<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.21478の一覧
[0] 【チラ裏より】学園黙示録:CODE:WESKER (バイオ設定:オリ主)[ノシ棒](2011/05/21 22:46)
[1] 学園黙示録:CODE:WESKER:2[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[2] 学園黙示録:CODE:WESKER:3[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[3] 学園黙示録:CODE:WESKER:4[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[4] 学園黙示録:CODE:WESKER:5[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[5] 学園黙示録:CODE:WESKER:6[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[6] 学園黙示録:CODE:WESKER:7[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[7] 学園黙示録:CODE:WESKER:8[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[8] 学園黙示録:CODE:WESKER:9[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[9] 学園黙示録:CODE:WESKER:10[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[10] 学園黙示録:CODE:WESKER:11[ノシ棒](2011/05/21 22:36)
[11] 学園黙示録:CODE:WESKER:12[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[12] 学園黙示録:CODE:WESKER:13[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[13] 学園黙示録:CODE:WESKER:14[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[14] 学園黙示録:CODE:WESKER:15[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
[15] 学園黙示録:CODE:WESKER:16[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
[16] 学園黙示録:CODE:WESKER:17[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[21478] 学園黙示録:CODE:WESKER:3
Name: ノシ棒◆f250e2d7 ID:6a403612 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/21 22:33
毒島冴子を語る際、切り離せないのが彼女の持つ武の才についてである。
曰く、現代を生きるサムライ。
武芸家の生まれであることは元より、2年生次、彼女が立てた全国大会優勝の記録がその腕前を保障している。
困っている者を見過ごせず、また快く己の力を他者に貸し、嫌味にならない程度のお人よし。
怜悧な美貌とは裏腹にとっつき難いというわけでもなく、誰にでも礼節を持ちつつも朗らかに接する姿勢はなるほど武人と呼ばれるにふさわしい。

では自分はどうだろうか、と健人は思う。
言うまでもなく、有象無象の一人である。
何もそれが悪しという訳ではない。
彼女と自分を比べ、そのあまりもの差に劣等感や羨望を抱いている訳でもない。
そも、そんな自分に満足をしているのだから、抱きようもない。
健人にとって最悪だったのが、そんな十把一絡げの一男子である自分に、学園一の高嶺の花が懸想している、などという噂が立っていたことだ。

ある日を境に、彼女は健人をとても気に掛けるようになった。
それは健人達が中学生だった頃である。
理由は罪悪感からだろう。しかし健人にとって、そんなものなどはっきりと言えば、迷惑でしかなかった。
男女共に尊敬を集めていた学校のアイドルが、うだつの上がらない、どこか暗い険のあるパッとしない男子生徒に付き纏うようになったとしたら、どうなるか。
陰惨なイジメ、とまではいかないが、人間関係において健人は大変苦労することになった。
周囲が直接的な行動に訴えなかったのは、それも冴子が睨みを利かせていたからだった。
心底迷惑だった。
彼女が良かれと思ってする行動は、ことごとくが裏目に出て健人に被害をもたらすのである。
しかもそれを冴子自身が自覚していて、これではいけないとやり方を変え、そしてまた健人が睨まれるという負の連鎖。
当人が理解しているのだから、そんな状況が延々と続くわけもなく、手詰まりになるのは当然だった。
なんでもないという風に笑っていながらも目に一杯涙を湛えて、問う彼女。

――――――どう償えば、私は許されるのだろう。

そう言っていたような気がする。正確に記憶していないのは、健人が彼女の顔を直視していなかったからだ。いくら嫌っているとは言え、泣かれては目覚めが悪い。
だが健人はその問いが発せられた裏にある的外れな思い込みに呆れた。
精神修行でも何でもしてくれよ、と反射的に答えそうになったが、呑みこむ。悪意も交じってはいたが、それがもっとも正解に近い返答であり、また彼女自身が気付かねばならないことだった。
結局健人は、ここでも舌打ち一つ、無言を返した。健人が背を向けた時、彼女がどんな顔をしていたか。そんなことは解らなかった。

