<ネオ・ロアノーク>
”失敗するような連中なら俺だって最初っからやらせやせんしな”
何が”俺だってやらせやせん”だ。
その結果がこれだ。
3機用意された揺り籠で眠るのは2人。
1人は帰って来なかった。
―――ステラ!
仮初の感情だとは言え、自分に一番懐いていた少女。
彼女は帰って来れなかった。
今回の任務の失敗、それは即ち死を意味している。
ごく少数の人数での敵地に潜入、MS強奪、コロニーの破壊、そして離脱。
それらの行為を戦時下に無い状況下で行うのだ。
任務の成功率は高まるが、失敗時の生存率は反比例するように減少する。
なぜなら、それらの行為を軍事行動と認識されずに、テロリストとして処置される可能性が多分に有るからだ。
万が一、殺される事無く捕虜になれたとしても、軍事裁判に掛けられれば死刑は間違いない。
そして、仮に死刑判決を逃れられたとしても、彼女は十分な治療無しに生きられる身体では無いのだ。
何処の誰が自国に破壊と殺戮をばら撒いたテロリストに十分な治療を施すと言うのだ?
つまり、死に至る経緯に違いは有るかもしれないが、任務の失敗と共に彼女の死は約束されているのだ。
俺にこんな事を言う資格が無い事くらい、じゅうぶんに理解している。
そして、それが他人には偽善だと評価されるであろう事も。
だが!
結局、最後まで道具としてしか生きられず、短すぎる人生を終えてしまった少女の事を思うと、言葉が口から零れ落ちるのを止められない。
「―――すまん」
あまりに短すぎる謝罪の言葉が、2度と本来の主が眠る事の無い無人のポッドに空しく響いた。
■■■
現在もZAFTの戦艦の追跡を受けている身としては、何時までも過去の人間に囚われている訳には行かない。
薄情に感じるかもしれないが、明日の命をも知れぬ戦場に身を置く人間としては、それが当然なのだ。
なにせ俺達はまだ生きていて、任務はまだ終了していないのだ。
無事に任務が終了したら、今回の犠牲になった者達に対していくらでも泣いてやるさ。
だから、まずは泣ける立場に立たないといけない。
「アンカー打て! 同時に機関停止! デコイ発射!
タイミングを誤るなよ!」
流石にZAFTの最新鋭艦だけあって船足は我々に勝る。
一時はかなりの距離を引き離したが、既に位置を捕獲されていると判断して間違いないだろう。
だが戦闘の主導権を握っているのは未だ我々の方だ。
さて、どう出るかな? ZAFTの諸君。
「さあーて、進水式もまだだと言うのにお気の毒だがな。
仕留めさせてもらう!!」
カオス・アビスの2機をデコイに随伴させ、ミネルバには自らエグザスを駆って当たる。
その他にもダガーLが2機随伴するが、若干の戦力不足は否めない。
だが俺も伊達に大佐と呼ばれてる訳じゃないんでね。
人的不足はパイロットの腕でカバーさせて貰うさ。
「ネオ・ロアノーク、エグザス出るぞ!!」
■■■
だが、そんな意気込みも長続きしなかった。
作戦の破綻が1機のMSとそのパイロットに拠って齎されたのだ。
それはアウルやスティングが強奪した機体とは異なるタイプのG。
おそらく報告に有ったステラと敵対していたと言う機体だろう。
―――なんだ?
初めて見る機体だと言うのに、その機体はどこか俺に懐かしい気持ちを抱かせる。
まるで俺がこの機体の事をよく知っているかのように。
―――ストライク。
不意に頭を過ぎった単語。
仮面の下の古傷が痛みだす。
「―――ちいっ!?」
だが、そんな感傷は突然打ち切らされた。
僅かな油断の間に、ガンバレルの1機が撃墜されたのだ。
「この俺が、物思いに耽る暇も与えて貰えないとはね」
ステラを倒した事と言い、俺のガンバレルを落とした事と言い、たいした腕をしてるよ、お前さんは。
おそらくミネルバでも最有力な戦力なんだろう。
まさかそんな戦力をデコイに当てず、出し惜しみしていたとはね。
我々も侮られていたもんだ。
―――いや、違う!
これは出し惜しみなんかじゃない。
何処の世界に敵艦の攻撃に手を抜くお馬鹿さんが居るって言うんだ?
ミネルバの護衛だけならあそこで奮戦中の白い坊主頭君1機で十分じゃないか。
って事は、つまり…
―――作戦が読まれていた?
まさか罠に嵌められていたのは俺達の方だったとでも言うのか?
そんな馬鹿な!
いや、しかし!
