それいけぼくらのまがんおう! 第15話
「ドキ☆ 暴力だらけの聖魔グランプリ完結編!」
たった一歩、されど一歩。
筋繊維一本に至るまでの身体能力強化、慣性制御、風属性の魔法による速度強化、、脳内分泌物操作その他多数。
それらを8から12まで増えた並列思考によって戦闘という極限状態にありながら、臨機応変に制御していく。
しかし、それらの魔法を全て行使するだけの魔力を、人間が持てる訳が無い。
そのため外部から供給する形を取る。
供給元はマリー、否、マリーチと言うべきだろう。
堕ちたとはいえ、元は聖四天の一角。
その26次元の魔導力はたかが一個人では絶対に使い切る事のできない絶対的な量を持つ。
それを彼女達の契約を回線に、神聖具現改(Ver21,3)を変換器にしてマリアの身体へ必要な分だけ注ぎ続ける。
最早嘗ての様に再充填の隙も無く、人間故の身体の脆弱性も無い。
だからこそ、たったの一歩で彼女は30mの距離を踏破した。
「ッ!」
呼吸を整え切る間も無い。
ひでおにできたのは後先考えずに美奈子を突き飛ばし、その反作用で自分は逆方向へと走るだけだ。
勿論跳ぶ事もできるが、宙に浮けば人は動けない。
ひでおが跳んだ瞬間、数秒以内に「詰み」となるのは明白だ。
しかしマリアは神器を振るう先にひでおがいないと解っているにも関わらず、攻撃を続行する。
瞬間、地が爆ぜた。
森林の腐葉土であるためか、瓦礫や粉塵が巻き上げられる事は無かったものの、その余波だけでひでおは十数mを吹き飛ばされ、不様に地に叩きつけられた。
「ご、ガはッ!?」
それでも動きを止める事はしない。
一秒にも満たない時間だけ意識が飛ぶ。
しかし、相手にとってはその刹那で十分なのだ。
空かさず来た追撃にひでおは再度回避を選択する。
というよりも、回避するしかないのだ。
相手は2000年に及ぶ技術の蓄積と発展、それと同じだけの戦乱の歴史から導き出された対アウター級兵装の一つの完成形とでも言うべき代物。
常識の範囲内の身体能力しか持たないひでおには、ひたすらに回避に専念し、相手が隙を見せた瞬間を狙うしか勝機は無い。
無いのだが、それは正直に言って無理だろう、ともひでおは考えていた。
相手は己の唯一と言っていい弟子にして後継者でもある。
今や人間としての枷すら無くした彼女は、人間になった自分では勝てやしない。
それでもウィル子にああ言った手前、ここで諦める訳にはいかない。
「、ぎッ!」
片腕だけで側転、その先にある木を蹴って方向転換する。
直後、神器が叩きつけられる前に打圧で木が爆砕、破片が飛び散る。
無理な挙動は既に身体に無視できない負担を貯めている。
今は呼吸を止め、反射神経と並列思考による予測頼りに可能な限り高速を保っているが、それも後数十秒で尽きる。
「っ」
最早呼気も出ない。
全力回避を続けたため、消費する酸素量が多すぎだ。
もって後数秒という所だろうか?
