葛葉先生と龍宮サンのお陰で怪我なく麻帆良に帰て来る事もでき、女子寮に戻てきたらわらわらと沸いて出てきた皆にたかられたヨ。
そういえば2-Aとはこんな感じだたネ。
全員用のはもちろん頼まれていたお土産をそれぞれ配て、朝倉サンから取材させろと迫られたが主に美空に押し付けて部屋に戻たヨ。
「ハカセ、留守の間部屋を見ていてくれた助かたネ」
「おかえりなさい、超さん。私以外はこの1週間この部屋には入ってないですよ」
魔法球に侵入されるのが一番困るからナ。
その点は翆坊主も見てるからもしそんな事が起きたらすぐわかるのだけどネ。
「ハカセ達と用意した資料はあちらでは好評だたヨ」
「それは張り切った甲斐ありました。ギリギリまで徹夜して作成したのでどこかにミスがないか心配でしたけど」
「あー、ミスは結構あたが、行きの飛行機で直しておいたネ」
「やっぱり……」
「まあ影響は特に無かたからいいヨ」
「しっかり確認しないと駄目ですね。……それより少し大変だったのは授業で超さんと相坂さんがいないせいでまた私といいんちょさんに集中的に当たった事ですよ」
入院のフリをしていた時もそうだたらしいがまたカ。
先生たちもバカレンジャーに当ててどうしようもないと私達に回すからナ。
ネギ坊主はお世話になているという理由で明日菜サンによく当てるが、意外と英語はできるようになているからあの二人は割と仲がいいネ。
「それは悪かたネ。授業中に次のロボットの構想も進まなかたのではないカ」
「そうなんですよ。後もう少しで出てきそうっ!っていう時に限ってあたったりするとアイデアが吹き飛んじゃって」
「飛行機の中で休んできたから今日は開発のアイデアでも練るカ?」
「やっぱり超さんが一番理解してくれるのが早いので助かります」
ハカセは過程が飛躍する事が多いからナ。
やはりこれが日常だネ。
さよはまだ皆と話てる所カ。
しかし、帰りの飛行機で捕まえた犯人達から得られた情報が届いたが、予想通りというか末端の人間だたヨ。
単純に私達を狙うように指示を受けていただけのようだネ。
そんな連中でも麻帆良にまでは入てこれないから、そこまで厄介ではないが地味に行動を制限されているみたいで不快だナ。
釣り上げて潰すつもりだたが思いの外組織が大きいものだから私の命が外で常に安全になるのは当分先か、もう無いかのどちらかだろうナ……。
《翆坊主、この1週間殆ど連絡してこなかたがこちらの様子は変わりなかたカ?》
《おかえりなさい。最後だけドタバタしましたが1週間超鈴音にしては伸び伸びできたようですね。こちらは11月の時と同じく各研究会の人達が多少困る程度の現象が起きたぐらいですよ》
他の皆もハカセと似たような状態カ。
《うむ、スキーをマスターして来たから火星でもこれで楽しめるヨ。各所には後で顔を出して置くネ》
《前言った事本気にしてたんですか。確かに4月の頭にはアーティファクトがあれば問題なく過ごせるようになりますから楽しみにしておくといいでしょう》
《二酸化炭素の固まりでスキーはどんな感触だろうナ》
《またなんというか科学者っぽさが動機に出てますね。そうそう、アーティファクトと言えば小太郎君のものもかなりズルいものでしたよ》
ネギ坊主と小太郎君が仮契約したのは聞いているが、出たアーティファクトは小太郎君がネギ坊主の動きがわかるという使用用途に幅が無いものだと聞いているが。
《新発見でもあたのカ?》
《ええ、実は小太郎君のアーティファクトは契約執行すると自動で咸卦法が発動するものだったんです》
《それはとんでもなくズルいネ》
《タカミチ少年が知ったらげんなりするでしょうね》
《リスクが殆ど無い上にメリットばかりあるというのは本当に仮契約はバランスがおかしいネ》
《まあ、契約主の資質次第ですから周りに特異な人間がいない限り縁の無い話ですけどね。佐倉愛衣のアーティファクトは性能もそれほど高くないホウキですし》
《それでバランスを取ているのかもしれないが、選ばれた者だけが更に優遇されるというのはあまり愉快ではないネ》
《それは仮契約の魔法を最初に発案した人間の欲望の現れとでも言えるでしょう》
