<ウナト・エマ・セイラン>
「カッガリィ~、心配したんだよぉ~♪」
「ああ、ユウナか、すまない。
悪かったな、心配を掛けてしまって。
だが今は客人の前だ。
そのような行動は控えてもらえると嬉しい」
プラントから戻られたカガリ様をお迎えした時、私は戦慄を覚えた。
カガリ様の身に起こった変化。
それは長年政治の舞台に身を置いた私だからこそ分かるような些細な物。
今交わされた息子であるユウナとの問答がその良い例だろう。
ユウナの言動を否定する事も正面で受け止める事もせず、受け流す。
その上、自分の思う方向へ相手を誘導しようとする意思すら感じられるのだ。
「ウナト、このような時期に長期間不在ですまなかった。
私が不在の間、よく国を守ってくれたな」
「はっ、ありがとうございます」
「つもる議題も有るだろう。
直に国府へ向かうとしよう」
踵を返して颯爽と去っていくカガリ様の後姿を眺めながら、私は思考の海に潜る。
果たして、過去の決断は正しかったのだろうか? と。
自分の感情すら御し得ない小娘だったが故に、我々は彼女を代表首長の座に据えたのだ。
能力はともかく、彼女には民からの絶大な人気が有る。
国を焼かれたオーブを立て直す上で、彼女の人気は非常に優れた武器だったのだ。
人気は有るが感情的で、ウズミ様の理想の影ばかり追っている道化。
彼女の存在は、真に国の政を行う身にとっては絶好の客寄せパンダだったのだ。
だが。
もしも客寄せパンダに実力が伴ったとしたらどうなる?
人気の上では他の追随を許さない存在だと言うのに、我々は彼女に最高の権力の座を与えてしまっている。
彼女が我々の笛に踊る事無く、自らの意思で権力を使い始めるとどうなる?
「ねえ父さん、カガリってばなぁんか様子が変だったんだけど。
ひょっとして女の子の日だったのかなぁ?」
…頭が痛い。
■■■
「つまり、連合と手を組む。
そう言う訳だな?」
「はい。
既に地球の住民は皆、先のユニウス7降下の犯人がコーディネーターである事を知っています。
連合がプラントへと宣戦布告した今、同じ地球の一員として連合に組する事こそが義だと考えます」
「ふむ… 皆はその意見に賛成なのか?」
カガリ様が何を言おうと無駄だ。
反対者を募ったところで、誰もカガリ様に賛同などしない。
既に議員のメンバーへの根回しは済んでいるのだから。
仮にだが。
カガリ様が政治家として目覚めつつあるとしても、経験が足りない。
こればかりは一朝一夕でどうにかなる問題では無いのだ。
「…皆、宰相の意見に賛同と判断しても構わないか?」
「………」
「………」
「………」
議員の間を沈黙が落ちる。
その1人1人の顔を順に確認したカガリ様は、最後に私に視線を向け、
「…そうか、ならば仕方が無い。
オーブは連合に組する事としよう」
渋々ながらではあるが、賛同の意を示した。
「「!?」」
馬鹿なっ!?
オーブの理念をこよなく信じるカガリ様が連合への加盟に賛同するだと?
室内に動揺の風が吹き荒れる。
だが。
その風を遮るように、
「勘違いしないで貰いたいのだが。
私は連合への加盟に賛同はしていないのだ。
理由は3つ有る」
そう言い放つと、再度全員の顔を順に見やる。
そして全員の意識が完全に自分に向かっているのを確認すると、ゆっくりとその先を続ける。
「まず1つ目だが。
確かにユニウス7を地球に降下させたのはコーディネーターだ。
そして、その破砕作業を行ったのがZAFT軍である。
現場に居合わせる事になった私がこの目で確認した事だから間違いは無い」
「そうだよね、プラントの奴等が地球にユニウス7を落とそうとしたんだ。
ZAFTは破砕活動したからって、落とそうとした事実は変わらないし。
現にオーブにも被害が出てるんだ」
「すまないユウナ、まだ私の話は終わってないんだ。
皆も、最後まで聞いてくれ。
確かにユウナ、私はコーディネーターが犯人だとは言った。
だがプラントが犯人だとは一言も言ってないぞ。
私は皆に聞きたい。
何時からコーディネーター=プラントになったのだ?
何故、ユニウス7降下の犯人をプラントだと言える?」
カガリ様の言葉が我々の胸に押しかかる。
カガリ様がおっしゃる言葉は正論だ。
確かに正論だが…
「でもでも!
コーディネーターの殆どはプラントの人間じゃないか!
それにあいつらだけ被害に遭ってないんだよ?
犯人はプラント以外考えられないじゃないか!