「ガハァッ!!」
「ヒデオさん!?」
森にひでおの苦痛の呻きと美奈子の悲痛な叫びが響く。
まずい。
神器ではなく、左腕で喉を掴まれた。
そのまま釣り上げられ、木の幹に叩きつけられる。
肺の中の空気が完全に押し出され、如何なる動きも大幅に精彩を無くす。
「く、この!」
『待つでござる美奈子殿!』
「止めないで岡丸!」
『あの女人、見た目通りのモノではござらん!今の美奈子殿では足手纏いにしかならんでござる!』
「うぅぅぅ…!」
足首を捻って動けない美奈子では、戦力にならない。
彼女自身もそれが解っているからこそ、岡丸の言葉に従うのだ。
(我ながら…なんて、無茶…。)
最初から、解っている事だ。
二度目の姿なら兎も角、今の彼女には勝てない事くらい
最初から、解っていた事だ。
だから
(頼むぞ、女神様。)
「言われるまでもないわ。」
直後、女神は人の祈りに応えた。
降り来るのは聖銀の武具の雨。
破邪の属性を持つミスリル銀で作られたそれは、狙撃銃の如く正確さでマリアへと殺到した。
「ますたぁ……。」
思うのは己の相棒の安否。
今も「つながり」から感じるのは危機感と焦燥だけで、ウィル子はひでおの事で頭がいっぱいになりそうだった。
しかし、今はそうは言ってられない。
『オレを殺すつもりで走れ』
あの無表情のくせして傷つきやすくて、トラウマ持ちで、隠れニコポで、謎多過ぎで、場数踏んでて、それでいて優しい相棒は確かに自分にそう言った。
自分の事は何とかするから、お前はゴールに着くまで全力を尽くせと。
先程からアクセルをガンガン踏んでいる。
コースアウトこそいないものの、歩道には何度も上がっている。
車体の側面は既に擦り傷だらけで、ドアにも凹みが見られる。
そこまでやっても
(追い付けないッ!)
ギリリ、と奥歯を食いしばる。
雨はいよいよ本降りで、他の選手もかなりの低速走行を強いられている筈だ。
ルートマップから他の選手達が辿るであろう最短ルートを算出、これまでに見てきた他選手の走行パターンから彼らの位置を予測、彼我を測距する。
明らかに、こちらが負ける。
ルート検索、条件に一致せず!
ルート検索、条件に一致せず!
一致せず! 一致せず!
………エラー! エラー!
この私が、電子の神が、下らないエラーを繰り返す!!
自分は何をやっているのだ?
ひでおが、あの相棒がいてくれれば、こんな事態はすぐにでも打開してくれる。
だが、今は自分だけ。
彼は、走れと言った。殺す気で走れと。
必ず後から追い付き、ゴールするからと。
それは自分が他の誰もを追い抜き、1位でゴールすると信じているからだ!
「データ、もっとデータを!」
電子の網をもっと遠くへ、より遠くへ伸ばす。
普段なら見向きもしないような屑データから何から判断せずに兎に角捕え、自分だからこそできる超高速で閲覧していく。
そして、見つけた。
「来たあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
それは地図でも何でもない。
この都市が開発される際に多くの建築会社で保管していた各種設計図や間取り図。
それこそ一軒家から雑居ビル、大型デパートから高層ビルまで。
この都市全ての建築物の詳細な図面だった。
その全てを掻っ攫い、飲み込み、消化。
ルートマップと重ね合わせ、たった一本の最短ルートを算出する!
予測、コンマ0,1秒遅れながら第4チェックポイントで長谷部翔希に追い付ける!
「Will,CO21は全力稼働!」
MNK―Eを制御する全ての機器・機構・システムに電子の手を伸ばし、掌握する。
「レブリミッター解除!ブーストリミッター解除!点火タイミング書き換え!電源プログラム書き換え!自動ブレーキプログラム書き換え!燃料噴射マップ書き換え!ミスファイアリングシステム挿入、即時移行……!」
一瞬、エンジンが燻り、加速が緩まる。
「行ぃっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」
CPUチェーンに限るなら、世界の如何なるメーカー・チューナー・ワーカーでも到達し得ない正に電子の神だからこそなせる究極のプログラミング。
それにより学術都市製カーテクノロジーの一つの完成形であるSCP82型は完全にその性能を引き出され、鬼神の如き咆哮を上げ始めた。
コーナーももう容赦しない。
ブレーキは既に雨で十全に冷却され、ABS・AYC・ACDの制御の全てのリソースを振り分ける。
ドパパパン!パパン!パパパパパン!
