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No.21743の一覧
[0] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!【現実転生→林トモアキ作品・第二部】IFEND UP[VISP](2012/01/10 16:44)
[1] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!嘘予告[VISP](2011/09/07 13:41)
[2] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第一話[VISP](2011/09/07 13:41)
[3] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第二話[VISP](2011/09/07 13:42)
[4] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第三話[VISP](2011/09/07 13:42)
[6] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第四話 改訂版[VISP](2011/09/07 13:42)
[7] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第五話[VISP](2011/09/07 13:42)
[8] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第六話[VISP](2011/09/07 13:42)
[9] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!番外編プロローグ[VISP](2011/09/07 13:42)
[10] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第七話[VISP](2011/09/07 13:43)
[11] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第八話 一部修正[VISP](2011/09/07 13:43)
[12] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第九話[VISP](2011/09/07 13:43)
[13] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十話[VISP](2011/09/07 13:43)
[14] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十一話[VISP](2011/09/07 13:43)
[15] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十二話[VISP](2011/09/07 13:43)
[16] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十三話 修正[VISP](2011/09/07 13:44)
[17] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十四話[VISP](2011/09/07 13:45)
[18] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十五話[VISP](2011/09/19 21:25)
[19] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十六話[VISP](2011/09/24 12:25)
[20] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十七話[VISP](2011/09/25 21:19)
[22] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十八話[VISP](2011/12/31 21:39)
[24] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十九話[VISP](2012/01/01 00:30)
[25] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第二十話[VISP](2012/01/08 23:12)
[26] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第二十一話UP[VISP](2012/01/10 16:05)
[27] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!特別編IFEND UP[VISP](2012/01/10 16:06)
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[21743] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十話
Name: VISP◆773ede7b ID:b5aa4df9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/07 13:43
 
 それいけぼくらのまがんおう第10話

 聖魔グランプリ開催前夜編1~今回は説明くさいな~





 この世界にとっての史実、或いは在り得た世界では、聖魔グランプリが開催されるのは大会開催から12日目の事だった。
 しかし、ひでお達がいるこの世界では6日目と、かなり短縮されている。
 これは特に誰のせいという訳ではない。
 無限に分岐する世界の中で、その相違は論じるだけ無駄とも思える程にあるからだ。
 まぁ、この違いに関して強いて言えばだが、マルホランドが原因と言える。
 
 隔離空間内において、物流は自然と限定される。
 そこで魔殺商会は大会主催側としての立場を悪用して物流を掌握し、商業区の殆どをその傘下を収めようとした。
 ここで待ったをかけたのがマルホランドだった。
 外ではそれなりの規模の企業として知られるマルホランドは物流を掌握しようとする魔殺商会に対し、独自の物流を確保、確保した物資を自社と協力関係にある他の企業や店舗へと良心価格で卸し始めた。
 余りにも強引な魔殺商会に対する反発とマルホランド側の丁寧かつ迅速な対応もあり、彼らと連携する者は急激に増えていった。
 魔殺商会がこの動きに気付いた時、既に商業区の3割がマルホランドと何らかの繋がりを持っている状態だった。
 ここでマルホランドを攻撃すべきというプランもあったのだが、しかし、本社ビルであるデパートにも店員の姿はあっても目標である重役の姿は見当たらない。
 魔殺商会側の必死の調査や内偵でも結果は出ず、最終的には捜査は続行するものの、放置となった。
 魔殺商会も商業区の6割は債権や物流を盾に傘下に収めたものの、残りの1割は旨味も少ないものばかりだったため、これ以上の商業区での拡大は取り止めとなった。

