しばらくして歩けるようになった頃、始めに鏡で自分の姿を確認した時はびっくりしただぁ...
だってオラのチャームポイントだったそばかすは全くねぇし、短く刈り込んだ黒い髪は、赤く染まってたしよぉ~。ちょっと毛深かったオラの腕も女の子みてぇにツルツルだよ。
何よりオラはもう「呉作」じゃなくなって、ジョルジュっちゅう名前になってただ。
オラが生まれ変わったこの世界じゃと、月が二つあったり、漫画やTVでしか見たことねぇ怪物や動物がわんさかいて、見るもん全てにエライたまげたもんだぁ。しかも魔法なんちゅうもんもあるんだから、さながら映画で観た「ロード・オブ・ザ・リング」や「デズニー」なんかの世界だよほんとにもう。
生まれてからまんず難しかったのは言葉だったさ。生まれた時からこの世界の言葉ばっかさ聞いてたから、少しは喋れるんだども、やっぱ日本語さ覚えとるからどうも素直に聞きとれん。だから4歳ぐらいまで上手く喋ることが出来なかっただ。だどもな、オラを産んでくれた、ナターリアさんが丁寧に教えてくれたもんだから、5歳になるまでに人並に喋れるようになっただ。(ここの土地にはかなり独特な訛りが付いているんだとさ)ほんとナターリアさんはいい母さまだよ。
でも、しつけはすごく厳しい人でな、ある日の夕食で、間違えて母さまのデザートのプリン食べちゃったら、母さまオラの頭をつかんで「お前の脳みそプリンにしたろかコラ!!」って言われた時は、オラもう精神的には40近ぇのに漏らしてしまっただ...
こん時ぐらいにオラのおとんであるバラガンさんに、外に連れってってもらえるようになっただ。そすたらこの人えんらい広い畑もっとるんでびっくりしただぁ!!オラが農業やってたとこは県内では広いほうだども、それの何倍、何十倍ぐらいあるだよ。しかも漁業もやってるつうから、びっくらこいたわぁ。オラ、夢中で麦畑やら漁場なんか見てたら、おとんも「ジョルジュ!!オメェ畑や漁に興味あるっぺか?おとんうれしいっぺよ~」ってオラの頭をくしゃくしゃと撫でてきたんだ。
ああ、このおとんは前のおとうと似てるだなぁ~。(しかもおかあに対して頭上がらねえとこも一緒だった。)
そんで麦の種まきの時にな、おとうが飼ってるグリフォンのゴンザレスに乗って、空から一斉に種を撒いたときにゃあエライ感動しただ!!オラこんなのアメリカのテレビでしか見たことねぇだからな。
オラ、また農業やりてぇって思っちまってな。しかもこのハルケギニアっちゅうトコだと機械や農薬なんかないってゆうじゃねぇか。土もどこさ行ってもいい香りだし、この世界だったらオラが夢見てた究極の「無農薬有機栽培野菜」が実現できると思っただ。
んで、そうはいってもやることは沢山あるだ。オラが最初に知らなければならねぇのはこの国の農業の手法だった。なにせ、前世と違って機械や薬なんかもねぇどころか、肥料もままらねぇ世の中だ。しかも、農業の手法は中世の欧州各国のような手法だから大学の講義で聞いたぐらいの知識しかねーだ。一から教わんなきゃなんねえだよ。
そこで、オラは近くの農村の村長に、畑の作業を手伝わせて欲しいってお願いにいっただ。だけども、突然やってきたこともあったしみんなびっくりしてな、なにより村長も村の人も最初はオラのこと「領主さまのご子息」ってことでみんなよそよそしかっただ。だけどもな、その村でオラと同い年のターニャちゃんって女の子がオラを助けてくれてな、最初は子供同士の輪に入れてくれて、みんなと一緒に働いてたんだ。そするとだんだんと大人たつとも打ち解けることが出来ただよ。
ターニャちゃん...今ではすっかり成長して、美代ちゃんみたく可愛くなっただよ~。
しばらくはターニャちゃんの村で畑作業に勤しんでたんだけどもな、ある時ナターリアの母さまに「村なんかに遊びに行ってないで屋敷にじっとしてなさい!!」て叱れたんだよ。オラ、その言葉に少しムッとしたから「母さま、屋敷でぬくぬくしとるのと、家の土地のために働くのと、どっちが意味があるさ?」って言ってやったんさ。すると母さまは口をつぐんじまっただ。でもすぐに、
「ジョルジュ、確かに我が家の領地のため、畑仕事に精を出すことは大きな意味があります。それは立派です。しかしあなたは農民ではありません。このドニエプル家の三男なのです。あなたが世の中に出るときには平民ではなく貴族として見られるのです。それがどんなに嫌でも変えることはできません。この世界に貴族の息子として生まれてきた者の運命といっていいでしょう。あなたはまだ小さい。これから大きくなったときに何が待ち受けているか分かりませんが、ドニエプル家の者として、貴族として、そして自分自身に恥をかかないようになってもらいたいのです。いま、難しいことを覚えろとは言いません。ですがあなたももう7歳ですし、そろそろ魔法を覚えていってもよい年齢です。だから、せめてこれからは魔法を覚えるようにしなさい」
オラは母さまの言葉に感動しただ。そこまでオラの事を思ってくれるなんて...それに、こっちの魔法は重いものを運んだり、火を出したり、果ては土から包丁なんかの道具も作れるんだから、魔法を身につければいろいろと出来ることが増えるだ。
「確かに、魔法を使えるようになれば、畑仕事がうんとたくさんできるようになるさ~」
よーし、そうなったらオラの夢のため、そしてこんなにオラを気遣ってくれる母さまのために頑張って魔法の練習をするだよ!!
「それにね、上の三人がちーーーーーーっとも魔法覚えねぇからこちとらストレス溜まりまくってイライラしてるんだよぉ~。おめぇだけでも早く覚えろやぁ...」
母さま二面性激しいだよ・・・オラ、肉体的にも成長したのに大きいの少しでちゃったでねーか...
それからはな、畑作業が終わった後に、母さま先生の下、魔法の授業が始まっただ。そしたらこの魔法ってやつがすんげぇ面白くてな、すっかりのめり込んじまっただよ。何より覚えた魔法がそのまま仕事に使えるんだから、こりゃあやるしかないだよ。
そんな生活が何年も続いただ。13の誕生日にはおとんに自分の畑と牧場をもらって、自分で作物を作れるようになったし、妹のステラやサティも手伝ってくれるようになって、なんだかオラが死ぬ前の、家族みんなで農作をしていたころみたいで、毎日がとても楽しいだよ。魔法もいろいろ覚えただ。たまに領内に獣やらモンスターが作物目当てで来るけんど、大抵はひとりで追っ払えるようになったしな。
今はお金を貯めて自分の土地を少しでも広げようとしとるだ。そのためにはこれから頑張んなきゃなんねー。そういえばそろそろ麦の刈り入れの時期だ。オラ、大鎌ブンブン振って刈るの好きなんだよな~。
おっと、なんか過去に浸ってたらもうこんな時間になったさ。今日は母さまに部屋に来いって言われてるから早く急がねえと。しかし、なんの話だかなぁ~