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No.21873の一覧
[0] 【完結】【R-15】ルナティック幻想入り(東方 オリ主)[アルパカ度数38%](2014/02/01 01:06)
[1] 人里1[アルパカ度数38%](2011/06/21 19:52)
[2] 白玉楼1[アルパカ度数38%](2010/09/19 22:03)
[3] 白玉楼2[アルパカ度数38%](2010/10/03 17:56)
[4] 永遠亭1[アルパカ度数38%](2011/02/13 22:48)
[5] 永遠亭2[アルパカ度数38%](2011/02/13 22:48)
[6] 永遠亭3[アルパカ度数38%](2011/02/13 22:47)
[7] 閑話1[アルパカ度数38%](2010/11/22 01:33)
[8] 太陽の畑1[アルパカ度数38%](2011/02/13 22:46)
[9] 太陽の畑2[アルパカ度数38%](2011/02/13 22:45)
[10] 博麗神社1[アルパカ度数38%](2011/02/13 22:44)
[11] 博麗神社2[アルパカ度数38%](2011/02/13 23:12)
[12] 博麗神社3[アルパカ度数38%](2011/02/13 22:43)
[13] 宴会1[アルパカ度数38%](2011/03/01 00:24)
[14] 宴会2[アルパカ度数38%](2011/03/15 22:43)
[15] 宴会3[アルパカ度数38%](2011/04/03 18:20)
[16] 取材[アルパカ度数38%](2011/04/11 00:14)
[17] 魔法の森[アルパカ度数38%](2011/04/24 20:16)
[18] 閑話2[アルパカ度数38%](2011/05/26 20:16)
[19] 守矢神社1[アルパカ度数38%](2011/09/03 19:45)
[20] 守矢神社2[アルパカ度数38%](2011/06/04 20:07)
[21] 守矢神社3[アルパカ度数38%](2011/06/21 19:59)
[22] 人里2[アルパカ度数38%](2011/09/03 20:09)
[23] 命蓮寺1[アルパカ度数38%](2011/09/03 20:10)
[24] 命蓮寺2[アルパカ度数38%](2011/09/03 20:12)
[25] 命蓮寺3[アルパカ度数38%](2011/09/03 20:14)
[26] 閑話3[アルパカ度数38%](2011/09/03 20:14)
[27] 地底[アルパカ度数38%](2011/09/03 20:15)
[28] 地霊殿1[アルパカ度数38%](2011/09/13 19:52)
[29] 地霊殿2[アルパカ度数38%](2011/09/21 19:22)
[30] 地霊殿3[アルパカ度数38%](2011/10/02 19:42)
[31] 博麗神社4[アルパカ度数38%](2011/10/06 19:32)
[32] 幻想郷[アルパカ度数38%](2011/10/08 23:28)
[33] あとがき[アルパカ度数38%](2011/10/06 19:36)
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[21873] 閑話2
Name: アルパカ度数38%◆2d8181b0 ID:099e8620 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/26 20:16


 七篠権兵衛の一日は、幻想郷の多くの住人がそうであるように、布団で目を覚ます事から始まる。
太陽の光が、障子から透けて権兵衛の顔へと届いた。
ぱちっと目を開き、ぼーっとした頭のままで、権兵衛はゆっくりと背を上げる。
胸元までかかっていた掛け布団がぱさ、とこぼれ落ち、眠たい目をこすりながら、権兵衛は誰に言うでもなくつぶやいた。

「おはようございます」

 言ってから、自分は誰に言っているのだろうかと思い、権兵衛は首を傾げる。
もしかして誰か居たりしたのだろうか、と思い、何となく周りを見渡すと、しかし周りは何時もの通りである。
それから自分が挨拶を独り言で呟くのも何時もの通りなのだと気づき、権兵衛は恥ずかしさで少し顔を赤くし、それを誤魔化すように軽く頭を振る。
そして布団を手にしていた手を腰の当たりの敷き布団に当て、気づいた。

