<アビー・ウィンザー> 私がホーク姉妹の実家に頻繁に通う事になったのはここ最近の事。
って言うか、アカデミーに通ってた頃は1度も遊びに来た事は無いんだけどね。
だけど別にホーク姉妹と仲が悪かったとか、実家を敬遠してたとか言った理由じゃ無いの。
寧ろホーク姉妹は親友って書いてマブダチって読むくらい仲が良かったって思ってる。
単に私もホーク姉妹もアカデミーの寮で暮らしてただけ、ってのが実態なのさ。
わざわざルナマリアやメイリンの実家にまで遊びに来る必要なんて無かっただけなのよ。
あぁ、アカデミー寮の三薔薇って言われてたあの頃が懐かしいわぁ…
って、話が逸れたわね。
此処でアカデミー生だった頃の武勇伝を話しても良いんだけど、日が暮れちゃうからパスするね。
それに乙女には秘密の1つや2つ有った方が良いでしょ?
…本音を言うとね、ルナマリアとメイリンの武勇伝を暴露するのは構わないんだけど、私の武勇伝まで暴露するのには勇気がいるのよ。
なんだかあの頃の私達って、『乙女』の金看板に全力で喧嘩を売りそうな日々だったから。
思い出は思い出のまま、美しいままで居させてね? お願いよ?
閑話休題。
今度こそ本当に本題に入るわ。
ただでさえ最近1話毎の文章量が増えすぎてるんじゃないの?って自戒してるんだし。
要するに私ことアビー・ウィンザーは本日、ホーク姉妹の実家に遊びに来たと言う訳です。
だけど皆も知ってる通り、ルナマリアもメイリンもミネルバに乗艦してて今は地球なんだよね。
だから当然なんだけど実家に遊びに来ても2人は居ない訳で。
別に小母様とお茶を飲むって言うのも悪くないんだけど、(小父様と囲碁、って選択肢は論外ね。 あれは苦行よ)生憎私はまだピチピチギャル(死語)なんだし、休日にそんな事しなきゃいけないほど枯れてない。
可愛い洋服着たり、美味しいスイーツを食べたり、レジャー施設で身体を動かして遊ぶ方が断然楽しいお年頃なのですよ。
そんな経緯を踏まえて解答です。
本日ホーク家を訪ねたのはズバリ! つい最近ここん家の住人になったステラちゃんと遊ぶ為なのだ。
ステラちゃんって元々連合の兵士で強化人間だったんだけど、今じゃ心身ともにプラントの一員になってる。
それにはデュランダル議長がステラちゃんの境遇を『連合の被害者』って立場で上手に世論を誘導した、って前提も有るんだけど、それを踏まえてもやっぱりステラちゃん自身の活躍の方が大きかったんじゃないかな?
そもそも議会の方じゃ、ラクス様がコンサート活動に勢を出してるのと同じような意味で、ステラちゃんを使って「いたいけな少女を戦争の道具にする連合は許すまじ!」って方向に民意を戦争を肯定する方向に操作しようとしてたみたいなんだけど、ステラちゃんはそんなのお構いなしにTVの前でちょっぴり天然さんな個性を爆発させてしまったのだ。
いやあ、愛されてるわよぉ。
なんたって今、巷で話題の【紅蓮の修羅】の妹が天然妹属性の美少女だってバレちゃったんだから。
【紅蓮の修羅】…まあぶっちゃけシンなんだけど、シンが「ZAFT軍、孤高のエースだ!」って恐れられてる下地が有っただけに「その義妹がステラちゃん!?」みたいな感じで反動が大きかったぶん人気も鰻登り状態。
歌手活動をしてるラクス様には及ばないんだけど、今じゃバラエティ界の女王って呼ばれてるのよ。
今でも毎週リハビリの為に通院しなきゃいけない、って制限が外れれば逆転も可能だと私は思うね。
…あれ? ひょっとしてまた本題からずれてる?
私とした事が…
なんだか話の本題からどんどんずれて行くのって、おばさんの井戸端会議みたいでイメージ良くないよね?
私はまだ花も恥らうティーンネイジャーなんだからっ!
青い果実なのよ!
だから、そんなイメージを植えつけちゃ不味いよね。
これでもステラちゃんの美人マネージャーって事で、私だってマイナー人気は有るんだからね!
