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No.21478の一覧
[0] 【チラ裏より】学園黙示録:CODE:WESKER (バイオ設定:オリ主)[ノシ棒](2011/05/21 22:46)
[1] 学園黙示録:CODE:WESKER:2[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[2] 学園黙示録:CODE:WESKER:3[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[3] 学園黙示録:CODE:WESKER:4[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[4] 学園黙示録:CODE:WESKER:5[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[5] 学園黙示録:CODE:WESKER:6[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[6] 学園黙示録:CODE:WESKER:7[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[7] 学園黙示録:CODE:WESKER:8[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[8] 学園黙示録:CODE:WESKER:9[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[9] 学園黙示録:CODE:WESKER:10[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[10] 学園黙示録:CODE:WESKER:11[ノシ棒](2011/05/21 22:36)
[11] 学園黙示録:CODE:WESKER:12[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[12] 学園黙示録:CODE:WESKER:13[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[13] 学園黙示録:CODE:WESKER:14[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[14] 学園黙示録:CODE:WESKER:15[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
[15] 学園黙示録:CODE:WESKER:16[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
[16] 学園黙示録:CODE:WESKER:17[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
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[21478] 学園黙示録:CODE:WESKER:12
Name: ノシ棒◆f250e2d7 ID:373ed26e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/21 22:37
高城邸二階。
豪邸の庭先に集められた生存者達のざわめきを聞きながら、与えられた個室の中、健人はベッドに腰掛けて項垂れていた。
どうやらまた、高城一派の手によって生存者が救出されたらしい。
空になったチョコレートの包み紙を後ろに放り、握り飯へと手を伸ばす。
握り飯は手作りのものではなく、ビニルに包まれたコンビニエンスストア市販のものだ。
これらは全て、高城一派が周囲の店という店から集めて来た物資である。
当然の事だが、高城一派は地盤固めに尽力し炊き出し等に十分な時間を裂く事は出来てはいないようだった。未だ世界が崩壊してから二日しか経っていないのである。サバイバルを視野に入れるよりは、周囲から既製品を掻き集めた方が効率が良いのは言うまでもなく。現時点で優先すべき事は、救い出した人々をまとめ上げ同一の規律を持った集団を造ることである。それは人が人らしく生きるために、環境を整える前に必要な段階だ。食料や物資の確保より集団を統制し制御することが非常時には重要である、というのが健人の持論だった。それはこれまでの騒動が証明しているようにも思えた。
その点から観れば、高木一派はよくやっている。たった二日かそこらでここまでまとめあげたのだ。並の行動力とリーダーシップでは絶対に実現しないはず。平時から災害時の対策マニュアルが徹底していたに違いない。それでも崩壊の兆しが見え隠れするのは、こればかりは責められないだろう。
死体が起き上がり人を襲うのだ。そんな事態、誰が想像出来る。
それは思想右翼団体である高城一派でさえ例外ではなかった。
ならば警察は・・・・・・。
小室と宮本の目的地を思いながら、健人はまた別の握り飯へと手を伸ばす。
健人の座るベッドを中心として、辺りにはビニルの包み紙や袋が散乱していた。全て健人が胃に収めた食料品の包装紙だった。明らかに10食分以上の分量があったが、健人の腹は外から見ても膨れた様子はない。全てエネルギーに変換されてしまったのだろう。ほとんど全てが、である。どれだけ食べても飲んでも、健人は一度も便意を催さなかった。以前には考えられない量の食事量だというのに、詰め込めば詰め込んだ分だけいくらでも入っていくのは、自分自身の身体であっても不気味だった。
どちらにしろ腹一杯食えるのも今の内だけだ、と健人はペースト状に噛み潰した米粒を呑み下した。
何度も足を運び、流石にもう気まずくなってきたが、また食糧庫に世話になることにしよう。健人は手早くゴミをまとめ、個室から廊下へと出た。
半ば機械的に個室と食料庫を往復する健人の頭を巡るのは、神社で自らの窮地を救った、黒衣の大女のこと。
幼い頃の記憶。目を閉じれば今でも残っている温もりに、健人はその名を呟いた。


「リサ――――――」


果たして“そう”なのだろうか。
あの黒衣の大女は、幼少の頃に自分を慰めてくれた彼女なのだろうか。
だが健人の記憶は、感覚は、二者が同一人物であることを知らせている。
今ほど健人は、自分のあやふやな感覚を信じたくはない時はなかった。