健人が怒りを抱いているのは、冴子が自分へと振った暴力行為にではない。
弱者に力を振う事を良しとする、その性根である。
そしてそれに冴子が後悔を抱いているということだ。
生来から武を嗜んでいるというのならば、自らの性根に後悔を抱いたとして、それを克服できる術を知っているはずなのである。
叔父が健人へと武術を叩きこんだのは、むしろ精神性の研鑽を狙ってのことであったのだから。

全てが憎い、殺せ、という内なる声が消えるまで、健人は打って打って、打たれ続けた。
より純粋になるよう。より己を消し去ってしまえるよう。無くしてしまった己は、叔父の言葉で埋めればよい。
健人でさえ、寂しさは残りこそすれ、怒りや憎しみを捨て去ることが出来たのだ。
それ以上に恵まれた環境にあった冴子に、自分を殺すことが出来なかったとは言わせない。
別段、格下相手に思う存分力を振ってみたいという欲求は特別なものではないのだ。
身近な所で、ネットゲーム等の中にみられるチート行為がそれだ。
本能からくる抑えきれない殺人への衝動でもなし、ただの暴力への陶酔だ。

で、あるというのに彼女は努力することを放棄している。
まるで健人へ償いをし、許されれば自身の行為が無かったことになるとでも思っているかのような振る舞いだった。
忘れられるとでも思っているのかもしれない。
それが健人をたまらなく苛立たせた。
意識を傾けるべき方向が、全く違う。
そんな勘違いの情熱を向けられたところで、鬱陶しさしか感じない。
今もそうだ。


「軍手の下に包帯・・・・・・怪我をしているのか?」

「触るな。何ともない」


健人は軍手が破れた時のため、駄目になったシャツを割いて作った即席の包帯を巻いていた。
それを目聡く見つけられたようだ。
校医であった静香が気付く前に、伸ばされた手を払う。


「あっ・・・・・・す、すまない」

「余計な気遣いは止めてくれ。それより<奴ら>に集中しろ。掴まれたらお終いだ」

「このっ、あんたね!」

「た、高城さーん! ここは口出ししないほうが・・・・・・」

「黙んなさいミリオタ! あんたね、さっきから――――――」

「さっきから、何だ?」

「ひぃ、ここっ、小室! あんた何か言ってやりなさい!」

「ええっ? 何で僕が・・・・・・」

「つべこべ言うな!」


急に矛先を向けられたのは小室考。
どうもこの小集団のリーダーといった位置にあるようで、彼の登場によって皆安堵の表情を浮かべていた。
そんな彼も戦利品であるらしいバイクと宮本麗の相手に忙しかったらしく、話を掴めてはいないようだった。
鞠川の友人宅である高級マンションへの道中、<奴ら>に囲まれての強行軍の最中、小さな諍いに耳を傾けられる高城の胆が座っているのかもしれないが、小室に噛みつく理由は傍らにべったりと侍っている宮本にあるように見えた。
あるいは、ただの彼女の強がりか。


「ほら、一人称僕キャラはもういらないんだよ! とか! 他のパーツに比べて目つきだけ悪すぎるんだよ! とか! 色々あるでしょうが!」

「・・・・・・だそうです、先輩」

「解った。使い分ける奴も珍しくないし、これからは俺でいくよ」


すぐさま言い分を呑み、素直に頷いてみせた健人に高城は喉を詰まらせた。
どうやら斜に構えた答えを返されることを予想していたようだったが、健人としては後から合流した身であるのだから、そうまでして出しゃばるつもりはない。
これは個人的な問題というだけだ。
突き付けられた指が所在なさ気に揺れ、ゆっくりと下される。フン、と鼻をならしそっぽを向いた時には、もう高城は健人への興味を失くしたようだった。
向いた先に<奴ら>いれば、そんなものは消えて失せるだろうが。

近付く<奴ら>のガチガチと鳴らされる歯。
道すがら、端から順に、拾った鉄パイプでもって頭部を砕いていった。
脳の破壊、もしくは脳からの信号を遮断すれば活動を停止するようだ。
無敵でないのならば、やりようはいくらでもある。
健人の太刀筋、否、“鉄パイプ筋”を見て冴子がほうと感嘆の声を上げた。
ちらりと視線を向けると、気まずそうな顔をして瞳を揺らした後、冴子は俯き加減に目を逸らした。
高城が再び剣呑な空気を発している。
溜息。


