SIDE ネギ・スプリングフィールド
2-Aが学年トップの成績を取ってからしばらく経って、今は春休み。
この前はちょっと失敗したけど、それ以外は特に問題もない教師生活だった……はず。
授業もちゃんとできてたし、卒業式や終業式も終わった。
魔法学校の卒業式と違って、たくさんの人たちが歌って、卒業していく様は圧巻だった。
いつもは厳しいはずの新田先生は眼鏡をとって目頭を押さえていたし、タカミチもなんだかじーんとしてるみたいだった。
タカミチはよく職員室にいて、僕のアドバイスをしてくれる。
今、タカミチは他の先生にも一目置かれている教師だけど、やっぱり最初は失敗ばかりだったと聞かされたときには驚いた。
やっぱり初めから全部うまくいくはずがないんだ。
失敗して、それを改善してやっと成功に辿りつくんだ。
反省はしなきゃならないけど、それが良い先生への第一歩だと思う。
タカミチもそう言ってたし。
「自分が失敗したことは常に覚えておく……というわけじゃないけど、そういうメモ書きみたいなものを用意するといい。それをたまに見て、もう一度失敗を繰り返さないように頑張ればいいんだよ」
長谷川さんのことについて相談して、その失敗について落ち込んでると相談したら、タカミチはこうアドバイスをしてくれた。
もう僕の『失敗ノート』にはその事が書かれている。
今まで思いだした失敗もそのノートに書かれている。
無暗に魔法に頼ろうとしない、とか、くしゃみをしても魔力を暴発させないように努力する、とか。
実際、それでくしゃみのことについて思いだして、僕は訓練を行っている。
くしゃみで魔力が暴発するのは僕の魔力の管理能力が甘いからだ。
魔法学校の先生は、僕の魔力が大きいからだ、と言っていたけど、だからと言って制御することを怠っちゃいけない。
だから僕は毎朝、早朝にアスナさんが新聞配達に行くのと同時に、学園長から勧められた人目につかない場所で魔法の訓練を行っている。
雷の暴風とかの派手な魔法は使えないけど、魔法をたくさん使って制御を向上させてるせいか、このごろくしゃみをしても魔力を暴発する事はなくなってきた。
やっぱり多少の風は吹いてしまうけど……でも、爆風が起こる事はまずなくなった。
魔法学校では魔法を覚える事ばかりしてきたけど、基本的な魔法を使って、無駄な魔力を使わないように制御するのも大切なんだな、と思った。
そして今日、僕はアスナさんとこのかさんに学園を案内してもらおうと思っていたんだけど……いつのまにかはぐれてた。
麻帆良は広いけど、歩いていればいずれ見つかると思って、僕はアスナさんたちとはぐれた辺りを歩いていた。
改めて麻帆良を見回すと、自然が多くて綺麗な事がわかる。
麻帆良はゴミのポイ捨てもほとんどなくて、いつも掃除されているかのように綺麗だ。
噴水もあちこちにあって、とても涼しく感じる。
今の時期だったら少し寒いかもしれないけど、暖かくなり始めるころだったらとても涼める場所だと思った。
初めにここに来る前の麻帆良は、あの奈良や京都みたいな建物がずらりと並んでいるかと思ったんだけど、こういう西洋の雰囲気に似ていることも僕が過ごしやすい一因だと思う。
麻帆良に着任して一カ月とちょっとくらいだけど、来てよかったな、と思う。
そういえば、と僕は歩いていてふと思いつく。
この間タカミチがアクセラレータさんと友達だと言っていることを思い出した。
優しいタカミチと怖いアクセラレータさんが友達だなんてとても思えないけど、タカミチが言ってるんだから間違いじゃないんだろうなあ。
そのアクセラレータさんだけど、麻帆良ではとても有名な人らしい。
タカミチと同じで広域指導員をやっていて、モメ事があったら仲裁する立場だっていうのは前にアスナさんに聞いた。
他にも広域指導員はいるんだけど、アクセラレータさんは飛びぬけて存在感がある。
というのも、アクセラレータさんは治安の悪い所に乗りこんでいっては悪い人たちを倒して、無理矢理治安を良くするらしい。
力で抑えつけるのはよくないなあ、と思うんだけど、向こうも悪いことしてるからそれもしょうがないか、とも思う。
