<キラ・ヤマト>
「っ!?」
不意に背筋を寒気が走り抜ける。
腕にも鳥肌が立ってるし、なんだか物凄く嫌な予感がするんだけど…
ちょうどその頃。
ミネルバの休憩室でアスランとシン・アスカが対談していただなんて僕は想像もしなかった。
当たり前だけど、アスランとシン・アスカとの間にどんな会話が交わされてたのか知る由も無い。
だからその後マリューさんから「カガリが軟禁された」って聞かされた時、それが寒気の原因だったんだなって僕は勘違いしてしまったんだ。
その事を後悔する日が来るのかは、今の僕には分からかった。
■■■
プラントから戻って来たカガリと、僕は会う機会が無かった。
ユニウス7の事件に連合の宣戦布告が続いて、カガリはとても忙しかったそうだから。
だからオーブが連合と同盟する事に決まった時も、戦争を回避しようと必死だっただろうカガリがその事実をどんな気持ちで受け入れたのかなんて僕には分からない。
それでも想像くらいなら出来る。
そう思ってたんだけど今回の騒動でその自信も無くなった。
カガリは何の為に、アスランと一緒にわざわざ出航間際のミネルバを訪れたんだろう?
なんでカガリは国策に逆らってまでアスランをミネルバ救助に出撃させなくちゃいけないんだろう?
そんな事しちゃこうなるって事くらい、カガリだって想像できる筈なのに。
「…なんで、そんな馬鹿な事を」
だからマリューさんの話を聞き終えた時、自然と口からはカガリに対する疑問が零れ落ちた。
別にマリューさんからの答えを期待していた言葉じゃない。
だって僕の愚痴に似た疑問に答えられる人間は此処には居ないから。
1人は自宅に軟禁されてるし、もう1人は今頃ミネルバと一緒に海の上を移動中なんだ。
マリューさんは僕のそんな疑問が聞こえなかったのか、それとも聞かなかった事にしてくれたのかは分からないけど、何事も無かったかのように話を先へと、より深刻な方へと進めた。
「問題はそれだけじゃ済まないの。
どうやら連合の方ではアスラン君の出撃に関して、責任者の引渡しを求める声が高まってるらしいの。
考えてみれば当然なのかもしれないけど。
だってアスラン君の活躍の所為で連合の作戦は破綻しちゃったんですものね」
「そんな!
だってカガリはオーブの代表なんですよ!?」
いくらなんでも話が極端過ぎる。
たしかに今回のカガリの行動は一国の代表としてどうかと思うけど。
それでも、それだけで仮にも一国の代表を引き渡せって言うのは無茶苦茶だよ。
「そうね。
だけどオーブはその要求を受け入れるつもりらしいの。
良い? キラ君。
確かにカガリさんはオーブの代表だけど、同時に今回の件では国事犯でもあるの。
なにせ国策になったばかりの連合との同盟を、故意に邪魔してしまったんですものね。
寧ろオーブの代表だから軟禁で済んでるって所ね」
カガリさんは人気者ですものね、と続ける。
場を和ませるような、僕を気遣うようなマリューさんの発言に、だけど僕は応えを返す事が出来なかった。
カガリが連合に身柄を引き渡される。
それはカガリの身の破滅を意味しないだろうか?
元よりカガリは先の大戦で連合に逆らったウズミ様の娘って事で、連合内での受けは良くない。
そして今回も連合との同盟を1人否定してたって言うし、それが適わないと決まったらアスランを出撃させる暴挙に出る始末。
その所為で連合の艦隊はミネルバを撃ち損なってしまった訳だし、連合がカガリに良い感情を抱ける訳が無い。
「それにカガリさんが軟禁されてからは宰相のウナト様が主動で国政を動かしてるらしいんだけど、セイラン家って元々大西洋連邦寄りだから。
煙たい位置に居たカガリさんを合法的に排除出来るチャンスなんだから躊躇わないでしょうね」
淡々と、聞きたくない事実だけを聞かされる。
「…マリューさんは。
どうしてそんな事を僕に教えるんですか?」
知らなければ悩む事も無いのに。
確かに全てが終わってから知らされてたら、後悔するのは間違い無いけど。
どうしてカガリが大変な時に僕は気付いてあげられなかったのか?って。
だけど。
今、知らされるのも残酷だ。
だって知らされたって今の僕には何も出来ないから。
カガリが大変だって知ってるのに、知ってしまったのに、今の僕には心配する事と焦る事くらいしか出来ないんだ。
悔しい。
何も出来ない、力を持たない自分が憎い。
そして、それと同時に思う。
アスラン、君は今回の事をどう考えてるんだろうか?と。
出撃したのはカガリの意思もあったみたいだけど、アスランは残されるカガリの身を心配しなかったの?
