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No.21478の一覧
[0] 【チラ裏より】学園黙示録:CODE:WESKER (バイオ設定:オリ主)[ノシ棒](2011/05/21 22:46)
[1] 学園黙示録:CODE:WESKER:2[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[2] 学園黙示録:CODE:WESKER:3[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[3] 学園黙示録:CODE:WESKER:4[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[4] 学園黙示録:CODE:WESKER:5[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[5] 学園黙示録:CODE:WESKER:6[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[6] 学園黙示録:CODE:WESKER:7[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[7] 学園黙示録:CODE:WESKER:8[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[8] 学園黙示録:CODE:WESKER:9[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[9] 学園黙示録:CODE:WESKER:10[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[10] 学園黙示録:CODE:WESKER:11[ノシ棒](2011/05/21 22:36)
[11] 学園黙示録:CODE:WESKER:12[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[12] 学園黙示録:CODE:WESKER:13[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[13] 学園黙示録:CODE:WESKER:14[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[14] 学園黙示録:CODE:WESKER:15[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
[15] 学園黙示録:CODE:WESKER:16[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
[16] 学園黙示録:CODE:WESKER:17[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
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[21478] 学園黙示録:CODE:WESKER:6
Name: ノシ棒◆f250e2d7 ID:373ed26e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/21 22:34
上空。
高度にして、数千メートルを超えているだろうか。
航行中のジェット機内部で、健人達にとって知る術もない、こんな終わりもあった――――――。


「くそっ! 頭だ、頭を狙え!」

「畜生! 一体誰があの化け物を乗せたんだ!」

「ファースト・レディが噛まれてたんだよ!」


鳴り止まぬ発砲音。
黒服に身を包んだシークレットサービス達が、立て続けに拳銃の引き金を引く。
要人警護のプロである彼等が、機内での発砲という無謀を犯す理由。
彼等の銃口が狙う先は、もはや言うまでもなく<奴ら>であった。
エアフォース・ワンのコールサインが使用されているその最新鋭航空機は、今や空を飛ぶ鉄の棺桶と為り果てていた。
あろうことか自動小銃の断続的な撃発音を扉越しに耳にした合衆国議会議長は、もはやこれまでと腹を括ったような顔で、機内に設けられた執務室中央に腰掛ける男に詰め寄った。
合衆国大統領である。


「大統領! コードを入力してください!」

「しかし・・・・・・」

「私もあなたも噛まれてしまったのです! だからこそ今の内に合衆国にICBMを向けている全ての国を叩き潰しておかねばなりません!
 国家非常事態作戦既定666Dの発令以外、憲法と人民への義務を果たす方法はないのです!」


そこまで話して議長は言葉に詰まり――――――そして血の塊を吐き出し、倒れた。
周囲の人間達が倒れた議長へ“人道的処置”を施すのを眺めながら、大統領は噛み傷の跡を擦りながら呟いた。


「これは報いなのか・・・・・・」


果たして自分はあといつまで合衆国大統領でいられるものか。
考えながら大統領は手を汲み俯く。すると、卓上に並べられた資料が目に付いた。
所々に広げた傘を真上から見たような、赤と白のツートンカラーのマークが記された資料だった。
このシンボルマークを見ると、いつも思い出す事がある。


「――――――ラクーン市バイオハザード事件」


漏れた呟きは、誰の耳にも入らなかった。
いいや、ここまで来ては、いっそ誰かに聞いて欲しいくらいだった。
己の懺悔を。
今から十数年前、自分達は大きな過ちを犯している。

かつて、ラクーン・シティという、合衆国南西部にある森林に囲まれた小さな都市があった。
工場が郊外に建設されたことにより、初めは小さな田舎町でしかなかったラクーン市は、企業城下町へと飛躍的な発展を遂げることとなった。
アークレイ山地と呼ばれる山脈に面したラクーン市は、四方を山地に囲まれた山間部に位置しており、市外との交通手段はハイウェイ1本のみと企業城下町とは言え、交通インフラはお世辞にも整っているとは言えない人を拒む都市であった。
そんな陸の孤島で、ある日事件は起きた。

始まりは市井の人間による通報からだった。
それは次第に数を増し、そしてプツリと途絶えた。人の噂も何とやら、などという偶然では断じてない。交通の便もない地方都市に何故か揃えられていた精鋭達、ラクーン市警への連絡までも不可能となってしまったのである。

政府はラクーン市で何が行われているのか、早急に知らねばならなかった。
今から思えば早急に、などとその様な発想が出てくること自体、もう当時の時点であの『会社』と政府の暗部は繋がっていたのだろう。
そして調査員が十数名の犠牲を出しながらも持ちかえった映像の中に、我々は恐るべきものを見た。

