<ミーア・キャンベル>
~♪
「お送りした曲はラクス・クラインで『自由はSO・KU・BA・KU♪』でしたぁ。
いやあ、TVで姿を観なくなって久しいラクス様ですが、人気は衰える事を知りませんね。
ミーアがお送りしてる当放送『明日はメタモルフォーゼ』は深夜枠って事もあって、リスナーさんからのリクエストは少なめなんですが、その殆どがラクス様の曲をリクエストしてるんですよ。
でもでもそうなると何時も同じ曲ばっかりになっちゃうから、他の歌手さんの曲をリクエストした方がお葉書が採用される可能性が高いかも♪
そうそう、他の歌手さんのリクエストで思い出したんですが、何時もミーアの曲をリクエストしてくれるヘビーなリスナーさんもいらっしゃるんですねぇ。
R.N『赤紙軍人候補生・飛ぶ鳥落ちた』さん、いっつもミーアを応援してくれてありがとー!!
R.NからするとZAFTのアカデミーの人かな?
ミーアは赤紙ってのがちょっと気になってたりします。
それにしてもアカデミーの生徒さんがこんな深夜まで起きてて大丈夫なのかな? ちょっと心配です。
ミーアの曲ってCDショップでもあんまり置いてないんだけど、『赤紙軍人候補生・飛ぶ鳥落ちた』さんは新譜が出た時なんか直にリクエストしてくれるんだから凄いよねぇ~。
尊敬しちゃう!って言うか惚れちゃうカ・モ・ネ♪
残念ながらこの番組ではミーアの曲を流すのはNGなの、ごめんね。
だけどそんな『赤紙軍人候補生・飛ぶ鳥落ちた』さんはミーアが勝手にファン倶楽部の会員№1番に決めた!
って言ってもミーアのファン倶楽部は無いんだけどね、とほほ…
そんなヘビーなミーアファンの『赤紙軍人候補生・飛ぶ鳥落ちた』さんは気付いたかな?
他のリスナーの皆はどう?
実は今日の放送でミーアはこっそりドッキリを仕掛けておいたのだぁ!
って言っても分かんないか。
ヒント出すね。
ほら、ミーアって誰かに声が似てるなぁ~って思わない?
そう、ラクス様にそっくりなんだよねぇ。
CDの売り上げ枚数は天と地ほど差が有るんだけど、とほほ…
いかんいかん、MCが暗くなっちゃダメだよね?
はい、それでは放送時間も少なくなってきたのでさっさと正解を発表しちゃいます。
実はと言うと、さっき流れたラクス様の『自由はSO・KU・BA・KU♪』なんだけど、なんと!ミーアが歌っていたのでしたー!
驚いた?
とりあえず苦情の電話は入ってないみたいなんでばれてないと思うんだけど。
深夜枠のローカル放送だからって、無茶しましたよぉ…
ディレクターさんにも内緒で仕込んでたんで、後で怒られるかもかも。
来週の放送でMCが代わってたら皆、ミーアに同情してね。
おっと、そんな訳で今週もそろそろお別れのお時間になっちゃいました。
来週も皆に会えると良いなぁ…w
以上、ミーア・キャンベルで『明日はメタモルフォーゼ』をお送りしましたぁ。
おやすみなさーい」
………
……
…
ものすっごい怒られちゃった。
やっぱり勝手に音源差し替えたのは不味かったかなぁ…
■■■
いやぁ、人間何がどう影響するか分からないもんよね。
え? 意味が分からない?
実はですね、ふふふ…
なんと! 昨日の放送を聞いてた議長さんから仕事の話がしたいってオファーが来たのだぁー!
凄いでしょ? 議長だよ? 議長!
「昨夜のラクス様の歌はほんとにミーアが歌ったのか?」
って、確認の電話が掛かって来たの。
何処でミーアの電話番号を調べたのか、考えるとちょっと怖いけど。
「本当にミーアが歌ったのを流したんで干されちゃったんですぅ、およよ…」
って涙声で訴えたら、
「是非とも仕事の話がしたい」
だって!
