<ギルバート・デュランダル>
先の大戦で我々は多くの同胞を失った。
理不尽な災厄に見舞われた者、戦場で命を散らした者、そして去って行った者。
そのような状況下で議長と言う地位を得た私の使命は、新たな人材発掘が大きな割合を占めている。
特に深刻なのは衰退が著しい軍部だ。
パトリック・ザラが議長をしていた当時の負の遺産と言えるだろう。
このまま何も手を打たなかった場合は、プラントの人口はそう直には増えやしない。
コーディネーターの出産率云々という問題も有るが、ここで言う人口は直に就業可能な人間を指しているので置いておく。
実際、そのような状況下では私が取り得る選択肢は限られていた。
そう、プラントに人が居ないのなら違う場所、つまり地球から連れて来ればいい。
つまり移民の募集である。
幸い先の大戦ではプラント本国が戦禍に晒される事は無かった。
強いて言うならば、開戦の切欠となったユニウス7だけ。
この情報は大いにプラントの強みになる。
”プラント本国は戦禍に晒されない”
地球で被災した人々にとって、プラントは魅力的な地だったのだ。
プラントは多くの国民を得る事に成功した。
その後、各種調査機関を総動員して人材の不足している分野に適した人材をリストアップさせる。
後は簡単だ。
別に非人道的な手段を取らなくても問題は無い。
斡旋した職を選んだ場合と、選ばなかった場合とで得られる給与の額面を操作してやればいいのだ。
それだけで人材の問題はほとんど解決し、戦後の復興は順調に進み始めた。
■■■
ある日、私の元に一通の報告が上がった。
曰く、MSの操縦に非常に優れたパイロットがいる。
別段珍しい報告でもなく、
「ならばZAFTにスカウトしたまえ」
と、当然の様に指示を下した。
しかし、部下からはそれが不可能だと告げられた。
なぜなら、そのパイロットとはZAFTの入隊規定の年齢制限を満たしていない少年だったから。
その報告を聞いた時、私はその少年に対して興味が沸いた。
今まで、年齢制限に引っ掛かるような年頃の人が、報告に上がった事など1度も無かった。
私は直にその少年に会えるよう手配した。
「さて、どのような少年なのかな、君は?」
部下を下がらせた後、少年の経歴書を眺める。
久しぶりに心が高揚している自分に気付いた。
■■■
超一流のパイロットと呼ばれる人種は、みんな何かしら特別なオーラみたいなモノを持ち合わせている。
それが私が過去の経験から得た持論だ。
ラウにしてもバルトフェルト隊長にしても、何処か他人とは異なる雰囲気みたいなモノを纏わせていた。
だが、それに引き換えると目の前の少年はどうだ?
あまりに普通の少年ではないか?
とても優れたMSの操縦技術を持っているとは信じれない。
アカデミーへのスカウトにもさして興味を示さず、明確な個人主張を持っているとも思えない。
何処にでも居る普通の少年だ。
結果として、なし崩し的にアカデミーへの入学を約束させたものの、私は軽い失望感を拭いきれなかった。
少年を退出させた後、なにをするでもなく、改めて少年の経歴書に目を通す。
シン・アスカ。
オーブ出身のコーディネーターでテストパイロットの経験有。
先の大戦で家族を失った後、プラントに渡り、現在は外装補修のアルバイトで生計を立てている。
―――?
何かが引っ掛かった。
そのような悲惨な境遇に陥った者が、果たして普通で居られるモノなのだろうか?
些細な疑問だったが、一つ気になると次々と疑問が持ち上がってくる。
そもそも、なぜ、彼はプラントに来たのだ?
オーブならば父の職場であるモルゲンレーテに知己も居ただろう。
それに十分な戦災補償を受ける事だって出来た筈だ。
それを蹴ってまでプラントに来たその意図は?
外装補修のアルバイトを選んだのだって、本当に経験を活かしたかっただけなのだろうか?
先の映像のような奇抜な動きは本当に意味の無い動作だったのだろうか?
ひょっとすると、全ては我々の目を惹く事を目論んだ、計算ずくの行動だったのではないか?
『―――彼は、演技をしていたのか?』
ふと、そんな突拍子も無い考えが頭を過ぎった。
だとしたら理由はなんだ?
簡単だ、復讐しか考えられない。
そうか…それで全てが繋がった。
シン・アスカと言う少年は復讐を果たす為に最善を尽くす男なのだ。
今日の対談だって、おそらく演技の結果でしかない。
それで彼は最低限の支出で最大限の結果を得た。
そう考えると全ての疑問に納得が行く。
彼の経歴によると、連合軍の侵攻により家族を全て失ったらしい。
憎んだだろう、理不尽な侵攻を行なった連合軍の事を。
いや、それだけじゃない。
オーブを出た事実から考えるに、市民を戦禍に晒した無能なオーブ上層部にも思うところが有るのではないか?