アクセルを抜いた瞬間に、赤と青の斑な爆炎が吹き上がる。
ブーストメーターは振り切ったきり帰ってこない。
そうしてコーナーを脱し、アクセルを踏んだ瞬間にはフルブーストで6輪が路面を噛み締める。
それでもなお収まらず、6駆と装甲表面の微細な凹凸により発生するダウンフォースをしても蛇行しかけながら、急速に先頭集団との距離を縮めていく。
しかし、このまま道路を走っていっても追い付けない。
だから、別の道を行く。
アクセルを踏みながら、道路沿いにあった大型デパート内へ吶喊する。
グワッシャン!
店頭のガラスを一発で粉砕しつつ陳列棚の間から裏の倉庫まで一瞬の内に貫徹する。
「らぁッ!」
ガシャァン!
更にアクセルを踏み、今度はフェンスを破って雑居ビルの駐車場を通り抜ける。
「しゃぁッ!」
ズガシャァン!
またもアクセルを踏み込み、またフェンスを破って次は都市内を走る電車の線路の上を駆け抜ける。
そう、最早車道というコースにすら縛られない。
都市内の全てを俯瞰できる電子の『目』を持つウィル子だからこそできる、本当の最短ルートを全速で駆け抜ける荒業。
最早子供が路地裏や近所の庭先を通過していくのとは比べ物にならない暴挙であるが、今の彼女にはそんなもの眼中にない。
そして市街地を爆走してから漸く通常のコースへと復帰する。
先ずはリュータと貴瀬の2人!
『ウィル子!?ヒデオはどうした!?』
『ん、ヒデオは…!?』
「邪魔ぁぁぁああああああああああああッ!!!」
『『ッ!?』』
一瞬でぶち抜いた。
今なら先程の美奈子の気持ちが解る。
誰に止められるというのか!
否! 誰にも止めさせてたまるか、この自分を!
次のコーナーを外側の歩道から反対車線に入り、そのまま内側の塀にドアミラーをふっ飛ばし、再び外側の歩道へと乗り上げる。
先程、嫌という程見せつけられた美奈子の走り方の模倣。
利用できるコース幅を最大限利用する。
スピードという最大最強の武器を、微塵も殺さず走り続ける!
『速ぇッ!!何だってんだあいつ、人が変わったみてぇに……くそ、追い付けねぇ!』
『無理をするなリュータ!この雨の中を6駆に追い付こうというのが無理な話だ!事故った貴様の巻き添えを食うつもりはごめんだぞ!』
『へッ!そんな忠告聞くくれぇなら、こんな無茶なレース端から出ちゃいねぇよ!』
『…クッククク!そうか、それももっともだ!!』
そんな事を言い合いながらも2人はウィル子に追い付かんとベースアップ。
必死に喰いつき続けながら、それでも互いから目を離す事もしない。
『あぁもう、まぁた御主人様ムキになっちゃって……。どうして男の子ってこう、誰が強いとか速いとかに拘るんだろ?そう思わない、エルシアさん?』
『そうね。でも嫌いじゃないわ、こういう熱。』
ぐだぐだうるさい。
しかし今は無線に手を伸ばす事すら煩わしい。
長い直線、その先には最大のロスポイントであるエリーゼ興業本社前T字路。
しかもそこでは現在魔殺商会の全身タイツ部隊と私兵部隊が凌ぎを削り合っている。
いくら最新の対弾・対刃・対熱・対電装甲を採用しているMNK-Eであっても、あの中を潜り抜けるのは危険だ。
「だから……ッ!!」
だから何だ
ウィル子はアクセルを底付きさせたまま動かさない。
一切の減速をせず、車速は時速200kmを突破し、なお上がり続ける。
そこから更にギアを上げ、踏み抜く勢いでアクセルを踏み込む。
「轢きッ殺すぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!!」
≪≪≪ッ!!!!≫≫≫
ウィル子の罵声を聞いた人間が、総じて絶句した。
そうとも、邪魔をするなら殺してやる!
