<アレックス・ディノ>
突如現れた戦闘機が俺とカガリの危機を救った。
敵MS―――後で聞いた所に拠るとガイアと言う名の機体らしい―――にミサイルを次々と命中させる。
なかなかパイロットの射撃技術は高いらしい。
助かった、そんな事を考えて安堵の息をついたその時だった。
突然メインモニターが砂嵐になったのだ。
「――やられた!」
砂嵐になる寸前、戦闘機の放ったミサイルの、最後の1発がこのMSの頭部に命中したのだ。
敵MSが爆風で姿勢を崩した瞬間、その敵MSの影を縫うようにして、こちらの認識を遅らせると言う超難度の高等技術。
俺は馬鹿だ!
考えが甘かった。
なかなか、なんて代物じゃない。
あの戦闘機のパイロットは超一流の腕の持ち主だったのだ。
そして敵MSに攻撃を加えたからと言って、なぜ俺は無条件にこちらの味方だと判断したんだ?
自分の甘さ加減に反吐が出る。
ZAFTに取っては俺の機体も敵の機体も同じアンノウンに違いないじゃないか。
モニターが死んでしまってはしかたがない。
だからと言ってここでジッとしてる訳にはいかない。
そんな事をすればたちまち撃墜されてしまうだろう。
そうはさせない!
今の俺は1人で操縦してる訳じゃないんだ。
後ろには不安そうな表情を浮かべているカガリが居るのだから。
簡単に諦めるわけにはいかない!
どのような行動を起こすにしても、まずは視界を確保する必要が有る。
ここは危険だけどコクピットハッチを開くしか術はない。
この危機を脱するには、どうにかしてこの場所から離脱しなくちゃいけない。
そして安全に離脱する為には、戦闘機のパイロットに俺達が敵じゃない事を認識させなければいけない。
幸い、良くも悪くもカガリは有名人だ。
それに現在は国賓としてプラントに来てる。
戦闘機のパイロットがモニターでカガリの姿を確認できれば、攻撃を控えてくれるだろう。
だが、ハッチを開いた視界に先程の戦闘機の姿は無かった。
そして、その代わりに俺の駆るMSと敵MSの間には、新たな1機のMSが佇んでいた。
それは何処かキラの駆るストライクを彷彿とさせる機体だった。
俺のMSに背中を向けて立つ、赤と白を基調とした機体。
しかし俺は自分達がその機体のパイロットに見られてる――否、睨まれていると感じた。
それはまるで俺達の事を観察しているかのように、視線が全身を這い回る。
その視線の鋭さに、俺は先程の戦闘機のパイロットと通じるものを感じた。
あくまで俺の直感に過ぎないが、おそらく同一人物なのだろう。
どのようにして僅かな時間の間に戦闘機がMSに摩り替わったかは分からない。
だが、戦場で鍛えた直感を俺は信じている。
直に攻撃してくる様子は無いようだが、迂闊に動く事は出来ない。
!?
唐突に俺達の身を縛る強烈なプレッシャーが消えた。
まるで、もうお前たちに用は無い、とでも言わんばかりにきれいさっぱりと。
俺達は見逃して貰えたのだろうか?
そうだった場合、この好機を逃すわけにはいかない。
此処にはまだ敵MSがいるのだから。
俺は脇目も振らず一目散にMSを逃走させて、戦場からの離脱をはかる。
目指すはZAFTの新鋭艦、ミネルバだ。
軍施設が壊滅的な被害を受けている今、一番安全な場所はそこだろう。
ストライクに似た機体のパイロットの意図はよく分からない。
小さくなっていくMSの姿を振り返って、俺はひょっとするとあの機体のパイロットとは長い付き合いになるんじゃないか、と、ふと思った。
■■■
その後、なし崩し的にボギー1なる未確認艦を追跡するミネルバに同乗し続ける事になってしまった。
状況が状況だけに仕方が無いが、カガリをZAFTの戦艦に乗せると言う事が、今後、微妙な政治問題になりはしないだろうか?
それに間違いなくデュランダル議長は俺の正体に気付いている。
どういう腹積もりかは知らないが、その上で気付いていない事にしてくれているのだ。
ここは決して安全を約束された場所じゃない。
油断は禁物だ。
だが、デュランダル議長は自ら俺達に艦内を案内してくれると言う。
グラディス艦長がデュランダル議長に非難の声を掛けているが、軍人としては彼女の判断の方が正しい。
招かざる客である俺達を、あえて軍事機密に触れさせる必要など何処にも無いのだから。
デュランダル議長の思惑が読めない。
そして事件は艦内を見学中に起こった。
いや、事件と言うのは正しくないのかもしれない。
ただ、視線を向けられただけなのだから、事件と表現するのは大袈裟だろう。
おそらく視線を向けた本人にとっては、事件でもなんでも無いんだろう。
だが、少なくとも向けられた側、俺とカガリにとってソレは事件と呼べる代物だった。
なぜなら視線に込められている物が尋常じゃなかったからだ。
物理的な重さをすら持っているんじゃないか?と錯覚させられるような殺気を帯びた視線。
『鬼気』とすら表現してもいいだろう。
灼熱の紅い瞳が一対、視線だけで俺達の行動を束縛する。
………!?