「僕、いや俺を気に掛けるよりも、やるべきことがあるだろう。
 ちらちら振り返るな。背中の心配なんかしなくてもいいから、お前は安心してチャンバラしてろよ。そうすりゃ皆生き残れる」


健人としては突き放したつもりであったが、その意図は冴子には伝わらなかったようだ。


「あ・・・・・・ああ! そうか! そうだな! うん! 私の背中、君に任せた。ちゃんと守ってくれよ!」


よし、と気合を入れて、何故か俄然やる気を見せ始める冴子。
何故そうなるのか。やはりこいつは解らない。
理解出来ないと首を捻りつつ、健人はまた一体、<奴ら>の頭を叩き割った。
飛び散る脳漿と血糊を整髪剤に、髪を後ろに撫でつける。


「うは、なんだか先輩ってその道の人みたいですね」

「失敬な。サングラスを掛けないだけの慎みは俺にだってあるよ。
 君は大人しい奴だと思ってたけど、中々言うじゃないか、平野君。腕の方も達者だ。何処かで射撃経験が?」

「いやあ、ちょっと海外でインストラクターに・・・・・・って、あわわわ、ナマ言ってすみませぇん!」

「いいよ気にしなくったって。それに君には負けるさ」


口の端に浮かぶ笑みは、健人の顔面にこびり付いた緋沫と相まって、凶貌を醸し出していた。
手製の銃を構える平野とは良い勝負である。
友人曰く、「ラスボスみたい」と評されていた健人だったが、その評価ももはや過去となれば、寂しさしか感じなかった。
健人はその友人が冴子に好意を抱いていたことを知っていた。
彼が健人に近付いた理由は、冴子との仲を探るためだった。
化物と化す前から人恋しいきらいがあった健人にはそれでも嬉しかった。
冴子への好意などなかったのだから、始まりはどうあれ、彼との間に築けた友情は真実だっただろう。
友人として、彼を化物となる前に人の手で人のまま終わらせてやれたことにだけが、『人間』上須賀健人の功績であり、全てであった。
――――――今はもう、違う。
ここに居るのは自己の生存が全てであるくせに寂しさを捨てられず、人にまとわりつくしかない、『化物』上須賀健人である。

変異した右腕でもって<奴ら>の顎を打ち上げる。
異形の膂力が込められた掌は、人間の頭部を紙風船の如く破裂させた。
その威力に健人は恐れ慄いた。
抑えが利かない。これでは自分で化け物だと吹聴しているようなものだ。

ばれてはいないだろうか。
周囲を見渡す。
・・・・・・目が合った。


「君は――――――」


冴子だった。
戦い慣れている彼女だけが、健人の様子に気付いていた。
人間の腕力では、人の頭部を粉砕することなど出来る訳がない。

排斥、魔女狩り・・・・・・健人の脳裏に不吉な単語が浮かぶ。
いや、世界が“こんな”になってしまったのだ。
一人になるのは寂しいが、<化け物>は一匹でいるほうが安全だ。
仕方がないだろう。
健人は皆に気取られないよう、静かに踵を返した。


「あ・・・・・・だ、駄目だ!」


後ろから、“右手首”を掴まれて健人は立ち止まった。
冴子の眼が驚愕に開かれる。
異形と為り果てた健人の右腕は、布切れ一枚で覆った程度では、感触までは誤魔化す事など出来ない。
完全に気付かれた。
このまま振り払って逃げるべきだ。健人は思う。
だが、彼女の握ったのは、右腕なのだ。
彼女の白く細い指を犠牲にしてまでも、逃げていいものか。
いや、しかし、保身を第一とするべきでは・・・・・・。