《昔から人間は変わらないネ》
他に何か動きがあた事と言えば丁度昨日バレンタインデーでネギ坊主があちこちからチョコレートを貰たり、押し付けられたりしてたらしいネ。
途中からどれが誰のかなんてわからないなんてオチになてるんじゃないかナ。
きちんと覚えておかないと英国紳士は失格だヨ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
超鈴音達が帰国してすぐの中間テストもあっさり終わった。
結果は超鈴音部屋の3人と雪広あやかで4位までを取るのはいつもと同じであったが、春日美空の順位が丁度中間あたりから200位前半へ、龍宮神社のお嬢さんも400台から300番台の前半まで上がった事である。
原因は日本史の暗記物や、古文の重要部分、数学の公式等を旅行中にピンポイント学習をしたお陰で簡単に点数が稼げたかららしい。
英語はバッチリの佐倉愛衣も日本史と古文の点数が飛躍的に伸びたようで、超鈴音をより尊敬するようになったのである。
と、そんな訳で二人程順位が上昇したため、これで良いのか悪かったのかはともかく、なんと2-Aは僅差ながらも下から数えて二番目にクラス順位が上がり最下位からの脱出を果たしたのだった。
これに伴い今回のトトカルチョで2-A最下位安定と思っていた多くの生徒達は食券被害を受けたそうな。
そして2月も末という頃、エヴァンジェリンお嬢さんのもとに表の京都の人達からの強い要望が届いたのだった。
なんでも、この1年の売上が例年よりも数十%も高くなり、その原因を詳しく調査したところ、元を辿ればエヴァンジェリンお嬢さんに端を発した日本文化ブームだというのが判明したのだそうだ。
要するに是非お嬢さんを本場に招待してイベントやら感謝やらをしたいという事らしい。
「じじぃ、沢山手紙が届いているし久しぶりに学業の一環証明書を作れ」
「儂の所にも要望が来とるしそれはいいんじゃが、最後に作ったのはいつだったかの?」
「大学の4年の時だから……5年近く前か」
「もうそんなになるかの。5年前じゃと確かこっちの棚じゃったような……」
ナギがかけた登校地獄はかなり緩くなっているので、麻帆良内なら自由に行動できるようになってはいるが、外に出るとなるとちょっとした処理が必要なのだ。
正直、完全解除すればそれで終わりなのだがお嬢さん自身がそれを望んでいないのでこういうことになる。
「確かあの時はエヴァの友人達と旅行に行ったんじゃったか」
「サークルでも度々誘われたが、あの旅行だけは行きたかったからな」
因みにその前が高校の修学旅行の時である。
中学の修学旅行の時はまだ信用が得られていなかった為許可されなかったので、これで通算3度目となる。
「おお、あったあった、キノ殿が呪いを緩めたお陰で条件をきちんと付ければちと分厚いが手書きで証書を作れば外に出られるからの」
「全部解かせないのは私の未練だがな。一応私の立場もあるし仕方ないだろう。出発は28日の金曜の午後からで帰ってくるのは3月3日の月曜だな」
「あい分かった。それまでに用意しておくわい。……ついでと言ってはなんじゃがこのかも連れて行っても構わんかの?」
「ああ、別に今更人数が一人増えても困らない。元々サークル規模の人数だからな」
「婿殿もこのかに会いたがっとるからの」
「寂しいなら麻帆良に入れなければいいのにな。そうだ、このかを里帰りさせるならぼーやも連れていったらどうだ?」
「……それはどういう事かの?」
「確か赤き翼の隠れ家があっただろう。ぼーやにここ数ヶ月のご褒美でもやったらどうだ?」
「褒美はついこの間も与えたのじゃが……」
「ナギが10歳の時の映像はあの試練の褒美だろうに」
「エヴァも情が移っとるの。ふむ、足跡を辿らせるのも悪くないか」
「一応私の優秀な弟子だからな」
「気にかかるのは2-Aの子達に情報が漏れないかじゃろうな。朝倉君がこの前からしつこくて適わん」
「超鈴音に借りを作った代償だろう。しっかり払え」
「わかっておるよ。この際、ネギ君に改めて西への親書でも持たせるとしようかの」
「念押しのつもりか。好きにしろ」