実際、それで麻帆良の治安はとても良くなったみたいだった。
だから、アクセラレータさんが麻帆良を出歩いているだけで悪い人たちはいなくなって、商店街ではもう悪い人たちなんてほとんど出ないらしい。
このかさんも喧嘩をしている人を見かけるのはなくなった、って言ってた。
そんな人なんだから悪い人じゃないんだろうけど、見た目が怖いんだよなあ、アクセラレータさんって。
以前、ドッジ部の人たちともめた時に見たあの顔はインパクトが強くて忘れられない。
白い容姿もそうだけど、やっぱり圧倒的な存在感があるんだ。
タカミチがじわりと押し付けてくるようなそれなら、アクセラレータさんは叩きつけてくるような感じ。
あんな存在感が僕にもあれば、もっと教師らしく振る舞えるんだろうなあ……無理かな、やっぱり。
そう思っていると、『ぴんぽんぱんぽーん』という音がした。
放送の時の音だ。
『迷子のご案内です。中等部英語科のネギ・スプリングフィールド君。保護者の方が展望台近くでお待ちです』
「僕、先生なのにーッ!!」
思わず絶叫してしまった。
辺りにいる人たちに笑われながら、僕は展望台の所まで走っていく。
そして、アスナさんとこのかさんを発見した。
「アスナさん、ひどいです!」
「わかった、ゴメンゴメン」
全然誠意がこもってない謝罪ですっ!!
しかも半笑いだし!
僕が憤慨していると、このかさんが言った。
「でも、はぐれたネギ君も悪いと思うんやけど?」
「う……はい」
また失敗ノートに書くことが増えた。
はぐれない……って書くよりは、周りに集中しすぎないって書くべきかな。
集中しすぎると周りが見えなくなるってアーニャによく言われたけど、魔法の勉強のせいなのかな。
失敗ノートにそれを書きこんでいると、アスナさんがそれを覗き込んできた。
「それ、何?」
「失敗ノートです。失敗した事を書きこんで、反省して、また同じ失敗を繰り返さないようにするんです」
「えー? それ、見てて暗くならない?」
「それはそうですけど、でも、反省することは大事ですよ。僕、未熟ですから、こういうことを記録しないとまた忘れて同じことを繰り返しそうで……」
「真面目なネギ君っぽいなぁ、それ」
このかさんがくすくすと笑っていた。
アスナさんは失敗ノートをちらりと覗き見た後、興味が失せたのか展望台の、辺りが見渡せる場所に向かっていった。
僕とこのかさんもそれを追って、アスナさんと同じように辺りを見回して―――。
「うわあ、すごい……」
それは、感嘆する光景だった。
ここから見る光景は麻帆良全てを見渡せるもので、遠くにある山も見えた。
あちこちにある緑の林が麻帆良の自然の多さをアピールしていて、とても穏やかな気分になる。
人工物と自然の調和がとれているみたいで、なんというか、とても良いとしか言えなかった。
このかさんがそれぞれの位置を指さして、建物や場所についての名称を言ってくれるが、正直に言って一度じゃ覚えきれない。
それほど、麻帆良は広いんだ。
「す、すごい……とても今日一日じゃ回りきれないです」
「実際、私たちもこの中等部近辺しか知らないのよ。無理ないわよ」
アスナさんが手すりに頬杖をつきながらそう言った時、このかさんの携帯が鳴った。
その画面を見て、このかさんは意外そうに言う。
「あや? おじいちゃんからメールやわ。うちら二人に用事やって」
どうも、メールは学園長からの呼び出して、アスナさんたちはその用事に行かなきゃダメみたいだ。
「それじゃあ行ってきてください。僕一人でいろいろ探検してみますから」
「うーん、でもネギ君一人じゃ……」
このかさんがそう呟いた時、その後ろから元気な声がかかった。
「ネギ先生ーっ、何してんのー!?」
僕がそっちに意識を向けると、そこには鳴滝さんたちがいた。
「あ、鳴滝さんたち、こんにちはー」
「こんにちはー」
「ちあーっ」
それぞれ鳴滝さんたちは返事をしてくれる。
左が姉の風香さんで、右が妹の史伽さんだ。
姉の風香さんは活発そうで、勝ち気な目をしている女の子。
妹の史伽さんはそれに対して大人しい印象がある子だ。
風香さんはアーニャに似てなくもない、かな?
