遺書を書き終わった僕達は用意されていた皮衣を羽織り、飛竜ガーラントのその背に飛び乗った。
飛竜ガーラント。小さな蒼い竜族で、高い知能は無い。家畜用の竜である。今までは大した注目を受けて来なかったが、魔法力を使わず、餌の量が少なく、しかも長い距離を飛ぶのでこれからの大日本帝国をしょって立つと考えられている竜だ。
空軍が所有していて、その大きさは小さな戦闘機ほど。
幸い、僕らは戦役中にガーラントに乗った事があった。
そのなめらかな首を撫で、しっかりと鞍に体をくくりつける。
アースレイアがよじ登るのを待っている間、地図とコンパスを再度確認。
鞍に書いてある名前を読む。
「行くよ、疾風」
そう一声かけて、僕達は飛び立った。
ぶおっと風が鳴る。
吹き飛ばされそうになる体を、懸命に疾風に押さえつけて堪えた。
あっという間に地上が遠くなり、そこで飛竜が一声吠えた。
悪霊だ! こんな上空にいるとは。
真っ黒い固まりに人の顔が張り付いたそれ。
『樹!』
『わかっている、僕がやる!』
テレパシーで伝えあう。そして、僕は呪符を取り出した。
「臨兵闘者皆陣列在前! 悪霊、封印!」
悪霊が呪符に吸い込まれ、僕はその圧力に耐えた。
それでも、小物で良かった。日本にはこんな悪霊が跳梁跋扈している。
聖術省が新設され、異世界に行く事で力を格段に強めた陰陽師や僧侶、神主達が流派関係なく悪霊を退治し、荒神を鎮める作業を行っている。聖術とは、宗教者達が使う力をひとまとめに呼称したものだ。
それは神の力を借りているとも、その信仰心自体が力の構築の助けになっているとも言われている。
いずれにしろ、信じる神によって力の種類は大別出来た。
今ではノーマル……もっと言えば、元々の大日本帝国の血筋の者の全てが、何らかの聖術を使用している、僕の場合は陰陽術だ。
幸い、悪霊はそれ以降現れず、僕達はバリアに近づいて行った。
僅かな抵抗と共に、体をバリアが突き抜ける。
『バリア、出たね。樹にー、だいじょうぶ?』
『待って……』
「長谷川さん、どうか力を貸して下さい……」
僕はタリスマンに祈る。このタリスマンには、空軍パイロットの長谷川さんの魂が封印されている。志願して、長谷川さんはこのタリスマンに封印された。
『ああ、ワシは帰ってきた! 帰って来たのじゃ! 待ちなさい、この景色は見た事がある……無事、ドイツまで案内しよう』
「ありがとうございます!」
『ガウリア、アースレイア、僕についてきて』
『了解』
『りょうかいっ』
三匹の飛竜は連なって移動する。
一時間ほど飛んで、長谷川さん曰く海の中間地点まで行った所で、問題が発生した。
『何……あの、大きい飛行機!』
『つけられてる……な、やっぱり』
呼びかけられているが、言葉が分からない。
しかし、相手はどうみても戦闘機だった。恐らく、大日本帝国とは比べ物にならないほど高性能な飛行機なのだろう。
そもそも、僕達はこんなにも早く探知されるなんて思っていなかった。
僕達は無言で速度をあげた。
振りきれない。かといって、攻撃もして来ない。
しばらくして、もうすぐ陸地が見えると言う頃、向かい側からも飛行機がやってくるのが見えた。
そこで、飛行機から拙い日本語が聞こえた。
「待ちなさい! そこから先は中国の領空だ。今すぐ引き返してこの先の船に乗らないと、撃つ。私達はアメリカ合衆国第五空軍だ。諸君の身柄の安全は保障しよう」
『樹……』
『降りよう。アースレイア、自害はまだするなよ』
図らずも、敵対国であるアメリカと一番に会う事になってしまった。
へりくだってはならない。相手を怒らせてもならない。
相手の出方が分かるまで、こちらの態度を決めるわけにはいかない。
僕達は飛竜を下降させ、そこで大きな平べったい船に気付いた。
アースレイアがそれを克明に視界に焼き付けているのが分かる。
疾風から降りると、駆けよってくる金髪の軍人を制止した。
「近づかないでください。滅菌処理を先にします」