だが、それも急に逸らされる。
かの少年は何事も無かったかのように周囲の人間の輪に紛れて消えた。
「デュランダル議長、彼は…?」
「ん? あぁ、シンですか。
いや、失礼。
まさか彼が貴方方にあのような瞳を見せるとは思いませんでした。
後でじゅうぶん、注意しておきましょう」
「いえ。
ただ視線が合っただけですから」
とは口にしながら俺もカガリも、視線が合っただけ、等とはとても考えられない。
カガリにいたっては、未だ視線に捉えられたまま口を聞く事も出来ない有様である。
「ただ、彼が何故、我々にあのような視線を向けたのかが気になるんです」
「ふむ…
これは私の想像の範疇を出ないのだがね、それには彼の経歴が関係しているのかもしれない」
「経歴? もし差し支えがなければお聞かせ願えませんでしょうか?」
「あぁ、それは構わないだろう。
少なくとも視線を向けられた君達には、聞く権利が有るんじゃないかと私は考えている」
そしてデュランダル議長の口から語られた内容は、俺とカガリに少なからぬ衝撃を与えた。
彼、シン・アスカと言う少年がオーブ出身者である事。
先の大戦で連合軍がオーブに侵攻した際に、戦火に巻き込まれて家族を失い孤独な身の上になった事。
戦後、プラントに移民してZAFTに入隊した事。
「そのような過去が…」
であれば、先程の視線の理由も理解できるかもしれない。
彼が俺の正体に気付いているとは思えないが、オーブ出身者ならばカガリの事は知っている筈だ。
そして、カガリが連合のオーブ侵攻の際にクサナギにて宇宙に上がったと言う事実もまた有名。
シン・アスカはそれらを知ってどう考えただろう?
彼の御家族が巻き添えを喰らって命を落としたその時に、(悪く言えば)戦争の当事者が逃げ出したのだ。
そして、逃げ出したのは俺も同じ。
連合軍の侵攻を防ぎきれず、結果として宇宙にあがった。
そこに戦略上・戦術上の意味が有ったとはいえ、逃げ出した事実は変わらないのだ。
彼が俺達を恨んだとしても、俺達にはそれを八つ当たりだとか責任転換だと言う権利などない。
「お父様…」
か細く呟いたカガリの言葉に、先の大戦の傷跡の深さを改めて思い知らされた。
■■■
「ああ、そういえば」
格納庫を後にしてしばし経った時、先程から続く暗い雰囲気を打ち払うかのようにデュランダル議長が喋り始めた。
だがそれは新たな火種を投下したに過ぎなかった。
「アレックス君、君と姫が乗るMS、ザクと言うんだがね。
そのMSの頭部を誤爆したのが、彼の乗るコアスプレンダーだったんだよ。
ふむ、やはり彼には1度、正式に謝罪させるべきだな。
仮にも一国を代表する人間が搭乗する機体に被弾させたんだ。
事故だったとしても、知らなかったで済まされる問題じゃない」
起動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞
紅蓮の修羅
1対1、しかも右腕のしびれも回復してきた、今の俺にガイア1機は敵では無かった。
所詮は獣になるしか脳の無いMS。
話にならんよ。
それにしても獣形態に変形するMSの存在価値って有るのかな?
だったらいっそ人馬一体型のMSでも開発しとけば、よかったんじゃね?
武者Zみたいな。
そういった訳で、彼我の戦力差は歴然。
それでも流石は獣、敵わないとみるや逃げに徹するその心意気や良し!
だがそれも此処までだ。
追い詰めるのに手間取ってしまったけど、もう逃がさない。
おとなしく刀の錆になってもらおうか。
今宵の虎鉄は血に餓えているぞ…
そして決着はあっけなく付いた。
やぶれかぶれこちらに突進してきたガイアに、すれ違いざまに剣戟をお見舞いする。
振り払う事4度。
たった一瞬の交錯の間に4度も剣撃をお見舞いするとは、さすが俺。
空中で四肢の全てを失ったガイアは胴体着陸して数十メートルを滑走し、ショッピングモールの近辺で止まった。
そういえばあの辺ってさっきルナとデートしたあたりじゃないか?
