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No.21478の一覧
[0] 【チラ裏より】学園黙示録:CODE:WESKER (バイオ設定:オリ主)[ノシ棒](2011/05/21 22:46)
[1] 学園黙示録:CODE:WESKER:2[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[2] 学園黙示録:CODE:WESKER:3[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[3] 学園黙示録:CODE:WESKER:4[ノシ棒](2011/05/21 22:33)
[4] 学園黙示録:CODE:WESKER:5[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[5] 学園黙示録:CODE:WESKER:6[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[6] 学園黙示録:CODE:WESKER:7[ノシ棒](2011/05/21 22:34)
[7] 学園黙示録:CODE:WESKER:8[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[8] 学園黙示録:CODE:WESKER:9[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[9] 学園黙示録:CODE:WESKER:10[ノシ棒](2011/05/21 22:35)
[10] 学園黙示録:CODE:WESKER:11[ノシ棒](2011/05/21 22:36)
[11] 学園黙示録:CODE:WESKER:12[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[12] 学園黙示録:CODE:WESKER:13[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[13] 学園黙示録:CODE:WESKER:14[ノシ棒](2011/05/21 22:37)
[14] 学園黙示録:CODE:WESKER:15[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
[15] 学園黙示録:CODE:WESKER:16[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
[16] 学園黙示録:CODE:WESKER:17[ノシ棒](2011/05/21 22:38)
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[21478] 学園黙示録:CODE:WESKER:2
Name: ノシ棒◆f250e2d7 ID:6a403612 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/21 22:33
肥大化した腕を引きずって歩く。
蠢動する触手は健人の意を汲み、思い出したかのように襲いかかって来る<奴ら>を今度こそ死肉へと加工していく。
都合27回。
マイクロバスに轢き潰された<奴ら>の跡を追う健人が、エンジン音に集められていた<奴ら>に噛みつかれた回数である。
<化け物>に寄生され、体内に何がしかの変化が起きつつあるようだ。
本来ならば数分で奴らの仲間入りとなるものを、吐血も血涙も他出血もなく、初めに喰い付かれてから数十分経って今も体調に変化はない。
相変わらずの最悪だ。
腕に、足に、腹に、首に、身体中至る所を噛み付かれ、<奴ら>から剥ぎ取った制服に着替えなくてはならない程の傷を負ったというのに、傷跡はもう何処にも見当たらない。
服を脱いだ時、全て確認する前に治ってしまっていた。
幼少時に手足を切断する寸前までの大怪我をしたとは思えない傷一つない綺麗な身体は、しかし右肩から腰にかけてまでが異形と化していた。
健人の右半身は、黒い触手で覆われていた。


「もう少し小さくなってくれればいいんだけど」


健人は困ったように自らの右腕を撫でた。
指が触手にのめり込み、核となっている骨に触れた。感じる硬い質感。自分の骨に触れるのは不思議な体験だった。
今でこそ落ち着いてはいたが、<化け物>との化合物となって直ぐには健人も泣いた。
<化け物>になどなりたくはないと嘆いた。変わり果てた自分の姿に悲嘆した。
ただ、健人はそれで膝を折る事はなかった。
絶望に全てを諦め、動けなくなることだけはなかった。
<化け物>になってしまった自覚はあるがそれで人から離れて生きようとは思えず、携帯電話のワンセグ放送から流れるニュースで世界が壊れてしまったことを知り、むしろ人が恋しくて仕方がなくなり、とにかく動こうと決めてバスの後を追っていた内に慣れてしまったと、それだけのこと。
蠢く触手への嫌悪は無くならないが、それで歩みを止めることだけはあってはならない。
折れそうな心を叱咤しつつ、健人は進む。
道中、<奴ら>となってしまった知人達と何度もすれ違った。
その悉くを黒い手で殴り潰した。


「ごめん・・・・・・みんなごめん・・・・・・ッ!」


<化け物>と為り果て知人達の返り血に塗れてなお、自己を保ち続ける健人の強靭な精神は、生来の物ではなく経験によって培われた物である。
多くが人生の師と仰ぐ義理の叔父に依る部分が大きい。