そして単身プラントに渡り、MSと関わりの深いアルバイトを選ぶ。
後は少しずつ才能の片鱗を見せ付けて、ZAFT軍へのスカウトを狙えばいいのだ。
そして、事は全て少年のシナリオ通りに運んだ。
なんて事だ!
まさか成人すらしていない少年に、危うくこの私まで手玉に取られかねないとは。
面白い。
面白い存在じゃないか!
良いだろう、私は敢えて君のシナリオに乗ろうじゃないか。
私は君に翼を与えよう。
その代わり、君の思い描く未来図を最前列で観賞させてもらうがね。
■■■
「タリア、ガイアを強奪したパイロットについての情報は聞いているか?」
「ええ、ステラちゃんでしょ?
シンも隅に置けないわね、ルナマリアが居るのに他の娘にまで手を出すなんて」
「…タリア、私が聞きたいのはそう言ったゴシップじゃなくてだね」
「冗談よ、ギル。 ごめんなさい。
ちょっとショックが大きかったから…」
「気持ちは分からないでもない。
だが我々は、その上で先に進まなければいけない」
艦長に割り当てられた一室。
周囲に聞かれたくない話題を振るにはもってこいの場所だ。
しかし、行為の後の会話としては聊か適切ではない話題だったかもしれない。
だが、この先避けて通れない話題でもある。
初戦を終えたばかりだと言うのに、既にシン・アスカはミネルバのエースとの評価を得つつある。
彼の活躍を予想していた身とは言え、想像以上の手際の良さに空恐ろしいモノを感じてしまう。
彼の目が連合とオーブに向いているうちは良いが、それが何時プラントに向けられるとも限らない。
例えそれが殆ど有りえない事だとしても、一国の指導者としては常に最悪の可能性を考慮しておかなければならない。
そして、それを回避すべく策も。
シンが捕獲してきたパイロット、ステラ・ルーシェ。
私は彼女の処遇がこの件に関してのひとつの鍵になると考えている。
「生体強化、薬物投与、おまけに洗脳まで…
よくぞここまで人間を弄り回したって医療部の人間も感嘆してたわ」
「で、肝心の敵戦艦の情報は得られなかったのだったな」
「ええ、恐らく初めから情報そのものを与えられていないみたい。
知らないんだから失敗率の高い任務にも遠慮なくあてられる、そう言う事でしょう」
「ご機嫌斜めだな、タリア。
ふむ、しかしそうなると彼女の扱いが問題になってくる…」
「ええ。 でも彼女、元気そうに見えるけど、それは見掛けだけらしいわ。
早いうちに専門の治療を受けさせなければ将来の保障は出来ないそうよ」
「ふむ、困ったね…」
だが好都合だ。
「すまないがタリア、彼女の処遇は私に一存させては貰えないだろうか?」
「? ええ、それは構いませんが、ギル、アナタ彼女をどうするつもり?」
「いや、なにね。
彼女には皆が幸せになる為の役に立ってもらおうと思ってね。
もちろん、その中には彼女自身の幸せも含まれているがね」
ステラ・ルーシェ、彼女にはシンとプラントを繋ぐ『楔』になって貰う事にしよう。
機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞
紅蓮の修羅
未だボギー1追撃中だと言うのにデュランダル議長に呼び出された。
やっぱり先日のガン飛ばしを根に持ってるんだろうか?
そんな事で怒るなんて大人気ないなぁ…
「シン・アスカ、出頭しました」
ノックをして出頭を告げる。
「ああ、入ってくれたまえ」
「ハッ! 失礼します」
と、形式通りの挨拶を経てデュランダル議長に割り当てられた執務室に入室する。
「え… ステラ?」
「シン!」
そこには場違いな人物がいた。
なぜにステラが議長の執務室に?
などと思考の海に溺れ掛けそうになったが、ステラはそんな事を気にしちゃくれない。
付き添いだと思われる医療班の人と警備の人を押しのけて一目散に駆け寄ってくる。
まるで子犬のようで心が和む。 って、和んでる場面じゃないから!
コレって、どういう事!?
碌に思考が纏まらない内に、俺の左腕はステラの肩を抱くようにまわされる。
もちろん俺の意思ではない。
だがそんな事知ったこっちゃないと言わんばかりに、ステラは俺の胸に嬉しそうに頬を寄せて、マイ・レフト・ハンドを桃源に押し付けてる。
議長のまん前で。
「んげっ!? ス、ステラ!?」
「ん… シン? 今日は揉んでくれないの?」
いや、可愛らしく小首を傾けられたって!
って言うか、俺の意思で揉んだ事なんて無いのに、その言い方じゃあ誤解されまくりですよ!?
ほら! デュランダル議長も医療班の人も警備の人も目がまん丸になっちゃってるよ!
デュランダル議長が驚いた顔ってちょっと新鮮で面白いかも。
「ん… んん゛ん…
ずいぶん仲が良いみたいじゃないか、シン・アスカ君」
それでも一番最初に立ち直ったのはデュランダル議長。
伊達にプラントで一番偉い人はやってない。
「は、い、いえ!