「あぁ、今日もなのか」

 権兵衛の両隣には、人間の体温に近い温度が残っていた。
そしてまるで直前まで誰か居たかのように、敷き布団には皺が残っている。
これはなんなのだろう、と此処に移り住んで数日、権兵衛は頭を悩ませた事があったが、その結論はこうだった。
多分、萃香さんの言っていた河童の超技術とやらで、夜寒くないよう温める機能なのだろう。
流石は光学迷彩すらも実用化していると言われる河童の超技術である、凄い物だなぁ、と今日も感心しつつ、権兵衛は布団から出る。
それから、前日のうちから枕元に用意しておいた着物に、寝間着を脱いで着替え始めた。
そうすると不思議な物で、権兵衛は何となく色んな所から視線を感じる。
なんだか部屋の湿度が増したような気がするし、屋敷に住み着いている紫色の蝶が部屋に現れるし、外ではかぁと烏が鳴く音がした。
と言っても、どれも人妖の物ではないのだ、自分はもしかして自意識過剰なのかもしれない、と思いつつ、手早く着替え終え、義手も装着する。
それから権兵衛は、居間に入り、改めて置いてあるアリスと権兵衛の人形に挨拶した。

「おはよう」

 こう言うと何となくアリスの人形の方の瞳に意思が宿るような気がして、権兵衛は毎回不思議に思っている。
と言っても、その場で権兵衛に湧き上がるのは、不気味さではなく、むしろそれ程に素晴らしい人形を作ってみせた、アリスの腕前への尊敬の念であった。
何となく権兵衛はアリスの人形を軽く撫でてあげ、それから土間に出て履物をつっかけ、外に出る。
すると、何時も通りの権兵衛宅の光景が見えた。
周りをよく首をこちらに向ける向日葵に囲まれ、そこらに霧が漂っており、幽霊らしきものが浮いており、火の鳥や烏や兎が時折姿を見せる、不思議な空間であった。
これを権兵衛は、建物に宿った念による物だと考える。
何せ鬼の中でも四天王と呼ばれる程の鬼である萃香が作った屋敷なのである、不思議な力が宿っているというのは十分にありうる話であった。
そんな屋敷に住んでいる事を、権兵衛は幸運だと考えていた。
何せ里との人間関係に相変わらず問題のある寂しい男な権兵衛である、身の回りの自然の不思議に心動かされる事は、貴重な体験となっていたのだ。
何時もは喧嘩するみたいにしている普通の霧と赤い霧が、今日は影から移動しない赤い霧しか無いのを見て、どうしたのだろう、と首を傾げつつ、権兵衛は川まで行って顔を洗った。
それから水を汲んで、家に戻り、朝食の支度を始めようと台所に移動する。
すると普通の霧がそこに漂っていたので、思わず権兵衛は挨拶をした。

「あ、おはよう」

 と言ってから、権兵衛は一瞬自分は何をやっているんだろうかと思う。
まぁ、仕方のない事ではあるのだ。
よく赤い霧と喧嘩したりしているように見えるこの霧には、まるで人格があるかのように思え、何となく権兵衛は親しみを持っているのである。
ぽりぽりと鼻の頭を掻きつつ、権兵衛は続けた。

「あの赤い霧さんとは今日は喧嘩していないんだね。良かった」

 と言うと、動揺するかのように霧が動く物で、やっぱりこの霧には人格があるのではないか、と権兵衛は思う。
今度輝夜先生に聞いてみよう、と思いつつ、権兵衛はさっさと朝食を作る事にした。
月の魔力でパッと火をつけ、冷やしてあった魚を切り身にしたり、ご飯を炊いたりする。
以前の権兵衛の朝食は杜撰な物であったのだが、何時しか妖夢に食事マナーと一緒に矯正されたのか、この屋敷に移り住んでからの権兵衛は、割と丁寧な朝食を作る事が多かった。
出来上がった朝食を居間に運び、権兵衛はアリスの人形らの向かい側で座布団に座りながら、手を合わせる。