「毒島先輩達、大丈夫ですか! 何かあったんですか!」

「い、いや! 何でもない! 大丈夫だ!」


健人の寸瞬の思案は、しかし無意味だった。
一体何故、どうして。
健人は冴子を見遣るが、冴子は前を見据えたまま、健人の腕を掴んで離さない。
冴子に腕を取られたまま、引きずられるようにして健人は目的地である鞠川の友人宅、高級マンションのオートロックを潜った。
もはや触手の群生となった右腕には碌な触覚もない。
ない、はずなのだが、何故か冴子の握る手から、じわりじわりと熱が伝わってくるような、そんな気がした。
気がした、だけなのだから、これはきっと唯の思い込みなのだろう。
結局健人は目的地に到着するまでの数分間、冴子に手を握られたまま、振りほどくことが出来なかった。






■ □ ■






「セオリーを守って覗きに行く?」

「俺はまだ死にたくない」

「右に同じ」


言いつつ、ロッカーをこじ開ける。
鞠川の友人宅に立て籠った小室達一向。
男共は労働、女性達は風呂と集団内ヒエラルキーがどのように位置付けられているか、如実に理解できる光景である。
せえの、という掛け声で、男衆三人はロッカーにバールを挿し込み力を込めた。
しかしロッカーは変型するばかりで、開く気配は一向にない。バールの挿し込み方が悪く、錠の内部構造が破損してしまったようだ。
危険物を保管してあるのだから、当然このロッカーも特別製という訳か。
何とか開いたもう一方のロッカーに散在するショットシェルは、どう見ても狩猟用のそれではなかった。
鞠川の友人とは何者かという疑問は尽きなかったが、それに答えられる者もいなかった。


「駄目だな。二人とも、ちょっと退いてろ」

「せ、先輩?」


健人は二人を後ろに下がらせ、差し込まれたバールに拳を振り降ろした。
もちろん、右腕で、である。
弾けるようにロッカーの扉が開き、バールが空を回転して平野の脚元に突き刺さった。
青い顔をして平野が尻餅を着いた。


「す、すごいッスね」

「だろ?」


道中、健人の執る構えをこれでもかと見せ付けられてきた二人である。
これも拳術の成せる技だと思い込んでいるようだ。
平野に至ってはそんなことよりも、ロッカーの中身の方が重大であるようで、奇声を上げて立ち上がり、中身の検分を始めている。
豹変した平野の態度に小室は顔を顰めていたが、健人にしてみれば解り易くて良かった。
銃とは力の象徴である。
戦うつもりならば、力を身につけねば。


「そ、れ、はぁ! イサカM-37、ライオットショットガン!」

「へぇー・・・・・・」

「イサカか」

「そう、アメリカ人が作ったマジヤバな銃、だー!」


よく解らないといった風に構えてみる小室。
叔父からは一通りの有名所の銃器を手に取らされてはいたが、イサカM-37ショットガンは現物を見せられたのみで、触らせてはもらえなかったことを記憶している。
詳細な理由は解らなかったが、どうやら叔父のジンクスによるものだったらしい。
叔父の元同僚であった男が愛用する銃は、使わないと決めているのだとか。
そう語る叔父の瞳が、憎しみで赤く輝いているように見えたのが印象的だった。


「弾が入ってなくても人に銃口は向けるなよ」

「そう、向けていいのは――――――」

「――――――<奴ら>だけ、か」


それだけで済めばいいけど、という小室の呟き。
無理だよ、と平野は返した。健人も同意見だった。
いずれその銃口は生者を捉えることになるだろう。
そしてこの身の正体も、白日の下に晒されることになるだろう。
解りきっていることである。
重要なのは、その瞬間が来たら、どうするのかということだ。
引鉄を弾くのか、そして――――――。


「先輩も弾込め手伝ってくださいよ」

「あ、ああ。ごめん、手伝うよ」

「面倒なんですよね。弾を込めるのって」

「銃を扱う時は女を扱う時のように愛情込めて、だってさ。じゃないと土壇場で裏切られる」

「へぇ、誰の言葉なんです? それ」

「叔父さんの元同僚だった人の言葉。すごいぞ、マジもんの女スパイだ」

「うは、すげぇ。さっきから手付きが相当手慣れてるのも、その伝手ですか?」

「うん、こう見えて海外生活が長くってね。海外で、特殊部隊の隊長だった叔父さんから手解きを受けたんだ」

「特殊部隊! チーム名は?」

「確か・・・・・・スター、なんだっけな。各分野から人材を集めた特殊作戦部隊だとか何とか」

「超エリートじゃないっすか! 僕もアメリカで元民間軍事会社のインストラクターに訓練を受けて――――――」
 
「僕はもう二人の話には着いていけないよ・・・・・・」


小室の呆れ声を耳に、黙々と弾込め作業に没頭する。
平野との取り止めもない会話は、思考に引きずられていた健人にとって、とても有り難かった。
やはり小室は理解できないという風な顔をしていたが。