こうして近衛門とエヴァンジェリンお嬢さんのとの間でまたもや秘密裏に旅行計画が成されたのだった。
孫娘も連れて行くにあたり護衛には桜咲刹那、またしても葛葉先生、呪術協会から数人、そして特別に小太郎君が付くことになった。
葛葉先生が今回も選ばれた理由は魔法協会の所属でありながらも神鳴流という事もあって呪術協会と関わりが強いからである。
小太郎君までも特別に護衛入りした理由はネギ少年もいるから東と西の架け橋の象徴にでも、というつもりなのだろう。
エヴァンジェリンお嬢さんがいるため今回の護衛はかなり形だけの存在であるが、一応体裁は重要である。
次の日すぐに近衛門から孫娘に里帰りの話を伝え、また改めてネギ少年に親書の件をだしに京都に行って来るように伝えられたのだった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
28日金曜、学校が終わってすぐ、京都行きのメンバーが駅に集合したが、一部お互いの存在を確認して驚いたのだった。
「あれ?せっちゃん!せっちゃんも一緒に帰るん?」
「お嬢様、私の事はお気になさらず」
相変わらずスタスタ去って距離を取る桜咲刹那だった。
「……せっちゃん……」
「あれ?このかさんも京都に行くんですか?」
「よう!このか姉ちゃん!」
「えっ!?なんでネギ君とコタ君もおんの?」
「僕は学園長先生に頼まれごとをされたので」
「俺はその付き添いや」
「へーそうなんか。ほな、せっちゃんも同じ理由なんかな?」
「そうなの?コタロー君?」
「あー、それは俺も知らんへんな」
「コタロー君その顔何か知ってるでしょ」
「いや、何も知らんて!」
ブンブン手を振るあたり、小太郎君、隠し事が下手だった。
「コタ君教えてくれへん?」
そこへ今までサークルの人達に囲まれて姿が見えなかったお嬢さんが登場。
「ぼーや達も来たか」
「ま、マスターまで!?そんな事聞いてないですよ?」
「じじぃから聞いてないのか。元々私達が京都から招待されたのが今回の旅行の発端だ」
「そうだったんですか」
「知らない人がぎょうさんおると思うたらそういう事なんか」
「まあぼーや達と近衛木乃香はそれぞれやることやればいいさ」
《ぼーや、じじぃが説明してないようだから先に言っておくが近衛木乃香は学園長の孫で極東一魔力量も多いから桜咲刹那や小太郎達呪術協会が護衛についているんだ。少なくともぼーやがこの旅行中にさっき小太郎に迫ったような近衛木乃香に魔法の事をバラしかねん真似をすると故郷に戻されるかもしれんから気をつけろよ》
《は、はい!分かりました、マスター!あ……危なかった。でも刹那さんも護衛だったんですね》
《やはり知らなかったか。まあ小太郎もあまり呪術協会の事は話さないようにしてるからな》
「エヴァンジェリンさんはせっちゃんが来とる理由知らへん?」
「あの剣道部の先生と用事でもあるんじゃないか」
「あ、ほんまや。葛葉先生もいたんか。せっちゃん剣道強いからそうかもしれへんね。おおきに」
「私も詳しくは知らんからな。本当に気になるなら本人に付き纏ってでも聞き出せばいいだろう」
「なんやうちせっちゃんに避けられとるみたいやからそれはしとうないな……」
「ま、好きにすると良い。そろそろ時間だ。それではな。ぼーや達も用事が被らなければ私達の発表でも見に来ると良い」
「はい!時間があったら是非行きます!」
適当にお嬢さんが桜咲刹那と葛葉先生の関係を仄めかして孫娘の興味を適度に削いだことで小太郎君に及びかけた追求の手は収まった。
こうしてお嬢さん率いる大学サークル+ネギ少年親書任務+孫娘帰郷作戦+ネギ少年の監視も兼ねた主に孫娘の護衛団という異色の団体旅行客が結成された。
埼京線麻帆良学園中央駅から東京まで出た後新幹線に乗っておよそ2時間半程で京都に到着である。
京都駅に迎えに来ていた詠春殿直属の関西呪術協会の人達が孫娘を誘導し本山に連れていった。
その後間を置いてネギ少年と護衛達も後を追ったが、サークルの人達は招待を受けている宿へ泊まる事になり早くも別行動となったのだった。
