<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.21478の一覧
[0] 【チラ裏より】学園黙示録:CODE:WESKER (バイオ設定:オリ主)[ノシ棒](2011/05/21 22:46)
[1] 学園黙示録:CODE:WESKER:2[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[2] 学園黙示録:CODE:WESKER:3[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[3] 学園黙示録:CODE:WESKER:4[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[4] 学園黙示録:CODE:WESKER:5[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[5] 学園黙示録:CODE:WESKER:6[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[6] 学園黙示録:CODE:WESKER:7[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[7] 学園黙示録:CODE:WESKER:8[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[8] 学園黙示録:CODE:WESKER:9[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[9] 学園黙示録:CODE:WESKER:10[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[10] 学園黙示録:CODE:WESKER:11[ノシ棒](2011/05/21 22:36)
[11] 学園黙示録:CODE:WESKER:12[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[12] 学園黙示録:CODE:WESKER:13[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[13] 学園黙示録:CODE:WESKER:14[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[14] 学園黙示録:CODE:WESKER:15[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
[15] 学園黙示録:CODE:WESKER:16[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
[16] 学園黙示録:CODE:WESKER:17[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[21478] 学園黙示録:CODE:WESKER:16
Name: ノシ棒◆f250e2d7 ID:373ed26e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/21 22:38
夢があった。
子供の頃からの夢が。
海外旅行中にテロリズムに巻き込まれ、目も鼻も利かず身体も動かせない、酷く不自由な状態に貶められていた頃の話だ。
両親を殺されこんな身体にされて、当然ながら幼かった自分は世界を恨み、憎んだ。
そんな時だった。身寄りもない外国人の子供の病室へと足を運ぶ、もの好きが現れたのは。
その人は本当にぞんざいにベッドへ近付くと、あろうことか機材に繋がれている子供の胸倉を掴み上げ、そのまま持ち上げて「ふん」と呆気なく、一言だけそう漏らしたのである。
遠慮呵責なく死に掛けの子供の顎に手をやって、顔を左右へと向けるその横暴さに、唖然とするよりも先に怒りが込み上げてきた。観察されている。品定めされている。それを理解したからだった。
それまで世界の全てを憎んでいたのだ。体の良い発散対象がやって来てくれて、身体はむしろ喜びに打ち震えていた。ガチガチと歯が鳴る。そこしか動かせなかったのだ。
だから唯一動く顎でもってその人物の指に歯型を残してやろうと、くあっと歯茎を剥いた。
頭上から、「ほう」と若干驚いたような、予想外の出来事を喜ぶような、そんな一声が落とされる。
開いた顎の中に突き入れられたのは、苦い味のする皮手袋だった。

「そんな状態で勇気のあることだ。だがそれは間違った勇気だよ」

頭上から降る、大人が子供へと諭す言葉。
わざとゆっくりとした丁寧な言葉で、聞き取りやすい発音の英語だったことを覚えている。
またもぞんざいにベッドの上に放り出される身体は、全く痛みを感じなかった。
まるで自分の身体ではないようだった。首から下がなくなってしまったかのよう。それなのに、首だけで生きている自分がいる。いっそ植木鉢にでも移し替えてくれよと胸中で吐き捨てた。そうしたら、恨みつらみで浮かびあがって、ていろていろと鳴きながらそこいら中を飛び回ってやるのに。

「悔しいか? 何も出来ないまま死んでいくのが恐ろしいか?」

胸に手を当てられ、告げられる。
ぽんぽんと一定のリズムで叩かれる胸。質問に答えずそのまま眠りについたなら、この人物は生命維持に必要な機材のスイッチを切ってしまうのではないか。そう思わせる怜悧さが、その人物が纏う空気にはあった。
ガチガチと開閉する顎。
ガチガチ。ガチガチガチ。
それが答えだった。

「ふん」

またも感情の読みとれない一声。
鼻で笑われたともとれるし、ただ単に頷いただけのようにも聞こえる。内面を悟らせないようにするために訓練されたような、硬質な声色だった。

