは天然だと言われることが多い。中学時代の知り合いからはMだと思われていて、高校時代の知り合いにはドSだと思われている。僅かにバイっぽいかなと思いつつ普通に女の子が好きで、初恋の女の子は小学校高学年のとき隣の席に座っていた委員長。好きなものは大抵のもので嫌いなものは結構有る。冬が好きで、一番の思い出といえば二月某日の早朝、ウィンドブレーカー着用の上サンダル装備で出かけた時に途中で眠くなって道路で座り込んで二時間くらい寝ていた事。勉強するのが嫌いでなあなあで過ごしてる間に大学にまで入ってしまった親不孝者で、親父が不倫している事を中学校のある日に気付いてしまった只の一般人だ」
 
俺の今までの人生で積み上げてきた普通自慢。

何処行っても異常な感覚を持つ輩に変だ変だと言われることが逆にこの俺の正常性を物語っている。正常な人間が圧倒的マイノリティである事は誠残念だ。

早口でここまで言い切ると食事に戻る。

空きっ腹に突然食事を流し込んだからか急激に満腹感を感じる。

いつもならもう少し食べるところだが、他人の家ということもあるし我慢してご馳走様と手を合わせた。

「どうかしたか?」

 食後のお茶を飲んでいると金髪の少女が胡乱気な瞳でこちらを見ているのに気付いた。

生まれて初めて緑茶を美味いと感じるという大変目出度い状況で何故そんな目で見られなければいけないのか。

「それなら何故貴様は私達が魔法を使う事に驚かない? どう考えてもおかしいだろう。何も知らない一般人が魔法を目の当たりにすれば興味深々に見つめるか疑問に思うか混乱するか恐怖を覚えるだろう。なのに貴様と来たら驚いたのは空に浮いたあの瞬間だけ。こうやって状況を整理できるような時間を与えてやってもこちらに聞いてくるでも、避けようとするでも緊張するでもない。貴様の行動はどれを見ても一般人らしくないんだよ」

「まあ確かに」

 エヴァンジェリンの言い分は実に的を射ている。確かに俺の言動は一般人としては淡白すぎるものだったかもしれない。

「でもな、俺はあの時寒いし怖いしでそれどころじゃなかったし、今は別にそんなことどうでもいいんだ。さっき言ったろ。俺今ホームレスだから。衣食足りてなんとやらじゃないけど明日の食事にも困っている人間にとってはそんなこと如何でもいいの。生き返れるって言っても病院にでも行ったら見世物か実験対象にでもされるのがおちだし、血なんか幾ら凄くても欲しがる人間なんか殆どいないだろ。お前は例外みたいだけど。魔法なんかそれに輪を掛けてどうでもいいよ、使えないし」

 そうそんな事はどうでもいいのだ。流石に此処がネギまの世界だと知っていなければもっと驚いたかもしれないが、それでも驚くだけだ。

魔法の使い方も分からないし、俺みたいな人間に魔法を教えてくれる魔法使いもそういないだろう。

知っているだけじゃ役に立たないことなど知識として興味関心をそそられる位が関の山。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 氷の精霊17頭。集い来たりて敵を切り裂け。『魔法の射手・連弾……」

「何ブツブツ言ってんだ?」

 急に理解できない言葉を喋り始めた金髪の少女に話しかけると、10秒ほどの間をおいて少女は一度口を閉じてから疲れた様子でこう言った。

「いや……お前が裏の人間では無い可能性がまた高まっただけだ。しかし貴様の言っていた事が本当だとすれば、相当の変わり者だな」

「血を吸う魔法使いに言われたくねえよ」

「全くだな」

 さっきのブツブツが何かは分からないが、俺の言う事を少しは信じたらしい。どういう意味で受け取ったのか、はっきりと脱力した少女は俺の皮肉に笑った。

「大体普通血を吸うのって魔法使いじゃなくて吸血鬼じゃないのかよ?」

 椅子に背を持たれて湯飲みを傾けるエヴァンジェリンに思った事を聞いてみる。

魔法使いが血を使うのではなく吸うという事に違和感を感じたのだ。ライトノベルやアニメの世界では頻繁に魔力の譲渡などに使用されるが、素性を知らない相手の魔力を欲するような状況に陥っていたらあんな風な出会い方をしなかったはずだし。