 そして、次に魔殺商会が目をつけたのが工業区だった。
 しかし、そこは既にエリーゼ興業を筆頭に纏まっていたため、入り込む隙が無かった。
 だが、ここで諦めるようだったら悪の組織など名乗れない。
 商業区での失敗を繰り返すまいとし、魔殺商会は大規模戦闘に踏み切った。
 幸いにもマルホランドと違って、相手側の本丸である社長のエリーゼの所在は把握しており、攻撃目標を見失う事はなかった。
 また、ミスリル銀の加工ならび産出に関して世界的なシェアを持つエリーゼ興業を傘下にした場合、かなりのリターンが見込まれた。
勿論、その過程でのリスクも考えられたが、それ以上のリターンがあると考えられての事だった。
 更に丁度良い事に、エリーゼ興業は工場の修理に人手を取られて戦力の低下が見込まれていたのも、この攻勢を仕掛ける要因になった。
これを好機とし、工業区の纏め役であるエリーゼ興業を何としても吸収するため、魔殺商会はその保有戦力の3割以上をもって攻め込んだ。
 これは大会開催から2日目の事だった。
 マルホランドが巧みに魔殺商会の目から逃れている現在、目につく所にあったエリーゼ興業にはマルホランドに対する鬱憤も相まって、攻略にはかなりの意気込みもあったが、工場が壊れてブチ切れ状態だった社長のエリーゼと元勇者長谷部翔希を始め、子飼いの傭兵部隊らの奮闘により、8時間に渡る激戦を経て、何とか魔殺商会の撃退に成功した。
 この日から、魔殺商会とエリーゼ興業は不倶戴天の天敵同士となった。

 だが、その戦闘により魔殺商会・エリーゼ興業共に暫くの間身動きが取れなくなる程の消耗を強いられた。
 結果として、両者の決着をつけるために開催される聖魔グランプリの開催が早まる結果となったのだ。

 これが今後どのような結果を齎すかは、誰にも解らない。




 勿論、億千万の目にも解らない(ネタばれが嫌いなため)。


 ちなみに作者にも解らない(無責任)。

 


 




 
 「葉月や、邪魔するよ。」
 「おや、みーこ様が来るとは珍しい。」
 
 
 隔離都市郊外に位置する魔殺商会社長の邸宅、その地下部分にて
 ひでおはみーこの案内の元、この都市で2人目のアウターに出会っていた。

 (葉月の雫とは……まぁ、彼の場合ここにいてもおかしくはないか…。)
 
 「心配するでないよ。変わり者だがの、わしがおれば妙な事はせぬよ。」
 「こちらにも彼女に関しては解っていない事が多い。慎重に診てやってくれ。」
 「ひひひ!なぁに、大丈夫さ。ボクは女の子相手なら真面目だからねぇ。」

 男相手はどうなんだ、という言葉を飲みこんで、ひでおはウィル子を診察台に寝かせ、その本体であるPCをドクターに預けた。

 不気味な笑いを洩らす白衣の男の姿に、微妙な思いを抱きつつ、ひでおは彼のプロフィールを思い出していた。
 通称ドクター、本名葉月の雫。
 十二神将の一角にして、現在は天才的な科学者として聖魔王一派における装備の開発や医療関係等を一手に引き受けている。
 基本的に表に出ないが、その重要性はかなりのものだろう……そのマッドさから周辺被害がちょくちょく出るのが珠に傷だが。

 
 「ふむ……へぇ、これはまた変わった精霊だね……。」

 片方しかレンズの嵌っていない眼鏡を弄りつつ、診断を続ける白衣の姿に、やはり専門家だな、とひでおは思う。
 彼の優秀さに関しては疑う余地は無い。
 普段の人格は兎も角、ウィル子の診断にしても、先ず間違いは無いだろう。

 「症状自体はみーこ様の魔導力に中てられたようだけど……。」
 「やはりですか。」

 殺気混じりで放たれたアレは、預言者やら何やらで慣れている自分でもきついものがあった。
 ましてや耐性のないウィル子では、相当の負荷がかかった事だろう。

 「ふむ……魔導力の一部を取りこんでるね、これは。」
 「では、最適化の最中と?」
 「まぁ、そんな所だね。もう少しすれば意識も戻るよ。」

 ほぅ、と息を吐く。
 最悪の場合、不安定な存在が根底から揺らぐ場合も考慮に入れていたのだが、幸いにも大事には至らなかったようだ。
 自然界の精霊は時間をかけて周囲の魔導力を取り込み、耐性をつけ、力を増していく。
 その時間が無かったウィル子には、みーこの魔導力は相当きつかっただろう。
 しかし、その分濃密な魔導力である訳だから、彼女の成長も期待できる。
 電子戦ならまだしも、相手がオカルトな存在ではどうしようもない。
 そう考えれば、ウィル子が精霊として大成するには必要な事だったとも言える。
 
