「どうでもいいってアンタ、人が召喚されたんだよ!?人が召喚されるなんて私、こっち来てからもゲルマニアでも聞いたことないわ!」
「静かに喋りなさいララ。全く、いったい何の話かと思えばそんなことですか。サモン・サーヴェントではグリフォンや蛇や植物、ドラゴンさえも召喚されるのです。今までに例がないだけで、別に人間が召喚されてもおかしくはないと思いますが...」
せっかく盛り上がりそうな話だと思ったのに...
ララはため息をつき、この変てこな友人は底が知れないなぁと深く感じた。
その時、ララは今話題に上がろうとしていた「人を召喚した」一つ学年が上のメイジを発見し、隣の友人の肩をバシバシ叩いた。
「見て見てホラ!!あれだよサティ!!私たちからずっと右の2年生のテーブルのトコ。隣に立ってる男の子がさっき話した召喚された人だよきっと。平民なのかな?髪黒いし変な服装してる...」
「分かりましたから肩を叩くのをやめなさい!ララ。どれどれ...あれがそうですか。別に変な服装だろうと全裸だろうと関係ありませんよ。人は人です」
「そんなこと言ったって...それにステラ、召喚したのは「あの」ラ・ヴァリエール公爵の娘さんよ?」
「ラ・ヴァリエール?すると...あの方が、兄様のおっしゃっていたルイズさんですか...っと、お祈りの時間ですね」
ステラ、ララもテーブルの前を向き、食事の前のお祈りを唱和した・・・ように口パクした。それはこの二人にとって、この唱和はひどく納得のいかないものであったからだ。
『偉大なる始祖、ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを 感謝いたします』
こんな豪勢な食事がささやか?じゃあ私が実家で食べてる物や、町や村のみんなが食べているのはなんなのさ?餌ってかチクショ―ッッッ!
そうララは心の中でぼやき、
ブリミルはともかく、パンの一つも作ることができない女王に何を感謝しろってんですか?テーブルに並ぶ野菜や麦を作るのにどれだけ苦労するのか分かってから出直してこいってんですよ!たくっ...
ステラは若干、口から漏らしていた。
周りの者が聞いたら、怒り狂うかもしれない彼女たちのその思いは、幸い他の生徒には伝わらなかった。
(二人にとってはアホくさい)唱和が終わり、食事の時間となったのだが、スープを飲もうとしていたステラの視界の端に、床に座り込んで食事をしている少年が入ってきた。どうやら彼の食事はスープとパンのみのようである。それにララも気づき、ステラだけに聞こえるような声で囁いた。
「うっわ...あの子の食事悲惨だね~。パンにスープだけって、ラ・ヴァリエールの娘さんって相当サド・・・ってステラ?何してんの?」
ララが囁いているのもお構いなく、ステラは自分が使用している皿の一枚に、トリ肉やチーズ、野菜などを盛り合わせていた。
彼女が皿に相当な量の食べ物を乗せ終えた後、彼女は席から立ち上がった。そして隣の友人が尋ねるのも無視して、その変な服装をした少年へと近づいていった。
急に席を立って歩き出したステラを食堂にいた生徒が全員見つめていたが、そんなことは彼女には関係なく、やがて床に座っている彼の前までやってくると、食べ物を乗せた皿を前に差し出した。
「ちょっと!!なによあなた!」
ルイズは目の前にいる少女に半ば叫ぶように尋ねた。
何なのだ一体この娘は?
昨日の召喚であろうことか平民の人間を召喚してしまって、イライラしているというのに...