だってひでおは、今まさに命の危機に瀕しているのだ。
そんな状況下で、気にせず自分を殺せと言ったのだ。
そして自分はそんな時にこれ程のパワーを使い続け、彼を殺そうとしているのだ。
それでもなお走り続けろと! 自分の方が遥かに危険な状況で言ったのだ!
自分はこの世界に生まれ出てたった一人の相棒を、こんなウイルスが世界でただ一人信じられる相手を、今自分で殺そうとしているというのに…!
ならばそれ以外の何千何万という有象無象を殺した所で何の問題があるものか!!
「おおぉらあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!!」
パッシングもクラクションも無く、ただ眼前へと吶喊する。
小口径弾がボンネットやフロントガラスの上を跳ねまわり、何発からはタイヤに命中したが、ネジ一本に至るまで総学術都市製である元軍用車両であるMNK―Eには効きやしない。
時速250km加速した2トンの鉄塊、しかも特殊装甲で覆われているとくれば、鉛玉程度では相手にならない。
異常を察した私兵部隊と全身タイツ部隊は命の危機を前に銃を投げ出し、鉄塊の前から跳び除ける。
『行ったぜおい!なんて奴だ!』
『クククッ、成る程ショートカットしてきた訳か!?面白い!リュータ、引き返すなら今の内だぞ!』
『ほざくんじゃねぇ!!』
ウィル子は以前のクラリカよろしくゲートを粉砕しながら突破。
リュータと貴瀬もそれに続く。
ウィル子はスピードを落とさず、最小限の軌道変更で工場内に突入。
ルートマップを建屋設計図に切り替え、機材の配置を障害物として最短ルートを算出する。
それは先程の雨の中を進むよりも簡単で、引かれた導線を上から俯瞰しているようなもの。
工場区画を突破、ノーブレーキで今度は倉庫街へ突入。
殆ど直線だが、資材に挟まれ乱気流に車体が揺さぶられる程の細道。
それを絶妙なテクニックで彗星の様に駆け抜ける。
警備の者が飛び出す暇もない。
エリーゼ興業本社を抜け、そのまま次の工場の敷地へ。倉庫へ。また社内へ。
地図を見るだけでは決して見えない建物内の隙間を潜り抜ける様に、真の最短ルートを疾駆、疾走、走破する!
そして遂に公道へ舞い戻る。
折しも正面からは長谷部翔希とあの女の乗る白い車が、自分はその正反対から交差点へと進入し、軌道を三叉の様に交差させつつ全員が同方向へと切り返す。
第4チェックポイントを通過、1位マリー、2位長谷部翔希、3位ウィル子と並ぶ。
そのタイム差、コンマ5秒!
『追い付いたって言うのか!!あの状況から!?』
『あら、意外と早かったのね。』
「絶対負けない……ッ!」
『ヒデオはどうした!乗ってないのか!?』
「絶対に、負けられない……ッ!!」
翔希の言葉に聞き耳を持たず、ウィル子はただゴールへ向かってアクセルを踏み込む。
回路が焼き切れそうな程強く、勝利への渇望が電脳の中で荒れ狂う。
ゴールが見えた。
バックストレートとも言える長い直線。工業区から中央区へ入り、そして広場へ抜ける大通り。
風防内に身を伏せた勝機もアクセルは開け切ったまま。
後方からは400馬力を誇るリュータのSL600が。
更に後方からは500馬力オーバーと正にディアブロの名に相応しきモンスターマシン、ランボルキーニが追い上げて来る。
「負けないッ!!」
ウィル子もまた燃料噴射・点火時期を再変更、最高出力発生回転数をレッドゾーン上に設定し、エンジンに絶叫を上げさせ続ける。
そして僅かずつだが追い上げていく。
『ッくしょぉぉ…!』
ダウンフォースが稼げず、絶対的に馬力の足りない単車。
こちらを横目にした翔希が呻き声を上げる。
現在、時速260km超過。
貴瀬とリュータの方もそれでもまだ加速し続ける速度域だが、未だこちらの方が数mの差で勝る。
しかし、ここまでやっても
(足りない!)
