<ヴィーノ・デュプレ> 突然だけど、アカデミーの中でもホーク姉妹は美人で有名だ。
姉のルナマリアは元気溌剌な健康的美人だし、妹のメイリンはツインテールの知的美人だ。
この2人にアビーちゃんを加えてアカデミーの三薔薇様と呼ばれているのは有名な話だ。
俺も女性だったら迷わずスールにして貰うんだけどな。
もちろん冗談だ。
俺ごときが三薔薇様に太刀打ちできる筈が無い。
三薔薇様の異名は伊達じゃないんだ!
そう、つまり彼女達には鋭い棘が有るって事さ。
まずは紅薔薇様(ロサ・キネンシス)こと、ルナマリア・ホーク。
女だって言うのにパイロット専攻で№3を努める逸材。
№1と№2の2人、あれはコーディネーターじゃない。
きっとサイヤ人だ。
だから人類ではTOPだな、クリリンみたいなもんさ。
そしてルナマリアと言えば太股。
見事な脚線美を惜しげも無く披露すると言う、挑発的な服装で野郎共のファンは多い。
その癖、ガードだけは固いってんだから曲者だ。
告白して玉砕した男の数は星の数ほど存在する。
巷の噂では天道三姉妹の三女の如く『ルナマリアより強くなくちゃ付き合えない』なんて話も有る。
毎朝挑戦者が後を絶たない…
次に白薔薇様(ロサ・ギガンティア)こと、メイリン・ホーク。
言うまでも無い、紅薔薇様の妹だ。
そして非公認組織、レイ・ザ・バレルファン倶楽部の副会長でも有られる。
決してTOPには立ちたがらず、参謀的なポジションを意図して狙っている感が有る。
だから知的。
その狡猾な性格は、天道三姉妹の次女みたいな存在だ。
彼女に弱みを握られている野郎の数を俺は数え切れないくらい知っている。
最後は黄薔薇様(ロサ・フェティダ)こと、アビー・ウインザー。
何を隠そうレイ・ザ・バレルファン倶楽部の会長様だ。
お約束で天道三姉妹の長女みたいな存在、…だと思ったら大間違いだ。
確かに普段の彼女はおおらかで優しい、まさに理想の嫁さん像だ。
…だけど彼女は笑顔で人を刺せるタイプの人種だと言う事を俺は知っている。
以前、彼女の前髪を指摘した男が、未だに病院のベッドで魘されている事を此処に記して置こう。
各々方、決して早まる事無かれ!
綺麗な薔薇には棘は付き物なのだよ。
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…このままだったら俺の話なのか三薔薇様の話なのか分からない気がする。
確かに俺なんかより彼女達の話の方が喜ばれそうな気もするけど。
でもそれじゃあ俺が浮かばれない。
そろそろ俺の話に入ろうと思う。
冒頭で三薔薇様の情報を教えた通り、俺ってば情報通なんだ。
オペレーター専攻じゃなくて情報なんか縁遠い整備士専攻の癖にだぜ?
だって情報を制する者は世界を制する。
本当だよ。
俺が情報通になったのにはちゃんと理由が有る。
原因はこの髪の色だ。
茶髪に前髪だけオレンジ、実はこれ、正真正銘の地毛なのだ。
…父ちゃん、母ちゃん、こんな処をこだわってコーディネートする余裕が有ったんなら、も少し能力面をコーディネートして欲しかったよ。
銃弾を飛んで避けるとか、種が弾けるとかさ。
そんな訳で奇抜な髪を持って生まれた俺は、当然の様に人目に付いた。
『出る杭は打たれる』って言うか、学生時代は体育館の裏に連れさらわれる常連だったよ。
だけど父ちゃんと母ちゃんが身体能力面でのコーディネートには力を入れてくれなかったばっかりに連戦連敗。
男としては情け無い限りだけどね。
齢14にして俺は悟ったね!
俺は要領良く生きなくちゃいけない。
弱者の兵法とでも言おうか?
とにかく他人とのコミュニケーション能力を必死に伸ばしたんだ。
生き残る為に。
怖い人とも仲良くなっとけば体育館裏に御用になる事も無いのだ!
情報通ってのはその産物でしかない。
コミュニケーション能力が伸びると友人が増える。
友人が多いと集まってくる情報量が増える。
情報通になると更に友人が増える。
今やこのアカデミー内での俺の情報網はレイ・ザ・バレルファン倶楽部に次ぐモノだと自負している。
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そんな俺にとって未知の存在なのが、ルナマリアをも上回る存在、シン・アスカとレイ・ザ・バレルなのだ。
まあ、レイ・ザ・バレルについては俺よりもファン倶楽部の方が情報に通じているだろうからこの際置いておくとして、問題はシン・アスカ。
彼に付いての情報は極端に少ない。
元々がオーブの出身って事でプラントにおける知人が絶無ってのも収集には痛い。
本人は本人で近寄りがたい雰囲気を醸し出していて、気軽に声を掛けにくい存在だし。
…よくヨウランはシンと友人に為れたもんだ。
あいつのコミュニケーション能力も侮れないものが有る。
俺が男同士の友人関係を築くのに秀でているのに対して、ヨウランは異性との友人関係を築くのに長けている。
くっ! なんか悔しいな…
だけど、そんな俺とヨウランは直に気が有った。
整備士専攻同士だったし、俺とヨウランがコンビを組めば無敵だろ?
