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No.21478の一覧
[0] 【チラ裏より】学園黙示録:CODE:WESKER (バイオ設定:オリ主)[ノシ棒](2011/05/21 22:46)
[1] 学園黙示録:CODE:WESKER:2[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[2] 学園黙示録:CODE:WESKER:3[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[3] 学園黙示録:CODE:WESKER:4[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[4] 学園黙示録:CODE:WESKER:5[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[5] 学園黙示録:CODE:WESKER:6[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[6] 学園黙示録:CODE:WESKER:7[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[7] 学園黙示録:CODE:WESKER:8[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[8] 学園黙示録:CODE:WESKER:9[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[9] 学園黙示録:CODE:WESKER:10[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[10] 学園黙示録:CODE:WESKER:11[ノシ棒](2011/05/21 22:36)
[11] 学園黙示録:CODE:WESKER:12[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[12] 学園黙示録:CODE:WESKER:13[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[13] 学園黙示録:CODE:WESKER:14[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[14] 学園黙示録:CODE:WESKER:15[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
[15] 学園黙示録:CODE:WESKER:16[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
[16] 学園黙示録:CODE:WESKER:17[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
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[21478] 学園黙示録:CODE:WESKER:9
Name: ノシ棒◆f250e2d7 ID:373ed26e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/21 22:35
学園黙示録:CODE:WESKER


高台から見下ろした街並みは、おおよそこれが現実の光景であるとは思えなかった。
そこかしこから煙が上がり、建物の窓ガラスは殆どが割れていて、道路には血溜まりが。
街行く人の影はどこか覚束ない足取りで、熱病に浮かされたようにふらふらとしていた。
当然だ。あれは<奴ら>。死人なのだから。
生者の血と肉を求め、彷徨い歩いているのだ。
交通法などもはや無意味と化したというのに、時差式の信号機が変わらずに点滅を繰り返していた。平時であるならば、誰もがそれを見上げ、導にしていただろう。
社会の崩壊にあっても変わらず己の職務を全うする物言わぬそれに、込み上げるものがあって、初めて気がついた。
変わらない景色。
繰り返される日常。
自分はこんなにもこの街での暮らしを愛していた、ということを。
信号の色が赤に変わる。
どうやら電力は未だ遮断されていないらしい。
聞こえてくるのは<奴ら>呻き声とディーゼル車のエンジン音。高城の母が率いていた集団が、何らかの作業をしているようだった。
どうやら小室達のような一般人を見付けては、囲っているらしい。
世界が崩壊して、たった一日でこれだけの準備を整えられたのは、組織力は元より集められた人の数があってのこと。
<奴ら>から身を守るためには、皆が力を合わせなくてはならない。子供でも解る理である。
だがそれも、ライフラインが持つ間までだ。再び変わった信号を見て、思う。
やや離れて後ろを歩く冴子には聞こえないだろうが、微かに口論する声が風に含まれていた。
利便性に慣れ過ぎた現代人が、それを失われた生活に耐えられる訳がない。直に規範は失われるだろう。
日の光の下ではっきりと眼にした街。
その何割が人間の手によって破壊されたものであろうか。
静寂に包まれた街は西日に照らされて、紅く染まっていた。


「よし。こいつ、動くぞ」


――――――奴らの気配は遠い。
立ち寄ったバイクショップのガレージにて、水陸両用8輪バギー『アーゴ』のガソリンメーターを点検しながら、健人は店の外に耳をそば立てる。
本来はスピードにも機動性にも優れたバイクを拝借するつもりであったのだが、同行人が居たために、小室のようなライディングテクの無い健人がタンデムは危険だと判断。
徒歩だなと覚悟を決めかけた所で、ガレージの奥にアーゴを発見したのであった。
全地形型車両は四輪が有名であるが、八輪となれば珍しい。配置といい、恐らくはこのバイクショップの主人が個人的に保管していたのだろう。通常の民間用モデルよりもよほど頑丈に改造されていた。
これならば振り落とされる心配はないし、いくらか荷物も積めるだろう。