カガリがこんなにも身の危機に晒されてるって言うのに、君が近くにいないなんて…
いや、それは逃避だ。
確かにアスランには思うところが沢山有る。
プラントから帰って来たアスランは、何処か様子がおかしかったし。
だけど今、ここで全ての責任をアスランに押し付けるのは違うと思う。
何も出来ない自分から目を背けて、アスランにやつ当たりしてるだけだ。
そんな僕の葛藤に気付いたのかは分からない。
マリューさんは少しだけ申し訳無さそうに、
「…キラ君には知っていて貰いたかったから」
とだけ、告げた。
■■■
「眠れないのですか?」
「ラクス…」
昼間マリューさんから聞かされたカガリの話が原因で寝付けなかった。
だからこっそりと寝室を抜け出して、ベランダから夜空を見上げていたんだ。
そんな僕に声を掛ける人が居た。
共に生活するようになって早2年になる少女、そして僕の愛する人、ラクスだった。
「カガリさんのお話でしたら私もバルトフェルト隊長より伺いましたの。
キラは夕食の時も食欲が有りませんでしたし、きっと眠れなくて此処に居ると思いましたわ」
「…バレバレなんだ、僕の考えてる事は」
「ええ、だってキラの事ですもの」
自分はそんなに単純なのかな?ってちょっと落ち込みかけたけど、その言葉に救われる。
ラクスが僕の事を分かってくれてる、それが物凄く幸せな事なんだって思えるから。
僕はラクスが何を考えてるのか全然分からないけど。
「…キラはどうしたいんですか?」
横に並んだラクスが同じように夜空を見上げながら訪ねてきた。
だから僕も夜空を見上げたまま、思った事を素直に言葉にした。
「…助けたいって思う。
カガリを連合軍になんか引き渡したく無いんだ。
そんな事になってしまったら、カガリはきっと、2度とオーブに帰って来れなくなっちゃうから」
連合軍に引き渡される、そんな事になってしまったら間違いなくカガリは殺される。
それだけは絶対に避けなくちゃいけない。
だから。
なんの力も持たない僕だけど。
このままじゃカガリを永遠に失ってしまう事になるって分かってるから。
僕はカガリを助け出したいって、それだけを考えてる。
「…もし、カガリさんを無事に助け出せたとしても、キラ、その時は貴方も国事犯になってしまいますわ。
それでもキラはカガリさんを助け出したいと思われるのですか?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「…そうだね。
それでも僕はカガリを助け出したいと思うよ」
僕なんかが国事犯になるだけでカガリを救えるのなら。
オーブの事は確かに好きだけど、例えそのオーブに居れなくなったとしても。
カガリさえ無事なら僕は国事犯になる事も躊躇わない。
そんな僕の決意をラクスはどう受け取ったのか、
「でしたら助け出しましょう」
あっけらかんと言い放った。
「………え?」
物凄く意表を突かれたんで、僕は咄嗟に返事が返せなかった。
そんな動揺してる僕の顔をラクスは面白そうに眺めながら、
「”こんな事もあろうかと”、フリーダムとアークエンジェルの準備は出来てますわ」
一度言ってみたかったんですの、と楽しそうに微笑むラクスに、僕は返す言葉を持たなかった。
機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞
紅蓮の修羅
「そう言えばアスランの姿を見ないな」
オーブを出て直に行われた連合艦隊との戦闘を逃げ切った後の航海は、邪魔も入らず順調だった。
それでも目的地のカーペンタリア基地に着くまではまだ日が掛かるってんで、正直パイロットな俺達は暇で暇で仕方が無い。
出来る事って言えば訓練か待機くらいのもんだからね。
そんな訳で今日も今日とて休憩室でまったりしてたんだけど、暇だったんで此処に唯一いないパイロットの話題でも振ってみた。
思えば休憩室を飛び出していった後姿を見送って以来、アスランの姿を見ていない気がする。
ミネルバを降りたって話は聞いてないから、この艦の何処かには居ると思うんだけど。
そんなにキラって奴の浮気がショックだったんだろうか?
って言うか、実は俺もショックなのだ。
だって仮にも俺はミーアさんのファンだったんだよ?
そんなミーアさんが、よりにもよって浮気(?)されてただなんて…!
あのキラってロック野郎、絶対許せねぇ。
もし戦場で会ったなら、アスランの知り合いだからって容赦はしない。
「アスランなら格納庫だ」
そんな俺の密かな決意は何処吹く風。
冒頭の俺の疑問にはレイが答えてくれた。
「ふーん…」
とりあえずそう返して読み掛けだった雑誌の頁を捲る。
オーブで慰霊碑に行った帰りに購入しておいた『週刊ペット大集合』だ。
チワワ可愛い。
戦争が終わって(終わる前でも良いけど)退役したらプラントでペット屋さんを開こう。
プラントでペットを飼えるのかは知らないけど。
「って、それだけかい!?」
ビシッ!ってな擬音がしそうな勢いでルナにツッコミを入れられた。
さすが俺の彼女なだけの事はあるな。
手首のスナップが効いた良いツッコミだったぜ。
これでどんぶり飯3杯はいける…
って、そうじゃなくて。
「…いや、正直、興味無いし」
「…シン、そんな正直にぶっちゃけられても困るよ。
ショーンなんか固まっちゃってるじゃない」
そうは言われても興味が無いものは仕方が無い。
実際のところ、アスランが何処に居ようと俺には何の関係も無いし。
ぶっちゃけ、他の男が何処で何してようがどうだって良いんだ。
ま、アスランがどうにかしたら俺がZAFT辞められる、ってんなら話は別だけど。
…ん?