なんでカガリはプラントを庇うとするのさ?」
ユウナの言うとおり、人間の感情は理屈では無いのだ。
「別に私はプラントを庇おうなんて気はない。
ただ、それが戦争の理由に成り得るか確かめたいだけだ。
ユウナ、コーディネーターの殆ど、そう言ったな?
そう、コーディネーターの”殆ど”はプラントの住民だ。
だが、決して”全て”では無いのだぞ?
我が国にもコーディネーターの国民は大勢居る。
プラントを除けばコーディネーターの国民数は世界でも3本の指に入るだろう。
そのコーディネーターがオーブの国民では無いと言う保証が何処に有る?」
「そんな馬鹿な事、有り得ないよ!」
「私もありえないと思う。
ただ、私が言いたかったのはコーディネーターが犯人だと言う事実がプラントと戦端を開く原因にはなりえない、それを皆に理解してほしかっただけだ」
■■■
結局、あの場は最初から最後までカガリ様に呑まれたまま経過していった。
残る2つの理由。
1つはプラントが地球に対して行っていた支援の手を振る払う事に関して。
プラントが地球に寄せた好意と、それを半ばで拒否する事の愚かさ。
カガリ様が触れられたのが好意だけなら鼻で笑う事も出来た。
だが、
『戦端を開くのは事実が明確になってからでも遅くない。
十分に支援してもらい、復興の適った処で宣戦布告をすれば良い』
との意見には返す言葉が無い。
確かに、この状況下で戦端を開く連合の稚拙さには我々でさえ呆れを感じるのだから。
残る1つは連合がプラントへと行った攻撃について。
プラント側の堅守もあって大事には至らなかったが、連合は再び核をその手にしたのだ。
ユニウス条約を破るその行為は、今後地球に核が落とされる可能性を自ら認めてしまった事に他ならない。
「…まさか、カガリ様が此処まで考えていらっしゃるとはな」
我々はあの方を見誤っていたのかもしれない。
獅子の娘は獅子、そう言う事なのだろう。
残念ながら、私がウズミ様に敵わなかったように、ユウナもカガリ様には敵わないのかもしれない。
おそらく、近い将来にそんな日が来るだろう。
私が健在の間は問題無い。
長年培ってきた経験と人的ネットワークにはカガリ様は届かない。
政治は正論で動く訳ではない。
戦争は感情論で起こす訳ではない。
だが、最後にカガリ様が我々に投げかけた言葉が胸に重く圧し掛かる。
『皆、此度の戦争の落とし所をどう考えている?
連合が勝利した場合、プラントが勝利した場合。
その時のオーブの立場は?
国を焼かぬ為に理念を捨てたオーブは、その時、他の国々の目にどのように映っているんだ?』
『確かにオーブが連合に組する事は認めよう。
皆が話し合って決めた事だ。
私が1人反対したところで無駄だろうからな。
だが、これだけは言っておくぞ?
私は決して此度の同盟に賛同しない。
私は私なりの方法でオーブの為に動くとしよう』
■■■
「…そうか、ミネルバは領海を出たか」
「はい。
当初の予定通りオーブ軍艦隊が詰めております」
「わかった」
部下からの報告を受け、鷹揚に頷く。
全てが私の描いた通りに動いている。
連合との同盟も成った。
ZAFT艦ミネルバの存在は良い土産になるだろう。
だが。
なぜ私はこうも心休まらぬ時を送っているのだ?
「ウナト様」
「…なんだ?
報告なら確かに聞いた。
退出して構わないぞ」
「いえ、カガリ様の行動について報告させていただいても構わないでしょうか?」
「…なに?
カガリ様の行動について、だと?
そのような指示は出し… いや、聞かせて貰おう」
「はい、畏まりました。
カガリ様は本日、アレックスを伴い出航前のミネルバへと向かわれた模様です。
その後、モルゲンレーテ社を訪れ、現在はアカツキ島へと足を運ばれています」
「モルゲンレーテ、アカツキ島だと?」
ミネルバはともかく、後者の2箇所への目的はなんだ?
なぜモルゲンレーテや、アカツキ島へと向かう必要が有る?
物凄く嫌な予感がする。
なにか途轍もなく今のオーブにとって好ましくない事が起こりそうな気がしてならない。
『私は決して此度の同盟に賛同しない。
私は私なりの方法でオーブの為に動くとしよう』
不意にその言葉が思い出される。
カガリ様は何をされようと言うのだ?
長身の針が半円を描く軌跡を見せた後。
私の元に、アカツキ島より金色のMSが飛び立ったとの報告が入る。
機動戦士ガンダム SEED DESTANY 異聞
紅蓮の修羅
「すまない、オーブは連合との同盟を選んでしまった」
出航前の慌しい時に、偶然通路でカガリとか言う女と出くわした。
後ろには当然の様にアレックス…じゃなくて、アスランだったっけ?も一緒。
それにしても今更カガリは何を言ってるんだろう?