これで情報網の穴が無くなるのだ!
…それにしても、シン・アスカに限ってヨウランの網に引っ掛かったのはどういう訳だ?
シンを口説くには異性を相手にするノウハウが必要だったのか?
やっぱりシン・アスカは異質な存在だ。
そんなシン・アスカが紅薔薇様の彼氏の座に就いた、と言う話題は光の速度でアカデミー内を飛び回った。
まさに驚天動地。
一時期、アカデミー内はその噂で持ちきりだったのだ。
だけど、そんな彗星の如く誕生したアカデミー注目度№1のビッグカップル情報はあっさりと流れ出した。
なんでもビッグカップルの片割れ、ルナマリアが聞かなくてもペラペラ喋ってくれるそうだ。
―――曰く、シンは泣いてる私を黙って抱き締めてくれた、だの。
―――曰く、シンは優しく私をリードしてくれた、だの。
―――曰く、シンは物凄いテクニシャン、だの。
最後のは噂に付いた尾鰭の類だろうけど、少なくてもルナマリアがベタ惚れだと言う事は間違いない。
かなりのルナマリア・フィルターが掛かってそうなんで情報の信憑度は低いけど。
シンがルナマリアを惚れさせるほどの男だ、と言う事は概ね間違いない。
そして、その情報を聞いて枕を涙で濡らした同級生を俺は何人も知っている。
そんな訳で、シンは更に近寄りがたい存在となっていった。
ちなみにヨウランがシンに事の真相を尋ねたところ、ルナマリアとの馴れ初めは「…成り行き」らしい。
…彼が分からない。
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そんなシン・アスカと知己に為れる機会が遂に訪れた!
ミネルバの進水式を明日に控えた某日。
シンと買出しに行く予定だったヨウランが俺を誘ってくれたのだ。
やっぱりヨウランは良い奴だ。
ヨウラン曰く、
「同じ艦で働くんだし、シンのMSの整備をお前が担当する事も有るだろ?
その時に知り合いだった方が仕事もやり易いじゃないか。
せっかくの同期同士、同じ職場に為ったんだから仲良く行こうぜ!」
との事。
ヨウラン、お前男前だよ!
女にモテる訳だよ!
俺が女でも惚れてるよ!
でも男だから勘弁な!
そんな訳で意気揚々と街へ繰り出そうとしたんだけど、スタート直前に躓いた。
ルナマリアと遭遇。
…きっと、運が悪かったんだ。
ルナマリアがヨウランの肩を掴んだ瞬間、俺の脚は全速力で回転を始めていたね。
くっ! まさかこんなところで要領の良い癖が再発するなんて!
許してくれ! ヨウラン、お前の犠牲は無駄にしない。
遠くから聞こえてくる「裏切り者…」って小宇宙が消えそうな呟きも聞こえない。
聞こえないったら聞こえない。
そう言った訳で俺とシンの出会いフラグが立ち消えた。
■■■
その後、シンとの面識も無いままミネルバは出航。
MSの整備に関しては、俺がルナマリアとレイのザク2機を担当、ヨウランがシンのインパルスと奪還されたガイアのG2機を担当に納まった。
えっ? なんでアカデミー出立ての新人が最新鋭機を担当してるか?だって?
優秀だからじゃないか!もちろん。
あ、ゴメン、嘘です。
パイロットも新人だから新人同士でやりやすいだろうって事らしいです。
ちなみに、もちろん一人で担当してる訳じゃないです。
整備班にはマッド・エイブスって言うMADな班長が居るんだよ。
頑固職人肌の。
実際の俺達の作業は細かい設定調整とかだけだからね。
大掛かりな修理とかはおっさん連中の担当だ。
アイツら機械弄りに命を掛けてるような連中だから、下手に俺達みたいなペーペーが手を出すと目茶苦茶怒るんだよな。
楽だから良いけど。
そう言った訳でシンとの接点もなく数日が過ぎたんだけど、唐突にヨウランが同期での食事会を提案してきた。
なんでも同期の間で親睦を深めるのが目的だそうな。
って言っても俺とシンの間以外にはなんらかの交流が既に有るらしい。
つまり俺とシンを知り合いにさせよう!ってのが真の目的だ。
実にヨウランらしい試み。
ひょっとしたらコミュニケーション能力は俺の上を行くんじゃないか?