待てよ。
アスランが俺の分まで活躍したらそれもアリか?
俺の分まで働いてくれるんだったら、俺要らなくなるよな。
仮にも英雄とか言われてたそうだし、有り得ない話じゃない気がする。
…そうとなれば話は早い。
「冗談だよ、ルナ。
レイ、アスランは格納庫だって言ったな?
そこで何をしてるんだ?」
アスランの情報を集めるべし!
そして作戦を練らねばなるまい。
題して『アスラン大英雄! 俺ペット屋』プラン。
もともと一般ピーポーな俺が活躍してるのが間違ってるんだよ。
英雄とかそう言うのは主人公っぽいアスランとかの方がふさわしい。
それが運命なのだ。
よし、コードネームは『デスティニープラン』って命名しよう。
小市民は小市民らしく、英雄は英雄らしく!って事で。
ちなみに内容はと言うと、その名の通りアスランを大英雄に仕立て上げて、その間隙を縫うように俺はペット屋へと転身するってもの。
その為には議長にアスランの活躍をどしどしプッシュしていかなくちゃいけない。
その為にもアスランの事を詳しく知っとかなくちゃな。
敵を知り己を知れば百戦危うからず、って昔の偉い人も言ってた気がする。
「も、もう。
シンったら人が悪いんだから」
思わず突っ込んじゃったじゃない、って照れながら擦り寄ってくるルナの相手を適当にしながら、
「MSの整備だ」
って、もう少し長い文章を喋っても良いんじゃないか?ってレイの返答を聞く。
なんでもアスランはオーブ(と言うかアスハ代表個人)が修好回復の為に派遣した助っ人扱いだそうな。
それで艦長との話し合いの結果、傭兵的な立場でミネルバと同行するらしい。
だけどあの金ピカのMSはオーブの機密情報の塊らしくて、情報漏洩を防ぐ為にアスラン以外は触っちゃダメって事で、自分で整備しなくちゃいけないんだって。
他にも色々と取り決めは有るらしいんだけど、代表的なのは
・整備に必要な機材はZAFTが無償で提供する。
・アスランはミネルバの作戦指揮に従う。
・但し、オーブが相手の場合のみ出撃拒否を認める。
・だからと言ってオーブに味方してZAFTに敵対する行為は認めない。
って、だいたいこんな感じ。
まだまだ福利厚生とか待遇面での決め事も沢山あるらしいんだけど、正直どうでもいい。
少しだけ聞いたんだけど、税金関係の事とかさっぱりだったんで爽やかにスルーしておくのが紳士の嗜み。
他はなんて事無いんだけど…強いて言えば緊急停止装置かな。
流石に自爆装置はNGだったんだけど、緊急停止装置くらいは必要らしくて、アスラン立会いの元取り付けたそうな。
「…なるほど」
「うわぁ、大変そうね。
MSの整備まで自分でしなくちゃいけないなんて」
確かに大変そうだ。
俺が自分で整備までさせられるんだったら、絶対途中で泣き出す自信がある。
だけどレイの話を聞いて俺が気になったのは、残念ながらそんな事じゃないんだ。
「なあレイ、あのビームを跳ね返した装甲、あれって替えの部品有るのか?」
有るんだったら是非とも俺のインパルスにも着けて欲しい。
ってか、お願いだから着けて下さい。
金ピカってのがダサくて玉に瑕だけど、そのくらいは我慢できなくもないし。
アスランに頼めばどうにかならないもんか…?
そんな俺のよこしまな考えを余所に、レイは
「…流石だな、シン。
確かにあの装甲はオーブの最先端技術だけあって替えの部品は存在しない。
今後の戦況次第ではMSの装甲面での性能劣化は避けられないだろう。
その時の為にザクの修理にも取り掛かっている」
もっともこちらはヨウラン達が手伝ってるそうだが、と続ける。
なんだか会話が噛み合ってない気がしないでもないが、とりあえず、
「…そうか」
って、訳知り顔でうなずいておいた。
つづく(マラソンの要領で)
後書きみたいなもの
またしても遅筆、そして内容も薄いし話も進まない。
ホント、すいませぬ。 m(__)m
全部、才能不足が悪いんやぁー!
…見捨てないでいただければ幸いです。