長い腕。
くすんだ髪。
青白い肌。
引き連れていた、ハ虫類と人間を合わせたような<化け物>。

どれもが人間からは遠くかけ離れたもの。
それらは全て、健人が抱いていた淡い想像とは真逆の姿だった。
本音を言えば、まるで化け物のように見えた。
だが、それは。


「俺も一緒か」


皮手袋に包まれた右手を掲げ、健人は言った。
――――――物事の見た目に囚われるべきではない。その本質を見るのだ、健人よ。
叔父の言葉を思い出す。
すると不思議な程、すうっと胸のわだかまりが消えていく。
残ったのは、二度も自分を救った恩人である彼女に対し、疑いを抱いてしまったことへの罪悪感と、自己嫌悪だけだ。
彼女に抱きしめられた時、感じたのは労りと優しさだった。背を撫でる手は慈愛にあふれていて、そこに邪な思惑など少しも含まれてはいなかったではないか。
疑うべき所は背後関係であり、それは彼女自身に問題があるのではない。
そも明確な思考というものが彼女に在るかが疑わしいのだ。
例え騙されたとしても、裏切られたとしても、それは彼女の意図したことではないはず。


「俺って奴は、どうしてこうなんだ。くそっ・・・・・・」


上辺しか見えていないのか、と。
吐き捨て、健人は拳を握った。
ミシミシと肉の軋む音を立て、手袋の隙間から浅黒い体液が溢れ出た。
これが、今の自分の体内を流れる、血の半分だ。
自嘲に健人が口角を歪めると、足元にくぅん、と寄り添う生暖かさが。
視線を降ろせば、それはジークだった。
側にありすがいないのは、健人と同じく彼女も食事中であったからだ。食堂から閉め出されたのか、と健人はジークを抱き上げた。
子犬にそんな感情があるかは解らないが健人には、じっと見つめるジークのつぶらな瞳が、自分を心配して気遣っているように見えた。


「ごめんな、心配させちゃったか?」

「くぅん・・・・・・」

「はは、くすぐったいよ。大丈夫、大丈夫だから、もう怪我はないよ」


ジークはぺろり舌を出し、健人の手袋から滴る体液を舐め取った。
血は乾いてはいないが、怪我自体は拳を開いた時にはもう、治癒が始まっている。大丈夫だ、と言って健人はジークの背を撫でた。
動物に触れていると、どうしてこう心が落ち着くのだろう。
ありすがジークを側に置く意味がよく解る。この子犬は、小さな身体でありすの心を守っているのだ。


「ありがとな。俺はいいから、ご主人様の所へ行ってやんな」

「わんっ!」


元気に一鳴きするジークを降ろし、廊下を走って行く姿を見送ってから、健人は拳を額に押し当てた。
嫌でも考えは巡る。
彼女の身につけていた装飾品、衣服と電子錠からしても、何らかの組織的な関与が見受けられる。
健人の右腕を変質させた<化け物>に始まり、<リーパー>達は、もしや人為的に発生させられた新種の生物ではないか。
ならば、世界がこんな状態に陥ったのも。
――――――いや、これ以上は考えるのはよそう。健人は頭を振った。考えれば、切りがない。
例え彼女に何らかの組織が関与していたとしても、彼女は昔と変わらず、口が聞けるような状態ではなかった。
誰に問うても答えは返ってこないだろう。
知る術がないのだから、結局のところどうしようもないのだ。
出来るのは何かがあった時、即時に動けるよう、心構えをしておくことだけだ。
そしてそれまでは、自分の心に従おう。
己の在り方というものが試される世界なのだ。
誰もが本能を剥き出しにすることに、躊躇を覚えなくなってきている。
それは精神統一を重んじるはずの武人である冴子でさえ、そうだったのだ。
悪意の形がはっきりとするまでは、あるがまま感じるままに、全ての状況を受け入れるしかない。
例えそれがどれだけ目を背けたい事実であったとしても。


「また、直に会えるよな」


自分が何処に行ったとしても、彼女はきっと後を追ってくるだろう。
そんな根拠の無い確信が、健人にはあった。
その時は、その時こそ、ちゃんと言おう。
彼女の手を握って、ありがとう、と。
きっと全てはそれからだ。


「一発殴られるくらいは覚悟したほうがいいかな。死ぬかもしれないけど」


<リーパー>を一撃で殴殺した膂力を思い起こしながら、健人は食糧庫へと急ぐ。
頼めばいくらでも食べ物を分けてくれるのも、警戒が<奴ら>だけに向き、内側への危機感が煽られていない今だけである。
その内に食糧を巡って殺し合いにまで発展しかねない、と健人が思うのは、何も大げさな話ではない。
きっとすぐにそうなる。
生ものが腐り始める頃が目安か、と健人は早歩きで廊下を進んで行った。