まあ、ヨウランは要領が悪いから俺の敵じゃないけどな。
そんな訳で始まりました食事会。
って言っても所詮は戦艦内。
食事会って言っても高が知れてるんだけどね。
だいたい食事は軍の配給なんだから、せいぜいジュースとお菓子程度だ。
それでもそれなりに楽しかったりするんだな。
俺達ってほら、まだ若いし。
MSの強奪騒ぎやユニウス7地球降下騒ぎと暗い話題ばかりだし、偶には息抜きをしなくちゃな。
締める所は締める、緩める所は緩める、って奴?
…緩みまくってる人がいました。
白薔r…おっと、これは張本人達には内緒だった、メイリンね、メイリン。
ちゃっかりとレイの真横をキープしてるし、アプローチも盛んだ。
レイは淡々と返すだけなんだけどね。
それにしても、メイリンくらいの美人にアプローチされて心の琴線がピクリとも揺れないとは。
流石はレイ・ザ・バレル。
でも男としてそれは如何なものか?
ひょっとしてレイは別の意味で薔薇様だったりするのかもしれない。
今後の要調査事項だ。
ルナマリアはどうやら遅れてるシンを心配しているご様子。
実に初々しい。
ポロポロと零れる愚痴を聞かされてるヨウランは可哀想だけど、俺は助けてやれない。
すまん! ヨウラン。
そして俺は一人、何をするでもなくポテチをば摘んでいると、本日の主役、シンが登場した。
オマケを2人引き連れて。
そして俺達のテーブルとは別の隅っこの方のテーブルに着席。
呆気に取られましたよ、ええ、俺は知っていたんです。
シンと一緒にいるのがオーブの代表と先の大戦の英雄、アスラン・ザラだって事を。
なんで知ってたか?って?
それは俺が情報通だから。
って言っても同じく情報通なヨウランは当然知ってるし、メイリンは艦橋で同席してるから知ってる。
レイは議長筋から聞いてるだろうし、それほど威張れる事でも無いんだけどね。
だけど知らない人が居た。
紅薔薇様だ。
遅れてきた彼氏は、女連れ(+オマケ)で入ってくるなり別テーブルへ。
揮発したアルコール並みに火の付きやすい彼女は当然のように着火されました。
メイリンが…
「ちょっと、お姉ちゃん!?
その人達は…」
って言うのも碌に聞かず、ズンズンとシンの元へと歩んでいく。
あぁ…これは血の雨が降るのかなぁ? ってホラー映画を観に来た観客の様にドキドキしてたんだけど。
うーむ、残念。
「あ、ああ、そうだな。
まずは自己紹介をさせてもらおう。
私の名はカガリ・ユラ・アスハと言う」
の一言にピタッ!と一時停止。
その後、あっちを向いた向いたままムーンウォークで後退してくるルナマリアの姿はどこか面白かった。
笑ったら酷い事になりそうなんで笑わないけど。
プッと軽く噴出したヨウランがその後どうなったのかは俺は知らない。
シンとオーブ代表との話に興味が移って気にしてられなかったんだ。
本当だよ。
会話の内容は酷く短かったけど、分かった事がいくつか有る。
シンが悲しい過去を背負ってる事、それでも挫けずに自分の道を歩んでる事、そしてオーブ代表を前にしても一歩も引かない胆力の持ち主だと言う事。
凄い男だ。
とても俺と同じ歳だとは思えない。
あの2人を相手にしても1歩も引かない胆力は、いったい何処から湧いてくるんだ?
流石はあのルナマリアが惚れた男だぜ。
俺なんかがシンを測ろうとしていた事自体、間違いだったのかもな。
くぅーーゾクゾクする!
あんな男と知り合いになれるなんて!
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目の前でルナマリアがラブラブフィールドを構築しだした。
いや、気持ちは分かるけどサ。
もう少し周囲の人間の事を気に掛けてくれても良いんじゃないだろうか?
呆れの混じった声でメイリンが告げた「撤収ーー!」の一言で食事会は幕を閉じた。
まあ、今日これからの友人紹介ってのはもう絶望的だしな。
第一印象は大事だから、気まずい雰囲気で引き合わせるのもなんだしね。
俺は黙って席を立ち、嘗てヨウランだったモノを掴んで食堂を出た。
機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞
紅蓮の修羅の番外編 おわり。
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<後書きみたいなもの> 感想掲示板の[172]でこっそり公開してた番外編の第3話です。
改訂第1話をただ消すのもなんなんで、スレがかなり流れた事もありますし表で公開しておきます。
内容は元々がこっそり公開するくらい没に近い物だったんで面白くなくても流して下さい。