人が死体となって、人を喰っていたのだ。

それを見た政府高官達の感想は――――――『使える』、であった。
彼等はそのウィルスの力を軍事利用しようと目論んだのである。
不老不死などという甘言に惑わされた者もいたらしい。
彼等はあの会社の研究結果を得るために、今後も研究活動が続けられるようにするために、あの会社が引き起こしたバイオハザードの隠蔽工作に手を貸したのである。
即ち、自国への核攻撃による、“消毒作戦”である。

当時はまだ大統領の席についてはいなかった自分だが、しかし隠蔽工作には手をかした。
いや、手をかしたどころではない。当事者だったのだ。
私はあの小都市で何が起きていたか、知っていたのだ。
“あれ”の危険性も。
兵器としての有用性も。
あの会社の残党達が、方々で同種の事件を起こしていたことも。
全部知っていたのだ。知っていて放置したのだ。むしろ、進んで隠蔽したのだ。
そこから生み出される利益を得るために。


「あの時の再来だとでもいうのか・・・・・・」


窓の下に見える我が国を見るがいい。
今まさに、あれの有機生命体兵器としての有用性が証明されているではないか。
大統領の胸中に、言いように表せない口惜しさが込み上げる。
そのまま、大統領は卓上へと込み上げて来たものをぶちまけた。
・・・・・・マホガニー調の執務机が、血の色に染まった。


「Resident Evil共め――――――!」


事実、吐き捨てて大統領は、卓上に備え付けれられている通信端末に認証キィを挿し込んだ。
核攻撃許可、及び二度目の消毒作戦の決行を指示する信号が、軍基地へと送信される。
直ぐに命令は行動に移されるだろう。
我らの、我らによる、我らのための世界を救うために。
正義は執行されるのだ――――――。

傘を開いたような赤と白のツートンカラーのマークが、吐き散らされた血によって黒く染まっていった。






■ □ ■






・・・・・・まぶしい。
まぶたに光を感じ、健人は眼を覚ました。
はっきりとしない意識の中、僅かに続く上下の揺れに身を任せる。
ここは車の中なのだろうか。


「よかった。起きたのね、上須賀くん」

「・・・・・・鞠川先生」


自分の名を呼ぶ声に眼を向けると、バックミラー越しに校医の――――――校医だった――――――鞠川静香と目が合う。
呆とした意識のまま立ち上がろうとする健人だったが、しかしそれは鞠川に止められた。
ミラー越しの目は優しく細められて、慈愛に溢れていたように思える。
彼女には失礼であるかもしれないが、健人には、もはや薄れて無くなってしまった母の記憶が鞠川に重なって見えた。


「まだ運転中なんだから、立ちあがっちゃだめ。それに、ほら」


ほら、と下げられた視線を追い、健人も自分の足元を見る。
するとそこには、健人の腿を枕に、涎を垂らしながら眠る冴子の姿が。
冴子は鞠川の友人宅台所で見た格好のまま。裸にエプロン一枚の格好だった。
眠気を覚ますように健人は目頭を揉みこみ、しばらくしてから言った。


「・・・・・・ああ、どうりで重いと思った」

「もう、だめよ。女の子に重いなんていっちゃあ」

「涎が染みて冷たいんですよ」


苦りきった健人の表情が面白いのか、まだ寝ていてもいいわよ、と鞠川はくすくすと笑った。
気まずさに窓の外を見やれば、流れる川面がすぐ近くに。川に並走しているようだ。
御別川を上流へとさかのぼっているのか。なるほど、と健人は頷いた。
上流に行けば水深も浅くなり、警察の警戒網も手薄になるだろう。
この車、ハンヴィーならば渡りきれるはず。
かすかに聞こえる寝息に耳を済ませれば、車内にメンバー全員の姿を確認できた。
ありす、と名乗った少女の姿もある。
どうやら全員、無事に脱出出来たようだ。
自分も含めて。


「毒島さんね、すごい剣幕だったのよ。誰もあなたに触るなって」


見た感じ怪我もなさそうだからよかったけど、と鞠川は続ける。


「でも安心した。上須賀くんって、なんだか他の皆と違うような気がしてたもの」
 

一瞬、健人が身を震わせたのに鞠川は気付かない。
健人は無意識に右腕を擦る。
やや窮屈な感触。制服の上から、大きめのダッフルコートを着せられているようだった。
両手には滑り止めの付いた皮のグローブが。
小室の付けている指抜きグローブと同種のフルグローブは、鞠川の友人宅から拝借してきたもののようだ。
ダッフルコートはあの民家からか。
首には裂かれた布が巻かれていた。見れば、冴子のエプロンの丈が短くなっている。これを刻んだのだろう。
流石に服の下の腕には包帯は巻かれてはいなかった。
とりあえずといった風の厚着による偽装だったが、恐らくはとっさに冴子が着せたものなのだろう。
季節感は全くない格好だった。