いくら俺が情報に疎いからって、オーブが連合に組した事くらい知ってるぞ。
なにせ今も出港準備で大急がしなんだからな。
…待てよ?
カガリって、アレだ。
なんでもオーブの偉いさんじゃ無かったっけ?
所長だか首長だか忘れたけど、議長とタメ口聞けるくらい偉いんだよな?
って事は、ひょっとして此処でカガリを拉致ればお手柄じゃないか?
対戦国の偉いさんを人質にでもすれば、議長も大喜びですよ。
きっと、
『やあ、シン・アスカ君。
此度は君の活躍のお陰でプラントは救われたよ。
君には感謝してもしきれないくらいだ。
その代わりと言ってはなんだがね、今後は命の危険が大きい軍から離れてゆっくり花屋でも開いてはみてはどうかね?
支度金の方はこちらで用意しよう』
とか言ってくれるに違いない。
間違いない。
そうと決まれば躊躇はすまい。
思わず、ギンッ! ってな音がしそうな視線で獲物(カガリ)を睨んでしまった。
なんて言うの? ウサギを見付けた鷹の気持ち。
よし、そうとなれば早速行動に移すべきだ。
そう考えて一歩踏み出したところで、カガリの後ろに突っ立ってるアスランと目が合った。
うげぇっ!
すっかり忘れてた。
そう言えばアスラン居たんだ。
邪魔だなぁ…
流石に目の前で恋人を浚うのは見逃してくれないよなぁ…
止めようかなぁ…誘拐。
でも、もうカガリの方に踏み出しちゃってるし、右手なんてカガリの肩に伸びてるんだよなぁ…
今更無かった事にはできそうにない。
このまま行動を止めたらただの挙動がおかしい人だ。
なんとか誤魔化さねば。
「…気にするな」
誤魔化しきれませんでした。
うわぁ…
何が気にするな、だよ!?
偉そうにカガリの肩なんかポンッて軽く叩いちゃってるよ。
ぶっちゃけ、「気にするな」って言うより「気にしないでね?」ってな心境。
なんて言うかアレですよね?
若さ故の過ちは認めたくない、ってな心境とでも言いますか。
此処は可及的速やかに戦線を離脱すべし!
別名、戦略的撤退とも言う。
ルルルーと涙を流しながら、2人に背中を向けて逃げるように去っていくのであった。
■■■
これは苛めですか?
なんだろう? この洒落になんない戦力比は。
って言うか、空中戦してるのが俺一人ってのは正直どうよ?
単機って有りえないでしょ、普通。
ここまで露骨な戦力差なんだからさぁ、いっその事5人で守勢にまわれば良いじゃん!
絶対俺ってば生贄の羊にされてるよ。
「メイリン、俺もミネルバの防御にまわったほうが良いんじゃないか?」
自分の置かれたポジションに、萎えそうになる心を奮い起こして、艦橋に意見をば具申してみる。
実際は懇願の意味合いが強いんだけどね。
すると即座に
『ミネルバなら大丈夫です。
シンは1人で艦隊を落としてください』
って元気な返答が返ってきた。
俺が居なくてもミネルバは大丈夫らしいです。
って、いやいやいやいや!
いくらなんでも返答するの早過ぎじゃない?
メイリン絶対他の人と相談してなくない?
そもそも1人で艦隊落とせって無茶苦茶ですな。
おまけに明らかに”1人で”って所の発音に力がこもってたぞ?
…確かにメイリンにはいろいろ迷惑掛けたと思うよ。
アカデミー時代からしょっちゅうベッド使わせて貰ってるし、スカートを改造したのだって俺が悪かったと思ってる。
だけど、それとこれとは別でしょ?
ちゃんとシーツの洗濯は俺がしてるんだし、スカートは評判良いじゃん。
日常のアットホームで些細な1コマを戦場に持ち出すなんて、(将来の)お義兄さんは悲しいなぁ…
そんなお馬鹿な事を考えながらも未だ戦えちゃってるからアラ不思議。
当然、タネは有るんだけどね。
いやいや、そんな前後左右上下全てを囲んじゃダメでしょう?
銃を撃ったとしても、俺が避けちゃうと同士討ちの可能性が高いから撃てないしね。
必然的に接近戦になるんだけど、今武蔵と評判の高い俺に連合のMSが敵う筈も無く。
触れる物皆傷つけた~♪って言うギザギザハートな今の心境でもどうにかなるもんだ。
■■■
世の中金ですか?
金持ってる奴が勝組ですか?
俺がプリキュアだったら間違いなくあの決め台詞を叫んでるぞ?