「あ・・・・・・上須賀君。その、役立ちそうな物を集めたのだが」

「まとめてリュックに詰めて、後部シートに積んでおいてくれ」

「あっ、ああ・・・・・・」


ちらちらとこちらを窺うような仕草。
質実剛健な雰囲気は失せ、弱々しく、叱られるのを待つ子供のような態度。
しおらしくなった冴子に健人は溜息を吐いた。
原因は解っている。


「・・・・・・面倒臭ぇなあ、こいつ」


思わず呟いた一言が聞こえていたのだろう。ミラー越しに冴子の肩が一瞬跳ねたのが見えた。
作業に没頭して、聞こえないフリをしている。
もう一度溜息を吐いてから健人はおい、と声を掛けた。


「さっきは非常時だったからな。イラッと来ただけで、もう怒っちゃいないよ」

「・・・・・・本当か?」

「本当本当。さ、出発だ。こんな通りに面した店じゃあ、<奴ら>にいつ踏み入られるか解らないぞ」

「また、私の話を・・・・・・」

「どこか休める場所を探せたらな。見付からなくたっていいさ。何を言いたいのかは、だいたい解ってる」


そうか、と安堵に綻んだ顔がミラーに映る。
そうかそうか、と確かめるように何度も頷く冴子の顔は、抑えきれない喜びに満ちていた。
これも彼女の情緒が不安定なのだからか。都合の良いような解釈をしているのだろうが、それは指摘しないでおいた。
どちらにしても、切り替えてもらわなければ困る。
健人はハンドルを捻り、エンジンを吹かした。
端からフルスロットル。自動シャッターを潜り、通りへと出る。
案の定、<奴ら>が直ぐそこにまでたむろしていた。
右へ左へ。
<奴ら>の間を縫うように、健人はアクセルを開けていく。
ハンヴィーと同じ様に全てを轢き潰していては、小柄なアーゴでは横転しかねない。進路上、どうしても邪魔な<奴ら>のみを跳ね飛ばす。
車体を掴もうとする<奴ら>はシートの上に立つ冴子が木刀で迎撃した。


「面白くなってきたな!」

「まったくだ」

「この先どうするか、計画はあるね?」

「もちろん。折角の水陸両用だ。存分に使わせてもらおうぜ」


ただし、と前置きをする。


「面白くなりすぎるかもな。計画は一つ。強行突破だ」

「君といると飽きないよ」


さっくりと気持ちよく笑って、冴子は木刀を構え直した。
今泣いた烏が何とやら。
とても晴れやかな顔で、<奴ら>の頭部をすれ違い様に叩き潰していく。
ふふ、と漏れる満足そうな吐息が聞こえた。
冴子の横顔は、まるで研ぎ澄まされた刀の切っ先のようだった。
ぞくり、と健人の背筋に冷たいものが奔る。
車体保護のバーに身を預けての戦闘。バギーの加速力を効果的に受け流す技術は元より、驚異的な反応速度とバランス感覚だった。