…そう、私は今、ステラちゃんのマネージャーをやってます。
私だってZAFT軍のアカデミーを卒業したはずなのに、人生って不思議がいっぱい。
もちろん、ちゃんとした理由は有るんだよ。
ステラちゃんが民意高揚の道具に使われる時に、軍からのサポートとして派遣されたのが私だったんだ。
ステラちゃんと同じ女性でステラちゃんと関係の深いシンやルナマリアと同期で親交がある、おまけに配属先に決まってたミネルバに置いて行かれちゃった私は、新しい配属先も未定のままで暇だったから。
…多分、最後の理由が決めてなんだろうけど、『置いてけぼりになったから』だなんて理由は他人には説明できないわ。
まるで私までドジッ娘みたいに思われちゃうもの。
あの時、私の代わりにメイリンが非番だったら今頃ミネルバと一緒に地球に居たのは私だったんだけどなぁ…
そんな経緯で軍からのサポートだった筈が何時の間にやらマネージャーに移行。
上層部からも正式に辞令が来ちゃったから、マネージャー業だってZAFTの一員としての正式な任務なんだよ。
ま、文句は無いんだけどね。
ステラちゃんは良い子だったし、今じゃプライベートでも休日は一緒に遊ぶくらい仲良しさんなのだ。
ステラちゃんて人見知りする方なんだけど、ルナマリアの話題で意気投合しちゃって直に仲良くなれたのよ。
そんな訳で仕事も休みでステラちゃんの通院も無い稀な休日だって言うのに、私は朝からホーク家に来たって訳なんです。
…皆まで言わないでね。
最後まで話題が逸れたまんまだって、私も薄々気付いてるんだから。
だけど、こういう時に気付かない振りをしてくれるのが良い男ってもんなのよ?
■■■
「あら、いらっしゃいアビーちゃん。
何時もうちのステラが迷惑掛けて悪いわねぇ」
チャイムを押した私を迎えてくれたのはルナマリア達の小母様。
あの娘達有って、この母有り!って言うんだろうか? 御歳を召してらっしゃるのに若々しくて、快活で可愛い人だ。
小父様が小母様に夢中なのも分かる気がするわ。
出生率の低いコーディで2人出産は伊達じゃない!って事ね。
…ごめんなさい、私とした事が乙女らしくもない、ちょっぴり下品な話しちゃったわね。
「おはようございます、小母様。
ステラちゃん起きてますか?」
そんな自分の頭の仲に浮かんだ思考は欠片も見せずに、歳相応の挨拶を返す。
ステラちゃんは普段からポケーッとしてるし、寝るのも大好きだから休日の午前中なら寝てるかもしれない。
だけど、そんな私の想像は杞憂だった様で、
「ええ、あの子ったらさっきまで寝てたんだけど、シホさんがいらっしゃってね。
叩き起こしたところなのよ」
って、事の顛末を教えてくれる。
なーんだ、シホが先に来てたのかぁ。
あの子って私以上に身だしなみにうるさいからなぁ…
その辺はズボラなステラちゃんの事だ。
きっと今頃、
「…ステラちゃん、むずがってるんじゃありません?」
「わかる?」
ふふふっ、って2人で顔を合わせて微笑むのだった。
■■■
そんな朝の微笑ましい一幕の後、私達3人はショッピングモールまで出掛けていたりする。
目的はもちろんショッピングモールなんだからショッピングなんだけどね。
ステラちゃんってば私服もあんまり持ってないし(今着てるのだって元々はルナマリアの物だし)、なにより下着類は軍の支給品みたいな可愛くないのしか持ってないんだよ!(サイズがきつくってルナマリアの下着は駄目なんだって! …ルナマリアにも負ける私はいったい…)
だから今日は乙女の身だしなみ、って言うか、せめて最低限の洋服と下着類、後はアクセサリーや雑貨と化粧品なんかも買い揃えよう!って趣旨なんだ。
「…別に私は要らなかったんじゃないか?」
ショッピングモールに到着してから趣旨を伝えたら、案の定シホさんからはそんな答えが返ってきた。
何を今更!
確かにシホさんは綺麗系で、可愛い系のステラちゃんの買い物にはあんまり必要無いんだけど。
そもそも必要最低限しかお洒落しない(それでもセンスが良いんだからむかつく!)シホさんに、最初からアドバイスとか求めてないんだから。
「…じゃ、何の為に私は此処に居るんだ?」
「ぶっちゃけて言うとぉ、ボディーガードって奴ですよ」
これまでの付き合いで、シホさんが回りくどい言われ方をするのは嫌いだって知ってるから、ぶっちゃけてみた。
いやぁ、だってステラちゃんは人気者だし、私もそこそこモテるし。
こんな可愛い女の子が2人組でショッピングなんかしてたら、ナンパ目的の男共の格好の的じゃない、ねえ?