 だが、若い精霊というのは意外とヤワなものだな、とひでおは認識を改め、可能な限り彼女を成長させるように心がけた。

 「…一応新参の電子精霊ですので、もっと大事かと思ったのですが…。」
 「んん?確かにこれは電子の反応だねぇ。……となると、完全な新種だね、この子は。何か他に特徴はあるかい?」
 「まだ一月と組んでいませんが、その間に見た事なら。」
 「十分さぁ。」

 そして、レントゲンやMRIを診察台のウィル子にかけながら、ひでおは知っている事を洗い浚い話した。
 葉月の雫は優秀な医者でもあり、医者は患者のプライベートを尊重するものだ……多少の例外はあるが。
 今回の事で彼女の不安定性が解ったからには、情報流出をしてでも、それに関する新たな情報はなるべく多い方が良い。
 今後、アウター級と対峙する可能性もある現在、足場はしっかりとしていた方が良い。
 それを思えば、ここで葉う月の雫に診てもらう事は幸運と判断できる……暴利を出されなければ、と付くが。
 
 「電子ウイルスである彼女が君に感染しているという事は、通常の精霊で言えば、取り憑いてるって事さぁ。ひひ、興味深いねぇ。」
 「とは言え、現状ではあくまで電子世界でしか力を発揮できていませんが…。」

 ひでおは葉月の言い回しに少々疑問を持った。
 もったいぶるのは学者の気質だが、この人物は意味無くそういう事をしない。
 彼の知性なら、何か自分が見落としているものを見つけた可能性があった。

 「この子、PCの中に入れるし、外にも自由に実体化できるって言ったねぇ?」
 「えぇ、オレが見た限り制限がある様には見えませんでした。」
 「となると、この子、化ける可能性があるねぇ。」
 「…具体的には?」

 やはり、何かあったか。
 確信と共に、ひでおは話に集中する。
 ウィル子が問題無しと解った今、彼の話の方が重要だ。

 「君ぃ、『数が宇宙を支配する』という名言を知ってるかい?」
 「確か、ピタゴラスの言葉でしたか。」
 「ひひ、博識だねぇ。」

 そう返事をすると、葉月の雫はカタカタ…と備え付けの巨大なモニターに、0と1で構成された長ったらしい電子情報を表示していく。

 「この世には凡そ数で表現できない事象なんて存在しない。それはボクらオカルトの存在であっても例外じゃない。数字は人類が生み出した万能の概念なのさ。」

 カタカタ…と、モニターの0と1の羅列が変化していく。
 0と1、ウィル子を構成しているであろう要素の群れだ。

 「それを更に簡略化したものが二進数。つまりネットでの情報を構成している0と1の羅列さ。」

 そして、葉月の雫はこちらに振り向くと、実に楽しげに説明を続けていった。

 「実はボク達が暮らしているこの世界も、突き詰めれば素粒子の0(ない)か1(ある)かに行きつくんだけどね……だから、その素粒子の位置全てを座標に取る事が出来れば現実に立体を表す事が出来る筈なんだ。事実、この子はそうやって現れてるみたいだからねぇ…。」
 「…0と1の世界から生まれたからこそ、それを以てこちらの世界に現れる、と?」
 「ひひ、そう言う事さぁ。」

 そして、モニターに目を向けると、そこにはウィル子の診察情報が表示されていた。
 レントゲン、MRI、更には探査系の術式をかけた結果。
 ウィル子の身体には何も無かった。
 ただ外側だけを取り繕った、ガランドウの器。
 それが今の彼女の身体だった。
 
 「……問題は、表現には多大なマシンパワーが必要だと?」
 「そう。現にこの子の身体は何も無い、からっぽの状態だ。この子にはまだそれを表現できるだけのマシンパワーが無いのさ。」