今日のこの朝の食事で、この召喚した生意気な平民...「サイト」という名の少年にご主人様が誰なのかをきっちり教え込もうとしているのだ。邪魔しないでほしい。
しかし少女は、ルイズが言っていることなどお構いなしに、少年に料理が盛られた皿を渡して、こう尋ねた。
「あなた。お名前は?」
質問された少年、サイトも最初はぽかんとしていたのだが、やがて自分が話しかけられているのだとやっと気づき、その少女に自分の名前を告げた。
「ひ、ヒラガ。ヒラガサイトって言うんだけど...き、君は一体...」
「ヒラガサイト?発音からするとヒラガ・サイトってことですかね?ではヒラガさん。そのお皿に乗っている料理はあなたに差し上げます。その代わり、食堂をではなく外で食べて頂けませんか?」
「へっ?これ食べてもいい「ちょっとぉぉ!!!なんなのよアンタホントに!!ヒトの使い魔に勝手に食べ物を与えないでくれない!?」
ルイズはあたりの事を構わずに、思わず叫んだ。食堂は一瞬シンっと静まり、やがてあたりからは「ゼロのルイズが...」「あの娘1年生じゃない?...」「ヴァリエールったらなに揉めてるのかしら?」とヒソヒソと声が聞こえてきた。
ルイズは自分の前に立っている紅い髪の少女を睨んでいたが、その少女はルイズの目をじっと見ると、幾度か首を左右に揺らしてから首を止め、口を開いた。
「「食べ物を与えないでくれない!?」...それは別に構いませんが、あなたの使い魔であるこのヒラガさんは外に出してほしいです。あなたがなに考えているのかは知りませんが、使い魔とはいえ食堂で人を床に座らして、粗末な食事を食べさせるのは貴族のすることとは思えませんが...」
少女の言葉に、ルイズは顔を赤くした。そして周りからクスクスと聞こえてくる笑い声をかき消すかのように大声で少女に反論した。
「召喚した使い魔をどうしようが私の勝手でしょ!?人の使い魔の教育に口を出さないで!!!あなた1年生ね!?ラ・ヴァリエールの娘である私にそ「黙りやがれです。このクソチビが」ヒッ!!...」
ルイズが喋っている途中で、少女の口から出たとは思えない言葉が聞こえてきた。
それを聞いたルイズは驚き、そして再び少女の顔を見たときに少し悲鳴を出してしまった。少女の顔の表情は先ほどと変わっていないにも関わらず、怒りのオーラに充ち溢れていた。
「やさしく事を収めようとしたけど、こうも分からず屋なバカガキだとは知りませんでした。だったらはっきりと言ってやりましょうか?人が椅子に座って食事をしている場所でこんなことされたら食事が不味くなるだろうがこのアンポンタンが。他人のメーワクを考えないのがヴァリエール様のお考えですかそうですかアホじゃないですか?テメーの使い魔がどんなモノ食べようとカンケーありませんが、見苦しい光景をヒトに見せるんじゃねーですよ。それともヴァリエールの貴族様は使い魔に十分食べさせることもできないぐらい金欠なのですか?だったら最初から召喚なんてするんじゃねぇーよこのボケ。歳が一つ上だろうが大貴族の娘だろうがアホな奴に敬う言葉なんて1ドニエ程度も持ち合わせてませんよ。おい、なに半泣きに・・・・」
そこまで言ったところで、少女の口は後ろから何者かの手によってふさがれた。彼女の友人なのか、汗をダラダラと流しているその女の子は無理に明るい声を出して、
「2年生の皆様!!私の学友が大変失礼しましたー!!では今日はこれで失礼しますねー!!ハハハハッ...どうぞお食事を続けてくださいなぁーーーーッ!!」
最後のほうは声がひきつっていたが、その少女は学友と呼んだ少女を半ば引きずるようにして食堂を出ていってしまった。生徒も給仕も静まり返っていた食堂は、やがて何事もなかったかのように、朝食を楽しむ音が聞こえてきた。
後に残ったのは、まるで溶岩のように顔を真っ赤にした涙目のルイズと、料理が盛られた皿を持ってポカンとしたルイズの使い魔だけであった...