「チャンスはくれてやる。生き抜いてみせたのなら、使ってやろう」

それだけだ。
そう残して、気配は消えた。
ガチガチ。
ガチガチガチ。
ずっと、意識が落ちるまでの間、歯がすり減るまで顎を鳴らし続けていた。
姿は見得ずとも、その気配の発する鮮烈さは脳の皺の一つ一つに刻み込まれていた。
それが、俺がまだ僕だった頃に出会ったその人との――――――叔父さんとの出会い。
その日から叔父は、度々世間話とは言えない話を述べては去って行くを繰り返すこととなった。ほとんどが世界情勢や科学技術の話しであったのは口下手の叔父らしいと今では言えるが、間違っても子供の病室を訪ねた態度やマナーではなかった。
気付けばいつしか叔父が訪ねてくるのを心待ちにしている自分がいた。
世界を憎んでいた、などというのは防衛本能だったのだろう。心身に重大な損傷を抱えた子供が自分を守るためには、外敵を作り、その破壊に全てを掛けなければ、自分が壊れてしまう。
だからこうして、言葉は少なくてもいい、足しげく自分の元へと通ってくれる人がいるということだけで、どれだけ救われたか。
世界を敵だと思い込むことで自分を保っていた子供はもう、どこにもいなかった。そこには叔父の来訪を待ちわびる、寂しさに耐えかねた子供が一人居るだけだった。その時にはすでに、叔父を中心にして世界が回っていた。
そうしてまたしばらくしてリサと出会い、目が見えるようになって、リハビリと訓練を並行して行われて、日本に帰ることとなったのである。
受けた恩をどう返せばいいのだろうか。せめて肩替りしてもらった治療費だけでも返せたらいいのだが、と申し訳なく肩を落とす自分へと、叔父はほんの少しだけ唇の端を上げて言ったのだ。

「馬鹿め、払うあてのない金など要求するものか。お前はただ、私の隣に立ち、私に尽くせばいい。それ以外に何も考えるなケント」

膝が落ちた。背筋が喜びに打ち震え、滂沱の如く涙が零れた。
叔父の皮手袋に包まれた手を取り、はい、はい、と唯々頷くしかなかった。
当時、とある企業の幹部であったらしい叔父。自分の治療には、最先端の医療を尽くしたと聞き及んでいる。そう安くはない金銭が投入されたとも。全てが叔父のポケットマネーから支払われたとも。
金が全ての価値基準であるはずの企業人が、相手が子供といえど金など要らぬと言ったのだ。
人道支援の宣伝もされていない自分では、名を売ることにもならない。
受けたリハビリと訓練も、この時までは叔父手ずから施されていた。ここまで来たらアドバイザーを雇えばいいものを、そうしなかったのは叔父が自分との関わりを望んでいたからに他ならない。
私に尽くせなどとは言っても、どこの馬の骨とも知れぬ拾った子供に期待などしてはいないだろう。
厳しい言葉とは裏腹に、叔父は善意で自分を救ってくれたのだ。
感謝してもし切れるものではない。
この日この時この瞬間より、人生の至上目的が決まった。
せめて、ほんの少しでも叔父の益になる人間になること。そのために自分を磨き続けること。
幼心に抱いた想いは鮮烈な輝きを以て焼き付いた。
いつか自分も叔父のように、損得抜きで誰かに救いの手を差し伸べられるような人間になりたいと。
感謝がほしいわけではない。
一方的でいいのだ。
むしろ救いの押し売りこそが本懐である。
夢であった。願いであった。成長するにつれ斜に構えてしまい、恥ずかしくて口にすることも出来なかった夢であった。
ようやくそれを思い出したのだ。いいや、常にその想いは胸にあった。目を背けていただけだ。
そして、今。
この手で誰かを救うことが出来るのならば、これほど喜ばしいことはないではないか。
例えそれが、化物の手であったとしても――――――。

「き、君は・・・・・・そう、健人くんではないですか! よく無事で」

名を呼ばれ、一瞬足が止まる。
はて、この眼鏡の男性は誰だっただろうか。一瞬考え、健人はああと頷いた。そうだ、担任の紫藤教諭ではないか。生延びていたとは知らず、今の今まで完全に忘れ去っていた。
見るからに作り笑い浮かべて近付いて来る。未だに信頼されていると思っているのだろうか。そも自分は理に従っただけであり、担任としても人としても紫藤を慕ってはいなかったのだが。
しかし健人も「先生」とにこやかにして、両腕を広げて紫藤を迎え入れた。
異形が紫藤の眼前へと晒される。
健人はおどけた顔で「ばあっ」っと言ってみせた。

「ひっ、ひいい! あばっ、ばけっ、化物!」 

「あっはっは! そうですよ先生!」

効果は覿面だった。
これ見よがしに右腕を掲げた健人から、腰を抜かして地べたを這って逃げる紫藤。それは健人にとって満足のいく反応であったようで、健人は声を上げて笑った。
行く手を<奴ら>に阻まれて、悲鳴を上げる生徒達もいた。健人は触椀を伸ばして<奴ら>を切り裂くと、紫藤らに続く生き残りの生徒のために道を拓く。
その姿を見た者は例外なく悲鳴を上げていたのが愉快に思えた。
嫌悪感が多分に含まれ悲鳴は、<奴ら>に面した時の恐怖の悲鳴ともまた違う。
健人はそれら全てを笑みを浮かべて受け入れた。