「いただきます」

 黙々と朝食を口にしていた権兵衛であったが、ふと目が壁にかけられたカレンダーに行き、今日がこの屋敷に移り住んでから初めて買い物に行く日だと気づく。
何せいくら権兵衛が秋の幸を独占的に集める事ができるとしても、米や野菜など、手に入らない物は多い。
とりあえずこの家に慣れるまでは、と、権兵衛は残っていた金に少し余分をつけて慧音に頼んでいたのだが、何時までもそうはいかないと権兵衛は思っていた。
と言っても、そうこう言ううちに権兵衛は腕を無くして義手を作ってもらい、そのリハビリに数日かけるなどしていたので、ここまで遅くなってしまっている。
そこでまず、里の事情に詳しいであろう慧音に相談した所、最初はとりあえず自分が付いていてやるから、予定の空いている日に来てくれ、と言われたのだ。
権兵衛はその言葉に甘え、今日と言う日を指定したのである。

「頑張らなくっちゃな」

 と思うと、朝食も確りと取らねばなるまい。
きちんと噛むよう意識しつつ権兵衛は朝食を終え、食器を水につけておき、それから洗濯に移る。
ここは、河童の超技術の独擅場であった。
外の世界で使われていると言う洗濯機を、霊力を流す事によって起動させられる物が、権兵衛宅には用意されているのである。
河童さんありがとうございます、と見た事も無い河童に内心礼を言いつつ、権兵衛は洗濯機のスイッチを入れ、その霊力タンクに満タンまで月の魔力を変質させた霊力を詰めておいた。
ごうん、ごうん、と大きな音を立てつつ動く洗濯機を尻目に、権兵衛は食器を洗い始める。
それが終わる頃には洗濯も終わっており、後は干すだけとなった。

 洗濯物を干す時も、何となく権兵衛は視線を感じる事が多い。
今日は霧やら人形やらばかりではなく、何も無い所からも視線を感じる事がある。
何か透明な物でも居るのかな、と権兵衛は地面に視線をやるも、足跡のような物は見受けられない。
勘違いかと思いつつも権兵衛は手を伸ばしてみる。

「――っ!?!?」

 息を飲むような悲鳴が上がり、思わず権兵衛は後ずさった。
と同時、その気配が薄れるのを権兵衛は感じる。

「えっと、妖精だったのかな?」

 以前里で、透明になって悪戯をする妖精の事を聞いたことがある権兵衛は、そんな風に首を傾げた。
と言っても、この屋敷に来て以来、権兵衛は意思の強い妖精を見る事は無い。
何となく漂っているような妖精を見るばかりで、祝福を与えられるような、意思ある高位の妖精を見る事は一度も無いのだ。
珍しい事だったのに、勿体無い事をしたのかな、と、権兵衛は何となく柔らかい感触の残る手を握りしめ、こつん、と自らの額を叩いた。

 そんな事をしつつ権兵衛は洗濯を干し終え、それから里に向かう準備をする事になる。
と言っても、米だろうがなんだろうが月の魔力で浮かせられる権兵衛は、金を持つ以外は手ぶらで構わない。
とりあえず、慧音さんに会うのだから、と鏡を使って見目だけチェックしてから、権兵衛は家を後にする。
最後に自宅を結界で囲み、自分以外入れないように鍵をかけてから、権兵衛は里への道を歩み始める。
途中常にこちらを向いている向日葵などに挨拶しつつ、ゆっくりと里に向かう権兵衛なのであった。



 ***



 冬が始まろうとする頃。
肌を刺すような気温の中、上白沢慧音は権兵衛を待ち、一人静かに茶屋で茶をすすっていた。
湯気が湧いて出る湯のみに口を付け、ずず、と静かに茶を一口。
腹の底から暖まる温度に、はぁ、と思わず慧音は溜息をつく。
しかしその顔には、何処か悩ましげな色が混じっていた。

 以前であれば、慧音が茶屋で座っていたのならば、通りかかる人々は一人ひとり挨拶をしていったものだったが、今はそうではない。
誰もが黙ったまま、慧音から顔を逸らして黙々と道を歩むばかり。
時には慧音に顔を向け、声をかけようとする者もいるものの、彼らは暫く迷った末、誰しもが慧音に声をかけること無くその場を去る。
権兵衛が自宅を壊されてから、慧音は全力を尽くして彼を探し続けた。
教師の仕事もそこそこに、空いた時間を全て権兵衛に費やした慧音は、当然のことながらその姿勢を隠そうとする努力を怠った。
それ故にか、里人は最近慧音と距離を取るようになった。
当然といえば当然と言えよう、里人らにとっては正義であり、慧音の事を思っての事だったとしても、慧音にとっては大切な人間を里人によって奪われかけた形になるのである。
里人らとしては、慧音が権兵衛のような悪人の残り香から目が覚めるまで待とう、と言う結論となった。