それでこそ無茶した甲斐が有ったってもんよね。
ミーアレベルの売れてない歌手なんかは、思い切った手段に出ないと一生日の目を浴びないって思ってたんで勝負に出たんだけど、正解だったわ。
いきなり干された時はお先真っ暗だったんだけど、ミーアには強運が付いてるわ。
むふふふふ…
笑いが止まらないぜぃ!
…それにしても、評議会議長さんみたいな人がミーアの深夜ラジオなんか聞いてたなんて、ちょっと意外。
■■■
「ラクス様の影武者ですかぁ!?」
いきなり聞かされた仕事の内容は突飛すぎて、議長さんの前だって言うのに大声を上げてしまった。
ミーアったら乙女の癖にはしたない。
反省、反省。
そんなミーアの心中一人反省会を議長さんは知る筈も無く、
「あぁ、ミーア君。
君にはラクス様の影となって私の政務を手伝ってほしいのだよ」
って、ミーアの事はお構いなく話を進めて行く。
「あのぉ…
そっくりさんとか物真似芸人なんかじゃなくて、ですか?」
「ああ、昨夜の君の放送を聞いてね。
ラクス様そっくりな歌声もそうだが、なによりその無茶苦茶な行動力と言うか、そう、度胸を買ってね。
君なら立派にラクス様の影を務める事が出来ると、総合的に判断させてもらったのだよ。
物真似芸人の様な使われ方をされるのは実に惜しいと考えてるんだがね」
えっと…褒められてるんだろうか?
でもでもこれって議長がミーアの事を高く評価してくれてるって事だよね?
度胸が買われたってのが微妙だけど。
それにしても、うーん…ラクス様の影武者かぁ…
確かに声はそっくりだな、って自分でも思うけど、容姿は全くの別モノだしなぁ…
流石に影武者として人前に出るのは厳しいんじゃないかな?
「容姿ならば問題無い。
プラントでも最高の整形外科医を用意させるつもりだ。
もちろん費用はこちらが持つ事になる」
そんなミーアの疑問には、議長の突き抜けた回答が返って来た。
え゛?
顔を弄れって事ですか?
流石にそれはちょっとご勘弁を…
親から貰った身体に、病気でもないのにメスを入れるのは抵抗が有るし。
ミーアはこうみえても固い女なのだ。
貞操とか、その他もろもろ。
ピアスだって開けてないくらいな鋼鉄ガールなのに、ラクス様に似せるとなると容赦無く全面整形でしょ?
髪だってぶっ飛んだ色に染めなくちゃいけないし…
「あのぉ、申し訳ないんですけど断わら「そうそう、ラクス様の影を務めるのだから、当然報酬は弾ませて貰うつもりなんだがね。
具体的に言うと…」
そう言ってミーアの断りの声を遮って、議長が提示した電卓には私の今の年収の倍の額が表示されていた。
「えっと、年収ですか?」
「いや、月収のつもりだが?」
他に支度金も付けるつもりだが、と平然と続けられる。
うう゛!
お父さんお母さん、ミーアは心が折れそうです。
いやいや、それでもラクス様の影になるって事は、ミーアとしての活躍を諦めるって事だ。
ミーア、貴方はそれで良いの?
お父さんお母さんに、何時の日か紅白に出る姿を見せる!って約束したじゃない!
その約束を破っちゃう事になるんだよ?
お、お金なんかにミーアは負けないもん…
「す、すいませんがこのお話は聞かな「他にもラクス様の代わりとして、コンサートを開催してもらうつもりで居るのだよ。
どうだね? 数万、数十万の観客の前で君の歌声を披露してはくれないだろうか?」
す、数万っ!?
今までミーアのコンサートで来てくれたお客さんの100倍!?