「逃げろ逃げろ、みんな逃げろ! 逃げ遅れた奴から八つ裂きにしちまうぞ!」

近付く<奴ら>から順に千切り捨てていく。
それでは足りないと、軸足を基点に独楽のように回転し、伸ばした爪でもって<奴ら>を切り裂く。
活き活きと、実に意気良きと暴力を振り撒く健人の様はまるで暴風の様。
触腕を電柱に巻き付けて健人は空へと跳び上がった。眼下には血肉の絨毯が敷き詰められている。全て、<奴ら>のコマ肉であった。
横転したスクールバスに群がる<奴ら>を全て駆逐するまでに、十秒と掛からなかったようだ。
これが力を晒すことに躊躇いを捨て、異形を受け入れた健人の実力だった。
上半身や首だけとなった<奴ら>を身体に喰い込ませたまま、健人は次の電柱に狙いを定め、跳ぶ。
迫る<奴ら>のあぎとを防げなかったのではない。防ぐ必要がないのだ。すぐさま傷口から肉が盛り上がり、喰い込んだ歯をぼろぼろと体外に排出していた。恐るべき回復力である。殲滅を目的とするならば、身を守ることに手間取られるよりも、いくらか噛みつかれる程度は無視するのが効率的だった。
そよぐ風に身を任せ、中空より健人は高城邸へと突入する。
矢の疾さで以て地に突き刺さる健人。しかししなやかに受け身を取ると、健人は衝撃を推進力へと換え、蛇のように地を擦りながら疾走を始めた。
高城邸の内部は正に地獄の様相だった。
逃げ惑う人々を引きずり倒しては、喰らい付いていく<奴ら>。
その<奴ら>に片端から健人も“喰らい付いていく”。
<奴ら>に組み敷かれていた若い女性を力尽くで助け出して身を抱えたが、自分が何に抱えられているかを知って錯乱した女性は、暴れて健人の腕の中から逃げ出すと、向う方向とは逆、高城邸の内側へと逃げていった。あるいは本能で<奴ら>よりも脅威であると判断したのかもしれない。
見れば、<奴ら>に襲われている大多数が我先にと逃げ出した人々のようだ。
健人とて全てを救えると思い上がってはいない。
心苦しいが、こんな世界となって思い知ったこともある。生き残るべき人々がいて、そうでない者もいるということだ。
いつぞや邸内で女性に乱暴を働いていた男共が<奴ら>に噛み殺されているのを無視して走る。
合流すべきは残って戦うことを選んだ人々だ。
健人は出来得る限り逃げ惑う人々を狙う<奴ら>を優先的に撃破しつつ、庭を奥へと突き進んだ。
異形が舞う。
血肉が降る。
悲鳴が上がる。
笑みが浮かぶ。
血と臓物の臭いを染みつかせながら健人はとうとう、人々に率先して指示を出しながらも集団の中で一番の奮闘をみせる男女、高城夫妻の下へと辿りついた。
周囲には思い思いの武器を取った、戦う決意を固めた人々が。健人のものさしの上では生き残るべく人達である。
健人の姿を認めた高城の父、壮一郎の、むうっ、と空気を呑む音が、研ぎ澄まされた聴覚に届く。
高城の母である百合子は、あっと出かかった声を歳の感じさせないしなやかな指で口を抑え、漏らさぬように抑えていた。
忌避感を感じていない訳がないのだろうに、それを外に出さないように――――――健人に悟らせないようにしてくれるとは。
尊敬に値する大人へと、健人は目礼で答え、一向に減る様子の無い<奴ら>の波へと向き合った。
背に人々を庇って立つ健人。

「ば、ば、化物だああああ!」

「ひぃぃ!」

「いや、嫌! あっちへ行ってえ!」

「くそ、これでも喰らいやがれ!」

大きく広げられた右腕の異形に、どよめきと悲鳴が上がり――――――銃声。

「うぐっ・・・・・・!」

脇腹に広がる灼熱。
撃発音からして、恐らくはブロウニング系統の猟銃か。高城邸に集まった者の中で、銃を所有していたのはコータだけではなかったということだ。どうにも銃器の管理が甘かったのは、個人持ち込みが多かったのも理由だったのだろう。
じわじわと痛みと湿り気が広がっていく。撒かれた散弾の一部が掠ったらしい。直撃であったならいくら治癒力が跳ね上がっていても無事では済まなかっただろうが、これならば許容範囲だ。
後ろから撃たれたことに、健人は全く怒りを感じてはいなかった。むしろ苦笑いさえ浮かべていた。
まあ、そうなるだろうな。
化物が急に現れたんじゃあ、当然の反応だ。

「待ちなさい! 銃口を下ろして!」

「愚か者が! 戦うべき相手を間違えるな!」

「ああ、こんなに血が出て・・・・・・どうして戻ってきたの健人君!」

駆け寄った百合子がゴム手袋を当て、健人の傷口へと布を当てる。傷が浅いとみるやぐっと指に力を入れて弾を抉りだそうとしているのか、異様に慣れた手付きだ。訓練されたものにしか出来ない処置に、健人はなるほどと頷いた。前面に立つ健人を背に庇い、壮一郎が日本刀を振るい近付く<奴ら>を両断している。似た者同士のおしどり夫婦というわけだ。
健人は頬に熱がいくのを自覚した。
嫌われ者になることを覚悟していたが、こうも心配されるのは予想外の反応だった。