そう、まだ頭一つ分、先頭を行くBW-Ⅱに追い付けない。
否、今また離されようとしている。
同じ学術都市製で、同時期に別の理念で設計されたこの2台。
小回りこそMNK―Eが上だが、直線における加速力はBW-Ⅱが上を行く。
(もっともっと速く!)
検索!検索!検索!エラー!エラー!エラー!
検索!検索!検索!エラー!エラー!エラー!
検索!検索!検索!エラー!エラー!エラー!
無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無いッ!!
電子の網を手繰り、あらゆる情報を得て、あらゆる手段を算出する。
しかし、それでもまだ足りない。
刹那の内にこの状況を覆すには至らない!
(どうすれば!?)
不意に、ウィル子は今まで『視ていなかったもの』を見た。
(さぁ、どうするのかしら?)
楽しそうにマリーは刹那の時間の中でウィル子を眺めていた。
あの『彼』が入れ込んでいる電子の精霊。
自分からすれば赤子にも等しい存在が、今この刹那の内に一皮むけようとしているのを彼女はその目で視ていた。
そして、この都市内でただ一人、彼女はその詳細を一部始終に渡って視たのだ。
(へぇ……!)
(え?)
それは見た事も無い図式だった。
見た事も無い理論なのに、ウィル子は確かにそれが何に用いられるものなのかを把握できていた。
(これは……)
解る。
これは、あの人の記憶の一欠片なのだ。
(使え、と。そう言う事なのですね!)
だから、ウィル子はそれを使った。
瞬間、先頭集団を注視していた者達は確かに見た。
MNK―Eの装甲表面が淡く発光したのを。
その光は魔術文字の形を取ると、車体全体に波及し、飲み込むかのように広がる。
その直後、MNK―Eはまるで「ロケットブースターを使用した」かの如く、気流を後方へ吐き出し、更に前へ進んだ。
そう、先頭を行くBW-Ⅱよりも僅かに、だが確かに前へと!
≪ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオルッ―――!!!≫
会場内の全スピーカーから大音響で響き渡るレナの声。
そして振りかざされるチェッカーフラッグに、先頭集団の全車が正気に戻ったようにフルブレーキング。
ウィル子が全力以上を出させたMNK-Eのタービンがブローしたのは直後こと、大量の白煙を排気管から吐き出している。
他にもABS・AYC・ACD全てがガタガタになっており、最早廃車か総取り換えでもしない限り使えないだろう。
『こ、これは凄い!何と言う事でしょうか!ゴール前コンマ4秒でヒデオ&ウィル子のMNK―Eがブースターでも使ったかの様に加速!優勝!これでヒデオ選手がゴールすれば優勝はヒデオ&ウィル子チームです!なお、他4台は殆ど同着であるため、写真判定となります!果たして真の優勝者は誰だーー!!』
興奮し、捲し立てる様に解説するレナの声を聞きながら
「うはぁ~~……よく走ったのですよ~~…。」
ウィル子は焦げくさくなった車内で、ゆっくりとシートに身を沈めた。
走り切った。
使い得る全てを使いつくし、相棒の知恵と力を借りてまで走り切った。
ならば万が一負けたとしても、あの温厚で優しくて誠実で鈍くてミステリアスで女垂らしでちょっとずれてる相棒なら……きっと笑って許してくれるだろう。
今はもう、なすべき事は無い。
ウィル子はそれまでそれまで共に走り続けた束の間の愛機との全ての回路を遮断、休止状態へ移行した。