「ちょっと引き付け過ぎたかな」

「はぁ、君はやることがいつも極端だよ。健人君」

「さーせんね」


バギーで走りまわっていたのは<奴ら>の誘導のためだったが、少しやりすぎたようだ。
エンジン音に釣られ、そこいら中の<奴ら>がバギーの後ろに付いて来ている。


「わたしはいつでもいいよ」


一つだけ頷き、フルスロットル。
土手沿いを走っていたバギーを、一気に川へと向ける。
急斜面を下っていくバギーに釣られ、土手を転げ落ちていく<奴ら>。
階段昇降は可能だというのに、急斜面は駄目なのか。
刺激に反射するしかないと思っていたが、ならば知能が残っているとでも言うのだろうか。
どちらにしろ現状は変わらない。
人間であれば動けなくなる程のダメージであるが、転げ落ちるくらいでは<奴ら>には何の効果も無かった。
結局は同じだ。
ならば、と健人は更にアクセルを吹かす。
ガソリンの燃焼がクランク機構により回転力に変換される。
アーゴは一気に水上へと身を投じた。
派手な音と水飛沫を上げながら着水。
タイヤの水かきが流水を掻き分け、車体を前へと推し進めていく。
水陸両用バギーならではの水上走行。
これならばどうだ、と健人は背後を顧見た。
<奴ら>は川へと突入していたが、水流に自由を奪われ、行動不能となっていた。
水中で出鱈目に動き、身動きが取れなくなっているようだ。
流石に<奴ら>の水泳大会、とはならなかったようだ。
死人が泳ぐなど、ぞっとする。
どうせ“ぽろり”の連続だろう。
手足や肉片が水上一面に浮かぶに違いない。


「階段は上り下りが出来て、斜面は下れず、水は判別出来ず、そして人間だけを襲うのか」


判断力があるのかないのか。
不可解な存在であるのは今更考えることではないが。
健人は再びハンドルを握った。


「むぅ」


不満そうな声。
冴子が着水時の飛沫でずぶ濡れになったセーラー服を指で摘まみ、健人をじとりと睨み付けている。
薄い生地が肌に張り付き、肌色と黒下着とを浮き上がらせていた。
呆れたように健人は溜息を吐いた。


「男子が溜息を漏らすのは感心しないよ」

「放とけや。何で睨むんだよ」

「解らないのなら、別にいいさ」


別にいいと言っておきながら、視線から険は取れない。
水を被らせたのが悪かったのだろうか。
これくらいしか思い至らなかった。


「ちょこっと濡れただけだろうが。我慢しろよ」

「むぅ」

「何だよ。何が不満なんだよ」

「私も女だぞ・・・・・・!」


かあっ、と紅くなって胸元を抑える冴子。


「・・・・・・?」

「むぅぅ」


また不満そうな声が上がる。
どうしろというのか。
リアクションを待っているのだろうか。
健人としては首を傾げるしかない。
冴子が何を言いたいのか、さっぱり訳が解らなかった。
<奴ら>の生態よりも謎である。
しばらく睨み合うが、やはり解らない。


「そのナリで女じゃない訳ないだろ。何言ってるんだ?」

「そういう意味ではなくてだな。いや、なんだ、しっかり見てるじゃないか。それで、何か言う事はないか?」

「・・・・・・もしかして、見られて恥ずかしい、とか?」


ふんふん、と首が縦に振られる。
正解だったようだ。
健人は一層訳が解らなくなった。


「お前さあ、昨日の夜なんか尻丸出しで平気でいたってのに、何でそれが恥ずかしいんだよ」

「それとこれとは」

「訳解らん」


裸エプロンの方がよっぽど恥ずかしい格好ではないのか、と思うのだが。
確かに刺激的な格好ではあったが、眼前の光景を意識するよりも、どうしても昨晩の冴子の姿を思い出してしまう。
半裸も同然の格好、裸にエプロン一枚で平然としていた冴子。
今冴子が見せている恥じらいという日本人的な美徳は素晴らしいが、どうしてもそれが演技ではないのかと疑ってしまう。
昨晩のあの格好と比べれば、ブラジャーが透けているくらい、どうという事はないだろうに。
もしやこの辺りの感性の差が、冴子がいう女と男の違いなのだろうか。
何にしろ訳が解らないのは変わらないが。


「馬鹿なこと言ってないで、<奴ら>の動きでも見てろ。一端あの中州に上陸するから」

「むぅ」


そうこうとしている間に中洲へと上陸。
ここまでは<奴ら>も追ってはこれまい。多数が岸辺で唸り声を上げるのみであった。
しかし、とにかく数を集め過ぎてしまった。
合流を約束してしまった以上、川向こうに渡ることは出来ないため、引き返さなくてはならない。
健人と冴子は<奴ら>が散るまで、しばらくこの場で息を潜めることにした。
その後はまた強行突破である。
ルートは健人の頭にしかないために、冴子の反対はなかった。
目論見通りにいくにしろいかぬにしろ、今は一休みだ。