その点、同じ美人だって言っても、シホさんは【鳳仙花】の異名まで持つ有名パイロットさんなのだ。
そんなシホさんにナンパする命知らずなんて居ないし、絶好の配役よね?
「…来るんじゃなかった」
ちゃんと説明してあげたのに、案の定と言うかシホさんの反応はいまいち。
いや、確かに私だってシホさんと同じ立場に立たされたら、同じ事を言うかもしれないけどさ。
「ジュール隊長から『出来るだけステラの面倒を見てやってくれ』って言われてるんでしょ?」
「くっ!?」
声真似付きでウィークポイントを指摘すれば、所詮シホさんもイチコロなのさ。
おまけに
「シホ、ステラと一緒に買い物、…嫌だった?」
って悲しそうな顔でステラちゃんが聞けば
「そ! そんな事ないぞ!」
って、あっさりゲームセット。
なんだかんだ言っても、シホさんってば私以上にステラちゃんに甘かったりするしね。
■■■
「それにしてもさぁ…」
「…なんだ?」
あれから幾つかの店を回って、ステラちゃんの洋服や雑貨を購入。
今は屋台で買ったアイスクリームを食べながら次の目的地、ランジェリーショップに向かってる途中なんだけど、以前から聞いてみたい事が有ったんで声を掛けてみた。
予想通りと言うか、返事が返って来たのはシホさんだけで、アイスクリームに夢中なステラちゃんからの返事は無い。
おまけにシホさんからの返事も、危なっかしいステラちゃんに意識の大半が行っちゃってるんだろう、投げやりなものだった。
ま、予想通りって言えば予想通りなんだけど。
そんな事よりも
「シホさんってさぁ、ジュール隊長と付き合ってるの?」
「ブフォッ!?」
…あ、シホさんの鼻がアイスに埋まった。
それからプルプルプルプルって小刻みに揺れるシホさんの挙動に
「…地雷踏んじゃった?」
って恐る恐る聞いてみたんだけど、
「踏んでるかぁーー!!
って、いきなり何を聞くんだアビィーー!!
わ、私とイザ、ジュ、ジュール隊長はだな、たっ!ただの上官と副官と言う関係でだな、そっ!それ以上でもそれ以下でも無いっ!!」
魂のシャウトが返って来た。
「今、イザって「何も聞こえなかった! そうだな?」…何も聞こえないです、はい」
…いやぁ、美人が怒ると怖いね。
なぁーんか怪しいって思ったんだけどなぁ…
アビーの恋愛センサーもビンビン反応してますよ?(前髪が恋愛センサーだって思った人、手を上げて。 …殺す)
そもそもユニウス7からプラントに戻る時にステラちゃんと同艦したのが縁らしいんだけど、ジュール隊長がステラちゃんの為にシホさんを紹介したって聞いた時は単純に「怖そうな人なのに優しいとこ有るじゃん!」って思ってたんだけど、よくよく考えてみると、だからってジュール隊長がシホさんのプライベートに口出しするのって、違うよね?
やっぱり怪しいんだけどなぁ…
「じゃ、痔悪…じゃなかった、エルスマンさんと付き合ってたりする?」
「それは無い」
バッサリと切り捨てられました。
ステラちゃんからよく聞いてた名前だったんで思わず禁断の異名を口にしそうになったけど、それすらスルーですよ?
さっきのジュール隊長の時と比べると落差激しいなぁ…
うん、やっぱり怪しい。
「そっかぁ、うん、分かった」
「…分かってくれたか」
私の納得顔に、シホもホッと安堵の表情を浮かべて胸を撫で下ろす。
ちなみにステラちゃんはアイスに夢中なのだ。
今は自分の分を食べ終えてシホさんのアイスにまで手を出してたりします。
…それってシホさんが鼻突っ込ませた奴だよ? 後、冷たい物を食べ過ぎておなか壊しても知らないからね?
「うん、分かっちゃった。
俗に言うイザシホってや「それ以上しゃべるなら、殺すぞ?」…今日も良い天気だねぇ」
しゃべると私の命が危ないらしい。
この話題はタブーだぜ。
いったい2人の間に何が有ったのかは謎なんだけど、これ以上は触れない方が良いっぽい。
あ、後ステラちゃん、素の顔で「プラントに天気は関係無いよ」って返すのは止めて。
お姉さんなんだか傷付くから。
■■■
なんだか私とシホさんばっかり楽しんでるみたいだけど、そんな事無いからね!