そして天然で美少女なステラちゃんと出会ったあたり。
そういえばステラちゃんどうしてるかなぁ…
こんな危なっかしい事になっちゃったけど、ちゃんと避難してるよね?
1人じゃ危なっかしいけど、知り合いもいたし大丈夫だよな。
おっと、そんな事考えてる場合じゃない。
ガイアをミネルバに回収してさっさとルナとレイを助けにいかねば!
んじゃ、ミネルバに戻りますか。
つくりかけのゾイドちっくなガイアを小脇に抱えてドッグに向かうべし。
…あれれ?
ミネルバ無いですよ?
ドッグは閑散としててミネルバの影も形も無い。
「…なんでやねん」
慌ててミネルバに通信を繋げると、「ヒッ」と声をあげたメイリンが接続を遮断して(以下略
どうやら俺の知らない間に出航してしまって既に宇宙空間を航海中だそうな。
気付かなかったけど、レイとルナの2人も逃げるカオスとアビスを追って宇宙空間に出てたらしいし。
なーるほど、どうりで静かだと思ったんだ。
って、そうじゃないでしょ!
ちょっと! 置いてくなんて酷いんじゃない!?
そもそも何時の間にブリッジとの接続切れてたんだよ?
戦闘中は繋ぎっぱなしにしとくのが常識でしょ!?
…まあ、たぶんメイリンが切ったんだろうけど。
彼女は俺に恨みでも有るんだろうか?
今度2人っきりで腹を割って話し合おう。
本当は言いたい事が山ほどあるがぐっと我慢。
シン・アスカは男の子だ。
これくらいの事じゃへこたれない。
だけど、とりあえず事情だけは聞いときたかったから
「…これは、どういう事だ?」
って、穏やかに問いかけてみた。
でもちょっと涙ぐんでしまったから目が真っ赤になってたかもしれない。
そしたら…
「………だってぇ、怖かったんだもん」
とメイリン。
………目から熱い汗が零れ落ちそうです。
後ろで聞こえるタリア艦長の
「気持ちは分かるけど、戦闘中は我慢しなきゃダメじゃない」
って言う、フォローになってないフォローなんかいらんわ!
余計落ち込むっちゅうねん!
…俺っていらない子だったんですか!?
■■■
そんな不幸なすれ違いも有ったけど、なんとかミネルバとの合流に成功。
ボギー1とか言う未確認戦艦の追跡中だそうで、ガイアを抱えて追いつくのは至難の業だった。
と言うかどうやって快速船ミネルバに追いついたんだろ?
モジュールはソードのままだし、お荷物付きだし。
きっと深く考えてはいけない。
格納庫に着艦しても、皆微妙によそよそしい。
流石に置いてきぼりを喰らわしたのが後ろめたいんだろうか?
なんだろ、この疎外感。
ちょっと非行に走りそうです。
■■■
とりあえず、そんな人間不信になりそうな出来事は置いておこう。
あんまり引っ張ってもブルーになるだけだしね。
問題はアレだ、捕獲してきたガイア。
四肢を切断しちゃったけど、捕獲成功って言うのだろうか?
まあ、逃がしちゃうよりは良いよね。
パイロットはたぶん死んでないから尋問とか出来るし。
たくさんの拳銃がコクピットに向けられる中、ハッチが強制開放される。
「………」
「………」
「………」
誰も出てこないですよ?
ひょっとして逃げられたのか?と思考が向かうその時、
「………ZZZ」
なにやら可愛らしい寝息が聞こえてきました。
どうやら敵パイロットはかなりの猛者です。
近付いて覗いて見る事にする。
銃を構えたお兄さん達も呆れた顔で頷いてくれたし。
そして興味深々覗き込んだコクピットの中には―――
「………ステラ?」
出会った時の格好のままのステラがいました。
なんで?
いや、ステラがガイアに乗ってた事もビックリだけどさ、ヒラヒラのスカートでMS乗ってる事のほうがビックリだよ!
って事はアビスとカオスに乗ってるのはあの時の2人の少年なのか?
お前ら注意しろよ!
何処の世界にスカートでMS操縦する女の子がいるんだよ!?
いやいやいやいや、予想外の出来事にちょっと思考が混乱してる。
落ち着け、落ち着くんだ俺。
とりあえず、このままステラの寝顔を眺めてても始まらん。
起こそう。
いや、本当に起こしていいのか?
起こさなければ話は進まん!