僕が喋ると、黒髪に蒼い瞳の軍人がゆったりと歩み寄ってくる。
「もう一度、ゆっくり言ってくれないか」
「近づかないでください。滅菌処理を先にします。私と貴方、共に有害な菌を持っている」
「わかった。私はカート・ラグラロイ少佐だ」
カート少佐は理解不能な言葉を喋った。すると、軍人達は僕達と大きく距離を取る。
僕は疾風に果物を与え、そして消毒薬を荷物から取り出した後に、透明な防護服を着て密閉させた。
そして消毒薬を互いに掛ける。
ついでに、防護服の中で水筒を取り出し、一口飲んだ。
そして、ガウリア、アースレイアの様子を確認する。
ガウリアは無粋な防護服の中にあっても美しかった。綺麗な金髪は日の光を受けてキラキラと輝いている。その顔は緊張していた。
アースレイアも可愛らしい顔を緊張で染め上げている。
僕は、二人に笑いかけた。出来るだけ、安心させるように、柔らかな微笑みを意識する。それは母さんのような。
「さあ、行こうか」
ガウリアは、はっとしていち早く前に出た。
「初めまして。ガウリアだ。こっちは樹、こっちは……」
「アースレイアがいこうかんですっ」
空気が凍った。
外交官だと言った。言ってしまった。僕は即座に身をアースレイアとカート少佐の間に滑らせて、言う。
「樹外交官です、よろしく」
『アースレイア、頼む、黙っててくれ』
『え、あ、れーあ、なにか、めっなことした?』
『いいから、黙っててくれ』
カート少佐は、目をぱちくりさせて言った。
「外交官……? 随分若いようだが、歳を聞いても?」
「全員一五になります。若輩者ですが、成人試験は全員合格しています。これ、証書です」
下記の者を大人と認める。そう記されたカードを僕が指し示すと、カート少佐はそれをマジマジと見つめた。
「成人試験なんてものがあるのか? それを合格しないと、お年寄りでも子供? 子供でも、その……」
「はい。ですが、試験合格の為の施設もありますし、余程でなくてはそうなる前に受かります」
カート少佐は、アースレイアの方をじっと見る。
「それにしたって、若すぎないか? もっと……そう、熟練の大人は?」
「それが、外交官が全員奇病に掛かってしまって、外務省が麻痺状態に陥ってしまって……飛竜に触らないで! 病気が移る可能性があります」
すると、カート少佐が飛竜に触ろうとしていた軍人に何事か叫んだ。
軍人は、慌てて手を引っ込める。
「それで、君達の目的は?」
「同盟国の伝手を頼って、まずはこの世界の情報を仕入れたかったんです」
「ドイツ? それともイタリアか? どちらにしても、それは無茶だ。いくつもの国の領空を通らなくてはならないし、私達でなくても中国に捕まったと思うよ。それに、あの小さな……竜? 竜なのか……で、そんなに長い距離を飛べるとは思えない」
「はい……あの、どうして僕達が大日本帝国を出たのが分かったのですか?」
「日本に名を変えたと思ったのだがね。君達の国は監視を受けている。それだけの事だ。さあ、こちらへ」
カート少佐は踵を返し、先へ進んでいく。
僕達は慌てて後を追った。
応接間に辿りつくと、明らかに上級士官とわかる人が待っていた。
がっしりした体。金髪に碧眼。祖父が言っていた通りの人だ。ただ、顔つきは鬼のようではなく、威厳はあるが優しさのある顔つきをしている。
その人が何事か言って、カート少佐が口を開いた。
「ようこそ、エンタープライズ号へ。艦長のマイケル・P・カーラン大佐だ」
「田端樹です」
「ガウリアだ」
「アースレイア・レガットです」
僕達はぺこりと頭を下げる。
「座ってくれたまえ」
僕達は揃ってふかふかの椅子に座った。
ガウリアは、股に挟みこんでしまった尻尾を無理やり引っ張って横にする。
カート少佐がしばらく説明する間、緊張のひと時が続いた。
「さて、君達はポツダム宣言を知っているかね」
緊張が、一気に高まる。
どう答える。どう答えればいい? 肯定も否定もする事は許されない。