本当に今日の主役はステラちゃんなんだから。
洋服だって買ったし(ステラちゃんはヒラヒラのミニスカートがお気に入り。 この子ってばちょっと目を離すとくるくる回ってるから、ヒラヒラの、特にミニは危険だ!って言ったんだけど譲れないんだって)、雑貨だって買った(仮面の壁掛けに興味を示してたけど、それは流石に不気味だから止めなさい!って阻止した)んだから。
じゅうぶん主役でしょ?
そう言った訳でショッピングも半分を経過したんだけど、今、私達はランジェリーショップに居ます。
ステラちゃんが店員のお姉さんにサイズを測って貰ってるんだけど… なんじゃそりゃ!?って感じ。
コーディネーターは強化人間には勝てないのね…
だけど私だって希望は捨ててないんだから。
私より歳上のラクス様だって突然おっきくなったんだし(改造疑惑は有るんだけど…)、希望を捨てればそこでゲームセットだ!って何処かの偉い監督さんも言ってたしね!
私だって恋人の1人でも出来ればルナマリアだってステラちゃんだって、ラクス様にさえ負けないくらいおっきくなるんだから!
その時は見返してやるんだから覚悟してなさいよ!
…とは言うものの、今の私には負け犬の遠吠えに過ぎない訳で。
そこそこ御立派なモノをお持ちなシホさんだってステラちゃんの戦力を目の当たりにして微妙に顔が引き攣ってる。
連合って侮れないよね。
ZAFTの一員として、改めて連合の底力に恐怖を覚えた一幕でした。
■■■
「…どう?」
「うん、どっちも良く似合ってる。
ステラちゃんって肌白いから原色系が映えるよね」
黒の下着を試着したステラちゃんに感想を返す。
実際の所、この子って幼顔で普段はあどけない癖に脱いだら凄いのよね。
さっきの赤も似合ってたけど、大人の黒をこうまで着こなすとは…恐るべし。
だけど、そんな私とは違う意見の持ち主も居る訳で、
「…なあステラ、確かにそれも似合っては居るとは思うが、何故、選んだ下着は黒と赤ばかりなんだ?」
暖色系の色やライトグリーンみたいな淡い色も似合うと思うぞ?って声を掛けたのは、意外にも下着にうるさかったシホ・ハーネンフースその人だった。
なんでも長年軍人なんかやってると、下着以外におしゃれ出来る所は無いらしい。
調子に乗って
「ジュール隊長に見せるの?」
って聞いたらグーで殴られた。
…それはさておき。
そんなシホさんの疑問にステラちゃんは
「黒はシンの髪の色。 赤はシンの瞳の色。
ステラ今、シンと一緒に居られないからシンの色を着たいの」
って問題発言。
あー、また始まっちゃったよ、ステラちゃんの『お義兄ちゃん大好き』劇場。
火を付けちまったんだから責任持てよ?って感じでステラちゃんをシホさんに押し付け、傍観者を決め込む。
如何に『ステラのお義兄ちゃんが素晴らしいか』について嬉しそうに語るステラちゃんに、シホさんだってたじたじだ。
時折こっちに助けを求める様な視線を送ってくるけど当然、無視だ。
だって、あのステラちゃん劇場はきつい。
経験者は語る、って奴を言わせて貰うなら、アカデミー時代はシンの事が怖くて苦手で、おまけに『レイ・ザ・バレル ファン倶楽部』、略して『薔薇の園』(略してない)の会長だったこの私が、ステラちゃん劇場の影響で思わずシンLOVE(はぁと)な方向に一瞬だけとは言え、洗脳されそうになる所だったんだもん。
怖くてとても踏み込めるもんなんかじゃ無いんだ、アレは。
■■■
そんなこんなでショッピングは終焉の時を迎えたのでした。
帰り道、
「シンらぶ… はっ! いや私にはイザ…ゲフゲフン! …しゅらしゅしゅしゅ…」
なんて良い具合に壊れたラジオみたいに呟いてたシホさんはかなり不気味だったけど、概ね予定通りに終了したのでした。
機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞
紅蓮の修羅の番外編 おわり。
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<後書きみたいなもの> と言う訳で番外編の更新です。
副題に「その頃の~」と有りますが、具体的に何時頃かは不明です。
ステラの退院がそんなに早い筈は無いだろう、って思いますし。
とりあえずミネルバが地球に居る内の何時か、って感じでお願いします。
…番外編の更新と言う事はぁ… 案の定、本編の方が煮詰ってたりします。
なんでだろう? 番外編なら3・4時間で書けるんだけどなぁ…
後、10月はちょっと私事で忙しい可能性大なんで、次の更新は遅くなるかもしれません。