 その事に対して、慧音は思うことは無い。
寂しいな、と思うのも多少はあるものの、慧音もまた里人にどのような感情を持っていいのか、分からなかったのである。
今まで、何十年と見守ってきた里人は皆家族同然の思いを持っていたし、この里に居る人間の殆どはかつての慧音の生徒なのだ。
当然大切だし、権兵衛に出会うまでは一番に思ってきた相手達だった。
そう、権兵衛に出会うまでは。

「私は――、権兵衛が、好き」

 小さく呟き、慧音は自らの唇に触れる。
柔らかな感触とともにぷっくりとした唇が凹んだ。
目を閉じ、慧音は権兵衛の頬に自らの唇が触れている所を想像する。

「う……」

 思わず、慧音は悩ましげな溜息をつき、体を抱きしめる。
そうでもしなければ、慧音は今にでも悶えその場で転がってしまいそうなぐらいだった。
それぐらいに慧音の中をふわふわとした感情が暴れまわっており、それが過ぎ去るまで慧音は目を閉じ自身を抱きしめ続ける。
体の芯が熱くて熱くて仕方がなくて、慧音は股を擦り合わせ、自身を抱きしめる腕で乳房を抑えつけた。
冬だと言うのに汗がじっとりと滲みでてきて、これから権兵衛に会うのに、いけない、と思い、努めて自身を制御する。
ようやく体から緊張が抜けてきた頃、慧音は溜息と共に脱力した。

 やっぱり自分は、間違いなく権兵衛の事が好きなのだ。
そう慧音は確信する。
だが、同時に思う事もあった。
それは里人達と比べてどうなのだろうか?
それは妹紅と比べてどうなのだろうか?

 今まで慧音は、大切な者同士を比べてみるなど、思ったことも無かった。
何せ里人も強者であり迷いの竹林から助けてくれ、かと言って既得損益を汚す訳でもない妹紅に対し友好的で、妹紅も里人に敵対するでも無かったのである。
つまり、権兵衛を好きになって初めて、慧音は大切な者同士の諍いの中にあるようになったのだ。

 確かに権兵衛は大切である。
しかし可能なら里人や妹紅と両立して仲良くしていたい、と言うのが慧音の正直な考えであった。
浅ましい考えである、と言うのは慧音にも分かっている。
何せ慧音が権兵衛の記憶さえ喰わなければ、全ては丸く収まり、権兵衛も里人も妹紅も、全て仲良く慧音と手を取り合えたかもしれなかったのだ。
それを破壊した当人が、今更何を欲張った事を言うものか。
そう思うと自身の罪深さに絶望しそうになる慧音。
しかしそれでも、思ってしまうのだ。
権兵衛は私の物だったのに、と。
自分で余計な事をしてしまい、その状況を壊してしまったと言うのに、それでも思ってしまうのだ。
本当ならば、権兵衛は私の物だったのに、と。
記憶さえ喰わなければ?
いやいや、慧音が米屋の時の騒動の場に居て、妖夢に権兵衛を連れていかれなければ、ずっと権兵衛は慧音だけの物だったのだ。
あの時急な来客さえなければ、きっと、ずっと。
浅ましい上に、それはただの現実逃避であると言うのに。

 そして慧音は結局、現実逃避しかできていない自分に、薄々気づいていた。
権兵衛が好きと言いつつ、その権兵衛の為に里人との間に入る事すらできていない。
いや、それはまだ一端時間を空ける為、と言う理由もあるにあるのだ、正当化できる範囲内であったが、妹紅の事については言い訳のしようがなかった。
妹紅は明らかに慧音を出し抜いて権兵衛を物にしようとした。
それは宴会で見た権兵衛の火傷により明らかであり、慧音からすれば本当に権兵衛の事を一番に思うなら、妹紅との縁を断っていてもおかしくない事実である。
だのに慧音は、未だに妹紅に対しどんな態度も取れていなかった。
権兵衛と妹紅と三人で仲良くできる未来は、はっきり言って、無いに等しい可能性である。
何せ妹紅は慧音が大切な人と言って紹介した権兵衛を好きになり、そればかりか無理に物にしようと魂まで到達する火傷を負わせ、自身の物だと言う主張を行ったのだ。
それ以来妹紅の方から慧音に話しかける事すらもないまま。
対し慧音は妹紅に偶然出会っても、以前のような態度をとり続けている。
明らかに慧音は、妹紅が自分を裏切ったと言う事実を、認めきれていなかった。