本当についでというか便乗という他ない。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
このかさんだけ先に行ったけどそこまでして魔法の事を隠さないといけなかったのか。
今までこのかさんにはバレなくて良かったー。
アスナさんが話しちゃうんじゃないかとハラハラしたけど本当に良かった。
刹那さんがこのかさんを避けてるっていうのもこれが原因なのかな。
小太郎君が刹那さん達をすぐ紹介してくれたけど皆護衛なのか。
「あのー、刹那さんは護衛だからこのかさんから離れているんですか?」
「そうです、ネギ先生。今まで隠していてすいません」
それなら仕方ないのかもしれないけど、このかさんさっき悲しそうな顔してたな。
「いえ、隠していたのは僕もですし。……でも、折角クラスメイト同士なんですから仲良くした方がいいと思います!」
「し、しかし……」
「ネギ、それはお節介やないか」
「でも、僕は刹那さん達の担任だから生徒の関係はちゃんとしないと」
「はぁ……ネギはたまに頑固になるんやもんな」
「刹那さんはこのかさんと仲良くできないんですか?」
「い、いえ、そんな事はないですが……」
「なら仲良くした方がいいですよ!」
「俺は強うは言わんけど刹那姉ちゃん少しこのか姉ちゃんに冷たいと思うで」
「小太郎君まで……。分かりました、考えておきます。それでは失礼します」
あ、また行っちゃった……。
「俺はネギの担任の仕事はようわからんけど、俺が通っとる小学校は生徒が喧嘩してるのは先生が止めさせて仲直りさせる事はあっても、喧嘩もしてへんのに無理やり仲良うさせたりはせえへんで」
「無理やりっていうつもりはないんだけどな……」
「なんや魔法使いになる修行言うんは面倒やな」
「それでも僕は絶対この修業をやり通すよ」
「ネギならそう言うと思ったで。そうや、教師としての悩みならあの葛葉先生に聞いたらええんちゃうか?」
「あ、そうか!ありがとうコタロー君。本山の行きに聞いてみるよ」
丁度他の先生が居て良かったな。
もう出発するみたいだし聞きに行ってみよう。
「あ、あの、葛葉先生、こうして話すのは初めてですけど話を聞いてもらえますか?」
葛葉先生ってちょっと怖そうだな。
「はい、構いません。なんでしょうか」
「葛葉先生は、一人の生徒に仲良くしたいクラスメイトがいて、そのクラスメイトの方はその生徒を嫌いではないけど避けてる状況を見て仲良くさせようと思いますか?」
「あぁ……刹那の事ですか。普通であれば状況によるでしょう。避けている方が単純に恥ずかしがり屋で周りに誰も力を貸すような人間がいないならば少し背を押してあげるぐらいはして良いと思います。刹那の場合は恥ずかしいというのもあるでしょうが、立場が絡んでいるので難しいですね」
「立場……というとやっぱり護衛の事ですか?」
「木乃香お嬢様は近衛家の大切な一人娘です。対して私達護衛は命を賭けてでも守らねばなりません。そして護衛には替えが効きます。その為無闇に仲良くして結果悲しませるような事になっては護衛としては失格なのです」
命を賭ける……か。
スタンさんも僕の事をあの時身体を張って守ってくれたな……。
でもやっぱり残った方は悲しいし、悔しい。
「僕は守られて残された側の気持ちがわかります。でも、やっぱりそれは悲しすぎると思うんです」
「いいですか、ネギ先生。私は一般的な護衛としての立場を言っただけです。刹那は護衛でありながら幼少の頃からの木乃香お嬢様の幼馴染でもあります。その点をどう考えるかはネギ先生の自由です。私から個人的な意見を言うのは簡単ですが、教師としてのあり方もその人の数の分だけあります。ここからはネギ先生がネギ先生としてのやり方で、どう手を出すか出さないかは決めるべきでしょう」
僕の教師としてのあり方か……。
魔法使いになるための課題で始まった僕の今の生活はこういう事を経験する為なのかな。
「葛葉先生、ありがとうございます!僕は僕自身の答えを見つけるように頑張ります!」
「どういたしまして。良い答えが見つけられると良いですね」
よし、頑張るぞ!