「無理もないわ。たった一日で世界中こんなになっちゃったんだもの。倒れちゃっても、少しもおかしくないんだから」


だから気にしないでね、との言に、健人は天井を仰ぎみて深く溜息を吐いた。
かわいい、とくすくす笑う声。
こいつはどんな説明をしたのやら、と健人は冴子を睨みつけた。
どうも鞠川は、健人が意識不明に陥ったのを、屈強な男が見せた弱みと解釈したようだ。
拗ねたように頭を掻く健人に母性本能をくすぐられているのだろう。ニコニコとした笑みを崩さず、慈愛溢れる目で健人を見つめていた。
ミラー越しに。


「さっきから蛇行してますけど、前見て運転してますか?」

「え・・・・・・あ、あらー?」


慌てたようにハンドルが切られ、ハンヴィーが傾く。
結構な横揺れ。
健人はガラスに頭をぶつけたが、誰も目を覚ますことはなかった。皆疲れ果てて、眠っているのだ。
ガラスは右隣に、冴子に押し込まれるようにして健人は席に着いていた。
これも気を使われたのか、と健人は思った。


「先生は休まなくても大丈夫ですか?」

「ありがとう。わたしは、ほら、ぐっすりだったから」

「ああ、なるほど・・・・・・」

「ち、ちがうのよ! 普段はあんなにだらしなくなんかしてないんだから!」

「ええ、解ってますよ、先生」

「むぅー! ぜったい解ってないー!」


苦笑しつつ、健人は目を閉じた。
眠気からではない。
まどろみに逃げるのは止めよう。
もういい加減、認めなくては。


「ぐ――――――っ」


喉奥に感じた違和感に咳をすると、吐き出されたのは血の塊だった。
半固体化しているドス黒い血の塊を見て、健人の意識は完全に覚醒する。

そうだ。
自分はあの夜、化け物と戦ったのだ。
そして後ろから――――――。


「どうしたの? 風邪ひいちゃったの? お熱計る?」

「い、いえ。大丈夫です」


動揺を車の振動で誤魔化して、健人は答えた。
吐き出した血で汚れた掌をズボンに擦り付ける。
どうせ血みどろなのだ。気付かれはしまい。

深く息を吐いて、シートに身を沈める。
膝元で冴子がううん、と呻き、寝がえりをうった。
エプロンからは形のいい乳房が零れおちていたが、健人には何の感想も抱けなかった。
何も考えられないまま、エプロンの裾を直して隠してやった。
今この時に健人の頭を占めていたのは、昨晩、自身の身体を付きぬけた刃物の冷たさと、熱さである。
くそ、と健人は誰にも悟られないよう、小さく悪態を吐いた。
喉は、舌も正常に動く。
一晩で全身の傷は完治してしまっているようだった。
手も足も、別段変わった様子はない。全ては元のまま、化け物のような右腕が、服の下で蠢いていた。
そう、元のまま。
浸食が進んだ様子はなかった。


「――――――いや」


違う。
それは見た目だけだ。
今健人が感じている纏わり付いて離れない不快感を表すならば、身体の内側を蛇が這いずるのに等しい。
首、脊髄から侵入した黒い蛇が脳髄の端に喰らい付く――――――そんな感覚。
身体を内側から喰い荒すつもりか。
明らかに、力の行使の代償だった。
右腕の力を使えば使うほど、自分は化け物に近付いていく。
そして、いずれは――――――。


「――――――何を、今更」


健人は自嘲的になることで絶望を誤魔化そうとした。
しかし、それは失敗した。
震える身体は、健人の内心を顕著に表していた。


「くそ、止まれよ、ちくしょ・・・・・・」

「あ・・・・・・けんと、く・・・・・・?」


膝の震えが冴子に伝わったようだ。薄らと彼女は目を開けた。
しかし覚醒には至らないようで、そのまま目を閉じてしまった。
所在なさ気に降ろされていた健人の右腕を、そっと握りながら。