「誰かっ、誰かあ!」

「うるせえ! 静かにしやがれ!」

「おい、お前そっち押さえてろ。暴れんなよクソ女! ケツ上げろ!」

「大人しく突っ込まれてろやボケ!」


聞こえる、助けを求める叫び声。
物音が聞こえたのは、廊下のつきあたりにある端部屋。
間取りの関係で使い勝手が悪く、誰かが足を向けることはほとんどなさそうな部屋だ。高城邸は右翼団体の拠点として使用されていたが、本来は住居であるのだから、こういう間取り上の死角が多数存在していた。
邸内の巡回に割ける人員など、あるはずもない。外の喧騒とは切り離された感のある邸内では、室内で多少大声を上げても外に漏れることはない。後ろめたい事をするにはぴったりだろう。
喰い物が腐るより人間が腐る方が早いのか、と健人は溜息を吐きながら、怒声が聞こえる部屋の扉を蹴破った。
力加減を誤って蝶番ごと扉は粉砕。
冷静であるつもりだったが、思っていた以上に気が立っていたようだ。
部屋の中にはじゃらじゃらとシルバーアクセサリが煩い、同じようなファッションをした男達が数人と、ハンドタオルで手足を縛られた女性が一人。
衣服は斬り裂かれ、下半身は露出し、開かれた股の間に男が割って入っている。


「な、なんだぁ手前は!」


出刃包丁を突き付けて叫ぶ男。
これで女性を脅し、縛り上げたのか。
錆の浮いた包丁は、以前ならば例え相手が素人でも身構えたものだが、今の健人にとっては何の脅威にも感じない。
そのまま無造作に健人は男たちに近付いていった。
こうして道徳感や人間性を発揮できるのは、後どれくらいになるだろう。
身体の問題を除いて、の話である。
いつかは人道を踏み躙る行いをしなければならなくなるかもしれないし、こんな場面に出くわしても見捨てなくてはならなくなるかもしれない。
精神の尊厳を保つための機会は逃さないようにしたいな、と健人は思った。
行いだけは気高くありたいものだ。
俺を助けてくれた、彼女のように。


「ひ、ひひっ、何だよ、お前も混ざりたいのか? でも悪いな、俺らが先だ。その後にってんならいくらでも貸してやりゅぎょぶっ!」


男の語尾が潰れたのは、健人が平手でもって男の頬を張り付けたから。
左手での平手打ちだったが、成人男性の身体を宙に舞わせることぐらいは以前でも出来た事だ。今では首の骨を折ってはしまわないか、手加減が難しい。
男はくるりと横向きに空中で一回転すると、床に叩きつけられて動かなくなった。


「てめ、ぶっコロっぞっ!」

「調子乗ってんじゃねえぞコゥルァ!」

「黙ってんじゃねえよ! 殺す、マジ殺す!」


男たちの吐く息からは、シンナーの臭いが漂っている。
部屋の隅には液体の入ったポリ袋が。
現実逃避したい気持ちは良く解る。これが夢であったなら、どれほど楽であることかと健人も何度も思った。
だが自分が逃げ込むのに他人を道連れにするのは駄目だろう。
生き残りを集めることは最優先事項だが、集まった者がこんな奴らでは。
気高く在りたいと思った端から、人の醜さに辟易とさせないでほしい。
健人は掴みかかる男に平手打ちを繰り出しながら女性に近付いた。倒された男の手から包丁が離れ、空を飛び、回転しながら天上に突き立つ。
さっと女性の様子を検めた限りでは、大きな怪我は無い。拘束を解こうと暴れ手首の皮を擦ったのと、これは殴られたのだろうか、口の端を痛々しく切っているのみ。精臭も体液も付着してはいなかった。
健人はカーテンを引きちぎるとそれを女性へ投げ渡し、部屋の外へ出るよう促した。


「行ってください。外の方達に人を寄こすよう伝えてもらえると助かります」


女性は震える手でカーテンを身体に巻きつけると、小さく悲鳴を上げながら逃げ出て行った。
室内に残ったのは健人と頬を張られてうずくまる男達のみ。


「すんませんマジすんません、マジ調子乗ってましたぁ・・・・・・」

「いって、マジいってぇ・・・・・・」

「クソが! あああいてえ! クソが!」


繰り返される男の薄っぺらい謝罪の言葉を聞いていると、沸々と怒りが湧き上がってくる。
中には見当識を失い、えへらえへらと笑いだす者までいた。
ぞわり、と右腕が疼く。
ほとんど無意識に、健人は男達に向け、一歩を踏み出していた。
自分が何をしようとしているのか、自覚することもなく――――――。


「やめておけ。こんな者共を手に掛ける必要はない」


肩を掴まれ、健人は意識を取り戻した。
はっと飛び退く。
背後に気配は無かったはずだ。


「――――――誰だ!」

「私だ」


ややアクセントが異なるも、しかし流暢な日本語が健人の背後より掛けられる。
外国人、なのだろうか。
数mも離れていないというのに、目の前の男から感じられる気配が、異様に薄い。全くゼロではないということが、より恐怖心を煽った。室内に漂う空気へと自身の色を合わせ、溶け込んでいる。
足音もなく室内に進入し、背後へと回ったこの男。対峙するだけで解る。尋常な相手ではない。
最悪、叔父クラスだと考えてもいいだろう。