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
午後7時を過ぎたという頃、孫娘は無事に本山に到着し詠春殿と木乃葉さんと久々に一時の再会を果たしたのだった。
しばしの団欒の後、母と娘とその他の巫女さん達はそのまま一緒に温泉にでもと移動していった。
その後詠春殿の所に今度はネギ少年の到着である。
「初めまして、ネギ・スプリングフィールドです。関東魔法協会から親書を届けに参りました」
「ネギ・スプリングフィールド君、遠路遥々ようこそ。私が関西呪術協会の長の近衛詠春です。楽にして結構ですよ」
「近衛……という事はもしかしてこのかさんのお父さんですか?」
「ええ、そうです。このかと同じ部屋に住んでいると聞きましたが今まで魔法の事を隠し続けられたとは大したものですね」
いや……そういう趣旨で同じ部屋になった訳ではないのだが。
「え?あ、はい、ありがとうございます。あの、これが親書になります」
「はい、確かに受け取りました。…………なるほど、分かりました。明日は何か予定はありますか」
「いえ、特には……あ、でもマスターの発表会が午後からあるのでそれは見に行きたいです」
「それなら明日の午前、赤き翼、ナギ・スプリングフィールドも使った事がある京都にある隠れ家を見てみますか?」
「え、父さんの隠れ家があるんですか!?」
「はい、昔のまま残っていますよ」
「是非お願いします!」
「分かりました。今日は疲れているでしょう。ここには温泉もありますから今晩はゆっくり休んで下さい」
「ありがとうございます」
こうして無事に親書を届ける仕事も難なく終わったネギ少年であった。
近衛門が書いた親書の中身は三種類、一つは真面目な内容の親書、そしてネギ少年を隠れ家に案内する便宜、最後に孫娘に裏のことを教えてはどうかというものだった。
特に最後の内容は近衛門からの私見だが、ネギ少年が冬休みに4日間昏睡していた時に僅かに回復術が孫娘から発動していた事と裏の事を孫娘にこれからも秘匿し続けながら護衛を陰ながらつける事の効率の悪さについてであった。
前者についてはあの時の小太郎君とネギ少年の状態を比較して分かったことだが、本当に偶然だった。
ネギ少年の方がスクロールへの最初の参加環境が精神的に悪かったにも関わらず小太郎君と体調が大して変わらなかったのである。
後者については超鈴音の前例で孫娘が攫われて利用されるどころか場合によっては、排除対象になり銃撃されて一発で終わりなんて事も可能性としてありえると近衛門が考慮したからである。
それと桜咲刹那の事も少しは含んでいるのかも知れない。
ここで久しぶりに精霊としてちょっかいを出そうと思う。
《サヨ、ちょっとまた関西まで行ってきます。すぐ戻ります》
《珍しいですね。行ってらっしゃい。木は見ておくので任せてください!》
《助かります》
ネギ少年が執務室から退出し、麻帆良から付いてきた護衛とのやりとりも終え、詠春殿が一人でいるところ。
前回も行った事があるので数秒で到着である。
念のためいつもどおり結界を張りつつ。
《詠春殿、お久しぶりです》
「うおっ!これはこれは、キノ殿ですか。少し驚きました。今日は何のご用ですか?」
《私は近衛門殿からネギ少年を見守って欲しいと頼まれていまして、今までのやりとりは全て見ていました。その手紙の内容についてもです。今回は少しお節介に来ました》
「全部筒抜けですか、となるとこの手紙の件ですか?」
《ええ、木乃香お嬢様に裏を教えるべきかという事です》
「……やはり親としては、このかを裏に巻き込みたくは無いですね」
《一つ、私がネギ少年と別に気にかけている人物がいるのですが、麻帆良を出た途端に命を日常で普通に狙われるんですよ》
「それは表で、ですか?」
《裏と関係のある表です。つい最近分かったのですが世界中に拠点を持った裏の道具を活用する表の組織があるんです》
「それは厄介ですね」
《恐らくその組織は裏からの依頼も表からの依頼も料金次第で請け負う可能性が高いです。要するに木乃香お嬢様を単純な依頼で殺害対象にされる事もこの先あるかもしれません》