流石ラクス様、観客の数も半端ねえぜ。
う、羨ましいかも。
腐ってもミーアは歌手なのだ。
沢山の人の前で歌ってみたいって気持ちは有るのだよ。
だけどだけど、うーん…
うまい話には罠が有るって言うし、やっぱり断わるべきよねぇ?
「そうそう、先の大戦の英雄、アスラン・ザラはラクス様のフィアンセだったね。
彼は今プラントには居ないが、ひょっとしたら近い将来、彼の擬似恋人役を「やります!」…そ、そうかね」
「ええ!
プラントにはラクス様は必要な人なんです!
私なんかがラクス様の代わりとしてプラントのお役に立てるなら喜んでやらせて頂きますとも!」
「あ、ああ。
決心してくれて嬉しいよ」
何処か引き攣った笑みを浮かべながら、よろしく、って差し出された議長の手を力強く握り返す。
お父さんお母さんごめんなさい。
ミーアはお父さんとお母さんの娘だけど、プラントの市民でもあるの。
プラントの皆の役に立てるんだったら、ミーアは泣いてお父さんとお母さんを裏切るわ!
決して良い男の話に目が眩んだ、とか、自慢の胸でどうにかしてやろう!なんて考えてないから安心してね?
■■■
「胸を削るぅ!? 断固拒否します!!」
顔の手術を終えてミイラ女状態なミーアに、医者は淡々と次の手術の説明を始めた。
「大変言い難い事なんですが、ラクス様と比べると胸が大き過ぎますから。 削っちゃいましょう」 って。
拒否します。
ええ、断固、拒否するともさ!
ミーアのバストは自慢のおっぱいなんだ。
ひょとしたら本物のラクス様に唯一勝るかもしれない武器、いわば切札な代物なのだ。
それを削るだなんて、滅相も無い。
だから、
「え? でも議長に出来る限りラクス様に似せるように指示されてますし…」
って、困惑した様子を浮かべながら返答してきた医者に、
「貴方じゃ埒が明かないわ。
議長と連絡を付けなさい!」
って怒鳴りつけてしまった。
ほうほうの態で病室を飛び出して行った医者が、携帯を持って戻って来たのは5分後。
それから私と議長の間で長い長い話し合いが始まった。
母と言う漢字の成り立ちから始まって、月亭可朝の『嘆きのボイン』の歌の意義、『有る有る』で聞いたおっぱいの持つ癒しパワーの検証から巨乳は世界を救うと言うやばめな宗教と同じ結論に到達するまで、熱い議論が交わされたのだ。
それは後の世に『おっぱい会議』として語り継がれたのは言うまでも無い。
そんな訳で議長と分かり合えたミーアは今のおっぱいを維持。
自慢の武器を携えたままで、ラクス様としてデビューする事になったのだった。
■■■
『ラクス様も愛用!
豊胸手術なら○○クリニック』
『ラクス様は一児の子持ち!?
復帰以来、とみにスタイルがよくなったラクス様だが、そんなラクス様に出産疑惑が持ち上がっている。
一時期、芸能界から姿を消していたのは出産・育児の為だと言うのだ。
確かに以前と比べて胸周りのボリュームの差が歴然としている事実も有り、また関係者だと名乗る男性からの証言で…』
「あっちゃぁ~」
今週発売の週刊誌を放り捨てながら溜息を漏らす。
それにしても失礼な話だ。
私の胸は100%天然物だし、穢れない乙女に向かって出産疑惑なんてもってのほかだ。
いや、胸の手術を拒んだ私が悪い、ってのは分かっちゃいるんだけど。
それでも乙女心は複雑なのだ。
「確かに問題だがね。
過ぎてしまったものは仕方が無いとも言える。
だが、これらのゴシップ記事が程よいガス抜きになったのもまた事実なのだよ」
連合の一方的な開戦に水を差すと言う意味ではまことに都合が良い、なんて呟く議長に憮然とした表情を返す。
だけど言い返すのも不愉快な話を膨らませるだけのような気がするので、
「で、今日私が呼ばれたのは何の為です?」
って、多少強引だけど、話を本筋に戻してみた。
そもそも開戦された今日このごろ、議長だってラクス様な私だって忙しいんだよ?