「だ、大丈夫です。もう平気ですから」

「喋っては駄目! 撃たれて平気なはずが・・・・・・嘘、これは」

指先を押し返す感触に百合子は驚愕する。
いくつかの散弾が盛り上がる肉に押されて排出される。破れた服から覗くのは、血で汚れてはいるものの、傷一つない真新しい皮膚。

「ね、大丈夫でしょう? こんな傷、すぐに治っちゃうんですよ」

だから早く離れた方がいいですよ、と健人はにっと笑って言った。
俺はこんなだから、と鉤爪を掲げて。
その掲げた右腕を横合いからむんずと掴まれて、健人はえっと呆けた声を上げることとなった。

「戻ったか、健人君」

「た、高城、さんのお父さん・・・・・・」

「壮一郎でよい。すまないが健人君、手を貸して欲しい」

「壮一郎さん・・・・・・その、手、気持ち悪いでしょう? 離した方がいいです。皆にも、悪く言われます。俺は平気ですから、だから」

「男の手だ」

「・・・・・・え?」

「石を投げつけられながら、それでも戦うのだと決めた男の手だ。己が護国の盾とならんと決めた若者を、我々の同士を、何故恐れる必要がある」

ぐっと力強く握りしめられる指。
普通の人間の握力程度で痛みを感じる訳がないというのに、じんじんと痺れて熱い。

「もう一度言おう。健人君、手を貸してくれぬか」

「壮一郎さん・・・・・・」

「頼む」

「・・・・・・こんな化物の手でもよければ」

「十分だ。猫よりも働いてくれるのだろうな?」

言い返されて、健人は再びきょとんと呆気に取られる。はは、ともう乾いた笑みを浮かべるしかない。
流石は右翼団体の首領。一級のエンターテイナーだ。人をノセるのが上手い。

「辛かったらすぐに言うのよ、健人君。彼等のことは任せてちょうだい。あなたに銃を向けさせることはさせないわ」

「はい。ありがとうございます、百合子さん」

「ふふ、男の子は素直が一番。強がってるよりもずっと可愛いわよ」

誤魔化せるとも思ってはいなかったが、片目を瞑って茶化されると気恥ずかしい。
どうも自分はこういう強い女性が苦手なようだ。

「ここは俺が引き受けます。壮一郎さん達は避難するのを優先して下さい!」

「よし、任せたぞ健人君! 百合子、皆を装甲車まで誘導せよ!」

「ええ、解りましたわ壮一郎さん! 健人君、お願いね!」

去り際に手を握られた照れ隠しに、寄って来ていた<奴ら>へと裏拳一閃。

「ええい、くそう、嬉しいなあ。もっとずっと嫌われると思ってたのに、これじゃあ幸先が悪いじゃないか」

悪態を吐くが、緩む頬は隠せない。
高城夫妻以外の全ての人達が嫌悪感を露わにしていたのだ。それが人間にとって普通の反応だ。冴子でさえ、初見では受け入れられなかったのだ。あの二人にも受け入れられたなどとは思ってはいない。ただ、認められただけだ。それが健人にとって望外の喜びだった。
即席のバリケードが破られ、<奴ら>が堰を切って雪崩れ込んで来る。

「さあ来いよお前ら! タイムセールに並べられたい奴からかかって来い! 端から順に切り揃えてやる!」

笑って少しだけ泣いて、健人は死肉の壁へと身を躍らせた。
右も左も前も後ろも、見渡す限りの<奴ら>、<奴ら>、<奴ら>。
狙いを付けるまでもない。爪を伸ばして適当に振るうだけで入れ喰いだ。
健人は雄叫びを上げながら<奴ら>を喰い散らす。
身体中に歯が付き立てられるも、気にせず引き摺って、ついでに目に着いた<奴ら>の頭を握りつぶした。
<奴ら>と噛み合って肉団子となった健人はもう、全身が余す所なく血みどろで、それが自分が流した血なのか返り血なのかも解らない状態だった。
自壊することも厭わぬ怪力で眼球に指を入れられ、爪と肉の間に白いタンパク層を抉り取られ、血涙が流れ落ちていく。
傷を負っても治癒されるからといって、痛みを感じない訳ではない。恐怖を感じない訳ではない。
だが全身を支配する歓喜と闘争心が、健人を突き動かす。