「流石にちょっと騒ぎ過ぎかも」

「耳に毒だっていうのは同意見だけど、大丈夫だろう」


風呂から聞こえる嬌声に苦笑いしつつ、健人は双眼鏡を片手にベランダへと足を向けた。
先ほどから橋向こうに向けてスコープを覗きこんでいた平野も気付いているはず。
小室にテレビの電源を付けろと指示を出していた。


「人間は怖いよ、叔父さん・・・・・・」


ベランダで夜風に当たりながら、健人は呟いた。
足下からはまばらに動く<奴ら>の呻き声と、それに抵抗する生者の声。
彼等の声色は、何処か狂気染みた響きさえしていた。
人間は怖い、と健人は双眼鏡を覗きながら、再び呟く。
でも、人から離れては生きてはいけない。

レンズには、この異変を政府の陰謀と決めつけ、弾圧する男の姿が映る。
同調する人々。
いずれ過激なカルト宗教団体が発足するだろう。
身体が震えた。
異形の末路は、想像に容易い。
“ばら”されて火炙りにされるしかない。
警官が男を射殺した所で双眼鏡を下ろした。
背後には鞠川と小室達がじゃれつく声。
何の慰みにもならなかった。

落ち着いたのを見計らい室内に戻り、幸せそうな顔をした平野と入れ違いに階下へ。
途中、これも幸せそうに顔をにやけさせた小室とすれ違った。
一体何なのかは解らなかったが、さて水分でも補給しようとキッチンへ向かうと、嫌でもその理由が目に付いた。
そこには白い尻肉に黒字が映える、エプロンを一枚纏っただけの姿の冴子が。ショーツ一枚に、素肌にエプロンという出で立ちである。
リズミカルに包丁を叩く音からして、料理を作っているのだろう。
醤油の煮立つ食欲を刺激する良い臭いが漂っていた。
包丁の音が止まる。
こちらに気付いたようだったが、健人は構わず冷蔵庫を開けて、牛乳パックを取り出して一気に飲み干した。


「なんだよ、じろじろ見て。言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ」

「うっ・・・・・・それは、その・・・・・・すまない」


溜息。
会話することすら疲れる。


「さっき顔を赤くした小室君とすれ違ったが、なるほど、そういうことか」

「そういう、とは?」

「あいつを誘ったんだろ? その格好を見れば解る。こんな状況だ、種の保存の本能だったか知らないけれど、何も言わないさ。
 ただやるんなら声が漏れないように、個室でやれよ。火を使ってるんだから危ないしな」

「ち、違う! 誤解だ! 私はそんな・・・・・・」

「どうだか」

「待ってくれ!」


言い捨てて去ろうとする健人の腕を、冴子は掴んだ。
冴子が掴んだのは、また右腕だった。
息が荒い。
熱い吐息を至近から浴びせられ、健人は眉を潜めた。
自分が<化け物>であることは、もう露呈しているはず。
しかし、半ば覚悟していた断罪はなかった。
こいつの狙いが解らない。


「解っている――――――」


冴子は言った。


「軍手と包帯を外して、君の、その右腕を見せてほしい」


冴子の真っ直ぐな瞳が健人を貫く。
その言葉に強い決意が込められていることは、健人も解った。
だから健人も真っ直ぐに冴子を見つめ、応えた。


「断る」


冴子の瞳が揺れる。


「ど、どうして・・・・・・」

「それはこっちの台詞だ。もう解ってるんだろ、俺の腕の事。なら、どうしてこんな回りくどいことをする。
 今大声で叫ぶなり何なりすれば、俺を此処から叩き出せるぞ」

「私は、君の力になりたいと思って・・・・・・」

「それが余計な御世話だと何故解らないんだ、お前は。本音を言うと俺はな、別にここから追い出されても構わないんだ」


<化け物>と後ろ指を指されるのは辛いけれど、独りきりで生きるのは寂しいけれど、それでも生きていける。
ならば、それでいいではないか。
自分は多くを望んではいない。望めない。
ただ寄り添っていたかっただけだ。
止まり木が無ければ飛び立つのみ。