それに、僕と同じくらいの身長なのに、アスナさんと同じ年らしい……世界は広いなあ、と思う。
「あんたたち、いい所に来たわね」
そこで、にやりとアスナさんが笑った。
鳴滝さんたちはアスナさんが説明するに散歩部、という部活に入っているらしい。
麻帆良にはたくさんの部活があるって聞いたことがあるけど、散歩部まであるなんて。
きっとお散歩するだけの部なんだろうけど、そんな部ものんびりしてていいかもなあ。
そんな部活だから、麻帆良にも詳しいだろうと思ってアスナさんは鳴滝さんを案内に選んだに違いない。
「散歩部ですかあ……いいなー、ほのぼのしてて」
「ネギ先生甘ァあああああいッ!! コーヒーに角砂糖いっぱい入れるくらい甘いよ!!」
「いや、僕は紅茶派なんですけど……」
ものすごい剣幕で言う風香さんに押されながら僕は言ったが、そんなことは構わないとばかりに風香さんはまくしたてる。
「散歩競技は世界大会もある知る人ぞ知る超ハードスポーツなんだよ!!」
「え、ええっ!?」
「プロの散歩選手は世界一を目指し、しのぎを削って散歩技術を競い合い、『デス・ハイク』と呼ばれるサハラ横断耐久散歩では毎年死傷者が……」
で、『DEATH HIKE』!?
サハラ横断とか、そんなことが可能なんですか!?
せ、世界は広い。
まさかそんな過酷な競技があったなんて……。
「す、すみません、散歩がそんな恐ろしいことになってたなんて知りませんでした……」
僕の住んでた所は田舎だったからなあ……麻帆良に来てから新しく知ることばかりだ。
「(―――と、こんなバカ話をしながらまったりとブラブラするのが主な活動内容なんだけどね)」
「(お姉ちゃんそういう冗談はダメです! 信じちゃいます! ネギ先生子供なんですから!!)」
なんだか鳴滝さんたちがひそひそと話してたけど、なんだったんだろう?
僕は首を傾げながら、鳴滝さんたちの行く後をついていくことにした。
最初にやってきたのは体育館。
それも中等部専用の。
それだけでこんな大きい建物を作れるというのは、やっぱり麻帆良がそれだけ大きな土地だからなんだろう、と思う。
鳴滝さんたちが紹介してくれると、中等部はバレーボールとかドッジボール、そして新体操とかが強いらしいです。
ちなみにバスケは弱いとか。
後ろの方でゆーなさんが『ほっとけ!!』と叫んでいた。
それから屋内プール、そして屋外の体育クラブと案内されたんですけど……鳴滝さんたちはどうもわざと『そっち系』の方ばっかり見せてるみたいで、つい赤面してしまった。
それについてからかわれたので、ちょっと怒ってしまった。
流石にこれはしょうがない、と思う。
そしてお昼、おやつの時間になる。
すると鳴滝さんたちはその小さい体のどこに入るのか、デザートばかりたくさん食べていた。
いや、まあ、おやつだからしょうがないといえばしょうがないんだけど、でもちょっと食べすぎじゃないんだろうか。
アーニャも食べてたけど、鳴滝さんたちほどは食べなかった気がする。
「ほら先生、あーん」
「い、いいですーッ!!」
それも僕をからかっただけで、鳴滝さんたちはお互いのスプーンで『あーん』のやりあっこをしていた。
鳴滝さんたちといたら疲れるけど、でも他のクラスメイトの人よりも話しやすいと思う。
他の皆と比べて子供っぽい所もあるし、やっぱり親近感が沸くんだろうなあ。
彼女たちを見てるとアーニャを思い出すのは、同じ風に見えるからなのかな。
お姉ちゃんが言ってたけど、まだまだ僕と同じで『色気より食い気』だって。