 だからこそ、彼女の身体を運んだ時、妙に軽かったのだ。
 だが、これでウィル子が化けるという事の意味が解った。

 「逆に考えると、十分なマシンパワーや電源、データが揃えば……。」
 「そう、化けるとはそういう事。」

 途端、葉月の目に狂気的な光が宿り、興奮した様に芝居掛かった様子で喋り出した。

 「モーツァルトのレクイエムはスピーカーから聞けるし、ダ・ヴィンチのモナリザはモニターで見れる………つまり、どんな優れたものだろうと、この子は0と1に分解・変換・実体化できる……ッ!!!!」

 その時、ひでおの脳裏にはウィル子の具体的な強化プラン、即ちスーパーコンピューターを多数利用しての大強化案が浮かんでいた。

 
 現代は科学技術全盛と言ってもいい。
 ファンタジーの技術はその特異性故に多くの分野では未だに研究途上であり、また、一般の目につく事は無いため、その速度はどうしても遅い。
 しかし、科学は違う。
 今日の人類種の発展を支えた土台であり、その発展ぶりは未だに留まる事を知らない。
 そして、最新の技術では地球そのものの気候や地殻のシュミレートの他、近年では戦術レーザー砲まで実戦配備まで秒読みときている。
 もし彼女にそれを表現できるだけの母体となるスーパーコンピューターを与えれば、それこそ物理世界においては完全無欠の全知全能の神にもなれるだろう。
 

 「それこそ、原初(α)から終末(Ω)まで、か……。」
 「電子ウイルスなんてとんでもない…。この子は間違いなく、神の雛型だよ…!」

 あまりに大きな可能性。
 神代の時代なら兎も角、現代にそこまでの力を持つ可能性がある精霊が生まれたとは、天然記念物よりも更に希少と言えた。

 「しかし、簡単にはなれない。」
 「その通りだよ、ヒデオとやら。」

 それまで部屋の隅で浮かんで寝ていたみーこが話し出した。

 「今の時代にカミと呼ばれる程の精霊……天・地・山・海、それら全てのカミはの、古代人の手の届かぬ場所から人の想いの力によって生まれてきたのだよ。」

 人というのは、他のあらゆる生物に比べ、大きな力を有している。
 勿論、魔族の様な上位者も存在するが、それと比べてもかなりのものがある。
 何せ、想うだけで世界に多くの影響を与え得るのだから。
 カミの様に強大な力を持たず、魔族の様に高い基礎能力を持っている訳ではない。
 身体の頑丈さだけなら獣と然したる変わりもなく、現在では多くの面で劣る所も多い。
 それでも、想うだけで精霊を生み、神格化させる程の莫大な力を生み出し、あまつさえ自分自身が神と成るという、計り知れない力を持っているのだ。
 丁度、理不尽がために立ち上がり、最後には磔にされた、とある男の様に。
 
 「そして、現代ではまた新しい手の届かぬ世界に身を焦がす、と……。」
 「0と1の世界、電子世界を構築し、その世界に強い想いを抱き続けた……。結果、彼女がこの世に姿を現す程の力を齎したという訳さ。」

 壮大な話である。
 人の手により生まれ、人の想いにより実体化し、神にもなる可能性を秘めたウィル子。
 彼女こそ、人の望んだ現代のデウスエクスマキナ(機械仕掛けの神)とも言える。

 「さてドクター、結局、彼女は何時目覚めるので?」
 「んん?まぁ魔導力中毒を起こした訳だからね。今はその際に取りこんだ魔力を自分が使えるように自身を再構築、アップデートしている所だから、その内目が覚めると思うよ。」
 
 自分の見立て通りか、とひでおは一安心した。
 そう言えば、PCの画面には「Will.CO21は再構築中です」との表示。
 もう少し落ち着いて見れば気付いただろうに……意外と動転していたらしい。

 「魔導力はかなり融通の効く力だから、もしかすると現状のパワー不足も克服できるかもしれないねぇ。」
 「まぁ、その辺りは本人に期待ですか。」
 
 そうこう言っている内に、遂にウィル子のPCの再起動が始まった。
 ブゥゥゥン…ガタガタガタ…!と普通のPCでは有り得ない程大きい音を立てているが、大丈夫なのだろうか?(汗