 そんな心情を含め、今慧音の立場は危うい物になっていた。
そも、権兵衛を傷つけた里人寄りであり、更に力も弱い慧音が権兵衛を取り巻く女性に排除されていないのは、権兵衛が里との復縁を願っているからである。
恩を返したい、と言う権兵衛の願いは、どっちかと言うと今すぐ婿に来てくれた方が嬉しいと思いつつも、女性陣全員が応援する物であった。
当然であるが、権兵衛の願いが果たされず共になるよりも、権兵衛の願いが果たされて共になった方が良いのである。
そして権兵衛の願いを叶える為には、里との縁が深い慧音が必要不可欠、と言うのが、今慧音が権兵衛の事を監視する権利を得ている理由であった。

 どうにかしなければいけない、と言うのは慧音にも分かっている。
でもそのどうにかしなければいけない現実は絶望的で、どうやっても希望通りにはならず、最低限を手に入れるだけでも必死の努力が必要で、その上何をどうすればいいのかも分からない。
現実は非情であった。
胸を掻き毟りたくなる衝動に襲われつつ、慧音はそれを打ち消さんとばかりに茶を飲み込んでみせた。
茶は少し冷めていて、温くなっていた。
まるで今の私のように中途半端だな、と自嘲する慧音の顔に、影が差す。

「慧音さん? お久しぶりです、権兵衛です」
「ご、権兵衛!? も、もう来てたのかっ!」

 思わず驚き、慧音は湯のみを取り落としてしまう。
あっ、と声をあげ、一張羅が茶で濡れてしまうのを覚悟する慧音であったが、それよりも早く権兵衛の手が動いた。
月の魔力によって重力を局地的に操作。
零れた茶を宙に浮く球体にし、こちらは単に魔力で掴んでいる湯のみをことりと置き、その中に茶を戻す。
見事な手際であった。

「凄い、な、権兵衛」
「えへへ。輝夜先生の所に、何度か通わせてもらっていますから」

 思わず感嘆の笑みを浮かべつつ、慧音は内心複雑であった。
権兵衛の月の魔力の扱いは、明らかに低級の妖怪の上を行く物であった。
期間を考えれば凄まじい才能であり、恐らくこれからも同じように力を上昇させてゆくと言うのなら、慧音と並ぶ日も数年とかからないかもしれない。
そう思うと、慧音は誇らしいと思うと同時、寂しくてたまらなかった。
外に出るにも権兵衛は自分を頼らねばならず、里で物を買うにも権兵衛が自分を頼らねばならないと言うのは、たまらなく嬉しい物だったのである。
何と浅ましい事か。
自身を殴ってやりたい衝動に襲われつつ、慧音は努めてそれを隠しながら口を開く。

「それにすまなかったな、権兵衛。
約束では、此処から里の入り口に権兵衛が見えたら私が門番に言って聞かせてやるつもりだったのに、一人で来させてしまって。
大丈夫だったか?
諍いなんかは無かったか?」
「それが……」

 困ったような笑顔で返し、権兵衛は横に一歩動いた。
同時、隠れていた幾人かの姿形が慧音の眼に入る。

「えっと、里に行くまでに、偶然出会いまして。
皆さん、丁度買い物で、一緒に行かないか、と言う事でしたので、それなら、と同行する事になったんですが……。
その、良かったでしょうか?」

 何故か半霊を持たない妖夢、幽鬼のような表情をした鈴仙、獰猛な笑みを浮かべた幽香、冷たい表情の咲夜。
そして慧音に対し敵意を秘めた瞳で見据えてくる、妹紅。
何時ぞやの宴会の再現と言うべき面子が、そこに揃っていた。
一瞬、慧音は眼を閉じる。
分かりきっていた事だが、慧音は権兵衛と二人きりになる事など、できないらしい。
それでも残っていた僅かな期待を磨り潰し、無理矢理作った笑顔で、慧音は言う。