いくらなんでも金ピカのMSってのは無しでしょう…
なんて言うか、成金仕様?
金さえ掛ければビームだって弾くってか?
その癖、ショーンさんの危機を颯爽と救ってるし!
いや、ショーンさんを助けてくれた事自体は感謝してるんだけど。
降り注ぐビームから身を盾にして守る、いくらなんでも格好付けすぎじゃないか?
王道すぎてちょっとむかつく。
それに比べて俺は…
なんでこんなところで1人、1束幾らのMS相手に戦ってるんだろう?
数字の上では1番活躍してるのに、1番目立ってない気がしてならない。
不遇だ。
やはり目立つ為には俺も大物をしとめねばならんのだろうか?
別に目立つ必要性は何処にも無いんだけど。
そもそも平穏無事にZAFTを退役したい俺としては目立つのは不味い気がする。
…でも、なんか無性に悔しいんだから仕方無いじゃないか!
一番活躍してたって言うのに、途中から来たポッと出の奴に見せ場を掻っ攫われるのは。
1回くらいなら良いよね?
流石に艦隊相手は無理だし、あのMAを落とすって方向でお願いします。
とは言っても、どうしよう?
確かにZAFTの主砲を防ぎきるバリアは凄いけど、所詮それだけだ。
図体がでかいだけで、1対1なら負ける気がしない。
でも、現状は1対1からは程遠い状況。
こんな事考えながらでも、今も雑魚MS相手に大立ち回りしてる訳で。
どうにか楽をしつつ倒せないものか…
「聞こえるか? ルナ!」
熟考の末、俺はルナに声を掛けた。
『え? シン?』
「ああ、悪いがルナ、頼みが有る。
艦隊に向けてその馬鹿でかい銃をお見舞いしてくれないか?」
『え? だけど、きっとまたあのMAに弾かれちゃうよ?』
「ああ、それで良いんだ。
ルナは万が一跳ね返された時に避ける準備さえ怠らなければそれで良い」
『…何か考えが有るのね。
わかったわ、シン、射撃のタイミングは任せるから』
「サンキュ!
じゃあ行くぞ? ………3、2、1、撃てー!」
俺のカウントダウン終了と同時にルナのザクから一条の光が敵艦隊へと伸びる。
流石のルナでも動かない的には正確な射撃が出来る。
大気を焼くビームの光は正確に敵艦へと突き進む。
が。
例のMAがまたもその進路上に不可思議な光彩を放つバリアを展開させて立ち憚る。
だけど、
「この瞬間を待ってたんだよぉ!」
いままでの緩慢な動作から一転、急速移動で取り囲むMSを振り切った俺はバリアを展開して無防備な姿を晒す巨大MAの直上から急襲する。
「貰ったぁ!」
モジュールはフォースだって言うのにソードの対艦刀をこよなく愛する俺は、さっきまで両手で振るっていた2刀を胸の前でドッキングさせると、重力を加えて更に加速の増した勢いのまま、巨大MAの正中線に沿って両断した。
間を置かず、俺の駆るインパルスの真上をルナの放ったビームが通過していく。
そして。
MAの性能を過信していたのか回避を怠っていた艦隊に突き刺さった。
『グゥレイトォ♪』
スピーカーからルナの歓声が上がる。
って、その台詞は他人のだから。
無闇に敵を作りそうな発言は止めようよ。
そして俺は、
「…危ね」
コクピット内で肝を冷やしていた。
実はMAがルナのビームを跳ね返してから攻撃するつもりだったんだよ。
予想よりも重力を加味した加速が強すぎたんだ。
危うく俺がビームの餌食になってしまう処だったぜ。
やっぱり目立ちたいって気持ちで無茶するのは良くないな。
人生は平穏が一番だとつくづく思ったね。
勢いの止まらないまま海中に突っ込んでしまって、モニターに映るお魚さんに心和ませながらしみじみ思った。
つづく(とは思わなかったなぁ… ほんと。)
後書きみたいなもの
本日のトリビアの泉の影ナレがアムロだったから更新w
冗談ですけどもね。
こんなカガリは有りでしょうか?
正直、連合との同盟を認める発言はありえないかな?と思わないでもないです。
以前、精神的な成長をさせたんですが、それだけで直に政治をどうこうできる筈も有りません。
なんで、今回は負け方に拘ってみました。
そしてルナが思わぬ大戦果。
ルナザクが砲戦に特化した武装だと言う事に関ましては、下記のような事を考えています。
・ルナは的が止まっている&自分も動かない状況下での射撃はそこそこ優秀。
・的or自分が動き回る機動戦では命中率は格段に下がる。
・その事実を知らない事務方が勝手に決めたのでどでかい銃を持っている。