考えてる暇は無い。
戦場では僅かな気の迷いが即に死に繋がってしまう。
計画は破綻していたんだ。
既に破綻している作戦にこれ以上拘るってのは、あまり利口な選択じゃあ、ないな。
「艦長! 状況が変わった。
撤退する。 直に信号弾を上げろ!
あいつ等を回収次第、全速で戦線を離脱するぞ――ちっ!」
その間にガンバレルがまたも1機、撃墜されてしまった。
まったく、指示する隙も見逃して貰えんとはね。
なるほど、こりゃあステラが敵わない訳だ。
そんなおっかないの相手に真っ向から勝負してやるほど、俺は気前良くないんでね。
「また会おう! ZAFTのストライクもどき君!
後ろの白い坊主頭君にもよろしく言っといてくれたまえ!」
退くも兵法、ってね。
機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞
紅蓮の修羅
う、うーーん…
朝もまだ早い時刻。
未だ睡魔に勝てない俺は、寝返りをうってまどろんだ時間をまったりと寝て過ごす。
もゆん♪ もゆん♪
うむ、丁度良い抱き枕を発見ナリ。
大きさと言い、抱き心地と言い、文句無しである。
何より左手に包まれた膨らみが素晴らしいぞよ。
柔らか過ぎず、硬過ぎず。
俺の左手にフィットする為だけに生み出されたかのような、まさに至高の一品。
かの海原先生もこれには文句を言えまいて…
「海原先生って誰?」
うん? 海原先生は美食倶楽部の…って、そもそも俺は誰と話をしてるんだ?
「ねえ、シン。 美食倶楽部って何?」
いや、美食倶楽部って言うのはだな…って、そう言えば俺、抱き枕なんか持ってたっけ?
確かめる為に目を開けるべきなんじゃないだろうか?
でも俺のセブンセンシズが目を開けちゃいけない!って全力で訴えてる。
シャカ先生も目を開けずにエイトセンシズまで辿り着いた訳だしな。
開けない方が無難だろう。
「ねえ、シン。 シャカって誰?」
………すまん!
現実逃避はそろそろ止める事にする。
分かってる。
分かってはいるんだ。
夢だったら良いな、と考えないでもなかった訳だが認めよう。
どうやらこれは現実だ。
いくら辛い現実だからって目を背けてたら前には進めやしないさ!
そうだろ? マユ…
脳裏には悲しげな表情で十字を切るマユの幻影が。
そして、目を開くと視界いっぱいに金色の髪が広がっていたのであった…
「…ステラ、ルナの所で寝なさい!って昨日あれほど言ったじゃないか」
「うん。 でもステラ、シンと一緒の方が良い」
…こやつ、可愛い事を言う。
侮れん!
「………と、とにかく起きよう。
こんな所をルナに見られちゃ、せっかく昨日徹夜して片付けた部屋が台無しになっちまう」
だけどそんな心配は当たり前のように無駄なのだ。
「シン! 一緒に寝てたステラの姿が見えないん、だ・け・ど…」
自動扉とは思えないくらい、勢い良く扉が開いてルナ様登場。
慌てていたのかパジャマ姿のままだ。
ピンク色と言うのが乙女ちっくで実に良い。
ふむ、普段のパイロットスーツや制服姿、裸は見慣れているけど、これはこれでそそるものが有りますな…
「――――――シ・ン?」
ってな具合に、思わずお馬鹿な現実逃避をしてたんだけど、現実の方は逃避なんかしてくれない。
―――!?
この感じ!
頭の中で何かが閃いたみたいだ。
だんだん思考が澄み渡っていく。
なんだろう? 俺は近い未来、理不尽な暴力に晒される気がする。
シャカ先生! ひょっとしてこれがエイトセンシズに目覚めたって奴ですか?
…もちろんそんな都合の良い展開は無くて、
「お・や・す・み♪」
起きたばかりの俺に言うには不相応な台詞をルナから頂戴する。
俺に反論は許されていない。
彼女が「おやすみ」と言えば俺は寝るしかないのだ。
何事も無かったかのように部屋を出て行こうとするレイ(昨日から戻ってきてた)の後姿を絶望の想いで眺め、振り下ろされるルナの右拳から繰り出される鈍い音を聞きながら、俺は本日2度目の就寝に着いたのだった。
■■■
「例え格上の相手だとしても、守りに徹すればそうそう負けるもんじゃない」
何時だったか、俺がルナに言った言葉だ。
ごめん、アレは嘘だ。
守りに徹したって言うのに、全身が痛くて堪らない。
なんでだろう?