 そして、遂に再起動が終わり、PCが復帰した。

 「ウィル子、只今帰還しましたっ!!」

 同時、勢いよく診察台からウィル子が起き上がった。
 既に先程までの儚げな様子もなく、全快した事がよく解る状態だった。

 「おかえり、と言うべきか?」
 「にはははは!!ただいまなのですよー!」

 えっらいご機嫌だった。
 先程から笑いが止まらないとでも言う様に顔が笑みの形になっている。

 「ウィル子、もしや……。」
 「さぁマスター!史上初の電子の神に選ばれし幸運な奴隷として、電気と光ケーブルをお供えしてウィル子を崇め奉るのですよ~~!!!」

 やっぱり聞いていたらしい。
 にしても、あの2人が聞いたら一発でブッ血KILL様な事を言ってると、危ないぞ?
 ひでおはそう思うが、警告した所で今の彼女には意味が無いだろう。

 「今までの話、ちゃっかり聞いていたのですよ~!ウィル子は普段から追われる身ので、意識は無くとも常に警戒しているのですよ!」
 
 今も自動録音していたデータの取りこんだのですよ~、と告げるウィル子の姿に、一先ずの安心を得たひでおだった。

 くきゅぅぅぅぅぅぅ~~………。

 そこに、唐突に間の抜けた音が響いた。

 「…って、なんだかこの辺りが落ち着かないのですよ?」

 お腹の辺りを抑えながら、ウィル子が疑問符を上げた。
 ひでおも同様に疑問に思い、葉月の雫に目配せをして再検査を求める。
 葉月も頷き、片方しかレンズのない眼鏡(実際は様々な機能あり)を弄って、ウィル子の身体を診察していく。

 「食べるかの?」

 そして、診察が終わる前に、みーこがウィル子の眼前にあるものを差し出した。
 それは饅頭と言われる和菓子だった。
 饅頭とは主に小麦粉などを練った皮で小豆餡などを包み、蒸した菓子である。
 他にも栗饅頭や水饅頭、塩饅頭や酒饅頭など、その種類は数多く存在する。
 元は中国のマントウ変化した菓子の一種であり、現在、日本では伝統的な和菓子として全国で親しまれている。

 みーこが出したのは、典型的な白い生地の皮でこし餡を包んだものだった。

 「はぐっ」

 そして、ウィル子は一瞬の躊躇いを見せた後、みーこからそれを受け取り、喰らいついた。
 一瞬、ひでおは止めようかと思ったが、みーこの邪魔と取られると身の危険があるし、所詮は饅頭、そうそう問題にもなるまいと判断した。

 「……う、う、う……」


 結果

 
 「うまーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!?!!?!」

 大当たりだったらしい。

 「こ、これは軍事機密とはいかなくても、萌え萌え画像並にうまーーー!!」

 がつがつと饅頭を平らげていくウィル子。
 データに味があるのかは兎も角、取り敢えず問題ないらしい。

 「一体何が……?」
 「んん~……胃袋があるねぇ……。」

 カチカチと眼鏡を弄りながら、葉月が告げる。
 驚きの診査結果ではあるが、彼が言うならば間違いもないだろう。

 「でも、胃袋だけだねぇ。」
 「それ以上は今後の成長次第、という事ですか……。」
 
 男2人が真面目な会話を続ける中、みーこはウィル子に次々と菓子を与え続けている。
 煎餅、暴君、柿ピー、お団子、おはぎ、カステラ、干し柿、すあま、etcetec……。
 まるでドラ○もんの四次元ポケットの様な状況に、また一つアウターの謎が増えた、とひでおは思った。


 さておき


 「うんうん、胃袋だけだけどちゃんと消化してるね。恐らくだけど……みーこ様の魔導力を取りこんだから、その属性が移っちゃったみたいだねぇ。」
 「流石は億千万の口というべきでしょうか……。」