「おおおおお――――――!」

嬉しい。
楽しい。
こんなにも幸せな気持ちで戦えるなんて、初めてのことだ。
もう何も怖くはなかった。

「おお、お・・・・・・――――――」

雄叫びが止む。
世界とは悲劇であった。
それさえ忘れずにいたならば、あるいは心構えだけは出来たのかもしれない。

「なんだ、これ・・・・・・なんだ!」

絶望こそが至上の悲劇において、希望を抱いて戦うなどと、許されるはずがないというのに。
いかに化物であったとしても、己を超える更なる化物には無力でしかないというのに。

「なんだ・・・・・・空か!」

背筋を這う悪寒に、健人は空を仰いだ。
沈み始めた太陽。朱の空の遥か先、雲に隠れるか否かの上空を、4機のヘリコプターが等間隔に旋回していた。
カーゴタイプの胴体部にタンデムローター。物資運搬用の輸送ヘリである。何かをワイヤーで繋いで空輸しているようだ。それがゆっくりゆっくりと、実際には時速数十キロでこちらに向って来る。悲鳴と怒声に紛れながら、小さなローター音がはためくのを健人の耳はその時に初めて察知した。
機種は定かではない。健人だから視認出来る機体の詳細は、どこの国の採用されている輸送ヘリともつかない造りだ。
上空である事を差し引いても聞こえるローター音が小さすぎるのは、あれら輸送ヘリが独自設計によるものだからか。
現行モデルの性能を遥かに超えた機体。輸送ヘリが機体底部から伸びるワイヤーに繋いでいたのは、巨大なコンテナだった。
側面に歪な凹凸が刻まれたコンテナを視界に収めた瞬間、健人の背筋は恐怖に粟立った。
足が意思の制御を離れて震える。
今直にこの場から逃げ去ってしまいたかった。
感じる悪寒は<リッカー>のそれとも、<リーパー>のそれとも、<腐乱犬>のそれとも、健人が遭遇したあらゆる<化物>のそれとも比較になどならない。
ベコンという幻聴が聞こえたような気がした。新たな凹凸がコンテナに生じていた。あのコンテナの凹凸は、内部からの衝撃によって生じたものだった。
馬力も大幅に強化されているエンジンを積んでいるのだろうに、そんな輸送ヘリを4機も使って、一体何を運んで来たというのか。
ヘリの接近にようやく気付いた取り残された人々が、救いが来たのだと安堵を顔に浮かべ、おーいと手を振りながら歓声を発する。

「やったぞ、皆、助けが来たぞ! 助けが来たんだ!」

「おおーい、おおーい! ここだー!」

「おーい! 助けてくれー!」

応えるように、コンテナからは細長い足が勢いよく飛びだして、ぶんぶんと大きく振られていた。

「・・・・・・へ?」

最初に異常に気付いたのは、双眼鏡を覗いていた者だった。
あまりもの現実感の無さに、訳が解らぬといった風に声を上げる。それも仕方の無いことだろう。
コンテナから飛び出した足は、まるでカニの足のように細長く、甲殻に包まれた節足だった。それが足掛かりを求めて空を掻いている。ぐねぐねと動く足には、びっしりと棘と繊毛が生え揃っていた。
ヘリとコンテナとの対比からして、本体の巨大さたるや、いか程のものか。
異常を察知した者は全員が、健人を含めて、思考を放棄した。そしてなりゆきを見守った。その間に、何人かの不幸な者が<奴ら>に喰われていた。
何か、恐ろしいものが、頭上にある。
激しく動くカニ足が、バランスを崩して隊列を乱した一機の輸送ヘリの装甲を抉る。

「お、おい、あれ、落ちて来るんじゃ・・・・・・落ちて来るぞ!」

プロペラが柔性を備えた鋼鉄のワイヤーに接触し、千切れ飛ぶ。
輸送ヘリは一気にバランスを崩すと隣を飛行していたもう一機の輸送ヘリを巻き込んで、もつれ合って落下を始めた。
残る二機は後続二機の墜落を確認すると、ワイヤーを切断し、離脱態勢へと入ったようだ。
落ちて来る。
来る。
恐ろしいものが、来る。

「お、おい逃げろ! みんな逃げろ!」

「どこにも逃げられねえよ馬鹿野郎!」

災いは更に重なる。
一機は高城邸より外れて墜ちていったが、もう一機のヘリの墜落コースは高城邸の中心だ。生き残った人達は高城夫妻の先導によって装甲を施したバスに乗り込んで、その足でこの場より逃げる手はずとなっている。このままではヘリの残骸が進路を塞いでしまう。それだけではない、質量のある物体が遥か上空から地面に叩きつけられるのだ。ヘリのタンクには燃料だって積まれている。兎に角、唯では済む筈が無い。