「誰だと聞いている!」

「私だと言っているだろう。忘れたのか?」


呆れたように肩を竦めながら男は言った。
まるで、思い出せ、とでも言いた気な態度だったが、健人の記憶に該当する人物はいない。

その男は奇妙な格好をしていた。
黒色の戦闘服に、黒色のミリタリーブーツ。
両手には装甲板が施された黒の手袋が。
エルボー、二―パッドには銃創が刻まれており、ケブラー繊維が織り込まれているだろう戦闘服は、所々切り裂かれた部分が見受けられる。それでも急所には一切の損傷はなく、開けられた戦闘服から覗く肌着の汗染みは、男がその上にタクティカルベストを装備していたことを示していた。
戦う者の――――――今まさに、戦っていた者の戦闘装備である。それも、重火器を使って。
また肌の露出は捲くられた袖から出ている腕と、頭部から覗く短く刈り込まれた色素の薄い髪くらいで、それ以外には一切無い。そこから解るのは、男が白人男性であるということだけだ。
男が明らかに戦闘者然とした格好をしているのは、この場においてはそう目立つものでもないだろう。
服装でいえば、要所を警備している党員達が纏っている制服の方が目を引く。
それ以上の特徴が男にはあった。
男はガスマスクを被っていた。


「お前のようなガスマスクの知り合いがいるか。素顔を晒してから物を言え!」

「・・・・・・ほう」


いてたまるか、と叫んだ健人は、急に感じた寒さに身体を震わせた。
唐突に、男から幽気とでも言うべき異様な気配が発せられ、室内の温度が数度下がったように錯覚する。
その恐ろしさは<リーパー>など比ではない。まるで死神そのものだ。
健人はひりつく喉に唾液を飲み込ませた。


「ケント――――――」

「な、なんだ。どうして俺の名前を知っている!」


男のガスマスク。
その両目に嵌められた赤いレンズが、光源も無いというのに、鋭く輝いたように見えた。


「――――――処刑されたいか?」

「ひっ・・・・・・!」


健人の膝から力が抜け、腰が床を打つ。
這いずるようにして後ろに下がり、健人は顔色を真っ青にして打ちのめした男達の横に並んだ。
何故か、首に手が行く。
頸椎がぱきんと軽い音を立てて鳴った。


「ケント、私は教えたはずだぞ。衝動を理性で制御し、駆使しろと。それが出来ないならば、可能となるまで訓練を続けろ、と。
 一年程度の教練では身に付かなかったか? それとも、アルバートではなく私の話では、覚えるに値しなかったか?」

「う、お前は、あなたは、まさか・・・・・・」

「どうやらまた首を180度回されたいようだな」


首に奔る痛みがフラッシュバックする。
ガスマスク内でくぐもってはいるが、良く聞けば、聞き覚えのある男の声。
なぜ忘れてしまっていたのだろう。
健人の人生に標を立てたのは叔父であるが、真の意味で戦うということを教えてくれたのは、彼だった。
わずか一年であるが、健人は彼の下で訓練を積んだのである。そこで多くの事を学んだ。
多数ある首の関節を脊髄を傷つけないよう、それぞれの最大可動域まで無理矢理に回されると、自分で自分の背中を見る事が出来てしまう。というのもまた、彼から学んだことである。
首を庇ってさらに後ずさる健人。
ゆっくりと伸ばされる手に、健人は諦めの気持ちで目をきつく瞑った。もう自分の背中を見たくはない。


「冗談だ。そう怯えるな」


予期していた衝撃はなく、頭に軽い衝撃と重みが。
薄らと目を開けると、ガスマスク男が健人の頭に手を置いていた。
そのまま髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜられる。


「それなりに修羅場を潜って来たようだが、まだ甘い。私の気配も探れんようではな。久しぶりにレッスンしてやる、ケント。
 気配を消した人間は、周囲の空間に空いたスポットで見つけろ。網のように意識を張り巡らせておけ。いいな」

「せ、先生、ですか? 本当に?」

「そうだ。やっと思い出したか」

「ハンク先生! お久しぶりです!」


健人はガスマスク男の名を呼ぶと、顔を輝かせた。
かつて健人が単身日本に渡る事となった際、叔父から家庭教師役としてあてがわれたのが、その男との出会いだった。
男の名はハンク。
健人の教官だった男である。
彼もまた、健人が頭が上がらない者の一人だった。
当時から凄腕の特殊部隊員として多忙だったハンクは、健人の教育のためだけに本国と日本を往復してくれていたのだ。健人の叔父を模した体術は、一年間の教育期間の中で、ハンクを通じて学んだものであった。
もう数年間も連絡を取り合ってはいなかったが、彼への恩を忘れるわけがない。
叔父からは強さを、そして彼からは力を与えられたのだ。健人はずっとそう思っていた。
健人は力強く額を揺する手にくすぐったそうに笑いながら、ハンクへと問う。