僕はペンを取り出して、鳴滝さんたちの印象をクラス名簿に書きこんでいると、
「何書いてるですか、ネギ先生?」
「あ、な、なんでもないです!」
横から史伽さんに覗き見られたので、僕は慌てて名簿を隠す。
後ろで風香さんの目が光った気がするが、気のせいだと思う。
「じゃあ、次は商店街に行くです」
「商店街、ですか?」
「学校の雰囲気に合わせて西洋風にしてあるから、先生は馴染みやすいと思うよ」
僕は買い物とか行かなかったから、商店街とは無縁だなあ。
確かこのかさんが良く行ってご飯の材料を買ってきてたっけ。
僕の商店街の印象として、次に思い浮かぶのはアクセラレータさんだった。
いつも商店街の平和を守ってるわけじゃないと思うけど、挨拶ができたらいいな、と思う。
小学校の生徒と間違われて以来会ってないし、ちゃんとした挨拶もできていない。
タカミチと仲が良いみたいだから、悪い人じゃないと思うし。
あ、そうだ、麻帆良でも有名なら二人にアクセラレータさんがどういう人なのか聞けばいいじゃないか。
思い立ったが吉日と日本で言うらしいし、僕は二人に尋ねることにした。
「あのー、二人とも、アクセラレータさんって知ってますか?」
すると、二人は頷いた。
でも、なんというか、ちょっと控え目な頷き方だった。
風香さんなんて明らかに渋い顔をしている。
「一応知ってますけど、私たちはちょっと苦手です」
「ていうか、私たちにとって広域指導員は天敵だしねー」
この前も悪戯見つかってイエローカードだし、と風香さんは呟く。
イエローカードというのは、麻帆良で問題を起こしたときにつけられるものらしい。
仏の顔も三度までとばかりに三回悪い事をしたら何らかの処罰が下される、らしい。
らしいばかりなのは僕もそれほど知らないということ。
タカミチに聞けば色々と知ってるんだろうけど、僕は広域指導員じゃないしなあ。
でも、この悪戯好きの風香さんにとって、そういうのを取り締まる広域指導員は天敵なのかもしれない。
……っていうか、悪戯をする二人が悪いんだけど。
「商店街じゃ評判は良いですけど、やっぱり取り締まり方が厳しいっていう声もよく聞くです」
「まあ、だから問題も少なくなってきてるのはわかるんだけど」
確かに、取り締まり方を厳しくすれば悪い人たちもいなくなるけど、その分生徒たちは自由に行動しづらくなるという影響がある。
この二人の場合は悪意があってやってるわけじゃないんだろうし、笑って許せる程度のそれだったら見逃しても良いと思うんだけどなあ。
でも、そこで前例を許したらやっぱり他の人たちがぶーぶー言うんだろうし……うーん、そう考えると広域指導員も大変なんだなあ、と他人事のように思う。
商店街にやってくると、がやがやと学生たちでにぎわっていた。
西洋風の建物に、思いっきり筆文字でどーんと『八百屋』と書かれた看板があったり、日本独特の融合された文化があることがわかる。
でも、何故か違和感を感じないのは、やっぱりその雰囲気だろうか。
それが自然という空気が漂っているから、西洋人の僕も不快に思ったり、違和感があったりしないのかなあ。
ただ単に面白い、というのもあるかもしれないけど。
そう思ってると、目の前の魚屋さんで見覚えのある人たちが話しているのが見えた。
「うーん、やっぱり旬の魚も良いけど、今回のオススメはサザエかもしれないネ。こっちも旬ヨ」
「壺焼きですか……ミサカはやったことがないのですが、とミサカはうーむと首を捻ります」
そこにいたのは超さんと一方さんだった。
超さんはあちこちで有名な人で、なんでも麻帆良最強頭脳とか呼ばれている天才らしい。