「アルバートおじさんは言ってた。人を動かす最も強い原動力は、執念だって」


そして執念はいずれ野望になるのだ、とも。
その言葉だけが、今の健人を支えていた。
思い出す、叔父の声。


『――――――私を信じろ、ケント。私だけを信じ、私の言葉を頼りに生きるのだ』


親類もいない天涯孤独の健人にとって、叔父は絶対だった。
叔父の言葉は神の言葉に等しいと、そう言っても過言ではない。
健人の原体験は、その全てが叔父により与えられたものだった。

当時、海外旅行中にテロリズムに巻き込まれ、両親と健康な身体の両方を失くした幼い健人は、生きる希望を失っていた。
包帯で全身を包まれ、目も見えず、手足も動かせず、ただ蠢くことしか出来なかった日々。
そんな健人の前に、叔父は現れた。
生きる術を与えてやると、たったの一言だけと共に。
その日から健人は変わった。
全てに対し、前向きになった。否、世界の全てを自分を迫害する敵と見なし、挑み続けるようになった。
それは憎しみではなかった。叔父という理解者を得たことで、健人は他者に敵愾心を抱くことがなかったのである。
世界という状況に対する反骨心と、少年らしい純粋さが奇跡的なバランスで共存し、翳はあるものの朴訥な少年として健人は成長した。
それは両親を失ったが故の精一杯の適応なのだと、周囲からも好意的に受け入れられた。

そして健人は叔父の下、初恋も経験した。
健人がようやく歩けるようになった頃、叔父に連れられて出会ったのは、一人の少女だった。
少女の名はリサ。
彼女もまた両親を失ったようで、いつも母親を呼び、叫び声を上げていた。
健人には彼女の気持ちが痛いほどに理解できた。
自分も、そして彼女も、身を斬る程の寂しさに苛まれていると。
リサは悲しさから自分を傷つけてしまうらしく、手足に枷を嵌められていた。それも健人の悲しさを煽る要因となった。
彼女と話しをするために、健人が必死になって英語を覚えたのは自然の流れ。
少しでも彼女の慰めになればいいと、毎日リサの元を訪れることで、健人自身も慰めを得ていた。
初恋とは言うものの、それは一方的な感情でしかないことは解っていた。
だが、自分の真摯な気持ちは彼女に伝わったと健人は信じている。
次第にリサが、健人の名を呼ぶようになったのだ。
しかし結局リサは回復することはなく、健人は彼女と別れることになる。
眼球に包帯が巻かれたままの健人は、終ぞ彼女の顔を見ることが出来なかった。
今では彼女の声も思い出せない。ただ、とても大柄な女の子だったことは記憶している。


「辻斬りとは大違いだよ、本当」


初恋というものはやはり大きく心を占めているようで、理想の女性を思い描くと共に、その対極の顔も同時に浮かぶ。
しとやかさの皮を被り、その下に暗い情念を隠した女。
どうも自分が女性に抱く想いとは、一方的が過ぎるようだ。
初恋と同じく、嫌悪も一方的だ。
ただ、これに関してだけは同じように嫌悪を返して欲しいとは思わない。一方的に受け続けたらいいのだ。
健人の怒りを感じたあの女の、常に浮かべる澄ました笑みが歪む瞬間、健人の復讐は遂げられている。
直接糾弾することはなかったが、健人の言いたいことなど、曰く文武両道を地で行くあの女には余すところなく伝わっていることだろう。
文武両道を地で行くなどと、笑わせるが。
弱者をいたぶり悦に入る人間を、健人は絶対に許せなかった。
記憶の中のリサが、あの女の気に入らない笑顔を剥ぎ取る。
剥ぎ取った顔を繋ぎ合わせ、マスクを造り始めた所で頭を振った。
妄想が過ぎた。
リサにあまりにも失礼である。これではまるで化け物だ。


「<化け物>は僕じゃないか」


自嘲しつつ、近付く<奴ら>を拳打で弾き飛ばした。
初め、叔父とは言葉を交わすだけだったが、健人の包帯が解けていくにつれそれは次第に実践に移されるようになる。
端的に言えば、健人は戦闘技術を身体に叩き込まれていた。
眼球も未だ癒えておらず、さらには術後の発熱も併発している子供に何をするのか、と思わないでもなかったが、叔父も子供と接するのは初めてだったらしい。
叔父なりの不器用な優しさだったのだ、と今では理解している。事実、完治してからの訓練は比べ物にならないくらいに辛く、キツかった。
格闘訓練は当然、銃器の扱いまで行った。
合法で銃器に触れられるのは、海外故の利点。
それでも、年端もいかない子供に何をさせているのかと思わないでもなかったが、その時には叔父の人格を十分に理解していたために、今更の疑問であった。
そうして健人は叔父から独りでも生きていける強さを学んだのだ。
叔父から受けた訓示は、もう数年と顔を合わせていない今でも間違いなくこの胸に息づいていた。