「今の日本は疲弊しきっています。軍事力を奪うと言うのは死ねという事と同じ事です。国民皆兵の状態で、ようやく平和を保っているのですから」
僕は、静かに、出来るだけ落ち着いているように発言した。
「国内に何か問題が?」
「それを話す事は許されていません。僕達の任務は、ドイツと連絡を取り、とにかく情報を得る事です。ただ、これだけは言えます。大日本帝国が求めているのは、平和。子供が、願わくば誰もが戦わなくて済む世界であり、飢えずに済む世界です」
ガウリアが、それにつけ加える。
「洗脳も、奴隷も、理由なく殴られ犯され殺されるのも、もうごめんだ」
「それに、ちょーいんしてな……もごもご」
そこで僕は慌ててアースレイアの小さな口を塞いだ。
マイケル大佐は、アースレイアに笑いかける。
「そうだね、確かに、調印していない。となると、戦争はまだ継続している事になる。そう考えてもいいと言う事だね?」
「誓って言いますが、大日本帝国は逃げたのではありません。国ごと拉致されたのです。逃げてはいませんが、状況が変わったのですから、ポツダム宣言に対して物申したいというこちらの気持ちも理解して頂きたい。宣言によれば占領軍が守ってくれるはずでしたが、それは叶いませんでした。もちろん、それは貴方方の咎ではありません」
僕が慌てて言うと、マイケル大佐は眉をひそめた。
「国ごと拉致?」
今度は僕が、ガウリアに肘を入れられる。
「君達、状況を話してくれなくては、話にならないよ。日本国のせいでなかったのはわかる。国一つ消す事を成し遂げる事が出来る技術が、かつての日本にあったはずがない。それより、そういった事が出来る勢力がいる事が問題だ。アメリカが拉致されていたかもしれないのだから」
「それはありません。アメリカは大きすぎる。日本は島国だったから狙われたのです」
「それは全ての島国にとって聞き捨てならない問題だな。ますます日本の情報が欲しくなったよ。外務省で奇病が蔓延していると言う事だが、医師を派遣しようか?」
最先端の科学力を持った医師。僕はそれに息を呑んだ。
「それは助かる! 何人送ってくれる? 10人か? 100人か!? 医療物資も出来たら……!」
今度は僕はガウリアに肘鉄をかました。
「医師達の安全も確保せねばなりませんし、それは本国に連絡を取ってみなければわかりません。しかし、お心遣いは感謝します」
それにマイケル大佐はクックと笑う。
「こちらも本国に連絡を入れてみよう。まずは、互いに情報を得る事が先決だ。それでいいかな?」
「はい……!」
「それと、あれだ。ガウリア外交官殿、アースレイア外交官殿。その耳と尻尾は本物かね?」
カート少佐は、マイケル大佐の言葉を聞いて待っていましたと言う顔をした。
「あ、私はハーフ獣人だ」
「ハーフダークエルフ、だよ」
「失礼だが、写真を取っても?」
二人が頷くと、マイケル大佐は笑顔を見せた。
その後、僕達は部屋を割り当てられた。頼み込んで、三人一緒の部屋にしてもらう。
三人だけになって、僕達は辺りを消毒し、透明スーツを脱ぎ、体を伸ばし、トイレを使用させてもらった。
「緊張したぁーっ」
僕がベッドに身を投げ出すと、ガウリアがそれを見咎めた。
「樹外交官殿、ここは敵地なのだぞ」
「でも、おもったよりやさしそーでよかったねー」
アースレイアの言葉に、僕達は頷く。
「うん、いきなり解剖される事はなさそうだ。ディステリア人と戦った時の方がよっぽど怖かったよ」
「いつきに―、ないちゃったもんね」
僕は顔を赤らめて頭を掻く。
「誰だって初陣はそういうものだろう? それは、確かにアースレイアは立派だったけど。かっこよかったよ。ころさなきゃみんなしぬの、だかられいあはたたかうの、って。舌ったらずな言葉で言われたら、男として頑張らないわけにはいかないよ」
ガウリアとアースレイアは視線を交わし合う。それは明らかに、こいつ頑張ってたっけ? と言っていた。
「ガウリアとアースレイアは、本当に立派だったよ」
僕は呟くように言って、ガウリアがくしゃりと頭を撫でた。