「だいじょうぶ・・・・・・だいじょうぶだから・・・・・・わたしがそばにいるから・・・・・・」

「・・・・・・まだ早い。いいから寝てろ」

「うん――――――」


そのまま静かな寝息が聞こえ始めた。
寝ぼけていたのだろう、幼く聞こえた彼女の口調に、健人は微笑みながら顔に掛かる髪を避けてやった。
彼女が起きていたら、決して出来ないことだった。

思う。
いつか必ず、力を振るい続けなければならない時が来るだろう。
そして、自分は完全な<化け物>となってしまうのだ。
今は未だ“自分”だが、これからも自分が自分でいられる自身は、無い。
<奴ら>のように心を失い、人を襲い始めるかもしれない。
身も心も、<奴ら>よりも性質の悪い<化け物>に為り果ててしまうかもしれない。
生き抜いてやるとは誓った。
だが、健人が生きるには、人を捨てなければならない。
理由が必要だ、と健人は思った。これまで固持し続けてきた<人>を捨てるには、何か大きな理由がなくては、出来ない。
だが同時に、その時に彼等がどんな反応を示すのか、恐怖も抱いていた。
どうか、出来ればその瞬間には、後悔の無い選択をしたいと願う。
健人の手の震えは、いつの間にか止まっていた。






■ □ ■






「川くーだりー♪ 漕げ漕げ漕げよ、ボート漕げよー♪ らんらんらんらん川くーだりー♪」

「上手いな。将来は歌手になれたんじゃないのか?」

「えへへー、ありすえいごでもうたえるよ」

「すごいねぇ、唄ってみてよ」


歌に相の手を打ちながら、健人は笑った。後の相槌を入れたのは、平野である。
オーディエンスは男二人、歌手は希里ありす。
昨夜、健人と小室が救いだした少女だった。
うなされて飛び起きたありすを宥めるため、平野と共にハンヴィーの上部ハッチを開け、三人で横並びにルーフに腰を掛け座っていた。
日も昇り、朝。
一向を乗せたハンヴィーの、御別川上流渡航中の一幕である。


「Row,row,row your boat――――――」

「発音、上手いな。誰にならったんだ?」


言ってから、健人はしまったと口を噤んだ。
平野が額を押さえて、あちゃあとでも言いた気なジェスチャーをしていた。
誰に習ったか、など。両親に決まっているだろう。
両親のいない健人には、口にするまで考えが及ばなかったのである。
健人にいたのは、叔父ただ一人であったために。


「パパとママだよ!」


予想した通りの回答を、しかしにっこりと笑って答えたありす。
本当に強い子だ。そう健人は思った。
夜中、飛び起きる程の苦痛を感じているというのに、それを表に出そうとはしない。
健人は何も言えず、くしゃくしゃとありすの髪をかきまわした。


「・・・・・・そうか。いいパパとママだったんだな」

「うん! Row,row,row your boat――――――」

「上手いよなあ」

「ですねえ。よーし、じゃ、今度は替え歌だ」

「うん!」


今度は平野が唄いだす。


「Shoot,Shoot,Shoot your gun kill them all now!」

「きるぜむおーる!」

「はは、お前らしいや」


撃て撃て撃てよ、みんなぶっ殺せー。
バン! バン! バン! バン! あーたまんね!
――――――とでも訳されるか。
コータちゃんすごいー、というありすの声援に、ぬふ、と満足そうに鼻息を荒くする平野。
勢い二番曲目に突入しようかという所で、バン、とルーフを叩く音にそれは遮られた。
ハッチから身を乗り出してこちらを睨みつけるのは、双眼鏡で周囲を偵察していた、高城沙耶だ。


「そこのデブオタとネクラコンビ! 子供にろくでもない歌を教えるんじゃない!」

「は、はーい・・・・・・」

「ネクラって・・・・・・。俺一応年上なんだけど」

「何よ。ちょっと顔が怖いからって、イイ気になってるんじゃないわよ! 文句あるの?」

「ないっす」


頬を引きつらせながら首を振る健人。
美人が怒ると怖いという良い例だった。
改めて、こんな彼女に好意を抱いている――――――だろう、平野を尊敬する健人だった。


「俺のことはともかくとして、俺は元の歌よりも平野の替え歌の方が好きだな。
 人生はどう言い繕おうが、所詮は儚い夢物語さ――――――なんて、死にゃあ目が覚めるのかっつうの。
 今の俺達にはぴったりじゃないか。どっちもさ。なら俺はぶっ放す方がいいや」


Row,row,row your boat
Gently down the stream,
Merrily,merrily,merrily,merrily,
Life is but a dream. 

