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No.2139の一覧
[0] 紅蓮の修羅(ガンダム種運命)[しゅり。](2006/06/13 22:04)
[1] 2話目。 続いてしまったよ…[しゅり。](2006/05/25 22:53)
[2] 3話目。 ちょっとピッチ早いかな。[しゅり。](2006/05/25 22:56)
[3] 4話目。 ステラ完結編らしきもの。[しゅり。](2006/05/27 21:34)
[4] 番外編の1話。 まさか彼が!?[しゅり。](2006/05/27 21:36)
[5] 5話目。 ぼちぼち頑張ってま。[しゅり。](2006/05/29 20:41)
[6] 番外編の2話。 問題の彼女。[しゅり。](2006/05/30 19:49)
[7] 6話目。 第1回ルナ祭り。(次回未定)[しゅり。](2006/06/03 21:30)
[8] 7話目。 ライオン娘。[しゅり。](2006/06/03 21:35)
[9] 8話目。 デコッパチ。 別名アスカガ完結もどき。[しゅり。](2006/06/08 19:43)
[10] 9話目。 コメディにあるまじきシリアス色。 ここさえ乗り越えれば…[しゅり。](2006/06/09 19:42)
[11] 10話目。 そろそろ方向性を定めねば…[しゅり。](2006/06/16 22:02)
[12] 11話目。 おしおき、コンプリートゥッ![しゅり。](2006/06/16 22:06)
[13] 12話目。 種主人公、なんとなく登場[しゅり。](2006/06/19 21:32)
[14] 13話目。 3歩進んで2歩下がる的な進行速度[しゅり。](2006/06/29 22:48)
[15] 番外編の4話。 抜き打ち!第1回ステラカーニバル (前編)[しゅり。](2006/07/01 20:19)
[16] 番外編の4話。 抜き打ち!第1回ステラカーニバル (後編)[しゅり。](2006/07/01 20:39)
[17] 14話目。 相変わらず進まない[しゅり。](2006/07/12 21:26)
[18] 15話目。 カガリ暗躍。[しゅり。](2006/08/08 21:59)
[19] 16話目。 まだ生きてますw[しゅり。](2006/08/11 21:39)
[20] 17話目。 結婚式イベントも無視するなんて…[しゅり。](2006/08/08 22:11)
[21] 番外編の5話。 徒然なるままに、ミーア・キャンベル。[しゅり。](2006/08/11 22:44)
[22] 18話目。 オーブ編はこれでおしまい。[しゅり。](2006/08/27 17:38)
[23] 19話目。 ラクシズもひとまずおしまい。[しゅり。](2006/09/09 00:25)
[24] 20話目。 踊れ!ニーラゴンゴのリズムに乗って♪[しゅり。](2006/09/27 20:17)
[25] 番外編の6話。 その頃のステラさん。[しゅり。](2006/11/04 15:06)
[26] 番外編の3話。 本編では出番が無いのだ。[しゅり。](2006/11/04 16:02)
[27] 21話目。 信じる事さ必ず最後に愛は勝つ(意味不明)[しゅり。](2006/11/04 16:34)
[28] 22話目。 危うし主人公の座、みたいな。[しゅり。](2006/11/16 23:21)
[29] 番外編の7話。 本編が煮詰まったから番外編に逃げただなんて言わないで。[しゅり。](2007/01/18 21:00)
[30] 23話目。 ガルナハンって名前のMSが有ったら強そうだなぁ…[しゅり。](2007/02/17 00:52)
[31] 24話目。 実はこのお話って何時の間にか長期連載のカテゴリに入ってたりする!?[しゅり。](2007/03/24 01:27)
[32] 番外編の8話。 連載当初は隔日連載だった筈なのに、気が付けば季刊連載に… orz[しゅり。](2007/06/08 21:45)
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[2139] 19話目。 ラクシズもひとまずおしまい。
Name: しゅり。 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/09/09 00:25
<ラクス・クライン>

「此方に居らしたのですね」

「…うん。
 なんでかな? 考えたい事が有ったりすると、なんとなく此処に来ちゃうんだ」

 外の景色が一望できる休憩用のスペース。
 あまり便利な位置に有るとは言えませんが、その為か人の往来は極めて少なく、考え事をするには最適な場所だと言えます。
 私がこの場所を訪れるのは、私が初めてアークエンジェルのお世話になったあの時、ピンクちゃんとお散歩していたあの時以来ですね。
 過去の私が泣きじゃくるキラを見付けた様に。
 今、私は再びこの場所でキラを見付ける事に成功した様です。

「姿が見えませんでしたから、皆さん心配されてましたよ?」

 そう声を掛けた私に、

「そうなんだ…ごめんね」

 と、キラは申し訳無さそうに返事を返し、

「でも、カガリが言ってた事を僕なりに考えなきゃ、って思ったんだ」

 と続ける。

「…そうだったのですか」

「うん、きついの貰っちゃったからね」

 そう言いながら、キラは僅かに紅く染まった頬を撫でる。
 それから

「…でも、カガリを助けた事は後悔してないんだ。
 あのまま何もしなかったら、やっぱりカガリは連合に連れて行かれて、殺されちゃってたかもしれないし。
 だからカガリを助けた事で国事犯になっちゃった事は、悪い事なのかもしれないけど後悔はしてない」

 そう、胸を張って告げる。
 でも、でしたら、

「…では、何を後悔されているのですか?」

 何故、キラはそのように悲しそうな表情をなさっているのですか?
 そう告げた私の問いに、キラは少し申し訳無さそうな顔をこちらに向けて、

「後悔、って言うのとはちょっと違うと思う。
 どっちかって言うと反省かな。
 こんな事を言うとラクスに申し訳無い気がするんだけどね。
 アークエンジェルとフリーダム、どっちもカガリを助ける為には必要だったんだけど、カガリの事を何も考えてなかったんじゃないかな?って思うんだ」

 ですがアークエンジェルが無ければ長期間の航行は行えませんし、フリーダムでなければカガリさんのピンポイント救出は不可能だったでしょう?