ルナはきっとパイロットなんかより、全日女子プロとかそう言う道へ進むべきだったんだ。
ルナの右は世界を狙える。
体中が痛いんだけど、重傷じゃないって手加減具合まで絶妙だ。
まさかこんな理由で出撃出来ないなんて恥ずかしすぎる!
ルナやショーンさん、ゲイルのおっさんも出撃して行ったのに、俺だけお留守番だよ。
格好悪すぎる!
後で絶対グラディス艦長に怒られるよ!
「シン、大丈夫?」
「…あぁ、大丈夫さ、ステラ」
って言うか、君が原因での瀕死だって分かってる?
絶対分かってないでしょ!?
お願い! 分かって!
「メイリン、シン、大丈夫だって」
………へっ?
『だったら直にインパルスで出撃して下さい!
ただいま本艦は敵の罠に嵌って非常に危険な状態です。
現在レイも出撃に向かっていますが、急いでお願いします!』
「だって、シン。 出撃するの?」
………へっ?
どうりで先程から船が揺れるなぁ…って思ってたんだ。
てっきりパンチドランカーが原因なんだとばっかり思ってたよ。
まさか攻撃されてるとはね。
うーむ、納得。
って!
納得してる場合じゃ無いでしょ!?
「………分かった。
シン・アスカ、出撃する」
「いってらっしゃい」と手を振るステラを部屋に残し、パイロットルームへと急ぐのだった。
■■■
「レイ、MS2機を頼む。
俺はあのMAを相手する」
『了解。 シン、油断するな』
「ああ、お前もな!」
敵さんはどうやらMS2機とMA1機と言う編成。
俺は迷わずMA1機を相手に選んだ。
MS2機を相手にするよりMA1機の方が楽だもんな。
たかが戦闘機に撃たれたって、このインパルスは落ちはせんよ!
ぬははははっ!、って、なんだよ?その触手みたいな奴は!
聞いてないよ!?
戦闘機の癖に触手からビーム撃つのって反則じゃない!?
レ、レイ! やっぱり俺がMSの相手しちゃ駄目かなぁ…
駄目だった。
だけど流石は俺!
伊達にMSでのロボットダンスをマスターしてないぜ!
触手からのビームを避けるなんて朝飯前よ!
「!? ―――そこっ!」
一瞬、触手が動きを止めたんで迷わず撃墜。
ふっ…この俺を相手に隙を見せるとは舐められたもんだぜ。
くぅーー! 決まった!
なあレイ! 今の俺、格好良くなかったか?
って言おうと思って振り向いたらレイはMSを1機撃墜していた。
負けた…
レイはMS1機撃墜したって言うのに、俺はMAの触手を1機落としただけ…
これはアレだ!
ルナの所為で体中痛いのが原因だな、うん、間違いない。
道理で身体の動きに普段のキレが無いと思ったんだよ…
…負け惜しみじゃないやい!
むっ!?
「―――隙有りっ!」
なにやら動きが単調になった瞬間にもう1機、触手を撃墜する。
どうだ! これで落とした数では俺の勝ちだぞ、レイ!
って言おうと思って振り向いたらレイはMSをもう1機撃墜していた。
…完敗だぁ。
レイ、お前凄いよ。
MS1機で敵MS2機を落としちゃうんだもんな。
俺なんてMA1機しか相手してないって言うのに、落とせたの触手2機だけだぜ?
MA本体は逃げていっちゃうし…
伊達に薔薇の似合う男じゃないって訳か。
よし、お前の事を今日からローゼンリッターと呼んでやろう。
直訳すると薔薇の騎士。
お前にぴったりだぜ!
少し惚れちまいそうだけど、俺の尻はまだまだ許せないぜ!
『シン、レイ、お疲れ様でした。
帰艦してください』
メイリンの連絡を聞き、今回の戦闘は幕を閉じたのだった。
つづく(と思っていませんか?)
後書きみたいなもの
別段、オリジナル色を出そうとしてシンをミネルバに残した訳じゃないんですけど、結果としてそう言う事に。
シン・パートの前半がやたらとお馬鹿になってしまいましたが、ネオ・パートとの対比を意識した結果です。
ステラが死んだと悲しんでるネオ、だけど実際は能天気に生きてました的な。
若干、ネタに走りすぎた感が有るので賛否両論頂きそうで怖いです。
戦闘シーンは嫌いだ!<原作の殆どを否定。
コメディの介入できる余地が少ないんですよ…<己の力量を棚に上げた発言。
なんとなく次回予告。
ルナ&ショーン&ゲイルの3人組は果たしてカオス・アビスから生き延びる事が出来るのか?
乞うご期待!(嘘