「樹は、逃げないだけマシな方だったな」
「うん……皆も守ってくれたしね。あの防衛戦さえ乗り切れば、この世界に帰って来れるってわかっていたから。この世界なら、生き延びられる目はあるってわかってたから」
「生かしてくれるだろうか」
ガウリアは暗い声で言う。僕はお弁当を取り出した。握り飯が一つに、果物が一つ。
ガウリアとアースレイアも、それぞれささやかなお弁当を食べる。
「少なくとも、ガウリアとアースレイアに悪い目は向けていなかった……と思う。研究や偵察目的があるにしろ、医師も派遣してくれるって言っていたし……。上手くすれば……上手くすれば、援助だって貰えるかもしれない。ドイツだって、どれだけ大日本帝国が苦労して来たか知れば、少しくらいは……」
僕が期待を込めて言った言葉に、ガウリアは首を振った。
「それは高望みしすぎだ。ドイツだって敗戦国なのだぞ。それに、私達の任務は、いかにドイツの首相に連絡を取るかだ。その後は、小杉大臣がやってくれる」
「肌がまだ真緑に染まっていなければね。ガウリア、あれはすぐには治らないよ。でも、時間は限られているんだ。それに、援助は絶対に必要だよ。僕らは頑張ってる。頑張ってるけど、人口はじりじり減ってるんだ」
「こーわって、どーいうじょーけんで? おかね、れーあたちをたすけるために、ばらまいちゃったよ……」
うっと僕は言葉に詰まった。賠償金は支払えない、奴隷扱いも嫌、援助はくれ、これではどちらが戦勝国だと言う話になってしまう。
「ガーラントがいる。長距離が飛べて、必要な餌が少ない。どんなに科学が進んでたって、これが魅力的に移らないはずはないと思う。これが、大きな産業になってくると思う」
「しかし、あれは空軍の機密だぞ」
「仕方ないよ。……今日はもう疲れた。寝よう」
そして、僕達は眠りについた。
朝。僕達は人の気配を感じ、次々に飛び起きた。
「グッモーニング。ちょーしょくだ。多く、たべなさい」
恐らくアメリカ製の物だろう防護服を着た人が、料理を持ってきてくれていた。
卵に、パンに、ウィンナーに、なんだろう、これは。黄色くて細長いもの。
それに、色とりどりの包み紙に包まった物。
僕らは少し迷った後、口をつけた。
熱処理してあるのだから、大丈夫だろう。何よりそれは、美味しかった。
朝食を残らず食べると、包み紙を剥いた黒い物体の匂いを嗅いでみる。
恐らく、食べ物だろうが……。
防護服を着た人がニコニコ笑って促す。
僕はそれを口にして、その甘さに驚いた。
お腹一杯になると、僕は疾風の事を思い出した。
「飛竜達に餌をあげないと」
そう言うと、防護服の人の後ろからカート少佐が顔を出した。
「おはよう。飛竜への餌やりだが、僕達にやらせてもらえないかな? 防護服はちゃんと着るよ。いや、昨夜動物学者が到着してね。飛竜を見て、飛びあがって喜んでいるよ。見せてもらっても?」
僕達は頷き、机の上に果物をいくつか置いた。それを見て、カート少佐はとても喜んだ。
「リンゴがあるね! それはこの艦にも山ほど用意してある! その見慣れない果物を貰っても?」
「ええ、リンゴが頂けるなら」
カート少佐は、手近な者に指示を出す。
その間、僕達は急いで防護服を着た。
外に出ると、早速防護服を着た人達が飛竜と戯れていた。
リンゴを投げると、飛竜はそれにパクつく。我も我もと挙ってリンゴを投げるものだから、直に飛竜はお腹いっぱいになり、昼寝を始めてしまった。
人一倍はしゃいでいる防護服を着た人が、何かを飛竜に刺す。
僕は思わず声をあげるが、カート少佐はそれを押しとどめた。
「血液の採取をしただけだよ。問題ない。後で君達の健康診断もさせてくれ」
幸い、満腹の飛竜は大人しかった。
「ちなみにあれは、私達でも乗れると思うかい?」
「僕の後ろに乗りますか?」
「そうか! ぜひ頼む」
そしてカート少佐が何事か叫ぶ。何人かの軍人が、敬礼して前へ出た。
はしゃいでいた防護服を着た人が、飛んできた。