「うん、だから反省。
 アークエンジェルもフリーダムもカガリを助ける為に必要だったんだから、乗った事には後悔してない。
 だけど、ね。
 ずっとカガリが軍備の縮小や平和維持の為に頑張ってるのを見てきた筈なのに、その辺の事を何も考えないでフリーダムに頼っちゃった事は反省しなくちゃね」

 心の何処かでフリーダムは特別だって思ってたのかな?と続けたキラの言葉に、私は不意に心臓の鼓動がトクンッ!と大きく跳ねたような感覚を覚えました。

『フリーダムは特別』

 何気なくキラが漏らしたその気持ちが、果たして私の心の中には無かったと言えるでしょうか?
 キラの言うとおり、カガリさんが軍備の縮小を唱え、平和の維持に尽力されていたのは私も存じておりました。
 ですが、だからと言ってその事が理由で私がその裏でプラント内の支持者を募り、独自の戦力を築いていた事を後悔するつもりはありませんし、その事でカガリさんに謝罪する気持ちも有りません。
 カガリさんにはカガリさんの考えが有って、私には私の考えが有る。
 ただ、それだけの事だったのですから。
 カガリさんが平和の土台固めに、私が土台が崩れた場合の対処策に。
 互いに視点が違いましたが、目指していたゴールは同じだった筈です。

 …ですが。
 果たしてそれがイコール『フリーダムを隠し持つ』事の正当な理由と成りえるのでしょうか?
 ましてや「フリーダムはキラの側に」等と言う固定観念に縛られて、カガリさんの心情を考慮もせずにオーブに置いてしまった事の理由に。

 …答えは否。
 己が正しいと信じる事を行うなら、他者の心情を踏み躙っても構わない。
 そんな独善的で愚かな理屈など存在してはいけないのですから。

 であれば、今回の件はやはり私の側の落ち度になるのでしょう。
 今思えば、せめてフリーダムはエターナルの元に置いておくと言うのが、カガリさんに対する最低限の配慮だったのではないでしょうか?

 そうだったのですね。
 だからカガリさんは私達に同行されなかった、出来なかったんですね。
 それなら

「…私も反省しなければいけませんね」


 ■■■


 ですが、反省だけしていれば良いと言う訳にもまいりません。
 なにより今大事なのは、今後の方針を決めなければいけない、と言う事。
 当然の事ですが、フリーダムの存在はオーブに知られてしまいました。
 そしてカガリさんの引渡しを求めていた連合にも、いずれオーブ経由でカガリさん不在の理由を説明する際にでも知られてしまう事になるでしょう。
 残す勢力、プラントにまで情報が伝わるか否かについては現状ではカガリさん次第なのですが、楽観は出来ません。
 なぜならカガリさんがプラントを訪れる経緯を説明する上で、誤魔化すのは容易ではありませんから。
 また、もし別経路からプラントに知らされた場合のリスクを考慮するならば、カガリさんが無理して隠す事のメリットは何も無いのです。

 つまり、私達はオーブ・連合の2勢力からはカガリさんを誘拐した犯人として認識され、プラントを含む全ての勢力からフリーダムを隠し持っていた危険な存在だと認識されるに至るでしょう。
 それはあまり考えたくない状況なのですが、一言で言うならばそれはつまり私達が今非常に危うい位置に立たされていると言う事。
 そう考えざるを得ないのが、私達の現状なのです。

「それでもカガリさんさえこの艦に居らしたなら、少しは状況も違っていたかもしれませんが…」

 ですがそれは既に適わない事。
 フリーダムの扱いに対する私達の浅慮が招いた当然の結末。
 カガリさんがとった行動は正しい事ですし、その事で私達がカガリさんを非難する事は出来ません。

 だから。
 そんな状況に置かれてしまった私達に、今、出来る事。
 私達が平和の為に為さねばならない事、立てる位置、立つべき位置。
 それらを考えなければいけません。

 それらの意をキラに伝えたのですが、

「多分、今の僕達に出来る事って何も無いと思う。
 このまま戦争が拡大して行くのを黙ってみてる、なんて間違ってるとは思うけど。
 だけど、きっとそんな思いだけで行動しちゃ駄目なんだ。
 ちゃんとした立場も無い現状では迂闊な行動はとっちゃいけない。
 そんな事をしちゃえば、きっとカガリは凄く迷惑すると思う。
 歯痒いんだけど、やっぱりカガリの言う通り、今は戦況の変化を待つ時なんだろうね」

 返って来た答えは端的に言うと現状維持、何もしない。
 それはとても私の希望に沿うものではありません。

「それはつまり、今、私達に出来る事は何もない。
 だから何もしない、そう言う事なのですか?」

 やや声に非難の色が混じってしまった私の問いに、

「ううん、それはちょっと違う。
 そもそも、何も今すぐ何か行動に移らなきゃいけない、って訳じゃないんじゃないかな?
 選択肢はそれだけじゃなくて、きっと今は捲土重来、機会をじっと待つ時期なんだよ。
 それは何もしない、何も選ばないって事とは違うんじゃないかな?」