漕げ漕げ漕げよ、ボート漕げよ。
そうっと流れを下っていこうぜ。
楽しく楽しく楽しく、楽しくな。
――――――人生は夢なんだからさ。


「・・・・・・そうね。それだけは同意してあげる」

「あらら、俺嫌われてるのかと思ったけど」

「フン! 嫌いなのはその辛気臭い顔よ」


そのまま高城は車内に引っ込んでしまった。
平野がすごいですね、などと的外れな感想を言い、ありすはきょとんと首を傾げていた。


「みんな起きて! そろそろ渡りきっちゃう!」


鞠川の警告に、ありすを身体にしがみつかせる。
平野はどうするかと目を向ければ、グリップに手と足を掛けて身体を固定し、親指を立てていた。
これで中々、見た目に反し平野は逞しい。放っておいても大丈夫だろう。
衝撃と共にハンヴィーは上陸を果たす。
小室グループは道中<奴ら>に会うことも無く、御別川横断を成功させた。


「さ、ありす。おいで」

「うー・・・・・・ケントお兄ちゃん・・・・・・」

「どうした、ほら、早く」


岸辺にいち早く車上から飛び降りた健人は、平野の手を借り、ありすを降ろそうと手を広げる。
しかしありすは中々飛びつこうとはしなかった。
平野に抱えられるまま、スカートの裾を真っ赤になって押さえている。


「あの、あの、あの・・・・・・おぱんつ・・・・・・」

「・・・・・・ああ、そういうこと。パンツが見えるのが恥ずかしいのか。でもごめんな、危ないから、我慢してくれ。極力見ないようにするから」

「あ、先輩、ちょっと僕わかりました。ありすちゃんが言ってるのはそういう事じゃなくてですね」

「そうれ――――――っと」


平野の手からありすを半ば奪うようにして、抱き上げる。


「きゃあ!」

「――――――っ」


小さな悲鳴を上げて、ありすは健人の腕にしがみついた。
右腕に触れられ、反射的にバランスを崩す健人。
その拍子にアリスのスカートがハンヴィーの突起に掛かり、捲り上げられてしまった。
健人の眼前に曝け出された、ありすの素肌。
ありすははいてなかった。


「あう、あううー・・・・・・。み、見ちゃった?」

「・・・・・・見ちゃいました」

「もう! ケントお兄ちゃんたら、もう!」

「なんかもう、色々とごめん」

「はいはい、何やってるのよもう。これだから男子は・・・・・・」


呆れた、と眉間に皺を寄せて近付いて来たのは、先ほどまで小室の側にいた宮本麗。
当の小室はというと、昨夜ありすと共に連れ帰った子犬を抱き上げて元気だなあ、などと話しかけていた。
拾った子犬の名はジークにした。
ジークとは、米軍が名付けた零戦のアダ名である。
もちろん、思いついたのは平野だ。
小さくて元気で勇気があるこの子犬にぴったりだと、満場一致で決定された名だった。


「あたしたちも着替えるから、こっち見ないでよ!」


と、宮本は男子連中に言い放ち、背を向けた。
慌てて健人達も振りかえる。
三人はお互い見やって、どこか収まりが悪い微妙な笑みを浮かべた。
にやけ顔である。
こんな時に男がする反応は一つしかなかった。
後ろを伺う勇気など、欠片もなかったが。


「そうだ、小室はこれを使えよ」


思い出したように平野が小室へと差し出したのは、一丁のショットガン。
イサカ、と呼ばれるポンプアクションの銃である。
上部にはドットサイトが装着されていた。


「だから、使い方が分からないって・・・・・・。バットの方がましだよ」

「いや、バットは俺が貰おう。お前は平野の話を聞いとけ」


小室へと、平野はポンプアクションを作動させて見せる。


「これでショット・シェルが送り込まれた。あとはサイトとターゲットを合わせてトリガーを絞る。それで頭は吹っ飛ばせる。
 練習してないから近くの<奴ら>だけにしておいた方がいい」

「弾が無くなった時は?」

「こうするとこのゲートが開くから、こうやって押し込めばいい。普通は四発、薬室に一発こめたままでも五発しか入らないから気を付けて。
 それからこの銃はもう一つ特徴があって・・・・・・」