それほどでもありません!」
「いや、彼女が敵方のパイロットだと言う事を気にしているのなら、気にしないでくれ。
既に事情聴取は済ませてある。
彼女自身に我々に対する隔意が無い事は確認済みなのだよ。
むしろ友好な関係が築けるならそのほうが好ましい」
「は、はぁ…?」
あ、そうか。
そういえばステラってガイアのパイロットだったんだよな。
その後のインパクトの方が強すぎてさっぱり忘れてたけど。
「早速、本題で悪いのだがね。
調査の結果、実は彼女はある病に侵されている事が判明したのだよ」
「え? ステラがですか!?」
確かに年齢の割りは幼稚だしな。
その豊満ボディで男への警戒心が無いのは何処かおかしいと思ってた。
現に今も自分の病が話題だって言うのに、ニコニコと聞いているのかいないのか分からない様子だし。
きっと頭が人よりちょっと可哀想な病気なのだろう。
「そうですか…やはり」
「ほう! 君は気付いていたのかね?」
「気付いていた、って程のものでもないですけど。
彼女がどこか他人とは違う、って感じてました」
「なるほど…(流石に一流のパイロットは洞察力が違うな)」
「? 何かおっしゃいましたか?」
「いや、なんでもない。
そういった理由で、彼女は治療を必要としているのは分かって貰えたと思う。
できれば直にでもプラント本国に連れ帰って専門的な治療に当たらせる必要があるんだよ」
「…そうなんですか?」
「ああ。 だが一つ、困った事が有ってね」
「?」
「彼女には身寄りが無いんだよ。
私としては彼女の治療費を議会で負担してやりたいんだが、いかんせん彼女は敵パイロットだ。
悪意が無かったとは言え、そのような人間に国家予算を割く事など出来ない、と言う声も多い」
「…だったら、ステラはどうなるんです?」
「そこで君に提案が有るのだよ。
シン・アスカ君、君が彼女、ステラ・ルーシェ嬢の保護者になってはくれないだろうか?
そうすれば彼女の治療費にいくらか融通が効く」
「保護者に、ですか?」
「ああ。
そうだな、具体的に言うとだね、ステラ嬢を君の妹にしてやってはくれんかね?
幸い君達の仲は非常に親密そうだし、問題は無いだろう。
そうと決まれば、早速こちらの方で複雑な手続きは行っておこう。
心配する事は無い。
そうそう、彼女をプラント本国へ届けるまでの間、面倒は君に見てほしい。
レイの方には私の方から事情を説明して部屋を開けさせておこう。
これで彼女はプラントに戻り次第、適切な治療を受ける事が出来ると言う訳だ。
いやあ、良かったよ、君が自ら申し出てくれて。
艦内での治療についてはそこの彼女に相談してほしい。
では、私は他の用事があるので失礼するよ」
「…え? ちょっ!? 待っ!?」
なんでそんなに早口なんですか?って言うか、自ら申し出たって何?
顔を合わせないで早足で出て行くのはなぜ!?
警備の人も議長と一緒に退室し、議長の執務室には呆然とした俺とニコニコしたステラ、後、ちょっと困った顔した医療班のお姉さんが取り残された。
「…シンは、ステラの、お兄ちゃん?」
う゛っ! …ちょっと良いかもしんない♪
その後、部屋に戻るとレイが荷物を纏めてたり、(なんでも議長の執務室に引っ越すそうな。)、風呂上りのステラは予想通り全裸で出て来ると言う嬉し恥ずかしサプライズが有ったり、そんな時に限ってこれまた予想通りルナが部屋に遊びに来たり。
…ちょっと室内が台風の後みたいになってますが、どうにか元気です。
でもステラさん、レイのベッドが有るってのに同じベッドで寝るのは不味いんじゃないでしょうか?
いや、ほら? 一応義兄妹になった訳だし倫理的に、ね?
予想通りと言うかなんと言うか。
俺の左腕を腕枕にしてついでに身体は抱き枕って言う嬉し悶々カーニバルが有ったり、これまた予想通り狙ったタイミングでルナが(以下略。
…ちょっと室内がゴジラがタップダンス踊った後みたいになってますが、辛うじて元気です。
その後、一昼夜に渡る激しい家族会議の末、どうにかステラはルナの部屋で生活する事になって引き取られて行きました。
…ちょっと残念。
つづく(と良いな)
後書きみたいなもの
暴走(妄想)は止まらない。
と言った訳で、今回はデュランダルが八面六臂の大活躍!
シン・パートでも殆ど主役だったような気が… orz
こんなのが僕の考えたステラ救済策だったんですけど、如何でしょうか?
この先ミネルバが地球降下する前に、ステラは治療の為プラントへ行ってしまう予定です。
なんせシンに対する『楔』ですからね、地球には降ろせません。
それまではルナの苦難の日々が続くでしょう。
さて、次のシリアス・パートは誰にしよう?