でもでも、俺の背後霊様は彼女を起こすなとお告げじゃ。
しかし、起こさないといけないんだよな。
「…ステラ、起きるんだ」
ゆっさゆっさと揺する。
もちろん肩に手をあててだ。
俺が胸を揺すったと思った奴!
明日までに400字詰めの原稿用紙に反省文書いて提出する事!
「ん……… ? アレ? …シン?」
無事にステラを起こすミッション成功。
だけどそれは案の定サバトの始まりだった。
「シン! また会えたね!
ねえシン、ステラのおっぱい揉んで♪」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………シン?」
格納庫の時が凍った。
どうやら神様への俺の願いは届かなかったらしい。
彼女は勿論TPOをわきまえないし、格納庫には人が沢山いる。
だけど、今、この格納庫内で行動しているのはステラ1人だけだ。
彼女は嬉しそうに俺の左手を掴んで勝手に楽園へと導いてくれる。
もゆんっ♪ 「あん♪」
もゆんっ♪ 「きゃっ♪」
もゆんっ♪ 「くゆん♪」
―――終わった。
何かは分からないけど、とにかく色々終わった…
その後の騒動は思い出したくも無い。
嫉妬に荒れ狂ったルナマリア大明神が御光臨なされた、とだけ言っておこう。
■■■
後日ヨウランに聞いたところ、俺の評判は悪化の一途を辿ってるらしい。
正直、予想通りの展開だ。
ただでさえ復讐鬼みたいな人物設定だったのに、更に『女の敵』って評価が加わった。
―――曰く、初対面の美少女の胸を揉みしだいた。
―――曰く、にも関わらずその美少女の駆るMSを容赦無く攻撃して亡き者にしようとした。
冤罪です!
誰か弁護士の先生を呼んでぇっ!
胸を揉みしだいたのは不幸な(ちょっぴり嬉しい)事故だし、そもそもガイアにステラが乗ってただなんて知らなかったんだよ!
と、心の中で激しく号泣。
ルナまで
「アタシの事も遊んで捨てるつもりだったの!?」
と、よりにもよって人の多い格納庫で抱きついてきて泣き出す始末。
いやいや話の出所はルナが吹聴したからだろ!?
どう考えてもルナしか知らない内容が評判に含まれてるYO!
なんでその噂を聞いてルナが泣いてるんですか!?
昨晩あんなに御奉仕したじゃない!?
そんなこんなで修羅場です。
昨日の今日だ、整備員の皆さんの視線は風邪をひきそうなくらい冷たい。
おかれた状況は、さに針の筵。
弾劾裁判が始まりそうな雰囲気です。
そんな俺が置かれた危険なポジションに気付く素振りもまったく見せず、ルナはさんざん泣き続けた挙句、
「でもアタシはシンが好き!
遊びでもいいの! お願い! 捨てないで!」
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と勝手に自己解決。
めでたしめでたし。
って、めでたくねぇーー!!
そもそも浮気なんかしてないし、って言うか、浮気する活力全部ルナに搾り取られてるよ!!
むしろ俺のほうが泣きたいっちゅうねん。
―――!?
その時だった。
急に上方から俺を見る視線を感じた。
最近人間不信気味で他人の視線に敏感になってたからな。
案の定2・3人の人間が此方を見下ろしてる。
おらぁっ! そこ! 何こっち見とんじゃあ!
見世物ちゃうんやぞ!
速攻、逆ギレ気味にガンを飛ばしてやる。
知ってる顔立ったら後で修正してやろうと目を凝らしてみたら、なーんとザクに乗ってたバカップルじゃ、あーりませんか。
更に怒り心頭。
MSを相乗りするようなバカップルに見られるのは我慢ならん!
本当なら愛の篭った教育的指導をお見舞いするところなんだが、なにせ今はルナに抱き付かれてて身動きとれません。
仕方が無いから復讐鬼の称号を勝ち得たガン飛ばしだけで今日のところは見逃してやるよ。
すると俺の視線に恐れを為したのか反省したのか。
バカップルはすごすごと去っていきました。
うむ、許す!
…だけど、その直前に俺は重要な事実に気付いてしまった。
バカップルの隣に、なんと! デュランダル議長の姿が…
サーーと全身から血の気が引いてく音が聞こえました。
あ、あのう… デュランダル議長、勘違いしてないよね?
俺がガン飛ばしてたのバカップルだけですよ?
だからお願い!
勘違いしないでね!<切実
つづく(と思われる)
後書きみたいなもの
流石にこの更新ペースは無謀じゃないかしら?
しかも今回はシン主観パートを全て書き直す羽目に。
何も考えずに書いてたらシンがただのエロ親父になってしまって流石にそれは不味いだろ、と。