「――――――くそっ!」

舌打ちを漏らし、健人は駆け出した。
丁度、ヘリの落下地点と重なるように。
黒煙を上げながら輸送ヘリは重力を味方に付け、考えるのが馬鹿らしいくらいの運動エネルギーを保持しながら地表へと迫る。
機首が高城邸庭園の石畳に接触する寸前に、健人は機体と地面のその間に身を滑り込ませた。
異様に膨らんだ右腕が振りかぶられる。
健人の右腕は、構成する一本一本の触手繊維が膨張縮小して織り込まれたものだ。触手は筋繊維のそれと同等の機能をも有していた。当然ながら、人間の筋肉とは質も量も桁違いの代物だ。

「くぅぅうううおおおおおっ!」

出せる限りの力で以て、健人は輸送ヘリを全力で殴りつけた。
骨が軋む。
肉が裂ける。
紫電が弾け、空気中を漂う埃を焼く。
膝が砕けた。腰骨が割れた。
負けるものかと健人は歯を食いしばった。噛み締めた歯が圧し折れる嫌な音がした。
一瞬の均衡の瞬間、ヘリのひび割れたコックピットガラス越しに、未だ存命中のパイロット達と健人は目が合った。
ヘルメットとゴーグルをしていて表情は解らなかったが、しかし驚愕に染まった顔をしていることだけは容易に想像出来た。
すまない、と胸中で唱える。これが初めての殺しとなるが、健人に同情はなかった。
あんな恐ろしいものを連れて来てくれたのだから。
垂直方向の運動エネルギーに、横ベクトルの運動エネルギーが叩きつけられる。
刹那、鈍い音と風切り音を唸らせながら、輸送ヘリは意味を為さない鉄塊となっ、高城邸の端へと殴り飛ばされていった。
接地した途端、燃料に引火して爆炎が上がる。
殴った衝撃で爆発するかしないかだけは、賭けだったのだ。
石畳を周囲もろとも陥没するまで踏み込ませ、健人は攻め勝ったのである。

「く、あ・・・・・・っ! 背骨、やっちまった・・・・・・っ!」

崩れ落ちる健人。
肉体に過重な負荷を掛けた当然の代償だった。
いかに強力な治癒力を備えていたとしても、神経系の集合する背骨や重要器官を損傷すれば、治癒されるまで満足に動くことは出来ない。
再起動までにどれ程の時間が掛かるのだろうか。
響く轟音に健人は身体をもたげ、仰ぎ見る。
あの巨大なコンテナが、高城邸を直撃していた。
要塞として機能することを前提に建築された高城邸である。表層部も下手な軍事基地よりは強度のある建材で構築されているようで、コンテナの直撃を受けても半壊だけに留まっていた。いっそ崩れて瓦礫にコンテナを埋もれさせてしまった方が、時間稼ぎを出来ただろうに。
ひしゃげたコンテナの亀裂を押し広げ、それはのっそりと巨体を顕わした。

「何だよ、あれは・・・・・・何なんだよ」

答えなど返らないと解っていても、問わずにはいられなかった。
高城邸を覆う程の巨体。
見るからに頑強な甲殻。
咀嚼するには過剰な牙が生え揃った大顎。
後背部からは蜘蛛の腹のような器官が垂れ下がっている。恐らくは、何らかの生物の遺伝子と掛け合わせたのだろうか。姿形は似ても似つかないが、ヤドカリのような体構造をしている。
恐ろしく鋭い爪に、長い手足は全て伸ばせば、広い敷地の全て端から端までに届くだろう。
それを何と表せばいいものか、健人には解らなかった。
コンテナの中から現れたそれは――――――大きな、呆れる程に巨大な、<タカアシガニ>だった。
あんな上空からコンテナに詰められた状態で叩き付けられたというのに、実に鷹揚に手足を伸ばしては餌を啄んでいる様は、まるで堪えた様子がない。地面に叩き付けられて直ぐに食事を始めたことからも、それはうかがえるだろう。墜落の原因は、こいつが腹が減って暴れていたからだった。
見た目通りの大食漢のようで、次から次へと“活きの良い”餌を見繕っては口に運んでいる。
最初、それこそカニが海底のプランクトンや藻を攫うように淡々と爪を口元に運ぶ作業に、健人は一体あれが何を食しているのか解らなくなった。摘ままれた餌があーっと助けを求める声を上げていた。それは小さな子供だった。
<タカアシガニ>が器用にその爪と甲殻の突起を使って大顎に運ぶ餌は“生き餌”だった。
つまるところ、それは――――――生きた人間だった。