 言葉を慎重に選ぶようにして、キラは返事を返す。

「…そう、ですわね」

 何も出来ないから、何もしない。
 今は何もしない事を、待つ事を選択して、何もしない。
 それは似ているようできっと全然違う。

「…それにね、ラクス。
 実を言うと僕は、その間にどうしても調べておきたい事が有るんだ」

「…調べたい事、ですか?
 それはいったい何なのでしょうか?」

 私達の今後の行動に関しましては、ラミアス艦長とバルトフェルト隊長を交えて再度検討を行わなければならないでしょう。
 私としては不本意ですが、今現在キラの意見を否定するだけ考えを持ち合わせていませんし、おそらくお二方もキラの意見に賛同されるとは思いますが。
 それよりも、今はキラがそうまで調べたいと言う、その内容の方が気になります。
 待つ事を選択して得る貴重な時間。
 それを割いてまでキラが調べたいと告げるその内容とは…?

「シン・アスカって子の事なんだ」

「!」

「プラントから戻ったアスランと話してて気付いたんだけどね。
 どこかアスランの様子が変だったんだ。
 カガリがピンチの時に駆けつけないってのも、今思うとやっぱりアスランらしくないよね?
 そのアスランがね、なんだかシンって子の考えにやたら共感してたんだ。
 間違いなく、アスランはシン・アスカって子に影響されてる」

「…まさか、アスランが?」

「うん、そしてきっとカガリも。
 カガリも少なからずシン・アスカの影響を受けてるんじゃないか?って思うよ」

「!?」

 ―――シン・アスカ。

 キラの口から出された名前は、私にとって意外な物でした。
 今、巷(と言っても軍関係者の間だけですが)を騒がせているその名前を、まさかキラの口から聞く事になるとは思いませんでした。
 なにせ軍に所属していた当時でさえ、キラはその方面の情報には疎かったのですから。

 そして、何より意外で、同時に衝撃を受けましたのはアスランとカガリさんのお二人が、シン・アスカなる人物から影響を受けていると言う事。
 正直、私には信じられません。

 シン・アスカ、【紅蓮の修羅】に関する情報は私もある程度は把握しているつもりですし、人物像もおぼろ気ながら掴んでいるつもりでいます。
 ユニウス7降下の際の活躍と、なによりその後に交わされた会話は有名ですし、それは私が彼の人物の経歴を調査していただく理由には十分な物でした。
 ですが、だからこそ私はアスランとカガリさんのお二人がシン・アスカなる少年に影響される、そんな可能性は信じられないのです。

 確かに一時とは言え、お二人はミネルバに乗艦されていたのですから、互いに面識が有ったと言う可能性は否定できません。
 ですが、それなら尚の事、あのお二人がシン・アスカから影響される、なんて事は有り得ないと思うのです。
 なぜなら、私の知るシン・アスカと言う少年の戦争観は、あまりにも『冷たすぎ』ますから。
 『紅蓮』『修羅』、どちらも燃え盛る焔を連想させられる単語ですが、私には彼の人格がその様な熱い方向を向いているとはとても思えません。
 むしろ彼の心境は絶対零度の如く凍て付いている、そのような印象さえ受けました。

 本来、人が人を殺すと言うのは最大の禁忌である筈。
 その最大の禁忌を、主義を持たず、主張を持たず、軍人であると言う事実だけで犯せる人間の、何処に『熱』を感じる事が出来ると言うのでしょう?
 言い方は悪いかもしれませんが、それは感情を持つ『人』の思考では有りません。
 その様な感情を持たない人間、それは『機械』と呼ばれる物となんら変わらないのではないでしょうか?

 だから、有り得ない。
 アスランとカガリさんがその様な人物に影響される可能性は、万が一にも有り得ない筈なんです。
 …ですが、その万が一が現実に起きているのだとすれば。
 アスランとカガリさんのお二人が、シン・アスカに影響されていると言う事が、キラの告げる様に事実なのだとしたら。
 それはいったい、何を意味すると言うのでしょう?

「僕が心配しすぎなだけなのかもしれない。
 でも、実際にアスランは今ミネルバに居るんだし、カガリだってプラントを目指してる。
 それを偶然の一言で片付けるのは危険だって思うんだ。
 2人があんな奴の影響を受けてるのかもしれない。
 そう考えるだけでどうしようもなく不安になってしまうんだ!」

「…キラ」

「畜生、なんであんな奴なんかに…」

「?
 …ひょっとしてキラはそのシン・アスカと言う少年の事をご存知なのですか?」

 キラが語った事がもし現実に起きているのだとすれば。
 それはとても看過できるものでは有りませんが、それよりも今、気になる事が他に有ります。
 あんな奴、と。
 確かに今、キラはシン・アスカの事をそう評しました。
 それは、決して面識の無い人物に向ける事の無い種類の表現では無いでしょうか?
 少なくとも私の知るキラ・ヤマトは、例え相手がどのような人間であったとしても、面識を持たない人に向かってそのような呼称を用いるとは思えないのです。