「……学園長にしては珍しく警戒していると思えば非効率とはそういう事ですか」
《娘を守るのであれば、表も裏も無いのではないですか?》
「キノ殿はこのかにはこの際裏を教えた方が良いと思われるのですか」
《結論を言えばそうです。呪術協会支部も麻帆良に建った今、以前ほど関係が面倒な事になっている訳ではありません。正直木乃香お嬢様は自分の持つ力についてしっかり自覚しておいた方が良いと思いますよ。この前優秀な治癒術師としての片鱗も垣間見えました。総合的にはデメリットよりもメリットの方が多いでしょう。最後に、ついでのついでですが、大事な幼馴染と公然と仲良く出来るようにもなるでしょうね》
ここまで手を出すのは越権行為の気がするが、ここはあえて開き直り精霊としての立場を悪用するとしよう。
「キノ殿はこのかの事も見守ってくれていたのですか。私も分かってはいましたがそう精霊に言われるとお告げに従った方が良さそうですね」
見事に騙し……ではなく、スムーズに後押しができて良かった。
《最後にどうするかは詠春殿次第ですが、この休みにでもじっくり話されるといいでしょう》
「こちらこそ、決心が固まりました。またいつでも……と言っても見ているんでしたね」
《そう言われると、全くもってその通りです。それではこれにて失礼します》
結局のところ駄目押し程度の意味しか無かったかもしれないが、精霊からも言ったという事の重要性を見てくれると助かる。
私としても超鈴音だけが無事ならそれでいいという程薄情ではないのだから。
その夜、詠春殿は孫娘に裏の事をしっかり話し陰陽術や魔法の訓練をするかどうかについても意思を尋ね、孫娘の返答は予想通りであるがやると答えたのだった。
簡単な陰陽術は気を用いる事が多いので、近衛門の様に最初から魔分を使う西洋魔術の方が適正はあるだろうが。
続けて詠春殿は桜咲刹那についてもなんとハーフである事についても含めて話し、それを聞いた瞬間彼女が何処にいるかを聞き返し、寝間着の姿のまますぐ様突撃していった。
その姿を見て詠春殿はひとまず話して良かったのだろうという顔をしていた。
少なくとも訳の分からない成り行きで裏の事件に巻き込まれるよりは親から予め説明しておくべきだろう。
「せっちゃん!せっちゃん!」
「お、おおお、お嬢様!?どうしてここに?」
「うち父様から裏の事聞いたんや!」
「長が話されたのですか?」
「そうや!せっちゃん今までうちの事守ってくれてたんやろ?」
「は、はい、微力ですが陰ながらお守りしておりました」
「やっぱりな!それでな、うちせっちゃんがハーフやて言う事も聞いたんよ」
「……そ……そんな」
「逃げんでええ!うちはせっちゃんが人と少し違うてもそんなんどうでもええ!うちにとってはせっちゃんはせっちゃんや!」
ハーフである事を知られた瞬間に慌てて飛び出そうとした桜咲刹那だがその前に孫娘に抱きつかれて身動きがとれなかった。
「お、お……この…ちゃん」
「せっちゃんやっとその名前で呼んでくれた!うちせっちゃんと昔みたいに仲良うしたいんよ!駄目なんて言いひんよね?」
「……はい、お嬢様」
「またその呼び方!今晩うちここで一緒に寝てもええ?」
「え!?そ、そそ、それは!?」
「せっちゃん恥ずかしがらんでええよ。眠くなるまで今夜は一杯せっちゃん話してな!」
桜咲刹那の武勇伝が子守唄代わりになった。
そんなこんなでこの夜関西呪術協会の一室は孫娘に強く言われると断ることなどできない桜咲刹那によって日付が変わっても尚話し声が続いたのであった。
次の日、ネギ少年は朝食の際に二人の女子中学生に話をしようと思っていたのだが、少女達はぐっすり寝ていたため会えなかった。
詠春殿はその事を尋ねられて、適当に笑って濁しつつ、約束通り隠れ家にネギ少年を案内し、赤き翼の写真を見せ、ナギの残した資料をネギ少年に渡した。
それは麻帆良の地下施設の見取り図で、ナギの適当なイラスト付きでオレノテガカリ等と書いてあるものだが、明らかにクウネル殿のいる場所に繋がっていた。
一人で行ったら確実に門番の彼女に酷い目に遭わされるのだが、先にエヴァンジェリンお嬢さんに見せたら果たしてそれも解決するのだろうか?