「よ、よせ・・・・・・やめろ、やめろーッ!」

活きの良い餌、人間とは、バスに乗り込むために高城一派に誘導されて非難を続けていた人達だった。
健人の主観では、彼等こそが何をおいても生き残るべき者達である。
ひょいひょいと、本当に器用に餌の頭を掴んでは大顎へと運んでいた。狙いがつけやすかったのだろう、避難者の列の丁度真中辺りに挟みを入れては餌を摘まみ出す。前と後ろを武器を持った男達で固めていた彼等にとって、それは天から下された無慈悲な裁決――――――列の中心には、戦う力のない妊婦や子供達が集められていた。
ぱき、こり、ちゃむちゃむ――――――終わらない咀嚼音。
健人は喉が張り裂けんばかりに叫んだが、<タカアシガニ>はそも音に過敏に反応するような生物ではなかったのか、見向きもしない。
おのれ、と壮一郎が駆け付け切り込んでいた。百合子がありったけの銃弾を叩き込んでいた。その全てが甲殻に阻まれ、無駄に終わった。食事は続く。
そして高城夫妻へと魔の手は、爪が伸び――――――健人は切れた。

「やめろっつってんだろうがこのカニミソ野郎!」

健人の触腕の細胞、その一つ一つが電気を発し、紫電が空気中へと舞う。
握り込んだ瓦礫を内部へと取り込み、震える腕を叱咤しつつ、<タカアシガニ>へと差し向けた。
サーマルガン撃発――――――破炸音と共にプラズマ膨張によって加速された弾体が射出。<タカアシガニ>の巨体を支える節足の間接へと炸裂する。
ここならば脆かろうという健人の安易な目論見であったが、多層構造の甲殻が関節を覆っており、これもまるで効いた様子がない。だが足を吹き飛ばす事は出来なかったが、態勢を崩すことには成功していた。体をぐらつかせた<タカアシガニ>の爪は目測を誤り空を掴む。<タカアシガニ>は食事を邪魔する闖入者へと、怒りに湧いた複眼を向けた。
挑発する笑みを浮かべたのとは裏腹に、健人の内心は焦り一色であった。
恐らくはあの甲殻は、ロケット弾の直撃にさえ耐えうる高度を誇っている。
一体どう突破しろというのだ。
爪を立ててどうにかなる相手でもなし、サーマルガンも効かないというのなら、更なる火力を有する銃器でも持ち込むしかない。
流石に高城邸にもロケットランチャーなどは存在しないだろう。
自分も手持ちの銃器といえば、ハンドガンが一挺のみ――――――。

『――――――解っているでしょう?』

一瞬、ざあっと視界にノイズが奔り、金髪の小さな女の子の姿が見えた――――――ような、気がした。

「・・・・・・そうだ」

そうだ、と頷く。
解っている。
どうしたらいいのか、解っている。
更なる進化をするために、どうしたらいいのか――――――。
頭上に影。<タカアシガニ>が健人を食まんと爪を伸ばしている。しかし健人は降る魔爪を意にも介さず、ベルトに挟みこんでいた暗銀の銃、サムライエッジを抜いた。スライドを引き、薬室に弾薬を送る。
撃鉄が上がった。
がつり、と咥内に鈍い音。
超鋼ジュラルミンのフレームが下顎と上顎でがっちりと咥えられ、銃口が喉奥へと潜り込む。
延髄が吹き飛ぶように角度を調整。
カチ、カチ、カチ、カチ――――――。
震えて鳴るのは超鋼ジュラルミンに打ち付けられる歯か、トリガに掛かった親指か。
今この瞬間に健人が相対している敵は、もうほんの頭上に爪を降ろしている<タカアシガニ>ではなく、己自身だった。
引鉄を引かなければならない。
引け、引くのだ上須賀健人――――――お前は皆に救いをもたらすと決めたのではないのか。
しかし、指はただ震えるだけで、関節は鉛を流し込んだかのようにぴくりとも動かなかった。

『――――――さあ、勇気を出して』

ノイズが奔る。
不思議なことに、身体の震えがピタリと止んでいた。
健人はすうっと空気を大きく吸い込むと、ぐっと肺に留め、全身に意識を張り巡らせる。
そうして健人は――――――引き金を、引いた。
ばあん、とくぐもった音が鳴った。
誰かがあっと叫び声を上げていた。
それが壮一郎のものであったか、百合子のものであったか、あるいは他の誰かのものであったか。それが健人の惨状を見てのものか、<タカアシガニ>に襲われて発せられたものか。
それを認識するよりも速く、初速約300m/秒で撃発された弾丸は、うねりながら健人の喉奥に突き刺さり、肉と頸椎を微塵に捻り裂き神経束を焼き切って、延髄の片をばあっと撒き散らしながら逆側から飛び出した。



延髄、喉裏を後頭部の一部も含めてぐしゃぐしゃのミンチ肉にして、健人は咥内に満たされた硝煙を首裏に穿たれた新たな口から一口吐くと、そのまま糸が切れた人形のように地面に突っ伏した。
熱かったのか、痛かったのか解らない。
二度三度手足を痙攣して動かなくなるその前には、もうすでに、健人の思考能力は消え去っていたのだから。
こうして、これまであらゆる危機を乗り越えて来た健人は、ここでとうとう、その命を完全に終わらせることとなった。
上須賀健人は死んだ。死んだのである。
人間、上須賀健人――――――了。
そして――――――。






