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No.21913の一覧
[0] 頭が痛い(ネギまSS)[スコル・ハティ](2016/05/23 19:53)
[1] 第二話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:17)
[2] 第三話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:17)
[4] 第四話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:18)
[5] 第五話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:18)
[6] 第六話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:18)
[7] 第七話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:18)
[8] 第八話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:18)
[9] 第九話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:19)
[10] 第十話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:19)
[11] 第十一話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:19)
[13] 第十二話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:20)
[15] 第十三話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:21)
[16] 第十四話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:22)
[17] 第十五話[スコル•ハティ](2015/12/19 11:22)
[18] 第十六話[スコル・ハティ](2015/12/19 11:22)
[35] 第17話[スコル・ハティ](2016/06/03 22:36)
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[21913] 第十六話
Name: スコル・ハティ◆7a2ce0e8 ID:0fcab7af 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/12/19 11:22

 気付けば視界を遮るものもなく空を見上げていた。満点の星空は遠く高いけれど、街の光さえも遠ざけられたそれは真っ黒い夜空の中でさえ自らの存在を強く示す光を放っていた。時折その光の群れの中を赤い光が横切って行く。それはきっと遥か上空を通る飛行機の明かりなのだろうけれど、星の光に紛れてその間を泳いでいくその様は例え何万光年も離れていてもより強く美しく光る星々の前では酷く儚く映った。

 静かだ。それも並大抵の静けさではない。人も車も生き物さえも遠く風の音は周囲を覆っているそびえ立つ崖に吸い込まれてしまっていて、体を支える細かな砂は心臓の拍動を飲み込んでいた。驚く程柔らかで心地の良い砂のベッドに横たわっていると時間の流れる音が聞こえてきそうな、そんな静けさだった。

 そのままぼーっと身じろぎもせずに空を見上げていた。自分が限りなく透明に近い色に変わっていくのを感じながら自身の心もまた周囲のそんな静けさに釣られるように、かつてない静寂を得ていた。何者の干渉さえも撥ね退けるような力強いエネルギーに溢れているのでもなく、対称的に命さえも眩むような鬱鬱とした状態でもない。何かの力がそこに加えられてしまえば直ぐ様にその在り方を変えてしまうようなか弱さと、如何様にも変わってしまえそうな脱力している。そんな気分が胸の中に一杯に広がっていた。

 驚く。いや驚いたような振りをしているのだろうか。心の容器の内容を微塵も揺らさぬまま、ただ頭の中で走る信号が驚きを捉えた。そしてそれを喜ぶでも悲しむでもなくただ甘受した。出て行くでも入ってくるでもなく、足すのでも引かれるのでもない。それは調和と呼ぶには余りにも静的でいて死と呼ぶには動的過ぎる奇妙な感触だった。

 ただただ、ただただそれが自らにとって何か快的な何かだと感じ取る。それは決して快感ではなく、不快感の真逆に位置するものでもない。息苦しさも寂寥感も将来への不安も、快楽と、快楽と同時に存在する苦痛もない。ただそれが何か良い物のようだと思ったのだ。

 しかし、それを認識するに至った所でそれは全くの無駄だった。何せそれを追い求めることなど不可能。そうと思わないではいられなかった。何せそれは絶対の静止の中で得られる一瞬の邂逅、瞬きの間に消えてしまう夢の様なものだからだ。空っぽこそが理想だというのに何かを欲してしまえばそれは最早空っぽとは程遠い、欲を満たした薄汚い何かだった。

 心地良い場所から追い出されるように我に帰れば、そこはもう無音の世界などではなく、いつもと何も変わらない雑多で物悲しいだけの充足とは程遠い場所。

 その感覚の喪失に暫し呆然とし、やがて体を起こすために力を込める。束の間の休息が終わった。

「さて、経緯は全部覚えているけれど。これやったのって本当に俺かよ」

 視界いっぱいに開けた大空を見上げながら鉄は呟く。覚えている限りではそこは図書館島の地下であり、直前に落ちてきた穴の事など考えると少なくとも地下数百メートル単位での深い場所だった筈なのにそれこそその辺の野っ原と同じように鉄の頭上には星屑達が輝いている。そしてぐるりと周囲を見渡すように回ってみれば何処も彼処も壁壁壁。切り立った絶壁が空に向かって伸びていた。それも暗くてよくわからないが少なくとも何箇所かは土の色が変わって層のようになっているのが分かる。はてと首を傾げながら哲は図書館島がどんな場所に建てられていたか思い出す。湖の中心に位置する島に建造されたそれは少なくとも岸から100メートルは距離が有った。しかし空と壁の縁の何処を見ても水が落ちているような様子はない。寝ていた間に全てが地下に落下したと見ることも出来る。が、哲がざっと周囲を見てみても水溜り一つ見つからない。という事は少なくとも湖全てが地下の土砂ごと根こそぎ無くなっている事になる。深さも鑑みれば小さい山の一つか二つ分の質量が消え失せていることになる。

 その人智を遥かに超えた天罰染みた現象を自分が起こしたというのは俄には信じがたい。それこそ自らに魔法のような物を操る力が有ると知っていても。

 現実逃避というよりもそもそもその現実を受け止められない。頭の中が真っ白になる感覚。そして新しく出来た空間で目まぐるしく駆け回るのは自らの行いによって出た甚大なる被害だった。