「勿論、良いとも。
皆権兵衛の“友人”なのだろう?
なら当然、こちらも歓迎さ」

 言葉の中、友人と言う単語を強調してしまう自分に、思わず慧音は自嘲した。
自分は何と嫌な女になってしまったのだろうな、と。



 ***



 里人の間で、権兵衛の事は当初から忌み嫌われていた。
何せ里の母と言っていい慧音に、何の取り柄も無いのに贔屓にされていたのである。
古い体制の続く幻想郷の人里ではそれだけで忌避されるべき事だし、それだけではなく、その上どうもこの権兵衛と言う男、何かと仕草が気に障る男であった。
笑っていても、哀しそうにしていても、無表情でいようとも、ただぼんやりとしていようとも、何となく腹がたつ。
そんな権兵衛だったので、里としては当然にして相応の処置として権兵衛は里を追い出され、その上まだ慧音と繋がりがあると知られると、その家すらも壊された。
これでいい加減慧音も目が覚めるだろう、と里人も解決を時間に任せた、その所である。
権兵衛が、再び里に現れた。
それも、大妖やそれに連なる人妖を引き連れて、である。

 当初里は、驚きに驚き、警戒した。
とっくのとうに妖怪の餌となっている筈の権兵衛が何故、と言う思いと、その権兵衛が恥知らずにも慧音以外の有力者を味方につけて、里人を威圧しているように思えたからである。
今度ばかりは権兵衛だけを攻撃してしまえば、明らかに里が報復を受けるようなメンバーが、権兵衛の周りには揃っていた。
ばかりか、既に里は権兵衛を殺しかねない行為を行っているのである、今すぐ攻撃されるやもしれない。
里人は恐怖におののき、権兵衛らに対し低頭平身に対応していた。

 他の大妖と同様の貴人に対する礼を尽くすのは当たり前。
当然だが、以前の権兵衛が気づかずに支払わされていた、五割もあった権兵衛が生きていい税も廃止である。
それに首をかしげて、その仕草から権兵衛税の存在に気付かれそうになって顔を青くしつつ、里人等は権兵衛に対応していく。
その中には決して権兵衛の前に現れる事の無いよう、影から権兵衛を見ている里人もおり、権兵衛と里から直接追い出し、家を無くした権兵衛に暴力を振るった里人も、その中の一人であった。

 奇妙な奴だった、と、その里人はかつての権兵衛を回想する。
仕草言動は善人と言って良いのに、不思議と人に嫌われるような男であった。
例えば人と人との心を繋ぐ重力があるのだとすれば、それが低すぎる状態であるかのように。
にっこりと笑っていればその顔面を殴りたくなるし、歩いていればその足を杭で串刺しにしたくなり、悲しそうな顔をしていればその顔面を地面に擦りつけて耕してやりたくなるし、座っていればその頭を蹴って西瓜のように割ってしまいたくなる。
そこまで権兵衛を嫌っていたのはその里人だけだったようだが、大小の差はあれども、里人の多くは権兵衛を嫌っていた。
女子供ですら権兵衛を嫌った。
女はわざと権兵衛に聞こえるように陰口を叩くのが日課であったし、子供は好きな遊びの一つとして、権兵衛を退治すると言うのがあった。
強いて言えば、老人は然程権兵衛を嫌わなかっただろうか。
それでも人によってはふらついた振りをして権兵衛を杖で殴ったりしていたそうだが。
後はせいぜい阿礼家の乙女ぐらいか。
と言ってもこちらは、嫌う以前に面識が無いそうなのだが。

 それが今では、奇妙に魅力ある人物に、その里人には思えた。
茶屋で女性の人妖と話す権兵衛は、魅力に満ち溢れていた。
陽の光を反射する髪はまるで宝石のように輝いてみえたし、丸くて女々しくてジメジメとした物だ、と思っていた顔は、柔らかく優しい、慈悲に溢れる顔に見える。
話す言葉はまるで鳥の囀りのように心安らかな物で、仕草の一つ一つはまるで天人のそれのように神々しい。
本当にあれは権兵衛なのか、とその里人は思ってしまう。
と同時、思い出す。
先ほどの報告から、権兵衛が零れた茶を戻すような、妖術の類を会得してきていたと言う事を。