昼頃に本山に戻った少年は孫娘と桜咲刹那が大変仲良くしているのを見て、唖然としたが前向きだったので「仲良くなって良かったです」と声を掛けていた。
しかし
「ネギ君は魔法使いなん?」
「ど、どうして知ってるんですか!?」
昨日孫娘に裏がバレるのがマズいというのを実感した矢先だったので衝撃が強かったらしく一瞬にして顔が青ざめた少年だった。
「ネギ君、安心してください。私が教えたのです」
という詠春殿のフォローでホッと一息、やっと落ち着きを取り戻した。
ネギ少年の魔法使いとしての事情についても無難に説明をし終えた。
因みに午前中には孫娘が裏の事を知らされた事については護衛達にも伝わっていた。
午後にネギ少年がエヴァンジェリンお嬢さんの発表会を見に行く事になり、それに参加する人達が本山入り口に集まった。
「あ、コタロー君!」
「ようネギ!おお、姉ちゃん達仲良うなったみたいやな!」
「そうやよ!」
「はい、昨日はどうも」
「んー、ほな、そのうちこのか姉ちゃん達も仮契約するんか?」
「仮契約て何なん?」
「仮契約というのは魔法使いの主従契約をする事です」
「それでどうなるん?」
「それをやるとこのカードが出るんや!」
バーン!と小太郎くんが掲げて見せた。
「コタロー君、そんな見せびらかさなくても!」
「あー!それアスナに前見せてもらったえ!その仮契約言うんするとそのカードが出るん?」
「そうやで。しかも凄い魔法具も出るんや!」
「それ以上はコタロー君、マスターが言っちゃ駄目って!」
そう、小太郎君のアーティファクトは無闇に人に教えるのはどうかという効果なのでエヴァンジェリンお嬢さんから二人には他人に簡単に教えたりしないようにと念が押されている。
「分かっとるって。俺のは見せられんけど、そういう事や」
「へー、ほんなら、うちがせっちゃんと仮契約したらせっちゃんのカードが出るんやね」
「お、お嬢様!」
孫娘にはそういうグッズ系の話はタブーだった。
ガンガン話に首を突っ込み、契約陣を描く必要があるとわかるところまで話が済んだところで結局今すぐにはできない事がわかり保留となった。
そして、もうそろそろ時間となり4人はもちろん、エヴァンジェリンお嬢さんが来ているのという事もあり、詠春殿は昔のちょっとしたよしみで、葛葉先生達は護衛は勿論一応立場的にも、結局皆で車に乗り込み出発した。
その発表会はと言えば当然素晴らしい出来で、大好評を受けた後、その場でお嬢さんと写真会であったり、サイン会だったり、握手会だったりした。
元賞金首って何のことだろうか。
誰もかれも一般人でそんな事気にしていなかった。
ずっとやり続けた訳ではないので、お嬢さんも京都の観光をそこそこする事ができて楽しめたようだ。
二日に渡るイベントであるため、次の日曜には前日とはまた違う場所で内容も変えて行われたが、その反響については以下同様である。
その間何かあったかといえば、詠春殿とお嬢さんが少し話たり、ネギ少年がお嬢さんに例の地図を見せて「あーそれだけか」と事実を知らなければ分からない冷めた反応をして終わったり、孫娘もお嬢さんに仮契約の事を早速聞き、「せめて少しはまともな魔法使いになってからにしろ」と一蹴した事ぐらいだろう。
それでネギ少年が「僕は少しはまともになりましたか?」と真面目に尋ねたものだから「最初に比べれば、だがな」と無難なやりとりもあった。
月曜、一行は朝早くに新幹線でまた麻帆良に戻っていき、午後に授業に戻ってきたらまた色々と厄介なことになったのは言うまでもないだろう。
孫娘が携帯から「京都の実家行って来るえ」と情報を上げていたのと、朝倉和美も元々サークルでお嬢さんが招待されていた情報を掴んでおり、更にはネギ少年も同じ所に行っていたとなっては追求が激しくなるのも無理は無い。
また早乙女ハルナが女子中学生2名からラブ臭に近しいものを検知したりしなかったりもしたそうだが、そんなセンサー何に役に立つ。
今回の小旅行を襲う等という暴挙に出る勢力は皆無であり、実に平和そのものであった。