僕は疾風の所へ行き、なめらかな首を撫で、背に飛び乗った。
「さあ、乗って下さい。僕にしっかりつかまって」
僕の胴にしっかりと回された手。それを確認し、僕は飛竜を飛ばせた。
軽く船の周りを一周すると、言葉はわからずともはしゃいでいるのがわかる歓声。
一周飛んで戻ると、既に列が出来ていた。
半日ほど、代わる代わる人を乗せて飛んだ頃だろうか。
マイケル大佐がやってきた。
「樹外交官殿。本国から連絡が来たよ。ドイツから日本までの往復をエスコートする事になった。なんだったら、ドイツ首相官邸まで送ってあげるよ」
「それは……良いんですか?」
「幸い、アメリカ大統領がドイツ首相と懇意でね。戦争が終わったのは、遥か昔なのだよ。代わりと言っては何なのだがね。互いの防護服を脱がないかね? これから、私達は外交を行う事になる。その時までずっと防護服を着ているというわけにはいかない。もちろん、君達にとって危険な賭けである事は知っているが、医療チームの準備はしてある」
僕達は顔を見合わせた後、頷いた。
防護服を脱ぐと、マイケル大佐が緊張した様子で手を差し出してくる。
僕達は、代わる代わる握手をした。
その後、一緒に食事をし、ドイツにつくまでの数日はカート少佐に英語の勉強をした。
互いに気をつけていた為か、幸いにも病人は出なかった。
それ以外にも、格段に治安が良かった事にも驚いた。話には聞いていたけど、悪霊も魔物も出ないなんて、ちょっと信じられない。
港に着くと、なんとドイツの首相と外務大臣が自ら出迎えに来てくれていた。
首相は防護服を着ていたが、それでも威厳があった。
「やあ、遠い道のりをよくここまで来たね! ドイツ語はわかるかい?」
「はい、わかります」
「我がドイツを頼ってくれて嬉しい。イタリアの外務大臣も来ているよ。世界情勢を知りたいとか。ドイツ語で申し訳ないが、歴史書を用意してある」
僕はほっとして、頷いた。
「これはこれは、美しい獣人のお嬢さん! さぞお疲れでしょう、お茶でもいかがかな?」
イタリアの外務大臣がガウリアを誘う。こちらは防護服を着ていなかった。
ガウリアは美しいお嬢さんと言われ、気を良くして微笑んだ。
アースレイアはぷっと頬を膨らます。
「アースレイアも可愛いよ」
僕の言葉に、イタリアの外務大臣は、アースレイアに向かって微笑んだ。
「もちろん、ダークエルフのお嬢さんも可愛らしい。将来が楽しみだ! 飛竜は見せてくれるね?」
僕が疾風、と呼ぶと飛竜が舞い降りてくる。
ざわめきが辺りを支配する。
ドイツの首相はゆっくりと飛竜に近づいて行く。
恐る恐る触れられた手に、疾風は気持ちよさそうに目を閉じた。
「ようこそ、ドイツへ。小さな外交官殿」
ドイツ首相は思う存分疾風を撫でると、僕達に手を伸ばす。
僕は握手をした後、鞄から手紙と通信用タリスマンを取り出して渡した。
「これが手紙と大日本帝国直通のタリスマンです。大日本帝国とはこれでしか通信が出来ません。使用できる時間は呼び出し時間も含めて、全部で五時間になります。今は外務省が麻痺しているので使えませんが……」
「ありがとう。手紙は……ほう。日本での会談を求めているね」
「日本での!? あ、い、いえ……警護とか病気とかどうするのかなと……」
その言葉に、ドイツの首相は眉をひそめた。
「治安が悪くて病気が流行っているのかね?」
「まあ、ここよりは……」
「警備を送るのは当然として。ドイツからも何か援助を送ろうか?」
何気ない一言に、僕は目を丸くした。
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます! 小杉外務大臣も喜びます!」
「そうだな、治安維持部隊を送る事も検討しよう」
マイケル大佐がいい、それに僕は我に返った。他国軍を国内に入れる!?
「う、受け入れは十分に検討させて頂きます。今はお気持ちだけありがたく」
僕はそう答え、襤褸を出さない内に、どうにかこうにか帰路についたのだった。