「へくちっ」


と、聞こえたくしゃみ。
冴子が濡れた身体を擦っていた。


「す、済まない・・・・・・。身体が冷えてしまったようだ。しかし荷物を持ちだす暇が無かったから・・・・・・」

「ん、ちょっと待ってろ」


健人はバイクショップから拝借したリュックの中身を検めた。
荷物の詰め込みは冴子の分担であったため、ここで何があるか確認もしておく。
工具に、缶詰に、ライト、車の整備道具・・・・・・とにかく目に付いた有用そうなものを一杯に詰め込んだのだろう。
短時間での道具のチョイスと、無造作に詰め込んだはずの道具が乱雑にはなっていなかったのは、彼女の性格か。
指に感じた布の感触に、健人はそれを掴んで引っ張り出した。
黒のタンクトップだった。


「とりあえず、これと、これを着てるといい」

「・・・・・・ありがとう」


タンクトップと、着ていたダッフルコートを放り投げ、健人は後ろを向いた。
自分も水を被ったが、あのダッフルコートには撥水加工が施してあったため、水気はもう含まれていない。
しばらく衣擦れの音を耳に周囲を警戒していると、もういいよ、と冴子の許可。


「どこか変だろうか?」

「いや、その」


変ではないけれど。
お前はアイスマンか、という言葉は寸での所で飲み込んだ。
振り返った健人の前には、バギーのボンネットの上に膝を抱えて座る冴子が。
体操座り、というやつだが、その格好が何ともコメントし辛い。
健人が渡したダッフルコートをすっぽりと被り、前を全て閉じ、フードを深々と被っていた。
コートの中に膝を入れている状態である。
そんな状態で、覗き穴のように開いたフードの口から、こちらをじっと睨みつけている。


「むぅ」

「お前は、本当に何を・・・・・・」


憮然とした視線を投げ掛ける冴子に、どうしたらいいものか、健人は額を押さえた。
ふん、と鼻を鳴らしてダッフルコートから脱皮する冴子。脱ぐのならば、何故着たのか。


「もう一度言うが、私も女だぞ」

「だから、女以外の何に見えると」

「上須賀君はいつも私を女として見てくれるな。全く。ああ、全く」

「・・・・・・ははあ。まさか、誘ってるのか?」

「そ、それは」


言い淀む冴子。
仕方のない奴だ、と健人は肩を竦めた。


「小室の次は俺かよ。勘弁してくれ。非常時だぞ」

「ち、ちがっ」

「はいはい。服ちゃんと絞っとけよな。生乾きになるだろうけど、それは我慢してくれよ」

「君の悪い所は人の話を聞かない所だな!」

「聞いてるってば。お前が女だって話だろ。まさか男だとでも?」

「いや、そうなのだが、そうではなくてだな」

「訳解らん」

「くっ・・・・・・日ごろの行いのせいかっ・・・・・・!」


肩を竦めて健人は話を切り上げた。
未だ不満そうな冴子だったが、構わないことに決めた。
冴子相手には気を使ってやろうなどということも思えない。
革手袋に手をやって、内界へと没頭する。
ずるり、と皮手袋から右手を引き抜く。
変わり果てた真黒な手が、相変わらずにそこにあった。
黒い蛇が何百と寄り集まったような造型には、自分ですら嫌悪感を抱く程。
しかし、たった一日であるというのに、相変わらずと思えてしまうくらいには、自身の変異を当然として受け入れられていたようだ。
どれだけ嘆いても仕方が無い。自分には、これの使い方と使い道を考えるしかない。
おぞましさを堪え、左手で触れる。
すると、指先に異変を感じた。