 物的被害もさておいて一番の気がかりは人的被害の方だ。図書館島は明治時代に作られた世界最大規模の図書館であり建造物事態にも文化的価値が有ることは言うまでもないが、更に重要なのは所蔵された貴重書の数々だ。パンフレットに書かれていた事だが、此処には大戦中戦火を逃れるために世界中の本が集められていた。そして平和になった現在その貴重書を狙って不法に侵入してくる者を撃退する為に数々のトラップが仕掛けられた。然しながら夜間の警備に当っているのは何もそういった仕掛けだけではない筈だ。地下に向かって伸びる全貌すら把握させない巨大な空間にどれだけの警備員が居るのか哲には想像も着かなかった。恐らく警備ルートやスケジュールを縫うように行われた進入時には誰にも会うことは無かったが、だからと言ってその存在の懸念を忘れるべきではなかったのに、あの時エヴァ達を逃がすという事以外には意識に上りもしなかった。

 手応えがない。自分がやったという自覚さえも本当の事を言うなら殆どない。どうしようも無い程の痛みを、痛みから受けるストレスを発散するためにたった一度地団駄を踏む。そんなつもりだったというのに実際にはこのざまだ。

 そんなつもりは無かった。とそんな言葉ばかりが浮かんで口に出しそうになる。しかしその行為の醜さに吐き気を催し必死に噛み殺した。そんな言葉は口にしてはいけない。するべきでない。したくない。

「う、う、ううえええええええええ」

 飲み込んだ言葉は腹の中に戻り、燻った火種を爆発させた。食堂を駆け上がり飲み込んだ筈の汚物が競り上がって、口から漏れだす。蹲りバシャバシャと飛沫を上げながら止めどなく吐瀉物を垂れ流す。どれだけ吐けば気が済むのか5秒10秒と続き、収まったと思ったら空気を吸い込んだ表紙に内蔵を口から吐き出すのではないかと思うほどの勢いでもう一度嘔吐した。

 既に吐瀉物は殆ど透明で、胃液を含んでいるために僅かに黄色がかったそれは地面に落ちて砂を灰色に染めながら染みこんでいった。

「ぐ、ぐ、ぐうえ、ぐえええ」

 上手く鼻から息が吸えず、体の表面を透過して中身だけを締め上げられているような状態で窒息しながら、それでも吐くことが止められない。ついには気絶しながら自分の吐瀉物に顔を突っ込んだ所で漸く哲はまともに呼吸することが出来た。

 ゼーハーゼーハーと耳障りな呼吸だけが耳に残り、全力で吐き気を抑えることに集中する。唾一つ逆流を恐れて飲み込めず、荒い呼吸をしながら細い管を通すように少しずつ空気を吸っていくと次第に体は落ち着きを取り戻した。

 どうにかしなければならない、そのためにはまず自分が何を出来るのか考えてみなければ。すっかり消耗しきった頭で哲は思考する。

 まだ酸欠の症状が収まらず時折意識がぼやけたが、暗闇の中を手探りで歩く時のようにゆっくりと考えを進めていく。

 まずは一つ大前提として自分の持っている肉体。これで人並みの事は出来る。次にこの惨状を引き起こした力。どうやったかは定かではないが、あの時は力任せに拳で地面を殴っただけの筈だ。殴られたりバラバラにされたり刺されたり蹴られたりで痛みと怒りにカッとなり自失していたが頭の中でこうなる事を望んでいた。煩わしい物が全て自分から遠ざかるようにと。そして三つ目は神から与えられた未知の力だ。あれの言う事を今更疑える程脳天気な頭はしていない。把握は出来ていないが、何でも出来ると断言された以上本当に何でも出来るのだろう。

 だとすれば時間を巻き戻すなりなんなりファンタジーらしい魔法の力で現状をどうにか出来そうなものだが、どうすれば実行できるのか。

 どうすれば消えたものを全部元通りに出来るのか。消えた図書館島も所蔵されていた本やそこに居た人たち全てを。

 ……望みさえすれば。

「はあ? なんだこれ」

 考えた所で自分でも分からない自分の力の使い方なんてものは分からない。が、あたかもそれを知る誰かが喋ったように頭の中に声とも文字ともつかないイメージが浮かぶ。

 なんという事だろうか。神様から貰ったこの体、電波を受信する仕様らしい。国営放送が入るならば集金対策をしないと。

「きめの細かい肌嫌がらせ精神だ。サービス業に従事すれば大変喜ばれるでしょう。って誰も聞いてないか。それより」

 哲は何の疑問も持たずに先程の謎の指示に従った。今になってあの神様がすることに疑問など持たない。持つ必要がないと確信していた。

 具体的なイメージを持つべきなのか、それとも漠然とでも願うだけで良いのか。そのどちらなのかは分からなかったが、哲は無意識に祈りのポーズを採っていた。奇しくもそれは目を瞑り膝をついて手を組むというある特定の神に祈る時のそれと全く同一の姿勢だった。
 


 大仰にポーズなどとった所で彼は生粋の無信論者である。神を信仰も否定もせずに生き、将来の夢も抱かず、願望を強く持つという事も無かった。それ故に彼の願うという行為に対する姿勢や方法は全く不格好と言わざるを得ず、或いはそれは世界で最も願うという事柄から遠く在ったかもしれない。しかしながら、彼は特別な存在である。本人が望む所に因らず、唾棄すべき対象に成り下がった彼の願いは聞き届けられてしまうのである。 


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