■ □ ■






<タカアシガニ>に表情筋が存在したならば、この時しめたとばかりににやっとして笑っただろう。
何せ自分をよろめかせる程に活きの良かった餌が、人間が使う武器をあんぐりと咥えると、己自身の手で己の喉を吹き飛ばしたのだ。
これは締める手間が省けたぞ、という愉悦と、自分で仕留めたかったという若干の後悔。<タカアシガニ>は巨体に見合った脳に知能、そして精神活動も備えていた。
人間のような思考と高度な精神活動が存在するというわけではない。その理は本能に基づくものでしかない。快不快原則の原始的な思考、喰うや喰われるやに掛ける思考でしかないのだ。人語による思考ではないのだから、当然とは言えよう。
<タカアシガニ>はその身にみっしりと詰まった脳が訴える空腹信号に従って、うずくまって動かなくなった餌へと足を伸ばす。腹は満たぬが、これ程の手合いを消化器官に収めたという満足感を得るためだ。つまり、そういうことだった。
人間のものさしから言えば、この<タカアシガニ>は大変な美食家であったのである。
抑えきれない食への欲求に涎とも泡ともつかない体液をぼとぼととこぼしながら、高城邸の上からぬうっと身を動かした。
これ程の活きの良い餌である。不味い訳が無い。
特にあの波打つ右腕などをすすれば、さぞかし美味かろう。
どれ、まずは頭から――――――。
<タカアシガニ>は器用に巨大な両の鋏でもって、餌を摘まみ上げた。鋏の見た目の巨大さに反する精密作業である。
そのまま、丁度ペットボトルのキャップを開けるようにぺきっと餌の首を手折ると、やはりこれもボトルキャップよろしく、餌の首をずるりと引き抜いた。
奇跡的に残された赤黒く細長い神経と血管とが糸を引き、生首と胴体との間で風に攫われゆらゆらと揺れている。
満足気に取り上げた首をためつすがめつしてから、<タカアシガニ>は徐に、ゆっくりと摘まみ上げた御馳走を口器に含み――――――咀嚼。
ぱき、ぽり、ぼき、こりこり――――――。
ぼりぼり、ばりばり――――――。
みしみし、みしみし――――――。
赤黒く細長い神経と血管とが糸を引き、生首と胴体との間で風に攫われゆらゆらと揺れていた――――――。






■ □ ■





File16:擦り切れた日記

――――――(日付は擦り切れていて読めない)

お母さん
どこ
会いたい

――――――

また お母さ 今日見つけた
ちが にせもの
ほんもの お母 ん 
石の箱
お母さ しんじゃっ
 母 ん
お母さん
お母さん
おかあ

あああ
あああああ
ああああああ

――――――

――――――

私は一緒に居たかただけ

――――――

――――――

おかあさん

――――――

からだ おも
あたまいた
ねてたら おちビ おちてきました
おいしそ だったので すこしかじり した
あかいどろどろ ちゅうちゅうすると なだか あたま いたくなくなた
おちビちゃ なまえきくので りさいった
ちゅうちゅうしたので すこし かえしま た

――――――

おちびちゃん 言葉 少し話せないみたい
私 教え あげました
こんにちは
いたい
いただきます
おいしい
おかあさん
おかあさん
お母さん

――――――

おちビちゃん ケント ていうみたい
ケント 目痛い 言うので なめて あげました
からだ痛い 言うので いれて あげました

――――――

おちビちゃんと 一緒に寝ると お母さんのことを思いだす
お母さんも こうやって 私を抱きしめてくれたっけ
お母さん・・・・・・
どうして一人でどこかに行っちゃったの?
私も連れていってほしかったな

――――――

ケントちゃんの手が動いた
よかった
嬉しいなあ
ごめんね
お腹すいてたからかじっちゃったの
痛くなかった?
ケントちゃんは治ったからいいよって言った
嬉しいなあ
ケントちゃんは優しいな
ケントちゃんは暖かいな

――――――

ケントちゃんと一緒に寝ていたとき ケントちゃん お母さんって言った
ねごとだったみたい
ケントちゃんもお母さんを探してるんだ
ケントちゃんのお母さんも

――――――

夜 寝ているケントちゃんは たまに私のことをお母さんって言います
ごめんねケントちゃん
私 お母さんじゃないの

――――――

どうしたらケントちゃんを お母さんに 会わせてあげられるんだろう

――――――

どうしたらいいのかな

――――――

どうしたら

――――――

ああ そっかあ
なあんだ こんなに簡単なこと だったんだ



――――――

――――――

――――――

(・・・・・・ずっと白紙が続いている)

――――――

――――――

――――――

――――――

――――――

(最後のページに、血で何かが書いてある)

――――――

私が お母さんに なってあげれば いいんだ










 


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.029248952865601