「一度に聞いたって分かんないよ」


仕方なさそうに小室は銃を抱え、平野から離れた。話はこれで終わりだ、という意思を態度で表していた。


「いざとなったら棍棒がわりにするさ」

「・・・・・・」


俯く平野。
健人は仕方ない、と肩をすくめた。


「口でどれだけ教えた所で、必要に駆られなければ覚えられないさ。銃は撃って覚えるもの。違うか?」

「・・・・・・はは、その通りですね、先輩」

「小室も、悪いと思ってるんなら戻ってこい。ただし、振り向かずにバックでな」

「う・・・・・・はい。ごめんな、平野」

「いいよ。使ってみないと分からないよね、やっぱり」

「そうだな。どうやったって使わざるを得ない事態になるさ。これから先、絶対に」


無意識に、拳が握られているのに気付く。
健人は天を仰いでゆっくりと指を解いていった。
背後では、どれにしようかなあ、サイズがないぃー、先生のそれ反則ですよ、などという声が聞こえてくる。
見るな、と言われれば意識してしまう訳で、健人達には衣擦れの音が余計に大きく聞こえるのだった。


「いやさ、気のせいじゃないんだけどなあ、これが。聞こえすぎだろ」

「どうしましたか? 先輩」

「いいや、何でも。それよりも見るななんて言われると、よけいに音が聞こえるよなあ。あ、いまホックを外した音がした」

「先輩、よく聞こえますねそんなの。でも、まあ、声とか色々聞こえちゃうってのは、否定できないっていうか」

「だろ? あといい加減先輩っていうのは止めようぜ。俺かあいつか解らなくなる。二人ともさ、俺のこと名前で呼んでもいいぜ。俺も好きに呼ぶから」

「でも」

「今更だろ。学校なんてもう無くなったんだ。それにこれから、年がどうとか、何の意味もなくなる」

「そう・・・・・・ですね。うん、解ったよ、健人さん」

「じゃあ、僕は健人先輩で」


前から順に、小室、平野である。


「ならばこれからは健人――――――くん、と呼ばせてもらっても」

「お前は駄目に決まってるだろうが馬鹿野郎」


ノ―タイムでアスク。
いつの間にか横に並んでいた冴子へと、最後まで台詞を言わせることなく間髪いれずに答えた健人。
つれないな、と肩を落とした冴子は恨みがましい目で健人をねめつけていた。


「なんだよその目は。俺が何かしたのか?」

「別に、何も。ただありのまま起こったことを話すと、私は上須賀君の膝を枕にして寝ていたと思ったらいつのまにか小室君に入れ替わっていた、というだけだ。
 何を言っているのか解らないと思うが、私も何をされたのか解らなかった。恥ずかしさと悔しさでどうにかなりそうだった。それだけだ。ああ、それだけだとも」

「お前、車の揺れで横倒れになったんだろうなー、とか思ってたら確信犯だったのかよ。いい加減にしろよコラ」

「解っている。女たるもの、慎みを持たねばな」


本当に解っているのだろうかこいつは、と疑問に思う健人だった。


「おにいちゃん!」

「うん?」


ありすの声に振り向けば、着替えの終った面々が。
もう大丈夫です、とスカートの端をひらひらとさせるアリス。もう下着を履いているというアピールなのだろう。
高城は胸元を開けたジャケットにスカートと、私服風にアレンジしていた。
鞠川はほとんど変わってはいない。サイズが合わなかったのだろう。長めの布を腰に巻き、スカートにしていた。
もちろん冴子も、健人達の元に現れた時には着替え終っていた。制服姿は変わらず、スカートをより動きやすいスリットの深いものへと変えていた。
足にはガーターベルトと黒のストッキングが。少し赤くなってスリットを引っ張るのは、大胆にし過ぎたと自覚しているからだろうか。
そして一番変貌を遂げていたのは、宮本だった。
健人達と同じく上下共に制服姿ではあった。しかし、身につけられていたものが重々しく異彩を放っている。
彼女は鞠川友人宅で発見した肘膝用のサポーターに、保持用のガンベルト。
そこに繋がっていたのは、Springfield M1A1スーパーマッチ。
物々しい格好を見て、小室達はあはは、と乾いた笑いを上げた。


「なに? 文句ある?」

「いや、似合ってるけど・・・・・・撃てるのか、それ?」

「平野君に教えてもらうし、いざとなったら槍代りに使うわ」

「それがいいだろうさ。俺も銃は使えるけれど、平野・・・・・・コータの方が教えるのに向いてる。で、どうよコータ」

「あ、使える使える使えます! それ軍用の銃剣装置ついてるし、銃剣もあるから!」


コータ指導の下、長い銃口の先端に銃剣を取りつける宮本。
そうして皆の戦闘準備は完了した。
・・・・・・その時は、皆誰もがそう思った。

男メンバー三人は一気に土手を駆け上がり、周囲を警戒する。
小室と平野は銃口を背中合わせに向け、二人を援護する形で健人はバットを構えた。
数日前の健人ならば、手の内にある鉄の棒に大きな安心感を抱いていただろう。
しかし、今の健人にとってバットなど飾りのようなものだ。綿棒にも等しい。