 私の問い掛けに、キラは少しばつが悪いような表情を浮かべ、

「…ラクスも会った事が有る筈だよ。
 ラクスが迎えに来てくれた時に慰霊碑の前で僕と向かい合ってた少年。
 確証は無いけど、きっと彼がシン・アスカなんだと思う」

 苦虫を噛み潰すように応える。

「慰霊碑の時の少年…」

 そう言われてみれば、確かにあの時、あの場所にはキラの他にもう一人何方かが居らっしゃった様に記憶しています。
 ですが、それは私にとって会ったと言える程の接点ではありませんでした。
 私はほんの僅かな時間、同じ場所に居合わせたに過ぎないのですから。

 それに陽が落ちてしまっていた事も相まって、その人物の容姿は殆ど記憶出来ていません。
 ただ、闇が広がる世界の中で、その瞳の色が煌々と輝いていたのだけが印象に残っていますが。

「…では、彼が?」

「うん、シン・アスカだ」

 取り寄せていただいた写真から、瞳が紅いと言う特徴までは存じ上げていましたが、まさかあの方がそうだったなんて。
 なるほど、そうであるのなら【紅蓮の修羅】とは彼の人物を上手く表現しているのかもしれませんね。
 彼の少年の内面ではなく外面から付けられた異名だとするなら、確かに彼の少年にこれほど相応しい異名は他に無いでしょう。

 そう納得しかけた私に、キラが胸の内を吐露する。

「正直に言うとね、僕は彼の事が怖いんだ。
 あの瞳に見詰められると、なんだかそれだけで自分が責められている気がして。
 恥ずかしい話だけど、たったそれだけの事なのに、あの時の僕は恥ずかしいくらい緊張してしまった。
 僕だって本当はアスランとカガリがあんな奴の影響をされてるだなんて、信じたくない。
 でもあの瞳を思い出すと、どうしても不安が拭えないんだ…」

「キラ…
 ですがアスランもカガリさんも、お二人ともとても意思の強い方です。
 心配しすぎなのではないでしょうか?」

「…うん、そうだね、そうかもしれない。
 そうだったら良いね。
 アスランとカガリがそんなに簡単に人の意見で自分の考えを変えるなんて、僕にも思えないし。
 でも、もしアスランとカガリがシン・アスカに感化されたんじゃなかったとしたらどうだろう?
 シン・アスカが意図的に2人を感化させた、って可能性は考えられないかな?」

「!? それは…」

 ありえるかも知れない。
 そう言う考え方もあるのですね。
 言い方は悪いですが、お二人が勝手に感化されたのであれば、それはつまりシン・アスカにとっては受動的な結果に過ぎません。
 ですが、シン・アスカの側からお二人を看過させた、となると話は別です。
 騙せる・騙せないと言う根本的な問題は有りますが、シン・アスカの側から能動的な行動に出られる分、前者よりも容易な点もまた有るのではないでしょうか?
 もし、その可能性が0でないのであるなら、

「………確かに、詳細な調査が必要なのかもしれませんね」

 私の記憶に残っているのは焔の様に燃える紅い瞳の色。
 古来より瞳には力が宿ると言います。
 世に『魔眼』と言う言葉が有りますように、もしもこの世に『魔眼』と言うものが実在するのでしたなら。
 彼の瞳がまさしくそれなのではないでしょうか?
 シン・アスカ。
 【紅蓮の修羅】と評され、灼熱の異名と凍える価値観をあわせ持つ少年。
 彼の少年には私達の想像以上に深い『何か』が有るのかもしれません。





機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞

紅蓮の修羅





 深謀遠慮、深慮遠謀。
 2つの4字熟語の違いがいまいち分からないけど、とにかく今日の俺は頭を使っていくぜぃ!
 と言ってもW杯決勝延長での反則みたいに、物理的な意味で使う訳じゃないから勘違いしないでくれ。
 具体的に言うならそう、知恵を使ってみようって企んでたりするのだ。

 出発からアーサー&ヨップのおっさんコンビに遭遇した所為でペースを乱されたけど、とにかく今日の俺はルナ&メイリンのホーク姉妹を買い物に誘う事に成功していた訳だ。
 まあルナは普通に誘えば簡単にOKしてくれたし、メイリンもルナからの口添えや「夕食は俺の奢りだ」なんて伝家の宝刀を抜けば敵じゃない。
 ぶっちゃけると、実はここまでで既に目的の8割は達成したと言っても過言じゃなかったりする。
 なんたって今日、俺がルナ&メイリンを食事に誘ったのは、メイリンと仲良くなるのが目的なんだから。
 本当だったらそろそろヨウランに新しい友人の1人でも紹介してもらいたかったんだけど(まだ諦めてなかった)、それよりなによりメイリンと仲良くなる事が今の俺の最優先事項なのだ。

 だって俺の命が掛かってる。

 思い出すだけで両目から熱い汗が零れ落ちそうになるんだけど、これまでの航海は試練の連続だった。
 アーモリーで置いていかれ、大気圏で置いていかれ、オーブ近海で置いていかれた。
 自分で言うのもなんだけど、此処まで戦場に置き去りにされたZAFT兵って俺くらいじゃないだろうか?
 正直、もはや定番と化してしまった気がしないでもない。
 だけど、だ。
 流石にここら辺でこのパターンとはおさらばしたい。
 同じ轍を2度踏むどころか既に3度踏んでしまったんだけど、流石に4回目は勘弁してほしい。
 そろそろ洒落にならない気がするんだよ。

 そんな訳で、だ。
 「そもそも3回も置き去りにされたのは何故だろう?」って根本的な原因を考えるべきだった事に今更だけど気付いたのだ。
 彼を知り、己を知れば百戦危うからず。
 名前は忘れたけど、昔の偉そうな人がそんな事を言ってた気がするし。
 だから考えてみた。