「もう少し小さくなってくれればいいんだけど」


もう一度、今度は愚痴を零すように言う。
肥大した腕部は重さこそ大したものではなかったが、動きが阻害されるのがいけない。
叔父から教わった中華圏の流れを汲む拳法は、全身運動こそが真髄。
こんな状態では、戦力の半分を奪われたに等しい。
<化け物>の身体を得たとて、利点は<奴ら>に噛みつかれても仲間入りしないだけで、以前に比べて間違いなく健人は弱くなっていた。
人の持つ技術というものは、それほど強大なのである。
健人の仮想敵が叔父であるために、これだけ落ち込んでいるだけの話し、だが。
<奴ら>が踏み込みの度に、まるで煙のように消えてしまうほどの技術を有していたらと思うとゾッとする。
記憶の中の叔父の動きは、健人の動体視力では追えない程に速かった。休まず鍛練を続けてはいたものの、今でも無理だろうな、と思う。
叔父の様な達人になるという夢は砕かれたが、しかし、生き残るという執念までは失ってはいけない。
敵は<奴ら>だけではない。
<化け物>だって、この街のどこかにいるのだ。
何をしても、どんな姿になっても生き残ってやる、と健人は強く触腕を握りしめた。

・・・・・・己の意思で、触手が動く。
それも、細部まで。
ついさっきまでは、力任せに振りまわすのみで、まるで言う事を利かなかったのに。
慣れてきた、ということなのだろうか。
それはそれで、複雑な気分ではあったが。


「こいつはいい」


と、“編みあげた”腕を振るって、満足そうに健人は頷いた。
無秩序に蠢くだけだった触腕は、規則を持って揃えられ、並び、密度を増して人間サイズの大きさにまで編みあげられていた。
あれだけ巨大に見えた触腕も、まとめてしまえばこの程度。
筋繊維の性質も備えていたのか、触手の一つ一つは小さく収縮し、以前にも増して力強い異彩を放っている。
余剰分は身体に巻き付かせれば、服の下に隠すことが出来るだろう。
脱いでいた制服の上着を着ればもう解らないはずだ。
長袖に軍手は災害時の必需品。先ほど拾った軍手でもつけておけば、怪しまれることはないだろう。
都合良くたむろしていた<奴ら>の一体へと、踏み込みと共に編み上がったばかりの右腕で掌底を撃ち込めば、打突点を中心に血肉を撒き散らして爆砕した。
驚くべき威力。恐るべき殺傷力だった。
言うまでもないが、殺傷、とは生者にしか通用しない概念である。
もし生き残りに会ったとしても、隠し通さねば。
そうでなければ、悲劇が起きるだろう。

健人は叔父の言い付けを守り、今日まで力を隠して生きてきた。
人脈を構築する際に半端な力は逆効果だ、とのことだったが、友人を作るためには力などいらないというのは健人も頷ける。
暴力を振るうのは、自らの命が危機にさらされた時のみ。
であるから、あの時、辻斬り女に斬りかかられた時も自分は耐えたのだ。
一度経験したことだ。
次、またうずくまった自分に、笑いながら何度も何度も木刀が打ち降ろされたとしても、また耐えてみせよう。
人と触れ合えるのならば、喜んでそうする。
自分は独りでも生きていける力を貰った。
でも、こんな壊れた世界で独りで生きるには、寂しすぎる。


「あれは・・・・・・!」


人の気配を手繰るまでもない。
<奴ら>の数が増えているということは、そこに人が居るということ。
川向こうへ続く橋の上で、数名が<奴ら>と戦闘行動を執っていることを確認。
遠目で誰かは解らないが、自分と同じ高校の学生服を着ていた。
女生徒が2名、男子生徒が1名。金髪の女性は私服だったが、教師だろうか。記憶が正しければ、金髪の教師は保険医の鞠川教諭一人だけだったはず。
同校の生徒達は皆奮闘しているようだったが、数が違う。
<奴ら>の群れによる包囲網は完成されてしまっていた。
助けに入るにしても、橋を渡っていては包囲の端にぶつかるのみで、間に合うまい。
そも、徒歩では。