工学や武術、それにお料理まで達人級という反則じみた人なんだとか。
実際に見ていると陽気な中国人にしか見えないんだけど。
その隣で首を捻っているのは一方さんだ。
これも有名な話だけど、一方さんはアクセラレータさんの親戚らしい。
アクセラレータさんの本名は一方通行。
そう考えると名字が同じだし、納得できた。
そして、ちょっと不思議な話し方をする。
最初は戸惑ったけど、もう慣れた。
アスナさんにどうしてミサカさんはあの口調なのか聞いても『ミサカさんだしねー』とかいう感じで終わってしまった。
不思議だ。
「ちわーっ。チャオ、肉まん持ってない?」
「いくら私でもいきなり肉まんは出せないネ。……お? 誰かと思えば鳴滝さんたちとネギ坊主じゃないカ」
呼ばれて振り向いた超さんがそう言うと、一方さんもこちらに振り向く。
「こんにちは、とミサカは挨拶をします」
「あ、こんにちは、一方さん、超さん」
……慣れたと言っても違和感は抜けない。
でも、アスナさんの物言いからなんとなく突っ込んではいけないんだろうなあということはわかるので、追及はしなかった。
すると、一方さんはほんの少し眉を寄せて、
「前々から思っていたのですが、名字ではなく名前で呼んでくれませんか、とミサカは要求します。そちらの方が呼ばれ慣れているので、とミサカは理由を説明します」
「え? いいんですか?」
「一方と言われると被る有名な人がいるので、とミサカは再び理由を説明します」
アクセラレータさんはアクセラレータさんって呼ばれてるし、一方さんでいいと思うんだけどなあ。
でも、一方さん……いや、ミサカさんが言うのならそうすることにする。
「じゃあ改めて、ミサカさんたちは夕飯の買い物ですか?」
「はい、とミサカは答えます。超さんとは偶然そこで会いました、とミサカは超さんの台詞を先取りします」
「おじさん、そこのサザエを3つ欲しいネ」
「まいどー」
「……一番人が傷つく無視という奴ですねわかります、とミサカは地面にのの字を書きます」
いきなりドロドロとした空気を出してしゃがみこんだミサカさん。
相変わらず独特な人だと思う。
一方で、風香さんは超さんの服の袖を引っ張っていた。
「っていうかチャオー、ホントに肉まんないの? ほら、超時空跳躍装置みたいなので引き寄せられない?」
「それはとても心惹かれるワードだが、流石の私でもそういうのは持ってないヨ。代わりと言ってはなんだが、そこで焼き芋を売ってたネ。ほくほくしてて美味しそうだったヨ」
「おおっ、マジで!? 史伽、行くよ!」
「お姉ちゃん!? ネギ先生放り出してどこ行くですかーッ!?」
どだだだだーっ!!と走っていく風香さんと引きずられる史伽さん。
焼き芋の看板はここからでも見えるから、はぐれることはないと思うけど。
「ミサカさん、悪かったヨ。アメちゃんあげるから許してほしいネ」
「そこはかとなく上から目線ですよね、とミサカはアメちゃんを頬張りながら愚痴をもらします」
立ち上がったミサカさんは口の中で飴玉を転がしていた。
見る限り、超さんとミサカさんは仲が良いみたいだった。
そういえばこのごろよく茶々丸さんと一緒に話しているのを見かける。
何か通じ合う所があるんだろうか。
「じゃあネ、ネギ坊主。さっさとしないと鳴滝さんたちに置いて行かれるヨ」
「あっ、そうでした! それじゃあ超さん、ミサカさん、また明日!」
「また明日、とミサカはイチゴ味の飴玉に満足しながら手を振りました」
それから焼き芋の看板の所に行くと、鳴滝さんたちが焼き芋を食べていた。