「くそ、騙されるな、これは罠なんだ」

 小さく里人は呟いた。
それに、はっとするように、同じく権兵衛を見張っていた里人等が目を一度二度瞬き、頷く。
そう、人の印象が短期間でこれほど変わる事は、通常ありえない。
ならばこれは権兵衛の使う悪意ある妖術により、植えつけられた好意なのだ。
心の底でそれを否定する言葉が上がるのをもみ消すように、その里人は繰り返す。

「これは権兵衛の罠なんだ。俺たちを陥れようと言う、罠なんだ」

 それに戸惑うような仕草を見せつつも頷き、周りの里人が次々に口にする。

「そう、だ。これは権兵衛の妖術なん、だ」
「だよ、な……。権兵衛は、悪人、なんだよな」
「そうだよ。あいつは、そう、慧音先生を誑かした……極悪人、なんだ」

 しかし誰の言葉も煮え切らない物ばかりで、最初に口にした里人すらも、思い切った言葉を口にできない。
ばかりか、そうやって口々に権兵衛を罵る言葉を言うたびに、胸の中を掻きむしられるような思いであった。
まるで自分たちが犯してはならない道徳を犯してしまったのではないか、とすら思えてくる。
そんな筈は無い。
そんな筈は無いのだ。
そう思いつつも、里人たちの心を、奇妙な後悔が襲ってゆく。
何故、俺たちはあの人を傷つけてしまったのだろう。
何故俺たちは、あの人を悪人だなんて思ってしまったんだろう、と。

 その後悔すら、一度悪く言ってしまったのだから、と開き直りを使わなければ、里人は権兵衛を罵倒する事すら叶わなかった。
全力を尽くして、ようやく戸惑いの混じった罵倒を、呟くように口にする里人達。
それはまるで、終わることのない苦行を課せられた、賽の河原の子供たちをすら思わせる様子なのであった。



 ***



 不思議なほど買い物が上手く行き、権兵衛は上機嫌で家に帰ってきた。
今日は本当に良い日だったな、と権兵衛は思う。
権兵衛の知り合いの女性陣の幾人かと偶然出会えたし、久しぶりにお茶をして会話を楽しむ事が出来た。
なんだか権兵衛と一対一の会話しか成立しなかったような気がするのだが、それは会話下手な権兵衛の事を気遣っての事だろうと権兵衛は思う。
結局権兵衛は大所帯のまま里を周り、米などの必需品を買い、それを月の魔力で浮かせて自宅へと辿り着く。
自宅へかけてあった結界の鍵を開き、家のすぐ近くに建て付けてある倉庫に米などを入れ、ぐるりと回って庭の方へ行くと、干してあった下着がいくつか無くなっていた。

「あちゃあ……」

 呟き、思わず拳骨を作ってこつん、と自分の頭をやる権兵衛。
一応しっかりと固定していったし、それほど風の強い日でも無かったので、恐らくは妖精の悪戯とやらなのだろう。
自分の結界は妖精すら防げない出来なのか、と落ち込みつつ、権兵衛は一端手を洗ったりして清潔にしてから、干してあった洗濯物を取り込む。
夕焼けの赤色が挿し込む時刻、ふわふわと浮いている幽霊の横で洗濯物を取り込み終えると、部屋に戻ろうとする権兵衛に幽霊が付いてきた。

「今日も家に泊まるかい?」

 と言う権兵衛が言う通り、この幽霊は何でか好んでこの屋敷に住み着いているようだった。
一応冥界に返した方がいいのか、と妖夢に会ったとき聞いてみたものの、別に構わないと言う事なので、こうして屋敷においている。
何となく妖夢の引き連れた半霊を思い起こさせる姿から、どうも追い出す気が出ない権兵衛なのであった。
勿論来客時などは引っ込んでおいてもらえるよう、言う事を聞いてもらえるから、と言うのもあるのだが。