「いや、違うだろ・・・・・・。考えろ、考えるんだ・・・・・・!」


無意識に、右腕に触れる。
その時、健人の脳裏に一瞬の電流が迸った。


「こいつを使えば――――――!」


健人の意思に呼応し、腕の一部が解け、一本の触手となって伸び出した。
よし、と健人は頷いた。いける、思い通りに動く。
腕を思いきり振りかぶり、電柱に触手を巻き付け、収縮させる。
すると健人の体は猛スピードで宙に舞い上がった。力を込め過ぎたようだ。
悲鳴を上げる前に、標識へと触手を巻き付け、収縮。次は街灯へ。
そして橋の真下へと瞬く間に到着した健人は、中腹の欄干へと触手を巻き付け、今度はゆっくりと身体を持ち上げていく。
好んで自分が<化け物>だとは知られたくはなかった。例えそれが人助けであったとしても、ぎりぎりまでは。
この場へはロープを昇ってきたとでも言い訳をしたらいい。川にロープは流されていったとでもしたら、言い繕えるだろう。


「おおお――――――ッ!」


欄干へと手を掛け、健人は気合と共に橋上へと躍り出た。
眼鏡を掛けた女生徒に近付く<奴ら>の頭部を蹴り潰し、返す肘鉄で持って木刀を構えた女生徒のフォローへ。
肘の先端に鈍い衝撃。
内側へと眼球が押し込まれ頭蓋と共に破裂するのが、一つ一つの細胞が断裂する感覚の細部まで解る様な、そんな異様な触感。
当然だろう。肘鉄は右腕で繰り出したのだ。
自在に操れるようになった触手は、今やその全てが感覚器官として機能していた。

無事か、助けに来た、と木刀を構えた女生徒へと呼びかける。
ああ、ありがとう、と健人の乱入に、思わず背筋が伸びるような凛とした声で答える女生徒。
――――――その声には、聞き覚えがあった。
女生徒が振り向く。その顔にも見覚えがあった。
心底大嫌いな奴の顔なのだ。どうしたって忘れられるものではない。


「お前は――――――!」


あ、と女生徒が一瞬呆けたような声を上げた。
信じられない、といった風な顔で自失している。
それは、まさか健人に自分が助けられるとは、という罪悪感の現れだった。
健人自身も、まさかこいつを助けることになるとは、思ってもいなかった。
否、助けなどいらなかっただろう。
これぐらいの脅威くらいは、“斬り抜ける”に決まっている。
その剣の映えだけは確かなものであると、健人も身を以って知っていたのだから。


「ぼさっとするなよ、辻斬り女!」


健人の叱咤に慌てて女生徒は木刀を握り直す。
流石なもので、刀を構えなおした彼女は一瞬で平静を取り戻していた。
剣道全国大会優勝の腕前は伊達ではなく、近付く<奴ら>を一刀の下に次々と斬り伏せていく。
空いた間合いを、お互い背中合わせになってカバー。
耳元で、ありがとう、と小さな囁きが聞こえた。
健人が返したのは、大げさに、聞こえるようワザと打ちならした舌打ちが一つだけだった。


「・・・・・・君が私のことを嫌いだということは、良く解っている。でもこれだけは言わせて欲しい。君が生きていてくれて、よかった」


今度こそ無言で健人は返した。
卑怯だ、と思う。こいつは自分が女であることを自覚している。
であるというのに、厄介なのが、女を武器とするのが無意識に行われていること。なるほど武芸者の家に産まれただけはある。相手に致命傷を負わす術は、血に染みついているのだ。
きっと、今振り返っては全てを許してしまうだろう。
それが解っているために、健人は自分自身に腹が立った。
自分の行いが誤りであったと知ったあの時のように、今もきっと、きゅっと口元を引き結び、無理矢理に綺麗な笑みを浮かべて微笑んでいるのだろう。
そうではないのだ。
彼女は勘違いしている。
健人が糾弾しているのは彼女の行いではなく、その性根なのだ。
だが、理解されなくとも別にいい。彼女自身、それについては諦めてしまっているのだろう。否、受け入れているのか。
いい加減、自分とは相容れないと学んで欲しかった。