「ならば、せめて包帯を巻かせてはくれないか?」


諦めたのか、肩を落としながら懇願する冴子。
もはや視線は下へと外され、唇を噛み締めて、堪えるようにして健人の答えを待っていた。


「だから、それが余計なことだと何度も――――――」

「しかし、首の所から、その、“見えてしまっている”から」

「――――――え?」


無意識に首筋に手を伸ばす。
触れる。
――――――明らかに、人肌の感触ではなかった。


「ひ、い――――――!」


健人は自らの口を、悲鳴が上がる前に塞いだ。
膝に力が入らず、壁を擦るようにして座り込む。
慌てて駆けつけた冴子が健人の身体を支えた。
振り払うことは出来なかった。


「け、健人君? どうしたんだ! しっかりしてくれ!」

「うう――――――!」


あの<化け物>から“伝染”された腕を制御できるようになって、慢心していたか。
自由に動かせるようになったとして、それが抑制されているとは限らないというのに。
浸食だ。
間違いなく、浸食は右腕より拡大していた。


「まさか君も<奴ら>に――――――。嫌だ! 私は、私は君だけは剣を向けることが出来ない!
 ああ、ああ! どうしたら・・・・・・!」

「だ、大丈夫だ・・・・・・、噛まれちゃいない。これは別のものだから」

「しかし・・・・・・!」

「いいんだ! 放っておけ! 構うな! どうにもならなくなったら自分で“ケリ”を付ける!」


動悸を押さえつけ、呼吸を整える。
ちくしょう、と震える声が漏れた。なぜ僕が、俺がこんな目に会わなければならないのか。
きつく眼を閉じて心を落ち着かせていると、鼻腔に甘い香りが。
気が付けば、健人は蹲ったまま、冴子に抱きかかえられていた。
頭を胸に押し付け、優しく背中を撫で擦る手に、健人の涙腺は自我の制御を離れて緩んだ。
ちくしょう、と震える声が、再び漏れた。


「――――――泣いてほしい」


冴子の静かな声が、健人の耳朶を打つ。


「私は君に何もしてやることが出来ない、愚鈍な女だ。君の心が壊れてしまわないように、こうして抱き留めても、君を支えることはもちろん守ってやることすら出来ない。
 私はそれが悔しくて仕方がない。私は君に何もしてやれない。でも、こうやって君の顔を隠すことくらいは出来る。
 今は誰も見ていないから、だから――――――」


――――――泣いてほしい、と冴子は重ねた。


「・・・・・・クソ、クソッ、チクショウ! どうして俺が、お前なんかに・・・・・・」

「うん、うん。私なんかですまない」

「何で俺の体はこんな、化け物みたいになっちゃったんだよ、チクショウ・・・・・・!」

「うん、うん。辛いな、本当に辛いな。私が君の傍にずっと付いていてやれたら、どれだけよかっただろう」

「近付いてきたら追い払ってやってたさ! お前なんか嫌いだ。お前なんか大嫌いだ・・・・・・チクショウ・・・・・・」

「うん、うん。すまない。私は君の事が嫌いじゃないんだ。だから君に付き纏いたいんだ。君の苦しみを少しでも吸い取ってやりたいんだ。すまない」

「うう、ううう・・・・・・」


夜は深ける。
数十分程度の時間でしかなかったが、健人は心の澱が涙と共に流されていくのを感じていた。
<化け物>になってしまった時、涙が枯れるほど泣いたと思っていたが、そうではなかったようだ。
悲哀は訴えてこそ、受けとめられて初めて昇華されるのかもしれない。
今は素直にそう思えた。


