それいけぼくらのまがんおう!番外編
嘘予告的プロローグ
「皆で派手に遊びましょう!!」
新婚旅行終了直後、えるしおんは鈴蘭にこうやって切り出された。
今いるのは教皇庁、その最奥にある教皇のプライベートスペースだ。
その中でも教皇が寝起きに使う一室であり、部屋は伝統的なカトリック系の装飾ではあるものの、ぬいぐるみや小物など年齢相応な可愛らしいものが置かれている。
そんな男性がいるには何処か気後れしそうな場所で、部屋の主である教皇とその友人となった聖魔王、そして、知る人ぞ知る財界の魔王が顔を合わせていた。
何気に世界一のVIPと言っても過言ではない程の顔触れだが、本人達は気にした事はない。
「…先ずはその考えに至った経緯を話せ。先ずはそれからだ。」
こいつ何言ってんの?という雰囲気を言外に滲ませて、えるしおんは鈴蘭達に話を促した。
なお、度重なる修羅場の共有(書類仕事的な)により、えるしおんの鈴蘭に対する敬語は抜け落ちている。
「ほら、私って寿命が短くなってるじゃないですか。だから、他の人に聖魔王の座を譲ろうと思うんです。」
「…君以外で務まるような人物に当てがあるのか?」
自分が魔人・魔族の旗頭となってから、えるしおんはずっと自分に代わる人材の発見に尽力していた。
しかも、自分の様に魔人・魔族優先ではなく、人魔を平等に扱える者を。
そこで見つけたのが鈴蘭であり、彼女の成長を促すために当時はまだ反体制魔人組織だったゼピルムを通じて彼女に苦難を与え続けた。
他にもマリーチやショーペンハウアーら「天」の動きもあり、鈴蘭は神殿協会に属しながら新生ゼピルムを率いる立場を得た。
そして、紆余曲折を経て、鈴蘭は名実ともに世界を律する権利を持った者、光の如き魔王、聖魔王の称号を得るに至ったのだ。
そんな彼女が聖魔王の称号を誰かに譲ると言う。
確かに力を失い、寿命も減った彼女の身を優先するならその方が良いのだが、彼女に代わるだけの人材が早々いるのだろうか?
現に、鈴蘭を見出すまでえるしおんはそれだけの人材を発見する事は出来なかった。
「じゃじゃーん!そこでこれです!」
「…例の『祭り』か…。」
成程、だから「派手に遊ぶ」なのか、とえるしおんは思った。
確かに件の祭りのルールを考えれば、人間以外も平等に扱う人材は直ぐに見つかるだろう。
後はその中から「祭り」を通じて実力のある者を探し出せばよい。
それに、非殺傷という所も評価できる。
どんな方法であっても相手に勝利したと認められる者なら、周囲からも異論は無いだろう。
また、もし鈴蘭の知り合い達が優勝したとしても、それはそれで彼女の影響力が大きく残る事だろうし、その他の場合にしても彼女の影響力が消える事は無いだろう。
少なくとも、えるしおんの立場からすればそれ程問題は無い。
だが、この祭りを悪用しようとする者達から見れば、これはかなりの好機だろう事は簡単に予想できる。
第三世界側を手中に収められたとしたら、それは一つの世界を収めた事に他ならない。
(となれば、各国や各対魔機関が軽挙妄動しないようにせねばならんか……。)
まぁ、聖魔王一派が負けるとは到底思えんが……。
えるしおんは並列思考を展開、今後の各勢力への根回しを試案しつつ、他の思考を用いて話を続けた。
「話は解ったが、具体的にはどうするんだ?」
「先生、実はもう準備は7割がた終わってるんです。」
そこで、今まで沈黙していた教皇が口を開いた。
「具体的には?」
「隔離空間の構築は既に天界からの協力で完成しましたし、後は内部の建物や資材とかだけで済みます。」
「今その話を切り出すと言う事は、既に資材や人員の手配は済んでいるという事か?」
「はい。…本当は相談した方が良かったんでしょうけど、この件はマリーチさんもバーチェスさんも既に了承してたので、事後報告になりますが……。」
「…解った。しかし、私にも事前に一言断っておくように。これ程の大事なら人手が多いに越した事は無い。」
「はい、ありがとうございます。」
終わっているならしようが無い。
知らせなかったのも、旅行中の自分を気遣ってくれたからだろう。
マリーチにだけ知らせたのも、仕事を優先しがちの自分が旅行を中断してしまわないように、と思っての事だ。
なら、最低限釘を刺すだけで、この件は終わりだ。
後は資材や人員に関する資料を確認の後、GOサインを出すだけとなるだろう。
「開催は一年後を予定しています。鈴蘭さん達の他にも、マルホランドの皆さんやイスカリオテの方達も一部参加するそうです。」
「…まぁ、最近は情勢が安定しているし、それ位は構わんだろう。特例として、今回に限り有給扱いにしておけば、参加する者も増えるだろう。」
「いよっし、ありがとうございます!」
「礼には及ばんが、アホな連中が優勝しないように気を付けてくれ。」