あ、あれだけ食べてまだ食べるのか……。
ちょっと信じられない気持ちでいると、
「ネギ先生の分も買っておいたです。はい」
史伽さんが焼き芋を差し出してきた。
「ありがとうございます。えーっと、お代は……」
「あー、いいよいいよ。さっきのスイーツのお礼。まあ釣り合わないけどねー」
うひひ、と笑う風香さん。
確かにさっきかかったお金の量はものすごかった……今度から無暗に奢るのはやめよう、と思う。
これも失敗ノートに書くべきかなあ。
そんなことを思いながら歩いていると、空が赤く染まり始めていた。
夕暮れだ。
麻帆良はいつも夕暮れが綺麗で、それが見えない時なんてほとんどない。
素敵な場所だ、と思う。
「それじゃあ、この辺でお開きにしましょうか。もう夕方ですし」
「何言ってんの、先生」
「まだ最後に重要なところがあるですよ」
二人とも、笑顔のまま先に進んでいく。
あれだけ食べたのに体が重くならないのかなあ。
そんなことがなかったかのように軽くひょいひょいと進んでいく鳴滝さんたち。
それに置いて行かれないように歩いていると、いつしか人気のない所にやってきていた。
裏山だ。
案内看板を過ぎて、そのまま大きな階段を上がっていく。
疲れが見えない二人に驚きよりも呆れを感じながら、僕は言った。
「この裏山に何かあるんですか? そろそろ疲れてきたんですけど……」
「もう少しです。頑張って、先生」
「見えた見えた」
史伽さんが言った時、風香さんがそう言った。
すると、僕の目の前にそびえていたのは、巨大な樹。
いくつもの木が絡み合ってできているような幹に、人の何倍もあるかのような枝。
辺りの木と比べると恐ろしく巨大なそれは、何か不思議な感じがした。
「これは、いつもどこからでも見えてるあの大きな樹……?」
「この樹は学園が建てられる前からずっとあったらしいです」
「みんなは世界樹って呼んでるよ」
「え? 世界樹……?」
それはまた大そうな名前だ、と思う。
これだけ巨大な樹だから、確かにそうつけられてもおかしくないと思うけど。
「先生、ドラ○エ知らないの? ほら、アイテムで生き返るのあるじゃん」
「お姉ちゃん、ネギ先生はイギリス人だし」
なんだかよくわからないけど、これは世界樹と呼ばれる大きな樹だということはわかった。
僕はそれを見ていると疲れが吹っ飛ぶ気がして、わくわくする心のまま、二人に連れられて世界樹の枝の上に登った。
風香さんの手を借りながら登ると、そこからは素晴らしい光景が見えた。
葉っぱと葉っぱの間から覗く、夕日。
それは山の向こうにある雲に重なり、きらきらと輝いているように見えた。
夕日って、こんな綺麗なものだっただろうか。
地上で見る夕日の何倍も綺麗に見える。
ここはそういうスポットなんだろうか。
僕は二人と一緒にこの夕日を眺めていると、史伽さんが言った。
「あと、この樹には伝説があるんですよ。よくあるやつですけど」
「片思いの人にここで告白すると想いが叶うっていう……ロマンチックよねー。ま、私たちもいつか、ね」
「うんっ」
そう言って夕日を見つめる二人の顔は、やっぱり女の子の顔だった。
悪戯しているときとはちょっと違う、女の子の表情。
アーニャもこんな表情とかするのかなあ。
と思った時、僕にも恋人っていう存在ができるのか考えた。
思い浮かぶのはアーニャ……うーん……苦労しそうだ。
口うるさいし。
お姉ちゃん?
違う違う、お姉ちゃんは違う!
このかさん……って、先生と生徒でそういう関係になっちゃいけないんだってお姉ちゃんに言われたじゃないか!!