 考えるまでも無かった。

 と言う訳で冒頭から敢行中の『食事を奢ってメイリンと仲良し! これでもう、置いてけぼりは怖くない』大作戦を実施するに至った訳だ。
 他にも鬼畜でバイオレンスな作戦案が無い訳じゃないんだけど、そうは言ってもメイリンは将来の義妹なんだし。
 あんまり手荒な真似をして「お義兄ちゃん」って呼んで貰えなくなったら寂しい。
 ここはひとつ懐柔策でお義兄さんらしい懐の深さを見せてやらねばなるまい、って結論に至った訳なのだ。

「えっとぉ~
 この『松坂牛のフィレステーキ、松茸ソース掛け』を200g、ミディアムで。
 後は… 食後のデザートに夕張メロン。
 あ、飲み物はカプチーノで、デザートと一緒に持ってきてください」

 テーブルの対面に座ったメイリンが明朗な声でウェイトレスさんに告げた。
 その声をどこか遠くに聞きながら、俺は

『あー ミネルバのオペレーターがアビーちゃんだったら良かったのになぁ…
 アビーちゃん可愛かったなぁ…
 俺と目が合うと頬を真っ赤に染めて逃げてく所なんか最高だった…
 今頃何してるのかなぁ…』

 なんて思わず現実逃避をしてしまった訳だけど。
 その間にもウェイトレスさんは注文を復唱しつつ、手に持った機械にお客様の告げたオーダーの登録を続けている訳で。

 はて?
 なにやら先程からピッ!ピッ!ってウェイトレスさんの手に持つ機械から聞こえる登録音以外にも、カタカタカタカタ…って感じで小刻みな硬質音が聞こえる気がする…
 って、なんの事は無い。
 水の入ったコップを握る俺の手が小刻みに震えてて、テーブルとの衝突音が聞こえてるだけだった。
 これにて疑問はQED。
 さてさて、それじゃ疑問も解決できた訳だし、名探偵さんはそろそろ舞台を去るべきだな。
 そんな経緯で席を立とうとしたんだけど… そんな事は不可能なんだって相場は決まってる。
 例に漏れず無理だった。
 今思うと窓際に座ったのがそもそもの間違いだった。
 TVのCMで『階段では男性が後ろから上るのがマナー(上を歩く女性が転倒する際に備えて)、レストランでは男性が窓際に座るのがマナー(店外からヒットマンが狙ってるかもしれません)』とか流れてたのを、素直に信じた俺が馬鹿だった。
 そもそも上を歩く女性を支えるのはともかく、狙撃されたら死んじゃうからマナーも糞もない気がする。
 端的に言うと、ソファシートの隣に座ってるルナが離脱の障害となって俺の前に立ちはだかってるって事。

 不覚っ!!

 不覚と言えば、そもそも軍施設内に有るファミレスで日本食フェアーが開催されてた事が何よりの不覚。
 恐るべし日本のファミレスチェーン店。
 そもそもZAFT軍カーペンタリア基地内に出店してるだけでも剛の者だってのに。
 ただでさえ高級な日本食材をふんだんに使用したお料理が、なんとカーペンタリア基地にてお召し上がりになる事が可能なのですよ?
 軍人しかいない客層を考えると、需要と供給のバランスを全く考えてないとしか思えない。
 その商魂、ぐうの音も出ねえぜ。
 出来れば日本食フェアーは来週にでも実施していただきたかった。
 何このリーズナブルなファミレスで見るリーズナブルじゃないメニュー表。
 1人前のお値段が5桁に達する危険を秘めたファミレスなんて、ファミレスじゃねえ!

「シン、本当に大丈夫なの?
 なんか空調と全く関係無い変な汗が出てるよ」

 心配そうに声を掛けてきたルナに、おしぼりで額の汗を拭ってもらいながら

「…だ、大丈夫だ」

 と、明らかに自分でも大丈夫じゃないとしか思えない声で返事を返す。

 か、考えてみるんだ俺。
 これはあくまで先行投資、そう、先行投資なんだ。
 幸い軍人なんてヤクザな商売をしてると日頃は給料も使わない。
 これで命の危機が防げるんだって考えたなら1万弱は端金も同然じゃないか!
 そう、レッツ!ポジティブシンキング!
 何時でも何処でも幸せ探し。
 止まない雨は無いし、抜けないトンネルは無いのだ。
 雨が止んだら虹が出るし、トンネルを抜ければ雪国でした。
 いや、雪国は意味が分かんないけど、とにかくそう言う事なのだ。

 とは言え、被害は甚大であります。
 一抹の不安は拭いきれず、さりげなく財布の中身を確認してみる事に。
 萬札紙幣に書かれたジョージ・グレンの肖像画が3人、俺を見てる。

『大丈夫だぜ! Cool Boy!』

 なんでか未だに謎なんだけど、アメフト選手だった頃の写真が採用された肖像画のジョージが俺にそう囁きかけてる気がした。

『OK! ジョージ!』

 俺とルナの分の注文も合わせると、どうやら2人のジョージとお別れする事になりそうだ。
 だけど、最低でも1人は残る筈。
 大丈夫だジョージ、例え1人でもお前が俺の側に残ってくれるのは嬉しい。
 これで我が軍は後10年は戦える。
 俺とお前なら出来るさ…

