<アーサー・トライン>
「副長ですか!? この私がぁ!?」
思い掛けない辞令を受けて、思わず声が裏返ってしまった。
だって仕方ないじゃないか!
この私がZAFT中が噂で持ちきりの最新鋭艦ミネルバの副長なんだよ!
驚かないわけ無いじゃないですか!
これは出世だよ! 出世! 大出世ですよ!
…ああ、思えば苦節十数年。
当然の様に赤服とは無縁の裏街道を歩いていたこの私に、スポットライトが当たる日が訪れようとは!
母さん、生んでくれてありがとう!
アナタの息子は遂にスターダムへの一歩を踏み出しましたよ!
「―――だから、水曜までに乗艦しておくように。
うん? 君! 聞いているのか?」
「はいっ!
不肖、このアーサー・トライン、立派にミネルバの副長を勤め上げてみせます!」
「ああ、うん、もういい。
一応、必要な事はこちらの用紙に書いてあるから。
何か分からない事が有ったらこれを見なさい」
「はっ! 了解であります!」
「ああ、じゃ、さがってよろしい」
「はっ! 失礼するであります!」
今夜のご飯は赤飯だ!
待ってろよーミィちゃん(愛猫)、今夜はペティ○リーチャム(プラチナム)だからねぇ~♪
■■■
「この度、ミネルバの副長に任命されましたアーサー・トラインです。
よろしくお願いします!」
「アーサー、遅刻よ!」
「はっはい! すいませんです、はい」
搭乗は10時からの予定だったのに6時にはミネルバのドッグに着いてた。
昨日の晩は嬉しくて眠れなかったのだ。
流石に早く来すぎたかと、近くの喫茶店で時間を潰したんだけど、それが不味かった。
気がついたら10時を30分ほどオーバーしてたのだ。
人間、本当に眠い時はコーヒーを飲んだところでどうにもならない事をこの歳になって知った。
「まあ、いいわ。
私は当艦の艦長に任命されましたタリア・グラディスよ。
よろしくね」
「はっはい、よろしくお願いします、ですはい!」
よぉーっし!
とりあえず艦内で唯一の上官とのファースト・コンタクトは成功だ。
寝坊した時は冷や汗が止まらなかったけど、グラディス艦長、良い人そうで良かったぁ~
この艦の任務は月軌道の哨戒って暇な任務だって聞いてるし、艦内の人間関係って大事ですよ!
幸先良いぞぉーって浮かれてたらオペレーターの女の子がクスクス笑ってた。
「トライン副長って面白いんですね」
「アーサーで良いよ。
君は確か…メイリン・ホーク君だったかな?
いやあ、まいったよ。
私とした事がそこにある喫茶店で4時間も寝てしまった」
「そうなんですかぁ? 結構おっちょこちょいなんですね」
「うぐっ! そう言われると傷つくなぁ…」
ってな感じで艦橋のメンバーとのコミュニケーションもバッチリさ!
メイリンちゃんは可愛いし、人妻だけどグラディス艦長も美人ですし。
これから毎日こんな環境で仕事が出来るなんて、私は幸せ者だぁー!
まさに春!
人生の春が来ましたよぉー!!
■■■
―――なにわのことも ゆめのまたゆめ。
■■■
なんでデュランダル議長が乗ってくるんですかぁー!?
まったくどこのどいつだ! ZAFTの軍基地を襲撃したのはー!
私の桃色計画を返せー!!
『ブリッジ! 状況はどうなってるんだ!?』
「ひぃっ!?」
突如聞こえた通信に思わず声が裏返ってしまった。
メイリンちゃんも吃驚したのか通信切っちゃったし。
うんうん、気持ちは分かる。
彼の声って人を畏怖させる力が込められてそうだもんねぇ…
「って、ええっ!?」
ダメじゃないですか!?
今のってシンの声でしょ?
インパルスのパイロットの。
フルネームは確か、シン・アスハ。
って違う違う!
アスハだったらオーブの代表じゃないか!
そうそうシン・アスカ、アスカね。
ってそんな事考えてる場合じゃないですよ?
メイリンちゃん!?
今って緊急事態なんだからパイロットからの通信を切るなんてダメじゃないか!
艦長はおろか、議長まで呆れてるよ!
よぉーし!
ここは一つ、副長としてこの私、アーサー・トラインが直々に”ビシッ!”と言ってやろう!
「…メ、メイリンちゃん!
彼、通信切っちゃ不味いんじゃないかなぁ?」
「えー! だってシンって急に声掛けられると怖くないですかぁ?」
「いや、そりゃ怖いけど…」
「ですよねぇー。 お姉ちゃんってよく付き合ってると思いません?」
「確かに。 僕もシンに指示を出す時、目を合わせられないからなぁ…
女の子って危険な香がする男に惹かれるって言うけど、ああいうのが良いの?」
「アーサー! それにメイリンも!
2人して馬鹿な事を言ってるんじゃないの!
今は非常事態なのよ!」
「「はっはい!」」
慌ててメイリンが回線を繋ぎなおしたけど…おっかねぇ!
あれは人を殺した事の有る人間の目だ。
間違い無い。
不覚にもちょっと腰が引けてしまった。
メイリンの隣に立ってたのをちょっと後悔した。
とりあえず今度からシンに用事がある時はルナマリアに仲介を頼もう。
■■■
慌しい出航になったけどミネルバはボギー1と言う未確認艦の追跡任務に就く事になった。
出撃中だったMSを収容して、いざこれから加速!となった処で突然に通信が繋がった。
『…これは、どういう事だ?』
「………」
『………』
「………」
ブリッジの時が止まった。
そう言えば何か忘れてる気がしてたんだよなぁ~私も。
最後まで忘れてたかったかなぁ、ハハハ。
「………だってぇ、怖かったんだもん」
うん、私も怖かった。
って言うか、現在進行形で怖いです、はい。
「気持ちは分かるけど、戦闘中は我慢しなきゃダメじゃない」
ええっ!?
か、艦長も怖かったんですかぁ!?
議長まで「やむをえん」見たいな表情するのは流石にどうかと思いますよ。
そう言った不幸なすれ違いは有ったけど、シンとも無事合流。
…よくソードモジュールで合流できたな。
アカデミー開設以来の風雲児って評判は伊達じゃないって訳か。
結局奪還に成功したのもシンだけだったし。
よし! 今度遭った時にはジュースでも奢ってやろう。
…だから今日の事は忘れてね、お願い!
機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞
紅蓮の修羅の番外編
おわり。
後書きみたいなもの
以前、感想板でアーサーさんの出番の無さを指摘されました。
やべっ! 忘れてたよアーサー。
そんな彼にゴメンネの意味を込めてアーサーさん主役の番外編です。
読み飛ばしても本筋に何の影響も無い話となってます。
…流石にアーサーさんでは本編のシリアス・パートを任せるには荷が重かった。
今後もたまに影の薄いキャラ達の番外編が書けたらいいな、と考えています。
(本編の進行に行き詰まった時の時間稼ぎとも言う。 …orz)