その考えはとりあえず抹消することにして、僕たちはそれぞれ夕日を眺めていると、
「あ、そーだ史伽。今ここで先生に告って、とりあえずちょっとだけ彼氏になってもらうってのはどう!?」
「あ、いいですそれ。きっと世界樹が叶えてくれるですよ」
「えーっ!? ちょ、だめですよ僕たち先生と生徒だし……ふざけないでくださいーッ!!」
「えーい逃げるな! 史伽、そっち掴んで―――」
「―――やっかましいと思って降りてくれば。なんとも間の悪い所に出ちまったみてェだな」
いきなり、僕たちの頭上から声が降ってきた。
僕たちが慌てて上を見ると、そこには白がいた。
あ、いや、違う。
アクセラレータさんがいた。
細い枝の上に乗って、呆れたようにこちらを見下ろしている。
それを見た風香さんが悲鳴を上げた。
「げぇっ!? アクセラレータ!? なんでここにいるの!?」
「……俺もたまに夕日を見に来るンだよ」
そう言ってアクセラレータさんはそこから飛び降りて、こっちに向かって落ちてくる。
そんな勢いで落ちたら枝が折れる、と思ったが、着地してもほとんど衝撃がこっちに伝わってこない。
何か武術でもやっているんだろうか。
間近で見上げると、やっぱりアクセラレータさんは僕より成熟している『男の人』で、僕も早く大きくなりたいな、と思った。
「つゥか、よくここまで登ったな。たいしたもんだ」
くつくつと笑っているが、見慣れていない僕にはちょっと怖い顔だ。
逆に二人は言葉に詰まって、珍しく慌てている様子が見えた。
「危険だから許可ある者以外登るのは禁止、って下の看板に書いてあったンだが?」
「あ、ええと、ボクたちはそのー、ネギ先生を案内してここに来たんだよ。一応先生同伴だからここに来てもいいかなーって思って……」
「ええっ、ここって立ち入り禁止だったんですか!?」
「普通に考えれば、こんな高い所に命綱もなしに登る方がおかしいだろ」
確かに、ここを落ちたらそのまま地上に真っ逆さまだ。
僕は飛べるからいいけど、鳴滝さんたちは飛べない。
足を滑らせたら大変だ。
魔法学校だったら皆飛んでたんだけどなあ。
まだ魔法学校の常識が頭の中に残っているのを感じて、僕はつきそうになるため息を慌てて抑える。
そんなしていると、アクセラレータさんはため息をつきながら首を横に振った。
「まァ、ここに登ってくるンなら長瀬を連れてこい。アイツなら落ちても対応できるだろうからな」
「……あれ? お咎めなし?」
「欲しいンならいつでもカードをくれてやるが?」
「お姉ちゃん余計な事言わないでー!!」
あわあわとなっている二人を見た後、アクセラレータさんは沈み行く夕日を一瞥して僕の方に向いた。
「……とりあえず慌てずに降りろ。落ちても責任とれねェからな」
そう言い残して、アクセラレータさんはこの枝から飛び降りた。
慌ててその下を覗き込むと、枝の間をすり抜けて地上にまで一気に落下していくアクセラレータさんが見えた。
そして着地して、平然と歩きだす。
見た所、魔法とか全然使ってなかったけど……やっぱり体術か何かなのかな?
僕が思考に陥ろうとすると、風香さんが大きく息を吐きだしているのが見えた。
「ぶっはぁ、緊張したぁ……。またイエローもらうのかと思ったよ」
「連れてきてくれるのは嬉しいんですけど……それじゃあ、降りましょう。滑らないように」
「うう、ここもアクセラレータに目をつけられてるなんて……」
「お姉ちゃん、もともとここ立ち入り禁止なんだからしょうがないです。楓さんを連れてくればまた来れますよ」
がっくりとうなだれる風香さんとその頭を撫でる史伽さんを見て、僕はそのまま落ちてしまうんじゃないかとハラハラしていた。
家に帰って、そういえばまたちゃんとした挨拶をすることを忘れているのに気づいて、僕はため息をつくことになる。
このうっかりするの、どうにかならないかなあ。
失敗ノートを眺めながら、今日でいくつ書きこんだのか、それを数えるだけで憂鬱になった。
~あとがき~
まずは謝罪を。色々と慌ててしまい、申し訳ありません。
今後、あのような事態にならないように気をつけます。
今回はネギ回です。
原作二巻の最後辺り、麻帆良案内編です。
世界樹が関わるんなら登場させてしまおうと思った結果、こんな感じになりました。
世界樹登ってるのって危ないと思うんですよね。
普通立ち入り禁止か何かになってるんじゃないかと思いまして、そういう設定にしました。
鳴滝双子はビー玉地獄の件もあり、かなりアクセラレータを怖がっています。
麻帆良にいる大部分の生徒のアクセラレータに対する認識はこういう感じです。
双子はちょっと過剰かもしれませんけど。