「んっ、あっ・・・・・・で、出来ればじっとしていてくれると有り難いのだが」

「あ、うん、ごめん」

「その、痛くはないか? いや、君が詰まらないと思っているのは解っているんだ。私は鍛えてばかりいたから、筋張っていて柔らかくはないからな。
 女性としての線は損なわれていないと思うのだが、このメンバーを見ると自信がな・・・・・・」

「いや十分だよ・・・・・・じゃないだろ。どうしてこのままで居るんだよ、俺達は」

「嫌か? 私はイイ。すごくイイ」

「い、嫌だ」

「・・・・・・解った、離れよう。残念だ、こんな機会はそう訪れないだろうに。
 しかし君がそう言うならば仕方が無い。包帯だけは巻かせてもらってもいいか? どうせ上には戻れないさ」


指が指されるのと同時、聞こえたのは小室の怒鳴り声。
なるほどと健人は頷いた。


「あれだけ大声で話してれば聞こえるよな。小室も可哀そうに。あれは俺でもキレる」

「宮本も気を引きたいのなら、もう少し言い方があるだろうに」


溜息。
次第に怒鳴り声は収まっていったのだから、後はセオリー通り、元の鞘に収まるのだろう。
もし顔を出せたならば、小室には、鞘に納めるのならば個室でやってくれと頼みたい所だったが。


「さあ、続きだ。ほら、もっと近付いてくれ」

「う、わ、解った。ただし見えてる範囲だけでいいからな」

「ふふ、わかっているさ。私には近付いてほしくないんだろう?」

「そうだよ、それ以上近付くな」

「ああ、わかっている。わかっているさ。ふふ、君は私のことが嫌いなんだからな」

「・・・・・・ちぇ」


あれだけ悲壮感に暮れていた姿は何処へやら。
何が楽しいのか、冴子は嬉々として健人の首に包帯を巻いていった。
健人としては目を伏せるしかない。
真っ直ぐ前を見れば、布一枚だけで覆われた揺れる柔肉が目に入る。
そうでなくとも鼻先に触れる寸前なのだ。
居心地が悪いといったらもう、どうしようも無かった。

しばらくして、視界を覆っていた肌色のスリットが遠ざかる。
包帯が巻き終わったようだ。
ゆっくりと離れた冴子には、もう怯えや恐れの感情は無かった。
じっと、微笑みながらこちらを見つめている。
何をか言おうと口を開こうとした健人。しかし。


「――――――今のは!」

「銃声だ!」


死人が跋扈する世界では、生者には一時の休息も許されてはいないのだ。
音に吸い寄せられる<奴ら>のように、健人と冴子は階段を駆け上った。






□ ■ □






File3:経過報告Ⅱ
被験体:上須賀 健人

変異箇所拡大。
また、意志による肉体の形状変化が発生。
監視衛星による熱源捜索の結果、変異は頸椎を辿り、脊髄へと浸入しつつあると判明。
ジル・バレンタインより採取したT毒素抗体により調整された、抗毒型T-ウィルス・・・感染力を抑え、感染者の唾液のみを媒介とする、より兵器として完成度の高いT-ウィルス。詳細は別途資料参照・・・の短時間での連続投与によって変異が進行した模様。
諸データから、変異は侵食ではなく体内に混入した異物、抗毒型T-ウィルスへの防衛反応であり、変異が停滞したのは混入したウィルスに適合したからであると推察される。
ウロボロス・ウィルスの防衛反応は、潜伏状態にあったG-ウィルスによって引き起こされたものか。経年による変異の有無の確認が必要である。要サンプル回収。

被験体:上須賀 健人の体内には、リサ・トレヴァーより注入された原生G-ウィルス、抗毒型T-ウィルス、ウロボロス・ウィルスの三種が同在していることになる。
現在は暴走状態にあったウロボロス・ウィルスが優位であり、その特性である進化によって更なる変異が予測される。
現段階の予測では、既に体内に潜伏していた原生G-ウィルスの反応によって抗毒型T-ウィルスが取り込まれ、T+Gウィルス投与固体の特性が不完全発生する可能性が高いとみなされる。
即ち、電気的特性の発現、もしくは女性化である。

当被験体の更なる進化を促すべく、B.O.W.の随時投入準備を続行中。
指示を待つ。












前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.028016805648804