 200以上の国を喰い、嘗て南極の大陸国家まで殲滅した、根の国の姫君。
 アウターの中でもなお強力とされるだけあって、その魔導力の欠片すら、相当の力を含んでいる様だ。
 ……それが「食べる属性」というのが、なんとも彼女らしいとも言える。
 
そんな微妙にほのぼのとした空気が漂う中、それを読まず、と言うかマイペースを貫く者があった。

 「所でキミぃ…。」

 にやり、と笑いながらこちらを見る葉月の姿に、「あ、なんか地雷踏んだ気がする」とひでおは感じ、そして、その予感は当たっていた。

 眼前に掲げられた書類、それは今の診察に対する請求書だった。
 問題は、そこにある数字がとんでもない額だという事だった。

 「請求書……500000チケットぉぉぉぉぉぉっ!!?!」

 ウィル子が驚愕を露わにして叫ぶ。
 ひでおとしては、しまった、と迂闊を呪ったが、時既に遅し。
 医療関係の費用は基本的に医者側が決める。
 勿論、暴利を貪れば何れ誰も患者が来なくなるため、滅多に悪徳な医者はいないが、逆に取れる所からはがっぽり取る場合はそれなりに多い。
 
 そして、相手はあの魔殺商会、説明不要の悪の組織である。
 外道ではないが、それでも問題ありまくり、ヤのつく自営業も真っ青な暴力集団である。
 そんな連中の真っただ中、虎口に飛び込んだひでお達は優勝候補という事もあって利用価値たっぷり。
鴨葱どころの話ではない。
 
 「ひひっひひひいいい!さぁさぁどうするんだい!?今ならこの借金を帳消しにする変わりに、ドリル人間にするだけで済むよぉぉ!!」

 何処が「だけ」だよ、何処が。
 ひでおはそう思ったが、現状、そんな者に成り果てたら、失格扱いにされかねない。

 ちらり、とみーこを見る。
 ぷかぷか浮いて寝ているので救援は期待できない。

 ちらり、と周囲を見る。
 ここは葉月の雫専用の診察室兼ラボ。
 魔殺商会をして、ぶっちぎりの危険地帯に指定される程の場所であり、言うまでもなく葉月の雫のテリトリーである。

 ちらり、とウィル子を見る。
 再構築したてで若干の不安が残るが、ここの施設を掌握する位なら問題無いと思われる。
 
 結果、強行突破を決行。
 速やかに魔殺商会本部からの脱出を遂行すべし。


 スーツの胸ポケットのサングラスをかけると、ひでおはにこやかに笑う葉月に向き直った。
 内心はこれから行う事を平静にシュミレートしていたが、それをおくびにも出さない。

 「先生、今日はありがとうございました。」
 「いやいや、どうって事はないのさぁ、ひひひ。」
 
 お礼だけは言っておく事にする。
 魔殺商会と事を構えるとなれば、何れまた会う事になるだろうからだ。

 「お詫びの印にどうぞこれを。」
 「おや、ありがとう……ってこれはぁ」


 次瞬、ラボを閃光が包み込んだ。





 
 
 


 「うふふ、くすくす♪葉月も時と場合を選べばよいのにねぇ♪」
 「また覗いてたんですか?」
 「覗きなんてとんでもない……ワイフワークよ!」
 「もっと悪いです!」

 何処とも知れない整備工場
 そこには今、場違いな2人組がいた。
1人は白いローブを纏い、髪も肌も純白の、襟元に鐘をつけた幼女。
もう1人は短い金髪に碧眼を持った、シスター姿の若い女性だ。
 言わずもがな、マリーとマリアの2人である。

 「おおい、嬢ちゃん達ぃ!チェーンは終わったぜぃ!」
 「あ、親方さん。ご苦労様です。これ差し入れなんで、皆さんでどうぞ。」

 2人の元に、この整備工場の主である初老の男が声をかけ、そこにマリアが手料理の入った籠を掲げて示すと、途端に工場内の空気が数度上昇し、工場内の整備員達がこちらに飢えた目線を送ってきた。
 親方は既婚者だが、後は独身ばかりなので、美人の手料理に飢えているのだった。