「先生はどうしてここへ?」

「SATに特別教官として招かれていてな。床主地区の鎮圧と救出作戦を任されたはいいが、部隊が全滅し、生き残ったのは私だけとなったのだ。
 そして無様に逃げ帰る最中、ミスター高城に拾われた、という訳だ」

「無様だなんて、そんな事。生き残る兵士が一流ですよ。でも、やっぱり救出作戦は行われていたんですね・・・・・・」


そして失敗したのか、と健人は肩を落とした。
反論はできんな、とハンクは肩を竦めた。


「今後しばらく救出や支援は期待しないほうがいい。自衛隊も動けんだろう」

「そうですね。派遣するにも国中がこんなだから、手が足りないでしょうし」

「初動の遅さもな。POTUS(ポータス)は既にボタンを押したというのに、全く。慎重になるのはいいが、あれは日本の悪徳だな」

「日本人としては何とも言えないですね、それは。先生、もう一つ聞いてもいいですか?」

「ああ、何だ?」

「ここ、有害物質が漏れてるとかはないですよね? どうしてガスマスクなんか付けてでででででっ! あいたっ、たったたたた!?」


がっつりと顔面を把握される健人。
え、と疑問の声を上げるよりも早く、激痛が顔面を襲った。


「下側が開くようになっている。栄養補給に支障はない。何か問題でも?」

「だから何でマスクを付けっぱにぃいいいっ!? 痛い痛い痛い! これ以上はへこみます、へこみますって!」

「・・・・・・」

「何でっ!? 何で無言でアイアンクロー!?」


親しげな様子から一変、殺気を漲らせるハンクの豹変振りが、健人にはさっぱり解らなかった。
半ば強引に指を剥がそうとしたが、ハンクの指は凄まじい力で顔にめり込み、肉に喰い込んで外せない。
視界いっぱいに黒色を映しながら、健人はじわじわと来る圧迫に涙した。
この感覚、痛み、理不尽な仕打ち。全てが懐かしい。この人は俺の教官。これはハンク、間違いなく死神ハンク。
だから自分は今、懐かしさに感動してむせび泣いているのであって、決して暴力に屈して涙しているのではない。


「二度と聞くな」

「頭がっ、骨がっ・・・・・・!」

「ケント――――――」


さも不愉快だと鼻を鳴らして指を放したハンクが次に言い放った言葉は、いっそ冷たい響きを持っていた。
それもまた、健人の精神に鋭く滑り込むものだった。


「右腕」

「う――――――ッ」


しまった、と健人は自分の心臓が大きく飛び跳ねたのを感じた。
懐かしさに気が緩み、思わずハンクの指に右手で触れてしまっていた。
見た目は取り繕えているが、肉感は人間のものとは明らかに違うのだ。
お互い皮手袋に包まれた手での接触だったが、この男がそれに気付かない訳が無い。
悟られてしまったと項垂れた健人に、ハンクはなるほどと一言だけ呟き、踵を返す。


「え・・・・・・先生?」

「お前がこれについて聞かないというのなら、私も聞かないでおいてやる。交換条件だ」


これ、とガスマスクを指先で叩きながらハンクは続けた。


「言っただろう、お前がそれなりの修羅場を潜って来たと、解っていると。ならばそんな事もあるだろう。
 私にとって重要なのは、お前が優秀な生徒であるということだけだ。それ以外は些細な事だ」

「先生・・・・・・」

「さあ、もう立て。ここは空気が悪い、表に行くぞ。こいつらは放っておけばいい」

「・・・・・・はい。あの、先生」

「なんだ?」

「ありがとうございます」

「言わなくてもいい」


馬鹿め、と言って差し出された手を、健人はしっかりと握り返した。
握り合った手は、右手だった。






■ □ ■






健人がハンクとレーションを片手に思い出話に花を咲かせていると、どたどたと足音を立てて近付いてくる少年がいた。
仁義なき戦い、などとシルクスクリーンで写されたTシャツを着て、片手には銃を掲げている。
独特なセンスの着こなしをした、コータである。


「先輩、健人先輩! 誰ですか、その素敵なお人は!」

「ああ、コータ。やっぱ食い付いてくるよな。紹介するよ、この人は」

「お前もか、ヒラノ・・・・・・」

「そ、その声は!」

「俺の先生、って知ってるのか?」


はて、と健人は首を傾げた。
この二人、知り合いなのだろうか。


「知ってるもなにも、僕がアメリカに行った時に教わっていた教官ですよ!」

「ああ、確かブラッククウォーターの。え、先生、そんな事までしてたんですか?」

「以前勤めていた会社が、一度倒産してな。その間、技術を腐らせるわけにはいかないと別の会社でインストラクターをしていた」

「いやあ、お久しぶりですハンク教官! お元気そうで何よりです」

「お前も変わらんな。声だけで私だと気付くとは、誰かよりも記憶力がいいようだ」

「う・・・・・・そんな趣味の悪いガスマスクしてて、気付くほうがおかしいんですよ」

「ほう・・・・・・」


首に手を添えられ、健人は青くなって黙り込んだ。
小さく震える姿は、産まれたての小鹿のようだった。


「それにしても教官が僕のことを覚えていてくれたなんて、感激です」

「当然だな」


頷いて、ハンクは言う。


「教え子の事を忘れる事はない。それが優秀な者であったなら、なおさらだ」


さも当たり前だという風に。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「おい、どうしたお前達。私の日本語が間違っていたか?」