「私と共に戦ってくれとは言わない。彼らを守るために、力を貸して欲しい」


無言。
拳を握り、構える事が答えである。


「そうか。はは――――――そうか!」


何が嬉しいのか、笑い声を一つあげ、彼女は駆け出した。
同時に、自分も駆け出す。
迫る<奴ら>に汲み付かれないよう細心の注意を払い殴り倒していると、轟くバイクのエンジン音が。
自分と同じように、橋の欄干を飛び上がって来たバイク。
反射的に眼を向けると、そこにはヘッドライトに照らされて剣を振るう彼女の姿があった。
剣を持つ姿が最も美しく映える女。
それが毒島 冴子だった。






■ □ ■






File2:ウェスカーズレポート

数年前、未だ私がH.C.F.に所属していた頃。
検体の選出のためにH.C.F.傘下の病院を視察していた所、一人の日本人男児が目に留まった。
何故こんな今にも死にそうな子供一人に惹かれるのか、当時は己の精神を理解出来なかったが、今ならば解る。
兄弟同士、惹かれ合ったのだ。

それを理解出来なかった当時の私は、迷いを断ち切るために、原因であるこの男児を処分することを決めた。
H.C.F.が秘密裏に回収していたリサ・トレヴァーに与えることにしたのだ。
何故、どのようにして回収したのかなど知る由もない。知りたくもない。
あの爆発から生存したリサ・トレヴァーの生命力に驚きこそすれ、それだけだ。
重要なのは、リサ・トレヴァーの保持するTウィルス抗体・・・原生G-ウィルスが経年によりどのような変異を遂げたのか否か、ということ。
そしてそれに感染した人間がどうなるのか、ということ。
私にとっては三つの目的を同時に果たせる機会である、ということだけだ。
しかし、そこで驚くべき光景を目にすることになる。
辛うじて残された知性により自棄に陥っていたリサ・トレヴァーを、男児が手懐けたのである。
それどころか、リサ・トレヴァーによって男児は治療を施されていた。そう、あれは間違いなく“治療”だった。
体中から触手を生やしたリサ・トレヴァーは、いよいよ男児を襲うのかと思わせた。しかし、違った。
男児の身体を抱き、何かを触手から経口で与えるリサ・トレヴァーの姿は、母親像を見る者に抱かせた。
リサ・トレヴァーは母性を獲得していたのだ。
事実、翌日から男児の負っていた治癒不可能であったはずの傷は、一時間毎にカルテを書きなおさねばならぬ程の回復を見せた。
顕著であったのが眼球の再生で、完全に元通りとなったのだ。そう、全くウィルス反応の欠片も出ない、元通りに。
この時点で私は当ケースを独断で極秘事項とし、男児は殺害されたと虚偽報告を上に挙げてまで、その存在を秘匿することに決めた。
アンブレラ残党による監視はしつこく続けられていたため、奴らの眼を誤魔化すにはもう一芝居打たねばならなかったが・・・・・・まあよかろう。
少なくともH.C.F.共の余計な横槍が入れられることは、心配しなくてもいいだろう。
リサ・トレヴァーはウィルス変異が認められたとされ、別施設へと移送された。その後どうなったかなどは解らない。どうでもいい事である。

方針は決まった。
私はこの男児――――――ケントが、将来有用な駒となることを確信した。
ケントは私の切り札となるだろうという、予感がある。これはもはや、確信だ。
私手ずから教育を施すことに決めた。
そして現在、ケントの有用性は駒に留まらず、新たな可能性を見出すに至っている。
当然だ。
ケントも私と同じ名を持つ者――――――最後の『ウェスカー』なのだから。
何らかの特異性は保持していて然り、むしろ当然なのだ。
それが証明できれば、安定剤になど頼らずともよくなるかもしれない。

ウロボロス・ウィルスの投与も実に上手くいった。
暴走した個体のウィルスであったことには不満が残るが・・・・・・贅沢は言うまい。
単独での関与も限界を感じていた所だったのだ。
自らの保身と欲望の成就にしか興味の無い亡者どもの眼を欺き、甘言を駆使して助力を願わねばならなかったことは癪だが、仕方が無い。
だが、ようやく舞台は整えられた。
もはや誰にも止められることは出来ない。
新生アンブレラが布く新たなる秩序によって築かれる新世界、その頂きに君臨する資格が我らウェスカーにはあるのだから。






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