 親方達は他の一般の工業区の者達と同様、魔導に関わった事もない一般人だった。
 そのため、この都市には整備工として社員一同と共に来たものの、大会そのものには参加していない者達の1人だ。
 職人気質の頑固親父だが、今回はその腕の良さを視たマリーが、グランプリ向けの車のチューンを頼みにここに来たのだ。
 その内容は後日に回すが、彼女の注文を聞いた親方は凶悪な笑みを浮かべていた事だけはここに記しておく。
 
 「にしてもよぉ、あんな注文されたのは初めてだったぜ。御蔭で今日はもう開店休業だ。」

 渡されたおにぎりを頬張りつつ、親方はぼやいた。
 ここ数日は忙しかったが、漸く終わったと思った頃に特注のチューンを要求されれば、ぼやきもする。
 
 「あら?貴方達なら大丈夫だと思ったのだけれど?」
 「あたぼうよぉ。後は少し慣らしてから最終調整すりゃいい。」
 「くすくす、楽しみねぇ♪」
 「ゲラゲラゲラ!あれが走る様が目に浮かぶぜ!」

 くすくすくす…ゲラゲラゲラ…と笑う声が工場の一角に響き続ける。
 その何とも言えないマッドな雰囲気に、ついていけないマリアは遠巻きに眺めているだけだった。

 「まぁ良いですけど……これで、勝ちます。」

 ちょっと逸れたが、マリアはグッと拳を握って決意も新たに自分達が乗るであろう車体を眺める。
 これ程のマシンなら、優勝だって十分に可能、否、確実に奪ってみせる。
 
 元よりこの世界に来たのも、たった1人の男を追ってきての事だ。
 堕天使とその眷属となった自分達なら時間など気にする必要もないが、少々焦りがある。

 最近、想い人たる彼の近くに力ある者達が集まってきている。

 その中にはアウター程ではないが、それでも面倒な者達が多いし、あの人のパートナーは明らかに伸び代が大き過ぎる。
 もし自分達があの人を連れていく、ないし独占しようとすれば、抵抗は必至だろう。
 そもその、あの人の傍に自分達以外の者がいるのは気に食わない。

 もう随分待ったのだ。
 最初の世界から離れ、多くの世界を巡った。
 あの人がいない世界の方が多かったが、中にはあの人と誰かが結ばれた世界すらあった。
 それが自分達のどちらかなら良かったが、それ以外の者だった時、腸が煮えくり返る程の怒りと嫉妬を覚えた。
 その世界を灰燼にしなかったのは、一重にあの人が望まないだろうと思ったからだ。
 何度も何度もそんな経験をしながら、次こそは、と思い、億千万を超える世界を渡っていった。
 そして、時を数えるのすら忘れ果てた頃、漸くあの人を見つけ出した。

 人間相手なら待つのもありだが、精霊や魔人を相手に遠慮はすべきではない。
 寧ろ、根こそぎ奪い去るつもりで行かなければならない。

 例え、命を奪い、魂だけになったとしても、だ。
 器など、後から用意してやればいい。

 そのためにも、先ずは今度のレースに勝利し、あの人をリタイアさせなければならない。
 そして、この都市を出た所を捕え、二度とと私達の元から去らないように繋ぐ。
 そう、もう二度と、あんな事が無いように。


 黒く、暗い情念を抱きながら、聖母の名を持つ少女は数日後のレースに向けて戦意を貯めていった。









 ひゃっはー更新だぜー!(挨拶

 どもVISPです。
 この度は本当に申し訳ないです、はい。
 今後はもう少し更新速度をあげようかと思います、はい。
 少なくとも月一は無いようにしますので、どうかご容赦を。
 …ちょっと短いのは気にしない方針でお願いします。

 今回はウィル子成長とその可能性、腹黒コンビ胎動編でした。
 最近黒成分が少ないなぁ、と思ったが故のものですが……何故だろう、違和感が無い(汗
 
 さて、次回は漸く聖魔グランプリ本編です。
 前後編の予定ですが、もしかしたら前中後になるかも…。
 更新は来月初めを予定していますので、その時にまたお会いしましょう。
 


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