「いえ、その、急に暑くなったなー、なんて」

「やばい・・・・・・。ガスマスクなのに、ガスマスクなのに・・・・・・っ!」

「おかしな奴らだ」


解らん、と肩を竦めるハンクに、健人達はぱたぱたと顔を手で扇ぐ。
少しだけ赤くなった顔で、健人とコータは顔を見合わせ笑った。


「まさかお前も先生の教え子だったなんてな」

「先輩も。本当に先輩だったんですね。いやー、世界って結構狭いんですねえ」

「だなあ。びっくりしたよ」

「教官に一年も教えを受けてたなんて、羨ましいっす」

「日本でだったから、体術専門だったけどな。すげぇスパルタでやんの」

「あー、わかりますわかります」


あはは、とひとしきり笑ってから、健人ははたと気付いた。


「そういえば、高城は? 一緒じゃないのか?」

「一緒ですよ。ほらそこに・・・・・・って、高城さん? 高城さーん?」


そこ、と指された方には、物陰に隠れるようにそっぽを向いた高城が。
解って無視しているようだった。
コータがあまりにも名を大声で呼ぶものだから、諦めたように赤くなってツカツカと歩み寄って来る。


「大声で呼ばない! あんた達と知り合いだなんて思われたくないの! 解りなさいよ!」

「え、ええっ! そんなぁ、高城さあん!」

「デブオタに厚着男にガスマスクなんて、どんなトリオよ。もう!」

「やっぱり俺もおかしいのか・・・・・・」


確かに、まだ冬服の制服から衣替えするには早い時期であるが、分厚いコートを着るには季節感がないかもしれない。
冷え性という設定で通すしかないようだ。
ガックリと肩を落とす健人だった。


「まあいいわ。あんたを探してたの。話があるから、顔貸して」

「俺? 話って、何の?」

「今後の話よ。小室達のとこへ行くわよ」

「でも・・・・・・」


ちら、とハンクを見る。
高城はハンクのことを信用してはいないようで、顔一杯に難色を示していた。
見た目のことだけではない。
ハンクもコータと同じく、銃器を自己管理していた。とはいってもマシンピストルとハンドガン程度であるらしいが、火力の大きさなどを問題にしているのではないだろう。
問題はハンクが、武装したプロであるということだ。
いくら高城が素人であるとしても、ハンクが本気になれば自分たちの制圧など造作もない、ということくらいは理解できているのだ。
健人も、コータをバックアップに冴子や自分を相手にしたとしても、ハンクが敗北するには全く足りないということを知っている。
小室達は戦力に数えてはいなかったが、同じ事だろう。
そして陳腐な言い方だが、天才である高城には、最悪の事態のその後のことまで考えているのかもしれない。
まだ子供と言ってもいい、学生達の集団に、ハンクの様な“理解ある”大人が組み込まれることを恐れているのだ。
鞠川は・・・・・・ここは言及しない方が、彼女のためだろう。
リーダーである小室の地位を脅かす存在は遠ざけておくべき、というのには同意見である。
だが、ハンクと別れるか否かの二択を突き付けられることになったならば、どうするべきか。
健人は答えようがなかった。


「行ってこい、ケント」

「でも、先生」

「友人は大切にしておけ。失ってから気付いたのでは、遅すぎる」

「先生・・・・・・はい」


言って、健人の頭に手をやるハンク。
そのままハンクは背を向けて、喧騒の中に紛れていった。
不思議なことに、異様な格好をしているというのにハンクの存在には、誰も気が付くことがなかった。


「うげぇ」

「女の子がうげぇとか言わない」

「一瞬でも可愛いなんて思った自分がキモイのよ。あんたね、その顔で頭撫でられるとかないわ」

「解ってるから、言わないでくれよ・・・・・・」


やはり、この天才少女は苦手だ。
行くわよと大股で歩く高城の後ろを、コータが嬉しそうに付いて行く。
この娘に付き合えるコータには、心底尊敬の念を抱く。嫌われていると解っていて、それでも接していかなければならないのは、中々につらいものがある。
高城くらいに解り易くすれば、冴子も離れていくだろうかと思わずにはいられなかった。
健人も高城の後に続き、豪邸の扉を潜った。