 俺はスゥー、ハァーと心の中で深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせる。
 そして未だ不安そうな表情を浮かべるルナに、

「いや、本当に大丈夫だ。
 ルナも好きなものを注文すれば良い」

 と白い歯輝くジョンブルなスマイルを返す。
 正直、戦力の3分の2減は痛い。
 だけど苦しい時ほど笑えって言うのが良い弁護士の条件だ。
 たった1人になってもジョージはジョージだし、だったら俺が泣き言なんか言えないよな?
 ついつい彼女に見栄を張っちまう、陳腐な漢のプライドって奴を笑ってくれよ。

 …まあ、そうは言ってもルナの事だ。
 ツーと言えばカー。
 もちろん電話局の宣伝なんかじゃなくて、俺とルナの意思疎通の具合を示した表現な。
 ルナならきっと俺のそんなちっぽけな男の見栄に気付いてくれる筈。
 なんたって2人は仲良し。
 2人はプリキュア。
 きのこスパゲッティでも食べようじゃないか!
 きのこはダイエットにも良いらしいぞ。
 ゲームの世界じゃ中年親父が巨大化したりもするけどね。

 そんな俺の精一杯の虚勢を込めたジョンブルなスマイルに、ルナは笑顔で頷きを返す。
 そしてその可愛らしい笑顔のままでウェイトレスさんに告げる。

「じゃ、私もメイリンと一緒で。
 あ、飲み物はレモンティーにして下さい」


 ぶっちゃけ有り得なーい!


 あー…なんて言うか、神は死んだ。
 想定外の事態に「…え゛?」とか言う疑問符すら喉から出てこない。
 ジョージは? その場合、財布のジョージはどうなるって言うんだ?
 慌てて財布の中身を再度確認。
 当然の様に増えてる筈もなく、相変わらず3人のジョージが俺を見てる。

『グッバイ! Cool Guy!』

 ジョージの爽やかな声が聞こえた気がした。


 ■■■


 …さて。

 悲しい出来事はさっさと忘れよう。
 俺はまだ若いんだし、もっと未来に夢を馳せようじゃないか。
 何時までも過ぎ去った過去に捕らわれてるのは賢い男の生き方なんかじゃない筈。

 そんな訳でファミレスから出た俺は、ご満悦な表情を浮かべるルナ&メイリン姉妹とは別行動に。
 払われた犠牲は大きかった。
 あわや我が軍は崩壊するのではないか?ってくらい大きかった。
 だけど、きっとこの犠牲は報われる筈! …報われると良いなぁ …報われて下さい。

 そんな切実で願望まじりの思いを込めてたんだけど、何時までもそんな思考に縛られている場合じゃない。
 財布の残高は実に4桁。
 だいたい中学生の小遣い並みの金額だって言えば分かって貰えるだろうか?
 具体的に言うと3千と小銭が少々。
 実に戦力の9割減だ。
 これは切ない。
 実に切ない。
 一社会人としてこの残高は如何なものか?
 衣食住完備の軍人じゃなかったら間違い無く生活費が足りず来月まで生きて行けるかも怪しかった。
 この時ばかりは衣食住完備のZAFTで働いてて良かったとつくづく思ったね。
 そもそもの原因がZAFTで働いてた所為だって事に目を瞑れるのなら、だけど。

 まあ、さっきから何回も言う様だけど、何時までも後向きな思考をしてても始まらない。
 どうせ残された選択肢は月末の給料日まで我慢する、それしか無いのだ。
 無い袖は触れない訳だし、だったらいっそ残金の使い道でも考えるほうがよっぽど建設的だよな。
 ただでさえ吹けば飛ぶ様な全財産なんだし、無理して使う必要なんか無いんだけど。
 だけど俺の考え方はちと違う。
 例えばギャンブルで3万持っていって2万7千負けたとする。
 取れる行動は残った3千を持って泣きながら帰るか、もしくは潔く残りの3千を突っ込む冒険に出るか、って2択だろう。
 俺は迷う事無く後者を選択するタイプの人間なのだ。
 男なら、否! 漢なら、潔く咲いて散るのが花ってもんだろう?

 と、まあ、だらだらと何が言いたいのかよく分からない前提だった訳だけど。
 とにかく残された3千ちょっとの残金を、なんとか自分の役に立てたいって切実に思う訳なのだ。
 だけどそれがなかなか難しい。
 所詮3千そこそこで出来る事なんて限られてるし。
 なかなかそんな都合の良い事なんて転がってないんだけど、まあ、それはそれ。
 そこでそんな都合の良い方法を直に思い付いちゃうのが、きっと俺が非凡だって事の証明なんだろう。

『デスティニープラン』

 ちょっと忘れそうになってたんだけど、そんな事を昔の俺は考えてたりしなかったっけ?
 俺の記憶が確かなら、プラントで無農薬野菜を栽培する近所でも評判の農家になるって壮大な野望だった筈。
 ルナから1口貰った松茸ソースは思い出しても絶品だった。
 俺もあんな松茸を栽培する農家になりたい。
 その為なら俺は何でも出来る。
 スピッツの歌風に言うのなら、きっと今は自由に空も飛べる筈。
 漢は壮大な野望に向けて、今、はじめの一歩を踏み出したのだった!