「クリア!」

「<奴らは>いない!」

「いっくわよー!」


小室の合図に従い、ハンヴィーは加速。
一気に土手を駆け上がり、アスファルトにタイヤ痕を残しながらドリフトし、停止した。


「なんでハンビーであんな動きができるんだ・・・・・・?」

「さあ、苔とかで滑った、とか? それよりも俺は先生が目を瞑ってたのが怖いよ・・・・・・」


残りのメンバーも土手を上がり、周囲を見渡す。
<奴ら>姿は無かった。
双眼鏡で周辺を警戒していた高城が、何をかを考え込むようにして言った。


「川で阻止できたわけじゃないみたいね」

「世界中が同じだとニュースで伝えていた」

「ニュース?」

「ああ、そうか上須賀君はテレビを見ていなかったな。そう、世界中が<奴ら>で溢れ返っていると報道されていたよ。
 パンデミック、というやつだそうだ」

「感染爆発か。世界中、同時に?」

「ああ、それも同じ日に」

「へぇ・・・・・・」


どうだかな、と健人は内心呟く。
同日に、という辺りが臭い。
死体が歩き回るという現象が、何かの感染症であるというのも確証は持てないが・・・・・・しかし、その線が最も確率が高いだろうか。
それは、<化け物>から蛇を感染させられた健人にとり、大いに実感できることである。
だが、もしこれが本当に感染であるのだとしたら。
同時多発的な発生など、有り得るのだろうか。
人為的なものではないのだろうか。
そこまで考え、健人は頭をふった。
よそう。
考えた所で無意味なのだ、こんな問題は。
現象に理由を求めるのは、安心を得たいがため。
こうなってしまった理由を確かめることなど、素人には不可能だ。
今考えるべきは、生存への方法である。


「でも、警察が残っていたらきっと」

「・・・・・・そうね。日本のお巡りさんは仕事熱心だから」


宮本の問いに応えた高城は明るい調子だったが、口を開くまでの寸瞬の間が、全てを表しているように健人は思えた。


「これからどうするの?」

「高城は東阪の二丁目だったよな?」

「そうよ」

「じゃ、一番近い、まず高城の家だ。だけど、あのさ・・・・・・」


言い淀む小室。
分かっている、と言った風に高城は目を伏せた。


「分かってるわ。期待はしてない。でも――――――」


それでも、望みは捨てたくはない。
言葉に出ることはなかったが、高城の想いは小室に伝わったようだ。


「もちろんだ! よし、行こう!」


小室の励ますような一声で、ハンヴィーは皆を乗せ、出発した。
目指すは東阪二丁目。高城宅である。
ここからならば、十分程度で到着するだろう。
エンジン音を耳にしながら、健人は座席のシートに浅く腰かけた。


「微笑ましいな」


他の座席も空いているというのに、健人に寄り添うよう隣に陣取った冴子が指したのは、ルーフに上がった小室と宮本。
朝日を浴びながら、二人で語らっているのだろう。
時折笑い声が漏れていた。


「なあ」

「なんだい?」

「これ、やってくれたのお前だろ?」


これ、と健人が掲げたのは、ダッフルコートの裾。


「ああ。安心してくれ、誰にも見られてはいないよ。それに、触れさせても。皆には君は寒がりの冷え性なのだと説明しておいた」

「・・・・・・まあ、いいか。大変だったろ、色々とさ。服着せたり、引きずっていったりさ」

「いいや。私は楽しかったぞ。とてもな」

「・・・・・・そらよかった」

「出来ればまた私に、服を着せさせてもらえないだろうか?」

「寝ろ。疲れてるんだよ、お前」

「残念だ・・・・・・」


残念そうに眉を寄せて引き下がる冴子。
誰も彼もが、良い意味でも悪い意味でもタガが外れかけてきているな、と健人は思った。
もちろん、自分もである。
窓の外を見る。
<奴ら>の姿は見えない。
夜が明けてから、まだ一度も<奴ら>に出くわしてはいなかった。
これが本当に夢なのではないかと錯覚してしまう程に。
そんなことはあり得ないと解っていながらも、幻想に縋りつかなければやってはいけない。
救いは必要だ。
逃避でもいい。
それらはあらゆる存在に必要不可欠なものなのだ。
人にとって、そして化け物にとってでさえも。
窓の外を見る。
<奴ら>の姿は、まだ見えない。
そして、昨日あれだけ飛びまわっていたヘリや、旅客機の影も、また。
静かだった。あまりにも静かだった。生者も、そして死者の気配も感じられない程に。
健人にはそれが、嵐の前の静けさに思えてならなかった。