「硬い――――――?」


太いゴムのような触感、だけではなかった。
硬い甲羅のような、硬質な触感があった。
寄り集まった黒い蛇の表層が、少しだけ硬化しているようだ。
よく触らなければ解らないくらいの変化。
だが、確かな変異であった。


「どうした? まさか、何か変化が・・・・・・」


後ろから健人を覗きこむ冴子。
健人の腕を見る様子からは、恐怖心は感じられなかった。
健人は深く安堵している自分に気付いた。
正直に告白すれば、健人は試したのだ。
冴子が昨晩、民家にて気絶した健人を庇ったことは知っていたが、その時は自分の意識が無かった。
この右腕を見た冴子が、いったいどのような反応をするのだろうか。
健人はそれを、何としても知りたかった。
それによって、もし異形を大勢の前で晒すことがあった場合、彼等との距離感が決まることになる。
恐怖や忌避感だけならばそのまま消えればいいが、相容れぬ、という生理的な嫌悪が垣間見えたならば、戦闘も視野にいれなくてはならない。
大丈夫だ、と指を握っては開き、冴子に見せる。
安堵したように引き下がった冴子だったが、判断するにはそれで十分だった。
距離を詰めることで友好をアピールしたかったのだろうが、隠したいのならば、震える吐息は飲み込んでおくべきだった。
彼女に恐怖はなかった。ただ生理的嫌悪感があっただけである。
相容れない。受け入れられないと、彼女の本能が判断を下していたのだ。
こればかりはどうにもならないことだ。そして、冴子ですらそうなのだ。大多数、おおよそ全ての人間が同じ嫌悪を抱くだろうことは、間違いない。
寂しくも悲しくもない、と言えば嘘になるが、それを自然として受け入れるしかない。
浮きも沈みもしない。ただ、そうなのだ。


「君は、すごいな」


突然の切りだしに、健人は思考の渦から回帰する。


「自分が別の何かに変わっていってしまう恐怖など、常人ならば耐えられまい。
 君は君のまま、優しさを失う事も無く、小室君達に接していた。私ではそうはいかない」

「実感がわかないってのが正直な所だけどな。別に、俺が特別凄いなんてことは無いさ。人並みに笑いもすれば怒りもするし、泣きもする」

「――――――恋も、するのかい?」 

「・・・・・・ああ、そうだな。するさ」


出来るかどうかは別として。


「お前はどうなんだよ。やっぱり、好きなやつとかいたのか?」

「わたしにも・・・・・・好きな男は、いるよ」


ふうん、と気の抜けた返事を返しながら、健人は自らの記憶の中へと意識を伸ばす。
まだ何か言いたい様なそんな雰囲気を感じたが、ここで話は終わりだ。誰それが好きだの何だのと、興味はない。持てない。
自分のことで精一杯なのだ。優しさは掛けられても、愛など、とても無理だ。
だが、記憶の中でならばそれも許されるだろう。
恋か、と呟いて、健人は夕日を見上げた。
紅い陽が顔を温かく照らす。
まるであの子に抱かれていた時のようだ、と健人は思った。
健人は眼を細めて夕日を見詰めながら、幼少の頃に出会った顔も知らない大柄な女の子の事を思い出していた。






■ □ ■






File9:ある研究員の録画データ


ねえクレア、見てる?
ごめんね、うるさいでしょ? 
さっきからずっと警報が鳴りっぱなしなの。
えへへ、私のせいなんだけどね、これ。
クラッキングしてTの制御プログラムを書き換えちゃった。
今のアンブレラの甘い管理体制だから出来た芸当なんだけど。

・・・・・・ねえクレア、私たちが出会った時の事、覚えてる?
ごめん、忘れられないよね。私も、今も夢にみるもの。
あの頃の私は、ちっちゃくて、弱くて、臆病で――――――無力だった。
本当はすぐにでもあなたを追い掛けたかったけど、そんな勇気、私にはなかったんだ。
そうやって膝を抱えていたら、あの人に見つかって・・・・・・逃げだせなくなって・・・・・・。
おかしいよね。私は今、あれだけ嫌ってたアンブレラで、研究員なんかしてる。
やっぱり、パパとママの子だったってことなのかな。