「アホーッ!!何してんのよステラッ!あんた、こともあろうにラ・ヴァリエールの娘さんになんて口聞いているのよーッ!!!」
食堂を出た2人は、土の塔の近くにいた。
ちょうどあたりには誰もいなく、ステラの兄ジョルジュが管理する花壇が近くにあるこの場所までララは手元にある友人を引きずってくると、先ほどルイズを口撃していた友人に怒鳴った。
しかし、当の本人は至って静かで、
「静かにしなさいなララ。仕方ないじゃないですか。こっちが優しく注意しようと思ったら、あまりにもアホらしい言葉が返ってきたのですよ。そりゃあ誰だって怒りますよぅ」
っと若干拗ねるような口調で答えた。その発言にはララもあやうく怒りそうになるが、ぐっとこらえていった。
「「怒りますよぅ」じゃねぇよぅッ!? 入学早々、大問題起こしおってどうすんのよあんた~絶対、2年生の人達に睨まれたわ...それよりも勢いで食堂出ちゃったけど...まだスープぐらいしか飲んでないからおなかすいたわ...」
「済んだことをいちいち気に病むことはありませんよララ。それよりも、たくさん喋った所為か、確かにおなかが空きました。まだ時間もあるようですし...ララ、私の部屋にいきませんか?ケティさんから頂いたお菓子でも食べましょう」
「いいねッ、そうしよう。この際お「ララちゃ~ん。ステラちゃ~ん。待ってよ~」ってケティ!?あんたも何、食堂から出ちゃってんの!?」
2人がお菓子で腹を満たそうと計画を立て、女子寮の方へ向かおうとした時、食堂の方向からケティが、小走りでやってきた。彼女の手には、ナプキンで包まれた何かが持たれていた。
「二人とも大きな声出して出ていちゃったでしょ?まだ朝食は始まったばかりだったし、お腹空いているかなと思っていろいろ持ってきたの」
ケティはそう言って持ってきたナプキンを広げた。そこには切られたバケット、チーズ、ハムや果物が入れられており、2人の食欲を満たすには十分な量があった。
「ケティちゃんナイスだッ!!ホントにありがとう~ッ!!!でもアンタいいの?あんたもそんなに食べてないでしょ?」
「わ、私は大丈夫だよララちゃん。元々少食だし、今朝はあんまり食欲がね...」
グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
「旺盛って訳だ」
「はぅぅ...」
ニヤニヤと笑うララの前でケティは、恐らくはルイズとは違う理由で顔を赤くした。そんなやりとりを見て、ステラはふっと笑うと二人にこう提案した。
「では、それを持って私の部屋へ参りましょう。ケティさんが持ってきて下さった食べ物と、ケティさんが焼いてくれたお菓子をみんなで仲良く食べましょうか。全てがケティさんからのお恵みなので、お茶ぐらいは入れさせていただきますよ」
その提案は、二人にすんなり受け入れられた。
しかし、今度こそ部屋へ行こうかという時、近くの花壇に埋まっているデカイ葉っぱがモゾモゾと動いた。そして土の中から人の形をした根っこらしきナニかが飛び出して来たのだ。
ララとケティは驚いたが、ステラはため息を吐きながら、今朝知り合ったその植物にこう尋ねた。
「ルーナさん。急に飛びだしてきて何ですか?まだ水やりの時間ではありませんよ?」
―ステラ様、私も皆様とご一緒したいですわ―
「ご一緒って...あなた植物のくせにお菓子なりパンなり食べれるの!?マンドレイクが人と同じものを食べるなんて聞いたことがないわ!!」
―マンドレイクではなく、「アルルーナ」ですステラ様。あんな野蛮な一族といちいち一緒にしないで下さいな。いいですか。世界には虫を捕まえて食べてしまう植物もあるのです。お茶を飲んで、お菓子を嗜む植物もいて不思議ではないと思いますが・・・―
「それはもう植物じゃないと思うのですが...」
急に飛び出てきた植物に語りかけているステラを見て、ポカンとしていたララとケティの頭上には、暖かい春の日差しが降り注いでいたのであった...
「ヴァリエールったらなに揉めてるのかしら?...ってこの臭いは?ってタバサ!?あんたソレまだ持ってたの!?もう捨てなさい!!」
「アレは無くなった・・・・コレは私の試作品・・・・」
「あっ...そうね。確かに臭いが違う...って十分臭いわ!!栓を開けないで!!マリコルヌが腐ったような臭いがするわ!!」
「そんな臭い・・・・嗅いだことない癖に・・・・・・・・大げさ・・・・・グッ・・・・・失敗・・・コレはない・・・・」