まさかこんなゴシップ記事を見せるのが本題って訳じゃないと思いたい。
「ん? ああ、今日ミーア君に来て貰ったのは他でもない。
近々退院する予定の少女、ステラ・ルーシェ君をある家庭にエスコートしてほしいのだよ」
「ステラ・ルーシェ? 誰ですか、その方は」
議長の口から出たのは聞いた事もない名前の少女。
しかも聞くところによると、やる事と言えばただの案内係だ。
わざわざラクス様な私がしなくちゃいけない事なのだろうか?
「ああ、そうだったね。
それを言わなければ片手落ちになる。
君もよく知っている【紅蓮の修羅】、この娘はシン・アスカ君の義理の妹になる少女だよ。
連合に所属していたかもしれない過去も有ってね、この戦争の結末を左右しかねない存在とも言える」
【紅蓮の修羅】の事は当然私も知っている。
戦争に赴く兵士を鼓舞するのも、ラクス様な私の大事な仕事の一つなのだから当然だ。
だけど、【紅蓮の修羅】って人の事よりも、ミーアはシン・アスカって子の方が詳しかったりする。
同一人物なのに不思議に思うかもしれないけど仕方が無い。
だって【紅蓮の修羅】って人は戦争の申し子みたいで怖い印象しか湧かないけど、暇潰しに病室で観たシン・アスカって子の曲芸MS操縦の映像は実に面白かった。
議長から貰ったそのDVDを観て、実はミーアはシン・アスカのファンになってしまったのだ。
MSの操縦を高等技術でふざけるところが、ラジオで無茶して干されたミーアと通じる所が有ると言うか。
彼とならミーアは分かり合えるかもしれない。
そんな訳で、地球でコンサートをする時にお披露目予定のピンクちゃんなザクの操縦は是非とも彼にお願いしたい、なんて考えてたりする。
あ、ちなみに議長がシン・アスカのDVDを貸してくれたのは、彼が次代のZAFTのエース候補らしいから、だって。
ラクス様を演じるミーアは予備知識として知っておいたほうが良いって事で借りたの。
他にもキラって人のや、アスランのDVDも借りたんだけど…
凄いってのは分かるんだけど、観てても面白くないの。
遊び心が感じられないってのは減点ね。
「へぇ♪」
だからちょっとだけ、ステラって女の子に興味が湧いた。
【紅蓮の修羅】って呼ばれる戦鬼でもあり、曲芸MS乗りの愉快なパイロットでもあるシン・アスカの義妹になったって曰く有り気な少女。
おまけに敵軍の兵士だった過去までが有って、戦争の結末を左右するかもしれないなんて。
なんて言うか…
面白そう♪
ミーア・キャンベルだった時の私には、接点なんか無い娘だと思うし。
折角ラクス様になったんだから、こういう事も楽しまなくっちゃね。
「デュランダル議長、そのお話をお受けしますわ」
ラクス様モードで妖艶に返事をしてみた。
機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞
紅蓮の修羅の番外編
おわり。
後書きみたいなもの
困った時の外伝頼み。
3時間で完成しましたよ?
こんなに筆が進んだのはメイリンの短編以来だなぁ…
ちょっと中途半端な所で終わりですけど、この後はご存知の外伝4話の展開になって、続きは本編登場時ですね。
あんまり書き過ぎても今後が辛くなりそうなんで。
ルナマリア、メイリン、ミーア…元気っ娘のハチャメチャな話を書くのが得意なのだと気付いた20歳(1桁代は切捨)の夏。
そして、得意なのと面白いかどうかは別の問題。