 ■■■


 そんな訳で実践ね。

「精が出ますね」

 舞台はがらっと変わってミネルバの格納庫。
 今、そこには金ピカMSとアスラン以外は誰も居ないのだ。
 他のMSは艦から降ろされて整備されてるんだけど、金ピカは訳有りで降ろせないからだ。
 ヨウラン達整備員も休暇を貰った筈だし、きっと今頃はどっかで羽を伸ばしてるんじゃないかな。
 それを見越しての訪問だった。

「ん? ああ、シンか。
 どうしたんだこんな場所に」

 そんな中で声を掛けた俺に、気付いたのだろう。
 金ピカMSの脚部でごそごそ何やら弄くってたアスランが、汗を腕で拭いながらこっちを振り向く。
 畜生、汗を拭った時に頬に付いた油汚れが働く男!って感じで格好良いじゃないか!
 ヨウラン達が同じように汚れてても子汚いだけなのに、この違いは何だ?
 これがモテオーラって奴なのか?
 そんな現実に軽い嫉妬を覚えそうになるけど、決して顔には出さない。
 俺だって目的達成の為には感情くらい制御してみせるさ。

「いや、特に用事って訳じゃ無いんですが。
 所謂、差し入れって奴です」

 そう言って手に持ってたドリンクを差し出す。
 ファーストフードなんかでよく見かける、紙コップにプラスチックの蓋、ストローの刺さったタイプ。
 そう、これこそが全財産(と言っても3千少々)をはたいてまで購入した役立ちアイテム。
 一人寂しくMSの整備をしてるアスラン。
 そんな所に突然の差し入れ。
 思い掛けない相手から、思い掛けない時に思いも拠らぬプレゼント。
 信頼度が大幅アップ間違い無しですよこれは!

 此処でのポイントはあくまでさり気無さを装う所だ。
 恩着せがましい態度を取って下心に気付かれちゃいけない。
 今まで外で遊んでたんだけど、実は一人で頑張ってる貴方の事を気にしてたんです。
 そんな雰囲気をそれとなく伝えられれば勝ちだ。

 そして、どうやら勝利の女神は俺に微笑んだようだ。
 俺の作戦が功を奏したのか、アスランは

「! シン…」

 なんて感じで意表を突かれた表情を浮かべた後、少し照れながら

「ありがたくいただくよ」

 って照れくさそうに笑顔を浮かべて俺からドリンクを受け取った。

 よし!
 これでとりあえず今日のミッションは全て終了だ。
 小さな一歩に過ぎないけど、これが行く行くは大きな実を結ぶ筈。
 戦場で俺が危険な目に遭いそうになったら是非助けて下さい。

 まあ、ここのタイミングで帰っても良かったんだけど。
 予想以上に思い通りに事が運んだんで、気を緩めた俺は、

「整備、まだ掛かるんですか?」

 なんて実は少し気になってた事を聞く。
 なんたって実を言うとミネルバの出航は明日なんだ。
 後、数時間もすれば他のMSも帰ってくる。
 アスランには是非ともさっさと整備を終えて頂いて、明日からまた実戦になった時は活躍して頂きたい。
 それに間に合うかどうかって言うのは俺にとって結構重要な問題だったりするのだ。

「ん? ああ、あと残ってるのはOS面の設定だけだ。
 慣れない整備で徹夜したけど、その甲斐も有ってなんとか明日の出航には間に合う筈さ」

 OK!
 返って来た答えは文句無し。
 あまりに思い通りの展開で、おもわずにんまりしてしまいそうになる。
 だけど好事魔多し。
 こんな時こそ油断しちゃいけない。
 気を抜くと笑みを浮かべてしまいそうになる表情を抑えて、

「そうですか。
 じゃあ、頑張って下さい」

 って淡々と告げる。
 本当なら手伝うべきなんだけど、手伝っちゃいけない!ってルールなんだから仕方が無い。
 仕方が無いったら仕方が無い。
 ああ残念だ。

 棒読みっぽくそんな感想を抱きながら、

「ああ」

 ってアスランの返事を背に格納庫を後にする事にしよう。
 頑張ってくれ、アスラン!
 明日からの俺の安全な未来の為に!

「!?」

 そんな感じで今、まさに格納庫から出ようとしたんだけど。
 後ろから声にならない叫び声が聞こえたかと思うと、ドサッ!って感じで60kg前後の肉が倒れるような鈍い音が聞こえた。

「………え?」

 振り返るべきなんだろうか?
 いや、人道的に考えると振り返るべきなんだけど、振り返っちゃいけない気もする。
 と言ってもやっぱり振り返らない訳には行かない訳で。
 振り返ってみたわけなんですが…

「アスランッ!?」

 まあ、正直やっぱりな、って気がしないでもなかった訳なんだけど。
 案の定、さっきまで元気だったアスランがぶっ倒れてた。
 そしてそんなアスランの腕の近くに転がる、俺が差し入れたドリンクの容器。

 な、なしてこげな事に!?

 あのドリンクは漢方屋の親父に全財産(と言っても3千ちょっと)はたいて作って貰った滋養強壮に抜群の栄養ドリンクなのですよ!?
 寧ろ逆に元気ピンピンで整備に戻ってる筈でしょ!
 なんで倒れちまったんだぁ!!

 と、まあ考えるのは自由だけど、アスランを何時までもそのままにはしてはおけない。
 もしこれが原因でアスランがぽっくり逝ったりなんかしたら、間違い無く容疑者は俺しかいない。
 そんな最悪の事態だけは勘弁してくれ!