「コータちゃん、サヤちゃん、健人お兄ちゃん!」

「おっと」


健人の胸に飛び込んで来たありすを受けとめる。
広い玄関ホールには、小室と冴子の姿もあった。
宮本がこの場にいないのは、背中を打って、まだ安静にしていなければならなかったからだろう。鞠川はその治療に付き添っているのだろうか。
二人を除いたメンバーの全員が、この場に集まったことになる。
皆、高城邸で受け取った私服に着替えていて、風呂にでも入ったのだろう、さっぱりとした様子だった。
制服姿で疲れ果てた顔をしているのは、健人だけであった。


「健人」


と、冴子が近付く。


「名前で呼ぶのはいいが、せめて君を付けろと」

「駄目、だろうか」

「・・・・・・もういいよ。一々訂正するのも面倒臭い」


よかった、と微笑む冴子だったが、健人は彼女を喜ばせようとして言ったのではない。
投げ槍に答えただけだったのだが、それをどう冴子が受け取ったのか。
あまり考えたくはなかった。


「健人さん健人さん、ちょっと」

「なんだ、孝」


小声で言い寄る小室に、健人は怪訝な顔で返す。
ほら、と小室が指さしたのは冴子。
冴子は清楚な着物に身を包んでいた。
帯止めは小さく輝く翠色の宝石が。あれはエメラルドだろうか。生地は静かに、帯で主張する。膝をほんの少しだけ曲げて、線を柔らかくするのは、着物をよく知っている者の佇まいである。
気付いているのだろう、冴子は視線を伏せては上げるを繰り返し、ちらちらとこちらを伺っていた。
両手の指先を弄び、頬を上気させている。
何かを期待して待っているかのような態度だった。
そうまでされては健人とて、解らないなどということはない。
が、抱いた感想といえば、恐らくは小室や冴子が予想するものとは真逆のものだった。


「ほら、何かこう、毒島先輩の着物姿についてコメントをですね」

「あれについての? やだよ。何であんなTPOの狂った格好にあれこれ言わなきゃいけないんだよ。
 俺も人のことは言えないけど、あそこまでじゃないぜ。周りには<奴ら>がうようよと居るんだぞ。何かあったら走れないだろ、あれじゃあ」

「そうですけど。いやそうじゃなくてですね! ああほら、毒島先輩、うずくまっちゃったじゃないですか!」

「わざわざ借りてまで着物なんか着込んでくる感覚が信じられん。刀も持ってないみたいだし、馬鹿じゃないのか? どうせ直に着替えるんだから、意味ないだろ」

「すんません毒島先輩。これ以上はフォロー出来ないっす・・・・・・!」


膝を抱え、小さくなる冴子。
何とか健人の視界に映る面積を減らしているようだった。
高城達からさっさと何とかしろ、というプレッシャーを感じる。
物理的にも痛い。
先ほどからアキレス腱の辺りを、何度も蹴り付けられていた。
コータが何とか止めようとしていたが、焼け石に水。高城の怒りに油を注ぐだけのようだった。
しかし、確かにこのままでは話は進まない。
健人は大きく溜息を吐いた。
仕方がない。本意ではなくとも、言わねばならないことはある。


「まあ、似合ってはいるけれど」


健人が口にした途端、すっくと立ち上がる冴子。
これ見よがしに、嬉しそうに髪を掻き上げている。
対して健人は苦り切った顔で、髪を掻きむしっていた。
こいつ面倒臭いなあ、という台詞は、小室が慌てて口を塞ぐことで発せられることはなかった。


「小室」


高城が前に出る。
真剣味を帯びた彼女の声色に、皆が集中した。


「アタシたち一度、話し合っておくべきことがあると思う」


今後の身の振り方を――――――。
やはりそうきたか、と皆頷いた。
高城が問うたのは、この場に留まるか、別れるかの二択。
即ち、これから先も仲間でいるかどうか、ということだった。






■ □ ■






File12:大統領機墜落跡より発見されたレコーダー


「・・・・・・もはや、これまでか。皆、機体を捨てて脱出しろ。私は最後の務めを果たさねばならない」

「大統領! それは・・・・・・」

「言う通りにしたまえ。これは大統領命令だ」

「出来ません。その命令には、従えません!」

「・・・・・・君たちには長い間世話になった。死後までも付き合わせたくはない」

「大統領、我々一同、最後までお供いたします。その命令には従えません」

「・・・・・・大統領としての命ではなく、友としての頼みであってもかね?」

「友であるのならば、なおさら」

「決意は固いようだな。まったく、私の任期最後の命令だというのに。私はいい部下を持ったようだ。合衆国大統領として、これほど誇らしいことはない」

「はっ、光栄であります!」

「だが、彼だけはここから送り出さねば、前大統領に申し訳が立たない。誰か彼を、ケネディ君をここに」

「はっ、すぐに――――――」


・・・・・・


「――――――失礼します、大統領閣下」

「かけたまえ、ケネディ君。君に任務を頼みたい。受けてくれるか?」

「はい、閣下」

「ありがとう、そう言ってくれると信じていた。君に与える任務は、前大統領とその家族の身辺警護だ。
 私はもう手遅れだ。副大統領もこの有様だ。恐らくは、彼に再び大統領権限が還ることになるだろう。歴代史上、もっとも有能であった大統領へと」