■ □ ■






File6:ある研究員の日記

ようやく今日の勤務が終わったぜ。まったく毎日残業残業・・・・・・いい加減にしてもらいたいもんだ。
だがまあ、やりがいはあるさ。こんな研究は他じゃあ絶対できないからな。文句は言えねえ。
さ、今日の分の日記を書いて寝ないと。明日から監視と経過報告のシフトに入らなきゃならねえ。
・・・・・・記録開始時間に3分遅れた前任者がいたが、それから奴の姿を見た者はいない。
噂じゃあボスに直々に消されたとかなんとか。
それにしたって対象はあの被検体だ。手抜きは出来ない。

あの被検体は色々とおかしい。
ウロボロス・ウィルスに適応したものは、姿はそのままに、肉体、知能、あらゆる能力が強化されるはずだ。
だが、被検体に感染したウロボロスは浸食が進んでいる。間違いなくDNAは適応しているはずなのに。
なら考えられることは一つ。
あれはウロボロスが適応したのではなく、支配下におかれているってことだ。
ウロボロスは被検体の無意識を読みとって、忠実に姿を変えたってこと。そういうことだ。
とんでもねえや。
ウィルス研究者として垂涎の存在だね全く。

思えばTに始まる始祖ベースのウィルスは、その全てが宿主の意思を多少なりに反映する性質があった。
アシュフォードやモーフィアスが顕著な例だな。
クラウザーやサドラーといった変わり種もいたが・・・・・・あいつらは除外しておこう。
つまり、だ。
何が言いたいかっていうと、始祖ベースのウィルスは、宿主の意思――――――脳電位によって操作される性質があるってことだ。
タイラントが暴走状態に陥るのだってそうだ。
あれはウィルスがタイラントの生存本能、脳が発生する危険信号に反応したんだ。
そう考えると、ウィルスがまず初めに宿主の脳を破壊しに掛かるのも頷ける。
世界中にひしめき合ってるゾンビ共は、ウィルスのリーディングに耐えられなかった奴らってえ訳だ。

感染から、DNAの適応までが第一段階。
そして宿主の脳電位によって支配下に置かれ、安定状態に入るのが第二段階。
最後に、宿主の意思によって自在に機能を変えていく進化の段階、第三段階。

第一段階が全てだとされていたこれまでの研究者にとって、第二段階以降の可能性の示唆は飛躍的なブレイクスルーだった。
もちろん全ての感染者がそうじゃないことから、ウィルスが反応する脳電位パターンがある、ってえことは誰にも想像がついたことだ。
今回の実験は優秀なDNAを持つものを見出すためのふるいと、脳電位の適応パターンを探り出すって側面もあったわけだ、これが。

結果は上々。
パターンの特定にまでは至らないが、ウィルスの暴走を抑制することには成功した。
薬剤のフルコースから解放されて、ボスだって大喜びだ。
直々に被検体に接触するプランまで立ててるっていうんだから、その入れ込みっぷりといったらもう、貴重なサンプルへの執着じゃあ説明付かないかもな。
この前もボスに報告に行った時、チャイムを何回もならしたってのに気付かず、真っ暗な部屋の中で被検体の動画データを見ては喉の奥をならしてたんだぜ。
あの鋼鉄の塊のような男がだよ。
その時は恐ろしくなって逃げちまったが、数時間後に報告があったと思いだして戻ったら、まだPCの前に座っててさ。
いやあもう、恐ろしいったらなんの。
ありゃあきっと、俺みたいな小物にゃあ考えもつかないようなトンデモねえ計画を立てていたに違いねえ。
世界中に改良型のTをばら撒くようなお人だからなあ。
ま、あのボスにああまでさせる被検体が特殊ってことだな。
なんてったって、脳電位特殊適応型。
流石は最後のウェスカーだ。

――――――おっと、ここまでにしておこう。
未確認の情報は価値がない。
噂を信じちゃあいけないな。うん。科学者として
プライベートスペースでの書き込みだが、どこに目があるか解らねえしよ。
王様の耳はロバの耳ー。
ウェスカー計画なんて存在しないのさー。
ただの噂なんだぜー、っと。

それじゃあ、今日の日記終わり。
おやすみなさい。

――――――しっかし先週ボスがここから、わざわざ一般の郵便網で送りだした小包。
保安検査に引っ掛からないよう処理はしてあったようだが、ありゃあ一体なんだったんだ?








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