「アスランッ!?
 大丈夫ですか!? アスラン! って…臭ッ!」

 心配7割、保身3割でアスランに駆け寄って抱き起こした訳なんだけど…この匂いは!?
 抱き起こしたアスランの顔は真っ赤だった。
 どうやら眠ってるだけで命に別状は無さそうなんで、それは安心したんだけど、とにかく息が臭い。
 なんて言うか、終電の電車のシートに横たわってる中年のおっさんの口臭と言えば良いだろうか?
 ぶっちゃけて言うと酒臭い。

「って酒ぇ!?」

 と言う事はアレか?
 アスランは酔っ払っちゃって倒れた、と。
 そういう訳か?
 何時の間に酒を飲んだんだアスラン…
 あんただけは勤務中に酒なんか飲む駄目兵士じゃないって信じてたのに、見損なったよ。

「………」

「………」

「………」

 現実逃避は此処までにしよう。
 分かってる。
 ああ、本当は俺にも分かっちゃいるさ!
 アスランが酒を飲んだんじゃなくて、俺がアスランに酒を飲ませたんだって事くらい、本当は分かっているさ!

 案の定、転がったドリンクの容器を拾って蓋を開けるとお酒特有の匂いが。
 いや、確かに「滋養強壮に効くならなんでも良い」って漢方屋の親父に注文したのは俺なんだけど。
 まさか酒を入れるとは…やるな漢方屋の親父。
 それをあたかもファーストフードのドリンクみたいにコーディネートするとは…侮れん!
 アスランは、疲れて寝不足な時にアルコールをストロー一気した、ってそういう事か。

 そりゃ倒れるわ。

 ストローで酒を飲むのって危険らしいしな。
 まあそうは言っても、まさか死にはしないだろうとは思ってる。
 一応アスランもコーディネーターな筈だし、急性アルコール中毒なんかで死ぬ事は無いと思いたい。
 肝臓とかもコーディネートされてる事を切に願う。
 それに飲んだって言っても、所詮はMサイズのドリンク1杯なんだし。

 と言う訳でアスランは寝かせておけば問題は無い。
 無いんだけど…

「金ピカの整備、どうしよう?」

 アスランは起きそうにない。
 って言うか、流石に俺でも今のアスランを起こして整備させるほど鬼じゃない。
 かと言って整備が間に合わないのも不味い。
 アスランに酒を飲ませた所為で間に合わなかった、なんて事がばれたらきっと艦長も怒るだろうし。

 できるならこの出来事は無かった事にしたいんだけど…

 俺が整備する、か?
 残すはOSの設定だけだって言ってたし。
 物理的な整備は苦手なんだけど、実を言うとOS面の設定だったら俺は得意中の得意なのだ。
 MSでダンスしてたのは伊達じゃない。
 モルゲンレーテでテストパイロットしてた頃から、その為だけに専用アプリを開発してたりするしな。
 もちろんインパルスにも皆には内緒でインストール済みだ。
 残念ながら未だにインパルスで踊る機会には恵まれてないけど、本当だったらミネルバの進水式で披露する筈だったんだ。
 インパルスの性能を見せ付けろ!って言われてたから張り切ってたんだけど、あの騒ぎでおじゃんになってしまったからなぁ…
 あそこでお茶目な面を披露出来ていたなら、【紅蓮の修羅】なんて呼ばれる事も無かった筈なのに…

 おっと、ナチュラルに話題を逸らせてしまったみたいだ。
 とにかく何が言いたいのかと言うと、金ピカのOS設定やっちゃう?って事。
 ルール違反なんだけど、小人さんの所為だとか言って誤魔化せないだろうか?

「…ま、非常事態だしな」

 それが誰にとって、何にとっての非常事態なのかは言えないけど。
 最悪、OS設定の後にコクピットのアスランを放り込んどけば良いだろう。
 あわよくば酔っ払って倒れた事も忘れて、OS設定終了後に緊張が解けて就寝、なんて勘違いまで望めるかもしれないしな。

 よし、そうなったら話は別だ。
 善は急げ!って言うし、早速作業に取り掛かるとしよう。

 いっちょ、シン・アスカの真髄を金ピカにぶつけてみますかね!



 つづく(いいかげんプロット無しは限界なんじゃないか?と思わないでもない)




 後書きみたいなもの

 ラクス視点は色々と無理が有る事に気付いた2006年、晩夏。
 問題点のその1は一人称。
 確か『わたくし』だった筈なんだけど、漢字変換したら『私』。
 『わたし』と区別付かねぇー!
 それでも『わたくし』と平仮名で書くのは何か違う気がする。

 問題点のその2は語尾。
 台詞の部分は兎も角、地の文章の部分は違和感が抑えられそうにない。
 なんて言うか、中途半端な丁寧語?
 筆者の力量不足と言ったらそれまでかもしれませんが、例によって書いては消し、書いては消し… orz
 もう2度とラクス一人称は書かないと心に誓う。


 そして問題だらけのシン・パート。
 言い訳はしねえ(と言いつつ言い訳してみる)。
 正直、ここ数回のシン・パートはラクシズ編を進める為の間に合わせだったりします。
 勘違い物の本流としては前半:他者勘違い、後半:本人勘違い内容暴露だと勝手に思ってるんですが、ラクシズ編は前半の意味合いが微妙に違ったり。
 「ラクシズ編は読者の想像にお任せ」とか、「思い切ってシン編はカット」なんて案も当初有ったんですが、一番しんどそうな道を選んでしまった気がする今日このごろ。
 とりあえず今回でラクシズ編は本当に終了したんで、次回からは勘違い物の本流を歩める筈。
 歩めると思いたい…


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