「ふん、そういえばまだ貴様に名乗っていなかったな。貴様がその寝惚けた顔を驚愕に歪めるところが見たかったが、裏の人間ではないなら無理か。まあいい。私はエヴァンジェリン! 吸血鬼エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル!! 『闇の福音』『不死の魔法使い』なんて呼ばれてる世界最強の魔法使いさ」

 態々自己紹介をしてくれるのは嬉しいけど、テンション上げ過ぎだろ。と突っ込みたくなるのを抑える。言っている間にノッてきたのか胸まで張っている自称吸血鬼に水を差すような真似は出来ず、放っておけば高笑いを始めそうなエヴァンジェリンを止める為に俺はもう一人の少女にも自己紹介をしてもらうことにした。

「私はマスターの従者をしております絡繰茶々丸と申します」

 主人とは対照的な態度の絡繰さん。そのお辞儀もぺこりと擬音が聞こえてきそうな程折り目正しく大変美しい。

 「よろしくお願いします」と頭を下げてこちらからも返礼した。

「しかし吸血鬼で魔法使いなんて聞いたことない組み合わせだな。普通そこはかたっぽだけじゃね? 反則的に強そうな感じだが」

「聞いてなかったのか? 私は世界最強だと言っただろ」

「またまた。世界最強でこんだけ可愛いとかやっちゃだめだろ」

 光と闇が合わさって云々ではないが、吸血鬼と魔法使いなんてどっちもラスボスみたいなジョブが両立されて良いんだろうか。その上この可愛さ。

完全にアニメか漫画の領域じゃねえかと思ったが、ああなるほどこの世界は漫画だった。

「それとさやっぱ知らないと思うけどなんか割りのいいバイトとか知らない? 俺みたいな若くて根性が無くて、努力知らずでかつ身元不明のやる気の無い青年を雇ってくれて楽チンで実入りのいい仕事。三食昼寝つきで住居を貸してくれたりすると尚良しなんだけど」

「私が知っていると思うか?」

「ですよねー。ああ俺の明日はどっちだろう」

 常識を疑うような世界にまみえても俺の窮状を一転するような事にはならない。

普通こういうときは息つく間もなく事件か何かに巻き込まれていつのまにか幸せになってたりするもんだろう。

いくら心の中で不平不満を漏らしても何も起こらない。また一つ世界の冷たさを知った瞬間だった。

「とりあえず明日に備えてもう寝たいのですが、今日はこちらに泊めていただけませんか? この床を貸してくれれば十分なんで」

「フローリングだぞ?」

「床と壁と天井と毛布さえあれば何処でも寝れるから大丈夫だけど」

「勝手にしろ。私達は学校があるからな。それまでには出て行ってもらうぞ」

「ありがとう。それじゃあこの毛布借ります」

 とはいえ世界は冷たくても人肌は温かいらしい。言外に泊めてくれると言うエヴァンジェリンに礼を言って毛布に包まる。

ひんやりとした床に肌が触れて熱が奪われていくのが分かった。

「寝るぞ茶々丸。準備をしろ」

「はい、マスター。それではおやすみなさいませ黒金様」

「おやすみ、エヴァンジェリン、絡繰さん」

 就寝の挨拶を済ませて目を閉じる。

階段を上っていく二人の体重で床が軋む音がした。二人は何かを話しているのか時折声も混じり、今横たわっている床が彼女達の家だという事を強く思わせる。

「どれだけ強いって言ってもこんな事しちゃ不味いだろ。一晩中警戒するぐらいならさっさと叩き出すだろうし、眠るって言うなら尚更ありえない」

こんな不審者を家に招きいれて、平然と極々自然に眠りに就こうとする彼女達の間抜けさを口端を持ち上げて嘲って、感謝した。

凍死しかけたことで体力を使ったのか、眠りが訪れるまでにそう時間は掛からなかった。


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