たぶん、私が研究をするフリをして裏でスパイ活動をしてたことは、筒抜けだったと思う。それなのに何もなかったのは、パパのためだったのかな?
そんなわけないか。
あの人がそんなに甘いわけがないもの。
それはきっと、あの子のため――――――。
あの子のために、私を何に利用しようとしているのか、それは解らない。
でも私は、あの人のことを憎めないでいる。
ふふ、あの子ったら、あんなにも嬉しそうにかっこいいアルおじさんの話をするんですもの。
私も思い出しちゃった。
小さかった頃、パパとママに連れられて、あの人と何度か会ったことがあるの。
その時は、何でこの人はこんなに不機嫌そうなんだろう、って思ったけれど、それはたぶん、パパがいたから。
きっとお互いにライバルだったのね。あの二人。
その時の二人の顔と、あの子が言ったかっこいいアルおじさんのイメージがあんまりにも掛け離れてて・・・・・・ふふっ、ふふふ。

そうそう、クレア達には言ってなかったよね、あの子のこと。
あの子っていうのは、なんと――――――あのアルバート・ウェスカーの隠し子なのでした!
えへへ、びっくりしたでしょ?
血は、繋がってないのかな? 
心が繋がってるんだね、きっと。たぶん、あの子だったらそう言うと思う。
意外や意外、すっごく良い子なんだよ。
あのウェスカーの息子なのにね。
初めて会った時、びっくりしちゃった。
あんまりにも良い子だから、つい時間を延長して勉強を教えてあげたり、薬品やハーブの調合を教えてあげたりして・・・・・・。
えへへ、お姉ちゃんって呼ばれるようになっちゃった。
えへへへへー。

本当はもっと早くあの子のことを話すべきだったんだろうけど、今まで黙っていて、ごめんね。
あの子に関しての情報だけは、絶対に見逃されはしないから。
あの人の、あの子に掛ける執念だけは、他の何よりも強いもの。
不用心に名前を少しでも出しただけで、消されてしまうくらいに――――――。
これ、他の研究員にはあまり知られてないことなんだけど、研究施設や資金ルートの情報よりも、あの子のデータの方が重要度が上なのよ。
あの子、何て言ってるけど、そうしないとこのデータが消去されてしまうから。
初めからね、ここの制御システムはそういうプログラムとして作られてるの。
今まではクイーンの電子網を逆手にとって、あの子のダミーデータを流すことで隙を作って情報をそっちに流していたけれど、それももうお終い。
計画が最終段階にシフトして、警戒レベルが最高になったの。
これから外部との連絡は全て、規制されることになる。
クラッキング出来たのは、本当にギリギリだった。
これでもう、彼女を縛る枷は何も無い。

自由になった彼女がどうするかなんて、解りきってる。
あの子に会いにいくんだわ。
ちょっとだけ、羨ましい、かな。
ん・・・・・・すごく、いいなあって、思ってる。
でも、私が自由になったところで意味は無いもの。
私は昔からずっと、無力だったから。
DEVILを元にワクチンの研究を続けてきたけれど、何の成果も・・・・・・。
とても残酷な運命の中で、あの子は今、戦ってる。
その邪魔になることだけは出来ない。

大丈夫よ、クレア。
大丈夫、心配しないで。
あの子はきっと、正しい選択をする。
あの子が、多くの因縁が産んだアンブレラの申し子だとしても、関係ない。
あなたも会えば解るわ。
とても強い子だって。
だからどうか、あの子を恐れないで。
あの子の力になってあげてね。
昔の私にしてくれたみたいに――――――。

親愛なるクレアへ。
このメッセージがあなたに届くことを祈ります。
シェリー・バーキンより。













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