ついさっき終わった戦闘、それは神裂にとって特別な意味のある戦いではなかった。
だが少年にまたしても傷を負わせてしまった。
少年は気を失っていた。
戦いはし烈を極めた。
だが辛うじて勝利を収めることができた。
「全く・・・」
そういってため息を付いたのは、天草式十字凄教の女教皇にして必要悪の教会の一員、そしてその体に絶対的な戦闘力を秘める“聖人”でもある神裂火織である。
神裂は少年をおぶって、夜の公園を歩いていた。
この少年、上条当麻は事もあろうかその聖人同士の戦いに飛び込んできたのだ。
聖人同士の戦いでは、魔術攻撃に加え、その高い身体能力から物理的な攻撃が行なわれる。
いかにイマジンブレーカーが異能の力を消し去ろうとも一介の高校生に対応できるものではない。
「この少年は、聖人とか自分より強いとか、関係ないのですね」
そう、自分より強い相手が、戦う相手でも、助ける対象でも、この少年は立ち向かうのだ。
疲れたわけではない。
この公園を抜ければもうすぐ少年の部屋に着く。
何となくだ。なんとんなく神裂はベンチに少年を座らせると自分もその隣に腰を下ろした。
そして何となく少年の顔を見詰める。
神裂火織としては何となくだったと思う、いやそう思っていた。
バチッ
「?」
なにかが弾けるような音がした。
そう、電気製品がショートしたような音が。
「ショート?」
ここは学園都市だ。
いたるところにハイテク機器が設置されている。
しかもそれは試作品だったり、実験機器だったりする。
電子部品がショートしてぼやが発生するなんて事故は日常茶飯事だ。
そう、すぐそこにある自販機もしょっちゅう異常警報が鳴るときいている。
神裂は音のした方に視線を送った。
何もない、魔術師の気配も感じられない。
人の気配はある。
だが此処は公園だ、学園都市とはいえ夜の公園には、とある目的があって人が集まる。
人の気配なんて有ってあたりまえだ。
思わずスパークしてしまった。
お嬢様学校、常盤台中学の制服に身を包んだ少女は素早く茂みの影に身を隠した。
「アイツ。またこんな所で!!!」
茂みの隙間から、そっと少年ともう一人の様子を見る。
少年は気を失っているようだ。
となりに居るのは・・・・・
「うっ」
唸った。
腰には長い日本刀のような、いや間違いなく日本刀が下げてある。
しかし御坂美琴が唸った理由は他にあった。
上条当麻の隣に座っている人物は、いつもいつもいつもいつも、アイツと一緒にいて時に自分をいらつかせる少女達とは雰囲気が違う。
スラリとした足は長く、細いというより引き締まっている。
それが分かる理由は一目瞭然、彼女の履いているジーンズが片足の付け根から、切り取られて片方がない。しかもその切れ込みは骨盤の辺りまで上がっていて、かなりきわどいハイレグカットとなっている。
ウエストも細い。
胸の少し下辺りで引き絞られたTシャツが、ほんの少しだけ浮き出た腹筋をへその下あたりまで露出させていた。
「・・・エ、エロい、そしてデカイ」
ついつい自分の胸に手をあててしまうが比べようもない。
「あ~、もうイライラする~っ、
だいたい、なんであたしが隠れなきゃなんないのよ~」
そのとき、そのエロくてデカイ女性が動いた。その様子を見た瞬間。
「にゃっ」「バチっ」
美琴のへんな奇声とともに小さいスパークが起こった。美琴の意思とは関係なしに。
なんとなくの筈だった。
先程の戦闘で傷をおったのだろう、上条のこめかみに血がにじんでいる。
神裂がハンカチで血を拭こうと手を伸ばした。
傷を拭いていると、ふと気付いてしまった。
丁寧に傷を確認しながら拭いていたので、上条と神裂の顔がかなり近い。
顔を近づけたまま神裂の動きがとまった。
『はっ、こっこのシチュエーションは?!
しかも此処は夜の公園、人々がとある目的をもって集まって来る場所、しかも男女ペアで。
そして、この少年は男で私は・・・』
顔が熱い。
鼓動が高鳴る。
何となくだった行為が何となくではなくなってしまう。
『いけない、この少年はあの子と・・・』
そうは思うが止めることが出来ない。
自分が当麻に惹かれていることには自覚があった。
だが突然こんな気持になるとハ。
火織の唇が当麻のそれに近づいていく。
神裂はその立場から男性に対しては常に毅然な態度で接していた。
勿論、こんな経験は一切なかった。
遅いファーストキス、火織の思考が真白になる。
バチっ、
バチバチバチ
ドーーーーン
突然放電現象が起こり。近くの自販機や電灯、植え込みや街路樹までがこげて煙を上げている。
一瞬の衝撃があった。
だが直切的なダメージはない。
神裂は一瞬で思考を回復させた。
『敵?だが魔術師の気配は無かった。』
視線を上げると茂みに一人の少女立っている。少女の体からは断続的に小さいなスパークが発せられていた。
「?」
少女は立って居るだけで動かない。
攻撃をしてくる様子もない。
「超能力者?対するのは初めてだが・・・」
バチバチバチ
ドーーーーン
2回目の放電。
腰に下げていた太刀“七天七刀”を構え受けの姿勢をとる。
だが電撃はあらぬ方向に分散されて放電されている。
「?」
よく見ると電撃の少女は俯き加減でこちらを見てはいるが、どこか目がうつろだ。
体もふらふらと揺れているようだ。
だが、油断できない、これだけの電撃が直撃したらいかに聖人とはいえ、タダではすまない。
「七閃」
神裂が七天七刀を振るおうとした瞬間。
「御坂!」
いつのまに意識がもどったのか、当麻が叫んでいた。いやもう走っていた。美琴に向かって。