 何となく幽霊を一撫でし、家の中に入った権兵衛は、夕食を作り始めた。
今日は新鮮な鶏肉も手に入ったので、味噌焼きにする事する。
適度に味を見つつ、月の魔力による火を使って作っていると、外でガタンと物音がした。
どうしたものか、と、権兵衛は一端火を消し、外に見に行ってみるが、特に何がある訳でもなく、何とも無い。
はて、と首を傾げつつ戻ってみると、殆ど完成していた夕食が、少しづつ減っていた。

「あぁ、また妖精の悪戯かぁ」

 またもた頭をこつん、とやりつつ、権兵衛はボヤく。
この屋敷は河童の超技術のお陰で便利ではあるものの、この屋敷に住み着いてから、権兵衛は度々妖精の悪戯と思わしき物に被害を受ける事になっていた。
今度輝夜先生に会ったら妖精避けの魔法でも教えてもらおう、と思いつつ、権兵衛はさっと料理の仕上げをし、居間に持って行く。

「いただきます」

 と、またアリスの人形と向い合って言い、権兵衛は夕食を取った。
暫く咀嚼音だけが続き、虫の鳴き声は少なく、外の森に虫が少なくなってきた事を思わせる。
もう冬なんだなぁ、と思いつつも食事を終え、食器を洗い、権兵衛はお茶を入れて居間で少しばかりぼうっと過ごした。
それから今度は、風呂である。
川から汲んできた水を入れ、本来薪を入れる場所に月の魔力で火をつける。
何でも河童の超技術で温まりやすく冷めにくい素材を使っているらしい風呂釜は、すぐに暖かくなり、入るのに適温となった。
温度を維持する程度に火を弱め、権兵衛は服を脱ぎ、風呂場に入る。
すると何時も不思議に思うのだが、既に風呂場はまるで誰かが風呂に入っていたかのように濡れており、何本か様々な色の髪の毛が落ちているのである。
これは一体なんなんだろうか。
矢張り家の風呂は、妖精に使われてでもいるのだろうか。
今度は温める途中で風呂を覗いてみようか、と思いつつ、体を洗い、湯に浸かる権兵衛。
体が芯まで暖まるまで湯に使った後、権兵衛は風呂を出て、体を拭き寝間着に着替える。
それから一応確認しておこう、と、毎度のことなのだが権兵衛は再び風呂場の戸を開けた。
すると、いつの間にか残り湯が全て無くなっているのであった。
多分これも河童の超技術による排水なんだろうな、と思う権兵衛なのであったが、残り湯を洗濯に使いたいと思っている権兵衛としては残念な事である。
サボらずにちゃんと水を汲みに行けと言う事だろうか。
首を傾げながら、権兵衛は居間へと戻る事にする。

 そして夜は、魔法の勉強の時間である。
単に時間が空いていると言うだけでなく、権兵衛の魔法は月の魔力を扱うので、夜に勉強する方が効率が良いのだ。
早速輝夜に借りた魔道書を手にとろうとするが、不思議なことに、権兵衛の本棚には権兵衛の見知らぬ本がいつの間にか潜んでいたりする。
多分、これはいわゆる罠の魔道書が自分から手にとって欲しいと、誘いに来ているのであろう。
そう考える権兵衛は、輝夜にもらった以外の魔道書は手に取らず、かといって捨てようにも触れるとどうなるか分からないので、そのまま放置している。
どんどん増えてゆくそれをどうすべきなのかは、今後の権兵衛の課題である。

 数時間程魔法についての勉強をした後、権兵衛は就寝する事になる。
居間の人形におやすみ、と挨拶しながら撫で、寝室に戻り、布団に潜ろうとすると、矢張り人肌の温度に布団は暖かい。
河童の超技術なのか、それとも偶に髪の毛が落ちているので、妖精が勝手に寝ているのか。
とりあえず前者だと思うことにし、河童の超技術に感謝しながら、権兵衛は眠りにつくのであった。




あとがき
次回からは本格的に後半になります。
が、ちょっと忙しくなるかもしれないので、次回か次々回ぐらいから更新が遅くなるかもしれません。
と言っても逆に現実逃避で速度維持しているかもしれませんが。


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