「閣下、それは・・・・・・」

「いや、いいのだ。私が彼より劣っていることなど、誰よりも理解している。
 この場に座っていたのが私ではなく彼であったのなら、こんな地獄は絶対に許容されなかっただろう。
 合衆国最大の不幸は、大統領の任期が8年であったことだ。あと2年、いや、1年でいい、彼が大統領の座に就いていてくれたなら。
 君を持て余すこともなかっただろうに。すまん、ケネディ君。側に置いておきながら、君を十分に使ってやれなんだ」

「いいえ、大統領。ホワイトハウス直属のエージェントとして、あなたの下で働けたことを光栄に思います」

「そう言ってくれると助かる。ケネディ君、君に任を与える前に、一つ頼みがある」

「はっ、何なりと」

「この銃で、私を撃て」

「それは・・・・・・!」

「合衆国大統領として、私は自決することは出来ない。どちらにせよ死ぬしかないにしても、自らの手で責任を放棄することは、私には許されていない。
 君にしか頼めないのだ、ケネディ君。この機と運命を共にするなどとのたまう馬鹿共には、口が裂けても言えないことだ。だから、頼む。
 私を誇りある大統領として、終らせてほしい」

「・・・・・・承知、しました」

「最後まで手間を掛けてすまないな。しかし、彼から預かった君に、ケネディに見送られる大統領というのも悪くない。ああ、もちろん頭を狙ってくれよ」

「ケネディのようにですね」

「ああ、もちろんだとも。なんだ、寡黙な男かとばかり思っていたが、ユーモアを好む性質かね。もっとはやく解っていれば、一つ最高に笑える小話を教えてやったものを」

「それはまたの機会にしておきましょう」

「そうだな、時間が惜しい。では諸君、さらばだ。出来れば、頼むから、逃げてくれよ。ケネディ君、後を頼んだぞ――――――」


・・・・・・


「――――――ケネディ、顔が青いぞ。これから楽しい空の旅だってのに、もっと楽しそうな顔をしろよ」

「ああ・・・・・・泣けるぜ」

「大統領と一緒に死ぬなんて格好付けたけどよ、本当はパラシュートがこれ一つしか残ってないからなんだ。機内でドンパチやらかしたもんだから、全部おじゃんになっちまったのさ」

「お前、いいのか?」

「いいんだよ、俺達はプロだぜ? お前は大統領から最後の任務を受けたんだ。なら行かないとよ。前大統領と、あのお転婆なレディを守ってやんな。お前に合衆国の未来は任せたぜ」

「ああ・・・・・・帰ったら飲みにいこう」

「天にまします我らが父の下で、ってか! そいつぁいい! 行こう行こう! ついでに神様をぶん殴りに行こうぜ!」

「俺はローキックだな」

「ははは! でもお前、そんなにすぐには来るなよな。安心しろ、俺は気が長いんだ。楽しみにして待ってるさ。そら、飛ぶ前に一服どうだ?」

「いや、いい。煙草は吸わない」

「お前そりゃ人生を八割は損してるよ。じゃあ代りにゴーグルを・・・・・・おいおい、もうパラシュート着けてんのか。気が逸りすぎだぜ。
 ほら、俺が着けてやるから、まずは防護服をだな」

「いや、いい」

「よくねえよ。高度どんだけだと思ってるんだ。パラシューティングと一緒にするなよ。スポーツジャンプとは訳が違うんだぜ。そんな装備で」

「大丈夫だ、問題ない」

「いや、大アリだからな? そんな自身に溢れた顔されても困るんだが・・・・・・。おい、ハッチに近付くんじゃねえよ。
 おい、まさか本当に飛ぶつもりのか? おい、おい! レバーに手を掛けるんじゃねえ! マジかよ、開けやがった! うおお、風強え!」

「泣けるぜ」

「なら止めとけや馬鹿野郎! いや、飛ぶのはいい。せめて革ジャンの前を開けるな! いくらお前がタフガイでもバランス取れないだろ、って人の話を聞け!
 飛ぶなよ! 絶対に飛ぶんじゃ・・・・・・飛んじゃったよこいつ!」 

「――――――あうん」

「駄目っぽさそうな悲鳴聞こえちゃったぞおいいいイイイ!」


・・・・・・ここから先はテープが燃え尽きていて再生出来ない。











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