そして、緊急時の対処法などを話し合った後、三人は解散した。
聖魔杯開催、その一年前の事である。
なお、この頃の「天」では、聖四天筆頭であるマリアクレセルが「天」の再構成と隔離空間の作成による過労とストレスで倒れ、入院していた。
そのため、残りの聖四天であるガブリエルと新米のミウルスの2人が通常業務を担当しているのだが、マリアクレセルの他に一人欠番している事も重なり、2人だけで「天」を回す破目に陥っていた。
マリアクレセルの急病の後、この件に関し、「天」は既に聖四天を脱退したマリーチとショーペンハウアーに救援を要請したものの、当然の事ながら断られた。
…ちなみにショーペンハウアーは普通に仕事が忙しいからだが、マリーチの場合は「夫に食事を作ってあげるの♪」との事であり、伝言役の天使は数時間に渡る惚け話を聞かされる事となる。
そして、一年後。
「先生、後数分で開幕ですね!」
後数分で聖魔杯開幕という所で、えるしおんは何故か隔離空間都市に来ていた。
(どうしてこうなった…。)
内心ではげんなりしつつ、えるしおんはつい三日前の事を思い出していた。
「この大会、人間とそれ以外がペアなのよね?」
「そうだな、オレと君では参加できないので参加は無理だが…。」
「あら、それじゃあの子と一緒に参加したらどうかしら?」
マリーチの一声により、えるしおんは何故か教皇と共に聖魔杯に参加する事となってしまった。
それもこれも、マリーチの「新しい信者獲得のためにも、ここで法王庁やイスカリオテ機関の人員の優秀さを示すべき」という甘言に乗ってしまったからだ。
しかし、法王庁TOPである教皇の雄姿を多くの者が見れば、確かに一定の効果はあるだろう。
だが、彼女とペアになるとすると、相応の人材が必要となってくる。
自分の様なインドア派よりも実戦経験豊富な者達は多くいるし、魔法の腕に関しても実力のある者は大勢いる。
確かに補助系の魔法ならかなりのものだと自負しているが、それとて限りがある。
それに、表と裏のTOP双方が不在という事態は避けたい。
如何に隔離空間内でも行き来は可能と言えど、初動が遅れる事は確かなのだ。
という理由で辞退しようと思ったのだが、何時ぞやの様にマリーチの神器で気絶させられ、気付けばここに運び込まれていた。
…恐らく、「この方が面白そうだから♪」なんて理由からなんだろうなぁ…。
オレが教皇相手に浮気する事も無いからと仕組んだんだろうが、もう少し穏便にしてもらいたかったぞ…。
『聖魔杯、開幕です!』
そして、霧島嬢の宣言と共に、世界を律する権利を争う「祭り」が始まった。
「彼が優勝候補、か…。魔導力、筋力共に常人並だな。立ち回りと度胸、それに相方の実力か?」
「当たった時が楽しみですね、先生!」
「……………。」(弟子よ、テンションが上がり過ぎだぞ…。)
「……悪寒が……?」
「マスター、大丈夫なのですか?」
「くすくす…気をつけないね、ヒデオ………色んな意味で。」
『おおっと、開幕から波乱続きのこのレース!ここに来て怒涛の追い上げを見せるのは美奈子・岡丸ペアと教皇・エルシオンペアだーーッ!!』
「負傷者の手当てで遅れましたが、ここからが本番です…ッ!」
「ふ、このシーサイドラインのダンシングクイーンに敵うものですかッ!」
「並列思考、最大展開。同時に慣性制御、速度強化、風圧軽減を実行!…飛ばすぞッッ!!!」
「せ、先生!?何処でそんなドライビングテクニックを!?」
「新婚旅行中、非合法カジノを荒らしまくった時の逃走でなッ!!」
「一体新婚旅行で何やってたんですかー!?」
『ゴールしたのは鈴蘭とリップルラップルだけ、か…。まぁ、最高指揮官と参謀なら十二分と言えるな。』
「嘘、転移術式なんて何時の間に…ッ!?」
『君達が前半で押していた時のどさくさに、だ。これで魔殺商会側はブレインを喪失した事になった。伊織貴瀬も先程気絶させたし、後は残存戦力に対処するだけだ。』
「もう!シオちゃんったら、結婚したなら私に言ってくれれば良かったのに!お陰でシオちゃんの生の花婿姿を見逃しちゃったじゃない!」
「…………………お兄様……私、お兄様が結婚したなんて初めて聞いたのだけど…?」
「おおおおお落ち着こうエルシア!先ずはその魔導力を抑えてくれ!この辺一帯が吹き飛びかねん!」
「うふふ、クスクス♪そんなに愛しのお兄様が取られて悲しいの?」
「…死になさい、耄碌した老いぼれが。」
「あらあら、ブラコンって怖いわね♪」
カオスな未来しか見えん。
期待に応えてみました。
だって、あんなに投票されたと思うとついつい…。
ども、VISPです。
本編更新せずに番外編書いてみました。
以前の嘘予告と若干の違いが見られますが、そこら辺は気にしないでくださると助かります。
本編の方も早めに更新したい所存ですので、読者の皆様は気長にお待ちしてください。